説明

難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法、難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子及び難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体

【課題】樹脂粒子中に難燃剤を均一に含有し、発泡性に優れ、予備発泡時のブロッキングが少なく、成形時の熱融着性に優れた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の提供。
【解決手段】アクリル酸エステルとスチレン系単量体との共重合体を含有する樹脂粒子に発泡剤と難燃剤を含ませてなる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ATR法赤外分光分析により1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(A)と、同様に樹脂粒子の中心部を分析し算出される吸光度比(B)とが、(A)<(B)、且つ(A)が0.5以下であり、且つ表層部分に含まれる難燃剤濃度をa(質量%)とし、樹脂粒子の全体に含まれる難燃剤濃度をb(質量%)とすると、a≦1.1×bであり、bが0.30〜2.00質量%の範囲内である難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材用途、自動車部材、緩衝材として有用な難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造に用いる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体の製造方法に関する。更に詳しくは、熱融着性が良好な成形体を製造するのに最適な難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法、難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子及び難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、梱包剤、建材用途、自動車部材、緩衝材に用いられる発泡プラスチックとしては、優れた断熱性,経済性,緩衝性をもつポリスチレン系樹脂発泡成形体が多く使用されている。
【0003】
一般に、工業的に行われているポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法は、揮発性発泡剤等を含有した、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子をスチーム等の熱媒体により加熱し、所望の嵩密度まで発泡(予備発泡)させた後、成形型のキャビティ内に充填して再度加熱し、型内発泡成形してポリスチレン系樹脂発泡成形体とする方法が行なわれている。
【0004】
一方、前記ポリスチレン系樹脂発泡成形体は燃えやすいといった問題点を有している。特に、建築材料、自動車部材に用いられる場合には、火災の延焼の原因にもなる。そのため、一定の基準の難燃性が求められており、ポリスチレン系樹脂発泡成形体に難燃剤を添加し、この問題の解決を図っている。
【0005】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に難燃剤を含有させる方法として、粉末状の難燃剤を反応容器(オートクレーブ)へ直接添加する方法があるが、この方法では粉末状の難燃剤が懸濁液中で二次凝集を起こすことによって、難燃剤の懸濁液中における分散が不均一となり、その結果、難燃剤の樹脂粒子への吸収が不均一となってしまい、一部の樹脂粒子が難燃剤を多く吸収してしまうという問題を生じた。
【0006】
このような難燃剤を多く含有する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は耐熱性に劣ることから、発泡成形時の加熱に耐え切れずに収縮して成形体の外観を悪化させるだけでなく、熱融着性に劣り、成形体強度が低下する。また、不均一に粒子に難燃剤が含有されるため、十分な難燃性を確保するために大量の難燃剤が必要とされる。
【0007】
このような問題点を解決するために特許文献1、2には、難燃剤粉末をあらかじめ水中に分散させた分散液を反応容器(オートクレーブ)へ添加する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−255946号公報
【特許文献2】特開2004−346281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、難燃剤は、界面活性剤の存在下にて撹拌下で水中に分散可能であるが、難燃剤を分散させた分散液をタンクから反応釜(オートクレーブ)へ送る時には分散液は攪拌されておらず、その結果、タンクの下部や配管ラインに難燃剤が沈降し、配管ラインが閉塞する危険性があるといった問題点の他に、得られる発泡性スチレン系樹脂粒子の表面付近に多くの難燃剤が存在しがちになり、この難燃剤によって予備発泡時に二次発泡粒子同士が融着し結合してしまう、所謂、ブロッキングが発生し易いといった問題点を有していた。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、樹脂粒子中に難燃剤を均一に含有し、発泡性に優れ、予備発泡時のブロッキングが少なく、成形時の熱融着性に優れた難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を達成するため、本発明は、アクリル酸エステルとスチレン系単量体との共重合体を含有する樹脂粒子に発泡剤と難燃剤を含ませてなる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ATR法赤外分光分析により前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(A)とATR法赤外分光分析により前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の中心部を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(B)とが、(A)<(B)であり、且つ(A)が0.5以下である関係を満たし、且つ含有される難燃剤が難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表層部分に含まれる難燃剤濃度をa(質量%)とし、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全体に含まれる難燃剤濃度をb(質量%)とすると、a≦1.1×bの関係を満たし、且つ難燃剤濃度bが0.30〜2.00質量%の範囲であることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供する。
【0012】
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記吸光度比(B)が0.20〜0.60の範囲内であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱し予備発泡させて得られた難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を提供する。
