説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物

【課題】1.0mm以下の薄肉で高度な難燃性を有し、機械的強度、流動性、耐薬品性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリフェニレンエーテル20〜95重量%とスチレン系樹脂5〜80重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、リン酸エステルを1〜30重量部配合した樹脂組成物であって、ポリフェニレンエーテルの極限粘度が0.42〜0.60dl/gで、Mw/Mnが3.1〜5.5である熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル、スチレン系樹脂及びリン酸エステル系難燃剤を含有する難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、薄肉成形品の難燃性に優れると共に、機械的強度、耐薬品性、成形性にも優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、熱的性質、機械的性質、電気的性質等諸特性に優れたエンジニアリングプラスチックであるが、溶融粘度が高いために成形加工性に劣り、耐衝撃性も劣るという欠点を有している。また、多くの樹脂材料に難燃性を具備することが求められるようになった。ポリフェニレンエーテルの成形加工性、耐衝撃性、難燃性の改良を目的として、スチレン系樹脂あるいはゴム変性スチレン系樹脂、さらには各種エラストマー類や難燃剤を配合する技術が多くの文献に開示されている。しかしながら、通常のポリフェニレンエーテルにスチレン系樹脂や難燃剤を配合しても、高度の成形加工性と難燃性の要求される用途を満足させることはできなかった。
【0003】
このため、特許文献1や特許文献2には、流動性、難燃性、耐熱性、及び耐衝撃性に優れ、より低い温度で形成できることにより成形サイクルの短縮化が可能な樹脂組成物として、(A)熱可塑性樹脂、(B)ポリフェニレンエーテル、及び(C)リン系難燃剤を含有する樹脂組成物であって、該(B)ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量(Mw)が30,000〜50,000であり、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とのMw/Mnが2.0〜3.0であることを特徴とする難燃耐熱耐衝撃性樹脂組成物が開示されている。しかし、特許文献1の実施例には、Mw/Mnが2.21のポリフェニレンエーテルに、スチレン系樹脂、リン酸エステル、PTFE、脂肪酸アミドを配合した樹脂組成物の難燃性として、1/12インチ(2.12mm)厚試験片で、UL−94に準拠したVB(Vertical Burning)法によりV−0とのデータが示されているが、2.0mm以下の薄肉試験片での評価は記載されていない。また、特許文献2の実施例では、1/8インチ(3.18mm)厚試験片で、V−2のデータであり、難燃性のランクとしては非常に低く、難燃性の要求される用途にはあまり使用できないと考えられる。
事実、本発明者等が、Mw/Mnが2.1のポリフェニレンエーテルにスチレン系樹脂、リン酸エステル、熱安定剤を配合した組成物の0.8厚試験片を用いて上記の燃焼性を評価した結果は、後述する様にV−2であり、特許文献1、2の樹脂組成物では薄肉成形品での使用には限界がある。
【0004】
特許文献3には、機械的性質と溶融成形加工時の流動性のバランスに優れたポリフェニレンエーテル樹脂組成物を得るためのポリフェニレンエーテルの生産性の良い製造方法として、ポリフェニレンエーテルの酸化重合を連続重合法で行うに際し、(a)メインの重合ラインで重合させた還元粘度0.4dl/g〜3.0dl/gのポリフェニレンエーテルと(b)メインの重合ラインからバイパスさせた還元粘度0.05dl/g〜0.6dl/gのポリフェニレンエーテルとを、(a)と(b)のポリフェニレンエーテルの重量比が1:99〜99:1の範囲となるよう、重合停止槽で合流、混合させ(a)のポリフェニレンエーテルの還元粘度が、(b)のポリフェニレンエーテルの還元粘度より少なくも0.1dl/g以上大きくなる条件で、(a)と(b)の重合を停止させることを特徴とするポリフェニレンエーテルの製造方法が開示されているが、流動性と耐薬品性の点で必ずしも満足できるものではなく、難燃性については全く記載がなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平06−057159号公報
【特許文献2】特開平09−328572号公報
