説明

難燃性油圧作動油組成物

【課題】十分な酸化防止性能及び亜鉛溶出防止性に優れ、かつ良好な耐摩耗性を有し、最近の油圧システムの高圧化、メンテナンスフリー化に対応した長寿命の難燃性油圧作動油を提供する
【解決手段】(A)エステルを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸比率が20モル%以上で、かつエステルの酸価が1.0mgKOH/g以下である合成エステル及び油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油に、(B)アルキルチアジアゾールを組成物全量基準で0.001〜1.0質量%含有することを特徴とし、好ましくはさらに(C)ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)メタンを組成物全量基準で0.001〜5.0質量%、および/または(D)トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、およびトルトリアゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のトリアゾール化合物を組成物全量基準で0.0001〜1.0質量%含有してなる難燃性油圧作動油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性油圧作動油組成物に関し、特にアルミダイキャスト押し出し加工機あるいは製鉄所構内作業など、火災発生の危険性が高く、高温かつ高圧下で使用される用途に最適で、かつ高圧ポンプへの適用可能な、耐摩耗性、スラッジ抑制性能に優れ、亜鉛溶出抑制に特に優れることで長期間使用可能な難燃性油圧作動油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりアルミダイキャスト押し出し加工機あるいは製鉄所構内作業など、火災発生の危険性が高い場所で使用される作動液は、安全性を保つため水グリコールあるいは脂肪酸エステルなどの難燃性作動油(液)が使用されていた。その中でも消防法の規制から、第四石油類の規制がある場所では、水グリコールが主に使用されていたが、使用液管理の煩雑さ、耐摩耗性などの欠点を有していた。ところが、2002年の消防法の改正により引火点250℃以上の作動油が消防法の適用外となり、比較的引火点が高い脂肪酸エステルの用途が広がることとなり、難燃性作動油としてエステル油がようやく普及段階に達するようになった。
【0003】
脂肪酸エステルの性能は、エステルを構成する脂肪酸の組成により異なり、酸化安定性は飽和脂肪酸のエステルが優れている。しかしながら、飽和脂肪酸は石油原料からの合成あるいは動植物油から得られた不飽和脂肪酸を水添して製造されるため高価であり、地球環境に対して優しくない原料である。そのため、環境に優しく、コスト的にも有利な動植物油から得られた不飽和脂肪酸を主体とした脂肪酸を用いた天然系合成エステルや油脂も使用されているのが現状である(特許文献1〜3参照)。
一方、最近は油圧システムの高圧化、メンテナンスフリー化が進み、このような環境下で使用される作動油には長寿命性と優れた耐摩耗性が要求されるようになってきた。ところが、動植物油などの天然系素材を原料とする天然系合成エステルは、脂肪酸が不飽和脂肪酸主体であるため、地球環境に優しくコスト的にも有利であるが、酸化安定性が飽和脂肪酸の合成エステルや合成系の炭化水素油などより大きく劣るのが欠点であった。
【0004】
エステル系作動油は、残存する脂肪酸による亜鉛溶出の恐れがあるため、配管、バルブ類など油が接触する部分には、亜鉛を使用しないのが原則であった。しかしながら、エステル系難燃性作動油の普及につれて、従来から油圧システムに使用されている配管・バルブ・継ぎ手類などの亜鉛メッキ部分から亜鉛が溶出し、スラッジ発生などの問題を引き起こす事例が増加している。特に水グリコール系からエステル系作動油に切り替えた場合の残存水分がさらに亜鉛析出を加速し、フィルタ閉塞などの問題が多発するようになっている。また亜鉛溶出は、作動油の劣化により増加する酸によっても引き起こされることから、亜鉛溶出対策には、油の酸価安定性も重要な因子となる。
【0005】
従来の鉱油系作動油あるいは合成炭化水素系作動油には、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤あるいはZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)などが酸化防止剤として使用されてきた。しかしながら、飽和脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸よりなるエステル系作動油は、従来のフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤を配合しても酸化防止性能が不十分となり、長寿命化は難しいという問題あった。
特に、酸化安定性が劣る不飽和脂肪酸を用いた合成エステルや動植物油脂を基油とした場合には、その傾向が著しい。この不飽和脂肪酸を原料とした合成エステルや動植物油に効果的に作用する添加剤は未だ見出されていないため、従来は、地球環境に悪影響があり、価格も高い飽和脂肪酸を用いた合成エステルを使用するか、あるいは油交換インターバルの短い不飽和脂肪酸を原料とした合成エステルあるいは動植物油脂を使用するか、いずれかの選択をせざるを得なかった。
【0006】
