説明

難燃性ポリカーボネート樹脂組成物

【構成】ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、疎水性ゼオライト(B)0.1〜10重量部、ポリオルガノ水素シロキサン(C)および/または反応性官能基を有するカップリング剤(D)0.0001〜1重量部、有機金属塩化合物(E)0.01〜1重量部および繊維形成型の含フッ素ポリマー(F)0.05〜2重量部を配合してなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、およびこれを成形してなる成形品。
【効果】本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、ハロゲンやリンなどを含有する従来の難燃剤を使用することがないため、燃焼時に当該難燃剤に起因するガスの発生の懸念もなく、安全・環境面への配慮からも優れている。さらに、機械物性等にも極めて優れているため、種々難燃性工業部品材料として好適に使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性のポリカーボネート樹脂組成物に関し、より詳細には、ポリカーボネート樹脂に対し、疎水性ゼオライト、ポリオルガノ水素シロキサンおよび/または反応性官能基を有するカップリング剤、有機金属塩化合物および繊維形成型の含フッ素ポリマーを特定量配合することにより、ハロゲンやリンを含有する従来の難燃剤を使用することなく優れた難燃性を示す難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気・電子・OA、機械、自動車、建材等の分野で広く使用されている。このうち電気・電子・OAの分野では、パーソナルコンピュータ、コピー機、ファックス等製品の外装部品のように高度な難燃性(UL94V)や耐衝撃性を要求される部品が少なくない。ポリカーボネート樹脂は、自己消火性を備えた難燃性の高いプラスチック材料ではあるが、電気・電子・OA分野では安全上の要求を満たすため、UL94V−0相当の一層高い難燃性が求められている。
【0003】
そこで、ポリカーボネート樹脂の難燃性を向上するために、従来、難燃剤としてハロゲン系化合物やリン系化合物を配合する方法が種々提案され、採用されている。
これら難燃剤の中で、とりわけ臭素や塩素等のハロゲン系化合物については、環境面からこれらを含有しない難燃剤の使用が望まれている。
【0004】
従来ハロゲンやリン系難燃剤を用いず、環境面を配慮した難燃性ポリカーボネート樹脂にあっては、シリコーン系化合物を用いる難燃化手法が種々提唱され、実用化されてきた。(特許文献1〜4)
【0005】
【特許文献1】特開2003−147189号公報
【特許文献2】特開2004−131581号公報
【特許文献3】特開2004−143410号公報
【特許文献4】特開2004−250616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハロゲン、リンまたはシリコーン系化合物からなる難燃剤を使用せずとも、優れた難燃性を示すポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。また、ハロゲンやリンを含有しないため、安全・環境面への配慮からも望ましく、各種難燃性工業部品材料として好適に使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ポリカーボネート樹脂に対し、疎水性ゼオライト、ポリオルガノ水素シロキサンおよび/または反応性官能基を有するカップリング剤、有機金属塩化合物並びに繊維形成型の含フッ素ポリマーを特定量配合することにより、ハロゲンやリンなどを含有する従来の難燃剤を使用することなく、優れた難燃性をもたらす組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、疎水性ゼオライト(B)0.1〜10重量部、ポリオルガノ水素シロキサンおよび/または反応性官能基を有するカップリング剤(D)0.0001〜1重量部、有機金属塩化合物(E)0.01〜1重量部および繊維形成型の含フッ素ポリマー(F)0.05〜2重量部を配合してなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびこれを成形してなる成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、ハロゲンやリンなどを含有する従来の難燃剤を使用することがないため、燃焼時に当該難燃剤に起因するガスの発生の懸念もなく、安全・環境面への配慮からも優れている。さらに、機械物性等にも極めて優れているため、種々難燃性工業部品材料として好適に使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0011】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0012】
これらは、単独又は2種類以上混合して使用されるが、ハロゲンで置換されていない方が燃焼時に懸念される当該ハロゲンを含むガスの環境への排出防止の面から好ましい。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0013】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。
3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン及び2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、通常10000〜100000、好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは17000〜24000である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0015】
本発明にて用いられる疎水性ゼオライト(B)としては、SiO2 /Al23 モル比が40以上であるハイシリカゼオライトが好適に使用できる。より好適な、SiO2 /Al23 モル比は、100〜1000の範囲である。これは通常の、SiO2 /Al23 モル比が1〜10前後である親水性ゼオライトとは異なり、SiO2 成分が多いため、結晶の組成や構造の微妙な変化が生じ疎水性となる。その結果、水分子が吸着されにくくなり、逆に有機物との親和性が増す。かくして、疎水性ゼオライトは水と有機物の混合系内で、気相でも液相でも有機物に対し、選択的な吸着力を示す。疎水性ゼオライトとしては、米国UOP社製の「アブセンツ」、スウェーデン・エカ ノーベル アクチェボラーグ社の「ZSM−5」、東ソー社製の「HSZシリーズ」等が市販されており、容易に入手可能である。疎水性ゼオライトの最大細孔径は5〜8オングストローム 程度が好ましい。5オングストローム 未満では目的とする吸着されるガスの分子径より小さいので、これらが有効に吸着されず、また8オングストローム を越えると、これら物質が脱着され易くなり、難燃性の低下をもたらす場合がある。
【0016】
疎水性ゼオライト(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜10重量部である。配合量が0.1重量部未満の場合は、難燃効果に乏しくなるので好ましくない。また、配合量が10重量部を超えると、樹脂組成物の衝撃強度が低下するばかりでなく、コスト的にも不利となり、経済性が大きく損なわれるので好ましくない。より好適には、0.5〜7重量部、さらに好適には0.3〜2重量部の範囲である。
【0017】
本発明にて使用されるポリオルガノ水素シロキサン(C)としては、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシクロシロキサン等が挙げられ、とりわけ下記一般式(1)〜(3)構成単位から選択された化合物が好ましい。
一般式(1)
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、Rは脂肪族不飽和を含まない一価の炭化水素基、
aは1.00〜2.10、
bは0.1〜1.0、
(a+b)は2.00〜2.67である。)
【0020】
一般式(2)
【0021】
【化2】

