説明

難燃性ポリエステル系人工毛髪

【課題】 通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、難燃性、セット性、耐ドリップ性に優れ、繊維の艶がコントロールされたポリエステル系人工毛髪用繊維およびそれを用いた人工毛髪を提供する。
【解決手段】 ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)100重量部に対し、主たる構成単位がリン元素を含有するモノマー成分(b1)および/または臭素元素を含有するモノマー成分(b2)であり、エステル結合により共重合されている高分子難燃剤(B)5〜50重量部を溶融混練して得られる組成物を溶融紡糸することにより、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、難燃性、セット性、耐ドリップ性に優れ、繊維の艶がコントロールされたポリエステル系人工毛髪が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステルに、主たる構成単位がリン元素を含有するモノマー成分(b1)および/または臭素元素を含有するモノマー成分(b2)であり、エステル結合により共重合されている高分子難燃剤を溶融混練して得られる組成物から形成された難燃性ポリエステル系人工毛髪に関する。さらに詳しくは、難燃性、耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持し、セット性、耐ドリップ性に優れた人工毛髪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルからなる繊維は、高融点、高弾性率で優れた耐熱性、耐薬品性を有していることから、カーテン、敷物、衣料、毛布、シーツ地、テーブルクロス、椅子張り地、壁装材、人工毛髪、自動車内装資材、屋外用補強材、安全ネットなどに広く使用されている。
【0003】
かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭髪製品においては、従来、人毛や人工毛髪(モダクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維)などが使用されてきている。しかし、人毛の提供は困難になってきており、人工毛髪の重要性が高まってきている。
【0004】
人工毛髪素材として、難燃性の特徴を生かしてモダクリル繊維が多く使用されてきているが、耐熱性の点では不充分である。
【0005】
近年、耐熱性に優れたポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルを主成分とする繊維を用いた人工毛髪が提案されるようになってきている。しかしながら、ポリエチレンテレフタレートを代表とするポリエステルからの繊維は、可燃性素材であるため、耐燃性が不充分である。
【0006】
従来、ポリエステル繊維の耐燃性を向上させようとする試みは種々なされており、たとえば、後加工によりポリエステル繊維に難燃剤を含浸させる方法や、溶融混練時または紡糸時に難燃剤を練り込む方法や、リン原子を含有する難燃性モノマーを重合時に共重合させる方法などが知られている。
【0007】
後加工によりポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法としては、ポリエステル繊維に、微粒子のハロゲン化シクロアルカン化合物を含有させる方法(特許文献1)、臭素原子含有アルキルシクロヘキサンを含有させる方法(特許文献2)などが提案されているが、充分な耐燃性を得るために、含有処理温度を150℃以上の高温にすることが必要であったり、含有処理時間を長時間にする必要があったり、あるいは大量の難燃剤を使用しなければならないといった問題や、洗濯やシャンプーすることにより、難燃剤が溶出してしまうといった問題があり、繊維物性の低下や生産性の低下、製造コストがアップするなどの問題が発生する。
【0008】
また、溶融混練時または紡糸時に難燃剤を練り込む方法としては、ポリエステルにリン酸エステル系難燃剤を溶融混練した組成物を紡糸することにより難燃ポリエステル繊維を得る方法(特許文献3)などが提案されているが、繊維表面にべたつき感があったり、洗濯やシャンプーすることにより、難燃剤が溶出してしまうといった問題がある。
【0009】
さらに、難燃性モノマーを共重合させる方法でとしては、リン化合物を共重合させたポリエステル繊維(特許文献4、5)などが提案されているが、十分な難燃性を得るためには、共重合量を多くしなければならず、その結果、ポリエステルの耐熱性が大幅に低下し、溶融紡糸が困難になったり、火炎が接近した場合、着火・燃焼はしないが、溶融・ドリップするという問題が発生する。
【0010】
従来、種々の提案がなされてきているが、人工毛髪に要求される高い耐燃性を確保するためには、いずれの方法においても多量の難燃剤を使用する必要があり、従来のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持することは困難であった。これらのことから、従来のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持し、難燃性、セット性、くし通りに優れた人工毛髪は、いまだ得られていないのが実状である。
【特許文献1】特公平3−57990号公報
【特許文献2】特公平1−24913号公報
【特許文献3】特開平9−268423号公報
【特許文献4】特開平3−27105号公報
【特許文献5】特開平5−339805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述のごとき従来の問題を解決した、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、難燃性、セット性、耐ドリップ性に優れ、さらに、繊維の艶がコントロールされた難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステルに、主たる構成単位がリン元素を含有するモノマー成分および/または臭素元素を含有するモノマー成分であり、エステル結合により共重合されている高分子難燃剤を溶融混練して得られる組成物を溶融紡糸することにより、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、難燃性、セット性、耐ドリップ性に優れ、さらに、繊維の艶がコントロールされた難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)100重量部に対し、主たる構成単位がリン元素を含有するモノマー成分(b1)および/または臭素元素を含有するモノマー成分(b2)であり、エステル結合により共重合されている高分子難燃剤(B)5〜50重量部を溶融混練して得られる組成物から形成された難燃性ポリエステル系人工毛髪であり、好ましくは、(A)成分が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーであり、(B)成分が下記一般式(1)〜(3)で表される構造を有し、
【0014】
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、R1は炭素数2〜10の直鎖または分岐を含む脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R2は炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、Aはリン元素または臭素元素を含む原子団、m/n=60/40〜95/5である。)
【0015】
(B)成分の数平均分子量が5000〜80000であり、(B)成分中の(b1)および/または(b2)成分の含有率が、60〜95モル%であり、(b1)成分、(b2)成分が、下記一般式(4)〜(6)で表される構造を有し、
【0016】
【化4】

