説明

難燃性形状記憶樹脂組成物及びその前駆体組成物

【課題】形状記憶性が良好で、かつ、難燃性や実用物性に優れる、形状記憶樹脂組成物およびその前駆体組成物を提供する。
【解決手段】上記課題は、少なくとも2個の官能基を有するホスファゼン化合物と、該ホスファゼン化合物の官能基と結合可能な官能基を2個以上有するリンカーを含有する形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物であって、該ホスファゼン化合物の含有量が、該前駆体組成物中の形状記憶樹脂前駆体、ホスファゼン化合物およびリンカーの合計に対して10質量%以上とすること、さらに該前駆体組成物を硬化成形することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性や実用物性に優れる形状記憶樹脂組成物及びその前駆体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
形状記憶性を示す材料として従来から合金材料と樹脂材料があり、形状記憶合金はパイプ継手や歯列矯正などに、また、形状記憶樹脂は熱収縮チューブ、締め付けピン、ラミネート材、ギブス等の医療用器具材などに利用されている。形状記憶樹脂は形状記憶合金に比べ、複雑な形状に加工できる、形状回復率が大きい、軽量である、自由に着色できる、低コストである等のメリットがあり、今後は、家電製品やOA機器のハウジングや自動車部品、航空機部品、宇宙開発用部品などへの適用が期待されている。また、形状記憶樹脂としては、熱硬化性樹脂が共有結合による3次元架橋構造を有するため、初期形状の記憶性や変形形状の復元性において優れている。また、植物由来樹脂であるポリ乳酸などをベース樹脂として用いたものは、環境特性においても優れている(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、形状記憶樹脂組成物を家電製品やOA機器のハウジングや上述の各種部品などのような、高度な難燃性を要求される用途に使用する場合は、難燃化が必要である。特に、電気製品の筐体に使用する場合には、該形状記憶樹脂組成物はアメリカのUL規格をはじめとする難燃規格を満足する必要がある。しかし、既存の形状記憶樹脂組成物は、前記の難燃規格を満足することはできなかった。
【0004】
これに対して、一般的な方法として、難燃化効率の高い臭素化合物などのハロゲン系難燃剤やリン系の難燃剤など有機系の難燃剤を形状記憶樹脂に配合して難燃化する方法がある(非特許文献1)。しかし、これらの難燃剤を大量に添加した場合、これらの難燃剤自体は形状記憶性を有さず、形状記憶性、特に復元性が阻害されることになる。即ち、形状記憶樹脂の復元性は、樹脂中の架橋構造により初期の形状を記憶しているために実現されるものであるが、架橋に関与しない難燃剤を大量に添加した樹脂組成物は、この記憶が弱められているため復元性が阻害される(非特許文献2)。
【0005】
一方、無機水酸化物系化合物(金属水和物とも呼ばれ、水酸化アルミニウムが含まれる)、シリカ系化合物、三酸化アンチモンなどの無機系難燃剤を添加する方法もある(非特許文献1)。しかし、無機系難燃剤は難燃効果が弱く、有機系難燃剤に比して大量に添加する必要があり、形状記憶樹脂組成物は剛性が上がり過ぎて変形操作が困難になるなど、形状記憶性を阻害することになる。
【0006】
リン系化合物であるホスファゼン化合物を難燃剤として利用する例(特許文献3、4)もあるが、添加剤であることから形状記憶樹脂の特性を損なうことになる。また、ブリードや揮発することを懸念して、二重結合を有するホスファゼン誘導体を難燃剤成分として樹脂に結合し固定化する例(特許文献5)や水酸基を有するホスファゼン誘導体を感光性樹脂組成物の樹脂に結合し固定化する例(特許文献6)があるものの、形状記憶樹脂へ添加剤としての利用例はなく、やはり形状記憶樹脂の特性を損なうと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2005/056642
【特許文献2】WO2009/063943
【特許文献3】特開2006−249139号公報
【特許文献4】特開2006−193619号公報
【特許文献5】WO2004/083295
【特許文献6】WO2005/019231
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高分子の難燃化技術(株式会社CMC出版刊行、西沢仁監修、2002年出版、3章など)