【特許文献3】特開平11−012354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記のような問題点を解消し、薄肉成形品においても高度な難燃性を有し、機械的強度、流動性、耐薬品性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の分子量分布を持つポリフェニレンエーテルを使用することにより、1.0mm以下の薄肉で高度な難燃性を有し、流動性と耐薬品性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の要旨は、ポリフェニレンエーテル樹脂20〜95重量%とスチレン系樹脂5〜80重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、リン酸エステル系難燃剤を1〜30重量部配合した樹脂組成物であって、該ポリフェニレンエーテル樹脂が、極限粘度0.42〜0.60dl/gであり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが3.1〜5.5であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、1.0mm以下の薄肉でV−0の難燃性を有し、流動性と耐薬品性にも優れているので、厳しい難燃性と耐薬品性が求められる薄肉成形品、例えば、電気・電子・OA機器、その他各種機器の外板やハウジング、構造部品、機構部品等の材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられるポリフェニレンエーテルは、下記一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、2つのR は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、2つのRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、2つのR が共に水素原子になることはない。)で示される繰り返し単位を有するホモポリマーまたはコポリマーである。
ホモポリマーの具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル等の2,6−ジアルキレンエーテルの重合体が挙げられ、コポリマーとしては、各種2,6−ジアルキルフェノール/2,3,6−トリアルキルフェノール共重合体が挙げられるが、特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、2,6−ジメチルフェノール/2,3,6−トリメチルフェノール共重合体が好ましい
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に使用されるポリフェニレンエーテルは、極限粘度が0.42〜0.60dlである。なお、本発明において極限粘度は、30℃のクロロホルム中で測定した粘度から求めた値を意味する。ポリフェニレンエーテルの極限粘度が0.42dl/g未満では、薄肉成形品の難燃性や耐薬品性が低下し、0.60dl/gを越えると流動性(成形加工性)が低下するので好ましくない。また、本発明に使用されるポリフェニレンエーテルは、分子量分布、すなわち重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が3.1〜5.5のものである。Mw/Mnが3.1未満では薄肉成形品の難燃性が低下し、Mw/Mnが5.5を越えるポリフェニレンエーテルは、生産性が低下するので好ましくない。
【0013】
本発明に使用されるポリフェニレンエーテル樹脂の製造法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って、例えば、2,6−ジメチルフェノール等のモノマーをアミン銅触媒の存在下、酸化重合することにより製造され、その際反応条件を選択することにより,上記の極限粘度及びMw/Mnを所望の範囲に制御すればよい。極限粘度の制御は、重合温度、重合時間、触媒量等の条件を選択することにより達成できる。また本出願内容に適正なMw/Mnを有するポリフェニレンエーテル樹脂を得るには後述の製造例1に詳細に述べる様に、トルエン等を溶媒とした溶液重合反応によりポリフェニレンエーテル樹脂を得る場合に於いては、溶媒中での酸化重合反応が終了した触媒失活後の反応液を不活性ガス雰囲気下で更に攪拌する際、温度、時間等の条件を選択することにより達成できる。通常はこの時間が短いとMw/Mnの小さいポリフェニレンエーテルが得られ、一定以上であると大きい値を有するポリフェニレンエーテルが得られる。あるいは極限粘度及び/または分子量分布の異なる2種以上のポリフェニレンエーテルを混合して上記の極限粘度及び/またはMw/Mnとすることも出来る。
【0014】
本発明で使用されるスチレン系樹脂は、ポリスチレン、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS樹脂)、水添スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(水添SBS)、水添スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SEPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES樹脂)およびスチレン・IPN型ゴム共重合体等の樹脂、または、これらの混合物が挙げられる。さらにシンジオタクティクポリスチレン等のように立体規則性を有するものであってもよい。これらの中でも、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)が好ましい。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分は、ポリフェニレンエーテル20〜95重量%と、スチレン系樹脂80〜5重量%からなり、ポリフェニレンエーテルが20重量%より少ないと、難燃性、荷重撓み温度及び機械的強度が低下する。また、ポリフェニレンエーテルが95重量%を越えると熱可塑性樹脂組成物の流動性が著しく低下し、成形工程において実用に耐えない。