また、従来の鉱油系作動油は、耐摩耗性添加剤としてZnDTPや芳香族リン酸エステルなどが使用されてきた。しかしながら、エステルを基油とした場合、エステル自身の吸着活性が高いために鉱油と比較してこれら添加剤の効果がほとんど発揮されないという問題が指摘されてきた。例えば、代表的なリン系摩耗防止剤であるTCP(トリクレジルフォスフェート)は、脂肪酸エステル中ではほとんどその耐摩耗性の効果が発揮されない。
上記の問題に加えて、最近問題となっているのが油圧システムの配管あるいはバルブなどに使用されている亜鉛メッキが、エステル系作動油中に存在あるいは使用過程で発生する酸により溶出することである。従来、この亜鉛溶出を抑制する技術はなく、その対策としては、亜鉛メッキを使用しないことが最良の対策とされてきた。
以上のように、従来の技術では、環境に優しく、比較的安価な天然原料を使用した合成エステルや動植物油脂を使用して、耐摩耗性に優れ、かつ配管中の亜鉛溶出を抑え、結果的に長寿命性に優れた難燃性作動油を開発することは、きわめて困難な状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−214187号公報
【特許文献2】特許第3548591号公報
【特許文献3】特許第2888747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
合成エステルは、未反応脂肪酸がある程度残存するが、その脂肪酸が亜鉛を溶出し、酸価が高すぎる場合は、亜鉛溶出を抑制する添加剤の効果が弱くなる。また、エステルを構成する脂肪酸が飽和脂肪酸の場合は、溶解性に劣り溶出した亜鉛などの金属類や劣化生成物が沈降し易くなり、スラッジ化するため好ましくない。
また、摩耗防止を目的として極圧添加剤が使用されるが、リン酸エステルのようなマイルドな極圧添加剤はエステル中では効果が小さい。一方、活性が強い極圧添加剤は、酸化安定性、スラッジ抑制性に悪影響を与え、亜鉛の溶出に対しても悪影響を与える場合が多い。
さらに、酸化安定性も亜鉛溶出の抑制には重要な課題であり、酸化安定性に劣るエステルを基油とした作動油の場合、使用中に酸価が増加し、亜鉛の溶出を促進させる。しかし、鉱油や合成系炭化水素油に使用されてきた従来のフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤は、エステル油に対しては十分な酸化防止効果が得られない。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、不飽和脂肪酸を主体とし、かつ特定値以下の酸価を有する合成エステルあるいは動植物油において、十分な酸化防止性能及び亜鉛溶出防止性に優れ、かつ良好な耐摩耗性を有し、最近の油圧システムの高圧化、メンテナンスフリー化に対応した長寿命の難燃性油圧作動油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究した結果、合成エステル及び/又は油脂、特にエステルを構成する脂肪酸中に天然原料から得られた不飽和脂肪酸を20モル%以上含有し、かつエステルの酸価が1.0mgKOH/g以下である基油に、特定の金属腐食防止剤を配合することによって、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、優れた酸化防止性能を有する特定のアミン系酸化防止剤及び/又は窒素系金属不活性化剤を配合することで更なる長寿命のエステル系難燃性作動油を開発するに至った。
ここで、酸価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」(電位差滴定法)に準拠して測定した値を意味する。
【0010】
すなわち、本発明は、(A)エステルを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸比率が20モル%以上で、かつエステルの酸価が1.0mgKOH/g以下である合成エステル及び油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油に、(B)アルキルチアジアゾールを組成物全量基準で0.001〜1.0質量%含有することを特徴とする難燃性油圧作動油組成物である。
【0011】
また本発明は、(C)下記一般式(1)で示されるビス(4−ジアルキルアミノフェニル)メタンを組成物全量基準で0.001〜5.0質量%含有することを特徴とする前記難燃性油圧作動油組成物である。
【化1】

〔R,R,R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜6のアルキル基である。〕
【0012】
また本発明は、(D)トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、およびトルトリアゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のトリアゾール化合物を組成物全量基準で0.0001〜1.0質量%含有することを特徴とする前記難燃性油圧作動油組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、不飽和脂肪酸を主体とした脂肪酸のエステル油を基油とし、特定の金属腐食防止剤、あるいはさらに特定の酸化防止剤及び/又は窒素系金属不活性化剤を配合することにより、耐酸化安定性、耐摩耗性に優れ、亜鉛の溶出を抑制することができ、且つFZGギヤ試験において合格ステージが10以上の難燃性油圧作動油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の難燃性油圧作動油組成物に使用される基油としては、エステルを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸比率が20モル%以上であり、かつエステルの酸価が1.0mgKOH/g以下の合成エステル及び油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油が用いられる。