説明

雨水受水兼蒸発パネル体及び該雨水受水兼蒸発パネル体を用いた雨水処理装置

【課題】処分場跡地など、雨水排出に関して浄化処理を要求される場合において、浄化処理を不要とすることができる雨水受水兼蒸発パネル体及び雨水処理装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る雨水受水兼蒸発パネル体3は、汚染の可能性のある土壌を覆うように配置されて、雨水を受水すると共に受水した雨水を蒸発させる雨水受水兼蒸発パネル体3であって、表面を平板または波板にすると共に表面の日射吸収率を0.8以上とし、さらに表面を親水化処理した板状体17と、板状体17の外周部に設けられて板状体を支持する支持装置5に取り付けるための取付部19とを有することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染の可能性のある土壌や埋立処分場、同跡地等の雨水を処理するために用いる雨水受水兼蒸発パネル体及び該雨水受水兼蒸発パネル体を用いた雨水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染の可能性のある土壌や埋立処分場内からの排水は、汚染物質を含む可能性があるため、一般に、排水は浄化処理を行ってから排出される。
前記排水は、主として汚染の可能性のある土壌や埋立処分場に雨水が浸透したものであり、地中の汚染物質と接触することで汚染水となっている。したがって、雨水自体は、地面に浸透しない限り、処分場の汚染物質とは関係ない。
そこで、浄化処理のコストを削減するため、土壌中に雨水を浸透させないように表面を被覆して、そこで雨水を集積して放流することが考えられた。しかし、浸透の有無にかかわらず、その敷地から排出される水について、浄化処理を要求される場合が多く、このことがコスト増になっている。
そこで、コスト削減のために、埋立処分場の内部で雨水を処理する雨水内部処理方法として、雨水を蒸発させることによる処理水量の減量を目的とした提案がなされている。
【0003】
蒸発処理による減量を図るものとしては、例えば、特許文献1に、工場廃水を所定の水質レベルに処理後に貯蔵して空調用の熱源等に再使用し、冷却塔などで蒸発して不足した分について雨水などを別途補うというものがある。この特許文献1のものは、工場廃水と雨水ともに蒸発処理によって減量するものであるが、貯留水が一定以上の水量になった場合には公共用水路に放流するしくみになっている。
【0004】
また、特許文献2には、廃棄物を埋め立てる管理型の最終処分場で生ずる浸出水の処理に関し、天日蒸発設備及び強制蒸発設備が設けられた埋立構造が提案されている。
特許文献2に提案されている天日蒸発設備は、地下から汚染物質を含む水をくみ上げて浄化処理したのち砂等の濾材に散水し、汚染物質を濾材に吸着させるとともに、水分を蒸発させるものである。廃棄物と接触しない雨水は分離集積して排出するため蒸発処理の対象としていないが、同様に蒸発処理することは可能であるとしている。また、蒸発床の上部には開閉式の透光性屋根を設け、雨天の場合には蒸発床を濡らさないようにし、晴天の場合には蒸発床に日光が直接注がれるようにしている。
【0005】
また、特許文献3には、処分場に埋立処分又は投棄された廃棄物から周辺への汚染拡散を効果的に防止して、最終処分場の確実・安全な閉鎖を可能とする埋立処分又は投棄廃棄物からの汚染拡散防止方法が提案されている。
特許文献3に提案された方法は、処分場内の廃棄物層の上部を覆土し、その地表下に、勾配をもつ合成樹脂膜を敷設すると共に、廃棄物層の周囲に、前記合成樹脂膜に続く側溝を設置するか、または、整地した地表面に、雨水の通過は阻止するがガスの通過は可能な性質を有する人工地盤を敷設或いは造成する。さらに、廃棄物層下部まで達する揚水本管を設け、これにより強制的に浸出水を吸い上げ、この揚水を処分場表面に散水し蒸発するに際し、揚水の蒸発を促進する手段として、別途加温装置を用いて被覆材に散水し、浸出水を処分場内で完全に処理するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-71432号公報
【特許文献2】特開2003-1213号公報
【特許文献3】特開平11-226535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示された廃水処理システムでは、工場廃水を浄化処理した処理水に雨水を混合して空調の冷却系統に用いているのに過ぎず、冷房稼動時以外には公共水路に放流されることになり、減量の効果は小さい。
また、そもそも空調設備のない用途では、適用が不可能である。このため、このような敷地からの排水に関して浄化処理を行うことが義務付けられた場合、雨水を含む排水すべてが浄化処理の対象となるため、特許文献1の方法では、排水処理にかかるコストの低減に寄与しない。
【0008】
特許文献2に記載された廃棄物の埋立構造および埋立工法は、主として、それぞれ独立した処理水の集積装置、貯留装置、蒸発装置、補助蒸発装置から構成されており、装置が大掛かりなものになっている。また、蒸発装置は、雨水を蒸発処理の対象にしておらず、雨水は浸出水と分離して直接放流するしくみになっているため、雨水も浄化処理対象とされた場合には、そのまま適用できないという問題がある。
【0009】
特許文献3に記載された埋立処分又は投棄廃棄物からの汚染拡散防止方法は、基本的な考え方は、特許文献2の廃棄物の埋立構造および埋立工法と同様であり、雨水は速やかに敷地外に排出することが前提とされており、敷地内からの排水全てを浄化処理することを前提とすると使用することができない。
また、地面への雨水の浸透を防止するために合成樹脂シートや屋根、太陽電池パネルなどが示されているが、これらは、あくまでも地盤への雨水の浸透を抑制する手段として用いられており、蒸発処理には寄与しない。蒸発装置としては、処分場表面に散水を行うものであり、屋根、太陽電池パネルなどを設置した部分には設置できず、効果的な蒸発処理ができない。
