説明

難燃性ポリエステル樹脂組成物

【課題】 ポリエステルが本来持っている優れた機械的性質、化学的性質を損なうことなく、高度に難燃性を達成した成形品に加工できるポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 リン酸二水素アンモニウム、水酸化カリウム、および芳香族リン酸エステルから得られる難燃剤を含有するポリエステル樹脂(A)と、極限粘度が0.65以上のポリエステル樹脂(B)とを、ベント式二軸押出機により押し出してなることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂に難燃性をもたせた難燃性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル樹脂にハロゲン系化合物やリン/窒素系化合物からなる難燃化剤を添加して難燃性を付与し、ポリエステルフィルムの産業用資材としての有用性を高めることが行われている。
【0003】
従来、難燃性ポリエステルフィルムの製造技術としては、例えば、特許文献1には、有機リン系難燃剤をポリエステル製造時に共重号した難燃性ポリエステル樹脂を用いた、難燃性フィルム製造方法の発明が記載されている。当該発明の場合、難燃性樹脂としてほぼ100%が使用される発明のため、成型品の特性向上のために使用される、例えば粒子の添加や、再生樹脂の投入などが考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−526018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、ポリエステルが本来持っている優れた機械的性質、化学的性質を損なうことなく、高度に難燃性を達成した成形品に加工できるポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を採用することによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、リン酸二水素アンモニウム、水酸化カリウム、および芳香族リン酸エステルから得られる難燃剤を含有するポリエステル樹脂(A)と、極限粘度が0.65以上のポリエステル樹脂(B)とを、ベント式二軸押出機により押し出してなることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリエステルが本来持っている優れた機械的性質、化学的性質を損なうことなく、高度に難燃性を達成した成形品に加工できるポリエステル樹脂組成物を提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物に用いられる難燃性ポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂に添加される難燃化剤として物性効果の相違する2種類のリン酸二水素アンモニウムと芳香族リン酸エステルと、ポリエステル樹脂内のpH調整のための水酸化カリウムとから得られる難燃剤を含有するものである。そしてポリエステル成型品の加工性向上のため、極限粘度が高いポリエステル樹脂を用い、具体的には、極限粘度が0.65dl/g以上のポリエステル樹脂(B)を使用する。
【0010】
難燃性ポリエステル樹脂(A)は、非ハロゲン系無機難燃剤としてリン酸二水素アンモニウム(NHPO)が用いられる。ただし、リン酸二水素アンモニウムを単独でポリエステル樹脂と混合した時に、170℃付近でアンモニアが遊離してポリエステル樹脂内のpH値が4.7から2.5程度に低下するため、当該リン酸二水素アンモニウムのみからなる難燃化剤では、ポリエステル樹脂を劣化させて極限粘度が低下する。極限粘度低下を防ぐために、リン酸二水素アンモニウムに水酸化カリウム(KOH)を反応させて事前にアンモニアを飛散させれば、pH値を低下させることなく、極限粘度値の低下を防止することが可能となる。
【0011】
リン酸二水素アンモニウム(NHPO)が、添加される水酸化カリウム(KOH)量の増加によって、NHKHPO、K2HPO4,KPO4に順次変化し、これら化学種の混合物が難燃化剤の主成分を構成して複分解も平行して進行して微量に存在する化学種を含めると(NHPO4(nおよびmはそれぞれ独立して0〜3の整数であり、pは0〜2の整数である)の組成をもつ混合物が存在することとなり、当該(NHPO4組成混合物は、混練りしやすい粒子状結晶として形成され、ポリエステル樹脂の溶融温度付近に融点を有して、ポリエステル樹脂との混練過程で分散すると共に液化し、一部生成しているK3PO4は、ポリエステル樹脂組成物の加工時に、析出した粒子として働き、ポリエステル樹脂成形体の品質向上に寄与する。
