説明

雨水流出抑制施設

【課題】貯留水を排水するときの水流を利用して、貯留槽内の全体から堆積物を容易にかつ確実に排除することのできる雨水流出抑制施設を提供する。
【解決手段】地中に埋設された貯留槽30と、貯留槽30の底部に形成した沈殿溝35とを備えた雨水流出抑制施設10であって、沈殿溝35は貯留槽30の底部に複数列に形成されており、各沈殿溝35は排水桝等の排水部22に接続している。各沈殿溝35はシャッター37を備えており、堆積物を排出するメンテナンス時には、制御装置40によって、各沈殿溝35のシャッター37の開閉を順序を順次切り替えながら、貯留槽30内の排水を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設される雨水流出抑制施設に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中小河川の排水能力を上回る規模の降雨が短期間に集中して生じたときに、河川からの溢水によって災害が生じるのを防止する目的で、地中に貯留槽を備えた雨水流出抑制施設を設けることが都市部などで行われている。貯留槽はコンクリート構造物の場合もあり、特許文献1に記載のように、縦方向構造体の間に空隙を有する構造の樹脂成形品の複数個を多段に積み上げた積層構造体とその周囲に配した遮水材とからなる貯留槽の場合もある。
【0003】
このような貯留槽において、雨水とともに砂やゴミの固形物が貯留槽内に流れ込むのを防止するために雨水の流入経路に沈砂槽が設けられるが、一時的に大量の雨水が浸入するようなときに、貯留槽内に砂やゴミ等が流入するのを完全に防止することはできない。長い間に入り込んだ砂やゴミ等は堆積物として槽内に沈殿してしまうので、堆積した堆積物を貯留槽から除去することが雨水流出抑制施設にとって一つの課題となっている。特に、樹脂成形品の複数個を多段に積み上げた積層構造体を内部に持つ貯留槽の場合、貯留槽内に作業者が入り込むことはできず、バキューム管のような清掃手段を入れ込むことも容易でないので、堆積した堆積物を除去することは大きな課題となっている。
【0004】
そのような課題を解決する手段を備えた雨水流出抑制施設として、特許文献2には、地面を掘下げて形成した貯留部内に、上下方向に重ねて設置された多数の充填部材を配置するとともに、充填部材には流入した雨水等を所定方向に誘導する誘導手段として水平面に対して傾斜する傾斜板材を取り付け、貯留部は、その底面に、傾斜板材によって雨水等が誘導される箇所に凹窪部を備えるようにした施設が記載されている。凹窪部は貯留部の全長にわたって形成されており、凹窪部の端部の開口は地面に開口する点検口に点検筒を介して連通している。
【0005】
この雨水流出抑制施設では、貯留部の貯留水を排水するときの水流を利用して堆積物を凹窪部に集めることができることに加え、長期間に亘って凹窪部に溜まった砂や汚泥等の堆積物を、地面に開口する点検口から挿入したバキューム管で吸い取ることにより除去することができ、また、凹窪部の一方の開口から高圧洗浄水を噴射して他方の開口から吸い取ることができ、効率よく堆積物を除去することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2006−266034号公報
【特許文献2】特開2003−201722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の雨水流出抑制施設は多くの利点を有している。しかし、流入した雨水等を所定方向に誘導するための傾斜板材を備えた充填部材が必要であり、構成が複雑となるのを避けられない。また、貯留部底面における前記傾斜板材によって雨水等が誘導される箇所に1つの凹窪部を備えるだけであり、凹窪部近傍では水流が早いために前記傾斜板材によって水と一緒に砂や汚泥等が流されるが、凹窪部から離れた場所では、水流がほとんどなく水位が上下するだけであり、傾斜板材は有効に機能しない。そのために、凹窪部から離れた場所の傾斜板材上や貯留槽の底面に堆積物が貯まってしまう恐れがある。
【0008】
