説明

雨水の管理システムとその運転方法および管理方法

【課題】複数の流域系a〜dからの水路1〜7が上流から下流に向けて順次合流していく水路系において、より下流側での越流等による被害が生じるのを効果的に回避できる雨水の管理システムとその運転方法を開示する。
【解決手段】流域系a〜dには雨水を一時的に貯水することのできる雨水流出抑制施設Sが各水路に沿ってそれぞれ設置されており、各雨水流出抑制施設Sはピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えが可能となっている。ある流域系で集中豪雨があり、当該流域での雨水流出抑制施設Sのいずれかの浸透槽Taあるいは貯留槽Tbに備えた水位計45の測定データが予め設定した値を超えたときに、他の雨水流出抑制施設Sの貯水態様を常態のピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路に沿って雨水を一時的に貯水することのできる雨水流出抑制施設の複数個が水路に沿って設置されてなる雨水の管理システムとその運転方法および管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
降雨時に車道や歩道に雨水が滞留しないように、道路に沿って側溝が設けられる。また、大量の降雨があったときに、側溝を越流して雨水が道路などに流出するのを抑制し、また、中小河川あるいは下水管などである水路に、その排水能力を上回る規模の雨水が流れ込むのを防止する等の目的で、側溝等に流入する雨水の一部を、地中に設置した浸透槽や貯留槽に一時的に流入させるようにした雨水流出抑制施設も、特許文献1あるいは2に記載されるようによく知られている。
【0003】
上記した雨水流出抑制施設の貯水態様として、ピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とが知られている(非特許文献1等参照)。ピークカット貯水態様とは、側溝等を流れる雨水が予め設定した値よりも多くなったときに、設定値を超えた量の雨水を雨水流出抑制施設の貯留浸透槽へ流入させるようにする貯水態様であり、ベースカット貯水態様とは、基本的に側溝等を流れる雨水の全体を雨水流出抑制施設の貯留浸透槽へ流入させるようにする貯水態様であって、雨水流出抑制施設が設置される環境に応じて、そのいずれかが選定されている。
【0004】
ピークカット貯水態様では、大量の降雨により設計値を超えた量の雨水が発生したときに、設計値を超えた量の雨水のみが、雨水流出抑制施設の貯留浸透槽に流入する。従って、雨量が設計値内の場合には、貯留浸透槽内に雨水が流入することはなく、通常の状態では、貯留浸透槽はほぼカラの状態となっている。一方、ベースカット貯水態様では、降雨があるとその雨水は量の多寡を問わず貯留浸透槽内に案内される態様であり、ピークカット貯水態様の場合と比較して、貯留浸透槽内に流入する雨水の量は多くなり、かつ貯留浸透槽内に雨水が滞留している時間も長くなる。
【0005】
一般に、雨水流出抑制施設の貯留浸透槽内には、雨水と共に土砂等の固形物が流入して槽内に堆積しがちであり、その堆積物を除去するために、貯留浸透槽内をバキューム等で掃除する作業、すなわち雨水流出抑制施設のメンテナンス作業が必要となるが、上記のことから、ピークカット貯水態様を採用している雨水流出抑制施設では、ベースカット貯水態様を採用している雨水流出抑制施設と比較して、メンテナンス作業の頻度を減らすことができる利点がある。
【0006】
上記のような雨水流出抑制施設において、貯留槽の状態を監視し、異常を早期に発見、分析して、雨水貯留施設を安定して利水および治水に利用可能とする技術も提案されており、特許文献3には、雨水貯留施設に、貯留施設内の水位を計測する水位計測手段と、貯留施設内への流入雨水量を計測する流量計測手段とを設け、そこから得られる水位データと流量データをパラメータとして用いて、雨水貯留施設が正常に稼働しているかどうかを判断するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−169902号公報
【特許文献2】特開2009−2160号公報
【特許文献3】特開2009−108534号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「増補改訂 雨水浸透施設技術指針[案]調査・設計編」、平成18年9月30日増補改訂版発行、社団法人雨水貯留浸透技術協会、66〜69頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、局所的に集中した豪雨が発生する頻度が多くなっており、また、集中豪雨発生時の雨量も設計値を超える量となることが多い。そのような集中豪雨が発生したときに、1つの水路系に沿って設置してある複数の雨水流出抑制施設のうちの幾つかが一時的に雨水を貯留することで、その水路系で越流が生じるのを回避することができる可能性は高い。しかし、複数の水路が合流する下流の流域系では、合流した雨水量が、その流域系に設置してある雨水流出抑制施設が処理できる量を超えた量となりがちであり、道路の冠水等、越流による被害が生じるのを否定できない。特許文献1あるいは2に記載されるような従来の雨水流出抑制施設は、1つ1つの雨水流出抑制施設についての考察であり、雨水流出抑制施設の複数個が水路に沿って設置されてなる場合での全体としての雨水の管理システムについては、十分な考察がなされていない。
【0010】
特許文献3においても、1つ1つの雨水流出抑制施設において、貯留施設内の水位とそこに流れ込む雨水の流量を測定することで、雨水貯留施設が正常に稼働しているかどうかを判断するようにしているが、前記したように、雨水流出抑制施設の複数個が水路に沿って設置されてなる場合での全体としての管理については、特に考察がなされていない。