【0012】
なお、リン酸二水素アンモニウムと水酸化カリウムからなる難燃剤は、リン酸二水素アンモニウムに水酸化カリウムを添加して、さらに水を加えて水溶液にした組成物を、加熱(通常、100〜120℃)しながら攪拌して水分を蒸発させると共に、アンモニアを飛散させることで得られる、粒子状結晶の粉体からなる。
【0013】
リン酸二水素アンモニウム100重量部に対し、水酸化カリウムは10〜70重量部の範囲で含有されていることが望ましい。水酸化カリウム量が下限値未満では、上述の粉体作成時にアンモニアが飛散せず、pH低下由来のポリエステル樹脂の極限粘度低下が起こるため、難燃性ポリエステル樹脂製造時、ならびに難燃性ポリエステル成型品加工時に、トラブルを起こしやすくなる。一方、上限値を超えると、析出粒子が多いため、最終的に得られるポリエステル成型品の物性が悪くなる傾向がある。
【0014】
リン酸二水素アンモニウムは無機難燃剤であり、ポリエステル樹脂との分散性が低いため、最終的に得られるポリエステル成型品の難燃性にばらつきが生じる恐れがある。リン酸二水素アンモニウムとポリエステル樹脂との相溶化剤が必要である。相溶剤を入れることで相対的に組成物中のリン酸二水素アンモニウムが減るため、相溶剤は難燃性を有することが望ましい。そのような相溶剤として、リン原子を含有する有機系組成物である、芳香族リン酸エステルが挙げられる。芳香族リン酸エステルは、リン酸二水素アンモニウム100重量部に対し、385〜595重量部であることが好ましい。下限値未満だと、上述のようにリン酸二水素アンモニウムのポリエステル中での分散性が低くなるため、ポリエステル成型品の難燃性が低下しやすくなる傾向がある。また、リン酸二水素アンモニウムのみで難燃性を向上させるべく、リン酸二水素アンモニウムの量を増やすと、アンモニア量が増量するため、極限粘度が低下しやすくなり、プロセス上問題となることがある。一方、上限値より多く芳香族リン酸エステルが含まれていると、リン酸エステル自体がポリエステル樹脂の加水分解を引き起こすことがある。
【0015】
リン酸二水素アンモニウムと水酸化カリウムと芳香族リン酸エステルの重量和は、難燃性ポリエステル樹脂(A)中に、4〜16重量%含有されていることが好ましい。下限値未満だと、ポリエステルに難燃性を付与することが難しくなることがある。上限値より多いと、難燃性ポリエステル樹脂(A)の製造時に、ストランド形成が困難となることがある。
【0016】
混合するポリエステル樹脂(B)の極限粘度(IV)は0.65dl/g以上であり、好ましくは0.70dl/g以上、特に好ましくは0.75dl/g以上である。極限粘度が下限値未満だと、ポリエステルフィルム製膜時に破断が起こりやすく、好ましくない。
【0017】
本発明のポリエステル樹脂をフィルムに加工する場合において、滑り性の付与されたポリエステルフィルムを製造するため、ポリエステル(B)に無機粒子および/ または有機粒子のスラリーを混合することができる。無機粒子としては、例えば、酸化シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、フッ化リチウム、カオリンの他、酸化鉄などの無機顔料が例示され、有機粒子としては、ジビニルベンゼン重合体、スチレン・ジビニルベンゼンの共重合体、各種イオン交換樹脂の他、アントラキノン等の有機顔料が例示される。液状スラリーとして供給出来る粒子であればその種類は特に限定されない。
【0018】
難燃性ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の重量和に対する、難燃性ポリエステル樹脂(A)の重量は30重量%以上が好ましく、33重量%以上が更に好ましく、35重量%以上が最も好ましい。上記下限値未満だと、ポリエステルフィルムに難燃性が得られないことがある。
【0019】
難燃性ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の重量和に対する、難燃性ポリエステル樹脂(A)の重量は50重量%以下が好ましく、47重量%以下がさらに好ましく、45重量%未満が最も好ましい。上記上限値より難燃性ポリエステル樹脂(A)が多いと、ポリエステルフィルムの極限粘度IVが低下しやすくなり、加工プロセスにトラブルが起こることがある。
【0020】