【0014】
また本発明は、前記難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、加熱し型内発泡成形して得られた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を提供する。
【0015】
また本発明は、
(1)ポリスチレン系樹脂種粒子を水中に分散させてなる分散液中に、ポリスチレン系樹脂種粒子100質量部に対し、スチレン系単量体7.0〜80.0質量部とアクリル酸エステル単量体2.0〜12.0質量部とを供給し、これらの単量体を種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第1重合工程と、
(2)次いで、該分散液中にスチレン系単量体のみを供給し、これを種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第2重合工程と、
(3)第2重合工程を行ってポリスチレン系樹脂粒子を製造した後、又はポリスチレン系樹脂粒子の成長途上で発泡剤及び可塑剤に溶解させた難燃剤を含浸させて前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る工程とを有する難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生産性に優れ、外観の美麗性に優れた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ATR法赤外分光分析による難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比の測定において、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面の吸光度測定位置を示す概略図である。
【図2】ATR法赤外分光分析による難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比の測定において、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の中心部の吸光度測定位置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法としては、ポリスチレン系樹脂種粒子を水中に分散させてなる分散液中に、ポリスチレン系樹脂種粒子100質量部に対し、スチレン系単量体7.0〜80.0質量部とアクリル酸エステル系単量体2.0〜12.0質量部とを供給し、これらの単量体を種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第1重合工程と、次いで、該分散液中にスチレン系単量体のみを供給し、これを種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第2重合工程と、第2重合工程を行ってポリスチレン系樹脂粒子を製造した後、又はポリスチレン系樹脂粒子の成長途上で発泡剤と可塑剤に溶解させた難燃剤を含浸させる工程とを行って難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることを特徴としている。
【0019】
本発明の製造方法において、ポリスチレン系樹脂種粒子(以下、種粒子と略記する)の材料であるポリスチレン系樹脂としては、スチレン又はスチレン誘導体から選ばれるスチレン系単量体の単独または共重合体が挙げられる。ここで、スチレン誘導体としては、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。更に、前記ポリスチレン系樹脂としては、前記スチレン系単量体成分を主成分とすれば、前記スチレン系単量体と共重合可能なビニル単量体を併用した共重合体であってもよく、このようなビニル単量体としては、例えば、o−ジビニルベンゼン、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体;α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、多官能性単量体が好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、nが4〜16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンがより好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。なお、前記スチレンと共重合可能な単量体は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
また、種粒子は一部、または全部にポリスチレン系樹脂回収品を用いることができる。更に種粒子の粒径は、作製する難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の平均粒子径等に応じて適宜調整でき、例えば平均粒子径が1.0mmの難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を作製する場合には平均粒子径が0.4〜0.7mm程度の種粒子を用いることが好ましい。更に種粒子の重量平均分子量は特に限定されないが15万〜70万が好ましく、更に好ましくは20万〜50万である。
【0021】
本発明の製造方法に使用するスチレン系単量体としては、スチレン、またはスチレン誘導体が挙げられる。ここで、スチレン誘導体としては、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられるが、これらの中でもスチレンが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法に使用するアクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル等が挙げられ、これらの中でもアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシルが好ましい。
【0023】
第1重合工程に用いられるスチレン系単量体の量は、種粒子100質量部に対して、7.0〜80.0質量部の範囲とする。7.0質量部未満の場合は成形時の耐熱性が低下し、80.0質量部を超えると発泡性が低下する。
【0024】
また、第1重合工程で使用するアクリル酸エステル系単量体の量は、種粒子100質量部に対して2.0〜12.0質量部とする。2.0質量部未満では発泡性に劣り、12.0質量部を超えると成形体の強度が低下する。
【0025】
更に、本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法では、水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前に或いは含浸中に、可塑剤に粉末状の難燃剤を加熱して溶解させてなる難燃剤溶解液を前記水性懸濁液中に供給して、ポリスチレン系樹脂粒子に難燃剤を加圧下にて含浸させる。
【0026】
前記難燃剤溶解液は、可塑剤に粉末状の難燃剤を加え、加熱して溶解させて調製することができる。このような可塑剤としては、粉末状の難燃剤を加熱することによって溶解させることができれば、特に限定されず、例えば、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ジブチル、スチレン、トルエン、エチルベンゼン、シクロヘキサンなどが挙げられ、アジピン酸ジイソブチルが好ましい。
