説明

難燃性樹脂組成物及び電線・ケーブル

【課題】絶縁性及び耐熱老化性等に優れた環境配慮型の難燃性樹脂組成物及び電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】ハロゲン系ポリマ100重量部に対し、水浸液導電率が5μS/cm以下であり、鉛化合物、クロム化合物、水銀化合物、カドミウム化合物、砒素化合物、鉄化合物及び銅化合物などの不純物金属の合計含有量が、金属換算で100ppm以下である三酸化アンチモンを0.5〜30重量部配合することで、環境に配慮するとともに、絶縁性及び耐熱老化性等に優れた難燃性樹脂組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境配慮型の難燃性樹脂組成物及び電線・ケーブルに係わり、特に、環境上に配慮することができると同時に、絶縁性及び耐熱老化性等の向上を図ることができる難燃性樹脂組成物及び電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリ塩化ビニルに代表されるハロゲン系ポリマ又はポリエチレンに代表される非ハロゲン系ポリマに対する難燃化手法としては、例えば三酸化アンチモン単独で用いるか、あるいは臭素系難燃剤に代表される有機ハロゲン化物を三酸化アンチモンと併用することが提案されている。そして、それらの三酸化アンチモンや有機ハロゲン化物が、難燃性添加剤として幅広く採用されてきた。
【0003】
これらの難燃剤以外にも、特に、非ハロゲン系ポリマに対しては、水酸化マグネシウムに代表される非ハロゲン系難燃剤を混合することが提案されており、その非ハロゲン系難燃剤も、添加剤として使用されている。しかしながら、この非ハロゲン系難燃剤を用いて高い難燃性を発現させるには、樹脂100重量部に対し、非ハロゲン系難燃剤を約150〜250重量部配合する必要がある。このようにすると、得られた難燃性樹脂組成物の機械的特性を低下させるという問題が発生する。
【0004】
これに対して、三酸化アンチモン単独、あるいは三酸化アンチモンと有機ハロゲン化物との併用では、非ハロゲン系難燃剤に比べると、樹脂100重量部に対する配合量が少量であっても、難燃効果を十分に発揮し、得られた難燃性樹脂組成物の機械的特性をも低下させないという利点がある。このように、三酸化アンチモンは、特に、ハロゲン含有ポリマに対して少量添加するだけで、ハロゲンとの相乗効果により非常に高い難燃効果を発揮する添加剤である。このことから、三酸化アンチモンが難燃性添加剤として多用されており、その難燃特性、機械的特性及びコスト面からみて、代替となる難燃剤は見出されていない。
【0005】
この種の三酸化アンチモンの製造方法としては、例えばアンチモン鉱石あるいは金属アンチモンの酸化による乾式法と、それらを三塩化アンチモンとした後、加水分解及びアルカリ処理による湿式法とがある。その三酸化アンチモンの製造方法のうち、乾式法では、原料中の砒素、鉛、イオウ等の有害な不純物金属が三酸化アンチモン中に混入しやすい傾向がある。一方、湿式法では、乾式法と比べると、三塩化アンチモンの精製により原料中の不純物金属を低減することができる。この湿式法の一例として、例えば抽出水電導度が5μS/cm以下の三酸化アンチモンを得ることができる三酸化アンチモンの製造方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
一方、難燃性樹脂組成物の一例としては、例えば非ハロゲン含有ポリマに三酸化アンチモンを添加した難燃性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
上記特許文献2に記載された難燃性樹脂組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂100重量部に対し、ビス(ハロゲン化フェニル)テレフタルアミドを10〜80重量部及び三酸化アンチモンを5〜40重量部配合している。これにより、この従来の難燃性樹脂組成物は、高難燃性や高熱安定性が得られるとともに、難燃剤の移行析出がないという利点を有するとしている。
【0008】
ところで、近年の環境規制の要求増大や強化により、鉛、カドミウム、水銀、クロム系配合剤などの様々な化学物質についての安全管理が見直されている。年々、環境規制が更に一層厳しくなり、特に、電気・電子機器に使用される各種の樹脂製品に対しては、カドミウム、鉛、水銀、六価クロムなどの特定の重金属類を原則的に使用禁止とする規制が、欧州を中心として各地域に拡がりを見せている。このような近年の環境問題に関連して、樹脂製品中に含まれる環境規制物質となる重金属類の含有量を把握するとともに、その重金属類の最大許容含有量(閾値)を規制し、製品品質を更に一層厳格に管理することが強く求められている。