【0011】
本発明は上記の観点からなされたものであり、雨水流出抑制施設の複数個が水路に沿って設置されてなる雨水の管理システムにおいて、下流側の水路で越流等による被害が生じるのを効果的に回避できるようにした雨水の管理システムとその運転方法および管理方法を開示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決すべく、本発明者は水路系の貯水態様について多くの考察と研究を行い、水路系においてその運転時に、前記した雨水流出抑制施設におけるピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とを選択的に組み合わせて採用することにより、より下流で越流が発生するのを効果的に抑制できることを知見した。
【0013】
本発明は、基本的に上記の知見に基づいており、第1の発明は、浸透槽または貯留槽に雨水を一時的に貯水することのできる雨水流出抑制施設の複数個が水路に沿って設置されてなる雨水の管理システムであって、各雨水流出抑制施設はピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えが可能となっており、各雨水流出抑制施設は浸透槽または貯留槽の水位を測定できる水位測定手段を備えており、さらに各雨水流出抑制施設は前記水位測定手段の水位データをパラメータとして前記ピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えを行う手段を備えていることを特徴とする。
【0014】
第1の発明である雨水の管理システムの他の態様では、各雨水流出抑制施設は浸透槽または貯留槽へ流入する雨水の量を測定できる流量測定手段をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
第1の発明である雨水の管理システムの一態様では、各雨水流出抑制施設のピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えを、当該水路系全体を一つの制御系として制御することのできる制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
第2の発明は、第1の発明による雨水の管理システムの運転方法であって、通常は各雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様として運転し、水路系におけるいずれかのまたは複数の雨水流出抑制施設の前記水位測定手段の水位データが予め設定した値を超えたときに、当該設定値を超えた雨水流出抑制施設よりも上流側および下流側に位置する雨水流出抑制施設のいずれかまたは双方をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えて運転することを特徴とする。
【0017】
第2の発明である雨水の管理システムの運転方法の他の態様では、各雨水流出抑制施設の水位測定手段の水位データをインターネットまたは通信回線網経由で入手し、それに基づき前記制御手段によって必要とされる雨水流出抑制施設の貯水態様の切り替えを行うことを特徴とする。
【0018】
前記第1の発明での雨水の管理システムおよび第2の発明でのその運転方法において、大きな技術的特徴は、各水路系に設置される雨水流出抑制施設が、前記したピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とに切り替え可能となっている点と、浸透槽または貯留槽の水位を測定できる水位測定手段を備えていることである。そして、雨水管理システムの運転に当たって、当該水路系がその設計値内の降雨量にあるときは、各雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様に維持しておく。ピークカット貯水態様を維持することにより、各雨水流出抑制施設の浸透槽または貯留槽は、通常はほぼカラの状態に保持される。そして、降雨量が当該水路系の設計値内にあるときは、当該水路系において、水路から雨水が越流することはない。
【0019】
局地的な集中豪雨等により、当該水路系における降雨量が多くなり、その雨水をそのまま下流に送り込んだ場合に、下流の水路において水量が設計値を超える量となる場合がある。本発明による雨水の管理システムの運転方法では、そのときに、当該水路系に設置してあるすべてのまたは選択されたいずれかの雨水流出抑制施設の運転態様を、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える。
【0020】
より具体的には、上記したピークカット貯水態様からベースカット貯水態様への切り替えは、当該水路系におけるいずれかのまたは予め設定した複数の雨水流出抑制施設に備えた水位測定手段の水位データ(測定値)が予め設定した値(設定値)を超えたときに行われる。ここで、予め設定した値(設定値)には、当該雨水流出抑制施設に備えた浸透槽または貯留槽の水位レベルを用いてもよく、単位時間での水位レベルの変化率を用いてもよい。後者の場合、実測される水位レベルが設定値に達する以前に、ピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えを行うことができ、より安全性の高い雨水管理を行うことができる。いずれの場合も、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様への切り替えは、当該設定値を超えた雨水流出抑制施設よりも上流側および下流側に位置する雨水流出抑制施設のいずれか一方に対して行ってもよく、双方に対して行ってもよい。
【0021】
ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えることにより、水路を流れる雨水の多くは、当該水路に沿って設置された雨水流出抑制施設のベースカット貯水態様に切り替えられた浸透槽または貯留槽に流入する。それらの浸透槽または貯留槽は、それまではピークカット貯水態様に維持されていたことからカラの状態となっている可能性が高く、浸透槽または貯留槽は多くの量の雨水(水路の水)を一時的に収容することができる。その結果、当該水路を流下する雨水、および、より下流の水路に流れ込む雨水は減少し、水路系で越流が生じるのを効果的に阻止することができる。
【0022】
局所的な豪雨が収まったときに、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えていた雨水流出抑制施設の運転態様を、再度、ピークカット貯水態様に戻す。その後、浸透槽または貯留槽内に一時的に収容されていた雨水は、時間と共に地中に浸透するか下水本管や近くの河川に流出する。それにより、浸透槽または貯留槽は再びほぼカラの状態、すなわち、次回の集中豪雨に対応できる状態となる。
【0023】
本発明による雨水の管理システムの運転方法において、水路におけるいずれかのまたは予め選択しておいた複数の雨水流出抑制施設の前記水位測定手段の水位データが予め設定した値を超えたときに、水路系における他の幾つのあるいはどの位置にある雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えて運転するかは任意である。当該水路を含む領域での降雨場所あるいは降雨量に基づき、適宜選択する。すべての雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えることで、下流側での一時的貯水容量を大きくすることができ、上流側における増加方向への降雨量の変化に対して、水路系をより安全な方向に管理することができる。しかし、一方において、ベースカット貯水態様に切り替えた雨水流出抑制施設のメンテナンス作業が事後に必要となることから、それらを考慮しながら、適宜設定することが望ましい。
【0024】
各雨水流出抑制施設のピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えは、各雨水流出抑制施設の水位測定手段の水位データを電話等で相互に連絡しあい、個々の雨水流出抑制施設ごとにその担当者が切り替えを行うようにしてもよい。好ましくは、前記したように、当該水路系全体を一つの制御系として制御することのできる制御手段を備えるようにし、集中的にコントロールする。より好ましくは、制御手段が各雨水流出抑制施設の水位測定手段の水位データをインターネットまたは通信回線網経由で入手し、それに基づき、制御手段が必要とされる雨水流出抑制施設の貯水態様の切り替えを行うようにする。それにより水路系でのより完全な雨水管理が可能となる。
【0025】
本発明において、雨水流出抑制施設が浸透槽を備える場合には、そこに一時的に貯留された雨水は、時間とともに周囲の地盤に浸透していく。貯留槽の場合には、オリフィスを備えた流出管を通して徐々に下水本管や河川に排水される。いずれであっても、時間の経過とともに雨水を貯留していない状態(カラの状態)となるので、次に起こり得る集中豪雨に備えることができる。貯留槽の場合には、排水ポンプを併設し、貯留された雨水を積極的に外部に排水するようにしてもよい。
【0026】
本発明において、雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とに切り替える具体的な手段は、任意であってよい。一例として、浸透槽または貯留槽の雨水取り入れ口(集水桝)に設けた越流堰の高さを制御する態様、あるいは該越流堰を閉鎖状態と開放状態とに切り替える態様などが挙げられる。
【0027】
本発明において、雨水流出抑制施設を構成する浸透槽または貯留槽はどのような形態のものであってもよいが、施工性がよいことから、積層させることにより内部に雨水を貯留するための空隙が確保できる樹脂製部材の多数個を立体状に積み上げて形成されてなる浸透槽または貯留槽は、好ましい。
【0028】
本発明による第3の発明は、各雨水流出抑制施設が浸透槽または貯留槽へ流入する雨水の量を測定できる流量測定手段をさらに備える場合での雨水の管理システムの管理方法であって、当該雨水の管理システムは、前記流量測定手段で測定される雨水流量データと前記水位測定手段で測定される水位データとの相関から当該雨水流出抑制施設の排水能力を実測する排水能力測定手段と、該実測した排水能力値と設計値での排水能力値とを比較する比較手段とを備え、該比較手段の比較結果に基づき当該雨水流出抑制施設が正常に稼働しているかどうかを判断することを特徴とする。
【0029】
通常、雨水流出抑制施設において、浸透槽の場合も、貯留槽の場合も、各槽は、流入する雨水量に対して所定の排水量(単位設計浸透量)を持つように予め設計されている。排水量の多寡は、浸透槽の場合には、周囲の地盤の浸透係数に依存する部分が多く、貯留槽の場合は、河川への流出口に設けられるオリフィス径に依存する部分が多い。浸透槽の場合に、周囲を覆う透水性シートに目詰まりが発生したとき、あるいは周囲の地盤の浸透係数が何らかの事情で変化したとき、などにおいて排水能力は所期の設計上の排水能力よりも低い値となる。また、貯留槽の場合に、オリフィスや河川への流出管に詰まりが生じたときなどにおいて排水能力は所期の設計上の排水能力よりも低い値となる。
【0030】
