説明

難燃蓄光繊維及びその製造方法

【課題】本発明は、暗所での長時間持続可能な発光特性に加え、難燃性能に優れ、低コストの難燃蓄光繊維を提供することにある。
【解決手段】熱分解温度が400℃以上であり、JIS L 1091 E法でLOI値が25以上である有機高分子重合体に蓄光性粒子を10〜200℃で混合された難燃蓄光繊維とする。蓄光性粒子はアルミ酸化物のアルカリ土類金属塩に希土類をドープさせてなり、かつ蓄光性粒子の平均粒径が0.1〜10μmの範囲にあるものが好ましい。又有機高分子重合体はパラ型全芳香族ポリアミド及び/又はメタ型全芳香族ポリアミドが例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光による外部刺激により発光し、この外部刺激を取り除いた後でも暗所で残光を持続して自己発光する性能と、難燃性能を併せ持つ繊維であって、防火服、作業服、刺繍糸、ロープ、釣り糸、FRPなどに用いられる繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、太陽光や蛍光灯等の光を吸収して蓄光(励起)し、暗闇で発光することを特徴とし、特に輝度、残光性能の優れた蓄光性物質として、アルミン酸ストロンチウムが提案され賞用されている。この蓄光物質は、塗料やシートに含有され、各種の案内表示や時計の文字板、アクセサリー等に用いられている。近年これらの優れた特性を有するアルミン酸ストロンチウムを樹脂等を基材に配合した蓄光性繊維が提案されている。
【0003】
例えば特開平8−127937号公報には樹脂とアルミン酸ストロンチウム等の蓄光性物質とを配合した繊維、特開平9−228149号公報には蓄光性物質を含有する熱可塑性樹脂からなる芯成分、及び、蓄光性物質を含有しない熱可塑性樹脂からなる鞘成分から構成され、かつ中空部を有する芯鞘複合蓄光性軽量繊維、特開2000−96349号公報には蓄光性物質を含有する芯成分、及び顔料もしくは染料の付与によって鞘部表面が着色されていることを特徴とする芯鞘複合蓄光性繊維等が提案されている。これらは蓄光性にはある程度効果があるものの、難燃性にかけるものであり、消防衣服またインテリア製品などに用いるには難燃性、耐熱性が不十分であった。
【0004】
更に難燃性蓄光成形物について特開平10−219119号公報には、酸素指数を特定した難燃性蓄光組成物が提案されている。しかしこの組成物は電線被覆に用いるような樹脂成形物を狙いとしたものであり、比表面積の大きい繊維等に適用できるものではない。更に特開2005−200774号公報では、芯成分に全芳香族ポリアミド樹脂又は全芳香族ポリエステル樹脂、鞘成分に蓄光剤を含む熱可塑性樹脂(例えばフッ素樹脂等)からなる芯鞘型複合蓄光繊維が提案されている。このものは、複合繊維とするため生産の安定性や歩留まりが悪いという問題点があった。また一般的に蓄光剤は酸化され易く、熱可塑性樹脂と混合する際に250℃以上の高温で溶融混合するため、酸化劣化し蓄光性が低下し、そのため繊維コストが上がるという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−127937号公報
【特許文献2】特開平9−228149号公報
【特許文献3】特開2000−96349号公報
【特許文献4】特開平10−219119号公報
【特許文献5】特開2005−200774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解決し、暗所での長時間持続可能な発光特性に加え、難燃性能に優れ、かつ複合繊維でない難燃蓄光繊維及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、蓄光性粒子を含む有機高分子重合体からなる蓄光繊維において、該有機高分子重合体がa)熱分解温度が400℃以上であり、b)JIS L 1091 E法でLOI値が25以上であること、該蓄光性粒子を10〜200℃、好ましくは20〜120℃の温度で該有機高分子重合体の溶媒溶液に混合することで、上記の目的に合致する難燃蓄光繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
本発明により蓄光性、難燃性の優れた繊維が得られ、消防服等の防火、耐火衣服として、また様々なインテリア製品にも使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明では蓄光性粒子として公知のものが使用できる。このような粒子としては、例えばBiを賦活剤とするCaSrS、Cuを賦活剤とするZnCdSなどの硫化物系蛍光体、Cuを賦活剤とするZnSなどの硫化亜鉛系蓄光性蛍光体及び母体結晶剤としてEuなどを賦活したSr、Ba、Caなどのアルカリ土類金属のアルミン酸塩(SrAl2O4、CaAl2O4など)が挙げられる。このうちアルカリ土類金属のアルミン酸塩は残光時間が長く化学的にも安定であり、本発明に最も好適である。また、このような粒子として根本特殊化学(株)製の「N夜光」(商標名)が市販されている。かかる蓄光性粒子の平均粒径は0.1〜10μmであることが好ましい。より好ましくは0.3〜5μm、最も好ましくは0.5〜2μmである。10μmを超える粗大粒子は紡糸、延伸の製糸工程にて断糸を誘起し好ましくない。また、0.1μmより小さい粒子は凝集し易くポリマー中に粒子を均一分散することが非常に困難となる。また、一般に蓄光性粒子は粒径が小さくなるほど蓄光性能が著しく低下することが多く、性能の面でも好ましくない。また、蓄光性粒子は、表面をシラン処理することで、樹脂や繊維中への分散性が向上し、凝集が抑制できるため、好適に用いられる。また蓄光性粒子の混合率は、蓄光性粒子の蓄光性能や粒径、また要求される蓄光性能によっても異なるが、多くの場合1〜50重量%である。好ましくは5〜20重量%である。50重量%を超えた濃度で混入すると紡糸、延伸の製糸工程にて断糸を誘起し好ましくない。また1重量%未満では充分な蓄光性が得られない。
