説明

難燃性ポリエステル繊維、これを用いた難燃材および難燃性ポリエステル繊維の製造方法

【課題】ポリリン酸アンモニウムを難燃剤として配合した難燃性ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】ポリリン酸アンモニウム0.1〜10質量%と熱可塑性ポリエステル樹脂99.9〜90質量%とを含むポリエステル樹脂組成物を用いて得られる難燃性ポリエステル繊維である。さらにカーボンブラックなどの着色剤を配合してもよい。この樹脂組成物を溶融混合することで力学的強度に優れる難燃性繊維、さらに難燃材を得ることができる。特に、ポリエステル樹脂として廃棄ポリエステルを使用すれば、マテリアルリサイクルにも貢献する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリリン酸アンモニウムを難燃剤として配合した難燃性ポリエステル繊維、これを用いた難燃材および難燃性ポリエステル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた力学的性質を有し、繊維、フィルム、その他のプラスチック成形物として広範囲に利用される有用な素材として、ポリエチレンテレフタレートがある。しかしながら、燃焼しやすいという欠点を有しており、近年火災に対する認識の高まりに伴い、難燃化が強く要望されている。
【0003】
このようなポリエステルを難燃化する試みは、従来から種々検討されており、繊維、フィルムなどの成形時に難燃剤を練り混む方法、成形物に難燃剤を後処理する方法、難燃剤を共重合法により添加配合せしめる方法などが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、有機リン化合物をポリマー中のリン含有量が1.0質量%になるように共重合させたポリエステルであって、反応終了後生成物を加水分解した後エポキシ化合物と反応させ末端酸価を10未満としたオリゴマーを、繊維全体のリン含有量が0.4〜2.0質量%になるように添加配合した高難燃性ポリエステル繊維が開示されている。また例えば、特許文献2では、熱可塑性樹脂で被覆されたポリリン酸アンモニウム含有物質を、紡糸後の繊維製品を処理工程で含有させた難燃性繊維製品が、また特許文献3にはメラミン被覆したポリリン酸アンモニウムを紡糸後の繊維製品に後処理工程で含有させた難燃繊維が開示されている。さらに、特許文献4には、ポリリン酸化合物とシリコーン系樹脂との複合粒子から成るポリリン酸系難燃剤を繊維に固着してなる難燃性繊維製品が開示されている。
【特許文献1】特開平8−127918号公報
【特許文献2】特開2001−262466号公報
【特許文献3】特開平9−310272号公報
【特許文献4】特開2006−63465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような共重合法では、ポリエステル合成の際に共重合可能なリン化合物を使用するため、高価な化合物を難燃剤として使用する必要があり、不経済であり、ポリエステル樹脂そのものを合成する段階で難燃剤を配合する必要があり、使用後の熱可塑性ポリエステル樹脂製品を再使用して難燃性の熱可塑性ポリエステル樹脂を製造することなどは困難である。
【0006】
また、特許文献2〜4のように、ポリエステル繊維を紡糸した後に難燃化処理する方法では処理が煩雑であったり、不均一であったり、又繊維の風合いを粗硬にしたり、洗濯などで難燃性が低下したりする等の種々の欠点を有する場合がある。難燃化処理が不均一では十分難燃効果を得ることはできず、使用時の安全性も害される。
【0007】
更に、難燃性ポリエステル繊維を得る場合に、熱可塑性ポリエステル樹脂自体に難燃剤を配合してそれを製造する方法では、難燃効果を向上させるため難燃剤の配合量が多いと紡糸時に難燃剤が昇華、または繊維の機械的特性を著しく低下させる場合がある。
【0008】
従って、優れた力学的性質を有するポリエステルを容易に難燃化することができる方法、特に熱可塑性ポリエステル繊維に必要な難燃化ポリエステル樹脂組成物が求められる。
【0009】
一方、このような難燃性ポリエステル繊維は、カーテン、展示用合板などの高層建築物、じゅうたん、壁装材、旅客機のカーペット、カーテン、座席、クッションなどの内装材、自動車内装材、鉄道車両内装材、船舶用品、寝具類、防炎頭巾、衣類等、広範囲に使用することができる。
【0010】
難燃剤として有機リン系化合物のほかに臭素系、塩素系などのハロゲン系化合物が使用されているが、燃焼時の問題がある。すなわち、難燃剤としてハロゲン系化合物を使用したものを燃焼しまたは焼却する時には、一般に環境汚染物質として注目されているダイオキシンを発生させる。
【0011】
