説明

難燃性ポリトリメチレンテレフタレート、その組成物、および難燃性ポリトリメチレンテレフタレート繊維の製造方法

【課題】有機リン化合物を共重合した、難燃性を有する繊維として好適な難燃性ポリトリメチレンテレフタレート、およびそれを用いた難燃性ポリトリメチレンテレフタレート繊維を提供すること。
【解決手段】(A)主たる繰返し単位がトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルであり、特定の有機リン化合物が、ポリエステル中のリン原子含有量として1.0〜2.0重量%となる量で共重合されており、また、ポリトリメチレンテレフタレートの重縮合触媒が、特定のチタン化合物であり、かつ該チタン化合物が、ポリトリメチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分に対し、30〜300mmol%の範囲で含有されており、さらに、固有粘度が0.50〜1.00dL/gの範囲にある難燃性ポリトリメチレンテレフタレート、また、この(A)成分に通常の(B)ポリトリメチレンテレフタレートを配合した難燃性ポリトリメチレンテレフタレート組成物、さらに、この組成物を溶融紡糸・延伸する難燃性ポリトリメチレンテレフタレート繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーテン、カーペットなどの室内装飾用繊維、かつらなどの人工毛髪用繊維、カーシートなどの車両内装材などに使用される産業資材用繊維として好適な、難燃性ポリトリメチレンテレフタレート、その組成物、さらにはこの組成物を用いてなる難燃性ポリエステル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的特性に優れるため、繊維、フィルム、成型品などの分野で幅広く用いられている。その中で、従来のポリエチレンテレフタレートでは実現が難しい風合や染色性を発現させるべく、ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維およびそれからなる織編物が注目されている。
【0003】
近年、火災予防の観点から、合成繊維の難燃化に対する要請は高くなってきているが、ポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル繊維の難燃性能は十分とはいえず、そのためポリエステル繊維に難燃性能を付与すべく様々な改良が行われてきた。 一般に、繊維製品の難燃化には、紡糸時に無機化合物、有機ハロゲン化合物、ハロゲン含有有機リン化合物、有機リン化合物などの難燃剤を練り込む方法が採用されているが、ポリエステルへの練り込み時に難燃剤の反応劣化、繊維物性の低下、高温下での使用の際のブリードアウトなどの問題がある。また、含ハロゲン化合物の使用は、優秀な難燃性能を付与できる反面、燃焼時に人体に有害な物質を発生するという問題を有しており、車内内装材などの部材としての使用は好ましくない。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、ポリマーに難燃剤を混合するのではなく、それ自身が分子中に難燃成分を有するポリマーを使用する方法が採用できる。中でも、有機リン化合物をポリエステルの重合反応時に共重合する方法が非常に有効であり、多用されている(例えば、特許文献1〜7参照)。 しかしながら、有機リン化合物によりポリエステルの重合触媒活性が抑制されるため、溶融重合および固相重合反応速度が著しく低下するため高重合度のポリマーを得ることが困難である。そこで、溶融重合に引き続いて固相重合することで高重合度のポリマーを製造する方法が一般的である。しかしながら、有機リン化合物を共重合したポリエステルは固相重合速度も遅く、かつ融点も下がっているため固相重合温度を低く設定せざるを得ない。従って、固相重合に長時間を要し、ポリエステルの色調が悪化したり、製造コストが上がるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−35495号公報
【特許文献2】特開2004−232172号公報
【特許文献3】特開2006−96804号公報
【特許文献4】特開2007−145727号公報
【特許文献5】特公昭55−41610号公報
【特許文献6】特開昭50−56488号公報
