説明

難燃抗菌性繊維製品

【課題】本発明の目的は、耐熱性に優れ、かつ難燃性と洗濯耐久性に優れた抗菌性とを併せ持つ難燃抗菌性繊維製品を提供することにある。
【解決手段】本発明は、熱分解温度400℃以上、JIS L 1091 E法でLOI値が25以上である芳香族ポリアミド繊維に、特定の抗菌剤を繊維全体の0.1〜50重量%含有する繊維を使用する難燃抗菌繊維製品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃抗菌性繊維製品に関するものであり、さらには耐洗濯性のある抗菌性と耐熱溶融性と難燃性を有する難燃抗菌性繊維からなる繊維製品であって、室内や車内インテリア製品、また防火服、作業服などに用いられる難燃抗菌性繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗菌性繊維は雑菌の増殖を抑制し、不快な異臭を防止したり、衛生面の向上を期待して近年盛んに繊維製品として流通するようになった。主として衣料やインテリア製品などの身近なものが多く、抗菌性とともに難燃性のあるものが求められており、様々な検討が行われている。
【0003】
例えば、特開平10−212667号公報に開示されているように、リン化合物共重合ポリエステル繊維布帛に抗菌化合物を付与してなる難燃抗菌性繊維布帛が提案されている。しかし、難燃性は優れるものの耐熱性が低く300℃以上の温度で容易に溶融し防護性能は優れるものではない。また抗菌剤を後加工付与する方法は、洗濯を繰り返しているうちに、繊維表面に付与した抗菌剤が脱落して、抗菌効果が低下するという問題あり、洗濯を必要とする防火服や作業服などには不適であった。
【0004】
一方、防火服や作業服においては、運動量が多い活動のために発汗量も多く、また常時洗濯を行わず放置することが多いため、菌が繁殖することで、不衛生で、悪臭を伴うことが多く、耐熱性のある難燃抗菌繊維製品が強く要望されていた。
【特許文献1】特開平10−212667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性に優れ、かつ難燃性と洗濯耐久性に優れた抗菌性とを併せ持つ難燃抗菌性繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、熱分解温度が400℃以上、JIS L 1091 E法でLOI値が25以上である芳香族ポリアミド繊維に、抗菌剤が繊維全体の0.1〜50重量%練りこまれてなる繊維製品とすることで達成できることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、優れた耐熱性、難燃性を有し、洗濯耐久性に優れた抗菌性と併せ持つ難燃抗菌繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明では抗菌剤として公知のものが使用できる。抗菌剤としては、銀イオンを有効成分とする、平均粒径は0.1〜3μmであることが好ましい。より好ましくは0.1〜0.5μmである。3μmを超える粗大粒子は紡糸、延伸の製糸工程にて断糸を誘起し好ましくない。また、0.1μmより小さい粒子は凝集し易くポリマー中に粒子を均一分散することが非常に困難となる。また、抗菌剤は、表面をシラン処理することで、樹脂や繊維中への分散性が向上し、凝集が抑制できるため、好適に用いられる。
【0009】
かかる抗菌剤は、銀イオンを固体粒子に担持せしめたもので、該銀イオンの他に、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、タリウム等のイオンを含有していてもよい。また、固体粒子としては、リン酸ジルコニウム〔NaZr(PO 〕のようなジルコニウム類、A―型ゼオライト、X―型ゼオライト、Y―型ゼオライト、T―型ゼオライト、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイム、クリノプロライト、イヤバサイト、リオナイトなどのようなゼオライト類、ハイドロキシアパタイト〔Ca10(PO(OH) 〕のようなアパタイト類等の無機イオン交換体が挙げられる。なかでも、抗菌性、耐変色性、耐洗濯性、銀イオン溶出性などの観点から、リン酸ジルコニウムが好ましい。
【0010】
本発明における熱分解温度が400℃以上、JIS L1091 E法でのLOI値が25以上である芳香族ポリアミドとしては、全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドとしてはパラ型とメタ型があるが、パラ型アラミドとしては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、あるいは、これに第3成分を共重合した下記式に示すコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドが例示される。
【0011】
【化1】