本発明による雨水の管理システムの管理方法では、実測した排水能力値と設計値での排水能力値とを比較することで、早期にかつ確実に、排水能力の低下を検知することができ、雨水の管理システムの適正な維持管理が容易となる。なお、貯留槽の場合には、貯留槽の水位と河川への流出管を流れる流量とは相関があるので、水位測定手段で測定される水位データに代えて、河川への流出管を流れる流出量データを用い、そのデータと前記流量測定手段で測定される雨水流量データとの相関から当該雨水流出抑制施設が正常に稼働しているかどうかを判断することもできる。
【0031】
なお、本発明において、水路とは雨水が流れ込むすべての水路を含むものとして用いている。従って、水路には、道路に沿って設けられる道路側溝からの雨水が流れ込む下水道の支管および本管も含まれる。当然に本当の川も含まれる。一部が雨水の流れる川であり、一部が雨水の流れ込む下水道の支管および本管である組み合わせ水路系も、本発明でいう「水路系」に含まれる。
【発明の効果】
【0032】
本発明による雨水の管理システムを採用することにより、複数の流域系からの水路が上流から下流に向けて順次合流していく水路系などにおいて、当該水路およびより下流側の水路において、雨水の越流等によって被害が生じるのをより確実に回避することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による雨水の管理システムとその運転方法を説明するための概略図。
【図2】本発明による雨水の管理システムに備えられる雨水流出抑制施設の一態様を示す平面図(a)と側面図(b)。
【図3】雨水流出抑制施設における浸透槽または貯留槽がピークカット貯水態様にある状態とベースカット貯水態様にある状態とを説明するための図。
【図4】雨水流出抑制施設の他の態様を示す平面図(a)と側面図(b)。
【図5】雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様へ切り替えるための手段をいくつかの例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施の形態を説明する。図1は本発明における雨水の管理システムの一例を示す概略図である。ここで水路系は下水管の配管系であり、a〜dの4つの下水流域系からなっている。
【0035】
流域系aには下水支管1が地中に埋設されており、該下水支管1には道路に沿って配置されて道路側溝1aから雨水が流入する。なお、図では、単に図示の煩雑さを避けるために下水支管1と道路側溝1aとを同じ線で示しているが、実際は、位置の異なる路線となるのが普通である。もちろん、道路側溝1aが下水支管1を兼ねていてもよい。そして、道路側溝1aに沿うようにして適数個(図では2個)の雨水流出抑制施設Sが設置されており、各雨水流出抑制施設Sは浸透槽Taまたは貯留槽Tbを有しており、各浸透槽Taまたは貯留槽Tbは、後記する貯水態様切り替え手段20(図1には示されない)を介して、道路側溝1aと接続している。後記するように、貯水態様切り替え手段20の切り替え操作により、雨水流出抑制施設Sはピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とに選択的に切り替えられる。
【0036】
流域系bには、2本の下水支管2、3が設けられており、下流において2本の下水支管2、3は一本に合流している。各下水支管2、3にも、流域系aおけると同様に、道路に沿って配置された道路側溝2a、3aから雨水が流入する。また、道路側溝2a、3aに沿うようにして適数個(図では2個と3個)の雨水流出抑制施設S(浸透槽Taまたは貯留槽Tb)が設置されており、同じように貯水態様切り替え手段20を介して、道路側溝2a、3aと接続している。
【0037】
流域系cには、3本の下水支管4、5、6が設けられており、下流において3本の下水支管は一本に合流している。各下水支管4、5、6にも、流域系aおけると同様に、道路に沿って配置された道路側溝4a、5a、6aから雨水が流入する。道路側溝4a、5a、6aに沿うようにして適数個(図では2個と1個と2個)の雨水流出抑制施設S(浸透槽Taまたは貯留槽Tb)が設置されており、同じように貯水態様切り替え手段20を介して、道路側溝4a、5a、6aと接続している。
【0038】
流域系dには、1本の下水支管7が設けられており、下水支管7にも道路に沿って配置された道路側溝7aから雨水が流入する。道路側溝7aに沿うようにして適数個(図では3個)の貯雨水流出抑制施設S(浸透槽Taまたは貯留槽Tb)が設置されており、他の流域系と同じように、貯水態様切り替え手段20を介して道路側溝7aと接続している。
【0039】
流域系cの3本の下水支管4、5、6は合流して下水支管8となり、該下水支管8は、流域系bからの下水支管とさらに合流して下水支管9となっている。さらに、前記下水支管9は、流域系aからの下水支管1とさらに合流して下水支管11となっている。そして、前記下水支管11は、流域系dからの下水支管7と合流した後、下水本管12となっている。それら合流後の下水支管8、9、11および下水本管12にも、道路側溝からの雨水が流入するようになっており、他の下水支管の場合と同様に、当該道路側溝に沿うようにしてやはり雨水流出抑制施設S(浸透槽Taまたは貯留槽Tb)が設置されている。
【0040】
この例において、すべての雨水流出抑制施設Sは集中制御手段(C.C.)15と通信可能となっており、集中制御手段15からの指令によって、各雨水流出抑制施設Sは前記したピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とに選択的に切り替えられる。
【0041】
次に、雨水流出抑制施設Sの一態様とその貯水態様について、図2、図3を参照して説明する。この例において、雨水流出抑制施設Sは、浸透槽Taを備えており、該浸透槽Taは、樹脂材料からなる貯水空間形成部材を多段に積み上げ、その周囲を透水シートで覆うことで浸透槽Taとされている。この形態の浸透槽は、一例として特開2009−24447号公報等に記載されている。