汲み上げた浸出水を加温してほぼ完全に蒸散することが記載されているが、このようなものでは、別途加温設備が必要となり、設備やランニングコストがかかるという問題がある。
【0010】
本発明は、これらの課題を解決するためになされたもので、処分場跡地など、雨水排出に関して浄化処理を要求される場合において、浄化処理を不要とすることができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、浸出水のみならず雨水を含めて浄化処理をすることなく蒸発処理を、しかも部材点数を少なくした装置で実現するためにはいかにすべきかについて検討した。
その結果、雨水と共に地盤に浸透した浸出水を汲み上げて処理するのであれば、雨水を地盤に浸透させないようにすることで、浸出水の汲み上げが不要になり、また地盤に雨水が浸透しないようにするパネルに、雨水を蒸発させる機能を持たせるようにする、つまり雨水受水と雨水蒸発を一つの部材で行えばさらに装置の部材点数を少なくできるという発想を得た。
そして、上記発想を現実のものにするため、蒸発効率の向上についても検討し、本発明を完成させたものであり、具体的には以下の構成からなる。
【0012】
(1)本発明に係る雨水受水兼蒸発パネル体は、汚染の可能性のある土壌を覆うように配置されて、雨水を受水すると共に受水した雨水を蒸発させる雨水受水兼蒸発パネル体であって、表面を平板または波板にすると共に表面の日射吸収率を0.8以上とし、さらに表面を親水化処理した板状体と、該板状体の外周部に設けられて前記板状体を支持する支持装置に取り付けるための取付部とを有することを特徴とするものである。
【0013】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記板状体を矩形状に形成すると共に、前記表面の親水化処理を、前記板状体の両側縁の少なくとも1mm以上の領域を除くようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記板状体を金属製の板状体で形成したことを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記板状体を太陽電池モジュールで形成したことを特徴とするものである。
【0016】
(5)本発明に係る雨水処理装置は、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の雨水受水兼蒸発パネル体を備えた雨水処理装置であって、前記雨水受水兼蒸発パネル体を地表上に地面から所定空間を設け、かつ傾斜させて支持する支持装置と、前記雨水受水兼蒸発パネル体の傾斜下部に設けた集水装置と、該集水装置で集水された雨水を貯留する貯留槽と、前記雨水受水兼蒸発パネル体の少なくとも傾斜上部に設置されて前記雨水受水兼蒸発パネル体に散水する散水装置と、該散水装置に前記貯留槽の貯留水を送水する送水装置とを備えてなることを特徴とするものである。
【0017】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記板状体は複数のパネルを隣接させて配置したユニット体から構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
(7)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記パネルを上下方向に所定間隔あけて配置し、上下に隣接するパネル同士の隙間に該上下のパネルの表面に跨るキャップを設け、該キャップの表面を親水化処理したことを特徴とするものである。
【0019】
(8)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記パネルを上下方向に所定間隔あけて配置し、上下に隣接するパネル同士の隙間にピットを設け、該上下のパネルの隣接する縁部を親水化処理したことを特徴とするものである。
【0020】
(9)また、上記(5)乃至(8)のいずれかに記載のものにおいて、前記散水装置は、複数の散水孔が所定間隔を離して設けられた管体を有し、該管体を前記散水孔が前記板状体に正対または正対よりも上方に向くようにして前記板状体表面側に配置したことを特徴とするものである。
【0021】
(10)また、上記(9)に記載のものにおいて、前記散水装置は、前記散水孔から散水された水を下方に反射する反射壁を備えてなることを特徴とするものである。
【0022】
(11)また、上記(5)乃至(10)のいずれかに記載のものにおいて、前記集水装置で集水された水を前記貯留槽に送る経路に沈殿槽を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る雨水受水兼蒸発パネル体を処分場跡地のような汚染土壌の上方に設置すれば、雨水が処分場跡地に滲みこむのを防止でき、また雨水を効率的に蒸発処理することもできる。しかも、雨水受水兼蒸発パネル体が雨水を受水する役割と、雨水を蒸発させる役割の2つの役割を兼ねていることから、部材点数を少なくしてコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る雨水処理装置の装置構成の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る雨水受水兼蒸発パネル体の説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る雨水受水兼蒸発パネル体の種々の態様の説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る雨水受水兼蒸発パネル体の表面の態様の説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る雨水受水兼蒸発パネル体の表面の態様の説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る雨水受水兼蒸発パネル体における隣接するパネル間の隙間処理の態様の説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る雨水受水兼蒸発パネル体として、太陽電池モジュールを用いた場合の態様の説明図である。