加えて、難燃性材料はその耐久性も求められる。耐久性に優れる結果、廃棄量自体を減少させ、焼却処理による二酸化炭素の発生なども有効に抑制することができるからである。また、同時に従来の資源を再利用できれば、焼却処分される対象物のマテリアルリサイクルを可能とし、環境保全に寄与すると共に経済的にも有利である。特に、近年の容器包装リサイクル法によって回収された資源が有効利用できなければ回収の意味もない。そこで、環境保全の観点からも既存の資源を利用して簡便に難燃性繊維を得る方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、熱可塑性ポリエステル樹脂と難燃剤との組み合わせを詳細に検討した結果、少量のポリリン酸アンモニウムを配合することで優れた難燃効果が得られること、および製品廃棄燃焼時の安全性を確保できること、加えて耐光性に優れる難燃材が得られることを見出して本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供するものである。
【0013】
(1)ポリリン酸アンモニウムと熱可塑性ポリエステル樹脂とを含む難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸して得た繊維であって、該ポリエステル樹脂含有量が繊維重量を基準としてそれぞれポリリン酸アンモニウムを0.1〜10質量%、ポリエステル樹脂を99.9〜90質量%含有することを特徴とする難燃性繊維。
【0014】
(2)ポリリン酸アンモニウムの分解温度が、270℃以上である、上記(1)記載の難燃性繊維。
【0015】
(3)乾式法で引き取り速度350〜1000m/min、紡糸温度200〜300℃で溶融紡糸して得た繊維である、上記(1)または(2)記載の難燃性繊維。
【0016】
(4)前記樹脂組成物100重量部と、着色剤0.02〜5重量部とを含有し、該ポリエステル樹脂含有量が繊維重量を基準としてそれぞれポリリン酸アンモニウムを0.1〜10質量%、着色剤を0.02〜5重量部ポリエステル樹脂を99.88〜85質量%含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の難燃性繊維。
【0017】
(5)着色剤が、カーボンブラックである、上記(4)に記載の難燃繊維。
【0018】
(6)上記(1)ないし(5)に記載の難燃性繊維を5〜100質量%含有する難燃材。
【0019】
(7) 該難燃材が、自動車用内装材として使用されるものである、上記(6)記載の難燃材。
【0020】
(8)分解温度が270℃以上のポリリン酸アンモニウムまたは前記ポリリン酸アンモニウムを含有するマスターバッチ、熱可塑性ポリエステル樹脂、およびカーボンブラックなどの着色剤を含有するマスターバッチを溶融混合し、次いで溶融紡糸することを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の難燃性ポリエステル繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、難燃性、耐光堅牢性に優れる難燃性ポリエステル繊維、難燃材が得られる。特にポリリン酸アンモニウムを使用することで、難燃性に優れた樹脂組成物が得られるのみならず、難燃性繊維、難燃材の製造工程、さらにこれを焼却処分した場合でもホスフィン等の発生がなく安全性に優れる。
【0022】
しかも、樹脂組成物にカーボンブラックなどの着色剤を配合することで着色でき、これを布帛として難燃性の暗幕等に使用することができる。
【0023】
特に、ポリエステル樹脂組成物に難燃剤を配合すると繊維化が困難となる場合が多いが、本発明ではポリリン酸アンモニウムのマスターバッチを使用することでポリエステルとポリリン酸アンモニウムとの相溶性を増し、安定な樹脂組成物が得られると共に、機械的物性に優れるポリエステル繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、ポリリン酸アンモニウムと熱可塑性ポリエステル樹脂とを含む難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸して得られた繊維であって、該ポリエステル樹脂含有量が繊維重量を基準としてそれぞれポリリン酸アンモニウムを0.1〜10質量%、ポリエステル樹脂を99.9〜90質量%含有することを特徴とする難燃性繊維である。
【0025】
本発明は、難燃剤として用いるポリリン酸アンモニウムは、下記一般式;
【0026】
【化1】

【0027】
