説明

難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法

【課題】表面処理剤としてカルボン酸エステルで処理された水酸化マグネシウムを難燃剤として用いた難燃性樹脂組成物において、該表面処理剤のブルーミングを抑制し、優れた一定の難燃性及び機械特性、並びに耐水性、耐炭酸ガス白化性を持つ難燃性樹脂組成物、その押出成形品及びそれを押出成形した被覆層を有する電線・ケーブルを得ることができる難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法を提供する。
【解決手段】樹脂(A)100重量部に対して、高級脂肪酸多価アルコールエステル、ジカルボン酸モノエステル又は高級脂肪酸アルキルエステルから選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤(a)で表面処理された水酸化マグネシウム(B)35〜110重量部を配合した難燃性樹脂組成物に、さらに炭酸カルシウム(C)10〜55重量部を配合することにより、難燃性樹脂組成物から表面処理剤のブルーミングを抑制することを特徴とする難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法により提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法に関し、更に詳しくは表面処理剤としてカルボン酸エステルで処理された水酸化マグネシウムを難燃剤として用いた難燃性樹脂組成物において、該表面処理剤のブルーミングを抑制し、優れた一定の難燃性及び機械特性、並びに耐水性、耐炭酸ガス白化性を持つ難燃性樹脂組成物、その押出成形品及びそれを押出成形した被覆層を有する電線・ケーブルを得ることができる難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂やゴムの難燃剤としては、ハロゲン含有化合物やこれとリン含有化合物等を組み合わせて使用するものが用いられてきたが、環境負荷や廃棄物処理の問題が提起され、安全な水酸化マグネシウムの使用が多く提案されている。
しかしながら、水酸化マグネシウムは、比較的多量に配合しなければ難燃性が得られず、しかも、オレフィン系樹脂等の樹脂と水酸化マグシウムの相溶性も悪く、得られる難燃性樹脂組成物中での水酸化マグネシウムの分散性や、耐水性にも問題があり、水酸化マグネシウムが水と空気中の炭酸ガスと反応すると、塩基性炭酸マグネシウムに白く変質する炭酸ガス白化の問題があった。そして、この難燃性樹脂組成物が押出成形品として電線・ケーブルの被覆層として使用されると電気特性の著しい低下を招くという問題があった。
【0003】
このために、水酸化マグネシウムを表面処理剤で処理することが行われている。表面処理剤としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、ワックス又はその変性物、硬化性樹脂、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等を挙げることができる(特許文献1、2、3参照。)。
また、特許文献4には、表面処理剤として多価アルコール高級脂肪酸エステル(又は高級脂肪酸多価アルコールエステル)で表面処理された表面処理水酸化マグネシウムが開示され、これと樹脂又はゴムからなる難燃性樹脂組成物は、機械特性と耐水性、耐炭酸ガス白化性を持ち、これらのバランスの調整が可能であることが記載されている。
さらに、特許文献5には、水酸化マグネシウムの表面処理剤としてジカルボン酸モノエステルの使用が耐水性を有し難燃性を付与できると、記載されている。
また、特許文献6には、ポリオレフィン系樹脂(官能基含有オレフィン重合体)、炭酸カルシウム及び無機難燃剤からなる、難燃性と耐炭酸ガス白化性の相反する性能を克服し、特に耐炭酸ガス白化性を改良した難燃性樹脂組成物が開示され、この中で、脂肪酸エステルで表面処理された水酸化マグネシウムは、易切れ性が良好であると、脂肪酸エステルで表面処理された水酸化マグネシウムの優れた特徴が記載されている。
さらに、特許文献7には、熱可塑性樹脂、金属水酸化物、酢酸塩或いは炭酸カルシウムからなる、有害な燃焼ガスの発生がなく、難燃性と機械的強度に優れた難燃性樹脂組成物も開示されている。
【0004】