本発明においては、ポリエステルに後述の無機粒子および/または有機粒子のスラリーを混合するか否かに拘らず、難燃性ポリエステル(A)とポリエステル(B)は、乾燥ポリエステルを敢えて使用する必要がない。もちろん、乾燥されたポリエステルを使用することは何ら問題なく、例えば、含水率が50ppm以下に乾燥されたポリエステルを使用してもポリエステルの性質が悪化することはないが、乾燥するプロセスを含むことで、製品のコストアップが懸念され、安価にポリエステルフィルムを製造することができなくなる。
【0021】
難燃性ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を、通常、実質的に未乾燥な状態でベント式二軸押出機に投入し、押出することにより、本発明のポリエステル樹脂組成物が得られる。
【0022】
ベント式二軸押出機の脱気効率は、一定の押出量に対しスクリュー回転数の高い方が良好であると言える。すなわち、一定の押出量に対し、スクリュー回転数を増大させるとスクリュー表面に存在するポリエステルの表面を強制的に更新することが出来、その分、溶融ポリエステルからの脱気効率が増大することになる。そして、その結果、ポリエステルの極限粘度IVの保持率が改善される。
【0023】
ベント式二軸押出機としては、公知のものを使用することができるが、ベント式二軸押出機の脱気効率は、一定の押出量に対しスクリュー回転数の高い方が良好である。すなわち、一定の押出量に対し、スクリュー回転数を増大させるとスクリュー表面に存在するポリエステルの表面を強制的に更新することができ、その分、溶融ポリエステルからの脱気効率が増大することになる。そして、その結果、ポリエステルの極限粘度IVの保持率が改善され好ましい。
【0024】
ベント付き二軸押出機のシリンダーの内径(直径)をD(mm)とした際、単位時間当たりの押出量Q(kg/時)とスクリュー回転数N(rpm)とが下記式(I)、さらには下記式(II)、特に下記式(III)を満足する条件下で溶融押出しを行う。かかる条件を満足することにより、スクリューの剪断作用による過度の発熱を抑制しつつ脱気効率を高め、ポリエステルの極限粘度(IV)低下を防止することができる。
【0025】
5.2×10−6×D28≦Q/N≦15.8×10−6×D28 …(I)
6.0×10−6×D28≦Q/N≦15.0×10−6×D28 …(II)
6.3×10−6×D28≦Q/N≦14.7×10−6×D28 …(III)
下記式(IV)に示す条件では、回転数が押出量に対して高すぎるため、スクリューの剪断による発熱が過多となりIV保持率が悪化する傾向がある。また、下記式(V)式に示す条件では、回転数が押出量に対して低すぎるため、減圧下での溶融樹脂表面の更新度が低下して十分な脱気が行えずに極限粘度IV保持率が悪化する傾向がある。
【0026】
Q/N<5.2×10−6×D28 …(IV)
15.8×10−6×D28<Q/N …(V)
実質的に未乾燥のポリエステルを使用した場合、当該ポリエステルの内部の水分は、ベント孔からの減圧作用によって脱気される。水分の脱気効率を高めるため、ベント孔の減圧度は、通常40mmHg以下、好ましくは30mmHg以下、さらに好ましくは10mmHg以下とする。
【0027】
ポリエステル樹脂組成物の造粒工程においては、ホットカットやシートあるいはストランドのコールドカットが通常用いられ、樹脂組成物はフレーク状またはビーズ状の形態として得られる。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂組成物をフィルムに加工する場合、キャスティングドラム表面にポリエステルシートを溶融押出しする際に、キャスティングドラムに対するポリエステルシートの密着性を高めるため、静電密着法、エアナイフ法、2つのロールでニップするニップロール法などを適宜採用することができる。
【0029】
このようにして得られたシートを2軸方向に延伸してフィルム化することができる。延伸条件について具体的に述べると、前記未延伸シートを好ましくは縦方向に70℃〜145℃で2〜6倍に延伸し、縦1軸延伸フィルムとした後、横方向に90℃〜160℃で2〜6倍延伸を行い、180〜245℃にて熱固定工程に移る。
【0030】
本発明によれば、前述のとおり、実質的に乾燥または未乾燥の何れのポリエステル樹脂をも使用することができるが、実質的に未乾燥のポリエステルを使用しても極限粘度IV低下は少ない。
【0031】