本発明は、その不都合を解決することを課題としており、より具体的には、雨水流出抑制施設において、貯留水を排水するときの水流を利用して、貯留槽内の全体から堆積物を容易にかつ確実に排除することのできる、より改良された雨水流出抑制施設を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による雨水流出抑制施設は、基本的に、地中に埋設された貯留槽と、前記貯留槽の底部に形成した沈殿溝とを少なくとも備え、貯留水が前記沈殿溝に入り込むときの水流により前記貯留槽内の堆積物を前記沈殿溝に集めるようにした構成を備える雨水流出抑制施設であって、前記沈殿溝は前記貯留槽の底部に複数列に形成されており、各沈殿溝は排水桝等の排水部に接続しており、さらに、各沈殿溝から排水部への排水順番を選択的に切り替えることのできる切り替え手段を備えることを特徴とする。
【0010】
上記の雨水流出抑制施設では、貯留槽の底部に複数列に沈殿溝を備えており、かつ各沈殿溝から排水部への排水順番は順次切り替えられる。沈殿した堆積物の除去作業を行うときには、最初に複数ある沈殿溝のうちの1つを選び、そこからのみ貯留水の排水を行う。貯留水の高い水頭圧によって、当該沈殿溝では速い流速での排水が進行する。それにより、当該沈殿溝に近い領域に存在する堆積物は確実にその沈殿溝内に集められる。所要時間経過後に、最初の沈殿溝からの排水を停止し、次の沈殿溝を選択してそこからのみの排水に切り替える。それにより、2番目に選択された沈殿溝に近い領域に存在する堆積物は確実にその沈殿溝内に集められる。以下、同じ操作をすべての沈殿溝に対して順次行うことにより、貯留槽全体の堆積物を確実に除去することができる。
【0011】
各沈殿溝内に集められた堆積物は、水流とともに排水桝等の排水部に流れ込む。流れ込んだ堆積物は、排水部にバキューム管を挿入する等の作業を行うことで、容易に排除することができる。各沈殿溝内に一部の堆積物が残っている場合にも、そこにバキューム管を挿入することで、堆積物を容易に排除することができる。
【0012】
各沈殿溝から排水部への排水順番を選択的に切り替えるための切り替え手段は、貯留水が各沈殿溝を通って排水部へ流出するのを断続することのできる各沈殿溝に備えられる適宜の開閉手段と、各沈殿溝に備えられた前記開閉手段を個別に操作する操作手段とを備えることを条件に、どのようなものであってもよい。例えば、前記開閉手段には適宜のシャッター手段や止水堰が挙げられる。また、前記操作手段は作業者の手動によるものであってもよく、コンピュータを備えた自動制御によるものであってもよい。排水順番の切り替えも、作業者の経験に基づいて行うようにしてもよく、貯留槽の水位、排水時間、流量などを検知し、所定のプログラムに基づいて、自動的に切り替えて行うような手段であってもよい。
【0013】
なお、本発明による雨水流出抑制施設において、前記沈殿溝およびその切り替え手段を除き、他の構成は従来知られた雨水流出抑制施設のものをそのまま用いることができる。貯留槽は単にコンクリート造のものであってもよく、特許文献1に記載のように、縦方向構造体の間に空隙を有する構造の樹脂成形品の複数個を多段に積み上げた積層構造体とその周囲に配した遮水材とからなる構造のものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、貯留水を排水するときの水流を利用して、貯留槽内の全体から堆積物を容易にかつ確実に排除することのできる雨水流出抑制施設が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による雨水流出抑制施設の模式的概略図。
【図2】図1のA−A線による断面図。
【図3】雨水流出抑制施設の模式的斜視図。
【図4】本発明による雨水流出抑制施設において堆積物が排出される状態を説明する図。
【図5】貯留槽を形成するための樹脂材料からなる貯水空間形成部材の一例を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による雨水流出抑制施設の一実施の形態を添付の図面に基づき説明する。図1は雨水流出抑制施設の模式的概略図、図2は図1のA−A線による断面図、図3は雨水流出抑制施設の模式的斜視図である。図4は本発明による雨水流出抑制施設において堆積物が排出される状態を説明する図であり、図5は貯留槽を形成するための樹脂材料からなる貯水空間形成部材の一例を示す図である。