これらの先行文献による従来技術では、カルボン酸エステルで表面処理された水酸化マグネシウムは、優れた耐水性、耐炭酸ガス白化性、易切れ性等の特徴を有するが、反面、表面処理剤であるカルボン酸エステルが、成形後その成形品の表面に浸出する、いわゆるブルーミングを生じることがあり、ブルーミングすれば、外観がブルーミング白化して汚くなるとともに、例えばこれによりシースを形成した電線を、半導体工場等で使用すると、環境中にカルボン酸エステルが浮遊する可能性があり、半導体製品の品質に悪影響を及ぼす懸念があり、これを抑える技術の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−100302号公報
【特許文献2】特開平5−17692号公報
【特許文献3】特開平7−161230号公報
【特許文献4】特開2005−54038号公報
【特許文献5】特開2005−179615号公報
【特許文献6】特開2005−213480号公報
【特許文献7】特開2000−219814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、樹脂と、カルボン酸エステルで表面処理された水酸化マグネシウムとからなる、優れた耐水性、耐炭酸ガス白化性を持つ難燃性樹脂組成物において、一定の難燃性及び機械特性を確保したまま、表面処理剤であるカルボン酸エステルのブルーミングを抑えることができ、この難燃性樹脂組成物、その押出成形品、及びそれを押出成形して得られた被覆層を有する電線・ケーブルを得ることができる難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、耐水性、耐炭酸ガス白化性、一定の難燃性及び機械特性を確保したまま、ブルーミングを抑える各種の添加剤を検討した結果、樹脂に対して、カルボン酸エステルで表面処理された水酸化マグネシウムと炭酸カルシウムとを特定割合で配合すると、ブルーミングが抑えられ、そして、耐水性、耐炭酸ガス白化性、一定の難燃性及び機械特性を確保できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、樹脂(A)100重量部に対して、高級脂肪酸多価アルコールエステル、ジカルボン酸モノエステル又は高級脂肪酸アルキルエステルから選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤(a)で表面処理された水酸化マグネシウム(B)35〜110重量部を配合した難燃性樹脂組成物に、さらに炭酸カルシウム(C)10〜55重量部を配合することにより、難燃性樹脂組成物から表面処理剤のブルーミングを抑制することを特徴とする難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法が提供される。
【0009】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、表面処理剤(a)による表面処理量は、0.5〜5.0質量%であることを特徴とする難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法が提供される。
【0010】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、樹脂(A)は、エチレン系樹脂であることを特徴とする難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、エチレン系樹脂は、直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、本発明は、樹脂と、特定のカルボン酸エステルで表面処理された水酸化マグネシウムを含む耐水性、耐炭酸ガス白化性に優れた難燃性樹脂組成物において、更に炭酸カルシウムを配合することで難燃性樹脂組成物のブルーミングを抑制する方法である。その表面処理剤としてのカルボン酸エステルは、樹脂と水酸化マグネシウムの間を介して優れた相溶性をもち、優れた分散性をもち、その結果、得られる難燃性樹脂組成物の機械特性も優れていて、押出成型性にも優れているのに加えて、更に、炭酸カルシウムが、これら上述の優れた作用効果を損なうことのないように配合されて、その作用機構は明確ではないが、炭酸カルシウムが表面処理剤を樹脂中に引きとめることにより、難燃性樹脂組成物は、その成形品の表面に表面処理剤のブルーミング・浸出を抑制するという優れた効果を有する。これにより、難燃性樹脂組成物の押出成形品及びそれを押出成形して得られた被覆層を有する電線・ケーブルも、優れた性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法について、各項目毎に詳細に説明する。