【特許文献7】特開平6−287414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、有機リン化合物を共重合した、難燃性を有する繊維として好適な難燃性ポリトリメチレンテレフタレート、およびそれを用いた難燃性ポリトリメチレンテレフタレート繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、主たる繰返し単位がトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルであり、下記一般式(I)で表される有機リン化合物が、ポリエステル中のリン元素含有量として1.0〜2.0重量%となる量で共重合されており、また、ポリトリメチレンテレフタレートの重縮合触媒が、下記一般式(II)で示されるチタン化合物、もしくは該チタン化合物と、下記一般式(III)で表される芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物とを反応させた生成物であり、かつ該チタン化合物が、ポリトリメチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分に対し、30〜300mmol%の範囲で含有されており、さらに、固有粘度(o−クロロフェノール溶液中、35℃で測定)が0.50〜1.00dL/gの範囲にあることを特徴とする難燃性ポリトリメチレンテレフタレートに関する。
【0008】
【化1】

【0009】
(上記式中、Xは0〜2の整数、Yは1〜4の整数を示す)
Ti(OR)
(II)
(上記式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基および/またはフェニル基を示す。)
【0010】
【化2】

【0011】
(上記式中、qは2〜4の整数を示す)
次に、本発明は、(A)上記難燃性ポリトリメチレンテレフタレート(以下「(A)難燃性ポリエステル」ともいう)と、(B)固有粘度(o−クロロフェノール溶液中、35℃で測定)が0.9〜1.5dL/gのポリトリメチレンテレフタレート(以下「(B)ポリエステル」ともいう)を主成分とするブレンド物であって、ブレンド後のリン元素含有量が0.4〜0.9重量%である、難燃性ポリトリメチレンテレフタレート組成物(以下「難燃性ポリエステル組成物」ともいう)に関する。
次に、本発明は、上記難燃性ポリトリメチレンテレフタレート組成物を、紡糸口金温度250〜280℃、紡糸速度400〜5,000m/分で溶融紡糸し、得られた未延伸糸を延伸することを特徴とする難燃性ポリトリメチレンテレフタレート繊維(以下「難燃性ポリエステル繊維」ともいう)の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機リン化合物を共重合した、難燃性ポリトリメチレンテレフタレート、その組成物、およびそれからなる繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(A)難燃性ポリトリメチレンテレフタレート
本発明の(A)難燃性ポリトリメチレンテレフタレートは、主たる繰返し単位をトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルであり、上記一般式(I)で表される有機リン化合物が、ポリエステル中のリン元素含有量として1.0〜2.0重量%となる量で共重合されており、また、ポリトリメチレンテレフタレートの重縮合触媒が、上記一般式(II)で表されるチタン化合物、もしくは該チタン化合物と、上記一般式(III)で表される芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物とを反応させた生成物であり、かつ該チタン化合物が、ポリトリメチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分に対し、30〜300mmol%の範囲で含有されており、さらに、固有粘度(o−クロロフェノール溶液中、35℃で測定)が0.50〜1.00dL/gの範囲にある。
【0014】
ここで、本発明に用いられる(A)難燃性ポリエステルは、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。このポリエステルは、トリメチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリトリメチレンテレフタレートであってもよい。上記第3成分(共重合成分)は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分のいずれでもよい。
ここで、「主たる」とは、全繰返し単位中、90モル%以上であることを表す。
第3成分として好ましく用いられる成分としては、ジカルボン酸成分として、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸もしくはフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸もしくはデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸など、また、グリコール成分としてエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンなどが例示され、これらは単独または二種以上を使用することができる。