【0010】
蓄光性粒子を有機高分子重合体に添加混合する時の温度は10〜200℃であることが好ましく、より好ましくは20〜120℃である。200℃を超えると混合中に酸化劣化が進行し蓄光性能が低下し、そのため本来必要とされる量以上の蓄光剤を添加することになり好ましくない。また蓄光性粒子は有機高分子重合体の溶媒溶液に添加混合することが好ましい。有機高分子重合体の溶媒溶液でマスターバッチを作成し添加することが均一な分散させる上で好ましい。
【0011】
本発明において蓄光性粒子を混合する有機高分子重合体としては、熱分解温度が400℃以上であり、且つLOI値がJIS L 1091 E法で25以上である必要がある。熱分解温度が400℃未満の場合は、比較的低温で分解し燃焼が進みやすく難燃性が得られず好ましくない。またLOI値が25未満の場合も難燃性に欠けるため衣服、インテリア製品等としては好ましくない。こうした特性を有する有機高分子重合体としては、全芳香族ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールが好ましい。蓄光性粒子の酸化劣化を防止する上で200℃以下で添加することが好ましいが、その点から高温溶融重縮合法で合成されるものより、低温溶液重縮合法で合成される有機高分子重合体が好ましく、中でも全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドとしてはパラ型とメタ型があり、パラ型としては、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド、あるいは、これに第3成分を共重合したコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドが例示される。更にはメタ型としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい。
【0012】
有機高分子重合体の溶媒としては有機溶剤、無機酸等があげられるが、蓄光性粒子の安定性を阻害しないものが好ましい。適切な溶媒としてはN−メチル2ピロリドンなどがあげられる。
また、必要に応じて、難燃剤や酸化防止剤、耐光剤、顔料などを上記有機高分子重合体に添加することも可能である。
【0013】
こうして得られた蓄光性粒子を含有する有機高分子重合体溶液は公知の方法により湿式紡糸、延伸して繊維化する。繊維の太さは特に制限はないが、直径は通常5μm〜100μm程度がより好ましく、さらに好ましいのは10〜50μmである。異形断面においては、糸の断面積と同一の真円の直径を言う。
【0014】
本発明の難燃蓄光繊維は、マルチフィラメント、ステープルファイバーおよびモノフィラメント等任意であるが、釣り糸や人工毛髪等として使用する場合には、モノフィラメントが好ましい。本発明におけるモノフィラメントは、1本の単糸からなる連続糸であるが、使用にあたって任意の長さに切断したものや複数のモノフィラメントを収束および撚りを加えたもの等任意である。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
(1)発光性(残光特性)
JIS Z 8720の規定に準じて、難燃蓄光繊維をD65常用光源400lxの光で20分間照射した後、その光源を取り除き60分間経過した時点での試料を肉眼で観察した。下記に示す評価基準により評価した。
評価基準:
◎:照射直後の残光と同じレベルの残光を肉眼で十分観察することができた。
○:照射直後の残光よりは劣るが、肉眼での残光は観察できた。
△:残光を肉眼でやっと観察することができた。
×:残光を肉眼で観察することはできなかった。
(2)熱分解温度
繊維化し、熱量分析(TGA)曲線から測定した。
(3)LOI値
JIS L 1091 E法に準拠した方法による。
(4)平均粒径(累積粒度分布率50%(D50))
樹脂に添加する前の蓄光性粒子を、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD−2100)を使用し測定した。
(5)燃焼性
JIS L 1091 A法に準じて行った。
【0016】