【0022】
一般式(3)
【0023】
【化3】

【0024】
(一般式(3)中の、A、B、nは、一般式(2)に示すものと同一である。)
【0025】
上記一般式(1)〜(3)以外のポリオルガノ水素シロキサンを使用すると、高温下での溶融混練時にポリカーボネート樹脂(A)の分子量低下がみられたり、成形加工時に多量のガスの発生や成形品へのシルバーストリーク等が発生することがある。
【0026】
ポリオルガノ水素シロキサン(C)は、そのままの状態で直接、(A)、(B)、(D)、(E)、(F)成分等の混合物に配合することも可能である。また、これら成分に配合する前に、本発明の疎水性ゼオライト(B)を一旦ポリオルガノ水素シロキサン(C)で表面処理した後、これを(A)、(D)、(E)、(F)成分に配合してもよい。
【0027】
前記の表面処理の方法としては、湿式、乾式いずれの方法を用いても良い。湿式法としては、ポリオルガノ水素シロキサン(C)と低沸点溶媒との混合溶液に本発明の疎水性ゼオライト(B)を添加し、これを攪拌後、脱溶媒処理を行う方法等が挙げられる。その後、さらに120〜200℃の温度で熱処理しても良い。乾式法としては、ポリオルガノ水素シロキサン(C)と疎水性ゼオライト(B)をスーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、V型タンブラー等の混合装置により混合攪拌処理する方法等が挙げられる。この際に、120〜200℃の温度条件で熱処理しても良い。
【0028】
本発明にて使用される反応性官能基を有するカップリング剤(D)としては、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
【0029】
反応性官能基を有するカップリング剤(D)として特に好ましいのは、有機シラン系化合物(シランカップリング剤)であり、その具体例としては、ガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、ベータ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、ガンマ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、ガンマ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ガンマ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、ガンマ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、ガンマ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、ガンマ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、ガンマ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、ガンマ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、ガンマ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、ガンマ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、ガンマ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、ガンマ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、ガンマ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物、ガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、N−ベータ−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−ガンマ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等の炭素・炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。特に、アミノ基含有アルコキシシラン化合物やフェニル基含有アルコキシシラン化合物が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種類以上を併用して用いても良い。
【0030】
これらシランカップリング剤での疎水性ゼオライト(B)の処理は、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒中、あるいはこれらの混合溶媒中でシランカップリング剤を疎水性ゼオライト(B)に吸着させる方法か、ヘンシェルミキサー等の高速攪拌混合機の中に疎水性ゼオライト(B)を添加し、攪拌しながらシランカップリング剤あるいは有機溶媒を含む水溶液の形で滴下して吸着させる方法、さらには疎水性ゼオライト(B)に直接シランカップリング剤を添加して、乳鉢等で混合して吸着させることによる方法のどれを用いても良い。疎水性ゼオライト(B)をシランカップリング剤で処理する場合には、シランカップリング剤のアルコキシ基の加水分解を促進するために水、酸性水、アルカリ性水等を同時に混合するのが好ましい。この場合、シランカップリング剤の反応効率を高めるため、メタノールやエタノール等の水およびシランカップリング剤の両方を溶解する有機溶媒を混合してもかまわない。このようなシランカップリング剤で処理した疎水性ゼオライト(B)を熱処理することによってさらに反応を促進させることも可能である。なお、予め疎水性ゼオライト(B)のカップリング剤での処理を行わずに、疎水性ゼオライト(B)と当該成分以外の成分を溶融混練する際に、これらカップリング剤を添加するいわゆるインテグラルブレンド法を用いてもよい。
【0031】
ポリオルガノ水素シロキサン(C)および/または反応性官能基を有するカップリング剤(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.0001〜1重量部である。配合量が0.0001重量部未満の場合には、ポリカーボネート樹脂(A)の分解が起こり、好ましくない。また、配合量が1重量部を超えると、成形時にガスやシルバーストリークが発生し、やはりトラブルの原因となるので好ましくない。より好適には0.001〜0.5重量部、さらに好適には0.01〜0.1重量部の範囲である。本発明においては、ポリオルガノ水素シロキサン(C)と反応性官能基を有するカップリング剤(D)の両方を併用してもよい。
【0032】
本発明の有機金属塩化合物(E)としては、芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩があげられる。金属の種類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。好適には、4−メチル−N−(4−メチルフェニル)スルフォニル−ベンゼンスルフォンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3−3′−ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩等が使用できる。
【0033】