【非特許文献2】形状記憶ポリマーの材料開発(株式会社CMC出版刊行、入江正浩監修、2000年出版、1章など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の技術的課題は、難燃性や実用物性に優れる、形状記憶樹脂組成物およびその前駆体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上から、本発明者らは、形状記憶樹脂の特性を損なわない難燃剤を含む形状記憶樹脂組成物およびその前駆体組成物を開発すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、少なくとも2個の官能基を有するホスファゼン化合物(A)と、該ホスファゼン化合物(A)の官能基と結合可能な官能基を2個以上有するリンカー(B)を含有する形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物であって、
該ホスファゼン化合物(A)の含有量が、該前駆体組成物中の形状記憶樹脂前駆体、ホスファゼン化合物(A)およびリンカー(B)の合計に対して10質量%以上である形状記憶樹脂の前駆体組成物
である。
【0012】
なお、前記ホスファゼン化合物(A)は、環状フェニルホスファゼン化合物であることが好ましい。また、前記ホスファゼン化合物(A)の官能基が水酸基であり、前記リンカー(B)の官能基がイソシアネート基またはエポキシ基であることが好ましい。そして、前記リンカー(B)はイソシアヌル環を有するポリイソシアナート化合物であることが好ましい。
【0013】
更に、本発明は、上記前駆体組成物を硬化してなる形状記憶樹脂組成物および成形物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物は、硬化により難燃剤を共有結合による三次元架橋で樹脂成分中に固定するため、難燃剤がブリードや揮発することがなく、かつ、硬化して得られた成形物は復元性に優れており、形状回復機能や変形操作性を阻害することがないので、難燃性が要求される電子機器等の筐体や自動車部品の製造に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明は、形状記憶樹脂組成物の形状記憶性に問題のない難燃化にかかるものである。すなわち、該形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物は少なくとも2個の官能基を有するホスファゼン化合物(A)および該官能基と結合する官能基を2個以上有するリンカー(B)を含むことを特徴とする。なお、形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物中、ホスファゼン化合物(A)は、該前駆体組成物中の形状記憶樹脂前駆体、ホスファゼン化合物(A)およびリンカー(B)の合計の10質量%以上である。
【0017】
本発明で使用するホスファゼン化合物(A)は、難燃性を有する化合物であると共に、架橋部位となる官能基を複数、少なくとも2個有し、この官能基を起点として三次元構造を構成しうるものである。なお、三次元構造はリンカー(B)を介して形成される。そして、該ホスファゼン化合物(A)自体が、他の形状記憶樹脂前駆体がなくとも、リンカー(B)と共に形状記憶樹脂を形成しうる。したがって、該前駆体組成物には、ホスファゼン化合物(A)以外の形状記憶樹脂前駆体がなくてもよい。
【0018】
ホスファゼン化合物(A)の官能基は、付加反応、縮合反応、共重合反応のいずれによっても架橋を形成するものであってよい。しかし、三次元構造を構成するためには、ホスファゼン化合物(A)およびリンカー(B)はそれぞれ官能基を複数有していることが必要であり、何れか一方は3個以上の官能基を有する必要がある。ただし、上記架橋部位となる官能基が、アミノ(NH2)基のごとく分岐構造を形成することが可能であれば、2個であっても三次元構造を形成可能であるので、それぞれ2個以上あればよい。
【0019】
かかる官能基としては、具体的には、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、シアネート基、アミノ基、イミノ基、カルバモイル基、スクシンイミノ基、エポキシ基等を挙げることができ、組み合わせとしてアミド結合やウレタン結合を形成するものが好ましい。これらのうち活性水素を有するヒドロキシ基は、リンカー(B)がポリカルボン酸、ポリイソシアネート等である場合は、ホスファゼン化合物(A)の官能基として、特に、好ましい。
【0020】
形状記憶性を発現するためには、ホスファゼン化合物(A)は環状構造をとっていることが好ましく、さらに6員環構造をとっていることがより好ましい。また、難燃性が良好となることから、ホスファゼン化合物(A)は、フェニル基を有していることが好ましい。したがって、ホスファゼン化合物(A)として、環状フェニルホスファゼン化合物が特に好ましい。