【0042】
この例において、雨水は道路側溝1a、2a・・等に流れ込み、そこから前記したように下水支管または下水本管に流入する。図2に示すように、一部の道路側溝は集水桝30とされ、図3に示すように、そこには越流堰21が備えられており、該越流堰21は最上位の位置を変更可能とされている。この集水桝30に備えられた越流堰21が前記した貯水態様切り替え手段20の一例を構成する。図3(a)に示す状態では、越流堰21はその上端22が集水桝30の上端部に近い位置にあり、集水桝30を流れる雨水は、その水位が越流堰21の上端22に達するまでは、そのまま集水桝30内を下流に向けて流れて行き、さらに道路側溝を流下して下水支管または下水本管に流入する。
【0043】
大量の降雨によって集水桝30内を流れる雨水の水位が越流堰21の上端22を超えたときに、雨水は越流堰21を越流して流入管31側に流入する。そして、流入した雨水は流入管31を通り、図2に示すように、流入桝40に流入し、そこからさらに浸透槽Ta内に流入して、そこで一時的に貯留される。すなわち、降雨量が水路系の設計値を下回っている通常の状態では、雨水は浸透槽Ta内に流入することはなく、浸透槽Taはほぼカラの状態に維持されている。そして、設計値を上回る降雨量があったときにのみ、上回った量の雨水(越流堰21を越流した雨水)が浸透槽Ta内に流入する。浸透槽Taのこの使用態様が雨水流出抑制施設のピークカット貯水態様である。なお、流入桝40については、後に詳しく説明する。
【0044】
図3(b)は、浸透槽Taがベースカット貯水態様にあるときの越流堰21の状態を示している。この状態では、越流堰21はその上端22が集水桝30の底面レベルに達するまで下方に下げられており、そのために、集水桝30内を流れる雨水は、そのほぼ全量が流入管31を通って流入桝40に流入し、そこから浸透槽Ta内に流入する。そして、流入した雨水は、浸透槽Ta内に一時的に貯留される。
【0045】
図2に示す雨水流出抑制施設Sにおいて、前記した流入管31には流量計32が取り付けてあり、そこを流れる雨水の量を測定する。流量計32は、測定データを外部に発信する送信手段を備えている。また、流入桝40は全体として箱型をなしており、上面には管理口41が形成されている。流入桝40の一側面は開口部42,42を介して浸透槽Taと接続しており、また、水位計45が装着されている。水位計45は、測定データを外部に発信する送信手段を備えている。流入桝40と浸透槽Taとは、前記したように開口部42,42を介して接続しているので、流入桝40の水位レベルと浸透槽Ta内の水位レベルは等しく変動する。そのために、流入桝40に装着した水位計45によって、浸透槽Ta内の水位レベルを測定することができる。なお、上位の開口部42は、浸透槽Ta内への雨水の流入時に空気抜き孔として機能する。
【0046】
前記流入管31は、流入桝40の側壁における浸透槽Taの天面より上位の位置に開口しており、また、流入桝40の底面は浸透槽Taの底面よりも下位に位置している。流入桝40の浸透槽Taの底面よりも下位に位置する領域は、沈砂槽43としての機能を果たす。
【0047】
次に、図1で説明した水路系での雨水の管理システムおよびその運転方法について説明する。この例において、各雨水流出抑制施設S、すなわち集水桝30と貯水態様切り替え手段20と流入管31と浸透槽Ta等からなる各雨水流出抑制施設Sは、雨水の管理システムを構成する集中制御手段15と通信回線を通して通信可能に接続しており、かつ前記切り替え手段20を操作する操作手段を備えている。該操作手段は集中制御手段15からの切り替え信号を受けて、各雨水流出抑制施設Sの貯水態様切り替え手段20の切り替えを行う。すなわち、個々の雨水流出抑制施設Sは、集中制御手段15からの指令により、その貯水態様が、前記したピークカット貯水態様とベースカット貯水態様のいずれかに選択され、その状態が次の指令を受けるまで維持される。
【0048】
また、集中制御手段15には、好ましくはインターネットまたは通信回線網を経由して、各雨水流出抑制施設Sにおける流量計32が測定する雨水流量データと水位計45が測定する浸透槽Taの水位レベルデータが送られるようにされている。各流域系a〜dには、当該流域系の雨量を測定する雨量計が設置されていてもよく、雨量に関する情報を集中制御手段15に送られるようにしてもよい。
【0049】
雨水の管理システムの運用に当たり、各流域系a〜dでの雨量が水路系全体の設計値内にある場合には、集中制御手段15は、すべての雨水流出抑制施設Sに対してピークカット貯水態様を選択する指令、すなわち図3に示す例では、集水桝30に備えた越流堰21が図3(a)の上昇した位置を保持する指令を発信する。その状態では、各雨水流出抑制施設Sにおける浸透槽Taはほぼカラの状態を維持することとなる。
【0050】
いずれかの流域系、例えば、図示の例では流域系cにおける雨量が増加して、側溝を流れる雨水の水位レベルが上昇し、集水桝30内を流れる雨水の水位が、図3(a)に示すピークカット貯水態様にある越流堰21の上端22を超えたとする。越流堰21を越流した雨水は、流入管31側に流入し、流入管31を通って浸透槽Ta内に流入する。その状態が継続すると、浸透槽Ta内の水位レベルが次第に上昇していく。変化する水位レベルは水位計45によって測定され、水位データは送信手段により集中制御手段15に送られる。
【0051】
一般に浸透槽Taは、主に周囲の地盤の浸透係数との関係で定められる単位時間当たりの地盤への雨水流出量(放水量)を有しており、一時的な大量の雨水の流入により浸透槽Ta内の水位レベルがある高さまで上昇したとしても、それ以降での時間当たりの雨水流入量が浸透槽Taからの放水量と等しいかそれよりも小さい値の場合には、浸透槽Ta内の水位レベルはそれ以上に上昇しない。この状態では、側溝から雨水が溢れ出ることはない。