合成エステルとしては、脂肪酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステルを例示することができ、油脂としては、各種の植物油脂、動物油脂を例示することができる。また、40℃における動粘度が10〜200mm/s、引火点が280℃以上のものが好ましく用いられる。
【0015】
脂肪酸エステルとしては、パルミトイル酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレステアリン酸、8,11−イコサジエン酸などの不飽和脂肪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸などの炭素数5〜19の直鎖又は分枝アルキル基を有する飽和脂肪酸と、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノールなどの直鎖又は分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコールとのエステル及びこれらの混合物が好ましく用いられる。具体的には、ステアリン酸とオレイン酸の混合脂肪酸とブタノールのエステル、ステアリン酸とラウリン酸の混合脂肪酸とオクタノールのエステルなどの脂肪酸エステルが好ましい。
【0016】
ポリオールエステルとしては、ジオールあるいは水酸基を3〜20個有するポリオールと、炭素数1〜24の脂肪酸とのエステルが好ましく用いられる。
【0017】
ジオールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2ーメチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。
【0018】
ポリオールとしては、具体的には例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜20量体)、1,3,5ーペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物、及びメチルグルコシド(配糖体)などが挙げられる。
これらの中でもポリオールとしては、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0019】
前記ポリオールエステルの脂肪酸としては、前記脂肪酸エステルに記載の不飽和脂肪酸及び炭素数5〜19の直鎖又は分枝アルキル基を有する飽和脂肪酸を例示することができ、特に不飽和脂肪酸が好ましく用いられる。また、α炭素原子が4級であるネオ酸なども用いることができる。なお、分岐アルキル基を有する飽和脂肪酸としては、具体的には、イソペンタン酸(3−メチルブタン酸)、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0020】
好ましいポリオールエステルの具体例としては、パルミトイル酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレステアリン酸、8,11−イコサジエン酸などの不飽和脂肪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸などの炭素数5〜19の直鎖又は分枝アルキル基を有する飽和脂肪酸の中から選ばれ、不飽和脂肪酸を含む1種又は2種以上の脂肪酸と、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン及びペンタエリスリトールの各ポリオールとのジエステル、トリエステルおよびテトラエステルが挙げられる。
【0021】
なお、2種以上の脂肪酸とのエステルとは、1種の脂肪酸とポリオールのエステルを2種以上混合したものでも良く、2種以上の混合脂肪酸とポリオールのエステルであっても良い。
【0022】
また、ポリオールエステルの中でも、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン及びペンタエリスリトールのエステルがさらに好ましく、加水分解安定性に特に優れることからトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのエステルが最も好ましい。具体的には、オレイン酸とオクチル酸の混合脂肪酸とトリメチロールプロパンのエステル、オレイン酸とペラルゴン酸の混合脂肪酸とトリメチロールプロパンのエステル、オレイン酸とオクチル酸の混合脂肪酸とペンタエリスリトールのエステル、オレイン酸とペラルゴン酸の混合脂肪酸とペンタエリスリトールのエステル、等が好ましく用いられる。
【0023】
なお、ポリオールエステルとしては、ポリオールの全ての水酸基がエステル化されずに一部の水酸基が残った部分エステルであっても良く、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであっても良く、また部分エステルと完全エステルの混合物であっても良いが、完全エステルであることが好ましい。
