説明

難燃化不織布およびそれからなるフィルター

【課題】フィルター材として好適に用いることのできる非ハロゲン化の難燃化不織布およびそれからなるフィルターの提供。
【解決手段】不織布100重量部に対し、30〜200重量部の難燃剤を付着させてなる難燃化不織布であって、難燃剤は、硫酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン又はポリリン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種の難燃主剤を、シリカ又はシリコーン系樹脂にて内包するマイクロカプセル化したものであることを特徴とする難燃化不織布、又は、難燃剤には、さらに、難燃助剤を含むことを特徴とする難燃化不織布などを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃化不織布およびそれからなるフィルターに関し、特に非ハロゲン系の難燃剤を用いた難燃化不織布およびそれからなるフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種不織布は、安全性の観点から難燃性の付与の要望が高く、特になかでもフィルターについて難燃性の要望が高い。更に、難燃剤については、ハロゲン系難燃剤は、燃焼時に発生する臭化水素、塩化水素などの酸性ガスだけでなく、最近はダイオキシンの発生についても問題視されており、非ハロゲン系難燃剤に関して種々の検討が実施されている。
【0003】
一方、フィルター材を構成する不織布の構成繊維としても非ハロゲン系材料の使用、及び不織布を構成する繊維の相互間を結合するバインダー樹脂の非ハロゲン化樹脂の使用が検討されている。例えば、実質的にハロゲン元素を含有しない重合体で形成された構成繊維群相互間を、実質的にハロゲン元素を含有しない結合剤を含むバインダー樹脂で結合した不織布よりなり、該バインダー樹脂中には、粉末状リン系難燃剤が含有されていることを特徴とする非ハロゲン化難燃性フィルター材(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。また、セルロース系繊維とポリビニルアルコール系繊維のハロゲンを含まない繊維からなる繊維ウエブに含リン化合物、含リン窒素系化合物を加えた難燃加工剤と非ハロゲン熱可塑性樹脂よりなるバインダーで結合し構成してなることを特徴とする非ハロゲン難燃性不織布(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0004】
また、最近の非ハロゲン系の難燃剤を用いた難燃性不織布としては、例えば、生分解性及び難燃性に優れる不織布、及びこの不織布からなるフィルターを提供するために、非ハロゲンリン酸エステル化合物を含むポリ乳酸エマルジョンを用いて生分解性の繊維または不織布を難燃処理してなる生分解性難燃性不織布であって、不織布構成繊維100重量部に対して非ハロゲンリン酸エステル化合物を15〜50重量部使用して難燃処理されたものである生分解性難燃性不織布(特許文献3参照。)や、風合い、触感、視感などの意匠性を損なうことなく、長時間の炎にも耐え得る難燃性を兼ね備えた難燃性不織布を提供するために、珪酸含有セルロース系繊維およびポリエステル系繊維を混合した難燃性不織布(特許文献4参照。)、或いはポリエステルからなる長繊維を少なくとも一部の構成繊維とする不織布であって、前記ポリエステルは特定の式で表される有機リン化合物を共重合したポリエステルAを含有し、前記不織布は前記有機リン化合物をリン原子の質量で少なくとも1000ppm含有することを特徴とする難燃性長繊維不織布(特許文献5参照。)などが提案されている。
しかしながら、提案された上記難燃性フィルター材や難燃性不織布は、性能としては、未だ十分ではなく、難燃性能などの向上した非ハロゲン化の難燃化不織布が要望されている。
【0005】
また、非環境適応型の難燃剤の中でも、熱可塑性樹脂の難燃化に適するものとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アンチモン、ほう酸亜鉛、スズ酸亜鉛等の無機難燃剤が挙げられているが、これらの無機難燃剤は、可塑化機能を有しないので、無機充填材混入の熱可塑性樹脂について生ずるのと同様の問題である、無機難燃剤の充填量を多くすると、成形加工性の低下、成形品の機械的物性等の問題があり、フィルター等に用いる不織布等の成形には問題があった。
【0006】
一方、最近では、マイクロカプセル状形態を呈してなる不燃化剤であって、該マイクロカプセルの大きさが平均粒子径50μm以下であり、かつ、少なくともケイ酸ナトリウム重合体を透過性物質で被覆してなる内包物質を多孔質微粒子に担持させてマイクロカプセルが構成されてなることを特徴とするマイクロカプセル状不燃化剤(特許文献6参照。)や、該マイクロカプセル状不燃化剤を繊維製品の表面に付着させてなることを特徴とする不燃性繊維製品(特許文献7参照。)などが提案されている。しかし、これまた、性能としては、未だ十分ではなく、難燃性能などの向上した、フィルター材として好適な非ハロゲン化の難燃化不織布が要望されている。