【0052】
降雨量が大きくなり、時間当たりの浸透槽Taへの雨水流入量が、浸透槽Taからの排水量よりも大きくなったとき、浸透槽Ta内の水位レベルはさらに上昇し、ついには、浸透槽Ta内の雨水貯留空間はすべて雨水で満たされた状態となる。その状態となると、浸透槽Taはそれ以降に流入しようとする雨水を処理することができなくなり、少なくとも当該雨水流出抑制施設Sの近傍における道路側溝からは雨水が道路上に溢れ出る。
【0053】
それを防止するために、本発明による雨水の管理システムの運転方法においては、いずれか1つあるいは1つ以上の雨水流出抑制施設Sにおける浸透槽Ta内の水位レベル、すなわち水位計45によって測定される水位データから得られる水位レベルが、予め設定した設定値を超えたときに、関連する水路(この例では、流域系cにおける水路)に設置した他の雨水流出抑制施設Sのいずれかまたはすべてをピークカット貯水態様からベースカット貯水態様、すなわち、図3(a)に示す態様から図3(b)に示す態様に切り替えて、運転を継続する。
【0054】
具体的には、(a)設定値を超えた水位レベルが測定された雨水流出抑制施設Sよりも上流側にある雨水流出抑制施設Sのいずれかまたはすべてをピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える態様、(b)設定値を超えた水位レベルが測定された雨水流出抑制施設Sよりも下流側にある雨水流出抑制施設Sのいずれかまたはすべてをピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える態様、(c)設定値を超えた水位レベルが測定された雨水流出抑制施設Sの上流側および下流側にある雨水流出抑制施設Sのいずれかまたはすべてをピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える態様、が挙げられる。いずれの態様においても、当該水路系での貯水量、すなわち、雨水流出抑制施設Sがピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替わることで、それぞれの雨水流出抑制施設Sの貯水量が大きくなり、当該水路系で道路側溝から雨水が越流して道路に溢れ出るのを阻止することができる。
【0055】
雨水流出抑制施設Sをピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える作業は、水位レベルが予め設定した設定値を超えた旨の情報(当該雨水流出抑制施設Sの水位計45に備えられた送信手段が送信する信号)を通信回線で他の雨水流出抑制施設Sに送り、各雨水流出抑制施設Sごとに切り替え作業を行ってもよく、前記情報を前記した集中制御手段15にインターネットまたは通信回線網経由で伝送し、それに基づき集中制御手段15が、必要とされる雨水流出抑制施設Sに対して一律に貯水態様の切り替え指令を送るようにしてもよい。
【0056】
流域系c内のすべての雨水流出抑制施設Sによって吸収できる量を上回る降雨が予測される場合には、集中制御手段15は、その雨量に対応して、より下流側の水路系内、図示の例では流域系c内の下水支管が合流した下水支管8、9等に設置された雨水流出抑制施設Sに対して、さらには下水支管9に合流する流域系bに設置された雨水流出抑制施設Sに対して、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える指令を発信する。それにより、合流後の各下水支管あるいは下水本管を流れる水量を、上流側の各雨水流出抑制施設Sにおける浸透槽Ta内に流入した分だけ減少させることができ、それら下流側の水路系で越流が生じるのを抑制することができる。
【0057】
集中豪雨が過ぎ去り、水路系全体の流水量が設計値以下となった時点で、集中制御手段15は、選択的にまたは同時に、各雨水流出抑制施設Sの貯水態様をベースカット貯水態様からピークカット貯水態様に再度切り替える。その後、各浸透槽Ta内に貯留された雨水は、時間とともに地中に浸透し、それにより、各浸透槽Taはほぼカラの状態に復帰し、次の集中豪雨に備えることができる。
【0058】
上記雨水の管理システムの運用に当たり、当該水路系に設置される複数の雨水流出抑制施設Sのうち、最も雨水が集中し易い場所あるいはその近傍に設置された1つあるいは2つ以上の雨水流出抑制施設Sから送信される水位データのみを制御手段15が受信するように設定してもよい。また、隔離している2つ以上の雨水流出抑制施設Sから送信される水位データを制御手段15が受信するように設定してもよい。それにより、システムの簡略化が可能となる。さらに、予め定めた2つ以上の雨水流出抑制施設Sの水位レベルが設定値を超えた時点で、制御手段15は他の雨水流出抑制施設Sに対してピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える信号を発信するようにしてもよい。
【0059】
さらに、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様へ切り替えるときの予め設定した値(設定値)として、単位時間での水位レベルの変化率を用いることもできる。いずれの場合も、前記設定値を浸透槽Taの水位で設定する場合には、満水状態となる前の段階での水位レベル、例えば80%貯水での水位レベルに設定することが好ましい。
【0060】