【0021】
また、ホスファゼン化合物(A)の官能基の数は、少なくとも2個であるが、多すぎるとリンカー(B)が多くなり、難燃性および形状記憶性を低下させるため、好ましくは5個以下であり、更に好ましくは4個以下、特に好ましくは3個以下である。
【0022】
難燃剤を添加した形状記憶樹脂組成物中のホスファゼン化合物(A)の添加割合は、多い方が高い難燃性を得ることができ、難燃性を目的とするときは該前駆体組成物中の形状記憶樹脂前駆体、ホスファゼン化合物(A)およびリンカー(B)の合計に対して10質量%以上、好ましくは、45質量%以上である。
【0023】
ホスファゼン化合物(A)の好ましい例を構造式(1)に示した。
【0024】
【化1】

式(1)中、Rは、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、シアネート基、アミノ基、イミノ基、カルバモイル基、スクシンイミノ基、エポキシ基などの官能基を表し、そのうち少なくとも2つは官能基である。
【0025】
本発明の、三次元構造体を形成するためのリンカー(B)としては、ホスファゼン化合物(A)の官能基と結合する少なくとも2つの官能基を有するものである。ホスファゼン化合物(A)の官能基が2つで、かつ分岐構造を形成しないものである場合、リンカーの官能基が2つであるときはその官能基は分岐構造を形成することができるものであることが必要であり、リンカー(B)の官能基が分岐構造を形成しないものであるときはリンカー(B)の官能基は3つ以上有することが必要である。しかし、ホスファゼン化合物(A)の官能基が3つ以上の場合や、官能基が2つあっても分岐構造を形成するものである場合、リンカー(B)は官能基を少なくとも2つ有していればよい。リンカー(B)も形状記憶樹脂において可逆相を形成するものであることが好ましい。
【0026】
かかるリンカー(B)としては、ホスファゼン化合物(A)が有する官能基により適宜選択できるが、例えば、ホスファゼン化合物(A)の官能基がヒドロキシ基であるとき、それに容易に結合するイソシアネート基を官能基とするポリイソシアネートを好ましいものとして挙げることができる。
【0027】
なお、ポリイソシアネートとしては、具体的には、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、リジンジイソシアナート(LDI)、リジントリイソシアネート(LTI)等を挙げることができる。特に、アミノ酸誘導可能なLDIやLTIは、天然物由来のリンカーであり、好ましい。また、これらイソシアナートは、カルボジイミド変性やイソシアヌル化(3量化)したもの(イソシアヌレート化合物)であってもよい。さらに、芳香族骨格を持つMDIや環状骨格を持つイソシアヌレート化合物は、高い難燃性を有するため、好ましい。
【0028】
リンカー(B)としてポリイソシアネート化合物を用いるときは、その使用量は、例えば、ホスファゼン化合物(A)の官能基中の活性水素に対し、イソシアナネート基を0.5当量から1.5当量の範囲とすることが好ましい。
【0029】
ホスファゼン化合物(A)の架橋は、ホスファゼン化合物(A)の官能基がリンカーを介して結合し、三次元構造体を形成する。架橋部位の官能基の結合部分が形状記憶樹脂における固定相となり、架橋部位間のホスファゼン化合物(A)が可逆相となる。
【0030】
本発明において、ホスファゼン化合物(A)と共に用いられる形状記憶樹脂前駆体は、通常形状記憶樹脂の製造に用いられる樹脂であれば、特に構造を限定されないが、優れた形状記憶特性をもつことから、共有結合による三次元架橋構造を有するものが望ましい。
【0031】
本発明では、難燃剤が形状記憶樹脂中に高分散し、優れた難燃性と形状記憶性を発現させることから、形状記憶樹脂前駆体の架橋処理後に難燃剤を混合するのではなく、形状記憶樹脂形成中に難燃剤を架橋構造として形成することが望ましい。また、さらに難燃剤の均一性や分散性を高めるためには、ホスファゼン化合物(A)と共に使用される形状記憶樹脂前駆体の官能基が、ホスファゼン化合物(A)が有する官能基と同じあることが望ましい。具体的には、特許文献1に開示されている形状記憶樹脂の場合、複数のフラン基を有する前駆体を、マレイミド基を有するリンカーで架橋することにより、形状記憶樹脂を構成しているが、本発明のホスファゼン化合物(A)が複数のフラン基を有し、同じリンカーを用いて架橋する場合、均一かつ一体となった3次元架橋構造を得ることができ、高い難燃性と形状記憶性を得ることができる。また、特許文献2に開示されている形状記憶樹脂の場合、複数の水酸基を有する前駆体を、イソシアネート基を有するリンカーで架橋することにより、形状記憶樹脂を構成しているが、本発明のホスファゼン化合物(A)が複数の水酸基を有し、同じリンカーを用いて架橋する場合、やはり均一かつ一体となった3次元架橋構造を得ることができ、高い難燃性と形状記憶性を得ることができる。