【化5】

【化6】

(式中、R3は水素原子または炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、R4は水素原子または炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、Aはリン元素または臭素元素を含む原子団を示す。)
【0017】
より好ましくは、(b1)成分が、一般式(7)〜(12):
【化7】

(式中、R5は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R6、R7は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、pは1〜11の整数を示す。)
【化8】

(式中、R8は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい)
【化9】

(式中、R9は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R10は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、rは1〜12の整数を示す)
【化10】

(式中、R11は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R12は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、sは1〜11の整数を示す)
【化11】

(式中、R13は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、Yは水素原子、メチル基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、t、uはそれぞれ1〜20の整数を示す)
【化12】

(式中、R14は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R15は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、wは1〜20の整数を示す)
で表されるリン含有化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であり、(b2)成分が、一般式(13)〜(17):
【0018】
【化13】

(式中、xは1〜16の整数を示す)
【化14】

(式中、R16は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、yは1〜4の整数を示す)
【化15】

(式中、vは1〜16の整数、zは1〜4の整数を示す)
【化16】

(式中、R17は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、jは1〜12の整数を示す)
【化17】

(式中、R18は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、kは1〜4の整数を示す)
【0019】
で表される臭素含有化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である難燃性ポリエステル系人工毛髪であり、さらに、(A)および(B)成分からなる組成物100重量部に対し、有機微粒子(C)および/または無機微粒子(D)0.1〜5重量部が混合された、繊維表面に微細な突起を有することを特徴とし、(C)成分が、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種であり、(D)成分が炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカよりなる群から選ばれた少なくとも1種である前記難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維に関する。
【0020】
また、前記難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維は、単繊維繊度が10〜100dtexであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、難燃性、セット性、耐ドリップ性に優れ、繊維の艶がコントロールされたポリエステル系繊維およびそれを用いた人工毛髪が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)、主たる構成単位がリン元素を含有するモノマー成分(b1)および/または臭素元素を含有するモノマー成分(b2)であり、エステル結合により共重合されている高分子難燃剤(B)を含んでなる組成物を溶融紡糸した繊維である。
【0023】
本発明に用いられるポリエステル(A)に含まれるポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルとしては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートおよび/またはこれらのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、少量の共重合成分を含有する共重合ポリエステルがあげられる。
【0024】
前記主体とするとは、80モル%以上含有することをいう。
【0025】
前記共重合成分としては、たとえばイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スぺリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸、それらの誘導体、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸、その誘導体、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどがあげられる。
【0026】
前記共重合ポリエステルは、通常、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(たとえばテレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体に少量の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが、安定性、操作の簡便性の点から好ましいが、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(たとえばテレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、さらに少量の共重合成分であるモノマーまたはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0027】
前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖および/または側鎖に前記共重合成分が重縮合していればよく、共重合の仕方などには特別な限定はない。
【0028】
前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの具体例としては、たとえばポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどがあげられる。
【0029】
前記ポリアルキレンテレフタレートおよび共重合ポリエステルは、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、共重合ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなど)が好ましく、これらは2種以上混合したものも好ましい。
【0030】
(A)成分の固有粘度としては、0.5〜1.4、さらには0.6〜1.2であるのが好ましい。固有粘度が0.5未満の場合、得られる繊維の機械的強度が低下する傾向が生じ、1.4をこえると、分子量の増大に伴い溶融粘度が高くなり、溶融紡糸が困難になったり、繊度が不均一になる傾向が生じる。
【0031】
本発明に用いられる高分子難燃剤(B)は、主たる構成単位がリン元素を含有するモノマー成分(b1)および/または臭素元素を含有するモノマー成分(b2)であり、エステル結合により共重合されており、好ましくは、前記一般式(1)〜(3)で表される構造を有するものである。
【0032】
本発明に用いられるリン元素を含有するモノマー成分(b1)にはとくに限定はなく、一般に用いられている反応型リン含有難燃剤であれば使用することができる。リン元素を含有するモノマー成分としては、前記一般式(4)〜(6)で表される構造を有するものが好ましい。すなわち、リン元素を含む原子団Aと、エステル形成能を有するカルボキシル基、エステル基、水酸基、エーテル基よりなる群から選ばれた2つの基(それらは、それぞれ同じものであっても、異なっていてもよい)を有する化合物である。
【0033】
より好ましくは、前記一般式(7)〜(12)で表されるリン系化合物などが挙げられる。すなわち、ホスホリル基を含む原子団と、エステル形成能を有するカルボキシル基、エステル基、水酸基、エーテル基よりなる群から選ばれた2つの基(それらは、それぞれ同じものであっても、異なっていてもよい)を有する化合物である。具体例としては、たとえば、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(4−ヒドロキシブチル)ホスフィン、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド、トリス(3−ヒドロキシブチル)ホスフィンオキシド、3−(ヒドロキシフェニルホスフィノイル)プロピオン酸などや、式:
【0034】
【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

などのリン含有化合物が挙げられる。
【0035】
本発明に用いられる臭素元素を含有するモノマー成分(b2)にはとくに限定はなく、共重合可能な官能基を有している化合物であれば使用することができる。臭素元素を含有するモノマー成分としては、前記一般式(4)〜(6)で表される構造を有するものが好ましい。すなわち、臭素元素を含む原子団Aと、エステル形成能を有するカルボキシル基、エステル基、水酸基、エーテル基よりなる群から選ばれた2つの基(それらは、それぞれ同じものであっても、異なっていてもよい)を有する化合物である。
【0036】
より好ましくは、前記一般式(13)〜(17)で表される臭素含有化合物などが挙げられる。すなわち、臭素化芳香族炭化水素を含む原子団と、エステル形成能を有するカルボキシル基、エステル基、水酸基、エーテル基よりなる群から選ばれた2つの基(それらは、それぞれ同じものであっても、異なっていてもよい)を有する化合物である。具体例としては、たとえば、式:
【0037】
【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