【特許文献1】特開2000−126523号公報
【特許文献2】特開2000−328418号公報
【特許文献3】特開2006−063473号公報
【特許文献4】特開2005−330611号公報
【特許文献5】特開2003−041473号公報
【特許文献6】特開2006−182998号公報
【特許文献7】特開2006−183217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、フィルター材として好適に用いることのできる非ハロゲン化の難燃化不織布およびそれからなるフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、難燃剤の形態に注目し、難燃剤として、マイクロカプセル化したものを用い、その際に、特定の材質の被覆材と、内包される特定の難燃剤とを組み合わせて、そのマイクロカプセル化した難燃剤を、不織布に、特定量付着処理させると、フィルター用途に好適に用いることのできる難燃化不織布が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、不織布100重量部に対し、30〜200重量部の難燃剤を付着させてなる難燃化不織布であって、難燃剤は、硫酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン又はポリリン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種の難燃主剤を、シリカ又はシリコーン系樹脂にて内包するマイクロカプセル化したものであることを特徴とする難燃化不織布が提供される。
【0010】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記難燃剤は、前記難燃主剤に加えて、さらに難燃助剤を内包すること、又は前記マイクロカプセル化したものに加えて、さらに難燃助剤を含有することを特徴とする難燃化不織布が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記難燃助剤は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メラミンシアヌレート、ホウ酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、無機酸化物又はケイ酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする難燃化不織布が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第2又は3の発明において、前記難燃助剤の含有量は、難燃剤全量に対して、10〜50重量%であることを特徴とする難燃化不織布が提供される。
【0011】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明に係る難燃化不織布から構成されることを特徴とするフィルターが提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、空気清浄用フィルターまたは内燃機関用エアーフィルターであることを特徴とするフィルターが提供される
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃化不織布は、上述のような構成、すなわち、不織布に、マイクロカプセルという特定形態の特定の難燃剤を特定量付着させてなる難燃化不織布であるので、非ハロゲン化であって、難燃性に優れた難燃化不織布であり、その結果、フィルター材として好適に用いることのできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の難燃化不織布は、不織布に特定形態の特定の難燃剤を特定量付着させてなる難燃化不織布である。以下に詳細に項目毎に説明する。
【0014】
1.不織布
本発明の難燃化不織布で用いる不織布に使用される繊維は、不織布に用いられるものであれば、特に限定されないが、ポリエステル系繊維を主成分とすると、好適である。例えば、ポリエステル繊維、ポリエステル系低融点バインダー繊維などがあげられる。
【0015】
ポリエステル繊維の具体的な例としては、代表的なポリエステルであるポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル、あるいはブロック共重合ポリエステル、およびそれらのいずれかを基本骨格の一分とする共重合ポリマーなどが挙げられる。
また、上記のポリエステル系樹脂は、一般に異物の発生が少ないためフィルター関連用途への市場に特に好適である。
【0016】
また、本発明の難燃化不織布において、実施の態様として、例えば、ポリエステル系繊維を主成分とする繊維に、従成分として、不織布に用いられる他の繊維を用いることができる。