【0016】
本発明に使用されるリン酸エステル系難燃剤としては、リン酸エステル、縮合リン酸エステルから選ばれ、2種以上の化合物を併用することもできる。具体例としては、フェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル−p−tert−ブチルフェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、クレジル・キシレル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等の縮合リン酸エステル類;リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニル2エチルクレジル、リン酸トリ(イソプロピルフェニル)、メチルホスホン酸ジフェニルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリブチル等が挙げられる。これらの化合物は、公知の方法で、オキシ塩化燐等から製造することができる。
【0017】
本発明組成物中のリン酸エステルの配合量は、ポリフェニレンエーテル及びスチレン系樹脂の合計100重量部に対して1〜30重量部、好ましくは3〜25重量部、特に好ましくは5〜20重量部である。リン酸エステルの配合割合が1重量部未満では、難燃効果が小さく、30重量部を越えると荷重撓み温度が低下したり、モールドデポジットがひどくなるので好ましくない。
【0018】
本発明組成物は、上記のポリフェニレンエーテル、スチレン系樹脂、リン酸エステル系難燃剤を必須成分として含有するが、必要に応じその他の添加物を配合しても良い。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、組成物の製造及び成形工程における溶融混練時や使用時の熱安定性を向上させる目的で、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種の熱安定剤を配合することが好ましい。
【0019】
ヒンダードフェノール系化合物の具体例として、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)等が挙げられる。これらの中で、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンが好ましい。
【0020】
ホスファイト系化合物の具体例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノおよびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト 、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)等が挙げられ、好ましくは、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等である。
【0021】
ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、酸化亜鉛から選ばれた1種以上の安定剤の配合量は、ポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂の合計100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.03〜3重量部である。安定剤の配合量が0.01重量部未満では、熱安定性の改善効果が小さく、5重量部を越えるとモールドデポジットが発生したり、機械的強度の低下や経済的なデメリットが大きくなり好ましくない。
【0022】
上記以外の添加剤成分としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、滑剤、流動性改良剤、耐衝撃性改良剤、染料、顔料、充填剤、補強剤、分散剤等が挙げられる。充填剤や補強剤としては、有機充填剤、無機充填剤、有機補強剤、無機補強剤等が例示され、具体例としては、ガラス繊維、マイカ、タルク、ワラストナイト、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、シリカ等が挙げられる。充填剤及び補強剤の配合は、剛性、耐熱性、寸法精度等の向上に有効である。充填剤及び補強剤の配合割合としては、ポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂との合計100重量部に対し、好ましくは1〜80重量部であり、より好ましくは5〜60重量部である。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造は、特定の方法に限定されるものではないが、好ましくは溶融混練によるものであり、熱可塑性樹脂について一般に実用化されている混練方法が適用できる。例えば、ポリフェニレンエーテル、スチレン系樹脂、熱安定剤、必要に応じてその他の成分等と共に、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で混練することができる。各成分は混練機に一括でフィードしても、順次フィードしてもよく、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合したものを用いてもよい。