などの臭素含有化合物が挙げられる。
【0038】
(B)成分の製造は、公知の方法を用いることができ、ジカルボン酸およびその誘導体とジオール成分およびその誘導体と(b1)および/または(b2)成分を混合し重縮合する方法や熱可塑性ポリエステルをエチレングリコールなどのジオール成分を用いて解重合し、解重合時に(b1)および/または(b2)成分を混在させ、再度、重縮合させて共重合体を得る方法などが好ましく、例えば、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールと(b1)および/または(b2)成分を特定の比率で混合し、三酸化アンチモンまたは二酸化ゲルマニウムを触媒量加え、加熱してエステル交換反応させ、低分子量重合体を生成させた後に、反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させて製造することができる。
【0039】
(B)成分の主鎖構造がポリエステル結合であり、(B)成分中の(b1)および/または(b2)成分の含有率が、60〜95モル%が好ましく、65〜90モル%がより好ましく、70〜85モル%がさらに好ましい。(b1)および/または(b2)成分の含有率が60モル%未満の場合には、リンおよび/または臭素の含有量が少なくなるため、難燃性が低下する傾向があり、95モル%を超えると、(B)成分と(A)成分の相溶性が悪くなり、透明性や発色性の低下、または、紡糸加工性の低下や糸切れが起こりやすくなる。
【0040】
(B)成分の数平均分子量としては、5000〜80000が好ましく、8000〜70000がより好ましく、10000〜60000であるのがさらに好ましい。分子量が5000未満の場合、耐熱性の低下や得られる人工毛髪が接炎した場合にドリップしやすくなる傾向が生じ、80000をこえるものは、(A)成分との相溶性の低下により外観性や紡糸加工性が低下する傾向が生じる。
【0041】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維は、有機微粒子(C)および/または無機微粒子(D)を混合して、繊維表面に微細な突起を形成し、繊維表面の光沢、つやを調整することができる。
【0042】
(C)および/または(D)成分の平均粒子径は、0.1〜15μmが好ましく、0.2〜10μmがより好ましく、0.5〜8μmがさらに好ましい。粒子径が0.1μmより小さい場合には、光沢調整効果が小さく、粒子径が15μmより大きい場合には、光沢調整効果が小さくなったり、糸切れが発生したりする。
【0043】
(C)および/または(D)成分の使用量は、特に限定されないが、(A)および(B)成分からなる組成物100重量部に対し、0.1〜5重量部であるのが好ましく、0.2〜3重量部がより好ましく、0.3〜2重量部がさらに好ましい。使用量が5重量部より多いと外観性、色相、発色性が損なわれ、0.1重量部より少ないと、繊維表面に形成される微細な突起が少なくなるため、繊維表面の光沢調整が不十分になる。
【0044】
(C)成分としては、主成分である(A)および/または(B)成分と相溶しないか、部分的に相溶しない構造を有する有機樹脂成分であれば使用することができ、たとえば、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンなどが好ましく用いられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定的に光沢調整効果を発現するためには、耐熱性、分散性の点から架橋ポリエステル粒子、架橋アクリル粒子が好ましい。
前記架橋ポリエステル粒子は、不飽和ポリエステルとビニル系単量体を水分散させ、架橋硬化させることで得られる。ここで使用される不飽和ポリエステルとしては、とくに限定はなく、たとえば、α,β−不飽和酸もしくはそれと飽和酸との混合物と二価アルコールもしくは三価アルコールとを重合させたものなどを挙げることができる。不飽和酸としては、たとえば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などが、飽和酸としてはたとえば、フタル酸、テレフタル酸、コハク酸、グルタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、およびセバチン酸などが挙げられる。また、二価アルコールおよび三価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。一方、ビニル系単量体としては、とくに限定はなく、たとえば、スチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリル酸、メチルアクリレート、アクリロニトリル、エチルアクリレート、およびジアリルフタレートなどが挙げられる。
【0045】