【0017】
図示する雨水流出抑制施設10において、20は流入兼排水桝、30は貯留槽である。貯留槽30の底部31には所要個数の沈殿溝35(図示の例では3個の沈殿溝35A,35B,35C)が互いに平行に設けてある。各沈殿溝35A,35B,35Cは、図1に示すように、貯留槽30の一方壁側から他方壁側にわたる長さを有し、図2に示すように、ほぼ等しい間隔を置いて、貯留槽30の底部に形成されている。
【0018】
流入兼排水桝20は、図3の斜視図によく示すように、貯留槽30の一つの角部近傍に近接して位置する流入桝部21と、該流入桝部21の下端で連通しかつ貯留槽30の全幅方向にわたって設けられる排水桝部22とで形成される。前記各沈殿溝35A,35B,35Cの一端側は前記排水桝部22に接続しており、その接続部には止水堰として機能する常閉の開閉シャッター37(37A,37B,37C)が取り付けてある。前記排水桝部22の底部23は、前記各沈殿溝35A,35B,35Cの底部36よりも低い位置に位置しており、前記底部23に近接して排水口24が形成されている。排水口24には常閉のシャッター25(図1)が取り付けてあり、必要時に開閉される。
【0019】
前記流入桝部21は通水孔26を介して前記貯留槽30に連通しているとともに、適所に雨水流入管27が取り付けられ、前記雨水流入管27よりも下方位置であって、前記貯留槽30の底面31より少し上位の位置にはオリフィスを備えた流出管28が取り付けられている。
【0020】
なお、図において、1は砕石のような基礎材からなるレベリング層、2は不織布のような透水性シート、29は流入兼排水桝20の地表面における開口部に取り付けた蓋である。さらに、40は適宜の制御装置であり、適宜の制御プログラムに従って、または作業者の指令により、前記したシャッター37(37A,37B,37C)の開閉動作、および前記排水口24に取り付けたシャッター25の開閉操作を制御する。
【0021】
次に、上記雨水流出抑制施設10での雨水の処理態様を説明する。なお、雨水流出抑制施設10において、通常の状態では、シャッター37(37A,37B,37C)およびシャッター25は閉じている。降雨時に雨水流入管27から流入兼排水桝20に流入する雨水は、排水桝部22通って、貯留槽30内に貯留される。その場合に、雨水中の砂等の固形物は流入兼排水桝20の前記排水桝部22の底部に沈殿するので、貯留槽30内に砂等が入り込むのを抑制することができる。貯留槽30内に貯留された雨水は、透水性シート2を通って時間をかけて徐々に地中に含浸していく。また、オリフィスを備えた流出管28を通って、許容された量の貯留水が、河川等に排出される。なお、貯留槽30が透水性シート2で覆われる場合には、前記流出管28を省略することもできる。図示しないが、貯留槽30をゴムシートのような遮水シートで覆う場合には、オリフィスを備えた流出管28は必須となる。
【0022】
長日数が経過すると、雨水に含まれる砂やゴミ等の固形物が貯留槽30内に堆積した状態となることが起こりうる。そのときに、そのような堆積物を除去する作業、すなわち、雨水流出抑制施設10のメンテナンス作業が必要となる。以下に、その作業手順を説明する。
【0023】
作業者は、最初に沈殿溝35A,35B,35Cのいずれか一つのシャッターを開とする操作を行うか、開信号を制御装置40に送る。同時に、前記排水桝部22に形成した排水口24に取り付けたシャッター25も開状態とする。例として、沈殿溝35Aのシャッター37Aを開状態としたとする。貯留槽30内の貯留水は、高い水頭圧の下で沈殿溝35Aを通って前記排水桝部22に流出し、前記排水口24を通過して、河川等に流れ出る。そのときの水流の持つ動的エネルギーにより、図4(a)に模式的に示すように、沈殿溝35Aに近い領域に存在する堆積物Bは沈殿溝35A内に入り込み、さらに水流とともに、排水桝部22まで移動する。
【0024】
所要時間経過後に、沈殿溝35Aのシャッター37Aを閉じ、次の沈殿溝35Bのシャッター37Bを開く。それにより、貯留槽30内の貯留水は、高い水頭圧の下で沈殿溝35Bを通って前記排水桝部22に流出するようになるが、そのときの水流の持つ動的エネルギーにより、図4(b)に模式的に示すように、今度は、沈殿溝35Bに近い領域に存在する堆積物Bが沈殿溝35B内に入り込み、水流とともに、排水桝部22まで移動する。