【0027】
そして、難燃剤溶解液を作製する可塑剤の量は、少ないと、難燃剤を完全に溶解させることが出来ず、ポリスチレン系樹脂粒子に不均一に吸収されてしまう他、発泡性が低下することがある一方、多いと、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂中の耐熱性が低下することがあり、発泡時のブロッキングや成形体の外観の悪化の原因となることがあるため、難燃性発泡性樹脂粒子100質量部に対して0.2〜2.0質量部が好ましく、0.5〜1.0質量部がより好ましい。
【0028】
そして、前記粉末状の難燃剤としては、ポリスチレン系樹脂粒子中に含浸させる条件下において他の媒体に溶解させない状態で存在した場合に粉末状であれば、特に限定されず、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、テトラブロモブタン、ヘキサブロモシクロヘキサンなどの臭素化脂肪族炭化水素系化合物、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールF、2,4,6−トリブロモフェノールなどの臭素化フェノール類、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどの臭素化フェノール誘導体などが挙げられ、臭素化脂肪族炭化水素系化合物が好ましく、テトラブロモシクロオクタン(以下、TBCOと記す。)がより好ましい。
【0029】
上述の難燃剤溶解液は次のようにして製造されたものである。可塑剤中に粉末状の難燃剤を加熱して難燃剤の全量を溶解させて難燃剤溶解液を作製する。この際、可塑剤中に粉末状の難燃剤を添加した後に可塑剤を加熱して攪拌しながら難燃剤を可塑剤中に溶解させても、或いは、可塑剤を予め加熱した上で可塑剤中に粉末状の難燃剤を添加して攪拌しながら溶解させてもよい。
【0030】
なお、可塑剤中に粉末状難燃剤が全量、溶解されたか否かについては、可塑剤中に難燃剤粉末の浮遊又は沈殿が存在せず、透明な溶液であることが目視にて確認できた場合には、可塑剤中に粉末状の難燃剤が全量、溶解されたものと判断し、そうでない場合には、可塑剤中に粉末状の難燃剤が全量、溶解されていないものと判断する。
【0031】
更に、水性懸濁液中に難燃剤分散液を供給するにあたって、得られる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における難燃剤の含有量が、難燃剤を含浸させるポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは0.3〜2.0質量部となるように、より好ましくは0.5〜1.5質量部となるように、特に好ましくは0.7〜1.0質量部となるように調整することが好ましい。これは、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子における難燃剤の含有量が少ないと、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の難燃性が低下することがある一方、多いと、得られる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の熱融着性や発泡成形性が低下して、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の外観が低下することがある。
【0032】
更に、前記難燃剤溶解液は水性媒体中に分散させて分散体としてもよく、このように難燃剤溶解液を水性媒体中に分散させることによって、難燃剤溶解液を水性媒体中にて更に微分散化させて微細な液滴状とすることができ、ポリスチレン系樹脂粒子を分散させた水性懸濁液中に、難燃剤溶解液をより微細化した状態にして分散化させることができ、難燃剤をポリスチレン系樹脂粒子中により均一に含浸させることができる。
【0033】
なお、水性媒体は、ポリスチレン系樹脂粒子を分散させている水性懸濁液と相溶性を有するものであれば、特に限定されず、例えば、水、アルコールなどが挙げられるが、ポリスチレン系樹脂粒子を分散させてなる水性懸濁液の水性媒体と同一のものが好ましい。
【0034】
そして、難燃剤溶解液を分散させる水性媒体の量は、少ないと、難燃剤溶解液を水性媒体中に安定的に分散させることができないことがある一方、多いと、ポリスチレン系樹脂中への難燃剤の含浸効率が低下することがあるので、難燃剤分散液中の可塑剤100質量部に対して100〜5000質量部が好ましく、300〜1000質量部がより好ましい。
【0035】
又、難燃剤分散液を水性媒体中に分散させる場合、水性媒体中に、難燃剤溶解液と水性媒体との間における界面エネルギーを低下させて、難燃剤溶解液を水性媒体中により安定的に分散させるために界面活性剤を含有させてもよい。
【0036】
このような界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩、β−テトラヒドロキシナフタレンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤;アルキルアンモニウム酢酸塩類、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩類、アルキルトリメチルアンモニウム塩類、ジアルキルジメチルアンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩類、オキシアルキレンアルキルアミン類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類などのカチオン界面活性剤;脂肪酸ジエタノールアミド類、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール類、ポリエーテル変性シリコーン類などのノニオン界面活性剤などが挙げられ、アニオン界面活性剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましい。なお、界面活性剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0037】
そして、界面活性剤の使用量は、少ないと、水性媒体中における難燃剤溶解液の分散性が向上しない一方、多いと、界面活性剤に起因した泡立ちが過剰になり、生産上のトラブルが発生する虞れがあるので、難燃剤溶解液中の可塑剤100質量部に対して0.004〜4質量部が好ましい。
【0038】
又、難燃剤溶解液を水性媒体中に分散させる場合、水性媒体中に難水溶性無機塩を含有させることが好ましく、このような難水溶性無機塩としては、例えば、第三リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられ、ピロリン酸マグネシウムが好ましい。
【0039】
そして、難水溶性無機塩の使用量は、少ないと、水性媒体中における難燃剤溶解液の分散性が低下することがある一方、多いと、難燃剤溶解液を分散させてなる分散液の粘性が上昇して、難燃剤溶解液を水性媒体中に均一に分散させることができないことがあるので、難燃剤溶解液中の可塑剤100質量部に対して0.2〜10質量部が好ましい。
【0040】