で表される化合物である。分解温度をDSC分析において5%重量減がおこる温度と定義する。本発明に用いられる難燃剤は、リン酸エステル基とアンモニウム基との相乗効果によって高い難燃性を発揮できる。前記化合物の分解温度は250℃以上であるが、特に好ましくは、270℃以上である。分解温度の上限は特に制限されるものではないが、一般に、分解温度は重合度nと共に増加することが知られており、重合度の高いものが好ましい。したがって、上記ポリリン酸アンモニウムとして製造可能な最も高い重合度のものが、当該分解温度の上限値といえる。また、重合度が高くなると、架橋や分岐を持つようになる。本発明におけるポリリン酸アンモニウムは通常、粉体のものが用いられ、粉末平均粒径は30μm以下であることが好ましく、より好ましくは該粉末平均粒径10μm以下である。粉末平均粒径が30μm以下であれば、ポリリン酸アンモニウムをそのまま熱可塑性ポリエステル樹脂に混合し、均一に分散することができ、この際、粒径が小さいほど分散性は良くなる。したがって、粉末平均粒径の下限に関しては、特に制限されるものではない。なお、上記粉末では、粒度分布が上記平均粒径以下で均一であることが望ましく、篩い分けなどにより、所定のメッシュサイズ、例えば、2種のメッシュサイズの篩を用いて粒度分布の狭く、粒径が揃ったものに調整されたものなどを利用してもよい。また、ポリリン酸アンモニウムを採用したのは、赤リンやリン酸エステルよりも少量添加で難燃効果に優れるためでもある。
【0028】
次に本発明で使用する熱可塑性ポリエステル樹脂について説明する。本発明で使用する熱可塑性ポリエステル樹脂としては特に制限はなく、熱可塑性であればその構成成分を問わずいずれのポリエステル樹脂も使用することができる。本発明は、ポリリン酸アンモニウムを配合することで極めて優れた難燃性をポリエステルに付与しうることを見出したものだからである。従って、得られた難燃性ポリエステル樹脂組成物をフィルム、シート、積層板、発泡体などに成型し、または射出、ブローインフレーション法などにより所望の形状に成形して使用することができる。しかしながら、特に該樹脂組成物を用いて紡糸し繊維とできることが好ましい。繊維となれば、その後に布帛やフェルトに成形することができ、特に内装材などとして利用しやすいからである。このため、紡糸可能なポリエステル樹脂にできることが好ましい。なお、紡糸は湿式、乾式に限られない。また、熱可塑性ポリエステル樹脂に限ったのは、熱可塑性であれば廃棄ポリエステルを再利用することができるからである。
【0029】
このような熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ビス−(4−カルボキシフェニル)スルフォン、1,2−ビス(4−カルボキシフェニル)エーテル、1,2−ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン、1,2−ビス(4−カルボキシフェニル)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、p−フェニレンジ酢酸、ジフェニルオキシド−p,p’−ジカルボン酸、trans−ヘキサヒドロテレフタル酸及びそれらのアルキルエステル、アリールエステル、エチレングリコールエステルなどが挙げられる。一方、グリコール成分としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、1,2−プロピレングリコ−ル、1,4−ブタンジオール、トリメチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールや、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びそのエチレングリコール、ポリエチレングリコール付加体、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。本発明では、該ポリエステル樹脂組成物をその後に所望の形状に成形して使用できるが、特に繊維に紡糸する場合には、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコールなどであることが好ましい。
【0030】
また、本発明では、該熱可塑性ポリエステルとして使用後に廃棄されたものや、工業製品を製造する際の端材を利用することもできる。なお、本願において、廃棄ポリエステル樹脂とは、使用済みポリエステル樹脂、使用前であるが規格外れ品であって、製品として使用されないものなど、製品以外のポリエステル樹脂を広く含むものとする。このような廃棄ポリエステル樹脂としては、合繊メーカー、フィルムメーカー、ペットボトル製造業、ポリエステル重合メーカーからでる端材や基準グレードを下回るポリエステル樹脂、一般廃棄物の容器包装リサイクル法によって得られるポリエステル樹脂が例示できる。これにより本来廃棄され、または焼却処理の対象となるべき廃材をマテリアルリサイクルすることができるからである。
【0031】