そのような他の繊維としては、例えば、親水性樹脂繊維が挙げられ、親水性樹脂繊維としては、レーヨン繊維、セルロース繊維、架橋ポリビニルアルコール繊維、パルプや綿等の天然繊維等などが用いられる。
さらに、親水性樹脂繊維以外の繊維としては、フィルター等の用途に用いられる樹脂繊維であれば、特に制限なく、用いることができるが、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維などを挙げることができる。
【0017】
不織布は、スパンレース法、ニードルパンチ法等により製造でき、公知のパラレルカード機、クロスレイドカード機、ランダムカード機などで形成することができ、特に、構造や製造方法として、熱融着によって不織布とするサーマルボンド法不織布、あるいは接着剤を使用するケミカルボンド法不織布あるいは水流によって繊維を交絡させたスパンレース法不織布やスパンボンド不織布、SMS、SMMS不織布、メルトブロー不織布、また、各種短繊維からなるエアレイド法不織布あるいは湿式法不織布を適用することができる。
また、不織布には、公知の樹脂加工剤を塗布したり、公知のアンカー剤を塗布するなどのプライマー処理をすることができる。
【0018】
2.難燃剤
本発明の難燃化不織布では、非ハロゲン系の難燃剤として、硫酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン又はポリリン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種の難燃主剤を、シリカ又はシリコーン系樹脂にて内包するマイクロカプセル化したものを用いることに最大の特徴がある。
【0019】
従来、可燃性重合体の難燃剤として、硫酸アンモニウムが有効であることは、知られている。しかし、硫酸アンモニウムは、自己凝集性(ケーキングもしくは固結性)が強く、微粉末化しにくく、たとえ微粉末化できても保存中に凝集を起こすという欠点がある。また、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の合成樹脂に混練もしくは添加すると、混合時の剪断作用によって凝集を起こすことが知られている。これらのことが理由となって、難燃剤として有効であるにもかかわらず、硫酸アンモニウムの熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の合成樹脂への使用は大幅に制限されてきていた。
【0020】
本発明においては、難燃剤として、上記硫酸アンモニウムなどの使用の問題点を、シリカ又はシリコーン系樹脂にて、硫酸アンモニウムなどを内包するマイクロカプセル化したものを用いることにより、解決することができる。
本発明においては、難燃剤(難燃主剤)として、上記硫酸アンモニウム以外に、スルファミン酸グアニジン又はポリリン酸アンモニウムを用いることができ、それらを併用してもよい。
すなわち、本発明においては、環境への悪影響の少ない非ハロゲン系の難燃剤として、マイクロカプセル化された硫酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン又はポリリン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種を用いる。
【0021】
スルファミン酸グアニジンは、従来からセルロース系素材の防炎剤として卓起した効果を発揮することや、難燃剤として知られており、本発明においては、スルファミン酸グアニジンと同等の性能、効果を有するグアニジン塩を、スルファミン酸グアニジンの代替物として、用いることもできる。そのようなグアニジン塩としては、メチロールスルファミン酸グアニジン、硫酸グアニジン、リン酸グアニジン、ホウ酸グアニジン等が挙げられる。
【0022】
また、ポリリン酸アンモニウム[(NHPO)n]は、燃焼時に、熱分解し窒素ガスを発生するため、この窒素ガスが酸素を遮断し、また、縮合リン酸となってカーボンとの混合物膜を形成し、酸素を遮断する層となり、樹脂の燃焼を制御し難燃効果を奏する。
ポリリン酸アンモニウムとしては、住友化学社製の商品名スミセーフP、ヘキスト社製Exolit422、Exolit462、HostflamTPAP745、チッソ社製テラージュ(TERRAJU)C60、C70、C80などが挙げられる。
【0023】
本発明では、上記難燃主剤を、シリカ又はシリコーン系樹脂にて被覆して、マイクロカプセル化する。
本発明において、難燃主剤を被覆する被覆物質としては、難燃性の観点から、シリカ又はシリコーン系樹脂が望ましく、通常、マイクロカプセル化する際に用いられる熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であるメラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂などは、本発明では用いない。
【0024】