【図8】図7の矢視A−A断面図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る雨水受水兼蒸発パネル体における隣接するパネル間の隙間処理の他の態様の説明図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る雨水受水兼蒸発パネル体における隣接するパネル間の隙間処理の他の態様の説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る散水装置の説明図である。
【図12】本発明の一実施の形態に係る散水装置の他の態様の説明図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係る散水装置の他の態様の効果を説明するための比較例の説明図である。
【図14】本発明の実施例の効果を説明するためのグラフである。
【図15】本発明の実施例の効果を説明するためのグラフである。
【図16】本発明の実施例の効果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施の形態に係る雨水処理装置1は、図1に示すように、雨水を受けると共に雨水を蒸発させる雨水受水兼蒸発パネル体3と、雨水受水兼蒸発パネル体3を地表上に地面から所定空間を設け、かつ傾斜させて支持する支持装置5と、前記雨水受水兼蒸発パネル体3の傾斜下部に設けた集水装置7と、該集水装置7で集水された雨水を貯留する貯留槽9と、貯留槽9と集水装置7との間に設けられた沈殿槽11と、雨水受水兼蒸発パネル体3の傾斜上部に設置されて前記雨水受水兼蒸発パネル体3に散水する散水装置13と、該散水装置13に前記貯留槽9の貯留水を送水する送水装置15とを備えてなるものである。
以下、各構成部材を詳細に説明する。
【0026】
<雨水受水兼蒸発パネル体>
雨水受水兼蒸発パネル体3(以下、単に「パネル体3」という場合あり)は、雨水を受けると共に雨水を蒸発させる板状体17と、該板状態の外周部に設けられて前記板状体17を支持する支持装置5に取り付けるための取付部19とを有する。
板状体17は、鋼板(ステンレスも含む)、アルミ、銅等の金属板やPET、アクリル、ポリカーボネート、ABSなどの合成樹脂板、ガラス、セメント系材料、鉄鋼製造の副産物であるスラグ系材料など無機系材料等も使用でき、単一構造であっても積層構造であってもよい。積層構造とする場合には、表層に前記材料を用いていれば、積層させる材料に制限はない。
また、濃色系樹脂やガラス裏面に濃色系材料を積層する場合、あるいは、表面に多孔質材料を用いた場合には、表面の塗装を行わなくてもよい。
【0027】
雨水受水兼蒸発パネル体3を鋼板、合成樹脂板からなる板状体17によって形成した場合には、図2に示すように、板状体17の周縁部を裏側に向けて折り返すことにより、剛性を高めるようにするのが好ましい。
また、図3に示すように、板状体17の外周部に必要に応じて補強用フレーム21を付加するのも好ましい。補強フレームの態様は種々のものが考えられ、図3(a)に示すように、板状体17をパッキン23を介して保持する断面略コ字状のものや、図3(b)〜(d)に示すように、断面略L字のものが考えられる。補強用フレーム21の材料は、鋼材、アルミ成型材、合成樹脂など、必要に応じた強度が確保できる材料を選択し、板状態と同一の材質でもよいし、異なる材質でもよい。
補強用フレーム21を支持装置5側にボルト接合することで雨水受水兼蒸発パネル体3を支持装置5に取り付けることができ、この場合は補強フレームが取付部19として機能する。
なお、図1においては、パネル体3として平板の例を示したが、パネル体3は波板形状としてもよい。波板形状とした場合の設置方向は、流れ方向でも流れと直角方向でもよい。
【0028】
パネル体表面は、太陽光により高温化させることによって、表面に散水された水を蒸発させる機能を有する。そのため、表面に散水した水の水温を上昇させる必要があり、表面の日射吸収率は少なくとも周囲の土壌表面やコンクリート面の日射吸収率よりも高くするのが好ましい。本発明においては、日射吸収率を0.8以上としているが、望ましくはパネル体表面を濃色系にすることで0.9以上とし、より望ましくは1.0の黒体にする。
【0029】
また、パネル体表面は、効率的な蒸発機能を発揮させるために親水化処理を行う。親水化はシリカ系化合物を用いる方法、無機系バインダーを介して太陽光で活性化するアナターゼ型酸化チタンなどの光触媒を用いる方法、表面形状を細かい凹凸状あるいは、多孔質構造とする方法などがある。親水層を形成する場合には、図4に示すように、基材27の表面にバインダー・顔料層29を設け、その上に親水層25を形成するようにする。金属表面に無機系材料を配し、光触媒を併用する場合やガラス表面に直接光触媒を配置する場合には、無機系バインダーは別途用いなくてもよい。
シリカ系化合物を用いた場合には、夜間散水による蒸発処理も可能である。光触媒は一般に紫外線によって活性化するため、夜間には効果がなくなるが、シリカ系化合物との混合使用によって、紫外線が照射されない状態でも一定の親水性を維持することができる。
なお、雨水受水兼蒸発パネル体3は、後述するように太陽電池モジュールによって形成することも可能であり、その場合には、汚れの分解機能を持つ光触媒を用いるのが最も望ましい。
【0030】
パネル体表面において親水化する範囲は、全面としても良いが、図5に示すように、少なくとも両側域1mm以上の範囲を非親水化領域31として親水化しないようにするのが好ましい。両側域に非親水化領域31を形成することにより、散水時に当該領域と親水化領域との表面張力差によって、側面方向への落水を防止することができる。