本発明において難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中に含有させる発泡剤は、従来からポリスチレン系樹脂の発泡に用いられているものであれば、特に限定されず、例えばイソブタン、n−ブタン、イソペンタン、ネオペンタン等の炭素数5以下の脂肪族炭化水素等の揮発性発泡剤(物理型発泡剤)が挙げられ、ブタン系発泡剤が好ましい。
【0041】
更に、前記発泡剤の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における含有量は、少ないと、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子から所望の密度のポリスチレン系樹脂発泡成形体を得ることができないと共に型内発泡成形時の二次発泡力を高める効果が得られないために、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の外観性が低下し、又、多いと、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造工程における冷却工程に要する時間が長くなって生産性が低下するので、2.5〜5.0質量%の範囲とされ、2.7〜4.8質量%の範囲が好ましい。
【0042】
なお、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を150℃の熱分解炉に入れ、この熱分解炉で発生した炭化水素量をガスクロマトグラフにて測定することができる。
【0043】
なお、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子には、物性を損なわない範囲内において、発泡助剤、可塑剤、難燃助剤、結合防止剤、気泡調整剤、架橋剤、充填剤、滑剤、着色剤等の添加剤を添加してもよく、又、ジンクステアレート等の粉末状金属石鹸類を前記発泡性スチレン樹脂粒子の表面に塗布しておけば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の予備発泡工程においてポリスチレン系樹脂予備発泡粒子同士の結合を減少させることができて好ましい。
【0044】
本発明の製造方法で使用する重合開始剤としては、従来からスチレン系単量体の重合に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−t−ブチルパーオキシブタン、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられ、得られるポリスチレン系樹脂のZ平均分子量Mzや質量平均分子量Mwを調整して残存単量体を低減させるために、10時間の半減期を得るための分解温度が80〜120℃にある異なった二種以上の重合開始剤を併用することが好ましい。なお、前記重合開始剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0045】
更に、本発明の製造方法において、スチレン系単量体の小滴及び種粒子を水性媒体中に分散させる為に用いられる懸濁安定剤としては、従来からスチレン系単量体の懸濁重合に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機化合物等が挙げられる。そして、前記懸濁安定剤として難溶性無機化合物を用いる場合には、アニオン界面活性剤を併用するのが好ましく、このようなアニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシルアミノ酸またはその塩、アルキルエーテルカルボン酸塩などのカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルフォン酸塩等のスルフォン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、第二級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩;アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0046】
前記ポリスチレン系樹脂粒子は球状であるのが好ましく、該樹脂粒子の粒径は、成形型内への充填性等を考慮すると、0.3〜2.0mmが好ましく、0.3〜1.4mmがより好ましい。
【0047】
なお、前記ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤及び発泡助剤及び難燃剤を含浸させる際の温度は、低いと、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤及び発泡助剤及び難燃剤を含浸させるのに要する時間が長くなって生産効率が低下することがあり、又、高いと、ポリスチレン系樹脂粒子同士が融着して結合粒が発生することがあるので、60〜120℃が好ましく、70〜100℃がより好ましい。
【0048】
次に、前記製造方法で得られた本発明に係る難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子について説明する。
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体との共重合体を含有し、ATR法赤外分光分析により前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(A)とATR法赤外分光分析により前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の中心部を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(B)とが、(A)<(B)であり、且つ(A)がA≦0.50である関係を満たし、且つ前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表層部分に含まれる難燃剤濃度をa(質量%)とし、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全体に含まれる難燃剤濃度をb(質量%)とすると、a≦1.1×bの関係を満たすことを特徴としている。
【0049】
ATR法赤外分光分析とは、全反射吸収を利用する1回反射型ATR法により赤外吸収スペクトルを測定する分析方法である。
この分析方法は、高い屈折率を持つATRプリズムを試料に密着させ、ATRプリズムを通して赤外線を試料に照射し、ATRプリズムからの出射光を分光分析する方法である。ATR法赤外分光分析は、試料とATRプリズムを密着させるだけでスペクトルを測定できるという簡便さ、深さ数μmまでの表面分析が可能である等の理由で高分子材料等の有機物をはじめ、種々の物質の表面分析に広く利用されている。
【0050】
本発明では、ATR法赤外分光分析により、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面と中心部とを分析し、得られた赤外吸収スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求める。そして前記各吸光度の値から樹脂粒子の表面の吸光度比(A)と樹脂粒子の中心部の吸光度比(B)とを算出する。
なお、赤外吸収スペクトルから得られる1600cm−1での吸光度D1600は、ポリスチレン系樹脂に含まれるベンゼン環の面内振動に由来する1600cm−1付近に現れるピーク高さをいう。