【0009】
ハロゲンを含む難燃性樹脂組成物に必須の難燃剤としては、上述したように、三酸化アンチモンを用いることが一般的であるが、今後に予想される厳しい環境規制に対応するには、今後の環境規制値の要求に対応した重金属類の濃度の低減及びその濃度のバラツキの抑制を可能にするとともに、耐熱老化特性や絶縁特性等に優れた難燃性樹脂組成物の研究開発が切望される。
【0010】
一方、上記特許文献2は、樹脂に対して添加した三酸化アンチモン中における不純物の濃度に関しては何ら言及していない。従って、今後の環境規制値の要求に対応した重金属類の濃度を管理し、耐熱老化特性や絶縁特性等に優れた難燃性樹脂製品の品質を管理する有効な効果を奏することを意図していないことは明らかである。また、上記特許文献1にあっても、上記特許文献2と同様に、三酸化アンチモン中に含まれる不純物の濃度については考慮されていない。
【特許文献1】特許第2556713号公報
【特許文献2】特開平5−287117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の課題を解消するためになされたものであり、自然環境上に配慮するとともに、絶縁性及び耐熱老化性等に優れた難燃性樹脂組成物及び電線・ケーブルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本件発明者等は、上記課題を解決すべく、三酸化アンチモンの純度と三酸化アンチモンを配合した樹脂組成物の特性とについて熱意検討を重ねたところ、三酸化アンチモンの水浸液導電率をある特定の値に規定するだけではなく、三酸化アンチモン中に含まれる不純物金属の合計含有量をある特定の値に規定し、これを樹脂組成物にある特定の重量部で含有するのであれば、三酸化アンチモン中に含まれる不純物金属の濃度のバラツキを低く抑えることができるとともに、難燃特性、耐熱老化特性や絶縁特性等を有する樹脂製品として実用上に問題を生じないことを見出し、本発明に至った。
【0013】
即ち本発明は、ハロゲン系ポリマ100重量部に対し、不純物金属の合計含有量が、金属換算で100ppm以下の三酸化アンチモンを0.5〜30重量部配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物にある。
【0014】
本発明は、上記構成を採用することにより、三酸化アンチモン中に含まれる不純物金属の濃度のバラツキを、将来予想される不純物金属の最大許容含有量以下を満足する環境規制値の範囲内に抑制することを可能とし、自然環境に配慮することができるとともに、従来では予測し得ない難燃性、耐熱老化性や絶縁性等に優れた樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0015】
不純物金属の合計含有量としては、金属換算で30〜80ppmの範囲内にあることが更に望ましい。
【0016】
本発明によれば、不純物金属としては、鉛化合物、クロム化合物、水銀化合物、カドミウム化合物、砒素化合物、鉄化合物及び銅化合物などであり、三酸化アンチモンの水浸液導電率が、5μS/cm以下であることが好ましい。
【0017】
三酸化アンチモン中の不純物量を簡易的に判断する手段として、水浸液導電率を測定することが挙げられる。本発明の好適な一例としては、例えば三酸化アンチモン中に含まれる不純物金属の量の目安として、三酸化アンチモンの水浸液導電率を低く抑えることで、不純物金属の合計含有量が少ない環境配慮型であり、難燃性、絶縁性及び耐熱老化性等に優れた樹脂組成物が得られる。
【0018】
また本発明にあっては、三酸化アンチモンを湿式法により製造することが有用である。その湿式法としては、例えばアンチモン鉱石あるいは金属アンチモンを原料とし、三塩化アンチモンにした後、加水分解及びアルカリ処理を行う湿式法が挙げられる。乾式法により製造された三酸化アンチモンを用いる場合は、揮発酸化の工程を複数回繰り返すことが好ましい。
【0019】
本発明の難燃性樹脂組成物としては、特に制限されるものではないが、電線・ケーブルの半導電層、絶縁層やシースなどに効果的に使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、樹脂中の有害な不純物金属濃度のバラツキ度を小さく抑えて不純物金属濃度を低減することができるようになり、合わせて、焼却処分時の有害ガスの発生や環境汚染を招くことがなく、環境に配慮するとともに、絶縁特性及び耐熱老化特性等に優れた難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0022】