【0013】
1.樹脂(A)
本発明で使用される樹脂(A)としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
これらの中では、無極性あるいは弱い極性しか持たないオレフィン系樹脂が、より有意なブルーミング抑制の効果が得られ、好適に使用することができる。
【0014】
オレフィン系樹脂としては、エチレン系樹脂及びプロピレン系樹脂が挙げられ、本発明では、電線・ケーブルの絶縁被覆層として実績のあるエチレン系樹脂が、特に好適な樹脂として使用できる。
エチレン系樹脂としては、高圧法ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン(炭素数2〜12)共重合体、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン−カルボン酸ビニルエステル共重合体が挙げられ、具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体等を挙げることができる。
【0015】
本発明では、それ自体水酸化マグネシウムとの相溶性がある、メルトマスフローレート0.05〜50g/10分及びコモノマー含有量が5〜40重量%のエチレン−アクリル酸エチル共重合体又はエチレン−酢酸ビニル共重合体、並びにメルトマスフローレート0.05〜50g/10分及び密度0.86〜0.92g/cmの直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体を好適に使用することができる。
【0016】
プロピレン系樹脂としては、具体的にはプロピレンホモポリマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体等を例示できる。
【0017】
また、樹脂(A)として、いわゆるゴムと呼ばれるものも包含し、これも使用することができる。これには、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリルゴム、スチレン−エチレンープロピレンースチレンブロック共重合体、スチレン−エチレンーブタジエンースチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−スチレンブロック共重合体等を例示できる。
なお、樹脂は、1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
2.表面処理剤(a)で表面処理された水酸化マグネシウム(B)(以下、単に表面処理水酸化マグネシウムとも称する。)
本発明において、表面処理水酸化マグネシウム(B)は、水酸化マグネシウムの表面処理剤(a)としてカルボン酸エステルが使用される。カルボン酸エステルは、高級脂肪酸多価アルコールエステル、ジカルボン酸モノエステル又は高級脂肪酸アルキルエステルから選ばれた1種或いは2種以上である。
【0019】
本発明において、使用される高級脂肪酸多価アルコールエステル(又は多価アルコール高級脂肪酸エステル)を構成する多価アルコールとしては、トリメチロールエタン(3価)、グリセリン(3価)、トリメチロールプロパン(3価)、エリスリトール(4価)、ペンタエリスリトール(4価)等が挙げられる。多価アルコールの中では、グリセリンが好適に使用される。
【0020】
また、高級脂肪酸多価アルコールエステルを構成する高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18=)、リノール酸(C18=)、パルミチン酸(C16)、ミリスチン酸(C14)、ラウリン酸(C12)、カプリン酸(C10)、カプリル酸(C)、ベヘン酸(C22)、モンタン酸(C28)等が挙げられる。高級脂肪酸の中では、ステアリン酸が好適に使用される。
さらに、グリセリンステアリン酸エステルは、好適な高級脂肪酸多価アルコールエステルである。
【0021】
本発明において、高級脂肪酸多価アルコールエステルは、多価アルコールの全ての水酸基がエステル化されている必要はなく、部分的にエステル化したものを含む。エステル化率を、多価アルコールの複数の水酸基の中でエステル化がなされた基の%で表し、例えば、グリセリン−モノステアリン酸エステルのエステル化率は、33.3%となる。