【0024】
コンプレックスエステルとは、脂肪酸及び二塩基酸と、一価アルコール及びポリオールとのエステルのことであり、脂肪酸、一価アルコール及びポリオールとしては、前述のポリオールエステルに関する説明において例示したものと同様のものが使用できる。
また、二塩基酸としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの炭素数5〜10の二塩基酸が使用できる。
【0025】
また、本発明で用いるエステルは、単一構造のエステル1種からなるものであっても良く、構造の異なる2種以上のエステルの混合物であっても良い。
これらの合成エステルの中でも、加水分解安定性に優れることから、ポリオールエステルが特に好ましい。
【0026】
また、本願発明の難燃性油圧作動油組成物の基油として使用される油脂としては、天然の動植物油脂が挙げられ、例えば、菜種油、ひまわり油、大豆油、ひまし油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、ピーナッツ油、トール油、牛脂、豚脂、あるいはこれらの水素添加物等が挙げられる。油脂の中では、エステルを構成する脂肪酸のうち不飽和脂肪酸、特にオレイン酸の比率が高い菜種油、ひまわり油、大豆油などのハイオレイン酸タイプの植物油が好ましく、さらに、オレイン酸の比率を高めたハイオレイン化油脂類が好ましい。
【0027】
本発明の難燃性作動油組成物の基油としては、上記した合成エステル及び油脂からなる群より選ばれる1種を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記合成エステル及び/または油脂において、エステルを構成する脂肪酸に占める不飽和脂肪酸の比率は20モル%以上であることが必要であり、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上であることが好ましい。構成脂肪酸は、不飽和脂肪酸の比率が20モル%以上であれば、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、また直鎖状脂肪酸、分枝状脂肪酸から選択することができるが、(C)成分である一般式(1)で示されるビス(4−ジアルキルアミノフェニル)メタンのアミン系酸化防止剤の効果の点からは、不飽和脂肪酸の含有量が高い方が好ましい。
なお、エステルを構成する脂肪酸に占める不飽和脂肪酸の比率が20モル%未満であると、(C)成分を配合しても、油圧作動油の使用の初期段階では粘度上昇や酸価増加の抑制効果があるが、使用が進むと劣化生成物が急にスラッジ化し易く、油圧システム内でトラブルが発生することがある。
また、亜鉛溶出防止の効果をさらに高めるために、エステルの酸価は1.0mgKOH/g以下であることが必要である。エステルの酸価が1.0mgKOH/gを超えると、(B)成分である金属腐食防止剤としてのアルキルチアジアゾール、(D)成分である窒素系金属不活性化剤としてのトリアゾール化合物の効果が阻害されると共に、酸化劣化が促進され、ひいては酸化劣化により亜鉛溶出防止性が損なわれる。
【0029】
なお、基油の動粘度は、特に限定されず任意であるが、難燃性、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れ、かつ攪拌抵抗によるエネルギーロスが少ない等の点から、40℃における動粘度は、好ましくは10〜200mm/s、より好ましくは15〜150mm/sであり、さらに好ましくは20〜100mm/sである。また基油の粘度指数も任意であるが、高温における油膜維持等の点から、好ましくは80以上、より好ましくは100以上である。さらにその流動点も任意であるが、冬期におけるポンプ始動性等の点から、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−15℃以下である。
【0030】
本発明の難燃性油圧作動油組成物は、(B)成分として金属腐食防止剤であるアルキルチアジアゾールを含有する。
アルキルチアジアゾールとしては、下記一般式(2)で表される1,3,4−チアジアゾール、下記一般式(3)で表される1,2,4−チアジアゾール、または下記一般式(4)で表される1,4,5−チアジアゾールが好ましく用いられる。また、これらの2種以上の混合物も好ましく用いられる。
【0031】
【化2】

[式(2)中、RおよびRはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、aおよびbはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、0〜8の整数を表す。]
【0032】
【化3】

[式(3)中、RおよびRはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、cおよびdはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、0〜8の整数を表す。]
【0033】
【化4】

[式(4)中、RおよびR10はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、eおよびfはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、0〜8の整数を表す。]