すなわち、従来、加水分解によって生じる極限粘度IV低下に基づいて発生する延伸工程の破断などの問題を解決するため、溶融時の極限粘度IV低下を20%未満に抑制する必要があるとの観点から、溶融前のポリエステルは、含水率が50ppm 以下となるまで乾燥する必要があるとされている。ところが、乾燥は、例えば、80℃で3時間の条件を必要とし、しかも、乾燥後のポリエステルは、放冷後に溶融押出しされるため、乾燥工程の加熱エネルギーの大部分は、溶融押出工程に利用されることなく失われる。従って、本発明において、実質的に未乾燥のポリエステルを使用し得る効果は、生産効率のみならず、省エネルギー化の観点から、その工業的価値は顕著である。
【0032】
また、実質的に未乾燥のポリエステルを使用する場合は、フィルム製造工程から排出されるスリットフイルム等の再生ポリエステルも同様に乾燥することなく適当に粉砕した後に直接に未乾燥の新規ポリエステルと共に溶融押出を行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中、単に「%」とあるのは重量%を意味する。
【0034】
(1)ポリエステルの極限粘度IV〔η〕(dl/g)
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および粒子を除去したポリエステル1gに対し、フェノ−ル/テトラクロロエタン:50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0035】
(2)ポリエステルの含水率
水分測定装置(三菱化学製微量水分測定装置「CA−06」)で測定した。
【0036】
(3)ポリエステルのIV保持率
極限粘度IV低下が大であると、フィルムの実用強度が低下したり、二軸延伸時にフィルムが破断したりして生産の連続性が得られなくなる等の問題が生じるため、極限粘度IV保持率の評価を行った。評価は、極限粘度IV低下が10%未満の場合を◎、10〜15%の場合を○、15〜20%の場合を△、20%を超える場合を×として行った。
【0037】
(4)ポリエステルフィルムの製膜性
○:二軸延伸時フィルムを安定して生産ができる
×:二軸延伸時にフィルムが破断して生産の連続性が得られなくなる
【0038】
(5)難燃性
アンダーライターズラボラトリーズ社発行のプラスチック材料の燃焼性試験規格UL94の垂直燃焼試験方法に準じ、UL94VTM試験を行った。評価対象は、受理状態(23℃/50%RH/48時間)およびエージング後(70℃/168時間後)であり、各々について、VTM−0の合否判断を行った。以下に、難燃性評価手順について説明する。
・UL94のVTM試験に準ずる試験片を10本準備する。
・試験片5本に対しUL94VTM試験を行う。5本評価でのVTM−0合否に関わらず、残りの試験片5本に対しUL94VTM試験を行い、VTM−0の合否を評価する。
○:前半の5本も後半の5本もVTM−0に合格
△:前半の5本、もしくは後半の5本が、VTM−0に合格
×:前半の5本も後半の5本もVTM−0に不合格
【0039】
<ポリエステル(1)の製造法>
1個のスラリー調製槽、及びそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、及び2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続式重合装置を用い、スラリー調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールを重量比で100:45の割合で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートのエチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してリン原子としての含有量が4重量ppmとなる量で連続的に添加して、攪拌、混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを、窒素雰囲気下で267℃、相対圧力100kPa、平均滞留時間4時間に設定され、反応生成物が存在する第1段目のエステル化反応槽に連続的に流量120kg/hrで供給し、次いで、第1段目のエステル化反応生成物を、窒素雰囲気下で265℃、相対圧力5kPa、平均滞留時間2時間に設定された第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送して、更にエステル化反応させた。その際、第2段エステル化反応槽に設けた上部配管を通じて、エチレングリコールを生成するポリエステル樹脂に対して322モル/トンになる量を連続的に供給した。この場合、第2段エステル化反応槽におけるエステル化率は97%であった。