なお、親水化を多孔質材料で行ったような場合など、表面張力が期待できないものは、別途、側面に板材などを設置して落水防止措置をとるとよい。
【0031】
パネル体3は、単一のパネルで形成することも可能ではあるが、より現実的には複数のパネルを上下方向の傾斜を略同一にして連結して、ユニット化するのが好ましい。
例えば縦1000mm×横1200mm程度の大きさのパネルを縦10枚、横8枚で一辺10m程度の1ユニットとする。
ユニット全体に同一種類のパネルを設置してもよいし、各列、各行、あるいは千鳥、もしくは文字や絵柄を形成するために部位毎に仕様を変えて設置してよい。
なお、本明細書においては、「パネル体3」と表記したときには全体を意味し、「パネル」と表記したときにはパネル体3を構成する各部材を意味するものとする。
【0032】
パネル同士は少なくとも傾斜の上下方向に所定の間隔をあけて配置し、その間隙部分には、上下に配置されるパネルの表面部分に跨るようにキャップを設け、かつ、そのキャップの表面を親水化処理して、大型のパネルユニットに構成することが可能である。この形態によれば、上方のパネルから流下してきた水が、パネル接続部のキャップを乗り越えて下方のパネルに乗り移り、良好に水膜を形成する。
キャップの表面の親水化領域は、パネルと同じく、両側域1mm以上の範囲で除外するようにするのが好ましい。この理由は、パネル体3の両側域に非親水化領域31を形成したのと同様に落水防止のためである。なお、キャップの具体的な態様については、パネル体3に太陽電池モジュールを用いた場合の説明において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
また、キャップの代わりに、図6に示すように、パネルの接続部(約15mmの間隔)にポリウレタン製のバックアップ材33を介して深目地状のアクリル系シーリング材によるシーリング目地35が、その目地高さを表面からマイナス10mmの高さで施工し、溜まり部分を設けるようにしてもよい。この場合は、パネルの上下端部分は親水化処理を行う。この形態によれば、上方から流下してきた水が溜まり部分に一旦貯留され、溢れ出すことで下方のパネル全体に水膜を連続して形成させることができる。
【0034】
パネル体3をガラスで形成する一態様として、太陽電池モジュールをパネル体3とすることもできる。
太陽電池モジュールの発電効率は、温度によって変動することが知られており、一般に、結晶系シリコンによるものの発電効率は25℃を基準として、1℃上昇によって約0.45%低下する。
そこで、太陽電池モジュールをパネル体3として用いると、太陽電池モジュール表面に散水することで、蒸発潜熱によって、表面温度の大幅な温度低下が可能となるため、発電効率向上に寄与することができる。
【0035】
太陽電池モジュールをパネル体3とする場合には、その表面のガラス部分を親水化処理する。親水化処理は、例えばガラス部分にアナターゼ型酸化チタンを含む材料を工場で吹きつけ塗装し、焼付け処理を行う。
薬剤および光触媒の種類、光触媒の含有量、塗布量、膜厚、焼付け温度は、耐久性、接触角、干渉色発現の程度に必要な範囲で基準を設け、それに合致するものを選択する。
ガラスの親水化処理は、太陽電池モジュールの製造前後のどちらの時点で施工してもよいが、太陽電池モジュール製造の前段階で施工するのがよりのぞましい。太陽電池モジュール製造後に施工する場合には、ガラス以外の構成材料の主として樹脂類、配線類、電気部品類の劣化を考慮し、実使用時に到達すると予測される最高温度である80度以下の温度で焼付けを行う。
【0036】
太陽電池モジュール36をパネル体3とする場合、各パネルの長辺部分を上下方向に配置し、パネル相互の間隙部分に、図7、図8に示すように上下に配置されるパネルの表面部分に跨るキャップ37を設ける。キャップ37は厚さ0.35mmの薄鋼板製で、幅は、太陽電池表面の保護ガラスの露出幅と略同じにして、ガラスの横幅範囲内で収まる大きさとしている。キャップ37はその頭部39が、図8に示されるように、上下端を太陽電池モジュール36のフレームの高さ程度に傾斜させた略山型形状になっている。頭部39の下面側には下方に延びる脚部41が形成され、脚部41の先端には太陽電池モジュール36に形成された突出部43に係止可能な係止部45が形成されている。
図7、図8に示すキャップ37においても、前述したように、両端部1mm程度、親水処理しないようにする。このようにすれば、親水化部分を水が流下し、親水化されていない部分では撥水されるため、上方のパネルから流下してきた水が側方に落水せずにパネル接続部を乗り越え、下方のパネルに乗り移って良好に水膜59を形成する。
なお、表面に段差のないパネルの場合は、頭部39を図9に示すように略平板形状とした平面キャップ47としてもよい。
【0037】
なお、図8、図9に示すキャップに代えて、図10に示すように、パネル間の間隙内に樋状に設置する樋状キャップ49にしてもよい。樋状キャップ49は、例えば厚さ0.6mmの半円形の合成樹脂からなり、幅は、パネル間隔よりも大きいものをスプリングバックを利用してはめ込み設置する。必要に応じて、接着などの補助手段を用いるが、シーリング材を用いるとより好ましい。樋状キャップ49の端部は、閉塞して落水を防止する。
【0038】
<支持装置>
支持装置5は、パネル体3を地面から所定空間あけて、かつ傾斜させて支持する。支持装置5は、敷地上に打設した鉄筋コンクリートまたは鋼管杭からなる基礎部と、該基礎部上に構築した骨組みを備えて構成される。パネル体3は、この骨組み上に設置される。
基礎部の構成としては、例えば外径165.2ミリ、厚さ約7ミリの回転貫入方式の鋼管杭を地上から1m突出させて形成する。杭の先端には杭径以上の大きさの半円形の鋼板がそれぞれ傾斜して取り付けられて先端部を閉塞している。
骨組みの構成としては、軽量形鋼製骨組みを後述する傾斜角で立体骨組みとして構成する。
なお、杭の突出長さは、全て同じとしてもよいが、パネル体傾斜角に応じて杭の突出長を変化させ、軽量形鋼製骨組みを平面骨組みとしてもよい。
【0039】