【0034】
このようなチアジアゾール化合物の具体例としては、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(2−エチルヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾールおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
本発明の難燃性油圧作動油組成物における(B)成分であるアルキルチアジアゾールの含有量は、組成物全量基準で、0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。(B)成分の含有量が0.001質量%未満であると、亜鉛溶出抑制効果が得られなくなる。また、(B)成分の含有量は組成物全量基準で、1.0質量%以下であり、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下である。(B)成分の含有量が1.0質量%を超えるとアルキルチアジアゾールそのものの劣化によりスラッジ化しやすい。
【0036】
本発明の難燃性油圧作動油組成物は、(C)成分として、アミン系酸化防止剤である一般式(1)で示されるビス(4−ジアルキルアミノフェニル)メタンを含有してもよい。
【0037】
【化5】

【0038】
一般式(1)において、R、R、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基を示す。R、R、R及びRのいずれか一つのアルキル基の炭素数が6を超える場合には分子中に占める官能基の割合が小さくなり、酸化防止効果に悪影響を与える恐れがある。R、R、R及びRで表されるアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でも良い)が挙げられる。
【0039】
一般式(1)で表されるアミン系酸化防止剤の中でも、より優れた酸化防止効果が得られることから、R、R、R及びRは、メチル基、エチル基又は炭素数3〜4の分枝アルキル基が好ましく、さらにメチル基又はエチル基が最も好ましい。
【0040】
本発明の難燃性油圧作動油成物における(C)成分ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)メタンの含有量は、組成物全量基準で、5.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。含有量が5.0質量%を超える場合、スラッジ発生の原因となるので好ましくない。
一方、(C)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。(C)成分の含有量が0.001質量%に満たない場合は、エステルの酸化劣化を十分に抑制できず亜鉛溶出抑制性能が不足するので好ましくない。
【0041】
また本発明の難燃性油圧作動油組成物は、(D)成分として、窒素系金属不活性化剤であるトリアゾール化合物を含有してもよい。(D)成分のトリアゾール化合物としては、好ましくは、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体及びトルトリアゾール誘導体からなる郡より選ばれる。ベンゾトリアゾール誘導体としては、具体的には、N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−4−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミンなどが挙げられる。
【0042】
(D)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.0001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.0005質量%以上、さらに好ましくは0.001質量%以上である。(D)成分の含有量が0.0001質量%に満たない場合は、亜鉛溶出抑制性能が不足するので好ましくない。一方、(D)成分の含有量は、組成物全量基準で、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。(D)成分の含有量が1.0質量%を超えると、基油のエステルに溶解し難く、添加剤の劣化によりスラッジ化しやすいため好ましくない。
【0043】
本発明の難燃性油圧作動油組成物は、さらにその性能を高めるために、(E)成分として、(E1)硫黄含有リン酸エステル、(E2)酸性リン酸エステル、(E3)酸性リン酸エステルアミン塩、及び(E4)亜リン酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の摩耗防止剤を含有してもよい。
【0044】
(E1)硫黄含有リン酸エステルとしては、具体的には、アルキル基が炭素数4〜18であるトリアルキルフォスフォロチオネート、トリオレイルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジルフォスフォロチオネート、トリキシレニルフォスフォロチオネート、クレジルジフェニルフォスフォロチオネート、キシレニルジフェニルフォスフォロチオネート、トリス(n−プロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(n−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(s−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(t−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート等が挙げられる。