【0040】
上述のエステル化反応生成物を、移送配管を経由して第1段重縮合反応槽に連続的に供給した。このとき移送配管に設けた移送ポンプの吐出圧は500kPaであった。移送配管中のエステル化反応生成物に、酢酸マグネシウム4水和物のエチレングリコール0.6 重量%溶液を得られるポリエステル樹脂1t当たりのマグネシウム原子としての含有量が0.165モル/樹脂tとなる量で連続的に添加した。添加配管を使用して、テトラブチルチタネートのエチレングリコール溶液を生成ポリエステル樹脂に対してチタン原子としての含有量が4重量ppmとなる量だけ連続的に添加した。
【0041】
溶融重縮合の反応条件は、第1段重縮合反応槽が269℃、絶対圧力4kPa、平均滞留時間1時間であり、第2段重縮合反応槽は274℃、絶対圧力0.4kPa、平均滞留時間0.9時間、第3段重縮合反応槽は277℃、絶対圧力0.2kPa、平均滞留時間1時間であった。第3段重縮合反応槽から取り出した溶融重縮合反応生成物は、ダイからストランド状に押出して冷却固化し、カッターで切断して1個の重さが平均粒重24mgのポリエステル樹脂チップ:ポリエステル(1)とした。ポリエステル(1)の極限粘度は0.64dl/g、含水率は0.2%であった。
【0042】
<ポリエステル(2)の製造法>
ポリエステル(1)を出発原料とし、窒素雰囲気下で約160℃に保持された攪拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるようにチップが重ならないようにした状態で連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気下215℃で、得られるポリエステル樹脂の極限粘度が0.83dl/gとなるように滞留時間を調整して固相重縮合させ、ポリエステル(2)を得た。含水率は0.2%であった。
【0043】
<ポリエステル(3)の製造法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを得られるポリエステル樹脂1t当たりのチタン原子としての含有量が5g/樹脂tとなる量で加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、平均粒子径2.5μmのシリカ粒子のエチレングリコールスラリーを、粒子のポリエステルに対する含有量が0.06 重量%となるように添加し、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.60dl/gに相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルのチップを得た。上記で、得られたポリエステルチップを真空下220℃で固相重合し、ポリエステル(5)を得た。極限粘度は0.90dl/g、含水率は0.2%であった。
【0044】
<ポリエステル(4)>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール200重量部とを出発原料とし、エステル交換触媒として、酢酸マグネシウム・4水和物を得られるポリエステル樹脂1tあたりのマグネシウム含有量が46g/樹脂tとなる量で、加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。
【0045】
この反応混合物を重縮合槽に移し、平均粒子径2 .5μmのシリカ粒子、エチルアシッドホスフェート、酢酸マグネシウム・4水和物、そしてテトラ−n−ブチルチタネートとの混合物からなるエチレングリコールスラリー溶液を添加し、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。
【0046】
なお、エチレングリコールスラリー溶液中の各化合物の量は、得られるポリエステルに対する含有量について、シリカ粒子は3.0重量%となるように、エチルアシッドホスフェートについてはリン元素量として74g/樹脂tとなるように、酢酸マグネシウム・4水和物については、マグネシウム元素量として46g/樹脂tとなるように(エステル交換時に添加したマグネシウムも含めて、マグネシウム元素量として92g/樹脂tとなる)、テトラ−n−ブチルチタネートについてはチタン元素量として5g/樹脂tとなるように、調整してある。
【0047】