地盤が良好でなく、著しい沈下または不等沈下が予測され、または、杭の施工により廃棄物の上面あるいは下面に配置される防水シート、あるいは、不透水層の損傷が懸念されて杭が施工できない場合には、杭を用いずにパネルユニットに対する吹き上げ力に対抗する重量から、上部構造の重量を除き、その重量を杭本数で除した値以上の重量を有する鉄筋コンクリート製基礎を用いても良い。
【0040】
パネル体3の設置方位と角度は骨組みにおけるパネル体設置部において、パネル体3への太陽光の入熱が多くなるように設定する。もっとも、パネル体上部で受けた雨水を自然流下させるため、パネル体3は一定方向に傾斜させるように、骨組みのパネル体設置部を構成する。パネル体3の最も望ましい方位と角度は、南向きで傾斜角20〜30度前後であるが、敷地条件等を考慮して前記以外の方位や角度で設定してもよい。
【0041】
パネル体3の設置方位と角度の一例を示すと、南西に向けて設置し、設置傾斜角は12度とする。太陽エネルギーの取入れを多くするためには、パネル体3の傾斜角をパネル体設置方位と太陽方位角が略同じとなる時間帯で、冬至に法線面直達日射と垂直になる角度と、夏至に同様となる角度の間の任意の角度で設定するとよく、東京で南向きに設置する場合には、傾斜角は20度から70度の範囲がより望ましい。
パネル体表面に散水を行って蒸発を促進させる観点から、パネル体表面の散水流の流速は余り早くないほうがよく、南向きで固定式の場合の傾斜角は20度から35度程度が更に望ましいが、パネル体傾斜角を小さくすると、パネル体設置用の骨組みの部材が少なくてすむメリットがあるため、季節ごとの晴天率、設置方位、骨組みコストなどを勘案して水平を除き、70度程度以下の範囲で任意に決定してよい。なお、傾斜角は固定でも、可動式としてもよく、可動式にした場合の可動単位は、パネル単体でもユニット単位でもよい。
【0042】
パネル体3の設置高さは、敷地レベルと同等の高さ以上であれば、骨組みの高さを調整することで任意に定めることができ、パネル体3の下方のスペースの利用用途に応じて適宜設定することができる。パネル体下方を特に利用しない場合であってもメンテナンス用の有効高さとして1m程度の空間を空けるのが好ましい。
また、例えば、パネル体3の下方スペースを、平置き式の駐車場として利用する場合には、有効部分の最低地上高を2300ミリ以上とすればよい。
また、駐車場を自走式多層階としてもよく、その場合にはパネル体3の下方スペースは建設する階層に応じて設定すればよい。
【0043】
<集水装置>
集水装置7は、パネル体3の傾斜下部に設けられて、パネル体3で受けた水を集水する。集水装置7の一つの態様として、パネル体3の下辺部に樋状の流路を設けることが考えられる。なお、縦樋を併用してもよい。
樋状の流路は、パネル体側に設けてもよいし、あるいは敷地表面近傍に設けてもよい。また、樋状の流路はパネル1枚ごとに設けてもよいし、複数枚のパネルを組み合わせたユニットごとに設けてもよいし、あるいはユニットを組み合わせた全体に設けてもよい。いずれの態様であっても、全体としてパネル体3の傾斜下部側に幅方向に連続する樋状の流路が設けられるようにする。
また、樋状の流路は、パネル幅に合わせて樋の形状を設定し、また材質は特に限定されることなく任意のものを使用できる。樋状の流路の深さの一例を示すと、例えば100mmである。
なお、樋状の流路で集水された水を、沈殿槽11へ導水するために、樋状の流路の両端や中間部に縦配管を設けるようにするが、この縦配管は、樋形状やユニットの大きさを勘案して、任意に設計すればよい。
【0044】
なお、パネル体3の下方を多段式の駐車場として利用するような場合には、パネル体3を設置した階の床を集水装置7の一部として兼用してもよい。
【0045】
<貯留槽>
貯留槽9は、集水装置7で集水された雨水を貯留する。貯留槽9は、鉄筋コンクリート製の他、鋼製タンク、樹脂タンクなど、任意のものが選択できる。
貯留槽9を鉄筋コンクリート製にした場合には、亀裂による漏水防止のため、樹脂ライニングや鋼製ライニング、シート防水等の対策を行うのが好ましく、このようにすることで貯留水のアルカリ化も抑制できる。
貯留槽9の設置場所は任意で良いが、既設の汚水貯留池などの水中にタンクを設置するという形態にすると、基礎工事が不要となるメリットがある。
【0046】
また、貯留槽9をパネル体3の下方に設置するという形態の場合には基礎工事が必要になるが、敷地の利用効率を高くすることができる。パネル体3の下方を駐車スペースとして使用する場合は、貯留槽9は上面を地盤面として埋設設置され、車両その他の上部の荷重に対して安全な仕様で閉塞され、点検用のマンホール蓋を設けるようにする。
なお、パネル体3の下方を自走式多層階の駐車場にする場合には、貯留槽9は最下階や、高架式タンクとすればよい。
【0047】
貯留槽9の深さは、面積がパネル投影面積と同じ大きさの場合、東京近郊であれば、蒸発との収支から考察すると、通常は800ミリあればオーバーフローは発生しないが、1000ミリあればより安全である。また、条件によっては、汚水処理槽にオーバーフロー分を導入して汚水処理槽の汚水を希釈するようにしてもよいし、直接公共水路等に放流してもよい。
【0048】
貯留槽9の態様の具体例を示すと、複数の合成樹脂製タンクがパネル体3下方のほぼ全面の範囲で地盤面上に設けられ、有効深さを800mmとしたものが挙げられる。ここでの貯留槽9の大きさは、東京地区での実際の連続年の気象データにより、降水量と蒸発量の収支でオーバーフローを起こさない容量を設定したが、標準的な降水量でまれに起こるオーバーフローを許容する場合には、有効深さを90mmから300mmの範囲で決定するとよい。これにより年間降水量の概ね70%以上の雨水を蒸発処理することができ、設置コストを削減可能である。
【0049】
<沈殿槽>
沈殿槽11は、貯留槽9と集水装置7との間に設けられて、パネル体3を流れて集水装置7で集水された水に含まれる砂埃などの固形物などを除く役割をする。つまり、沈殿槽11は、パネル体上の飛来物を貯留槽9へ導入しないようにする機能を有している。