【0045】
(E2)酸性リン酸エステルとしては、具体的には、アルキル基が炭素数7〜18であるアルキルアシッドフォスフェート、アルキル基が炭素数4〜18であるジアルキルアシッドフォスフェート及びジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0046】
(E3)酸性リン酸エステルアミン塩としては、具体的には、前記酸性リン酸エステルと、炭素数1〜8のアルキル基を有するアミン、炭素数1〜8のアルキル基を2個有するアミン、及び炭素数1〜8のアルキル基を3個有するアミン、との塩が挙げられる。
【0047】
(E4)亜リン酸エステルとしては、具体的には、炭素数4〜12のアルキル基を2個有するジアルキルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、炭素数4〜12のアルキル基を3個有するトリアルキルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリクレジルホスファイトなどが挙げられる。
【0048】
本発明で用いる(E)成分としては、中でも合成エステル及び油脂基油中での効果が高いことから、(E1)硫黄含有リン酸エステル、(E2)酸性リン酸エステル、(E3)酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましく用いられる。
【0049】
本発明の難燃性油圧作動油組成物において、(E)成分を配合する場合、含有量は、組成物全量基準で、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%、さらに好ましくは1.5質量%である。含有量が5質量%を超える場合、熱安定性に劣り、スラッジ発生の原因となるので好ましくない。一方、(E)成分の含有量は、組成物全量基準で0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。(E)成分の含有量が0.001質量%に満たない場合は、耐摩耗性及び耐焼き付き性の向上が望めない。
【0050】
本発明の難燃性油圧作動油組成物は、さらにフェノール系酸化防止剤を併用することでより高い酸化防止性とスラッジ抑制性を付加することができる。フェノール系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のアルキルフェノール系化合物が使用可能であり、特に限定されるのもではないが、例えば、アルキルフェノール類及びビスフェノール類などのヒンダードフェノール型が好ましく、分子中にサルファイド基、エステル結合を含むものも好ましく使用される。
【0051】
本発明の難燃性油圧作動油組成物におけるフェノール系酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%、さらに好ましくは1.5質量%である。含有量が5質量%を超える場合、スラッジ発生の原因となるので好ましくない。一方、フェノール系酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。フェノール系酸化防止剤の含有量が0.01質量%に満たない場合は、十分な酸化防止効果の向上が望めない。
【0052】
本発明においては、上述したとおり、合成エステル及び油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油に、(B)成分、さらには(C)成分、(D)成分、(E)成分およびフェノール系酸化防止剤から選ばれる1種または2種以上の添加剤を配合するだけで、酸化防止性能及び耐摩耗性に優れる難燃性油圧作動油が得られるが、その性能をさらに向上させる目的で、必要に応じて、さらに前記以外の酸化防止剤、さび止め剤、前記以外の金属不活性化剤、前記以外の摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、抗乳化剤、スティックスリップ防止剤、油性剤等に代表される各種添加剤を単独で、又は数種類組み合わせて含有させても良い。
【0053】
(C)成分のアミン系酸化防止剤に加えて、他のアミン系酸化防止剤を併用してもよい。他の代表的なアミン系酸化防止剤としては、以下の式(5)で示すフェニル−α−ナフチルアミン類、あるいは式(6)で示すp,p’−ジアルキル化ジフェニルアミンが挙げられる。
【0054】
【化6】

[一般式(5)において、R11は水素原子又は炭素数1〜16のアルキル基を示す。]
【0055】
【化7】

[一般式(6)において、R12及びR13は、それぞれ個別に、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基を示す。]
【0056】
(C)成分以外のアミン系酸化防止剤の配合量は、組成物全量基準で0.001〜2.0質量%が望ましい。
【0057】