また、赤外吸収スペクトルから得られる1730cm−1での吸光度D1730は、アクリル酸エステル系樹脂に含まれるエステル基C=0間の伸縮振動に由来する1730cm−1付近に現れるピーク高さをいう。
【0051】
また表面の吸光度比は、図1に示すように難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子1の表面AについてATR法赤外分光分析により測定して求めた値であり、また中心部の吸光度比は、図2に示すように難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子1をその中心を通って切断した断面の中心部BについてATR法赤外分光分析により測定して求めた値である。
【0052】
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、前述したように算出された樹脂粒子の表面の吸光度比(A)と樹脂粒子の中心部の吸光度比(B)とが、
(A)<(B)であり、且つ(A)がA≦0.50である、との関係を満たすことを特徴としている。
即ち、本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、粒子の直径方向において、含有されているスチレン−アクリル酸エステル共重合体成分の割合が、中心部で濃度が高く、表層側で低濃度となる。
【0053】
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、前述したようにスチレン−アクリル酸エステル共重合体成分の分布構造を有していることから、発泡性能が高く、熱融着性が良好な発泡成形体が得られる。樹脂粒子の表面の吸光度比(A)と樹脂粒子の中心部の吸光度比(B)との関係((A)<(B))を満たさない場合は、得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡性能が劣り、低密度の発泡成形体が得にくくなる。
【0054】
前記表面の吸光度比(A)は、A≦0.50であり、A≦0.47がより好ましい。表面の吸光度比(A)が0.5を超えると、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表層側でスチレン−アクリル酸エステル共重合体成分が高くなることから、高発泡倍数で予備発泡した場合にブロッキングを起こしうることがあり好ましくない。
【0055】
前記中心部の吸光度比(B)は0.20〜0.60の範囲が好ましく、更に好ましくは0.30〜0.60の範囲である。中心部の吸光度比(B)が0.20未満であると発泡性能が劣り、また中心部の吸光度比(B)が0.60を超えると発泡時の収縮の要因になるほか発泡成形体強度が低下する。
【0056】
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は難燃剤を含有しており、難燃剤濃度は難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表層部分に含まれる難燃剤濃度をa(質量%)とし、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全体に含まれる難燃剤濃度をb(質量%)とすると、a≦1.1×bの関係を満たし、好ましくはa≦1.05×bである。
a>1.1×bとなると粒子表層部分の耐熱性が低下し、発泡時のブロッキング、成形体の外観の悪化の要因となるため好ましくない。また、粒子全体に含まれる難燃剤濃度bは0.30〜2.00質量%の範囲にある。粒子全体の難燃剤濃度が0.3質量%を下回ると、発泡成形品に十分な難燃性が得られず、2.00質量%を上回ると粒子の耐熱性が悪化し、発泡時のブロッキングや、成形時の外観の悪化の要因となる。
【0057】
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、前述した本発明に係る製造方法により効率良く製造することができるが、製造方法はそれに限定されない。
【0058】
前述した本発明に係る製造方法により得られた難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡樹脂成形体の製造分野において周知の装置及び手法を用い、水蒸気加熱等により加熱して予備発泡し、難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子とする。この予備発泡粒子は、製造するべき発泡成形体の密度と同等の嵩密度となるように予備発泡される。本発明に係る製造方法において、その嵩密度は0.010〜0.100g/cmの範囲内であり、0.014〜0.033g/cmの範囲内が好ましい。
【0059】
なお、本発明において難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子の嵩密度とは、JIS K6911:1995年「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して測定されたものをいう。
<予備発泡粒子の嵩密度>
先ず、難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を測定試料としてWg採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させ、メスシリンダー内に落下させた測定試料の体積VcmをJIS K6911に準拠した見掛け密度測定器を用いて測定し、下記式に基づいてポリスチレン系樹脂予備発泡粒子の嵩密度を測定する。
嵩密度(g/cm)=測定試料の質量(W)/測定試料の体積(V)
【0060】
前記難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子は、発泡樹脂成形体の製造分野において周知の装置及び手法を用い、難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、水蒸気加熱等により加熱して型内発泡成形し、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造する。
本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の密度は、0.010〜0.100g/cmの範囲内であることが好ましく、0.014〜0.033g/cmの範囲内がより好ましい。
【0061】
なお、本発明において難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の密度とは、JIS K7122:1999「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の測定」記載の方法で測定した密度のことである。
<発泡成形体の密度>
50cm以上(半硬質および軟質材料の場合は100cm以上)の試験片を材料の元のセル構造を変えない様に切断し、その質量を測定し、次式により算出した。
密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(cm
試験片状態調節、測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取り、23℃±2℃×50%±5%または27℃±2℃×65%±5%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