反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.60に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステル(4)を得た。極限粘度は0.60dl/g、含水率は0.2%であった。
【0048】
<ポリエステル(5)の製造法:(難燃性ポリエステル樹脂)>
リン酸二水素アンモニウム100重量部に対し水酸化カリウムを67重量部配合し、これに水を100重量部加えて水溶液にした。この後、当該水溶液を100〜120℃で加熱しながら攪拌して水分を蒸発させると共に、アンモニアを飛散させて粒子状結晶の粉体Aを得た。
粉体A:100重量部に対し、芳香族リン酸エステルとして大八化学製PX−200:350重量部を混合し、難燃剤を得た。ここで得られた難燃剤9重量部に、ポリエステル(3)91重量部をタンブラーで混合した。得られた混合物を、ベント付き二軸押出機にて溶融混練し、ストランド化後ペレット化し、ポリエステル(4)を得た。ポリエステル(5)の極限粘度IVは0.60dl/g、含水率は0.2%であった。
【0049】
<ポリエステル(6)の製造法:(難燃性ポリエステル樹脂)>
ポリエステル(5)の製造時、PX−200を混合しないことを除き、ポリエステル(5)の製造方法と同様の方法で、ポリエステル(6)を得た。ポリエステル(6)の極限粘度IVは0.60dl/g、含水率は0.2%であった。
【0050】
<ポリエステル(7)の製造法>
ポリエステル(5)の製造時、水酸化カリウムを混合しないことを除き、ポリエステル(5)の製造方法と同様の方法で、ポリエステルを得る検討を行ったが、混練時の劣化が激しく、安定したストランドを作成できなかった。
【0051】
<ポリエステルフィルムの製造>
以下、ポリエステル(5)もしくは(6)を本発明における難燃性ポリエステル樹脂(A)、ポリエステル(5)を含まない含有しないポリエステルでの組み合わせにより作られる組成物を本発明におけるポリエステル樹脂(B)とした。なお、ポリエステル樹脂(B)の極限粘度IVとは、難燃性ポリエステル樹脂(A)を除く、添加ポリエステル樹脂の平均極限粘度のことを指す。
【0052】
実施例1:
上記ポリエステル(2)、ポリエステル(4)およびポリエステル(5)を56:4:40の比率で混合したポリエステルを原料とし、1つのベント付き二軸押出機により、290℃で溶融押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定したキャスティングドラム上で急冷固化させて未延伸の単層シートを得た。このときのシリンダー内径Dは44mm、吐出量Qは30kg/hr、スクリュー回転数Nは100rpm、ベント孔の減圧度は5mmHgとした。得られた単層シートを縦方向に83℃で3.3倍延伸した後、予熱/横延伸/熱固定1/熱固定2/熱固定3/冷却の各ゾーンにおける温度[℃]を95/110/200/221/180/125℃に設定したテンターに導くことでフィルム製膜を行った。得られたフィルムの平均厚さは50μmであった。得られたフィルムの特性および評価結果を下記表1に示す。
【0053】
実施例2〜3:
表1に示す配合比、運転条件で行なうことを除いて、実施例1と同様の方法で、フィルムを得た。フィルムの特性および評価結果を下記表1に示す。
【0054】
比較例1〜5:
下記表2に示す配合比、運転条件で行なうことを除いて、実施例1と同様の方法で、フィルムを得た。フィルムの特性および評価結果を下記表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の難燃性樹脂組成物は、例えば、難燃性を求められる成型品、特にフィルム用として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸二水素アンモニウム、水酸化カリウム、および芳香族リン酸エステルから得られる難燃剤を含有するポリエステル樹脂(A)と、極限粘度が0.65以上のポリエステル樹脂(B)とを、ベント式二軸押出機により押し出してなることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)を30〜50重量%含有する請求項1に記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−6986(P2013−6986A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141290(P2011−141290)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】