説明

難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びこれを用いた成形体

【課題】難燃剤の含有量を抑えることによって、溶融熱安定性に優れるばかりでなく、ポリカーボネート樹脂本来の機械的強度、耐熱性、電気的特性等を保持し、且つ難燃性の著しく優れた、ポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物を含むポリカーボネート樹脂成形体を提供する。
【解決手段】フッ素化率が50%以下である炭化水素基を有するスルホン酸金属塩を含有することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを含むポリカーボネート樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びこれを含むポリカーボネート樹脂成形体に関する。更に詳しくは、ブロム化合物や燐酸エステルなどの難燃剤を使用せずとも、機械的強度、耐熱性、耐加水分解性(耐湿性)、並びに熱安定性の全てに優れる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は優れた機械的性質、熱的性質、電気的性質を有しており、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野、建材分野を始め、幅広い分野で使用されている。近年、OA機器、家電製品等の用途を中心として、合成樹脂材料への難燃化の要望が高まっており、これに応えるために多数の難燃剤が提案されている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂の難燃化技術としては、当初、主にブロム化合物等を難燃化剤として使用することが行われてきた。しかしブロム化合物による周辺環境への負担増加や、シリンダー、スクリュー、及び金型等の樹脂成形機における腐食問題などから、その使用量低減や代替難燃剤の開発がなされた。そして代替難燃剤として、例えばリン酸エステル系化合物が提案された。しかしこの様な難燃剤を含むポリカーボネート樹脂組成物は、機械的強度や耐熱性が低下するという問題があった。
【0004】
一方、臭素化合物やリン酸エステル系化合物を用いない方法として、ポリカーボネート樹脂に炭素数4〜8のパーフルオロアルキルスルホン酸金属塩や第4級アンモニウム塩を用いる方法(特許文献1参照)や、炭素数1〜3のパーフルオロアルキルスルホン酸金属塩を用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしこれらの方法でも、得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性や熱安定性は不十分であった。
【0005】
また難燃化剤として、pH5〜9のパーフルオロアルキルスルホン酸の塩水溶液又は水分散液を用いる方法(特許文献3参照)や、アルコール不溶成分含有量を低減したパーフルオロアルキルスルホン酸塩を用いる方法(特許文献4)、そして高フッ素化化合物を用いる方法(特許文献5)、及びイオンクロマトグラフィー法により測定したフッ化物イオンの含有量が重量割合で0.2〜20ppmであるパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩を用いる方法(特許文献6)などが提案されている。しかし得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性や、樹脂分子量当の諸物性等は、未だ不十分なままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−40445号公報
【特許文献2】特公昭54−32456号公報
【特許文献3】特開2001−31855号公報
【特許文献4】特開2001−115004号公報
【特許文献5】特開2004−521166号公報
【特許文献6】特開2005−112973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、少量の難燃剤の配合により、ポリカーボネート樹脂本来の特性を損なうことなく、且つ難燃性が著しく優れたポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを含むポリカーボネート樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、意外にも、特定の、低い割合でフッ素化された炭化水素基を有するスルホン酸金属塩をポリカーボネート樹脂組成物の難燃化剤として用いることで、その使用量が僅かであっても、極めて優れた難燃性を有するポリカーボネート樹脂組成物となるばかりでなく、ポリカーボネート樹脂の特性である機械的強度、耐熱性、耐加水分解性(耐湿性)、並びに熱安定性の全てに優れたものとなることを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明の要旨は、フッ素化率が50%以下である炭化水素基を有するスルホン酸金属塩を含むことを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを含むポリカーボネート樹脂成形体に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを含むポリカーボネート樹脂成形体は、難燃化剤として特定のスルホン酸金属塩を用いることによって、その含有量を低減することが可能となり、周辺環境への負荷を抑えることが可能となった。そして溶融熱安定性に優れるばかりでなく、ポリカーボネート樹脂本来の機械的強度、耐熱性、電気的特性等を保持した、ポリカーボネート樹脂組成物を提供することが出来る。この様な特徴を有することから、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、OA機器分野、電気・電子分野、精密機械分野、建材分野を始め、幅広い用途への使用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂は、従来公知の任意のものを使用することが出来る。本発明では、ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂を使用できるが、中でも芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0011】