本発明で用いる、シリカ又はシリコーン系樹脂でマイクロカプセル化された難燃剤は、例えば、マイクロカプセル化されたポリリン酸アンモニウムは、ポリリン酸アンモニウム化合物粒子を、シリカやシリコーン系樹脂で表面をコートすることにより、行うことができるが、それ以外に、公知の界面重合法、コアセルベーション法等が、適宜用いられ、本発明では、特に限定されない。
具体的には、例えば、ポリリン酸アンモニウムでは、次の方法によって得ることができる。すなわち、反応装置内に未処理のポリリン酸アンモニウムと硬化前のシリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂、および必要に応じて触媒を装入し、水や有機溶媒もしくはそれらの混合溶媒中で加熱硬化させる液中硬化法によって得ることができる。
また、そのほかにも、ポリリン酸アンモニウムの粒子表面で生成する熱硬化性樹脂が、該ポリリン酸アンモニウムを均一にとりまくような重合条件を設定しておいて、原料であるポリリン酸アンモニウムおよび重合触媒等を供給してカプセル化する、いわゆるイン−シチュ(in−situ)重合法、2種類の反応成分を互いに混ざり合わない2種類の溶剤にそれぞれ溶解して両液相の界面で熱硬化性樹脂を形成させる界面重合法、樹脂−良溶剤−非溶剤系において熱硬化性樹脂に富む溶剤が分離する現象(液−液相分離)を利用したコアセルベーション法、熱硬化性樹脂液をスプレーしてポリリン酸アンモニウムの表面を熱硬化性樹脂でカプセル化したのち、これを熱風に接触させて樹脂を硬化させるとともに揮発性分を乾燥させるスプレードライング法、衝撃力を主体とする機械的熱的エネルギーを原料樹脂に与え、ポリリン酸アンモニウム粒子表面に対して固定化もしくはカプセル化させるハイブリダイゼーション法等の公知の方法によっても得ることができる。
【0025】
また、本発明では、マイクロカプセル化された難燃剤は、マイクロカプセル状の形態を呈してなる難燃剤であり、該マイクロカプセルは、その大きさが平均カプセル粒径で0.1〜50μm、好ましくは5〜30μmの微粒子であることが望ましい。
ここで、マイクロカプセル状の形態とは、その立体的外形が、ほぼ真球形状かあるいは不定形状の微粒子状態であることをいい、該微粒子構造を形成している表面殻や該微粒子の骨格に囲まれた内部に、マトリックス樹脂と、該マイクロカプセルの内包物質たる難燃主剤(硫酸アンモニウムなど)が充填されているものである。
また、該マイクロカプセルの大きさは、平均粒子径(平均カプセル粒径)が50μm以下であることが重要であり、そのような微粒子であることにより、難燃剤として、各種の不織布などに、より効果的に付与することが可能になる。
マイクロカプセルの平均カプセル粒径が50μmよりも大きいと、マイクロカプセルが脱落しやすくなる。
【0026】
また、本発明の難燃化不織布では、不織布に付着させる上記マイクロカプセル化された難燃剤の付着量は、不織布100重量部に対して、30〜200重量部、好ましくは50〜150重量部であることを特徴とする。難燃剤の付着量が30重量部未満では、難燃効果が十分でなく、一方、200重量部を超えると、難燃効果が飽和すると共に難燃剤が繊維表面で脱落したりして、経済的でない。
【0027】
また、本発明においては、上記難燃剤には、主難燃剤(難燃主剤)の使用量を抑え、難燃性を向上させるために、さらに、難燃助剤を含むことができる。難燃助剤は、上記マイクロカプセルに、難燃主剤と共に内包することもできるし、また、難燃主剤を内包したマイクロカプセルと共に、不織布に付着させることもできる。
上記難燃助剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メラミンシアヌレート、ホウ酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、無機酸化物又はケイ酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。上記無機酸化物としては、マグネシウム、アルミニウム、スズ、アンチモン、ビスマス、チタン、鉄、亜鉛、モリブデン等の金属の酸化物が挙げられ、また、それらの金属の水酸化物を難燃助剤として、用いることもできる。
【0028】
上記難燃助剤の含有量は、難燃剤全量に対して、10〜50重量%である。難燃助剤の含有量が10重量%未満では、難燃助剤の効果が十分でなく、一方、50重量%を超えると、難燃効果は飽和し、経済的でない。
【0029】
3.難燃化不織布
本発明の難燃化不織布において、マイクロカプセル化された難燃剤または必要に応じて難燃助剤の付着方法としては、(i)後加工処理により、すなわち、不織布表面にハケ、ロールコーター、スプレー等により難燃剤を塗布するか又は含浸処理する方法、または(ii)不織布を製造する際に、アクリル樹脂、SBRなどの繊維用バインダーに難燃剤カプセルを混入した物で、繊維ウェブを固着する方法などが挙げられる。これらの中では、不織布を難燃剤液に含浸処理する方法が好ましい。含浸処理する方法としては、難燃剤の液中に不織布基材を含浸させて、これをマングルロール機に通すことにより、付着量を調整し、乾燥機で乾燥させ、固着させるのが一般的である。具体的には、濃度5〜30%の難燃剤水溶液に不織布を含浸させ、マングルで付着量を調整し150℃で乾燥させ、固着させる方法が好ましい。