混練温度と混練時間は、望まれる樹脂組成物や混練機の種類等の条件により、任意に選ぶことができるが、通常、混練温度は200〜350℃、好ましくは220〜320℃、混練時間は20分以下が好ましい。350℃又は20分を超えると、ポリフェニレンエーテルやスチレン系樹脂の熱劣化が問題となり、成形品の物性の低下や外観不良を生じることがある。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち射出成形、射出圧縮成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形、プレス成形等の各種成形法によって成形することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、1.0mm以下の薄肉で高度な難燃性を有し、流動性、耐薬品性にも優れているので、例えば、電気・電子・OA機器、その他各種機器の外板やハウジング、構造部品、機構部品等の厳しい難燃性と耐薬品性が求められる薄肉成形品の材料として有用である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の例で使用した材料、得られた樹脂組成物の評価法及び試験片の成形条件は次の通りである。
<材料>
【0026】
(1)ポリフェニレンエーテル(A):製造例1により製造、以下PPE(A)と略記することがある。
(2)ポリフェニレンエーテル(B):製造例2により製造、以下PPE(B)と略記することがある。
(3)スチレン系樹脂:ハイインパクトポリスチレン、分子量(Mw)200,000、MFR3.2g/10分、日本ポリスチレン社製「HT478」、以下、HIPSと略記することがある。
(4)難燃剤;トリフェニールホスフェート
【0027】
(5)熱安定剤;トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、旭電化(株)製「アデカスタブ2112」、以下、安定剤1と略記することがある。
(6)熱安定剤;ヒンダードフェノール系化合物:ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバスペシャリティケミカルズ社製「イルガノックス1010」、以下、安定剤2と略記することがある。
<ポリフェニレンエーテルの評価法>
【0028】
(1)極限粘度:ポリフェニレンエーテル濃度0.5g/dl以下のクロロホルム溶液を調製し、30℃においてウベローデ型の粘度計を用いて、異なる濃度における比粘度を測定し、濃度を0に外挿して極限粘度を算出した。
(2)分子量分布(Mw/Mn):重合後、乾燥して得られた、ポリフェニレンエーテル約20mgをクロロホルムに完全に溶解した後、0.45μmのフィルターでろ過して下記装置を用いて測定した。
使用装置;東ソー社製HPL8020シリーズ
カラム; TSK G5000HHR+G3000HHR
使用溶媒;クロロホルム
検出器; UV 283nm
<熱可塑性樹脂組成物の評価法>
【0029】
(1)試験片の成形条件:樹脂組成物のペレットを100℃で5時間乾燥後、住友重機械社製SG125型射出成形機により、金型温度80℃、シリンダー設定温度260〜290℃、射出圧力100MPa、成形サイクル40秒で、ASTM−D638規定タイプ1の3.2mm厚引張試験片、63.5×12.7×3.2mmアイゾット衝撃試験片、UL規格−94に準拠した0.8mm燃焼性試験片を成形した。
(2)引張り伸び:ASTM−D638に準ずる。
(3)ノッチ付アイゾット衝撃強度:ASTM−D256に準ずる。以下、ただ単に衝撃強度と略記することがある。
(4)燃焼性試験:UL規格−94に準拠したVB(Vertical Burning)法。
【0030】
(5)耐薬品性試験:上記(1)で成形した引張試験片に1.0%の撓みを与え、以下の
薬品を塗布して23℃で72時間処理後、引張り伸び(L1)を測定した。L1と未処理試験片の引張り伸び(L0)との比から、引張り伸びの保持率Hを次式により求め、Hが大きいほど耐薬品性に優れていることになる。
薬品A:トヨタ自動車、ブレーキフルード2400G.DOT3
薬品B:ホンダ、ウルトララジエター液
薬品C:ダウ・コーニング社製グリース「モリコート1000」
【0031】
H=(L1/L0)×100%
【0032】
(6)流動性試験:樹脂組成物のペレットを100℃で5時間乾燥後、住友重機械社製SG125型射出成形機により金型温度80℃、シリンダー設定温度280℃、射出圧力100MPa、金型10mm幅×2mm厚の条件で流動長を測定した。
【0033】
〔ポリフェニレンエーテルの製造例1〕