ハロゲン含有ポリマ組成物に難燃添加剤である三酸化アンチモンを使用する場合には、環境に配慮し且つ品質管理を容易にすることが肝要である。このため、三酸化アンチモンとしては、例えば湿式法により製造されたものが好適であり、鉛化合物、クロム化合物、水銀化合物、カドミウム化合物、砒素化合物、鉄化合物及び銅化合物などの不純物金属の合計含有量が低いものを選択することが望ましい。乾式法により揮発酸化を複数回繰り返すことで、これらの不純物金属の合計含有量が低い三酸化アンチモンを選択して使用することができることは勿論である。
【0023】
三酸化アンチモン中の不純物金属は、その合計含有量が多くなればなる程、配合した樹脂の難燃性、絶縁性及び耐熱老化性等を低下させる原因となる。本発明にあっては、三酸化アンチモン中に含まれる不純物金属の量の目安として、三酸化アンチモンの水浸液導電率に注目し、その導電率値を低く抑えることとしている。しかしながら、本発明では、水浸液導電率の低い三酸化アンチモン、例えば水浸液導電率が5μS/cm以下を満足するのみで、難燃性、絶縁性及び耐熱老化性等が優れ、環境に配慮した樹脂組成物を得ることができるのではない。
【0024】
本発明は、三酸化アンチモン中の鉛化合物及び砒素化合物などの不純物金属の合計含有量が、例えば金属換算で100ppm以下を満足すると同時に、この三酸化アンチモンの配合量としては、ポリマ100重量部に対して、0.5〜30重量部とすることに特徴部を有している。その不純物金属の合計含有量としては、特に好ましくは金属換算で30〜80ppmの範囲内にあることが好適である。更に本発明の特徴部とするところは、ポリマ100重量部に対して、水浸液導電率が5μS/cm以下を満足すると同時に、不純物金属の合計含有量が100ppm以下の三酸化アンチモンを0.5〜30重量部配合することにある。三酸化アンチモンが0.5重量部未満では、難燃効果を高める効果がない。30重量部を超えて三酸化アンチモンを配合しても、難燃性の更なる向上が得られないばかりでなく、三酸化アンチモン中の不純物金属の合計含有量が100ppmを超える場合があり、配合した樹脂の絶縁性、耐熱老化性、引張強度や伸びなどの機械的特性等に影響を与えるという問題などが発生するので好ましくない。
【0025】
本発明で使用するハロゲン含有ポリマとしては、例えばポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、クロスルフォン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン、クロロプレンゴム、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エチル共重合体などの主鎖あるいは側鎖にハコゲン骨格を有するポリマを代表的に挙げることができる。本発明はこれに限定されるものではないことは勿論であり、これらのハロゲン含有ポリマを二種類以上組合せたポリマブレンドであってもよい。
【0026】
ここでは、ハロゲン含有ポリマとは、ハロゲン含有ポリマと、ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、ニトリルゴム、ポリエステル、熱可塑性ポリウレタンなどの非ハロゲン含有ポリマとのポリマブレンドをも含んでいる。更に、これらのハロゲン含有ポリマの一種あるいは二種類以上を組合せたポリマブレンド、あるいは非ハロゲン含有ポリマの一種あるいは二種類以上を組合せたポリマブレンドに対し、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、ハロゲン含有リン酸エステルなどのハロゲン系難燃剤を一種あるいは二種類以上組合せたポリマ混和物をもハロゲン含有ポリマという。
【0027】
これらのハロゲン含有ポリマの耐熱性を高めるために使用する安定剤としては、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウムなどに代表されるカルシウム、亜鉛、バリウムを金属成分として持つ脂肪族金属塩、ハイドロタルサイト、ポリオール、β−ジケトン化合物及びその金属塩などを挙げることができる。定法に従い、これらを組合せて使用することもできる。
【0028】