本発明で用いられる難燃性ポリエステル樹脂組成物では全ての難燃性ポリエステル樹脂がこのような廃棄ポリエステル樹脂であっても何ら差し支えない。むしろ全ての熱可塑性ポリエステル樹脂が使用済みのものなどであれば、廃材を原料成分として有効利用できると共に、本来焼却されるものを焼却せずに済むため、二酸化炭素の発生などを防止し、環境保全に寄与することができる。
【0032】
本発明に用いられる難燃性ポリエステル樹脂組成物では、ポリリン酸アンモニウムを0.1〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%と、可塑性ポリエステル樹脂99.9〜90質量%、より好ましくは99〜92質量%とを含む難燃性ポリエステル樹脂であることが好ましい。ポリリン酸アンモニウムが0.1質量%を下回ると難燃性を付与することが困難で、その一方、10質量%を超えるとその後に紡糸することが困難となるからである(後述する表1の比較例4参照)。すなわち、上記範囲のポリリン酸アンモニウムを樹脂組成物に配合することで、難燃性に優れると共に紡糸性に優れる繊維が得られる。
【0033】
本発明に用いられる樹脂組成物は、上記樹脂組成物100重量部に対して更にカーボンブラックなどの着色剤0.02〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部を含有させてもよい。例えば、着色剤としてカーボンブラックを配合することで、紡糸した繊維に耐光堅牢性を付与することができる。特に難燃材として自動車内装材に使用されると、常に光による劣化を受けるため耐光性は極めて重要な要素となる。本発明では、カーボンブラックを配合することで難燃性繊維の褪色を防止し、同時に繊維自体に耐光堅牢性を付与できることを見出した。また、カーボンブラックによる着色により、例えば遮光用の暗幕等として使用することもできる。その他、仕様用途によって、カーボンブラックの替わり、または、併用して着色剤を使用することができる。着色剤を使用することによって、該繊維の色づけが可能となる。ここに好ましいカーボンブラックなどの着色剤の配合量として0.02重量部以上としたのは、これを下回ると着色が不充分となるからである。その一方、5重量部以下としたのは、これを超えても目的とする着色の程度は変わらず、むしろその後の紡糸が困難となるからである。また、カーボンブラック以外の着色剤としては、例えば、アゾ、アンスラキノン、キナクリドン、シアニングリーン、チタンイエロー、フタロシアニン、α型フタロシアニン、β型フタロシアニン、ペリノン、ベリレン、ポリアゾ、群青、合成金属化合物、酸化鉄、弁柄、酸化チタン、アナターゼ酸化チタン、ルチル酸化チタン、及びこれら着色剤の混合物、ジオキサジンなどがあり、着色剤の種類によって難燃性繊維に所望の色づけができる。
【0034】
本発明に用いられる難燃性ポリエステル樹脂組成物は、ポリリン酸アンモニウムと、熱可塑性ポリエステル樹脂との割合が、これらの全量100質量%に対して上記割合を満たせばよく、これにカーボンブラックなどの着色剤、またはこれに加えて更に他の添加物を含ませることもできる。このような添加物としては、炭酸カルシウム、タルク等の遅燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アンチモン、炭酸ナトリウムおよびこれらの混合物などの他の難燃剤、フタル酸エステル、リン酸エステル、脂肪族カルボン酸などの可塑剤、無機塩、金属石鹸などの安定剤、アルキルフェノール、アルキレンビスフェノールなどの抗酸化防止剤、サリチル酸エステル、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤などがある。
【0035】
本発明に用いられる難燃性ポリエステル樹脂組成物では、特に酸化アンチモンや水酸化アルミニウムを併用すると、難燃性を増すことができ好ましい。これらの配合量は、本発明の樹脂組成物100重量部に、水酸化アルミニウムまたは酸化アンチモンを0.1〜5重量部、より好ましくは0.1〜4重量部、特には0.1〜3重量部含有してもよい。0.1重量部を下回ると併用効果が発揮されず、その一方、5重量部を超えても難燃性は変わらず、その一方、紡糸が困難になるからである。
【0036】
本発明に用いられる樹脂組成物を調製するには、難燃剤として、ポリリン酸アンモニウムのマスターバッチを使用することが好ましい。例えば、予めマスターバッチ基材にポリリン酸アンモニウムを含有するマスターバッチを調製し、これに熱可塑性ポリエステル樹脂を混合溶融して調製する。また、樹脂組成物に、カーボンブラックなどの着色剤を含ませる場合には、予めポリリン酸アンモニウムを含有するマスターバッチと、熱可塑性ポリエステル樹脂、およびカーボンブラックなどの着色剤を含有するマスターバッチを調製し、両者を混合する。マスターバッチとポリエステル樹脂とを溶融混合するには特別の方法を採用する必要はない。例えば、溶融前の夫々のチップを混合後溶融しても良いし、両者を別々に溶融した後紡糸直前にスタティックミキサー等を用いて静的に混合してもよい。