沈殿槽11の材質、形状、大きさは、所定の沈澱処理が行うことができれば任意の材料、形状、大きさでよいが、セメント系材料など、雨水に材料成分が溶出する恐れや、亀裂の発生など、漏水の危険があるものは、別途、樹脂ライニング、鋼製ライニングなどで内面、外面、あるいはその両方に防水処理を行う。合成樹脂タンクを用いた場合には、これらの処理は不用である。
沈殿槽11上部から貯留槽9へは配管で接続され、上澄みを貯留槽9に導水する。導水手段は自然流下方式でもよいし、位置関係に応じて揚水ポンプを使用してもよい。
【0050】
なお、沈殿槽11と同様の役割を有するものとして沈殿槽11に加えて、貯留槽9と散水装置13の間にフィルタ51(図1参照)を設け、さらにフィルタ51に至る配管の先端(吸込み側先端)にストレーナ53を設けるようにしてもよい。
また、フィルタ51に代えてあるいはフィルタ51と共に薬液処理設備を設けるとなおよい。薬液処理設備は、雨水の循環使用によるバクテリアの繁殖防止、貯留槽9をコンクリート系材料で構成した場合に貯留水にカルシウム分が溶出してパネル上で析出することを防止、流入する粒子分を凝集させて沈殿を促進させることなどを目的として用いる。カルシウムの除去方法としては、硫酸を投入して、石膏として回収する方法などがあるが、貯留水中の成分によって適切な薬品を選択する。
なお、パネル体表面に光触媒を用いた場合、完全ではないが、バクテリアや藻類の繁殖抑制効果も期待できる。
【0051】
<散水装置>
散水装置13は、パネル体3の傾斜上部に設置されてパネル体3に散水して水膜59を形成する。散水装置13の具体的態様としては、散水孔55が所定間隔で設けられた管体が考えられる。管体はパネル体3の傾斜状上部に加えて、傾斜中間部に設けるようにしてもよい。
散水孔55は、パネル体3の表面に対して正対させるか、あるいは正対よりもパネル体3の傾斜上部側に向けるように配置するのが好ましい。このような配置にすることで、図11に示すように、散水孔55から吐出される吐出水57と、パネル体表面を流下しようとする水とがぶつかって、パネル体表面で横方向に水膜59を広げ、薄い水膜形成ができる。
【0052】
散水装置13を構成する管体の延長が長い場合には、先端に近づくにつれて散水が不能になるため、ループ配管とするか、圧力弁形式の噴射ノズルとするのが好ましい。噴射ノズルとする場合は、略同心円状に噴射される水が隣接する噴射ノズルからの吐出水57とほぼ接する間隔とする。
パネル体3に太陽電池モジュール36を使用した場合は、パネル体表面に霧を形成すると、乱反射により入射エネルギーが減少することから、噴射ノズルの設置高さは可能な限り低くし、太陽電池モジュール表面に霧を広範に形成するのを防止するのが好ましい。
【0053】
パネル体3への散水量は、散水開始時、終了時、あるいは所定の時間毎には幅1mあたり毎分1000cc以上の大量散水を行い、通常は幅1mあたり毎分100ccから200cc以上の通常散水とした。散水開始時の大量散水の水量は、早期水膜形成を目的とした水量であり、通常散水時の水量は、親水化した金属パネル上での水膜維持のために必要な水量である。水膜維持には、上記の散水量で十分であることを実験で確認しているが、パネル体3の傾斜角が小さい場合には、表面に付着した飛来物等を洗浄することも考慮し、大量散水時には幅1mあたり毎分2000〜3000cc、通常散水時には幅1mあたり毎分300〜500cc程度以上が望ましい。
なお、太陽電池モジュール36をパネル体3に使用した場合で、発電効率低下抑制を考慮する場合には、通常時の散水量を幅1mあたり毎分500cc以下に抑えることが望ましい。傾斜角度にも依存するが、概ねこの散水量を超えると表面に水紋が形成され、乱反射により発電効率低下の可能性があるためである。
【0054】
以下においては、散水装置13の構成と散水方法の具体例を説明する。
散水装置13を構成する管体として、架橋ポリエチレン製の50Aの管体を用い、パネル体3(ユニット)の全幅にわたって最上部とユニット中間部に設置する。この管体には50ミリの間隔で0.5ミリの貫通孔が設けられ、当該貫通孔は、パネル体表面に対して正対よりも上方へ向けて配置する。管体は、耐久性保持のため、紫外線防護塗装やカバーを取付けることが望ましく、または、ステンレスなど金属配管としてもよい。
【0055】
最上部の散水量は、散水開始時、終了時、と1時間に1回それぞれ5分間とし、幅1mあたり毎分2000ccの大量散水を行い、それ以外の時間帯は幅1mあたり毎分300ccの通常散水とした。大量散水時にはパネル体3の表面で同心円状に広がった水膜が横方向につながり、下部が全面濡れ状態となる。また、通常散水時には、鉛直方向に水滴が滴下する状態となるが、薄く形成された水膜状に水滴を落下させて広げることによって、薄い水膜59を維持するものである。
常に薄い水膜59を維持することにより、蒸発効率を高めることができる。
【0056】
ここで、中間部に設置する散水装置13は、散水量を最上部より少なくしている。ここでは、流量調整弁を用いて、管体のサイズを流量によって小さく設定した。流量バランスは、最上部から流下して中間部の散水装置部分に達したときに蒸発分を供給する水量程度とすると、ほぼ同一条件の蒸発効果が期待できる。もっとも、最上部と中間部を同一の散水量になるように制御してもよい。
【0057】
上記の説明では、管体に50ミリ間隔で散水孔55を設ける例を示したが、以下においては、散水孔間隔を拡大して製作工数とコストを低減できる態様について説明する。
この態様は、図12に示すように、パネル体上部の散水が到達する部位に、散水された水と接触してその水膜59を幅方向に広げる手段としての反射壁61を設けるようにしたものである。反射壁61を設けることにより、散水孔55の設置間隔を広げても全面濡れの状態を容易に実現することができる。これにより、通常は50mm以下の間隔で配置する散水孔55の径を大きくして数を減らすことが可能となり、製作コストを大幅に低下させることができる。
【0058】