前記架橋アクリル粒子は、アクリル系単量体と架橋剤を水分散させ、架橋硬化させることで得られる。ここで使用されるアクリル系の単量体としては、アクリル酸、アクリル酸の誘導体、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、あるいはメタクリル酸、メタクリル酸の誘導体、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸N−ビニル−2−ピロリドン、メタクリロニトリル、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの1分子中に1個のビニル基を有するビニル系単量体が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組合せて使用することができる。また、架橋剤としては1分子中に2個以上のビニル基を有する単量体であればいずれでもよいが、1分子中に2個のビニル基を有するものが好ましい。その好ましい単量体としては例えば、ジビニルベンゼン、グリコールとメタクリル酸あるいはアクリル酸との反応生成物、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートなどがあるが、これらに限定されるものではない。その添加量は、ビニル基を1個有する単量体100重量部に対して0.02〜5重量部が好ましい。重合開始剤としては、過酸化物系ラジカル重合開始剤が好ましく、例えば、過酸化ベンゾイル、過安息香酸2−エチルヘキシル、過酸化ジtert−ブチル、クメンヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシドなどが挙げられる。ラジカル重合開始剤は、ビニル基を1個有する単量体100重量部に対して0.05〜10重量部使用されるのが好ましい。
【0046】
(D)成分としては、繊維の透明性、発色性への影響から、(A)および(B)成分の屈折率に近い屈折率を有するものが好ましく、たとえば、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカなどが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでは、球形に近い微粒子のほうが光沢調整効果が高く、酸化ケイ素、酸化ケイ素を主体とした複合粒子などが好ましい。本発明に用いられる(D)成分は、必要に応じてエポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物等で表面処理されてもよい。
【0047】
本発明に使用する難燃性ポリエステル系組成物は、たとえば、(A)および(B)成分、さらには、(C)および/または(D)成分をドライブレンドしたのち、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練することにより製造することができる。
【0048】
前記混練機の例としては、たとえば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0049】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維は、前記難燃性ポリエステル系組成物を通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0050】
すなわち、たとえば、押出機、ギアポンプ、口金などの温度を270〜310℃とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒を通過させたのち、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取ることにより紡出糸が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度や長さ、冷却風の温度や吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量および口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0051】
得られた未延伸糸は熱延伸されるが、延伸は未延伸糸を一旦巻き取ってから延伸する2工程法および巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。熱延伸は、1段延伸法または2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0052】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維には、必要に応じて、(B)成分以外の難燃剤、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。顔料を含有させることにより、原着繊維を得ることができる。
【0053】
このようにして得られる本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維は、非捲縮生糸状の繊維であり、その繊度は、通常、10〜100dtex、さらには20〜90dtexであるのが、人工毛髪用に適している。また、人工毛髪用繊維としては、160〜200℃で美容熱器具(ヘアーアイロン)が使用できる耐熱性を有しており、着火しにくく、自己消火性を有している。
【0054】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維が原着されている場合、そのまま使用することができるが、原着されていない場合、通常の難燃性ポリエステル系繊維と同様の条件で染色することができる。
【0055】
染色に使用される顔料、染料、助剤などとしては、耐候性および難燃性のよいものが好ましい。