【0062】
本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体は、前述したように、アクリル酸エステルとスチレン系単量体との共重合体を含有し、且つハロゲン系難燃剤を含有する難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であり、前記吸光度比(A)吸光度比(B)とが、(A)<(B)であり、且つ(A)がA≦0.50である関係を満たし、且つ、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表層部分に含まれる難燃剤濃度をa(質量%)とし、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全体に含まれる難燃剤濃度をb(質量%)とすると、a≦1.1×bの関係を満たす難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡し、さらに得られた難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、水蒸気加熱等により加熱して型内発泡成形して得られたものなので、生産性に優れ、外観の美麗性に優れている。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明の具体例を示すが、以下の実施例は本発明の例示にすぎず、本発明は以下の実施例のみに限定されない。また、以下の実施例、比較例において、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比の結果は、発泡剤・難燃剤含浸前のポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比の結果と同様であった。
【0064】
以下の実施例、比較例において、ポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比、難燃剤濃度、予備発泡時の結合量、熱融着性、発泡成形体の外観、難燃性、総合評価は、次の測定方法及び評価基準により測定・評価した。
【0065】
<吸光度比の測定>
吸光度比(D1730/D1600)は下記の要領で測定される。
即ち、無作為に選択した10個の各樹脂粒子の表面(図1中の符号A)、及び粒子を中心を通って切断した断面の中心部(図2中の符号B)について、ATR法赤外分光分析により粒子表面分析を行って赤外線吸収スペクトルを得る。
各赤外線吸収スペクトルから吸光度比(D1730/D1600)をそれぞれ算出し、表面Aに付いて算出した吸光度比の相加平均を吸光度比(A)とし、中心部Bについて算出した吸光度比の相加平均を吸光度比(B)とする。
吸光度D1730及び、D1600は、たとえばNicolet社から商品名「フーリエ変換赤外分光分析計 MAGMA560」で販売されている測定装置を用いて測定する。
尚、赤外吸収スペクトルから得られる1600cm−1での吸光度D1600は、ポリスチレン系樹脂に含まれるベンゼン環の面内振動に由来する1600cm−1付近に現れるピークの高さをいう。
また、赤外吸収スペクトルから得られる1730cm−1での吸光度D1730は、アクリル酸エステルに含まれるエステル基のC=0間の伸縮振動に由来する1730cm−1付近に現れるピークの高さをいう。
【0066】
<難燃剤濃度の測定>
スライサー(富士島工機社製FK−4N)にて50倍発泡成形体の表面部分を厚さ0.3mm、長さ200mm、幅200mmにスライスし、これを難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子表層部分として扱う。スライスされた表面部分の難燃剤濃度の測定を実施する。難燃剤濃度の測定は、蛍光X線分析装置(RIX-2100(株)リガク製)を使ってオーダー分析(薄膜法)により測定する。即ち、試料2〜3gを温度200〜230℃にて熱プレスして厚み0.1〜1mm、長さ5cm、幅5cmのフィルムを作製し質量を測定後、坪量を算出し、バランス成分をC8H8にし、Br量をX線強度よりオーダー分析にて算出した。難燃剤分子中に含まれるBrの割合から、試験サンプル中のテトラブロモシクロオクタン量を算出する。算出結果を難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子表層部分の含有される難燃剤濃度(a)とする。
難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全体に含まれる難燃剤濃度は難燃剤含浸時の仕込み濃度と同一とする。
【0067】
<予備発泡時の結合量>
前記予備発泡の際に、1cmの目開きの篩を通し、篩上に残った数個の予備発泡粒子が結合したものの質量(X)を測定し、予備発泡に使用した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の総量(Y)に対しての割合を、以下の式により算出し、予備発泡時の結合量(%)とした。
予備発泡時の結合量(%)=(X/Y)×100
本発明において、予備発泡時の結合量が5%未満である場合を○(良好)とし、5%以上である場合を×(不良)として評価した。
【0068】
<熱融着性>
成形後、300mm×400mm×30mmの板状発泡成形体を24時間乾燥させた後、長さ方向の中央部で半分に破断する。その破断面における発泡粒子について、100〜150個の任意の範囲について粒子内で破断している粒子の数(a)と粒子どうしの界面で破断している粒子の数(b)とを数え、式[(a)/((a)十(b))]×100に代入して得られた値を融着率(%)とした。
評価基準は、融着率70%以上を良好(○)とし、70%未満を不良(×)として評価した。
【0069】
<発泡成形体の外観>
発泡成形体の外観を目視観察し下記の基準に基づいて評価をした。
良好(○)・・・発泡粒子同士の融着部分が平滑であった。
不良(×)・・・発泡粒子同士の融着部分に凹凸が発生していた。
【0070】
<難燃性>
得られたポリスチレン発泡成形体から縦200mm×横25mm×高さ10mmの直方体形状の試験片5個をバーチカルカッターにて切り出し、60℃オーブンで1日間養生後、JIS A9511−2006の測定方法Aに準じて測定を行い、5個の試験片の平均値を求め、消炎時間とし、下記基準に基づいて総合的に評価し.その結果を自消性として示した。なお、前記JIS規格では消炎時間が3秒以内である必要があり、2秒以内であれば好ましく、1秒以内であればより好ましい。
不良(×)・・・消炎時間が3秒を超えているか、又は、試験片の1個でも残じんがあるか若しくは燃焼限界指示線を超えて燃焼する。
良好(○)・・・消炎時間が3秒以内であり、5個のサンプル全てにおいて、残じんがなく燃焼限界指示線を超えて燃焼しない。
極めて良好(◎)・・・消炎時間が1秒以内であり、5個のサンプル全てにおいて、残じんがなく燃焼限界指示線を超えて燃焼しない。
【0071】
<総合評価>
前記、<予備発泡時の結合量>、<発泡成形体の外観>、<熱融着性>及び<難燃性>の各試験・評価項目において、全ての評価が○もしくは◎であった場合を良好(◎)とし、一つでも×があった場合を不良(×)として総合評価した。
【0072】
[実施例1]
(種粒子の製造)