以下、この反射壁61を設けた散水装置13の具体例を説明する。
管体に200〜300ミリ程度の間隔で散水孔間隔を設け、散水の到達部には高さ20ミリ内外でほぼパネル面に垂直に、管体より上方10ミリの位置で、傾斜角θ=15度を有し、各散水孔55に対応した反射壁61を設けている。
反射壁61は、各散水孔55からの散水と接触してその水膜59を幅方向に広げる。散水圧や反射壁61の傾斜はパネル体傾斜角に応じて適切に設定する。水膜59が連続する散水孔間隔と散水量であれば、反射壁61の設置角度が管体と平行でも問題ない。
【0059】
通常、散水孔間隔が200ミリの場合、上述の50ミリの間隔で散水孔55を設けた場合の散水方法を行ったとしても、図13に示すように隣り合う水膜59は連続しない。しかし、図12に示すように反射壁61に散水を衝突させることによって、大量散水時に水が反射壁61に沿って斜め上方に供給されて反射水が横方向に広がりながら流下し、散水孔55が離れていても、全面に水膜59を形成することができる。
なお、反射壁61を設けない場合には、散水孔間隔を小さくする必要があり、概ね50ミリ以下の間隔であれば、反射壁61がなくても水膜59が横方向につながって、全面濡れ状態となることを確認している。
【0060】
<送水装置>
送水装置15は、散水装置13に貯留槽9の貯留水を送水するものであり、図1に示すように、例えば散水ポンプがこの機能を有する。
【0061】
上記のように構成された雨水処理装置1においては、雨水受水兼蒸発パネル体3が処分場跡地などを覆うように設置され、雨水を受けるので、雨水が処分場跡地に滲み込むことがない。したがって、雨水が汚染物に触れて汚染水になるのを防止できる。
また、雨水受水兼蒸発パネル体3が受けた雨水は、集水装置7によって集められ、沈殿槽11で固形物が除去されて、貯留槽9に一時的に貯留される。貯留槽9に貯留された水は送水装置15によって散水装置13に送水されて散水装置13からパネル体3の表面に散水される。散水された水は、上述のようにパネル体表面で薄い水膜59を形成する。パネル体3の表面は日射吸収率が高くなっており、高温化するので水膜59を形成した水が効率的に蒸発して減量される。
【0062】
このように、本実施の形態の雨水処理装置1によれば、雨水が処分場跡地のような汚染土壌に滲みこむのを防止でき、また雨水を全量蒸発処理することもできる。しかも、雨水受兼蒸発パネル体3が雨水を受水する役割と、雨水を蒸発させる役割の2つの役割を兼ねていることから、部材点数を少なくしてコストを低減できる。
また、雨水受兼蒸発パネル体3の下方を駐車スペースに利用することも可能であり、このような利用をすることでスペースの有効利用が可能となる。
また、本実施の形態の雨水受兼蒸発パネル体3においては、表面の日射反射率を高め、親水化して全面を濡らすことができるようにしているので、温度上昇による蒸発促進が図られ、それ故に別途補助加熱装置や蒸発促進装置を設ける必要がない。
また、雨水受兼蒸発パネル体3における親水化領域を両側1mm以上の範囲を除外することで、落水防止用のリブなどの部材を省略し、コスト上昇を防止している。
また、太陽電池モジュール36で構成した場合には、上記の効果に加えて、太陽電池モジュール36への散水が表面温度の低下をもたらし、発電効率向上に寄与することができる。
【実施例】
【0063】
上記の実施の形態で示した雨水処理装置1に関し、日本建築学会 拡張アメダス気象データ 新木場 の1990〜1995年(注参照)の毎時データを用いて、太陽電池パネル体表面に散水を行った場合の蒸発水量を下記要領で算出した。ここで、散水時間は日射がある時間帯に限定し、降雨があった時間帯の蒸発は一律ゼロとして安全側に評価した。貯留水量は、降水量と蒸発水量の残差として積算した。
(注)1976〜2008年(年平均降水量 1335mm)から、日照時間が最も少なく、降雨量が多かった1991〜1993年(年間降水量 1991年1777mm,1992年1502mm,1993年1547mm 3年累計4826mm)を中心に抽出した。
【0064】
(1).南西向き傾斜面12°における全日射量による太陽電池モジュール36の表面温度近似値Ts〔℃〕を下式によって求めた。
【数1】

【0065】
(2).散水による温度低下量ΔTは下式(実験式)によって求めた。
ΔT=0.720934Ts-(508.19509xa+9.4191604)
ただし、ΔT≧0
a:外気絶対湿度〔kg/kg’〕
Ts:太陽電池モジュールの表面温度近似値〔℃〕
【0066】
(3).散水時太陽電池モジュール表面温度=表面水温Tw〔℃〕
水膜の厚さが薄い場合には、太陽電池モジュール表面温度と表面水温が等しいことを確認している。
(大量散水の場合は,散水温度の影響を受ける)
Tw=Ts-ΔT
ただし、Tw≧Td(露点温度[℃])
【0067】
(4).蒸発量E〔kg/m2h〕は下式によって求めた。
【数2】

【0068】
計算結果は、毎時データに基づいて理論蒸発量を算出し、日照がある時間内で、かつ、降雨がない時間に限定して日積算蒸発量に算入し、1日毎の値として水の収支を計算した。この際、貯留した雨水がなくなった場合にはその後の蒸発量をゼロとし、翌日以降に降雨により雨水の貯留された段階から蒸発を再開するものとしたが、現段階では1日の中での降雨と蒸発の前後関係は調整していない。
【0069】
図14に降水量の多かった1991〜1993年の日別降雨量、蒸発量、累積降水量、貯留水量の推移を示す。
計算開始の条件として、初期貯水量をゼロとしたため、8〜9月の台風シーズンまでは貯留水が枯渇して散水が不能になる日があり、初年度の年間蒸発量は蒸発量計算値の単純累計よりも少なくなっているが、光触媒等により相当の濡れ率が確保できれば、最大降雨年の場合でも年間蒸発量は降雨量よりも多く、初年度を除き、貯留水量は増加傾向を示さない。
なお、貯留水量の推移から、貯留ピットの深さも1[m]程度でよいことがわかる。3年経過時の蒸発による雨水処理量は4293[kg/m2]、累積降水量のおよそ90[%]である。
【0070】