【0056】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維は、美容熱器具(ヘアーアイロン)を用いたカールセット性に優れ、カールの保持性にも優れる。また、繊維表面の凹凸により、適度に艶消されており、人工毛髪として使用することができる。さらに、繊維表面処理剤、柔軟剤などの油剤を使用し、触感、風合を付与して、より人毛に近づけることができる。
【0057】
また、本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維は、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維など、他の人工毛髪素材と併用してもよいし、人毛と併用してもよい。
【0058】
かつら、ヘアーウィッグ、付け毛などの頭髪製品に使用される人毛は、一般に、キューティクルの処理や脱色および染色されており、触感、くし通りを確保するために、シリコーン系の繊維表面処理剤、柔軟剤を使用しているため、未処理の人毛とは異なり易燃性であるが、本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維と人毛とを人毛混率60%以下で混合した場合、良好な難燃性を示す。
【実施例】
【0059】
つぎに、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
なお、特性値の測定法は、以下のとおりである。
(強度および伸度)
インテスコ社製、INTESCO Model 201型を用いて、フィラメントの引張強伸度を測定する。長さ40mmのフィラメント1本をとり、フィラメントの両端10mmを、接着剤を糊付けした両面テープを貼り付けた台紙(薄紙)で挟み、一晩風乾させて、長さ20mmの試料を作製する。試験機に試料を装着し、温度24℃、湿度80%以下、荷重3.4×10-3N×繊度(dtex)、引張速度20mm/分で試験を行ない、強伸度を測定する。同じ条件で試験を10回繰り返し、平均値をフィラメントの強伸度とする。
【0061】
(難燃性)
繊度約50dtexのフィラメントを150mmの長さに切り、0.7gを束ね、一方の端をクランプで挟んでスタンドに固定して垂直に垂らす。有効長120mmの固定したフィラメントに20mmの炎を3秒間接炎させ、燃焼させて評価した。
−燃焼性−
◎:残炎時間が0秒(着火しない)
○:3秒未満
△:3〜10
×:10秒以上
−耐ドリップ性−
◎:ドリップ数が0
○:5以下
△:6〜10
×:11以上
【0062】
(光沢)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを太陽光のもと、目視により評価する。
◎:人毛に等しいレベルに光沢が調整されている
○:適度に光沢が調整されている
△:若干光沢が多すぎる、または、若干光沢が少なすぎる
×:光沢が多すぎる、または、光沢が少なすぎる
【0063】
(触感)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを手で触り、フィラメント表面のベタツキ感を評価する。
○:ベタツキ感なし
△:若干ベタツキ感がある
×:ベタツキ感がある
【0064】
(くし通り)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントに繊維表面処理剤として、PO/EOランダム共重合体(分子量20000)とカチオン系帯電防止剤を50/50の比率で含む3%水溶液に浸漬し、それぞれ0.1%が付着するようにし、80℃で5分間乾燥させる。処理されたトウフィラメントにくし(デルリン樹脂製)を通し、くしの通り易さを評価する。
○:ほとんど抵抗ない(軽い)
△:若干抵抗がある(重い)
×:かなり抵抗がある、または、途中で引っかかる
【0065】
(アイロンセット性)
ヘアーアイロンによるカールセットのしやすさ、カール形状の保持性の指標である。フィラメントを180℃に加熱したヘアーアイロンにかるく挟み、3回扱き予熱する。このときのフィラメント間の融着、櫛通り、フィラメントの縮れ、糸切れを目視評価する。つぎに、予熱したフィラメントをヘアーアイロンに捲きつけ、10秒間保持し、アイロンを引き抜く。このときの抜きやすさ(ロッドアウト性)、抜いたときのカールの保持性を目視評価する。
−融着−
○:なし。
△:若干あり。
×:あり。
−縮れ/糸切れ−
○:なし。
△:若干あり。
×:あり。
−ロッドアウト−
○:アイロンロッドが抵抗なく抜ける。
△:若干抵抗がある。
×:抵抗があり、抜け難い。
−セット性−
○:セットが付きやすく、カールが安定している。
△:セットは付く安いが、若干カールが崩れる。
×:セットが付き難い、または、カールが崩れる。
【0066】
次に、本実施例に使用する(B)成分の製造例1〜5を示す。
【0067】
(製造例1)
ジメチルテレフタレート582g、エチレングリコール1368g、酢酸カルシウム1水塩0.79g部をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下で4時間かけて140℃から230℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行なった。さらに、下記リン含有モノマー1;
【0068】
【化29】