尚、本発明で用いられるポリカーボネート樹脂とは、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)や、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)の他、例えば、本発明の目的である難燃性を更に高める目的で、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体をも含むものである。
【0012】
該アロイや共重合体としては、ポリカーボネート樹脂100重量部に対する他の熱可塑性樹脂(共重合体の場合にはそのブロック部分)の含有量が100重量部以下、中でも70重量部以下更には60重量部以下、特に50重両部以下であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂以外の、他の熱可塑性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、HIPS樹脂あるいはABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。中でも熱可塑性ポリエステル樹脂が好ましく、特にポリブチレンテレフタレート樹脂またはポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0013】
また、本発明に使用されるポリカーボネート樹脂の製造方法は任意であり、例えばホスゲン法(界面重合法)や、溶融法(エステル交換法)等が挙げられる。具体的には例えば、芳香族ヒドロキシ化合物、またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させることによる、分岐していてもよい芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法が挙げられる。さらに、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することが出来る。
【0014】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂として、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂用いる際、その製造方法としては、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させる方法が挙げられる。
【0015】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。また、本発明の目的である難燃性を更に高める目的で、上述の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合したやシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーあるいはオリゴマーを使用することができる。
【0016】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂の製造方法において、分岐したポリカーボネート樹脂を得るには、例えばフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−臭素イサチンなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、その使用量は0.01〜10モル%、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0017】
またポリカーボネート樹脂の分子量を調節する方法としては、例えば一価芳香族ヒドロキシ化合物を用いる方法が挙げられる。具体的にはm−又はp−メチルフェノール、m−又はp−プロピルフェノール、p−t−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノールなどを用いて、分子量を調整すればよい。
【0018】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、または2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。
【0019】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で表す。この粘度平均分子量が低すぎると機械的強度が不足する場合があり、逆に高すぎても成形性が低下る場合がある。よってその粘度平均分子量は、14000以上、中でも15000以上、特に16000以上であることが好ましく、その上限は30000以下、中でも28000以下、特に26000以下であることが好ましい。
【0020】
更にポリカーボネート樹脂としては、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては、光学ディスクなどの光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトルなどの容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板などの建築部材などが好ましく挙げられる。また、再生ポリカーボネート樹脂としては、製品の不適合品、スプルー、またはランナーなどから得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレットなども使用可能である。
【0021】
本発明の特徴は、難燃剤として、フッ素化率が50%以下である炭化水素基を有するスルホン酸金属塩を含むことにある(以下、「フッ素化率が50%以下である炭化水素基を有するスルホン酸金属塩」を「部分フッ素化スルホン酸金属塩」と略記することがある。)。ここで「フッ素化率」とは、炭化水素基上の水素原子の数をA、フッ素原子の数をBとした際に、B/(A+B)で表される。
フッ素化率は50%以下であればよいが、一般的には1%以上、中でも5%以上、更には10%以上、特に20%以上であることが好ましく、その上限は49%、中でも48%以下、特に45%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明に使用される該部分フッ素化スルホン酸金属塩としては、その難燃効果や溶融熱安定性の観点から、アルカリ(土類)金属塩、又はアンモニウム塩であることが好ましい。
アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が、またアルカリ土類金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられ、中でもリチウム、ナトリウム、カリウムが好ましい。
【0023】
本発明に使用される、部分フッ素化スルホン酸金属塩における炭化水素基としては、環状、又は直鎖状で分岐鎖を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリレン基等の脂肪族炭化水素基;単環式又は縮合環式の、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アズレニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
これら炭化水素基を構成する炭素数は、適宜選択して決定すればよいが、通常、脂肪族炭化水素基の場合には1〜12、芳香族炭化水素基の場合には6〜14である。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状で分枝鎖を有していてもよいものが好ましく、更には炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましい。具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−プロピル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等の低級アルキル基であることが好ましい。
【0024】
また芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜12の置換されていてもよいアリール基が好ましく、具体的には例えばフェニル基;トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ニトロフェニル基、メトキシフェニル基、ビフェニル基等の置換フェニル基;クレジル基;(o−、m−、p−)トリル基;(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)キシリル基;メシチル基;ナフチル基等が挙げられる。中でもフェニル、ビフェニル基、キシリル基が好ましい。
【0025】
これらの中でも、炭化水素基としては芳香族炭化水素基であることが好ましく、中でもフェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニル基であることが好ましい。これらのうち、芳香環を構成する炭素原子に結合している水素原子がフッ素原子に置換されていても、また置換基上を構成する炭素原子に結合している水素原子がフッ素原子に置換されていてもよいが、アルキルフェニル基の場合にはアルキル基上の水素原子がフッ素原子に置換されていることが好ましい。
尚、本発明に使用される部分フッ素化スルホン酸金属塩においては、これを構成する炭化水素基において2個以上のアリール基を有する場合には、これらは単結合で直接結合していても、また−O−結合、−SO−結合、−S−結合等により結合されていてもよい。
【0026】
本発明に使用される、部分フッ素化スルホン酸金属塩の具体例としては、モノフルオロメタンスルホン酸カリウム塩、モノフルオロメタンスルホン酸ナトリウム塩、2,4−ジフルオロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4−ジフルオロベンゼンスルホン酸カリウム塩、3,4−ジフルオロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、3,4−ジフルオロベンゼンスルホン酸カリウム塩、2−トリフルオロメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2−トリフルオロメチルベンゼンスルホン酸カリウム塩、4,4’−ジフルオロビフェニル−3−スルホン酸ナトリウム塩、4,4’−ジフルオロビフェニル−3−スルホン酸カリウム塩、4,4’−ジフルオロジフェニルスルフィド−3−スルホン酸ナトリウム塩、4,4’−ジフルオロジフェニルスルフィド−3−スルホン酸カリウム塩、テトラフルオロジフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩、テトラフルオロジフェニルエーテルジスルホン酸ジカリウム塩、ポリ(2−フルオロ−6−ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウム塩等が挙げられる。これらの中でも特に、2,4−ジフルオロベンゼンスルホン酸カリウム塩、2−トリフルオロメチルベンゼンスルホン酸カリウム塩が好ましい。
【0027】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物における、部分フッ素化スルホン酸金属塩の含有量は、少なすぎると難燃効果が不充分となり、逆に多すぎても含有量の増加に見合う効果の向上が期待できない。よってその含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001重量部以上、中でも0.01重量部以上、更には0.02重量部以上であることが好ましい。またその上限は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して1重量部以下、中でも0.6重量部以下、更には0.3重量部以下であることが好ましい。
【0028】
本発明においては、上述したフッ素化率が50%以下である炭化水素基を有するスルホン酸金属塩の他に、更に必要に応じて、燃焼時の滴下防止剤、無機フィラー、無機繊維、蛍光増白剤、衝撃改良剤、蛍光増白剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、その他の難燃剤、離型剤、摺動性改良剤等の添加剤を、単独又は適宜選択して組み合わせて含有させてもよい。特に、本発明の組成物が光線反射板として使用される場合には、要求される光反射特性及び耐候性を改良するため、蛍光増白剤や紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
【0029】