本発明に用いる(A)難燃性ポリエステルの製造方法については特に限定はなく、テレフタル酸をトリメチレングリコールと直接エステル化させた後重合させる方法、テレフタル酸のエステル形成性誘導体をトリメチレングリコールとエステル交換反応させた後重合させる方法のいずれを採用しても良い。
【0015】
有機リン化合物:
ここで、(A)難燃性ポリエステルに用いられる有機リン化合物としては、上記一般式(I)で表される。
上記の一般式(I)で表される有機リン化合物の具体例としては、下記式(a)〜(c)で表される化合物が挙げられる。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】


【0018】
【化5】

【0019】
これらの中でも、有機リン化合物の安定性、リン原子含有量の高さ、重合反応性、繊維製造工程の有機リン化合物の揮発・飛散の少なさ、繊維物性への影響等を総合的に判断すると、式(a)および(b)で示される化合物が好ましい。
【0020】
有機リン化合物の含有量: 本発明の(A)難燃性ポリエステルは、ポリエステル中のリン元素の含有量が1.0〜2.0重量%となる量で共重合されていることが必要である。有機リン化合物の共重合量が1.0重量%未満の場合、通常の(B)ポリトリメチレンテレフタレートとブレンドした後のポリエステルの重合度が低くなってしまい、そのため得られる繊維の強度が低下するため好ましくない。一方、2.0重量%より多い場合は、ポリエステルの溶融重合時の重合反応性が著しく低下するため、重合度を上げることが困難となるため、ブレンド後に得られる繊維の強度が低下するため好ましくない。 (A)成分中の有機リン化合物の共重合量は、好ましくはリン元素含有量として1.5〜1.8重量%である。
【0021】
重合触媒種:
本発明の(A)難燃性ポリトリメチレンテレフタレートの重合触媒として使用するチタン化合物は、触媒起因の異物低減の点からポリマーに可溶なものであれば特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物である上記一般式(II)で表されるテトラアルコキシチタン、例えばテトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキスヘキシルオキシチタンなどのほか、これらチタン化合物と、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸などの上記一般式(III)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物などが好ましく挙げられる。これらの中でも、テトラ−n−ブトキシチタンが好ましい。
【0022】
重合触媒量: 本発明における(A)難燃性ポリトリメチレンテレフタレートには、ポリマー中に可溶なチタン化合物を全ジカルボン酸成分に対して、チタン金属元素として30〜300mmolモル%含有する必要がある。上記チタン金属元素が30mmol%未満では、ポリエステルの重縮合反応速度が遅くなり、目標の分子量のポリエステルが得られない。一方、300mmol%を超えると、重縮合反応での副反応などの影響で、得られるポリマーの色相が悪化すると共に、ポリマーの熱安定性が低下し繊維成型時の分子量低下が大きくなり、さらに得られる繊維の耐光性が悪化するため好ましくない。チタン金属濃度は、50〜200mmol%の範囲が好ましく、100〜150mmol%の範囲がさらに好ましい。本発明におけるチタン金属元素の適正範囲は、通常のポリトリメチレンテレフタレートで使用されるチタン系金属触媒量よりも多いことが特徴的であるが、難燃剤として大量の有機リン化合物を添加するため、通常のポリトリメチレンテレフタレートと比較して重合反応性に劣るため、使用するチタン化合物量を上記の範囲とする必要がある。
【0023】
固有粘度:
本発明における(A)難燃性ポリエステルの固有粘度(溶媒:オルソクロロフェノール、測定温度:35℃)は、0.50〜1.00dL/g、好ましくは0.6〜0.8dL/gの範囲である。固有粘度が0.50dL/g未満である場合、ブレンド後のポリエステルの重合度が低くなり、得られる難燃性ポリエステル繊維の強度が不足するので好ましくない。一方、1.00dL/gを超えると、ポリエステルの色相が著しく悪化すると共に、固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
ここで、(A)難燃性ポリエステルの固有粘度は、溶融重合装置の攪拌機駆動電力値などにより、容易に調整することができる。
【0024】
(A)難燃性ポリエステルの製造方法:
本発明における(A)難燃性ポリエステルの製造は特に限定されず、通常、知られているポリエステルの製造方法が用いられる。すなわち、テレフタル酸と1,3−プロパンジオールを直接重縮合反応させる、あるいはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸のエステル形成性誘導体と1,3−プロバンジオールとをエステル交換反応させて低重合体を製造する。この際、ジオール成分の一部を上記一般式(I)で表される有機リン化合物に置き換える。次いで、この反応性生物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることにより製造される。
【0025】
その他の添加剤:
なお、本発明における(A)難燃性ポリエステルには、必要に応じて少量の添加剤、例えば酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤または艶消し剤などを含んでいても良い。特に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、艶消し剤などが、特に好ましく添加される。
【0026】
(B)ポリエステル
(B)ポリエステルは、(A)難燃性ポリエステルの製造において、上記一般式(I)で表される有機リン化合物を共重合させない以外は、該(A)難燃性ポリエステルと同様の繰り返し構造単位を有するポリエステルであって、かつ該(A)難燃性ポリエステルと同様にして製造することができる。すなわち、(B)ポリエステルは、一般式(I)で表される有機リン化合物を共重合しない通常のトリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。
また、この(B)ポリエステルには、(A)難燃性ポリエステルと同様のその他の添加剤を配合することができる。
【0027】
(B)ポリエステルの固有粘度(溶媒:オルソクロロフェノール、測定温度:35℃)は、0.9〜1.5dL/g、好ましくは1.1〜1.5dL/gである。(B)ポリエステルの固有粘度が0.9dL/g未満では、ポリエステル(A)とポリエステル(B)を溶融混練して得られるポリエステル繊維の強度などの物性が低下するため好ましくない。一方、1.5dL/gを超えると、ポリエステルの溶融粘度が著しく上昇するため、溶融紡糸が困難になる。さらに、1.5dL/g以上にするためには多大なエネルギーを必要とするため、コストアップに繋がり好ましくない。
(B)ポリエステルの固有粘度は、例えば溶融重合装置の攪拌機駆動電力値などにより、容易に調整することができる。
【0028】
難燃性ポリエステル組成物の調製
本発明の難燃性ポリエステル組成物の製造方法は、(A)難燃性ポリエステルからなるチップと、通常の(B)ポリエステルからなるチップを溶融混練することが好ましい。
ここで、溶融混練方法については特に限定はないが、例えば(A)成分と(B)成分とをチップ状態で乾燥機などの中でブレンドした後、溶融押出機などを用いて溶融混練する方法、(A)成分からなるチップと(B)成分からなるチップをそれぞれ別の溶融押出機を用いて溶融後に混練する方法、(B)成分からなるチップを溶融押出機、あるいはバッチ式の溶融釜の中で溶融させた後に、(A)成分からなるチップを供給して溶融混練する方法などが挙げられる。
ここで、本発明の難燃性ポリエステル組成物の調製に際しては、乾燥した(A)難燃性ポリエステルからなるチップと、乾燥した(B)ポリエステルからなるチップを混合した後、直接、溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸してもよい。
なお、難燃性ポリエステル組成物の調製において、(A)成分と(B)成分との溶融混練温度は、通常、250〜280℃、好ましくは250〜270℃である。
【0029】
また、(A)成分と(B)成分の配合割合は、(A)成分と(B)成分の合計を100重量%として、以下に示すように難燃性ポリエステル組成物中のリン元素含有量が所定の含有量範囲になるように配合することが好ましい。より具体的には、(A)成分/(B)成分の重量比率で0.25/1〜9.0/1であることが好ましい。
【0030】
得られる本発明の難燃性ポリエステル組成物中のリン元素含有量は、0.4〜0.9重量%、好ましくは0.6〜0.9重量%である。0.4重量%未満では、難燃性が劣り、また0.6重量%未満では、ある程度の難燃性は付与できるが、難燃素材としての必要十分な難燃性能を達成することが困難である。一方、0.9重量%を超えると、得られるポリエステル繊維の強度などの物性が著しく低下するため好ましくない。
本発明の難燃性ポリエステル組成物中のリン含有量は、一般式(I)で表される有機リン化合物の(A)成分中の共重合量や、(A)成分と(B)成分の配合割合により、容易に調整することができる。
【0031】
難燃性ポリエステル繊維の製造