【0032】
ホスファゼン化合物と共に用いる形状記憶樹脂前駆体は、環境特性を考慮すると、植物由来の樹脂や生分解性をもつ樹脂であれば好ましい。この場合、本発明の難燃剤は、石油由来の化合物であるため、その添加量は少ない方が形状記憶樹脂としての植物由来度や生分解率は高くなる。したがって、ホスファゼン化合物(A)の添加量は、形状記憶樹脂前駆体、ホスファゼン化合物(A)およびリンカー(B)の合計に対して、55重量%以下が好ましく、更に好ましくは45重量%以下、特に好ましくは30重量%以下である。なお、この添加量は、上記の難燃性との兼ね合いで、決定される。
【0033】
形状記憶樹脂中でのホスファゼン化合物(A)の架橋は、触媒の有無や官能基の種類により要する時間が異なるが、ホスファゼン化合物(A)がポリヒドロキシホスファゼン化合物で、リンカー(B)がポリイソシアネートである場合、形状記憶樹脂またはその前駆体とホスファゼン化合物を溶融温度以上まで加熱し、リンカーとして用いるポリイソシアネート等と共に加熱混合することにより形成することができる。例えば150℃であれば、触媒を使用しない場合でも1時間程度で架橋することが可能であり、適切な触媒を選択すれば数分間で十分架橋することが可能である。
【0034】
本発明では、難燃性や形状記憶性を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート系樹脂、イソシアネート系樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、熱硬化型ポリアミド、スチリルピリジン系樹脂、ニトリル末端型樹脂、付加硬化型キノキサリン、付加硬化型ポリキノキサリン樹脂などの熱硬化性樹脂を併用することは可能である。
【0035】
また、本発明では、形状記憶性に影響の無い範囲であれば、ハロゲン系難燃剤、窒素系難燃剤、リン系難燃剤のような有機系難燃剤を添加することができる。窒素系難燃剤としては、メラミンやイソシアヌル酸化合物などが挙げられる。リン系難燃剤としては、赤燐、燐酸化合物、有機リン化合物などが挙げられる。
【0036】
同じく形状記憶性に影響の無い範囲であれば、金属水和物や三酸化アンチモンなどの無機系の難燃剤を添加することも可能である。このような無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム、水和石膏、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ砂、カオリンクレー、炭酸カルシウムなどが挙げられ、これらの表面をエポキシ樹脂やフェノール樹脂をはじめとする各種有機物で表面処理したもの、金属成分を固溶化させたものが好ましい。これらのうち、水酸化アルミニウムは吸熱効果が高く、難燃性に優れるので特に好ましい。
【0037】
さらに、形状記憶性に影響の無い範囲であれば、衝撃強度を向上させる手法として、高強度繊維を使用することができる。高強度繊維としては、アラミド繊維、ナイロン繊維などのポリアミド繊維;ポリアリレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維;超高強度ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などのポリオレフィン繊維;炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維などが挙げられる。
【0038】
また、耐衝撃性を改良するために、柔軟成分を使用することもできる。該柔軟成分として、公知の物質が使用可能であり、以下の物質などが例示できる。