有機金属塩化合物(E)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜1重量部である。より好適な配合量は0.02〜0.5重量部、さらに好ましくは0.05〜0.2重量部の範囲である。配合量が0.01重量部未満では、難燃性についての相乗効果が得られにくいため難燃性が低下するので好ましくない。また、1重量部を超えると、樹脂組成物の熱安定性が悪化するため、衝撃強度や難燃性が得られなかったり表面外観が悪化したりするといった問題が発生するので、好ましくない。
【0034】
本発明にて使用される繊維形成型の含フッ素ポリマー(F)としては、ポリカーボネート樹脂(A)中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成するものがよく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、等)、米国特許第4379910号に示される様な部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。とりわけ、分子量1000000以上で二次粒子径100μm以上のフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好適に使用される。
【0035】
繊維形成型の含フッ素ポリマー(F)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.05〜2重量部である。配合量が0.05重量部未満では、難燃性についての相乗効果が得られにくく、かつ燃焼時のドリッピング防止効果に劣るので好ましくない。また、2重量部を超えると造粒が困難となることから安定生産に支障をきたすので好ましくない。好適な配合量は、0.1〜1重量部、より好ましくは0.3〜0.5重量部の範囲である。この範囲では、難燃性、成形性のバランスが一層良好となる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂(A)に対し、上記の疎水性ゼオライト(B)、ポリオルガノ水素シロキサン(C)および/または反応性官能基を有するカップリング剤(D)、有機金属塩化合物(E)ならびに繊維形成型の含フッ素ポリマー(F)をそれぞれ単独で配合するのみでは、十分な難燃性を示さない。すなわち、ポリカーボネート樹脂(A)に対し、疎水性ゼオライト(B)、ポリオルガノ水素シロキサン(C)および/または反応性官能基を有するカップリング剤(D)、有機金属塩化合物(E)並びに繊維形成型の含フッ素ポリマー(F)を同時に配合することにより、これらの相乗的効果が得られる。すなわち、ポリカーボネート樹脂(A)の熱分解が十分抑制され、かつドリッピングを生じず自己消火性で、さらには安全・環境面への影響にも十分配慮された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することが可能となるのである。
【0037】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の熱安定剤、酸化防止剤、着色剤、蛍光増白剤、離型剤、軟化材、帯電防止剤、展着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)等の添加剤、衝撃性改良材、他のポリマーを配合してもよい。
【0038】
本発明の難燃性樹脂組成物中の各種配合成分の混合方法には、特に制限はなく、公知の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー等による混合や一軸または二軸押出機による溶融混練が可能である。
【0039】
本発明の難燃性樹脂組成物を成形する方法としては、特に制限はなく、公知の射出成形法、射出・圧縮成形法等を用いることができる。
【0040】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。尚、「部」は重量基準に基づく。
【実施例】
【0041】
表1および表2に示す配合成分、配合量に基づき、タンブラーを用いて各種配合成分を混合し、37mm径の二軸押出機(神戸製鋼社製KTX−37)を用いて、シリンダー温度280℃にて溶融混練し、各種ペレットを得た。
【0042】
使用した配合成分は、それぞれ次のとおりである。
(A)ポリカーボネート樹脂(以下、PCと略記)
住友ダウ社製カリバー200−20(粘度平均分子量19000)
(B)疎水性ゼオライト(以下、ZEOと略記)
UOP社製疎水性ゼオライト・アブセンツ3000(吸着孔径:6オングストロ
ーム )
(C)ポリオルガノ水素シロキサン(以下、SiHと略記)
信越化学工業社製KF99
(D)シランカップリング剤(以下、SiCと略記)
東レ・ダウコーニング・シリコーン社製
フェニルメトキシシラン・AZ6207
(E)有機金属塩化合物(以下、金属塩と略記)
パラトルエンスルホン酸ナトリウム
(F)繊維形成型の含フッ素ポリマー(以下、PTFEと略記)
ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業社製ポリフロンFA−500)
【0043】
なお、SiCを用いる実験例では、SiCにてあらかじめZEOの表面処理を下記のとおり施した。(得られた処理ZEOを、以下、表面処理ZEOと略記)
(ア)120gのSiCを水またはアルコール水溶液(水/イソプロピルアルコール
=1/9)で2〜5倍に希釈して、均一になるまで攪拌する。
(イ)6KgのZEOを川田製作所製20Lスーパーミキサーに仕込み、攪拌する。
(ウ)攪拌されているZEOに、(ア)で調整したSiC水溶液全量を数十分かけ
て滴下する。
(エ)さらに10分間攪拌を続ける。
(オ)得られた表面処理ZEOをトレーに均一に広げ、150℃で1時間乾燥する。
(注:SiCの添加量は、PC100部に対して0.02部)
【0044】
得られた各種ペレットを125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100SAIIを用いて溶融温度:300℃の条件下、UL94試験法に基づく難燃性評価用試験片(1.2mm厚み)ならびにASTM試験法に基づくアイゾット衝撃強度用試験片(厚み:3.2mm)を成形し、各評価を行った。
【0045】
(燃焼試験)
UL94に準じて1.2mm厚みの試験片で難燃性(自己消火性)を測定した。該試験片を温度23℃湿度50%の恒温室の中で48時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価を行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、以下のクラスに分けられる。
V−0 V−1 V−2
各試料の 10秒以下 30秒以下 30秒以下
残炎時間
5試料の 50秒以下 250秒以下 250秒以下
全残炎時間
ドリップによ なし なし あり
る綿の着火
上に示す残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。評価の基準は、1.2mm厚さの試験においてV−0を合格とした。
各種組成物の測定結果を表1および表2に示す。
【0046】
(ノッチ付きアイゾット衝撃強度)
ASTM D256に準拠し、アイゾット衝撃強度を測定した。測定温度は23℃である。衝撃値が5Kg・cm/cm以上を合格とした。各種組成物の測定結果を表1および表2に示す。
【0047】
(メルトフローレイト(以下、MFRと略記))
ASTM D1238に準拠し、東洋精機社製のセミオートMFRテスターを用いて、300℃/1.2Kgfの条件下、各種組成物のMFRを測定した。
MFR値が、30以下を合格とした。各種組成物の測定結果を表1および表2に示す。(注:MFR値が大きくなることは、ポリカーボネート樹脂の分解が進むことを意味する。)
【0048】
表1 配合成分の組成と評価結果
【0049】
【表1】