【0037】
なお、マスターバッチを使用する際には、ポリリン酸アンモニウムを該マスターバッチ中に5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%含有することが好ましい。5質量%を下回ると、ポリリン酸アンモニウムの配合量が少なくマスターバッチを使用する意義が薄れ、その一方、40質量%を超えるとマスターバッチの調製自体が困難になるからである。マスターバッチに使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂であってポリエステル樹脂組成物中に配合された後に、該樹脂組成物の特性を失わないものであれば特に制限なく使用でき、最も好ましいのは熱可塑性ポリエステル樹脂であり、その中でもポリエチレンテレフタレート系ポリエステルやポリブチレンテレフタレート系ポリエステルを主成分として含むものである。なお、このようなマスターバッチは市販品を使用することができる。
【0038】
また、カーボンブラックなどの着色剤のマスターバッチは、カーボンブラックなどの着色剤を該マスターバッチ中に5〜60質量%、より好ましくは10〜35質量%、特には20〜30質量%含有するものである。5質量%を下回ると、カーボンブラックなどの着色剤の配合量が少なく所望の色を得ることができず、その一方、60質量%を超えるとカーボンブラックなどの着色剤を均一に混合することが困難になるからである。
【0039】
この際、該マスターバッチにおいて、かかるカーボンブラックなどの着色剤を配合する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルが好ましい。このポリエステルは、特に該ポリエステルを構成する全酸成分を基準としてイソフタル酸が5〜20モル%共重合されているものがよい。イソフタル酸の共重合割合が5モル%未満の場合には、得られる繊維の物性低下を招いたり、製糸時の糸切れ等のトラブルを増加させる場合があるので好ましくない。一方、イソフタル酸の共重合割合が20モル%を越える場合には、得られる原着糸の物性が低下したり、着色斑が発生し易くなる場合があるので好ましくない。なお、上記ポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルは、イソフタル酸成分以外の共重合成分を全酸成分を基準として5モル%以下の範囲でさらに共重合されていてもよく、具体的には、二塩基酸として、アジピン酸、セバシン酸、ナフタリンジカルボン酸、フタル酸、グリコール成分としてプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール等を挙げることができる。このようなマスターバッチを使用すると、カーボンブラックなどの着色剤がイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート中にあらかじめ分散されているため、カーボンブラックなどの着色剤の周辺は主にイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートで取り囲まれた構造となる。その結果、ポリエチレンテレフタレート中にはカーボンブラックなどの着色剤による増粘効果があまり作用せず、一方イソフタル酸共重合ポリエステル中ではイソフタル酸成分の減粘効果によりカーボンブラックなどの着色剤の増粘効果が減じられ、全体としてはドリップ効果が向上して防炎性能が向上する。しかしながら本発明では、マスターバッチを使用する場合にこのような樹脂に限られず、目的とする樹脂組成物の特性を損なわないものであれば、いずれも使用できる。なお、他の添加剤を配合する場合には、公知の方法によって該樹脂組成物中に混合することができる。
【0040】
本発明は、上記記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸して得た繊維であって、該ポリエステル樹脂含有量が繊維重量を基準としてポリリン酸アンモニウムを0.1〜10質量%、カーボンブラックなどの着色剤を0.02〜5質量%、ポリエステル樹脂を99.88〜85質量%含有することを特徴とする難燃性繊維である。
【0041】
なお、該難燃性繊維は、上記樹脂組成物を公知の溶融紡糸方法によって繊維化して得ることができる。その際の断面形状は任意であり、丸断面繊維、異形断面繊維、中空繊維いずれであってもよい。
【0042】