ハロゲン含有ポリマがポリ塩化ビニルの場合は、可塑剤として、例えばジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸系エステル、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリ−n−オクチルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテート、トリイソデシルフタレート等のトリメリット酸系エステル、テトラ−(2−エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラ−n−オクチルピピロメリテート、テトライソノニルピロメリテートなどのピロメリット酸系エステルの他にアジピン酸系エステル、セバシン酸系エステル、アゼライン系酸エステル、塩化パラフィンなどを挙げることができる。これらの可塑剤を、定法に従って一種あるいは二種以上組合せて使用することもできる。これらの可塑剤の配合量としては、例えばポリ塩化ビニル100重量部あたり、40〜80重量部程度であるが、硬度や耐熱性の要求によって増減するので、特に制限するものではない。
【0029】
本発明の難燃性樹脂組成物には、定法に従って、例えば滑剤、充填剤、難燃助剤、プロセスオイル、着色剤、酸化防止剤、防蟻剤、防鼠剤、加工助剤、耐候付与剤、発泡剤などを加えることができる。また、電子線照射や有機過酸化物を用いて架橋性の樹脂組成物とすることもできる。
【0030】
以下に、本発明の更に具体的な実施の形態として、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
以下の表1に、比較評価に用いるサンプルA〜Fの三酸化アンチモンの製造方法と、三酸化アンチモン中に不純物金属として含まれる鉛化合物、砒素化合物、クロム化合物等の有害な金属化合物の金属換算濃度と、水浸液導電率の測定値とをまとめて表す。なお、三酸化アンチモン中の金属濃度は、一般的なICP(Inductively Coupled Plasma)法、又は原子吸光分析法により測定した。水浸液導電率については、JIS C 2111に準拠して測定した。また、表1に示した鉛化合物などの不純物金属としては、代表的なものを挙げており、本発明はこれに制限されるものではない。
【0032】
【表1】

【0033】
以下の表2に、実施例1〜7及び比較例1〜8の各製造条件と、製造した難燃性樹脂組成物の評価結果をまとめて表す。
【0034】
【表2】

【0035】
上記表1に示した三酸化アンチモンのうち、乾式法で製造されたサンプルA〜D、湿式法で製造されたサンプルFをそれぞれ使用し、表2に示した配合組成に基づいて評価対象となるテストピース(難燃性樹脂組成物)を作製した。
【0036】
(実施例1,2)
実施例1及び2としては、ハロゲン含有ポリマ(ポリ塩化ビニル)、トリメリット酸系可塑剤、炭酸カルシウム、非鉛系安定剤、表1に示した湿式法で製造されたサンプルFの三酸化アンチモンを表2に示した割合でそれぞれ混練し、難燃性樹脂組成物を作製した。
【0037】
(実施例3〜7)
実施例3及び4としては、非ハロゲン含有ポリマ(ポリエチレン)、ハロゲン系難燃剤、非鉛系安定剤、酸化防止剤、架橋剤、表1に示した湿式法で製造されたサンプルFの三酸化アンチモンを表2に示した割合でそれぞれ混練し、難燃性樹脂組成物を作製した。また、実施例5〜7としては、実施例3及び4と同様の配合条件で、表1に示した乾式法で製造されたサンプルA,Dの各三酸化アンチモンを表2に示した割合でそれぞれ混練し、難燃性樹脂組成物を作製した。
【比較例】
【0038】
(比較例1〜3)
一方、比較例1〜3としては、ハロゲン含有ポリマ(ポリ塩化ビニル)、トリメリット酸系可塑剤、炭酸カルシウム、非鉛系安定剤、表1に示した乾式法で製造されたサンプルB,Cの各三酸化アンチモンを表2に示した割合でそれぞれ混練し、難燃性樹脂組成物を作製した。
【0039】
(比較例4〜8)
比較例4〜8としては、非ハロゲン含有ポリマ(ポリエチレン)、ハロゲン系難燃剤、非鉛系安定剤、酸化防止剤、架橋剤、表1に示した乾式法で製造されたサンプルA〜Dの各三酸化アンチモンを表2に示した割合でそれぞれ混練し、難燃性樹脂組成物を作製した。
【0040】
上記実施例1〜7及び上記比較例1〜8のそれぞれの条件で作製された難燃性樹脂組成物からテストピース評価用シートを作製した。引張特性の測定・評価、熱老化特性の測定・評価、体積抵抗率の測定・評価、酸素指数の測定・評価、及び三酸化アンチモン中の重金属総含有量の測定・評価については、以下の方法により実施した。