反応器底部に酸素含有ガス導入のためのスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに凝縮液分離のためのデカンターを底部に付属させた還流冷却器を備えた10リットルのジャケット付きオートクレーブ反応器に、1.4172gの酸化第一銅、8.5243gの47%臭化水素水溶液、16.5277gのN,N−ジ−n−ブチルアミン、41.9196gのN,N−ジメチル−n−ブチルアミン、3.4139gのN,N’−ジ−t−ブチルエチレンジアミン、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド1.00g及び2770.3gのトルエンを入れ、初期仕込み液を作成した。次いで、反応器気相部に窒素を導入し、反応器気相部の絶対圧力を0.108MPaに制御した。
【0034】
続いて、酸素を窒素で希釈して作った、絶対圧力が0.108MPaでその酸素濃度が70%のガスを、スパージャーより導入し、以後重合中も含めて反応器気相部に窒素を導入しながら、窒素と上記ガスとにより、反応器気相部の絶対圧力が0.108MPaに維持される様に、コントロールバルブを制御した。上記ガスの導入速度は3.45Nl/minでおこなった。上記ガスの導入を開始してから直ちに、1100gの2,6−ジメチルフェノールを1056.9gのトルエンに溶かした溶液を、プランジャーポンプを用いて30分で全量を投入し終わる速度で、添加を開始した。重合温度は40℃を保つようにジャケットに熱媒体を通して調節した。ガス導入開始後約140分で、酸素含有ガスに代えて窒素を導入すると共に、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム(EDTA4ナトリウム)5%の水溶液500gを反応液に添加し攪拌した。その後反応溶液の温度が70℃になる様に熱媒体でコントロールしながら、攪拌を2時間継続した。
【0035】
攪拌を停止した後、静置分離した水溶液を系外に排出し、更に純水250gを反応液に添加して10分間攪拌し、10分間静置した後に分離した水層を系外に排出した。その後、得られた反応液にほぼ等容のメタノールを添加してポリフェニレンエーテルを沈殿させた。沈殿をろ取し、更に適量のメタノールで洗浄した後、140℃程度で1時間強乾燥させ、粉末状ポリフェニレンエーテルを得た。
【0036】
得られたポリフェニレンエーテル(A)(PPE(A))の評価結果を次に示す。
極限粘度: 0.48dl/g、
Mw/Mn:3.8。
【0037】
〔ポリフェニレンエーテルの製造例2〕
製造例1と同じ条件下に酸素を窒素で希釈して作った、絶対圧力が0.108MPaでその酸素濃度が70%のガスを導入して2,6−ジメチルフェノールの重合反応を行った。ガス導入開始後、約115分で、酸素含有ガスに代えて窒素を導入すると共に、反応器にエチレンジアミン4酢酸ナトリウム(EDTA4ナトリウム)5%の水溶液500gを反応液に添加し攪拌した。攪拌を停止した後、静置分離した水溶液を系外に排出し、更に純水250gを反応液に添加して10分間攪拌し、10分間静置した後に分離した水層を系外に排出した。その後、得られた反応液にほぼ等容のメタノールを添加してポリフェニレンエーテルを沈殿させた。沈殿をろ取し、更に適量のメタノールで洗浄した後、140℃程度で1時間強乾燥させ、粉末状ポリフェニレンエーテルを得た。
得られたポリフェニレンエーテル(B)(PPE(B))の評価結果を次に示す。
極限粘度: 0.48dl/g、
Mw/Mn:2.1。
【0038】
〔実施例1〜2、比較例1〜2〕
表1に示す割合で秤量した原材料をタンブラーミキサーにて均一に混合し、二軸押出機(スクリュウ径30mm、L/D=42)のホッパーに投入し、シリンダー温度250℃、スクリュー回転数400rpmの条件にて、溶融混合させてペレット化した。このペレットを用い、前記試験片を成形し、樹脂組成物の評価試験法により評価し、その結果を表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかな様に、本発明に規定する分子量分布を有するポリフェニレンエーテルを使用した実施例1及び2の熱可塑性樹脂組成物は、引張り伸び、アイゾット衝撃強度、耐薬品性、流動性、に優れると共に、特に薄肉の0.8mmにおける難燃性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル樹脂20〜95重量%とスチレン系樹脂5〜80重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、リン酸エステル系難燃剤を1〜30重量部配合した樹脂組成物であって、該ポリフェニレンエーテル樹脂が、極限粘度0.42〜0.60dl/gであり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが3.1〜5.5であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−143958(P2006−143958A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338772(P2004−338772)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】