【0025】
その状態で所要時間経過した後、沈殿溝35Bのシャッター37Bを閉じ、次の沈殿溝35Cのシャッター37Cを開く。それにより、貯留槽30内の貯留水は、やはり高い水頭圧の下で沈殿溝35Cを通って前記排水桝部22に流出するようになる。そして、そのときの水流の持つ動的エネルギーにより、図4(c)に模式的に示すように、今度は、沈殿溝35Cに近い領域に存在する堆積物Bが沈殿溝35C内に入り込み、水流とともに、排水桝部22まで移動する。
【0026】
その結果、貯留槽30内に堆積した堆積物Bのすべてを、ほぼ確実に排水桝部22に除去することができる。排水桝部22の底部に排出された堆積物は、一部は前記排水口24を通過して河川等に流れ出る。残りは排水桝部22の底部23の上に堆積した状態となる。この堆積物は、前記蓋29を取り外し、そこから、排水桝部22の底部23にバキューム管を挿入することで、容易に排除することができる。また、各沈殿溝35内に一部の堆積物Bが残っている場合にも、そこにバキューム管を挿入することで容易に排除することができる。そのために、本発明による雨水流出抑制施設では、メンテナンス作業をきわめて容易化することができる。
【0027】
なお、前記したように、貯留槽30はどのような形態であってもよい。例えば、図5に示すような貯水空間形成部材50を用いることもできる。この貯水空間形成部材50は樹脂材料で作られており、多数枚の縦方向構造体51が断面ハ字状にかつ山形をなすようにして連続した形状をなしている。貯水空間形成部材50は、全体としての上面と下面は実質的に平行をなしており、隣接する縦方向構造体51の上端縁同士は、長手方向に凹部と凸部を有する上端面52で接続し、下端縁同士は、上端面52に形成された凸部の領域が入り込むことのできる開口を有する下端面で連続している。貯水空間形成部材50は、図示のように、90度向きを変えながら多段に積み上げられて貯留槽とされ、貯留槽における各縦方向構造体51の間に存在する空間が、雨水流出抑制施設10での貯水空間として利用される。
【符号の説明】
【0028】
1…砕石のような基礎材からなるレベリング層、
2…不織布のような透水性シート、
10…雨水流出抑制施設、
20…流入兼排水桝、
21…流入桝部、
22…排水桝部、
23…排水桝部の底部、
24…排水口、
25…排水口に取り付けたシャッター、
26…流入桝部に形成した通水孔、
27…雨水流入管、
28…オリフィスを備えた流出管、
29…流入兼排水桝の地表面における開口部に取り付けた蓋、
30…貯留槽、
31…貯留槽の底部、
35(35A,35B,35C)…沈殿溝、
36…沈殿溝の底部、
37(37A,37B,37C)…沈殿溝に取り付けられるシャッター、
40…制御装置、
50…貯留槽を形成する貯水空間形成部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された貯留槽と、前記貯留槽の底部に形成した沈殿溝とを少なくとも備え、貯留水が前記沈殿溝に入り込むときの水流により前記貯留槽内の堆積物を前記沈殿溝に集めるようにした構成を備える雨水流出抑制施設であって、
前記沈殿溝は前記貯留槽の底部に複数列に形成されており、各沈殿溝は排水桝等の排水部に接続しており、さらに、各沈殿溝から排水部への排水順番を選択的に切り替えることのできる切り替え手段を備えることを特徴とする雨水流出抑制施設。
【請求項2】
各沈殿溝は出口部に止水堰を備え、前記切り替え手段は各沈殿溝の止水堰を順次開閉する手段であることを特徴とする請求項1に記載の雨水流出抑制施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−185194(P2010−185194A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29159(P2009−29159)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】