燃焼時の滴下防止剤としては、従来公知の任意のものを使用できるが、中でもポリテトラフルオロオレフィン樹脂を配合することが好ましい。具体的には、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂が挙げられ、中でもポリカーボネート樹脂中に容易に分散し、かつポリカーボネート樹脂同士を結合して繊維状構造を作る傾向を示すものが好ましい。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂は、種々市販されており、容易に入手することができる。
【0030】
具体的には例えば、テフロン(登録商標)6J(三井・デュポンフロロケミカル社製)、ポリフロン(ダイキン化学工業社製)が挙げられる。またポリテトラフルオロエチレンの水性分散液の市販品として、テフロン(登録商標)30J(三井デュポンフロロケミカル社製)、フルオンD−1(ダイキン化学工業社製)等が挙げられる。更にビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するポリテトラフルオロエチレン重合体も使用することができ、具体的にはメタブレンA−3800(三菱レイヨン社製)が挙げられる。
【0031】
ポリテトラフルオロエチレンの含有量が少なすぎると、添加量に見合う難燃性の発現が不十分であり、逆に多すぎても、ポリカーボネート樹脂成形品の外観や機械的強度が低下するばあいがある。よって本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物におけるポリテトラフルオロオレフィン樹脂の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、5重量部以下、中でも2重量部以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物やこれを含む樹脂成形体を、光線反射板等の用途に使用する場合には、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に、無機フィラーとして酸化チタンを含有させることが好ましい。本発明に使用される酸化チタンとしては、従来公知の任意のものを使用できる。酸化チタンの粒子径は、小さすぎると遮光性及び光反射率が不充分となる場合があり、逆に大きすぎても、成形品表面の肌荒れを生じたり、衝撃強度が低下する場合がある。よって酸化チタンの粒子径は通常、0.05μm以上、中でも0.1μm以上、特に0.15μm以上であることが好ましく、その上限は0.5μm以下、中でも0.35μm以下である。
【0033】
本発明に使用される酸化チタンの製造方法は、塩素法、硫酸法等の、従来公知の任意の製造方法によって得られたものを使用できる。中でも白度が優れていることから、塩素法で製造されたものが好ましい。また酸化チタンの結晶形態も、ルチル型、アナターゼ型のいずれも用いることが出来、特に制限はないが、中でも白度、光線反射率、及び耐候性の点で優れていることから、ルチル型の酸化チタンが好ましい。
【0034】
また本発明に使用される酸化チタンは、分散性向上等を目的として、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物による表面処理がなされていてもよい。但し、無機酸化物により表面処理された酸化チタンを用いると、その表面に存在する吸着水によって、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物やこれを含む樹脂成形品の外観性低下や燃焼時のドリッピング等を生ずる場合がある。よって本発明に使用される酸化チタンとしては、表面処理剤として、吸水性の低いアルミナ、ジルコニア等を用いるか、表面処理に用いる無機酸化物の量を低減するか、もしくは表面処理がなされていないものを用いることが好ましい。
【0035】
また本発明に使用される酸化チタンは、有機化合物により表面処理されているものが好ましい。表面処理に用いる有機化合物としては、有機シラン化合物や有機シロキサン化合物が好ましく、特にアルコキシ基、エポキシ基、アミノ基、又はSi−H結合を有する有機シラン化合物や、有機シリコーン化合物が好ましい。具体的には例えば、ハイドロジェンポリシロキサン(Si−H結合を有するシリコーン化合物)が挙げられる。この様な有機化合物の使用量としては、酸化チタンに対して1重量部以上、中でも1.5重量部以上であることが好ましく、その上限は5重量%以下、中でも3重量%であることが好ましい。
【0036】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における酸化チタンの含有量(表面処理剤の量を含む)は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると光線反射性が不十分となり、逆に多すぎても樹脂成形品とした際の機械的強度が低下する場合がある。よって酸化チタンの含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して5重量部以上、中でも7重量部以上、特に10重量部以上であることが好ましく、その上限は50重量部以下、中でも30重量部以下、特に25重量部以下であることが好ましい。
【0037】
本発明には、繊維状充填材を用いることが出来る。繊維状充填材としては例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維等の無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維等の各種有機合成繊維等が挙げられ、これらを単独又は二種以上を任意の割合で組み合わせて使用できる。中でも無機繊維を用いることが好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
【0038】
繊維状充填材の平均繊維径は特に制限されず、適宜選択して決定すればよいが、通常、1μm以上、中でも3μm以上、特に5μm以上であることが好ましく、その上限は100μm以下、中でも50μm以下、更には30μm以下、特に20μm以下であることが好ましい。また平均繊維長も特に限定されず、適宜選択して決定すればよいが、通常、0.1mm以上であることが好ましく、その上限は20mm以下、特に10mm以下であることが好ましい。
【0039】
繊維状充填材としては、樹脂成分との界面密着性を向上させるために、収束剤又は表面処理剤(例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物等)、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物により表面処理されていることが好ましい。この表面処理は、ポリカーボネート樹脂等との混合、混練前に予め行われていても、または混合、混練中に表面処理剤を添加して行ってもよい。