本発明における難燃性ポリエステル繊維の製造方法は、特に厳密な制限はなく、2種類のポリエステルをブレンドして紡糸する従来公知の方法が採用される。すなわち、乾燥した(A)難燃性ポリエステルからなるチップと、乾燥した(B)ポリエステルからなるチップを混合した後、250℃〜280℃、好ましくは260〜270℃の範囲で溶融紡糸するとともに、溶融紡糸の引き取り速度は400〜5,000m/分で紡糸する。
紡糸速度がこの範囲にあると、得られる繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻き取ることができる。また、本発明の難燃性ポリエステル繊維は、その引っ張り強度が1.8cN/dtex以上であることが好ましい。さらに好ましくは、2.0cN/dtex以上である。そのためには、上述した方法にて巻き取られた未延伸糸を、好ましくは延伸倍率1.2倍〜6.0倍で延伸する。この延伸は、未延伸ポリエステル繊維を一旦巻き取ってからでもよく、一旦巻き取ることなく連続的に実施しても良い。また、紡糸使用する口金の形状についても特に制限は無い。
なお、溶融紡糸に供される難燃性ポリエステル組成物は、あらかじめ上記のように、(A)成分と(B)成分を溶融混練りしてチップ化したものを用いてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の分析項目などは、下記記載の方法により測定した。
(ア)固有粘度(dL/g)
ポリエステル(組成物)チップを常圧沸騰温度(98℃)、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
(イ)ポリエステル中のリン元素濃度
蛍光X線(リガク電機工業(株)社製 ZSX100e)を用いて測定を行った。
(ウ)繊維物性
JIS L−1013に準拠して万能試験機(島津製作所製 オートグラフDSS−500)を用いて測定した。
(エ)難燃性(接炎回数)
ポリエステル繊維を筒編み地とし、JIS L−1091 A−1(45°ミクロバーナー法)にて5個の試料についての点火試験を実施し平均値を求めた。接炎回数が5回以上を可とした。
(オ)耐光性
相対湿度=50%、63℃の条件下で、カーボンフェードを80時間照射し、照射前後の強度維持率を下記式にて求めた。
強度維持率=[(照射後強度)/(照射前強度)]×100(%)
強度維持率が95%以上を可とした。
【0033】
[実施例1]
(A)難燃性ポリエステル(難燃性PTT)の製造
テレフタル酸ジメチル100重量部、1,3−プロパンジオール50重量部およびME−100(三光(株)製、構造式は、上記「化1」で、X=1,Y=2となる化学構造であり、上記「化3」の式(a)に相当する化学構造である)の濃度が50重量%に調整された50%濃度のME−100/1,3−プロパンジオール溶液55重量部の混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート0.24重量部(ポリエステルを構成する全酸成分に対して150mmol%相当)を、攪拌機、精留塔およびメタノール溜出コンデンサーを設けた反応機に仕込み、140℃から210℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に溜出させながらエステル交換反応を実施した。エステル交換反応終了後、二酸化チタン0.3重量部を艶消し剤として添加した後、該反応液を攪拌装置、窒素導入口、減圧口、および蒸留装置を備えた反応容器に移し、265℃まで昇温し、常圧から70Pa以下の高真空化に圧力を下げながら重縮合反応を実施した。攪拌電力が所定電力に到達した時点で重縮合反応を終了させ、常法に従ってチップ化した。
【0034】
(B)ポリエステル(PTT)の製造
テレフタル酸ジメチル100重量部と1,3−プロパンジオール70.5重量部の混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート0.048重量部を、攪拌機、精留塔およびメタノール溜出コンデンサーを設けた反応機に仕込み、140℃から210℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に溜出させながらエステル交換反応を実施した。エステル交換反応終了後、二酸化チタン0.3重量部を艶消し剤として添加した後、該反応液を攪拌装置、窒素導入口、減圧口、および蒸留装置を備えた反応容器に移し、265℃まで昇温し、常圧から70Pa以下の高真空化に圧力を下げながら重縮合反応を実施した。攪拌電力が所定電力に到達した時点で重縮合反応を終了させ、常法に従ってチップ化した。
【0035】
ポリエステル繊維の製造
(A)難燃性ポリエステルと(B)ポリエステルのチップを常法に従い乾燥させた後、表1記載の比率で連続的に押出機に供給し、紡糸温度265℃で溶融紡糸して(紡糸速度:1,500m/分)、未延伸糸を得た後、定法に従い延伸を実施して(延伸温度:70℃、延伸倍率:2.8倍)、54dtex/24フィラメントのポリエステル糸を得た。得られたポリエステル糸を用いて筒編みを作成し、70℃、20分間の精錬により油剤を除去した後、前述の方法で糸物性、難燃性および耐光性の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0036】