さび止め剤としては、具体的には、アミノ酸誘導体、多価アルコールの部分エステル;ラノリン脂肪酸エステル、アルキルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸エステル等のエステル類;ザルコシン;ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール部分エステル類;脂肪酸金属塩、ラノリン脂肪酸金属塩、酸化ワックス金属塩等の金属石けん類;カルシウムスルフォネート、バリウムスルフォネート等のスルフォネート類;酸化ワックス;アミン類;リン酸;リン酸塩等が例示できる。中でもアミノ酸誘導体は防錆効果が高いので好ましい。
【0058】
上記のアミノ酸誘導体としては、下記一般式(7)で示される化合物が挙げられる。
【0059】
【化8】

【0060】
上記式(7)中、Aは、下記式(8)又は式(9)で示される基であり、Bは、炭素数1〜12のアルキル基または下記式(10)で示される1価カルボン酸エステルの残基であり、R14は炭素数4〜12のアルキル基であり、R15は炭素数1〜10のアルキル基である。
17O−CO−R16− (8)
19O−CO−R18−CO− (9)
−C−CO−O−R20 (10)
(式(8)及び(9)中、R16は炭素数1〜12のアルキレン基、R18は炭素数1〜10のアルキレン基であり、R17及びR19は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基ある。式(10)中、R20は炭素数1〜10のアルキル基である。)
【0061】
本発明においては、これらのさび止め剤の中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で油圧作動油組成物に含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.001〜2.0質量%であるのが望ましい。
【0062】
(D)成分以外の金属不活性化剤としては、具体的には、イミダゾール系化合物等が例示できる。本発明においては、これらの金属不活性化剤の中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.0001〜1質量%であるのが望ましい。
【0063】
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物、エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物及びポリアルキルスチレン等の、いわゆる非分散型粘度指数向上剤等が例示できる。本発明においては、これらの粘度指数向上剤の中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.01〜10質量%であるのが望ましい。
【0064】
流動点降下剤としては、具体的には、各種アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物等が例示できる。本発明においては、これらの流動点降下剤の中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.01〜5質量%であるのが望ましい。
【0065】
その他、消泡剤としては、具体的には、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が例示できる。本発明においては、これらの消泡剤の中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.001〜0.05質量%であるのが望ましい。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール,ポリオキシアルキレンアルキルエーテル,ポリオキシアルキレンアルキルアミド,ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
スティックスリップ防止剤としては、具体的には、多価アルコールエステル(完全エステル、部分エステル)などが挙げられる。
油性剤としては、具体的には脂肪酸、エステル、アルコール等が挙げられる。通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.01〜0.5質量%であるのが望ましい。
【実施例】
【0066】
以下に本発明の内容を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に何ら限定されるものではない。なお、各組成物の引火点および各種試験は以下の方法に拠り測定した。
【0067】
[引火点]
JIS K 2265「原油及び石油製品−引火点試験方法(クリーブランド開放式)」に準拠して測定した。
[四球試験]
ASTM D 2783−88に規定する潤滑油の極圧性能測定用標準試験方法(四球法){Standard Test Method for Measurement of Extreme-Pressure Properties of Lubricating Fluids(Four- Ball Method}に準拠し、回転数1200min−1、荷重294N,油温75℃、試験時間1時間の条件で試験を実施し、3個の固定球の摩耗痕径(mm)の平均値を測定した。
[FZGギヤ試験]
ASTM D 5182にに準拠し、回転数1500min−1試験開始油温90℃で試験を開始し、各ステージで規定された重量でギヤに荷重をかけて15分間運転し、ギヤが焼き付く荷重のステージで油の耐焼き付き性の評価を行った。ギヤが焼き付いた荷重のステージを不合格と判定する。
[ベーンポンプ試験]
ASTM D 2882準拠し、100時間試験した後、試験前後のベーンとリングの重量を計測し、摩耗量(mg)を測定した。