図4は、雨水流出抑制施設Sの他の態様を示す平面図(a)と側面図(b)である。ここでは、貯留槽Tbを用いている。なお、図2に基づき説明した雨水流出抑制施設Sと同じ機能を奏する部材には同じ符号を付している。図4に示す雨水流出抑制施設Sでは、貯留槽Tbには流入出桝50を介して雨水が流入する。貯留槽Tbは任意であってよいが、一例として、特開2009−24447号公報等に記載されるような樹脂材料からなる貯水空間形成部材を多段に積み上げ、その周囲を遮水シートで覆った構成のものが挙げられる。
【0061】
流入出桝50は全体として箱型をなしており、上面には管理口51,51が形成されている。また、流入出桝50の一側面は開口部52,52を介して貯留槽Tbと接続している。前記開口部52,52を形成した側壁とほぼ平行に、流入出桝50のほぼ中央を横断するようにして横断壁53が立設されており、該横断壁53の上端54の高さは、上位の開口部52の上端の高さとほぼ等しくされている。また、横断壁53の前記した下位の開口部52とほぼ等しい高さ位置にはオリフィス55が形成されている。開口部52,52を形成した側壁の反対側の側壁には、流出管56が取り付けられており、開口部52,52を形成した側壁と横断壁53で区画される室に開口するようにして、上位の開口部52よりも高い位置に前記した流入管31が接続している。また、そこには、浸透槽Taでの流入桝40と同様にして、測定データを外部に発信する送信手段を備えた水位計45が設けられている。さらに、流出管56には流量計57が取り付けられている。流入出桝50の底面は貯留槽Tbの底面よりも下位に位置しており、流入出桝50の貯留槽Tbの底面よりも下位に位置する領域は、沈砂槽58としての機能を果たす。
【0062】
この雨水流出抑制施設Sでは、流入管31から流入する雨水は、最初に開口部52,52を形成した側壁と横断壁53で区画される室に流入する。そしてオリフィス55を通って反対側の室に流入し、流出管56から河川等に流出する。流入管31から流入する雨水の量がオリフィス55が処理できる量を超えると、超えた量の雨水によって室内の水位が次第に高くなり、下位の開口52から貯留槽Tb内に流入して、そこに貯留される。貯留槽Tbが満水状態となると、流入管31から流入する雨水は、横断壁53を超えて反対側の室に流入し、流出管56から河川等に流出する。流入管31から流入する雨水が減少するまたはなくなると、貯留槽Tb内に貯留された雨水は、オリフィス55を通って、徐々に流出管56から河川等に排出される。
【0063】
この雨水流出抑制施設Sでの水位計45の果たす機能および雨水の管理システムとしての運転態様は、図2で説明した流入桝40および雨水の管理システムと同様であり、説明は省略する。
【0064】
なお、図示の例では、下水支管と下水本管とで構成される水路系を例として説明したが、前記したように水路のすべてまたは一部が河川であっても、当該河川に沿って前記した貯水態様切り替え手段20を備えた雨水流出抑制施設Sを設置することで、本発明による雨水の管理システムおよびその運転方法を同様に実施できることは当然であり、この態様も本発明の範囲に含まれる。
【0065】
図5は、雨水流出抑制施設Sでの貯水態様をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様へ切り替える切り替え手段の他の例を示す、図3(a)(b)に相当する図であり、図3(a)(b)に示したものと同じ部材には同じ符号を付している。
【0066】
図5(a)では、越流堰21は上端部近傍を支点25として回動できるようになっており、左図のように越流堰21の下端が集水桝30の底面に接した状態に置くことで、雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様に維持することができ、右図のように越流堰21を支点25を中心に上方へ回動した位置に保持することで、雨水流出抑制施設Sをベースカット貯水態様に維持することができる。
【0067】
図5(b)では、越流堰21は下方を開放した固定板26とその開放部を閉鎖する可動板27とで構成されている。左図のように可動板27を下方に移動して前記開放部を閉鎖することで、雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様に維持することができ、右図のように可動板27を上方に移動して前記開放部を閉鎖することで、雨水流出抑制施設Sをベースカット貯水態様に維持することができる。
【0068】
図5(c)では、越流堰21は下方を開放した固定板26とその開放部に取り付けた回転バルブ28とで構成されている。左図のように回転バルブ28を開放部を閉鎖する位置とすることで、雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様に維持することができ、右図のように回転バルブ28を開放部を開放した位置とすることで、雨水流出抑制施設Sをベースカット貯水態様に維持することができる。
【0069】
次に、本発明に係る雨水の管理システムの管理方法について説明する。図2で説明した浸透槽Taを備えた雨水の管理システムの場合、浸透槽Taは単位設計浸透量Q1を有しており、流入管31からの単位時間当たりの流入量Q2が前記単位設計浸透量Q1よりも少ない場合には、浸透槽Taに雨水は貯留されない。流入量Q2が次第に大きくなると、Q3(=Q2−Q1)の雨水が単位時間当たり貯留される。Q3は浸透槽Taの貯留量、すなわち水位レベルと比例関係にある値であり、浸透槽Taが単位設計浸透量Q1を維持している限り、雨水流出抑制施設Sは、設計時に設定したQ3(=Q2−Q1)の値を維持することとなる。
【0070】
浸透槽Taを覆っている透水性シートに目詰まりが生じると、あるいは周囲の地盤の浸透係数が設計時と比較して小さくなると、浸透槽Taからの単位設計浸透Q1が減少する。その結果、設計時に設定したQ3(=Q2−Q1)の値は、増加する方向に変化する。このことから、流量計32で測定される雨水流量データQ2と水位計45で測定される水位データQ3との相関を演算することで、雨水流出抑制施設Sの排水能力を実測することが可能となり、同時に、設計したときの設定排水能力と比較することで、当該雨水流出抑制施設が正常に稼働しているかどうかを判断することが可能となる。