内容量100リットルの攪拌機付き重合容器に、水40000質量部、懸濁安定剤として第三リン酸カルシウム100質量部及びアニオン界面活性剤としてドデシルベンゼンスルフォン酸カルシウム2.0質量部を供給し攪拌しながらスチレン単量体40000質量部並びに重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド96.0質量部及びt−ブチルパーオキシベンゾエート28.0質量部を添加した上で90℃に昇温して重合した。そして、この温度で6時間保持し、更に、125℃に昇温してから2時間後に冷却してポリスチレン系樹脂粒子(a)を得た。
前記ポリスチレン系樹脂粒子(a)を篩分けし、種粒子として粒子径0.5〜0.71mmのポリスチレン系樹脂粒子(b)を得た。
次に、内容量5リットルの攪拌機付き重合容器内に、水2000質量部、前記ポリスチレン系樹脂粒子(b)500質量部、懸濁安定剤としてピロリン酸マグネシウム6.0質量部及びアニオン界面活性剤としてドデシルベンゼンスルフォン酸カルシウム0.3質量部を供給して攪拌しながら72℃に昇温した。
【0073】
(第1重合工程)
次に、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド6.8質量部及びt−ブチルパーオキシベンゾエート1.5質量部をスチレン単量体180質量部、アクリル酸ブチル30質量部の混合液に溶解させたものを前記5リットルの重合容器に供給してから、72℃で60分保持した。
【0074】
(第2重合工程)
60分経過後に反応液を110℃まで150分で昇温しつつ、且つスチレン単量体1290gを150分で重合容器内にポンプで一定量づつ供給した上で、120℃に昇温して2時間経過後に冷却し、ポリスチレン系樹脂粒子(c)を得た。
【0075】
(樹脂粒子の吸光度比)
得られたポリスチレン系樹脂粒子(c)について、前記<吸光度比の測定>によって樹脂粒子の表面の吸光度比(A)と中心部の吸光度比(B)とを測定した。
その結果を表1に示す。また得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子についても、前記<吸光度比の測定>により吸光度比を測定することができる。
【0076】
(難燃剤溶解)
イオン交換水100gにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3g及び複分解法で得られたピロリン酸マグネシウム5.6gを供給して攪拌した上で70℃に加熱、保持しつつ、前記イオン交換水中に可塑剤としてアジピン酸ジイソブチル(DIBA)(田岡化学工業社 製商品名「DI4A」18.0g、難燃剤テトラブロモシクロオクタン(TBCO)12.6g及び難燃助剤ジクミルパーオキサイド6.5gを加え、ホモミキサー(特殊機化工業社製 T.K.ホモミクサーMARK II fmodel)を用いて7000rpmで30分間に旦って攪拌して、難燃剤及び難燃助剤を中に全て溶解させて難燃剤溶解液を形成した。
【0077】
(含浸工程)
続いて、別の内容量5リットルの攪拌機付き重合容器に、水2200質量部、ポリスチレン系樹脂粒子(c)1800質量部、懸濁安定剤としてピロリン酸マグネシウム6.0質量部及びドデシルベンゼンスルフォン酸カルシウム0.4質量部を供給して攪拌しながら70℃に昇温した。次に、前記難燃剤溶解液を攪拌機付き重合容器に添加し、攪拌下で30分に亘り保持した。しかる後、密閉し100℃に昇温した。次に、発泡剤としてn−ブタン126質量部をポリスチレン系樹脂粒子(c)が入った重合容器内に圧入して3時間保持した後、30℃以下まで冷却した上で重合容器内から取り出し乾燥させた上で13℃の恒温室内に5日間放置して難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0078】
(予備発泡)
続いて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面に表面処理剤としてジンクステアレート及びヒドロキシステアリン酸トリグリセリドを被覆処理した上で、予備発泡装置にて嵩密度0.017g/cmに予備発泡した後に20℃で24時間熟成して難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を得た。
この予備発泡の際に、前記<予備発泡時の結合量>により結合量を測定した。
【0079】
(発泡成形体の製造)
そして、内寸300mm×400mm×30mmの直方体形状のキャビティを有する成形型を備えた発泡ビーズ自動成形機(積水工機製作所社製 商品名「エース3型」)のキャビティ内に前記ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を充填し、ゲージ圧0.07MPaの水蒸気で15秒間加熱成形を行った。次に、前記成形型のキャビティ内の発泡体を5秒間水冷した後、減圧下にて放冷(冷却工程)して、密度0.017g/cmの難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は収縮もなく、外観の良好なものであった。
【0080】
[実施例2]
難燃剤溶解工程において使用するTBCOを9.0gとしたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は収縮もなく、外観の良好なものであった。
【0081】
[実施例3]
難燃剤溶解工程において使用するTBCOを27.0gとし、DIBAを36.0gとしたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は収縮もなく、外観の良好なものであった。
【0082】
[実施例4]
第1重合工程において使用するスチレン単量体を40.0質量部、アクリル酸ブチル50.0質量部の混合液とし、更に第2重合工程で使用するスチレン単量体を1410質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は収縮もなく、外観の良好なものであった。
【0083】
[実施例5]
第1重合工程において使用するスチレン単量体を375質量部、アクリル酸ブチル12.5質量部の混合液とし、更に第2重合工程で使用するスチレン単量体を1115質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は収縮もなく、外観の良好なものであった。
【0084】
[比較例1]
難燃剤溶解工程において使用するTBCOを3.6gとしたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
この比較例1では、得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の難燃剤濃度bが0.2質量%と、本発明の難燃剤濃度bの下限(0.3質量%)を下回った。
【0085】
[比較例2]
難燃剤溶解工程において使用するTBCOを45.0gとし、DIBAを50.0gとしたこと以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得た。
この比較例2では、得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の難燃剤濃度bが2.5質量%と、本発明の難燃剤濃度bの上限(2.0質量%)を超えていた。
【0086】
[比較例3]