セグメントがポリエステル、ポリエーテルあるいはポリヒドロキシカルボン酸であるブロック共重合体、セグメントがポリ乳酸、芳香族ポリエステルおよびポリアルキレンエーテルであるブロック共重合物、セグメントがポリ乳酸およびポリカプロラクトンであるブロック共重合物、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を主成分とする重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリカブロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペートなどの脂肪族ポリエステル、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ポリグリセリン酢酸エステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化亜麻仁油脂肪酸ブチル、アジピン酸系脂肪族ポリエステル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルリシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アジピン酸ジアルキルエステル、アルキルフタリルアルキルグリコレートなどの可塑剤。
【0039】
必要に応じて触媒を用いてもよい。例えば、ヒドロキシ基とイソシアネート基の反応行う場合は、トリエチレンジアミン等の三級アミンやジブチル錫ジ(2エチルへキソエート)等の有機金属化合物などを用いることができる。ヒドロキシ基とエポキシ基の反応を行う場合は、トリフェニルホスフィンやイミダゾールなどを用いることができる。
【0040】
これらの組成物には、成形体の形状記憶性等の特性を損なわない範囲で、発泡剤や整泡剤、無機フィラー、有機フィラー、補強材、着色剤、安定剤(ラジカル捕捉剤、酸化防止剤等)、抗菌剤、防かび材、難燃剤、可塑剤、離型剤、耐衝撃性改良剤なども、必要に応じて含有させることができる。無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、砂、粘土、鉱滓等を挙げることができる。有機フィラーとしては、ポリアミド繊維や植物繊維等の有機繊維を挙げることができる。補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、針状無機物、繊維状フッ素樹脂等を挙げることができる。抗菌剤としては、銀イオン、銅イオン、これらを含有するゼオライト等を挙げることができる。
【0041】
以上の様な各種成分を含む形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物は、トランスファー成形法、注型成形法、圧縮成形、RIM成形、射出成形など熱硬化型樹脂に対して用いられる一般的な成形方法により、電化製品の筐体などの電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、農業用途、メガネ、補聴器、ギブス等、投票用紙等に成形することができる。
【0042】
本発明における前駆体組成物の各種配合成分の混合方法には、特に制限はなく、公知の混合機、たとえばタンブラー、リボンブレンダー、単軸や二軸の混練機等による混合や押出機、ロール等による溶融混合が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【0044】
ホスファゼン化合物は、特許文献6の合成例1〜5に開示された方法を基にジヒドロキシフェニルホスファゼン化合物(X)(組成式N33(OPh)3.92(OC64OH)2.08、水酸基当量350g/モル)を合成した。
【0045】
多官能ポリ乳酸化合物は、特許文献2の実施例1[末端ヒドロキシポリ乳酸の合成]に基づいて、ヘキサヒドロキシポリ乳酸(Y)(分子量:8400、水酸基当量1400g/モル)を合成した。
【0046】
リンカーは、市販されている3官能のイソシアヌレート化合物(Z)(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:デュラネートTPA−100、イソシアネート当量:181)をそのまま用いた。
【0047】
実施例1
2官能のジヒドロキシフェニルホスファゼン化合物(X)12gとヘキサヒドロキシポリ乳酸(Y)88gを180℃で溶融し、これに3官能のイソシアヌレート化合物(Z)18gをすばやく混合する。これを180℃の金型の中に流し込み、プレス成形(2時間)することにより、厚さ3.2mmおよび1mmの成形体を得た。
【0048】
〔難燃性の評価〕
厚さ3.2mmの成形体を用い、UL(Underwriter Laboratories)94規格の垂直燃焼試験に従い、難燃性を評価した。なお、難燃性の評価基準は表2に示した通りである。
【0049】
〔形状記憶性の評価〕
厚さ3.2mmの成形体を用いて、形状記憶性を評価した。
・変形保持性
成形体をTg+50℃で加熱し、成型体の中央で片側を30°持ち上げるように折り曲げて5秒間保持した後、そのままで常温まで冷却固定した。その後固定を外し、持ち上げた側が水平から持ち上がっている角度(A1)を下記基準で評価して、該試料の変形保持性とした。