【0040】
本発明における繊維状充填材の含有量は、少なすぎてもその充填効果が小さく、逆に多すぎても難燃性ポリカーボネート樹脂成形体の外観が低下する場合がある。よってその含有量は、本発明に用いるポリカーボネート樹脂100重量部に対して、1重量部以上、30重量部以下であることが好ましい。
【0041】
本発明に使用される蛍光増白剤は、樹脂成形体を明るく見せるため、成形体に加えられる染・顔料であり、成形体の黄色味を消し、明るさを増加させる添加剤である。この点では、ブルーイング剤と似ているが、ブルーイング剤が黄色光を除去するのに対して、蛍光増白剤は紫外線を吸収し、そのエネルギーを可視部青紫色の光線に変えて放射する点で異なっている。
【0042】
一般的にはクマリン系、ナフトトリアゾリルスチルベン系、ベンズオキサゾール系、ベンズイミダゾール系、およびジアミノスチルベン−ジスルホネート系などの蛍光増白剤が使用される。市販品としては、ハッコールPSR(ハッコールケミカル社製)、HOSTALUX KCB(ヘキスト社製)、WHITEFLOUR PSN CONC(住友化学社製)等が使用される。本発明における蛍光増白剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005重量部以上、0.1重量部以下の範囲が好ましい。
【0043】
本発明に使用される紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、ヒンダードアミン系等が挙げられる。紫外線吸収剤を配合することにより耐候性を向上させることができる。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0044】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0045】
サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤としては、フェニルサルチレート、2−4−ジターシャリーブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。ヒンダードアミン系紫外線吸収剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等が挙げられる。
【0046】
紫外線吸収剤としては、上記以外に紫外線の保有するエネルギーを、分子内で振動エネルギーに変換し、その振動エネルギーを、熱エネルギー等として放出する機能を有する化合物が含まれる。さらに、酸化防止剤あるいは着色剤等との併用で効果を発現するもの、あるいはクエンチャーと呼ばれる、光エネルギー変換剤的に作用する光安定剤等も併用することができる。
【0047】
本発明における紫外線吸収剤の含有量は、少なすぎると樹脂成形品の耐侯性が不十分となり、逆に多すぎても樹脂成形体の黄味が強くなり調色性が低下したり、またブリードアウトが生ずる場合がある。よってその含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01重量部以上、中でも0.05重量部以上、特に0.1重量部以上であることが好ましく、その上限は2重量部以下、中でも1.8重量部以下、特に1.5重量部以下であることが好ましい。
【0048】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は任意であり、従来公知の製造方法を使用できる。例えば、ポリカーボネート樹脂と、部分フッ素化スルホン酸金属塩、さらに必要により配合される他の添加剤や繊維状充填材等を一括混合し、溶融混練する方法や、これらのうち繊維状充填材以外を予め混合し、溶融混練した後に、これに繊維状充填材を添加し更に溶融混練する製造方法等が挙げられる。
【0049】
各成分を混合、混練する方法としては、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸または二軸スクリュー押出機、コニーダーなど、従来公知の任意のものを使用できる。また混合、混練温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲で適宜選択して決定すればよい。
【0050】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、各種成形体の成形材料として使用できる。適用できる成形方法は、熱可塑性樹脂の成形に適用できる方法をそのまま適用することができ、射出成形法、押出成形法、中空成形法、回転成形法、圧縮成形法、差圧成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。
本発明の成形体は、難燃性である上、機械的強度、耐熱性、熱安定性などが優れているので、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野、建材分野をはじめ、その他の広い分野において極めて有用である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。尚、以下の例において使用した原材料は次の通りである。
【0052】
・ポリカーボネート樹脂(PC−1):「ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート、ユーピロン(登録商標)S−3000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、粘度平均分子量21000。」
・金属塩1:「2−トリフルオロメチルベンゼンスルホン酸カリウム」、フッ素化率43%。
・金属塩2:「2,4−ジフルオロベンゼンスルホン酸カリウム」、フッ素化率40%。・金属塩3:「4,4’−ジフルオロビフェニルスルホン酸カリウム」、フッ素化率22%。
・金属塩4:「パーフルオロブタンスルホン酸カリウム」、フッ素化率100%。
・安定剤:「アデカスタブ2112 旭電化工業社製」
・ポリテトラフルオロエチレン(PTFE):「ポリフロンF−201L ダイキン社製」
・オリゴマー:「カーボネートオリゴマーAL−071 三菱ガス化学社製」
・酸化チタン:「メチルハイドロジェンポリシロキサン表面処理酸化チタンPC−5 レジノカラー社製。」