難燃剤溶解工程をとらず、難燃剤27.0gを粉体のまま反応容器中に投入したこと以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得た。
この比較例3では、得られたポリスチレン系樹脂粒子の表層部の難燃剤濃度aと粒子全体としての難燃剤濃度bとの関係が、a≦1.1×bの関係を満たしていなかった。
【0087】
[比較例4]
第1重合工程において使用するスチレン単量体を105質量部、アクリル酸ブチル105質量部の混合液とし、更に72℃での保持時間を90分としたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
この比較例4では、得られたポリスチレン系樹脂粒子の前記吸光度比(A)、(B)の関係が(A)<(B)を満たしていなかった。
【0088】
前記実施例1〜5、比較例1〜4の製造条件の概要と、各試験・評価結果を表1〜3にまとめて記す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
表1〜3に記した結果より、本発明に係る実施例1〜5は、前述した吸光度比(A),(B)が(A)<(B)であり、且つ(A)が0.5以下である関係を満たし、且つ含有される難燃剤が難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表層部分に含まれる難燃剤濃度をa(質量%)とし、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全体に含まれる難燃剤濃度をb(質量%)とすると、a≦1.1×bの関係を満たしている難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造しているので、良好な難燃性能が得られ、生産性に優れ、外観の美麗性に優れた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体が得られた。
【0093】
一方、比較例1では、難燃剤濃度bが0.2質量%と、本発明の難燃剤濃度bの下限(0.3質量%)を下回り、これを用いて製造したポリスチレン系樹脂発泡成形体は、収縮もなく、外観の良好なものであったが、燃焼試験にて消炎せず、十分な難燃性能が得られなかった。
【0094】
比較例2では、難燃剤濃度bが2.5質量%と、本発明の難燃剤濃度bの上限(2.0質量%)を超えており、予備発泡粒子、発泡成形体は得られたが、予備発泡時の結合量が非常に多く、生産性が極端に低下した。また、成形体表面に凹凸が見られ、外観が悪化していた。成形体の熱融着性も悪化していた。
【0095】
比較例3では、表層部の難燃剤濃度aと粒子全体としての難燃剤濃度bとの関係が、a≦1.1×bの関係を満たしておらず、予備発泡粒子、発泡成形体は得られたが、予備発泡時の結合量が非常に多く、生産性が極端に低下した。また、成形体表面に凹凸が見られ、外観が悪化していた。成形体の熱融着性も悪化していた。
【0096】
比較例4では、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の前記吸光度比(A)、(B)の関係が(A)<(B)を満たしておらず、予備発泡粒子、発泡成形体は得られたが、予備発泡時の結合量が非常に多く、生産性が極端に低下した。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、建材用途、自動車部材、緩衝材として有用な難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体が得られ、特に、生産性に優れ、外観の美麗性に優れた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体が得られる。
【符号の説明】
【0098】
1…難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、A…表面、B…中心部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステルとスチレン系単量体との共重合体を含有する樹脂粒子に発泡剤と難燃剤を含ませてなる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ATR法赤外分光分析により前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(A)とATR法赤外分光分析により前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の中心部を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(B)とが、(A)<(B)であり、且つ(A)が0.5以下である関係を満たし、且つ含有される難燃剤が難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表層部分に含まれる難燃剤濃度をa(質量%)とし、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全体に含まれる難燃剤濃度をb(質量%)とすると、a≦1.1×bの関係を満たし、且つ難燃剤濃度bが0.30〜2.00質量%の範囲内であることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
前記吸光度比(B)が0.20〜0.60の範囲内である請求項1に記載の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱し予備発泡させて得られた難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項4】
請求項3記載の難燃性ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、加熱し型内発泡成形して得られた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体。
【請求項5】
(1)ポリスチレン系樹脂種粒子を水中に分散させてなる分散液中に、ポリスチレン系樹脂種粒子100質量部に対し、スチレン系単量体7.0〜80.0質量部とアクリル酸エステル単量体2.0〜12.0質量部とを供給し、これらの単量体を種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させ
る第1重合工程と、
(2)次いで、該分散液中にスチレン系単量体のみを供給し、これを種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第2重合工程と、
(3)第2重合工程を行ってポリスチレン系樹脂粒子を製造した後、又はポリスチレン系樹脂粒子の成長途上で発泡剤及び可塑剤に溶解させた難燃剤を含浸させて請求項1又は2に記載の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る工程とを有する難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26511(P2011−26511A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175602(P2009−175602)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】