○:A1が20°以上30°以下である。
△:A1が10°以上20°未満である。
×:A1が10°未満である。
【0050】
・復元性
上記変形保持性を測定した成形体を、圧をかけずに再びTg+50℃に加熱し、その後常温まで冷却し、持ち上げた角度(A1)がどの程度解消されたかを、持ち上げた側が持ち上がっている角度(A2)を測定し、下記基準で評価して、復元性とした。
×:A2が20°以上30°以下である。
△:A2が10°以上20°未満である。
○:A2が10°未満である。
【0051】
・Tg及び貯蔵弾性率の測定
厚さ1mmの成形体をセイコーインスツルメンツ社製の粘弾性測定装置「DMS−6100」(商品名)により、昇温速度:2℃/分、周波数:10Hz、引っ張りモードで、粘弾性を測定し、Tg及び20℃および(Tg+50℃)の貯蔵弾性率(E’)を求めた。なお、これらの温度における貯蔵弾性率の比も形状記憶性を示す指標であり、E’(20℃)/E’(Tg+50℃)の比が100倍を超えると優れた形状記憶性を持つといえる。
【0052】
実施例2〜6および比較例1〜2
表1に示すように配合量を変えた以外は、実施例1と同じように評価成形体を作成し、同様の評価を行った。
【0053】
上記実施例比較例の配合割合と評価結果を表1にまとめた。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

なお、上記の分類以外の燃焼形態をとる場合は、Notと分類した。ちなみに、難燃性が良好な順から悪い順に並べると、V−0、V−1、(V−2またはNOT)となる。
【0056】
比較例1に示した形状記憶樹脂組成物のポリオール成分であるヘキサヒドロキシポリ乳酸化合物(Y)を、ジヒドロキシフェニルホスファゼン化合物(X)で順次置換したものが、比較例2および実施例1〜6である。(X)の重量%が多くなるほど難燃性は向上する。即ち、(X)を10重量%以上含む場合、実施例1〜3に示したようにUL規格におけるV−1レベルになり、45重量%以上含む場合、V−0レベルとさらに高い難燃性が付与された。なお、比較例2では(X)を8重量%含むが、十分な難燃性が得られなかった。しかし、形状記憶性については、(X)の置換量に係わらず、これら実施例比較例では変形保持性と復元性を持つことが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の前駆体組成物は、電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、農業用途、玩具、娯楽用品の筐体原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の官能基を有するホスファゼン化合物(A)と、該ホスファゼン化合物(A)の官能基と結合可能な官能基を2個以上有するリンカー(B)を含有する形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物であって、
該ホスファゼン化合物(A)の含有量が、該前駆体組成物中の形状記憶樹脂前駆体、ホスファゼン化合物(A)およびリンカー(B)の合計に対して10質量%以上である形状記憶樹脂の前駆体組成物。
【請求項2】
前記ホスファゼン化合物(A)が環状フェニルホスファゼン化合物である請求項1記載の形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物。
【請求項3】
前記ホスファゼン化合物(A)の官能基が水酸基であり、リンカー(B)の官能基がイソシアネート基またはエポキシ基である請求項1または2記載の形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物。
【請求項4】
前記リンカー(B)がイソシアヌル基を有するポリイソシアネート化合物である請求項3記載の形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物を硬化して得られる形状記憶樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の形状記憶樹脂組成物の前駆体組成物を硬化して得られる形状記憶樹脂組成物からなる成形体。

【公開番号】特開2011−102357(P2011−102357A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257935(P2009−257935)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】