【0071】
より具体的には、流量測定手段(流量計32)で測定される雨水流量データと水位測定手段(水位計45)で測定される水位データとの相関から雨水流出抑制施設の排水能力を実測する排水能力測定手段と、実測した排水能力値と設計値での排水能力値とを比較する比較手段とを備えることにより、その比較結果に基づき当該雨水流出抑制施設Sが正常に稼働しているかどうかを判断することが可能となる。また、この比較結果は新たな雨水流出抑制施設Sを設置するときの一つの有効な設計データともなる。
【0072】
上記のことは、図4で説明した貯留槽Tbを備えた雨水の管理システムの場合も、同様に適用することできる。ただし、貯留槽Tbでの単位設計浸透Q1はオリフィス55に依存した値となる。また、図示の例では、流出管56にも流量計57を備えているので、流入管31に備えた流量計32のデータと流出管56に備えた流量計57との差分を取り、その値を設計時の値と比較することでも、当該雨水流出抑制施設Sが正常に稼働しているかどうかを判断することが可能となる。すなわち、オリフィス55の詰まりや流出管56の詰まりを検出することができるようになる。
【符号の説明】
【0073】
a〜d…水路系を構成する複数の流域系、
1〜11…水路の一例としての下水支管、
12…水路の一例としての下水本管、
1a〜12a…道路側溝、
15…集中制御手段、
20…雨水流出抑制施設の貯水態様切り替え手段、
21…越流堰、
22…越流堰の上端、
30…集水桝、
31…流入管、
32…流量計、
40…流入桝、
45…水位計、
50…流入出桝、
55…オリフィス、
56…流出管、
57…流量計、
Ta…雨水流出抑制施設を構成する浸透槽、
Tb…雨水流出抑制施設を構成する貯留槽、
S…雨水流出抑制施設。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透槽または貯留槽に雨水を一時的に貯水することのできる雨水流出抑制施設の複数個が水路に沿って設置されてなる雨水の管理システムであって、
各雨水流出抑制施設はピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えが可能となっており、各雨水流出抑制施設は浸透槽または貯留槽の水位を測定できる水位測定手段を備えており、さらに各雨水流出抑制施設は前記水位測定手段の水位データをパラメータとして前記ピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えを行う切り替え手段を備えていることを特徴とする雨水の管理システム。
【請求項2】
各雨水流出抑制施設は浸透槽または貯留槽へ流入する雨水の量を測定できる流量測定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の雨水の管理システム。
【請求項3】
各雨水流出抑制施設のピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えを、当該水路系全体を一つの制御系として制御することのできる制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の雨水の管理システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の雨水の管理システムの運転方法であって、通常は各雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様として運転し、水路系におけるいずれかのまたは複数の雨水流出抑制施設の前記水位測定手段の水位データが予め設定した値を超えたときに、当該設定値を超えた雨水流出抑制施設よりも上流側および下流側に位置する雨水流出抑制施設のいずれかまたは双方をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えて運転することを特徴とする雨水の管理システムの運転方法。
【請求項5】
各雨水流出抑制施設の水位測定手段の水位データをインターネットまたは通信回線網経由で入手し、それに基づき前記制御手段によって必要とされる雨水流出抑制施設の貯水態様の切り替えを行うことを特徴とする請求項4に記載の雨水の管理システムの運転方法。
【請求項6】
予め定めた設定値として、当該雨水流出抑制施設に備えた浸透槽または貯留槽の水位レベルを用いるか、または単位時間での水位レベルの変化率を用いることを特徴とする請求項4または5に記載の雨水の管理システムの運転方法。
【請求項7】
請求項2に記載の雨水の管理システムの管理方法であって、前記雨水の管理システムは、前記流量測定手段で測定される雨水流量データと前記水位測定手段で測定される水位データとの相関から当該雨水流出抑制施設の排水能力を実測する排水能力測定手段と、該実測した排水能力値と設計値での排水能力値とを比較する比較手段とを備え、該比較手段の比較結果に基づき当該雨水流出抑制施設が正常に稼働しているかどうかを判断することを特徴とする雨水の管理システムの管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−72622(P2012−72622A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219438(P2010−219438)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】