本発明において使用される高級脂肪酸多価アルコールエステルのエステル化率は、40〜90%が望ましく、好ましくは50〜85%が望ましい。エステル化率が50%辺りにおいて、得られる表面処理水酸化マグネシウムを配合した樹脂組成物の機械特性、特に引張破壊応力が向上する。また、エステル化率が上がると、わずかに機械特性の低下が認められるが、実用上問題となるものではない。一方、エステル化率が上がるとともに、表面処理水酸化マグネシウムを配合した樹脂組成物の耐白化性が強まる。他方、特にエステル化率が40%未満の高級脂肪酸多価アルコールエステルを用いた場合、表面被覆しない水酸化マグネシウムの場合と比べては優れているが、耐白化性が劣り始める。
この様に、高級脂肪酸多価アルコールエステルのエステル化率を調整することにより、表面処理水酸化マグネシウムを配合した樹脂組成物に、所望の機械特性と耐白化性を付与することが可能である。
【0022】
本発明において使用されるジカルボン酸モノエステルは、次式で表され、カルボン酸残基が金属塩になっているものも含む。
【0023】
【化1】

【0024】
式中、Rは、炭素数8〜26の脂肪族炭化水素基を表し、Rは、炭素数3〜8の脂肪族ジカルボン酸から全てのカルボキシル基を除いた残基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、nは、Mが水素原子又はアルカリ金属の場合は1、及びMがアルカリ土類金属の場合は2を表す。
【0025】
本発明において使用されるジカルボン酸モノエステルを構成するジカルボン酸としては、炭素数3〜8の脂肪族ジカルボン酸又はその無水物が挙げられ、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸等が具体的に挙げられる。これらの中で、コハク酸、無水コハク酸が好ましい。
また、本発明において使用されるジカルボン酸モノエステルを構成する炭素数8〜26の脂肪族モノアルコール(又はモノオール)としては、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデニルアルコール、ラウリルアルコール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、エイコシルアルコール、ベヘニルアルコール、セリルアルコール等の飽和脂肪族アルコール、パルミトオレイルアルコール、オレイルアルコール、エイコソニルアルコール等の不飽和脂肪族アルコールが挙げられ、これらの中では、炭素数12〜22の飽和脂肪族アルコールが好ましい。
さらに、本発明において使用されるジカルボン酸モノエステルを構成するアルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等が挙げられる。
【0026】
本発明において使用されるジカルボン酸モノエステルは、例えば、上記ジカルボン酸及びアルコールを溶剤の存在下又は不存在下に常法によって調製できる。
本発明において使用されるジカルボン酸モノエステルとしては、コハク酸水素ステアリル、コハク酸水素セチル、コハク酸水素エイコシル、マロン酸水素ラウリル、コハク酸ステアリルナトリウム、ビス(コハク酸ステアリル)カルシウム等を挙げることができる。
【0027】
本発明においては、水酸化マグネシウムの表面処理剤として、高級脂肪酸アルキルエステルを使用することができる。高級脂肪酸アルキルエステルとしては、高級脂肪酸と脂肪族モノアルコール(モノオール)とのエステルが挙げられ、具体的には、ラウリン酸メチル、ミリチリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸エチル、ミリチリン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、エルカ酸エチル、ベヘニン酸エチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル等が挙がられる。
【0028】
また、本発明において、表面処理剤の、水酸化マグネシウムに対する表面処理量は、0.5〜5.0質量%が望ましく、好ましくは1.0〜4.0質量%、更に好ましくは1.5〜3.5質量%である。表面処理量が0.5質量%未満であると、水酸化マグネシウムの表面全体を覆うことが困難となり、その結果、表面処理水酸化マグネシウムを配合した樹脂組成物の機械特性、耐白化性のいずれもが低下し、一方、これが5.0質量%を超えると、水酸化マグネシウムの難燃剤として効果が低下するので好ましくない。