[ドライTOST試験]
JIS K 2514に規定する「TOST法酸化安定度方法」に準拠し、規定の容器に試料油300mlを採取し、鉄および銅のコイル状触媒を加え、95℃の水浴槽で20日間、酸化安定性試験を行った。なお水は使用しない。試験中、少量づつ試料油を採取し、酸価増加(mgKOH/g)及びスラッジ量(mg/50mL)(一定量の試料油をフィルターでろ過し、残渣の重量から50mL当りに換算した)を測定した。
[亜鉛溶出試験]
JIS B 2301−1976に準拠し、規定されたねじ込み式可鍛鋳鉄製管継手1個を試料油200mLを採取したビーカー入れ、120℃で20日間浸漬試験を行う。試験後、試料油中の亜鉛溶出量(質量ppm)を測定して亜鉛の溶出性能を比較した。
【0068】
なお、実施例及び比較例で用いた成分は以下のとおりである。
(A)基油
A1:トリメチルロールプロパンとオレイン酸、オクチル酸及びデカン酸の混合脂肪酸のエステル(40℃の動粘度47.2mm/s、粘度指数180、不飽和率70モル%、酸価0.5)
A2:トリメチルロールプロパンとオレイン酸、オクチル酸及びデカン酸の混合脂肪酸のエステル(40℃の動粘度45.2mm/s、粘度指数185、不飽和率90モル%、酸価2.0)
A3:トリメチルロールプロパンと、オレイン酸、オクチル酸及びデカン酸の混合脂肪酸のエステル(40℃の動粘度34.2mm/s、粘度指数130、不飽和率10モル%、酸価0.3)
A4:ペンタエシスリトールと、オレイン酸、オクチル酸及びデカン酸の混合脂肪酸のエステル(40℃の動粘度66.2mm/s、粘度指数160、不飽和率70モル%、酸価1.0)
(B)金属腐食防止剤
B1:2,5−ビス(2エチルヘキシルジチオ)−1,3,4チアジアゾール
B2:2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4チアジアゾール
(C)酸化防止剤
C1:ビス(4−ジメチルアミノフェニル)メタン
C2:α−ナフチルアミン
C3:4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)
(D)窒素系金属不活性化剤
D1:N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−4−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン
D2:ベンゾトリゾール
(E)摩耗防止剤
E1: 2−エチルヘキシルアシッドホスフェート
E2:トリクレジルホスフェート
(F)その他の添加剤
F3:ソルビタンモノオレイエート
【0069】
表1および表2に示すように、エステルを構成する脂肪酸のうち不飽和脂肪酸の比率が10モル%の基油A3を用いた比較例4は、酸価が低いにも係わらず実施例6に比べて酸化安定性が悪く、特にスラッジ量が多い。
また、酸価が2.0mgKOH/gの基油A2を用いた比較例1〜3は、エステルを構成する脂肪酸のうち不飽和脂肪酸の比率が90モル%と高いにもかかわらず、実施例2や実施例5に比べて、亜鉛溶出量が多い。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の難燃性油圧作動油組成物は、アルミダイキャスト押し出し加工機や製鉄所構内作業など、火災発生の危険性が高く、高温かつ高圧下で使用される用途に最適で、かつ高圧ポンプへの適用可能な、耐摩耗性、スラッジ抑制性能に優れ、亜鉛溶出抑制に特に優れるため長期間使用可能であり、産業上きわめて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エステルを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸比率が20モル%以上で、かつエステルの酸価が1.0mgKOH/g以下である合成エステル及び油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油に、(B)アルキルチアジアゾールを組成物全量基準で0.001〜1.0質量%含有することを特徴とする難燃性油圧作動油組成物。
【請求項2】
(C)下記一般式(1)で示されるビス(4−ジアルキルアミノフェニル)メタンを組成物全量基準で0.001〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の難燃性油圧作動油組成物。
【化1】

〔R,R,R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜6のアルキル基である。〕
【請求項3】
(D)トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、およびトルトリアゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のトリアゾール化合物を組成物全量基準で0.0001〜1.0質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性油圧作動油組成物。

【公開番号】特開2011−102375(P2011−102375A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258668(P2009−258668)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】