また、該難燃性繊維において、ポリリン酸アンモニウムが0.1質量%以上としたのは、これを下回るとポリリン酸アンモニウムなどを配合して難燃材を調製する場合に難燃効果が少なく、その一方、10質量%以下としたのはこれを超えるとポリリン酸アンモニウムの配合量が多すぎるために糸切れが多くなり、繊維としての特性に欠けるからである。同様に、カーボンブラックなどの着色剤が0.02重量部以上としたのは、これを下回ると着色が不充分となるからである。その一方、カーボンブラックなどの着色剤が5質量%以下としたのは、5質量%を超えても糸切れが増え、かつ耐光堅牢性の付与に差がないからである。すなわち、本発明の難燃性繊維は難燃剤の添加量を少なくし、かつカーボンブラックなどの着色剤の配合によって耐光堅牢性を付与し、同時にポリエステル繊維の機械的特性を損なうことなく繊維化した難燃性繊維である。
【0043】
このようにして得られる本発明の難燃性繊維は、短繊維またはフィラメント等の繊維綿を使用し、または該繊維綿を単に圧縮してフェルトとして使用し、またはそのまま難燃性充填材として使用することができる。この際、本発明の難燃性繊維の太さは、1.0〜660デシテックスであることが好ましく、より好ましくは3.3〜330デシテックス、特に好ましくは5.0〜17.0デシテックスである。1.0デシテックスを下回る太さとすると糸切れが生じる場合があり、その一方660デシテックスを超えると、剛性によって加工しづらいからである。また、このような短繊維またはフィラメントを単独または他の繊維と併用して従来公知の方法で製織したり製編して布帛としてもよい。例えば、難燃性繊維糸を緯糸に用い、一方通常の白色ポリエステル延伸糸を経糸に用いた朱子織、または一方の面に難燃性繊維糸が配される二重織にして、布帛としてもよい。
【0044】
本発明の第二は、上記難燃性繊維を5〜100質量%含有する難燃材である。難燃材としては、上記の難燃性繊維やこれからなるフェルト、布帛、繊維綿等を用いて調製できる。この際、該難燃材には、難燃性繊維が5〜100質量%、より好ましくは10〜50質量%、特には15〜30質量%含有されることが好ましい。本発明の難燃性繊維は難燃効果が大きいため、少なくとも5質量%を含有されると難燃材として有効に使用できる。従って、従来の部材に配合して難燃性を付与することができ、しかもその配合量が少量であるため、製品価格を安価にできると共に、従来の部材の風合いを損なわずに難燃効果を付与することができる。
【0045】
このような難燃性繊維を含有する難燃材は、例えば、自動車の内装に使用されるシートや、ピラガーニッシュ、リヤパーセル等の内張り、マット、カーペット等の床内張り、サンバイザ、パッケージトレイ、アシストグリップなどの部品、その他、断熱材、各種遮音材、防振材として使用することができる。
【0046】
本発明の第三は、(1)分解温度が270℃以上のポリリン酸アンモニウムを含有するマスターバッチ、熱可塑性ポリエステル樹脂、およびカーボンブラックなどの着色剤を含有するマスターバッチとを溶融混合し、次いで溶融紡糸することを特徴とする、難燃性ポリエステル繊維の製造方法、および(2)カーボンブラックなどの着色剤を含有するマスターバッチ、分解温度が270℃以上のポリリン酸アンモニウム、および熱可塑性ポリエステル樹脂とを溶融混合し、次いで溶融紡糸することを特徴とする、難燃性ポリエステル繊維の製造方法である。
【0047】
本来、ポリエステル樹脂に無機化合物を加えて繊維に紡糸することは困難であり、特にポリエステル樹脂と無機化合物との相溶性が不充分であるために糸切れなどが生じやすかった。しかしながら、本発明では、マスターバッチを使用することで、溶融混合のみで簡便に添加物を均一に溶融でき、この結果、糸切れすることなく紡糸できるのである。このマスターバッチを用いる溶融混合は、上記、本発明の樹脂組成物の調製で記載したと同様の方法である。また、溶融紡糸自体は、従来公知の紡糸方法を採用することができる。むしろ、ポリリン酸アンモニウムを配合しつつも従来の溶融紡糸方法をそのまま採用できる点に特徴がある。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。
【0049】
(実施例1〜5および比較例3〜4)
ポリリン酸アンモニウム1(クラリアントジャパン株式会社製Pekoflam TC 204粉末(平均粒径8μm)、P含有量31.5%、N含有量14.5%、重合度 1000、分解温度270℃以上)を含むマスターバッチと、ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学株式会社製、商品名「NOVAPEX」)とをエクストルーダーで溶融混合して、表1に示す割合の難燃性ポリエステル樹脂組成物(樹脂1〜5および比較樹脂3〜4)をそれぞれ得た。次いでこれらを乾式法で引き取り速度520m/min、温度240〜270℃で溶融紡糸し、単糸6.6デシテックスの難燃性ステープル(難燃性繊維1〜5および比較難燃性繊維比3)を得た。なお、比較樹脂4に関しては、表1の比較例4に示すように、上記と同様の乾式法で引き取り速度520m/min、温度240〜270℃で溶融紡糸を行ったが、紡糸できず、難燃性ステープルを得ることはできなかった。また、上記ポリリン酸アンモニウム1を含むマスターバッチには、いずれの実施例及び比較例もポリリン酸アンモニウム1を30質量%配合したものを用いた。また、このマスターバッチの樹脂には、ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学株式会社製、商品名「NOVAPEX」)を使用した。