【0069】
を1470g添加した後、250℃で反応させた。続いて、トリメチルホスフェート2.91gと酢酸カルシウム1水塩1.75gとをエチレングリコール50g中で、全還流下120℃で60分間反応せしめて得たリン酸ジエステルカルシウム塩の溶液に酢酸カルシウム1水塩0.75gを溶解させ、三酸化アンチモン0.53部と共に重合缶に移した。次いで、1時間かけて760mmHgから30mmHgまで減圧し、同時に1時間30分かけて230℃から285℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度285℃で3時間重縮合を継続し、高分子難燃剤1を得た。
【0070】
(製造例2)
ジメチルテレフタレートを970g、エチレングリコールを1804g、下記リン含有モノマー2;
【化30】

を1736gとした以外は、製造例1と同様にして、高分子難燃剤2を得た。
【0071】
(製造例3)
ポリエチレンテレフタレート960g、エチレングリコール2547g、下記臭素含有モノマー1;
【化31】

【0072】
2860g、三酸化アンチモン0.38gをエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下で4時間かけて140℃から230℃まで昇温して解重合およびエステル交換反応を行なった。次いで、1時間かけて760mmHgから30mmHgまで減圧し、同時に1時間30分かけて230℃から285℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度285℃で3時間重縮合を継続し、高分子難燃剤3を得た。
【0073】
(製造例4)
ジメチルテレフタレートを291g、エチレングリコールを1384g、下記臭素含有モノマー2;
【化32】

を1785gとした以外は、製造例1と同様にして、高分子難燃剤4を得た。
【0074】
(製造例5)
ジメチルテレフタレートを970g、エチレングリコールを822g、リン含有モノマー2を217gとした以外は、製造例1と同様にして、高分子難燃剤5を得た。
【0075】
(実施例1〜8)
水分量100ppm以下に乾燥したポリエチレンテレフタレート、高分子難燃剤、有機微粒子および無機微粒子を、表1に示す比率で混合し、さらに、着色用ポリエステルペレットPESM6100 BLACK(大日精化工業(株)製、カーボンブラック含有量30%)2部を添加してドライブレンドし、二軸押出機に供給し、280℃で溶融混練し、ペレット化したのちに、水分量100ppm以下に乾燥させた。ついで、溶融紡糸機を用いて280℃でノズル径0.5mmの丸断面ノズル孔を有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、口金下30mmの位置に設置した水温50℃の水浴中で冷却し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を80℃の温水浴中で延伸を行ない、4倍延伸糸とし、200℃に加熱したヒートロールを用いて、100m/分の速度で巻き取り、熱処理を行ない、単繊維繊度が50dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0076】
【表1】