【0029】
本発明において使用される水酸化マグネシウムとしては、海水等から製造された合成水酸化マグネシウム及び天然産ブルーサイト鉱石を粉砕して製造された水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱石(以下、天然産水酸化マグネシウムとも称する。)のいずれも好適に用いることができ、その平均粒径は、分散性、難燃性の効果から40μm以下が好ましく、特に0.2〜6μmのものが好ましい。
耐白化性の観点からは、天然産水酸化マグネシウムが好ましい。天然産水酸化マグネシウムは、粉砕して平均粒径を調整している。この場合、合成水酸化マグネシウム程度まで粉砕すると、結晶系の破壊によるものと考えられているが、かえって耐白化性が劣るようになるので、天然産水酸化マグネシウムを使用する場合は、粒径が4μm以上の割合が50%以下(個数基準)で、かつ平均粒径が1.5μ〜6μmのものが、更に望ましい。
【0030】
本発明における表面処理水酸化マグネシウムは、公知の表面処理法で表面処理したものでよく、特に限定されない。
例えば、海水から製造する合成水酸化マグネシウムの場合、水溶液中で水酸化マグネシウムの結晶析出が行われるので、この水溶液中に所望量の表面処理剤を、必要ならばアルコール等の溶媒に希釈して配合し、析出後乾燥させて、カルボン酸エステルで表面処理された表面処理水酸化マグネシウムを製造することができる。
また、合成水酸化マグネシウム及び天然産水酸化マグネシウムとも、例えばカルボン酸エステルの有機溶媒液を加え混合するスラリー法を採用して製造することができる。
【0031】
更に、上述のいわゆる湿式法に加えて、以下に説明する乾式法で表面処理することもできる。
すでに、使用目的に応じた平均粒径を持つ合成水酸化マグネシウム又は天然産水酸化マグネシウムに、所望量のカルボン酸エステルを加え、これが溶融する温度以上、例えば70〜120℃に加熱しながら攪拌混合することにより、製造することができる。この場合は、コンティニュアスミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、スーパーミキサー、ボールミル等公知の混合機を用いればよい。
また、天然産水酸化マグネシウムの場合は、粉砕して使用するので、粗粉砕の天然産水酸化マグネシウムと所望量のカルボン酸エステルを、ボールミル等粉砕機に入れ、必要ならば外部からカルボン酸エステルが溶解する温度に加熱しながら、粉砕と同時に表面処理を行ってもよい。
【0032】
3.炭酸カルシウム(C)
本発明において使用される炭酸カルシウム(C)は、石灰石、大理石、方解石等の鉱石を粉砕した重質炭酸カルシウムや合成石である沈降性炭酸カルシウムあるいは軽質炭酸カルシウム等を挙げることができる。これらは、いずれも使用することができるが、押出加工性や機械特性の点から、粒度分布が均一な合成品の炭酸カルシウムが好ましい。
炭酸カルシウムの平均粒径は、分散性、機械特性、及び難燃性の点から、10μm以下、好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3μm以下が好適である。
また、炭酸カルシウムをステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸又はそのナトリウム、カルシウム、マグネシウム等との金属塩、パラフィン、ワックス又はこれらの変生物、有機シラン、有機チタネート等の化合物で被覆する等の表面処理を施したものを使用することができる。
【0033】
4.難燃性樹脂組成物
本発明における難燃性樹脂組成物は、それぞれ所定量の樹脂(A)、表面処理水酸化マグネシウム(B)を配合し、必要に応じて適当量のその他の配合物(安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、核剤、滑剤、加工性改良剤、充填剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、発泡剤、気泡防止剤、着色剤、カーボンブラック、カーボンブラックマスターバッチ、その他の難燃剤)を配合して、一般的な方法、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、コンティニュアスミキサー、ロールミルあるいは押出機を用いて均一に、例えば130〜210℃程度で溶融混練することによって製造することができ、さらに炭酸カルシウム(C)を配合することで、表面処理剤のブルーミングを抑制することができる。