【0030】
なお、本発明で用いるマイクロカプセル化された難燃剤は、基本的には水に不溶で難燃剤が溶け出すことも無いため、製品の耐吸湿性、耐水性に影響を及ぼす心配はほとんど無いが、さらに耐水性をあげるために撥水剤を、アクリル樹脂、SBRなどの繊維用バインダー樹脂に少量加え、皮膜を形成することもできる。
上記撥水剤としては、フッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤等を挙げることができ、特にフッ素系撥水剤は、添加量が少なくて効果が大きく、難燃性を阻害しないで用いることができる。撥水剤を用いる場合は、その添加量は、難燃剤の有効成分100重量部に対して1〜30重量部が好ましく、より好ましくは2〜20重量部である。撥水剤の添加量が1重量部未満では、不織布基材に撥水性が出ず、水に濡れた場合、難燃剤が溶け出し効果が低下し、30重量部を超えると、撥水剤が難燃効果を阻害する。
【0031】
本発明の難燃化不織布は、他の不織布と積層した複合不織布として、フィルター等に用いても良い。
本発明の難燃化不織布に積層する不織布としては、特に制限されないが、例えば、スパンボンド不織布、スパンボンド/メルトブロー複合不織布、スパンボンド/メルトブロー/スパンボンド複合不織布、メルトブロー不織布などと貼り合わせたることができる。
【0032】
貼り合わせに用いる不織布としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン、ポリエステル等が好ましい。それらの中では、ポリプロピレン系樹脂の不織布を用いるのが好ましい。ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、或いは過半重合割合のプロピレンと他のα−オレフィン(エチレン、ブテン、ヘキセン、4−メチルペンテン、オクテン等)、不飽和カルボン酸又はその誘導体(アクリル酸、無水マレイン酸等)、芳香族ビニル単量体(スチレン等)等とのランダム、ブロック又はグラフト共重合体である。また、ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、10〜2000g/10分のものが好ましい。これらプロピレンは、得られた不織布が上記物性を有する範囲であれば、単独でも、或いは複数種類の重合体の混合物としても使用することもできるし、ポリプロピレンを主成分としてなる樹脂でもよい。
【0033】
また、本発明の難燃化不織布に積層する不織布としては、微粒子を捕集する機能を向上させるために、エレクトレット化処理したものを用いてもよい。エレクトレット化不織布を用いるのは、静電気力によって微細な粉塵を効率良く捕集することができるためであり、このエレクトレット化は、不織布をアースされた電極上を走行させ、この上から針電極又はワイヤー電極に高電圧を印加することによってコロナ放電を行い達成される。このエレクトレット化の程度は、不織布の表面電荷密度を2×10−10クーロン/cm以上の電荷密度とするのが好ましい。この表面電荷密度が2×10−10クーロン/cm未満であると、空気中の粉塵等の分離捕集性能が劣るようになるため好ましくない。表面電荷密度が5×10−10クーロン/cm以上であると、空気中の粉塵等の分離捕集性能が著しく高まるため好ましく用いられる。
【0034】
本発明の難燃化不織布は、前述のように非ハロゲンの不織布であり、さらにホルムアルデヒドを発生する材料を用いていないため、環境保全に優れた空気清浄用フィルター、自動車キャビンフィルター、内燃機関用エアーフィルター、掃除機用フィルター等の材料として用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を実施例で説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた試験方法は以下の通りである。
【0036】
(1)不織布の目付重量:試料長さ方向より、100×100mmの試験片を採取し、水分平衡状態の重さを測定し、1m当たりに換算して求めた。
(2)難燃性試験:JIS L1091(繊維製品の燃焼試験方法 a−1法(45° ミクロバーナ法)に準拠して行なった。すなわち、約350mm×250mmの不織布試験片を燃焼試験箱に取り付け、1分間過熱し、残炎時間(秒)及び残じん時間(秒)を測定する。次に試験片を支持枠から外し、プラニメータなどを用いて燃焼面積(cm)を整数単位まで測定する。また、1分間の間に加熱中に着炎するものについては、別の試験片について、着炎後3秒で、炎をのぞく試験を行い、同様の試験を行なう。ただし、この場合は、加熱時間を付記する。