*1:ポリエチレンテレフタレート、固有粘度IV=0.85、カネボウ合繊(株)製
*2:架橋アクリル粒子、平均粒子径1.8μm、綜研化学(株)製
*3:球状微粉末シリカ、平均粒子径4μm、富士シリシア(株)製
【0077】
得られた繊維を用いて、強伸度、難燃性、光沢、触感、くし通り、アイロンセット性を評価した結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
(比較例1〜5)
ポリエチレンテレフタレート、難燃剤を表3に示す比率で混合し、実施例と同様にして、単繊維繊度が50dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0080】
【表3】

*1:ポリエチレンテレフタレート、固有粘度IV=0.85、カネボウ合繊(株)製
*4:縮合リン酸エステル系難燃剤、大八化学工業(株)製
*5:リン共重合型難燃ポリエステル樹脂、東洋紡績(株)製
【0081】
得られた繊維を用いて、強伸度、難燃性、光沢、触感、くし通り、アイロンセット性を評価した結果を表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
表2、表4に示したように、比較例に対し、実施例では、主たる構成単位がリン含有モノマーおよび/または臭素含有モノマーであり、エステル結合により共重合されている高分子難燃剤を使用することで、紡糸加工性、透明性、触感、アイロンセット性などの低下がなく、難燃性に優れることが確認された。従って本願発明に係る高分子難燃剤を含む組成物を使用した人工毛髪用繊維は、従来の人工毛髪用繊維に比べ、ポリエステルの機械的特性、熱的特性を維持したまま、紡糸加工性、透明性、触感、セット性、難燃性が改善され、人工毛髪として有効に用いることが可能となることを確認した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)100重量部に対し、主たる構成単位がリン元素を含有するモノマー成分(b1)および/または臭素元素を含有するモノマー成分(b2)であり、エステル結合により共重合されている高分子難燃剤(B)5〜50重量部を溶融混練して得られる組成物から形成された難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項2】
(A)成分が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーである請求項1記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項3】
(B)成分が下記一般式(1)〜(3)で表される構造を有する請求項1記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、R1は炭素数2〜10の直鎖または分岐を含む脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R2は炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、Aはリン元素または臭素元素を含む原子団、m/n=60/40〜95/5である。)
【請求項4】
(B)成分の、数平均分子量が5000〜80000である請求項1または3記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項5】
(B)成分中の(b1)および/または(b2)成分の含有率が、60〜95モル%である請求項1、3、4のいずれかに記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項6】
(b1)成分、(b2)成分が、下記一般式(4)〜(6)で表される構造を有する請求項1、3、4、5のいずれかに記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【化4】

【化5】

【化6】

(式中、R3は水素原子または炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、R4は水素原子または炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、Aはリン元素または臭素元素を含む原子団を示す。)
【請求項7】
(b1)成分が、一般式(7)〜(12):
【化7】

(式中、R5は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R6、R7は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、pは1〜11の整数を示す。)
【化8】

(式中、R8は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい)
【化9】

(式中、R9は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R10は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、rは1〜12の整数を示す)
【化10】

(式中、R11は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R12は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、sは1〜11の整数を示す)
【化11】

(式中、R13は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、Yは水素原子、メチル基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、t、uはそれぞれ1〜20の整数を示す)
【化12】

(式中、R14は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、R15は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、wは1〜20の整数を示す)
で表されるリン含有化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1、3、4、5のいずれかに記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項8】
(b2)成分が、一般式(13)〜(17):
【化13】

(式中、xは1〜16の整数を示す)
【化14】

(式中、R16は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、yは1〜4の整数を示す)
【化15】

(式中、vは1〜16の整数、zは1〜4の整数を示す)
【化16】

(式中、R17は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、jは1〜12の整数を示す)
【化17】

(式中、R18は水素原子又は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、kは1〜4の整数を示す)
で表される臭素含有化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1、3、4、5のいずれかに記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項9】
(A)および(B)成分からなる組成物100重量部に対し、有機微粒子(C)および/または無機微粒子(D)0.1〜5重量部が混合された、繊維表面に微細な突起を有する請求項1〜8のいずれかに記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項10】
(C)成分が、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項9記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項11】
(D)成分が、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカ、シリカ−メラミン複合粒子よりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項9記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項12】
単繊維繊度が10〜100dtexである請求項1〜11のいずれかに記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。



【公開番号】特開2006−144184(P2006−144184A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338179(P2004−338179)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】