製造した難燃性樹脂組成物は、次いで粒径2〜7mm程度のペレットに造粒し、これを成形に用いることが望ましい。
【0034】
本発明において、表面処理水酸化マグネシウム(B)の配合量は、樹脂(A)100質量部に対して、35〜110質量部、好ましくは40〜100質量部、更に好ましくは50〜99質量部である。表面処理水酸化マグネシウム(B)の配合量が35質量部未満であると、本発明の目指す一定の難燃性が得られず、一方、これが110質量部を超えると、機械特性が劣化し、かつブルーミング量の絶対値が大きくなるので、望ましくない。
【0035】
また、本発明において、炭酸カルシウム(C)の配合量は、樹脂(A)100質量部に対して、10〜55質量部、好ましくは20〜45質量部、更に好ましくは25〜40質量部である。
炭酸カルシウム(C)の配合量が10質量部未満では、表面処理水酸化マグネシウム(B)の表面処理剤であるカルボン酸エステルのブルーミング量を抑えることが不十分となり、一方、55質量部を超えると、ブルーミング量の抑制効果が飽和し、かえって、機械特性、押出加工性が劣化するので望ましくない。
【0036】
5.押出成形品
上記の難燃性樹脂組成物を、公知の方法で押出成形機を用い、これに投入し加熱溶融させた後、金型から押出成形することで、押出成形品を製造することができる。
押出成形品が電線・ケーブルの被覆層である場合は、公知の方法で電線・ケーブルの芯線上に絶縁層やシース層として同様に押出成形して被覆することにより製造することができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本明細書中で用いられた試料の調製及びその評価は、個別に記載された方法を除き、それぞれ以下によるものである。
【0038】
「試料の調製」
各々所定量の樹脂(A)、表面処理水酸化マグネシウム(B)、炭酸カルシウム(C)、及び必要に応じて適当量のその他の配合物をバンバリーミキサーに投入し、200℃で10分間溶融混練して樹脂組成物を得て、これから平均粒径約4mmのペレットを得て、これを160℃予熱5分間、150kgf加圧3分間、最後に圧力を保ったまま23℃になるまで冷却する圧縮成形により1mm厚のシートを得て、試料として使用した。
【0039】
「評価」
I.ブルーミング量
(i)重量測定法
得られた試料(シート)から、15cm×18cmの矩形の測定用試料を調製し、これを40℃、相対湿度65%の環境中に14日間暴露し、暴露後、測定用試料2枚の表面をクロロホルム20mlを用いて2回洗浄して、表面に浸出した表面処理剤を収集し、次いでクロロホルムを留去して、浸出した表面処理剤を乾固して、その重量を測定した。
【0040】
(ii)フーリエ変換赤外吸収分光測定法
重量測定法で重量を測定した後、適当量のクロロホルムで、フーリエ変換赤外吸光測定法で検出される濃度となるように得られた表面処理剤を溶解、希釈し、別に使用した表面処理剤から調製、測定した検量線から、浸出した表面処理剤の量を、カルボン酸基に由来する波数1740cm−1の吸光度で定量し評価した。
【0041】
(iii)目視法
成形品は、外観の変化も重要な評価項目であるので、14日間暴露後の測定用試料について、以下に記す評価基準で、目視によっても観察評価した。2より優れているものを合格とした。
[目視観察評価基準]:
0:表面に白い物質の浸出、蓄積が認められない。
1:表面に白い物質の浸出、蓄積がかすかに認められる。
2:表面に白い物質の浸出、蓄積が少し認められる。
3:表面に白い物質の浸出、蓄積が認められる。
4:表面に白い物質の浸出、蓄積が多く認められる。
5:表面全体に表面に白い物質の浸出、蓄積が認められる。
【0042】
II.難燃性
難燃性は、JIS C3005の28に準拠して、評価した。難燃性樹脂組成物を、ラボプラストミル(東洋精機製作所製「Model20C200」)、押出機(東洋精機製作所製「D20−25型」)及び小型電線被覆装置(聖製作所製)を用いて、直径1.0mmの銅芯線上に、被覆厚1.0mmとなるように200℃で押出し、難燃性傾斜試験用ケーブルを調製し、これを評価した。
得られたケーブルを約300mmの長さとし、水平に対して60℃に傾斜させ支持し、還元炎の先端を、ケーブル下端から約20mmの位置に、30秒以内で燃焼するまで当て、炎を静かに取り去った後、ケーブルの燃焼の程度を調べた。難燃性の評価基準は、炎取り去り後から60秒以内に自然に消えることに合格するかによった。