ここで、「残炎時間」は、着火源を取り去った後の材料が炎を発生し続ける時間の長さ(秒)を表し、炎の持続時間ともいう。「残じん時間」は、着火源を取り去った後、又は炎が消えた後の材料の赤熱が持続する時間の長さ(秒)を表し、残じんの持続時間ともいう。「残炎時間+残じん時間」は加熱終了時から試験片の赤熱が停止するまでの時間をいう。「燃焼面積、長さ」は、燃焼又は熱分解によって破壊された材料の損傷範囲又は長さをいう。それぞれの項目において、1〜3の評価区分があり、難燃性の判定では、実質上有効なのは総合評価で2以上、好ましくは3以上であり、1は難燃効果が安定して認められないものと判断される。
【0037】
また、参考実施例1〜6と参考比較例1〜13では、不織布用のバインダーとマイクロカプセル化難燃剤とを混ぜあわせた時のバインダーの状態(混和性)、また、それをフィルム化した時の難燃性・表面状態・フィルム硬度・フィルム強度で、評価を実施した。これらの試験方法は、以下の通りである。
(3)混和性:アクリルバインダー(日本ゼオン製 LX851C)に各種難燃剤を混入した時のバインダーの状態を観察した。
フィルムの作製:(3)で混和したバインダーをガラス板上にコーティングし0.3mm厚みのフィルムを作製し、これを用いて以下の評価を実施した。
(4)難燃性:水平に保持したフィルムの先端に炎を近づけ燃焼状態を観察した。
(5)表面状態:フィルム表面の状態(ベタツキ、表面硬さ)の時間的変化を観察した。
(6)硬度・強度:フィルム自体の硬さの時間的変化を観察した。
上記の評価基準を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
[参考実施例1〜6]
参考実施例1として、ポリリン酸アンモニウムをシリカで被覆して作製したマイクロカプセル化した難燃剤と、バインダーとしてアクリル樹脂を固形分重量比が50:50になるように混ぜあわせた物を、ガラス板上にコーティング、乾燥し厚さ0.3mmのフィルムを作製した。
この時の混和性を観察し、得られたフィルムについて、上記表1に示す評価方法と評価基準で評価した。
同様にして、被覆樹脂と難燃剤の種類を換えたものについて、参考実施例2〜6を評価した。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
[参考比較例1〜13]
表3に示す被覆樹脂と難燃剤を用いた以外は、参考実施例1と同様に、得られた難燃化不織布について、上記表1に示す評価方法と評価基準で評価した。その結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表1、2の結果から明らかなように、マイクロカプセル化した難燃剤のマイクロカプセルの被覆材として、シリカ又はシリコーン樹脂を用いた参考実施例1〜6では、評価結果は合格である。
一方、表3の結果からマイクロカプセルの被覆材として、シリカ又はシリコーン樹脂以外の樹脂を用いた参考比較例1〜13では、評価結果は不合格(NG)である。
したがって、本発明においては、マイクロカプセルの被覆材として、シリカ又はシリコーン樹脂を用いる必要があることが判る。
【0044】
[実施例1〜9]
実施例1として、3.3dt×51mmのポリエステル繊維A 50重量%と、6.6dt×51mmのポリエステル繊維B 30重量%と、5.6dt×51mmのレーヨン繊維20重量%から、ケミカルボンド法で目付45g/mの不織布を製造した。得られた不織布100重量部に、硫酸アンモニウムをシリカで被覆して作製したマイクロカプセル化した難燃剤と、バインダーとしてアクリル樹脂を用い、含浸した後マングル加工機を使用して、難燃剤を不織布の構成繊維重量100重量部に対して、56重量部付着させ、150℃で熱風乾燥機で乾燥させて、難燃化不織布を得た。
同様にして、付着量を78重量部としたもの(実施例2)と、100重量部としたもの(実施例3)を作製した。
また、難燃剤の種類をポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジンとしたものも、同様に作製した(実施例4〜9)。
得られた難燃化不織布について燃焼試験を行なった。その結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
[比較例1〜3]
比較例1として、3.3dt×51mmのポリエステル繊維A 50重量%と、6.6dt×51mmのポリエステル繊維B 30重量%と、5.6dt×51mmのレーヨン繊維20重量%から、ケミカルボンド法で目付45g/mの不織布を製造した。得られた不織布100重量部に、硫酸アンモニウムをシリカで被覆して作製したマイクロカプセル化した難燃剤と、バインダーとしてアクリル樹脂を用い、含浸した後マングル加工機を使用して、難燃剤を不織布の構成繊維重量100重量部に対して、22重量部付着させ、150℃で熱風乾燥機で乾燥させて、難燃化不織布を得た。
同様にして難燃剤の種類をポリリン酸アンモニウム(比較例2)にしたもの、スルファミン酸グアニジンにしたもの(比較例3)を作製した。