・GF:「ガラスファイバー FT−737 旭ファイバー社製」
・離型剤:「ポリエチレンワックス PE520 日本油脂社製」
【0053】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、金属塩1を0.0784部、安定剤0.03重量部を添加し、ヘンシェルミキサーにて900回転にて10分攪拌した後、取り出してさらにPTFEを0.3重量部添加し、タンブラーにて10分間混合した。得られた混合物をシリンダー温度300℃の二軸押出機にて押し出しペレット化した。得られたペレットを射出成形機にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件下にて1.6mmのUL−94燃焼試験片を成形した。射出成形サイクルは40秒とした。得られた燃焼試験片にて垂直燃焼試験を実施した。
【0054】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物における熱安定性を測定すべく、上述の射出成形サイクルを延長して180秒とし、より熱履歴の掛かる滞留成形品を成形し、その分子量を測定した。尚、射出成形サイクル以外の製造条件は、上述と同様の条件とした。
結果を表−1に示す。
【0055】
(実施例2〜4、比較例1)
表1に示す処方にて、実施例1と同様に試験片を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例5)
ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、金属塩1を0.127部を添加し、ヘンシェルミキサーにて900回転にて10分攪拌した後、取り出してさらにPTFEを0.3重量部、オリゴマー14.5重量部、離型剤0.5重量部を添加しタンブラーにて9分間混合した。その後、GFを添加し1分間混合した。
【0057】
その混合物を300℃のシリンダー温度の単軸押出機にて押し出してペレット化した。
そのペレットを射出成形機にて280℃のシリンダー温度、80℃の金型温度にて1.6mmのUL−94燃焼試験片を成形した。射出成形サイクルは40秒とした。燃焼試験片にて垂直燃焼試験を実施した。結果を表2に示す。
【0058】
(実施例6、7、比較例2)
実施例5と同様の方法にて表2の処方にて評価を実施した。結果を表2に示す。
【0059】
(実施例8、9、比較例3)
酸化チタン14.5重量部を更に添加した以外は実施例5と同様に行い、評価した。結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
実施例1〜4と比較例1とを比較すると、本発明のポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを含む樹脂成形体は、難燃剤の含有量が少なくても、より短い燃焼時間での燃焼試験1.6mmでV−0を達成できるという、所望の難燃性を確保できることが判る。
また一般的に滞留成形を行うと、難燃剤等の分解によりポリカーボネート樹脂が分解され、分子量の大幅な低下が問題となる場合があるが、本発明においては難燃剤の含有量を抑えることで、ポリカーボネート樹脂ペレットの分子量及び滞留成形品の分子量低下も抑制でき、ポリカーボネート樹脂としての特性を保持でき、優れた性質を有するものであることが判る。
【0063】
一方、ガラス繊維を添加したポリカーボネート樹脂組成物である実施例5〜7と比較例2とを比較しても、また酸化チタンを添加したポリカーボネート樹脂組成物である実施例8、9と比較例3とを比較しても、本発明のポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを含む樹脂成形体は、より短い燃焼時間での燃焼試験1.6mmでV−0を達成できるという、所望の難燃性を確保できることが判る。そして難燃剤の含有量を抑えることで、ポリカーボネート樹脂ペレットの分子量低下が抑制できることから、ポリカーボネート樹脂としての特性を保持でき、優れた性質を有するものであることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化率が50%以下である炭化水素基を有するスルホン酸金属塩を含むことを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
炭化水素基がアルキル基又はアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
フッ素化率が50%以下である炭化水素基を有するスルホン酸金属塩の含有量が、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜1重量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
更に、ポリカーボネート樹脂100重量部に対してポリテトラフルオロオレフィン樹脂を0.1〜5重量部含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
更に、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して酸化チタンを5〜50重量部含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
更に、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して繊維状充填材を1〜30重量部含有
することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組
成物。
【請求項7】
繊維状充填材がガラス繊維であることを特徴とする請求項6に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を含む難燃性ポリカーボネート樹脂成形体。

【公開番号】特開2011−74402(P2011−74402A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10620(P2011−10620)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【分割の表示】特願2005−175042(P2005−175042)の分割
【原出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】