【0043】
III.機械特性
(i)引張破壊応力
試料をJIS K6251の4.1に規定する3号ダンベルで打ち抜いた試験片につき、JIS C3005に準拠して行った。3試験片を測定し平均値で評価した。引張破壊応力は、10MPa程度が必要であるとした。
【0044】
(ii)引張破壊歪
引張破壊応力試験と同様の試験片を用いて、JIS C3005に準拠して行った。3試験片を測定し平均値で評価した。引張破壊歪は、500%程度が必要であるとした。
【0045】
[比較例1〜3、実施例1〜3]
カーボンブラック(バルカン9A−32、キャボット社製)と、樹脂としてエチレン−ブテン共重合体(メルトマスフローレート1g/10分、密度0.918g/cm、日本ユニカー製、GMM−1810)を用いて、200℃で10分溶融混練して、平均粒径4mmに造粒し、カーボンブラック36質量%を含むカーボンブラックマスターバッチを調製した。
上記樹脂、及び上記で調製したカーボンブラックマスターバッチを、樹脂100質量部あたりカーボンブラックが4.6質量部配合されるように、混合した。
【0046】
上記樹脂100質量部あたり、表面処理水酸化マグネシウム[平均エステル化率50%のグリセリン−ステアリン酸エステル(理研ビタミン製)で、天然産水酸化マグネシウム(マグシーズW、神島化学製)を75℃で20分間スーパーミキサーで混合し乾式法で、表面処理量3.2質量%となるように表面処理したもの、粒径が4μmの割合が50%以下(個数基準)で平均粒径3.4μm]98質量部、及び安定剤として酸化防止剤のテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部となるように配合し、比較例1の樹脂組成物を得て、これから試料を調製した。
【0047】
炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、平均粒径1.5μm、白石カルシウム社製)を、15質量部、25質量部、及び50質量部をそれぞれ追加配合した以外は、比較例1と同様にして、実施例1、実施例2及び実施例3の樹脂組成物を得て、試料を調製した。
【0048】
また、炭酸カルシウムを5質量部、及び100質量部をそれぞれ追加配合した以外は比較例1と同様にして、比較例2及び比較例3の樹脂組成物を得て、試料を調製した。
各々の樹脂組成物の組成は、表1に示した。
【0049】
得られた試料につき、ブルーミング量、難燃性及び機械特性を評価し、結果を表1に示した。なお、比較例1のブルーミング量は、重量測定法で26.2mg、フーリエ変換赤外吸収分光測定法で27.0mgであり、表1では、重量測定法の結果は、比較例1に比べたブルーミング量の百分率で示した。
表1から明らかなように、本発明の実施例1、2及び3は、優れた一定の難燃性、及び機械特性を確保したまま、表面処理剤であるカルボン酸エステルのブルーミングが、比較例1と比べて有意に抑えられた難燃性樹脂組成物であり、目視観察でも優れていた。一方、炭酸カルシウムの配合量が、本発明のものより少量である比較例2では、ブルーミングの抑制が少なすぎた。炭酸カルシウムの配合量が、本発明のものより多量である比較例3は、機械特性の引張破壊応力及び引張破壊歪が劣っていて、特に引張破壊歪が、顕著に悪化している難燃性樹脂組成物であった。
【0050】
【表1】

【0051】
[比較例4、5、実施例4、5]
樹脂組成物の組成を替えた以外は、実施例1と同様にして、比較例4、5及び実施例4、5の樹脂組成物を得て、試料を調製した。
各々の樹脂組成物の組成は、表2に示した。
【0052】
得られた試料につき、ブルーミング量(フーリエ変換赤外吸収分光測定法での評価は行わなかった。)、難燃性及び機械特性を評価し、結果を表2に示した。
表面処理水酸化マグネシウムの配合量が、本発明のものより少ない比較例4は、難燃性が不合格となり、一方、これが本発明のものより多い比較例5では、ブルーミング量が、比較例1の26.2mgより多い、27.2mgであるとともに、機械特性の引張破壊応力及び引張破壊歪が劣っていて、特に引張破壊歪が、顕著に悪化している難燃性樹脂組成物であった。
本発明の実施例4及び実施例5の樹脂組成物は、優れた一定の難燃性、及び機械特性を確保したまま、表面処理剤であるカルボン酸エステルのブルーミングが抑えられているものであった。
【0053】
【表2】

【0054】
[比較例6、実施例6]