[実施例1]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造したIV=1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末(熱分解温度400〜430℃ LOI値:27〜29)21.5重量部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)78.5重量部中に懸濁させ、スラリー状にした後、60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。上記ポリマー溶液のポリマー濃度は21.5%であった。このポリマー溶液に、平均粒径2.9μmの蓄光性粒子(根本特殊化学製、商標名:N夜光ルミノーバGLL−300FFS)の含有量がポリメタフェニレンイソフタルアミドに対して10重量%含有となるように添加し、小型プラネタリーミキサーにて1時間混練した。このポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1500の紡糸口金より浴温度85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴は、塩化カルシウムが40重量%、NMPが5重量%、水が55重量の組成の水溶液を用い、吐出糸条は、該凝固浴中を約80cm走行させ7m/分の速度で引き出した。次いで該引き出し糸条を水洗し、95℃の温水で2.4倍に延伸して200℃のロールで乾燥した後、300℃の熱板上で1.75倍延伸して延伸糸を得た。ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維を用いてメリヤス編の筒編地を作製し、精練を行った後、発光性と燃焼性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。このものは蓄光性良好で、燃焼性は自己消火性であり、優れた難燃蓄光性を示した。
【0017】
[実施例2]
実施例1において、蓄光性粒子を20重量%含有した以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維の評価結果を表1に併せて示す。このものは蓄光剤の添加量も多く、蓄光性良好で、燃焼性も自己消火性で難燃蓄光性に非常に優れたものであった。
【0018】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人ファイバー製 熱分解温度360℃ LOI値:20〜21)に、平均粒径2.9μmの蓄光性粒子(根本特殊化学(株)製、商標名:N夜光ルミノーバGLL−300FFS)の含有量がポリエステルに対して10重量%含有となるように、混合温度270℃で溶融混合した。溶融紡糸した以外は、実施例1と同様に実施した。得られた繊維の評価結果を表1に併せて示す。同一添加量にもかかわらず、蓄光性が実施例1と比較して低下している。260℃で溶融混合したため酸化劣化したものと考えられる。また燃焼性は可燃性であった。
【0019】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0020】
蓄光性、難燃性の優れた繊維が得られ、消防服等の防火、耐火衣服として、また様々なインテリア製品にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄光性粒子を含む有機高分子重合体からなる蓄光繊維において、該有機高分子重合体がa)熱分解温度が400℃以上であり、b)JIS L 1091 E法でLOI値が25以上である有機高分子重合体であることを特徴とする難燃蓄光繊維。
【請求項2】
蓄光性粒子がアルミ酸化物のアルカリ土類金属塩に希土類をドープさせてなり、かつ蓄光性粒子の平均粒径が0.1〜10μmの範囲にあるものである請求項1記載の難燃蓄光繊維。
【請求項3】
有機高分子重合体がパラ型全芳香族ポリアミド及び/又はメタ型全芳香族ポリアミドである請求項1〜2いずれか記載の難燃蓄光繊維。
【請求項4】
メタ型全芳香族ポリアミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドである、請求項1〜3いずれか記載の難燃蓄光繊維。
【請求項5】
蓄光性粒子を有機高分子重合体の溶媒溶液に10〜200℃の温度範囲で添加混合し、湿式紡糸することを特徴とする請求項1〜4記載の難燃蓄光繊維の製造方法。
【請求項6】
蓄光性粒子の有機高分子重合体の溶媒溶液への添加混合が20〜120℃の温度範囲である請求項5記載の難燃蓄光繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃蓄光繊維を少なくとも一部に使用したことを特徴とする防火服用生地または作業服用生地。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃蓄光繊維を少なくとも一部に使用したことを特徴とする刺繍糸。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃蓄光繊維を少なくとも一部に使用したことを特徴とする消防用ロープまたは消防用ホース。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃蓄光繊維を少なくとも一部に使用したことを特徴とする釣り糸。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃蓄光繊維を少なくとも一部に使用したことを特徴とするFRP。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃蓄光繊維からなる繊維製品。

【公開番号】特開2007−284801(P2007−284801A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109803(P2006−109803)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】