【0041】
(引張特性)
実施例1,2及び比較例1〜3においては、JIS K 6723に準拠して測定し、以下の基準で評価した。この引張強度試験において、引張強度が12MPa以上のものを○(合格)とし、引張強度が12MPa未満のものを×(不合格)とした。また、伸びが200%以上のものを○(合格)とし、伸びが200%未満のものを×(不合格)とした。その結果を表2に示す。
【0042】
実施例3〜7及び比較例4〜8では、UL 758に準拠して測定し、以下の基準で評価した。この引張強度試験において、引張強度が10.3MPa以上のものを○(合格)とし、引張強度が10.3MPa未満のものを×(不合格)とした。また、伸びが150%以上のものを○(合格)とし、伸びが150%未満のものを×(不合格)とした。その結果を表2に示す。
【0043】
(熱老化特性)
実施例1,2及び比較例1〜3においては、JIS K 6723に準拠し、100℃×120時間の条件で測定した。JIS K 6723に準拠して測定した熱老化特性は、以下の基準で評価した。この熱老化試験において、引張強度残率が90%以上のものを○(合格)とし、引張強度残率が90%未満のものを×(不合格)とした。また、伸び残率が70%以上のものを○(合格)とし、伸び残率が70%未満のものを×(不合格)とした。その結果を表2に示す。
【0044】
実施例3〜7及び比較例4〜8では、UL 758に準拠し、158℃×168時間の条件で測定した。UL 758に準拠して測定した熱老化特性は、以下の基準で評価した。この熱老化試験において、引張強度残率が65%以上のものを○(合格)とし、引張強度残率が90%未満のものを×(不合格)とした。また、伸び残率が65%以上のものを○(合格)とし、伸び残率が65%未満のものを×(不合格)とした。その結果を表2に示す。
【0045】
(体積抵抗率)
実施例1,2及び比較例1〜3では、JIS K 6723に準拠し、30℃、50℃、75℃の条件で測定した。JIS K 6723に準拠して測定した体積抵抗率は、以下の基準で評価した。この体積抵抗率の試験にあっては、体積抵抗率が、30℃の雰囲気において、1×1013Ω・cm以上のものを○(合格)とし、1×1013Ω・cm未満のものを×(不合格)とした。体積抵抗率が、50℃の雰囲気においては、1×1012Ω・cm以上のものを○(合格)とし、1×1012Ω・cm未満のものを×(不合格)とした。体積抵抗率が、75℃の雰囲気においては、1×1011Ω・cm以上のものを○(合格)とし、1×1011Ω・cm未満のものを×(不合格)とした。その結果を表2に示す。
【0046】
実施例3〜7及び比較例4〜8では、UL 758に準拠し、30℃、50℃、75℃の条件で測定した。UL 758に準拠して測定した体積抵抗率は、以下の基準で評価した。この体積抵抗率の試験によれば、体積抵抗率が、30℃の雰囲気において、1×1015Ω・cm以上のものを○(合格)とし、1×1015Ω・cm未満のものを×(不合格)とした。体積抵抗率が、50℃の雰囲気においては、1×1014Ω・cm以上のものを○(合格)とし、1×1014Ω・cm未満のものを×(不合格)とした。体積抵抗率が、75℃の雰囲気においては、1×1013Ω・cm以上のものを○(合格)とし、1×1013Ω・cm未満のものを×(不合格)とした。その結果を表2に示す。
【0047】
(酸素指数)
実施例1〜7及び比較例1〜8において、JIS K 7201に準拠して測定した。JIS K 7201に準拠して測定した酸素指数は、以下の基準で評価した。この酸素指数の試験にあっては、酸素指数が、26以上のものを○(合格)とし、26未満のものを×(不合格)とした。その結果を表2に示す。
【0048】
(三酸化アンチモン中の重金属総含有量)
鉛化合物、砒素化合物、クロム化合物、銅化合物、水銀化合物、カドミウム化合物、鉄化合物をそれぞれ金属元素として、一般的なICP(Inductively Coupled Plasma)法、又は原子吸光分析法により測定した。得られた測定値は、以下の基準で評価した。この重金属総含有量の試験においては、100ppm以下のものを○(合格)とし、100ppmを越えるものを×(不合格)とした。その結果を表2に示す。
【0049】
上記表2から明らかなように、実施例1〜7の難燃性樹脂組成物は、水浸液導電率が5μS/cm以下を満足するとともに、重金属(不純物金属)の総含有量が100ppm以下を満足する三酸化アンチモンを用いるだけではなく、この三酸化アンチモンをハロゲン系ポリマ100重量部に対して0.5〜30重量部配合することにより、ハロゲン系ポリマ樹脂組成物中の重金属含有量が少ないだけでなく、引張特性、耐熱老化性、絶縁性、導電性及び帯電防止性などに優れていることが分かる。