表面処理剤としてコハク酸水素ステアリル(竹本油脂製)を使用し、その表面処理量を2.2質量%とした以外は、比較例1、実施例2と同様にして、比較例6及び実施例6の樹脂組成物を得て、試料を調製した。
各々の樹脂組成物の組成は、表3に示した。
【0055】
得られた試料につき、ブルーミング量(フーリエ変換赤外吸収分光測定法での評価は行わなかった。)、難燃性及び機械特性を評価し、結果を表3に示した。
なお、比較例6のブルーミング量は、重量測定法で8.4mgであり、表3では、重量測定法の結果は、比較例6に比べたブルーミング量の百分率で示した。
表3から明らかなように、本発明の実施例6は、優れた一定の難燃性、及び機械特性を確保したまま、表面処理剤であるカルボン酸エステルのブルーミングが、比較例6と比べて51%と有意に抑えられた難燃性樹脂組成物であった。
【0056】
【表3】

【0057】
[比較例7、実施例7]
表面処理剤としてステアリン酸エチル(東京化成社製)を使用し、その表面処理量を3.0質量%とした以外は、比較例1、実施例2と同様にして、比較例7、及び実施例7の樹脂組成物を得て、試料を調製した。
各々の樹脂組成物の組成は、表4に示した。
【0058】
得られた試料につき、ブルーミング量(フーリエ変換赤外吸収分光測定法での評価は行わなかった。)、難燃性及び機械特性を評価し、結果を表4に示した。
なお、比較例7のブルーミング量は、重量測定法で18.2mgであり、表4では、重量測定法の結果は、比較例7に比べたブルーミング量の百分率で示した。
表4から明らかなように、本発明の実施例7は、優れた一定の難燃性、及び機械特性を確保したまま、表面処理剤であるカルボン酸エステルのブルーミングが、比較例7と比べて55%と有意に抑えられた難燃性樹脂組成物であった。
【0059】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、難燃性樹脂組成物の優れた一定の難燃性が確保され、使用している表面処理剤としてのカルボン酸エステルが、樹脂と水酸化マグネシウムの間を介して優れた相溶性、優れた分散性をもち、難燃性樹脂組成物の機械特性も優れていて、押出成型性にも優れているのに加えて、さらに表面処理剤のブルーミング・浸出が有意に抑制されるという優れた効果を有する。この難燃性樹脂組成物の押出成形品、及びそれを押出成形して得られた被覆層を有する電線・ケーブルは、難燃性カバー、パイプ、シート、フィルム、電線・ケーブルの被覆層等の押出成形品、特に半導体工場内での環境を汚染する懸念が改善された電線として有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)100重量部に対して、高級脂肪酸多価アルコールエステル、ジカルボン酸モノエステル又は高級脂肪酸アルキルエステルから選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤(a)で表面処理された水酸化マグネシウム(B)35〜110重量部を配合した難燃性樹脂組成物に、さらに炭酸カルシウム(C)10〜55重量部を配合することにより、難燃性樹脂組成物から表面処理剤のブルーミングを抑制することを特徴とする難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法。
【請求項2】
表面処理剤(a)による表面処理量は、0.5〜5.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法。
【請求項3】
樹脂(A)は、エチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法。
【請求項4】
エチレン系樹脂は、直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の難燃性樹脂組成物のブルーミング抑制方法。

【公開番号】特開2011−137184(P2011−137184A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90659(P2011−90659)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【分割の表示】特願2005−361963(P2005−361963)の分割
【原出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000230331)日本ユニカー株式会社 (20)
【Fターム(参考)】