参考に、初期貯水量に700[kg/m2]を設定した計算結果を図15に示す。この条件では、初年度の8月までの間に貯留水の枯渇は発生していない。すなわち、初年度を除いた通常の傾向(年降水量1600mm程度が継続した場合)として考えてもよく、3年経過時の蒸発による雨水処理量は4886[kg/m2]、累積降水量のおよそ102[%]である。貯留水の枯渇がなければ、年間降水量の全てを蒸発によって処理できる可能性が高いことがわかる。貯留水量の最大値は若干増加するが、貯留ピットの深さは1[m]程度で十分である。
【0071】
1991〜1993年は、ここ20年間で最も降水量が多かった3年間であり、降雨が多くても蒸発によって雨水処理が十分可能であることは上述の通りである。
次に平均的な降水量での考察を行う。すなわち、1991〜1993年の前後の年を含めた中期的な検討を行う。図16に1990〜1995年の日別降雨量、蒸発量、累積降水量、貯留水量の推移を示す。
1990年の降水量は1440mmで、平年値よりもやや多いが、夏には貯留水が枯渇している。1991年に多雨(1777mm)のため、貯留水は780[kg/m2]まで増加するが、以降漸減傾向を示し、1994年以降は、貯留水は枯渇しがちになる。
上記の検討から、中長期的視点で見れば、太陽電池モジュールによるパネル体3で集積した雨水は100[%]蒸発処理できるだけではなく、他からも雨水を導入して処理することも可能なレベルであることがわかる。
【0072】
以上のように、本発明に係る雨水処理装置1によれば、雨水を受けてそれを貯留槽9に一時的に貯留し、さらに貯留水を蒸発処理できるので、雨水が処分場跡地のような汚染土壌に滲みこむのを防止して汚染水の発生させることなく、しかも浄化処理が不要となるという優れた効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 雨水処理装置
3 雨水受水兼蒸発パネル体
5 支持装置
7 集水装置
9 貯留槽
11 沈殿槽
13 散水装置
15 送水装置
17 板状体
19 取付部
21 補強用フレーム
23 パッキン
25 親水層
27 基材
29 バインダー・顔料層
31 非親水化領域
33 バックアップ材
35 シーリング目地
36 太陽電池モジュール
37 キャップ
39 頭部
41 脚部
43 突出部
45 係止部
47 平面キャップ
49 樋状キャップ
51 フィルタ
53 ストレーナ
55 散水孔
57 吐出水
59 水膜
61 反射壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染の可能性のある土壌を覆うように配置されて、雨水を受水すると共に受水した雨水を蒸発させる雨水受水兼蒸発パネル体であって、
表面を平板または波板にすると共に表面の日射吸収率を0.8以上とし、さらに表面を親水化処理した板状体と、該板状体の外周部に設けられて前記板状体を支持する支持装置に取り付けるための取付部とを有することを特徴とする雨水受水兼蒸発パネル体。
【請求項2】
前記板状体を矩形状に形成すると共に、前記表面の親水化処理を、前記板状体の両側縁の少なくとも1mm以上の領域を除くようにしたことを特徴とする請求項1記載の雨水受水兼蒸発パネル体。
【請求項3】
前記板状体を金属製の板状体で形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の雨水受水兼蒸発パネル体。
【請求項4】
前記板状体を太陽電池モジュールで形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の雨水受水兼蒸発パネル体。
【請求項5】
請求項1乃至5のいずれかに記載の雨水受水兼蒸発パネル体を備えた雨水処理装置であって、
前記雨水受水兼蒸発パネル体を地表上に地面から所定空間を設け、かつ傾斜させて支持する支持装置と、前記雨水受水兼蒸発パネル体の傾斜下部に設けた集水装置と、該集水装置で集水された雨水を貯留する貯留槽と、前記雨水受水兼蒸発パネル体の少なくとも傾斜上部に設置されて前記雨水受水兼蒸発パネル体に散水する散水装置と、該散水装置に前記貯留槽の貯留水を送水する送水装置とを備えてなることを特徴とする雨水処理装置。
【請求項6】
前記板状体は複数のパネルを隣接させて配置したユニット体から構成されていることを特徴とする請求項5記載の雨水処理装置。
【請求項7】
前記パネルを上下方向に所定間隔あけて配置し、上下に隣接するパネル同士の隙間に該上下のパネルの表面に跨るキャップを設け、該キャップの表面を親水化処理したことを特徴とする請求項6の雨水処理装置。
【請求項8】
前記パネルを上下方向に所定間隔あけて配置し、上下に隣接するパネル同士の隙間にピットを設け、該上下のパネルの隣接する縁部を親水化処理したことを特徴とする請求項6の雨水処理装置。
【請求項9】
前記散水装置は、複数の散水孔が所定間隔を離して設けられた管体を有し、該管体を前記散水孔が前記板状体に正対または正対よりも上方に向くようにして前記板状体表面側に配置したことを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一項に記載の雨水処理装置。
【請求項10】
前記散水装置は、前記散水孔から散水された水を下方に反射する反射壁を備えてなることを特徴とする請求項9記載の雨水処理装置。
【請求項11】
前記集水装置で集水された水を前記貯留槽に送る経路に沈殿槽を設けたことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか一項に記載の雨水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−230078(P2011−230078A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104172(P2010−104172)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】