(ここで、m及びnは正の整数を表す。)
またメタ型アラミドとしては、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが挙げられる。
【0012】
こうした芳香族ポリアミドポリマーは通常溶液重縮合法により得られ、乾式又は湿式紡糸、延伸工程を経て繊維化する。
【0013】
抗菌剤の混合率は、抗菌剤の抗菌性能や粒径、また要求される抗菌性能によっても異なるが、多くの場合繊維重量に対して1〜50重量%である。好ましくは1〜20重量%である。50重量%を超えた濃度で混入すると紡糸、延伸の製糸工程にて断糸を誘起し好ましくない。また0.1重量%未満では充分な抗菌性が得られない。また、必要に応じて、難燃剤や耐光剤、顔料などの添加も可能である。
【0014】
繊維の太さは特に制限はないが、直径は通常5μm〜100μm程度がより好ましく、さらに好ましいのは10〜50μmである。異形断面においては、糸の断面積と同一の真円の直径を言う。
【0015】
繊維の形態としては、マルチフィラメント、ステープルファイバーおよびモノフィラメント等任意である。
【0016】
さらに繊維製品化されるが紡績工程、製織、製編工程等を得て布帛とし、縫製等を経て防火服、耐火服、インテリア製品とすることができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
(1)熱分解温度
繊維の熱量分析(TGA)曲線から測定した。
(2)LOI値(難燃性)
JIS L 1091 E法に準拠した方法による。
(3)抗菌性
JIS L 1902−1998 で制定の繊維製品の抗菌性試験法( 統一法) マニュアルに準拠した方法による。すなわち、密閉容器の底部に予めサンプルを2g置き、このサンプル上に予め培養した1/50ブロースで希釈した黄色ブドウ球菌(試験菌種:AATCC −6538P)の菌液0.2mlを蒔き、37℃のインキュベーター内に18時間静置した後、20MLのSCDLP培地を添加して充分に振とうして菌を洗い落とす。これを普通寒天培地に置き24時間後に菌数を計測し、同時に実施した無加工試料布による菌数値と比較し抗菌性を判断した。
F=Mb−MA
ここで、F:増殖値
Mb:無加工試料の18時間培養後の生菌数の対数<3検体の平均>
MA:無加工試料の接種直後の生菌数の対数<3検体の平均>
D=Mb−Mc
D:静菌活性値
Mc:加工布培養18時間培養後の生菌数の対数
【0018】
[実施例1]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造したIV=1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末21.5重量部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)78.5重量部中に懸濁させ、スラリー状にした後、60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。上記ポリマー溶液のポリマー濃度は21.5%であった。このポリマー溶液に、銀イオンと無機イオン交換体(リン酸ジルコニウム)とが結合した平均粒径1μmの銀系無機抗菌剤(東亜合成化学工業(株)製、商標名:ノバロンAG−300)の含有量がポリメタフェニレンイソフタルアミドに対して10重量%含有となるように添加し、小型プラネタリーミキサーにて1時間混練した。このポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1500の紡糸口金より浴温度85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴は、塩化カルシウムが40重量%、NMPが5重量%、水が55重量の組成の水溶液を用い、吐出糸条は、該凝固浴中を約80cm走行させ7m/分の速度で引き出した。次いで該引き出し糸条を水洗し、95℃の温水で2.4倍に延伸して200℃のロールで乾燥した後、300℃の熱板上で1.75倍延伸して延伸糸を得た。ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維を用いてメリヤス編の筒編地を作製し、精練を行った後、抗菌性と難燃性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。このものは熱分解温度410℃、LOI値27であり、抗菌性も良好であった。
【0019】
[実施例2]
実施例1において、抗菌剤を20重量%含有した以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維の評価結果を表1に併せて示す。熱分解温度410℃、LOI値27であり、抗菌性は更に良好であった。
【0020】
[比較例1]
実施例1において、抗菌剤を0.05重量%含有した以外は、実施例1と同様に実施した。得られた繊維の評価結果を表1に併せて示す。このものは熱分解温度410℃、LOI値27と良好であるが、抗菌性が満足できるものではなかった。
【0021】
[比較例2]
ポリエステル(帝人ファイバー(株)製、商標名:テトロン)に、銀イオンと無機イオン交換体(リン酸ジルコニウム)とが結合した平均粒径1μmの銀系無機抗菌剤(東亜合成化学工業(株)製、商標名:ノバロンAG−300)の含有量がポリエステルに対して10重量%含有となるように添加し、溶融紡糸した以外は、実施例1と同様に実施した。得られた繊維の評価結果を表1に併せて示す。熱分解温度360℃、LOI値20であり、耐熱性、難燃性ともに満足できるものではなかった。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
耐熱性、難燃性、抗菌性また耐洗濯性に優れる繊維製品であるためインテリア製品、衣料用途として防火服、耐火服、作業服等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃抗菌性繊維からなる繊維製品であって、該難燃抗菌性繊維がa)熱分解温度が400℃以上であり、b)JIS L1091 E法でLOI値が25以上である芳香族ポリアミド繊維に、抗菌剤が繊維全体の0.1〜50重量%練りこまれてなる難燃抗菌性繊維であることを特徴とする難燃抗菌性繊維製品。
【請求項2】
前記抗菌剤が、一般式
AgxHyAzM2 (PO4 3 (1)
(Aはアルカリ金属、MはZr,Ti,又はSn、x,y及びzは各々1未満の正数でありかつx+y+z=1であり、更に(1)全体に占める銀の重量が1〜7重量%である)で示される平均粒径0.1〜3μmの微粉末からなる請求項1記載の難燃抗菌性繊維製品。
【請求項3】
前記難燃抗菌性繊維の静菌活性値が2.0以上である請求項1又は2記載の難燃抗菌性繊維製品。
【請求項4】
繊維製品が防火服用生地または作業服用生地であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の難燃抗菌性繊維製品。

【公開番号】特開2007−303017(P2007−303017A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131407(P2006−131407)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】