[実施例2〜5、比較例1〜8]
実施例1において、(A)難燃性ポリエステルの製造方法、および(A)難燃性ポリエステルと(B)ポリエステルの混合比率を変更したこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0037】
[参考例1](チタン化合物と芳香族多価カルボン酸の酸無水物の反応生成物であるポリエステル重縮合触媒の合成)
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2重量%)にテトラ−n−ブトキシチタンを無水トリメリット酸1モルに対して0.5モルになるように添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応させた。その後、常温に冷却し、得られた固形部物を10倍量のアセトンによって再結晶処理を行った。再結晶処理による析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。これをチタン触媒Aとする。
【0038】
[実施例6]
実施例1において、(A)難燃性ポリエステルの製造時に使用する重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.24重量部(ポリエステルを構成する全酸成分に対して150mmol%相当)用いる代わりに、参考例1で製造したチタン触媒Aを、ポリエステルを構成する全酸成分に対して150mmol%相当になるように用いる他は、実施例1と同様の操作にて難燃性PTTを製造した。また、この難燃性PTTを用いて実施例1と同様の操作にてポリエステル繊維を製造した。結果を表1に示した。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により得られる難燃性ポリトリメチレンテレフタレート繊維は、カーテン、カーペットなどの室内装飾用繊維、かつらなどの人工毛髪用繊維、カーシートなどの車両内装材などに使用される産業資材用繊維として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰返し単位がトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルであり、下記一般式(I)で表される有機リン化合物が、ポリエステル中のリン元素含有量として1.0〜2.0重量%となる量で共重合されており、また、ポリトリメチレンテレフタレートの重縮合触媒が、下記一般式(II)で示されるチタン化合物、もしくは該チタン化合物と、下記一般式(III)で表される芳香族多価カルボン酸またはその酸無水物とを反応させた生成物であり、かつ該チタン化合物が、ポリトリメチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分に対し、30〜300mmol%の範囲で含有されており、さらに、固有粘度(o−クロロフェノール溶液中、35℃で測定)が0.50〜1.00dL/gの範囲にあることを特徴とする難燃性ポリトリメチレンテレフタレート。
【化1】

(上記式中、Xは0〜2の整数、Yは1〜4の整数を示す)

Ti(OR)
(II)
(上記式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基および/またはフェニル基を示す。)
【化2】

(上記式中、qは2〜4の整数を示す)
【請求項2】
(A)請求項1記載の難燃性ポリトリメチレンテレフタレートと、(B)固有粘度(o−クロロフェノール溶液中、35℃で測定)が0.9〜1.5dL/gのポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするブレンド物であって、ブレンド後のリン元素含有量が0.4〜0.9重量%である、難燃性ポリトリメチレンテレフタレート組成物。
【請求項3】
請求項2記載の難燃性ポリトリメチレンテレフタレート組成物を、紡糸口金温度250〜280℃、紡糸速度400〜5,000m/分で溶融紡糸し、得られた未延伸糸を延伸することを特徴とする難燃性ポリトリメチレンテレフタレート繊維の製造方法。



【公開番号】特開2010−100773(P2010−100773A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275332(P2008−275332)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(302071162)ソロテックス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】