得られた比較例1〜3の難燃化不織布について、燃焼試験を行なった。その結果を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
[実施例10〜24]
実施例1で得られた不織布100重量部に、難燃剤として、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジンをそれぞれシリコーン樹脂で被覆して作製したマイクロカプセル化した難燃剤、難燃助剤として、水酸化マグネシウム(神島化学工業社製)、水酸化アルミニウム(巴工業社製)、メラミンシアヌレート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、ホウ酸アンモニウム、ケイ酸ナトリウム(ダイソーケミカル社製)を、表6に示す割合で塗布し、マングル加工機を使用して、難燃助剤を含む難燃剤を不織布の構成繊維重量100重量部に対して、いずれも78重量部付着させ、150℃で熱風乾燥機で乾燥させて、難燃化不織布を得た。
得られた難燃化不織布について、燃焼試験を行なった。その結果を表6に示す。
【0049】
【表6】

【0050】
表1〜3から明らかなように、マイクロカプセル化した難燃剤のマイクロカプセルの被覆材としては、シリカ又はシリコーン樹脂を用いたが、バインダーとの混和性も良く、また加工後のブリード等によるベタツキも無く良好であるが、シリカ又はシリコーン樹脂以外の樹脂を用いた場合には、バインダーとの混和性が悪く、ゲル化したり、表面がべたつくなど問題が多い。
したがって、マイクロカプセルの被覆材として、シリカ又はシリコーン樹脂が好適である。
また、表4〜6から明らかなように、ポリエステル系繊維を主成分とする繊維からなる不織布に、特定の難燃剤を特定の樹脂により被覆しマイクロカプセル化した難燃剤、或いは、さらに、特定の難燃助剤を特定量含有させた難燃剤を、特定量付着処理させることにより、優れた難燃効果が得られた(実施例1〜24)。
一方、不織布への難燃剤の付着量が本発明で規定した量より少ない場合は、難燃効果が発揮されなかった(比較例1〜3)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の難燃化不織布は、不織布に対し、特定形態の特定量の特定の難燃剤を付着させてなる、難燃性に優れた難燃化不織布であって、フィルター材として好適に用いることができ、特に環境保全に優れた空気清浄用フィルター、自動車キャビンフィルター、内燃機関用エアーフィルター、掃除機用フィルター等の材料として用いることができる。また、本発明の難燃化不織布は、難燃性に優れているので、フィルター材としての用途以外に、自動車の天井材、自動車床材、カーペット、各種シート類などにも、用いることができ、さらに、例えば、塩化ビニル樹脂代替用途にも、用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布100重量部に対し、30〜200重量部の難燃剤を付着させてなる難燃化不織布であって、
難燃剤は、硫酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン又はポリリン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種の難燃主剤を、シリカ又はシリコーン系樹脂にて内包するマイクロカプセル化したものであることを特徴とする難燃化不織布。
【請求項2】
前記難燃剤は、前記難燃主剤に加えて、さらに難燃助剤を内包すること、又は前記マイクロカプセル化したものに加えて、さらに難燃助剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の難燃化不織布。
【請求項3】
前記難燃助剤は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メラミンシアヌレート、ホウ酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、無機酸化物又はケイ酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の難燃化不織布。
【請求項4】
前記難燃助剤の含有量は、難燃剤全量に対して、10〜50重量%であることを特徴とする請求項2又は3に記載の難燃化不織布。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃化不織布から構成されることを特徴とするフィルター。
【請求項6】
空気清浄用フィルターまたは内燃機関用エアーフィルターであることを特徴とする請求項5に記載のフィルター。

【公開番号】特開2009−46776(P2009−46776A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214319(P2007−214319)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】