【0050】
なお、上記表1に示した湿式法で製造されたサンプルEについては、上記表2中の評価結果に挙げていないが、このサンプルEのものは、水浸液導電率が5μS/cm以下であり、不純物金属の合計含有量が100ppm以下の三酸化アンチモンである。従って、このサンプルEをポリマ100重量部に対して0.5〜30重量部配合する場合は、上記実施例1〜7と同様に、引張特性、耐熱老化性、絶縁性、導電性及び帯電防止性等に優れており、環境に優しい難燃性樹脂組成物が得られるということは理解できる。
【0051】
これに対し、比較例1〜8の難燃性樹脂組成物のうち、比較例1〜6の難燃性樹脂組成物は、水浸液導電率が高く、且つ不純物金属の含有量のバラツキが大きい三酸化アンチモンを用いているので、樹脂組成物中の重金属総含有量が増加するだけでなく、耐熱老化性及び絶縁性も低下することが分かる。更に、ハロゲン系ポリマ100重量部に対して三酸化アンチモンの配合量が、0.5重量部よりも少ない比較例1、及び三酸化アンチモンの配合量が、30重量部よりも多い比較例6では、難燃性の指標である酸素指数が目標値を満足していないことが分かる。
【0052】
また、比較例7,8の難燃性樹脂組成物のうち、比較例7の難燃性樹脂組成物では、重金属の総含有量及び水浸液導電率が初期の目標値を満たしているものの、ハロゲン系ポリマ100重量部に対して三酸化アンチモンの配合量が、0.5重量部よりも少ないので、難燃性の指標である酸素指数が目標値を満足していないことが分かる。更に、比較例8の難燃性樹脂組成物は、重金属の総含有量及び水浸液導電率が初期の目標値を満たしていたが、ハロゲン系ポリマ100重量部に対して三酸化アンチモンの配合量が、30重量部よりも多いので、樹脂中の重金属含有量が増加するだけでなく、難燃性、引張特性、耐熱老化特性及び絶縁性も低下することが分かる。
【0053】
以上説明したように、本発明の難燃性樹脂組成物を使用することが、環境負荷物質として鉛化合物、クロム化合物、カドミウム化合物等を殆ど含まないだけでなく、加熱老化時における引張伸びの低下が少なく、高温環境下における絶縁性の低下も少ないという観点から望ましいということが理解できる。
【0054】
以上のように構成された本発明の難燃性樹脂組成物は、最終製品として、例えば本出願人等が先に提案した特開平2005−200574号公報等に記載されている電線又はケーブルの半導電層、絶縁層やシースなどに効果的に適用することができる。この難燃性樹脂組成物の他の用途としては、例えばチューブ、ホース、光ファイバ、ワイヤハーネス等の各種の被覆材や他の樹脂製品にも好適に使用することができる。
【0055】
なお、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、その発明の趣旨を逸脱しない範囲内で様々な設計変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン系ポリマ100重量部に対し、不純物金属の合計含有量が、金属換算で100ppm以下の三酸化アンチモンを0.5〜30重量部配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記不純物金属の合計含有量が、金属換算で30〜80ppmの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記不純物金属が、鉛化合物、クロム化合物、水銀化合物、カドミウム化合物、砒素化合物、鉄化合物及び銅化合物などであり、前記三酸化アンチモンの水浸液導電率が、5μS/cm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記三酸化アンチモンが、湿式法により製造されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
上記請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を被覆してなることを特徴とする電線・ケーブル。

【公開番号】特開2008−56796(P2008−56796A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235087(P2006−235087)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】