【0050】
こうして得られた実施例1〜5の難燃性繊維1〜5および比較例3の比較難燃性繊維比3について、難燃性、耐光性および機械的物性(強度および伸度)を調べた。結果を表1に示す。なお、難燃性、耐光性および機械的物性(強度および伸度)の測定は以下に従った。
【0051】
(1)難燃性は、特開2001−279073号公報に記載の方法に準じて測定した。予め得られた難燃性繊維ないし難燃材を170±2℃の恒温乾燥機内に10分間放置したものを使用した。
【0052】
試験片として、150mm×100mm×20mmのステンレス製バスケットに全面が均一に、繊維方向が縦に一定となるようにほぐした10gの難燃綿をいれた。また詰めた際に、外形から繊維綿が出ないように表面をドライヤーで軽く当てて平らにして、試験片とした。この試験片を設置台から252mmの位置に試験片のふた側が下となるように水平に固定した。なお、網目は0.2〜0.4mmφのアルミ線を18メッシュに編んだものであり、上蓋は65mm×80mmの窓を横に2つ並べて開けたものである。
【0053】
火源は、燃料の十分あるチャッカマン(Vestaチャッカマン 株式会社東海製)とし、炎長50mm、着火口から試験片までの距離を20mmとした。
【0054】
試験片のほぼ中央に点火し、点火後は火源の周囲の空気を静穏な状態に保ち、燃焼が終了するまで放置した。炎を試験片に10秒間あてて燃え方を観察した。なお炎を当ててから着火までの平均時間(秒)、着火してからの燃焼時間の平均時間(秒:残炎平均時間)および最大時間(秒:残炎最大時間)、炭化長の最大値(mm)を測定し評価した。1試料について5試験片を用い、かつ各試験片について2点で評価した。従って、上記平均とは10測定の平均であり、最大とは10測定の最大値である。
【0055】
(2)耐光性は常温、水銀灯下15cmで24時間放置したのち、ΔEab値を、CM−3600d(コニカミノルタ製)で測定した。また、耐光堅牢度は、JIS L0842(−1996)「紫外線カーボンアーク灯光(第3露光法)」で40時間照射で行い等級で示した。なお、試験数は3とした。
【0056】
(3)機械的物性(強度および伸度)は、卓上型材料試験機 STA−1150(株式会社オリエンテック製)で測定した。1試料について10測定した。
【0057】
(実施例6〜8)
ポリリン酸アンモニウム1(クラリアントジャパン株式会社製Pekoflam TC 204粉末(平均粒径8μm)、P含有量31.5±0.5%、N含有量14.5±0.5%、重合度1000、分解温度270℃以上)を含むマスターバッチと、ポリエステル中にカーボンブラックを35質量%配合したマスターバッチ、およびポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学株式会社製、商品名「NOVAPEX」)とをエクストルーダーで溶融混合して、表1に示す割合の難燃性ポリエステル樹脂組成物(樹脂6〜8)をそれぞれ得た。次いでこれらを乾式法で引き取り速度520m/min、温度240〜270℃で溶融紡糸し、単糸6.6デシテックス、L値10〜20の難燃性ステープル(難燃性繊維6〜8)を得た。なお、上記ポリリン酸アンモニウム1を含むマスターバッチには、いずれの実施例もポリリン酸アンモニウム1を30質量%配合したものを用いた。また、このマスターバッチの樹脂には、ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学株式会社製、商品名「NOVAPEX」)を使用した。カーボンブラックを35質量%配合したマスターバッチのポリエステルには、ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学株式会社製、商品名「NOVAPEX」)を使用した。
【0058】
こうして得られた実施例6〜8の難燃性繊維6〜8について、実施例1と同様にして難燃性、耐光性および機械的物性とを評価した。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
ポリリン酸アンモニウム1に代えて、株式会社鈴裕化学製の分解温度250℃のポリリン酸アンモニウム2(ファイアカット P−760;(平均粒径8μm))を用いる以外は、実施例3と同様にして難燃性ステープル(比較難燃性繊維比1)を得た。