○:合格 ×:不合格
【0050】
表2 配合成分の組成と評価結果
【0051】
【表2】

○:合格 ×:不合格
NR:No Ratingの略。(どの難燃クラスにも当てはまらない)
【0052】
表1のとおり、本発明の構成要件を全て満足する場合(実施例1〜6)にあっては、全ての評価項目にわたりその規格を満足していた。
【0053】
しかしながら、表2で示したとおり、本発明の構成要件を満足しない場合(比較例1〜3)においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1は、本発明の疎水性ゼオライト(B)成分の配合量が規定範囲の下限を下回っているため、難燃性が規格を満足しなかった。
比較例2は、本発明の疎水性ゼオライト(B)成分の配合量が規定範囲の上限を超えているため、難燃性も衝撃強度も規格を満足しなかった。
比較例3は、本発明のポリオルガノ水素シロキサン(C)成分が規定範囲の下限を下回っているため、難燃性、衝撃強度、MFR値ともに不合格となった。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、疎水性ゼオライト(B)0.1〜10重量部、ポリオルガノ水素シロキサン(C)および/または反応性官能基を有するカップリング剤(D)0.0001〜1重量部、有機金属塩化合物(E)0.01〜1重量部および繊維形成型の含フッ素ポリマー(F)0.05〜2重量部を配合してなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
反応性官能基を有するカップリング剤(D)が、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物から選択される一種または二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
有機金属塩化合物(E)が、芳香族スルホン酸の金属塩またはパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩であることを特徴とする請求項1記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。




【公開番号】特開2006−182857(P2006−182857A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375984(P2004−375984)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(396001175)住友ダウ株式会社 (215)
【Fターム(参考)】