【0060】
こうして得られた比較例1の比較難燃性繊維比1について、実施例1と同様にして難燃性、耐光性および機械的物性とを評価した。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学株式会社製、商品名「NOVAPEX」)のみを乾式法で引き取り速度520m/min、温度240〜270℃で溶融紡糸し、単糸6.6デシテックスの難燃性ステープル(比較難燃性繊維比2)を得た。
【0062】
こうして得られた比較例2の比較難燃性繊維比2について、実施例1と同様にして難燃性、耐光性および機械的物性とを評価した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例9)
実施例1、4および6で得た難燃性繊維1、4および6に、難燃加工未処理繊維(表中、未処理繊維と表記する)を表2に示す割合で配合して難燃綿を調製し、難燃材1〜4とした。これらの難燃性を調べた。なお、難燃加工未処理繊維は、ポリエステル樹脂組成物としてポリリン酸アンモニウムを含ませないこと以外は実施例4と同様にして調製したポリエステル樹脂組成物を紡糸した未処理繊維である。難燃材1〜4(難燃綿)の難燃性は、実施例1と同様の方法を採用した。結果を表2に示す。
【0065】
また、表2において、市販の難燃性繊維である比較難燃性繊維1、比較難燃性繊維2および比較難燃性繊維3を用いて、上記の難燃材1に準じて難燃綿を調製し、比較難燃材1〜3とし、これらの難燃性を調べた結果を合わせて示す。これら比較難燃性繊維1〜3に使用された難燃剤は、比較難燃性繊維1:ブロム系難燃剤(東ソー株式会社製、商品名「フレームカット110R」、成分デカブロモジフェニルエーテル)8質量%、ブロム系難燃剤(東ソー株式会社製、商品名「フレームカット610R」、成分三酸化アンチモン)3質量%、およびポリエチレンテレフタレート89質量%からなり、比較難燃性繊維2は、帝人株式会社製、商品名「トレビラ」、比較難燃性繊維3は、東洋紡績株式会社製、商品名「ハイム」である。
【0066】
また、比較難燃性繊維1〜3および比較例1〜3で得られた難燃性繊維(比較難燃性繊維比1〜3)に、難燃加工未処理繊維を表2に示す割合で配合し、上記の難燃材1に準じて難燃綿を調製し、比較難燃材4〜9として、これらの難燃性を調べ、その結果を表2に示した。難燃性は、実施例1と同様の方法を採用した。
【0067】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリン酸アンモニウムと熱可塑性ポリエステル樹脂とを含む難燃性ポリエステル樹脂組成物を、溶融紡糸して得た繊維であって、該ポリエステル樹脂含有量が繊維重量を基準としてそれぞれポリリン酸アンモニウムを0.1〜10質量%、ポリエステル樹脂を99.9〜90質量%含有することを特徴とする難燃性繊維。
【請求項2】
ポリリン酸アンモニウムの分解温度が、270℃以上である、請求項1に記載の難燃性繊維。
【請求項3】
乾式法で引き取り速度350〜1000m/min、紡糸温度200〜300℃で溶融紡糸して得た繊維である、請求項1または2に記載の難燃性繊維。
【請求項4】
前記樹脂組成物100重量部と、着色剤0.02〜5重量部とを含有し、該ポリエステル樹脂含有量が繊維重量を基準として、それぞれポリリン酸アンモニウムを0.1〜10質量%、着色剤を0.02〜5重量部ポリエステル樹脂を99.88〜85質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性繊維。
【請求項5】
前記着色剤が、カーボンブラックである請求項4に記載の難燃繊維。
【請求項6】
請求項1ないし5に記載の難燃性繊維を5〜100質量%含有する難燃材。
【請求項7】
該難燃材が、自動車用内装材として使用されるものである、請求項6に記載の難燃材。
【請求項8】
分解温度が270℃以上のポリリン酸アンモニウムまたは前記ポリリン酸アンモニウムを含有するマスターバッチ、熱可塑性ポリエステル樹脂、および着色剤を含有するマスターバッチを溶融混合し、次いで溶融紡糸することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性ポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−202152(P2008−202152A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37151(P2007−37151)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(390004215)株式会社高木化学研究所 (6)
【Fターム(参考)】