説明

電位波形と電流波形の同時観測による通電応答電位の連続計測法

【課題】
電気探査および電気検層は、通電電流が不安定な場合には計測精度が低下するため、高性能な電流制御回路を組み込んだ通電装置が必要であり、また電位の観測には自然電位保障機能や電流同期機能などの特殊な機能が必要だった。さらに、通電サイクル1回につき1個以上の応答電位データが得られないため、計測時間刻みは通電周期よりも短くすることができなかった。
【解決手段】
通電電流波形と電位波形とを同時に観測しながら、それらの波形を計算処理することによって、観測電位波形に含まれる自然電位成分を除去し、任意の通電電流波形に対して応答電位を連続的に算出する。自然電位成分の抽出には最小二乗法を用い、観測電位から自然電位成分を差し引く。応答電位の算出は、自然電位除去後の観測電位波形を通電電流波形で除することによって得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下の電気的特性を計測する電気探査法と電気検層法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の方法は、正負1組または2組の矩形波状かつ指定された大きさの電流を、地層内に直接あるいはボーリング孔内水を通して通電し、通電点から定められた距離だけ離れた点における単位通電電流あたりの電位である応答電位を計測する(図2(非特許文献1参照))。
【0003】
通電電流波形は観測せず、電流は正確に通電されているものと仮定するため、安定で高性能な定電流通電装置が用いられ、同時に、通電電流に同期して図3のような時間区間にて電位を観測する機能を持った電位観測装置が用いられる(非特許文献1参照)。
【0004】
観測電位には自然電位が含まれているため、電位観測装置には、予め自然電位を計測し自然電位を保障する電圧をかけて電位を観測することにより自然電位成分を除去する機能が組み込まれている。
【0005】
応答電位の算出は、観測された時間区間における平均電位を通電電流の値で除することによって行うため、通電サイクル1回につき1個の応答電位の値を得る。従って計測する時間きざみは通電サイクルよりも短くすることはできない。従来の計測装置で同時に計測できるチャンネル数はたかだか10チャンネル内外であり、それより多くのチャンネルの計測を行う場合にはリレーにより切り替えて測定を行っているため、全チャンネルの計測には、1回の計測時間×全チャンネル数/同時計測チャンネル数だけの時間を要する(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−021662号公報
【非特許文献1】物理探査学会編「物理探査ハンドブック」第5章259頁〜291頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする従来技術の課題は、1)電流が正確に通電されており電流波形が既知であるという仮定の下に計測するため、通電装置には高性能な電流制御回路を組み込む必要があるとともに、通電電流が不安定な場合には計測精度が低下すること、2)自然電位保障機能や電流同期機能などの特殊な機能を観測装置に組み込まなければならないため装置が高価になり多チャンネル化が困難となること、3)通電サイクル1回につき1個の応答電位データしか得られないため、計測時間刻みを細かくできないこと、の3点である。
【0007】
本発明は、任意の通電電流波形でも精度を低下することなく、観測電位波形に含まれる自然電位成分をリアルタイムに除去でき、連続的に応答電位を計測する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
通電電流波形と観測電位波形を同時に観測し記憶しながら、それらの波形をリアルタイムで計算処理することによって、観測電位波形に含まれる自然電位成分を除去し応答電位を連続的に算出して記録する(図1)。
【0009】
最小二乗法による自然電位成分の除去方法は以下の手順で行う。通電電流の時系列波形データをI(t)、観測電位の時系列波形データをO(t)、自然電位をP、係数Rとするとそれぞれの関係は、O(t)=I(t)×R+Pの一次式となる。ある時間ウィンドウを設定すれば、そのウィンドウ内で観測電位と理論電位の差の二乗和を最小にするようにRとPを決めることができる。Pについて解くと
【0010】
【数1】


となる。観測電位O(t)からPを減算すれば自然電位成分の除去ができる。時間ウィンドウ幅は、少なくとも通電電流周期の半分より長くする。
【0011】
応答電位の算出は、自然電位成分除去後の観測電位を通電電流値で除することにより求める。地層に電気分極現象がある場合には、図4のように充放電現象による観測電位波形の歪が生じるので、ある時間ウィンドウを設定し、その時間ウィンドウ間の観測電位の絶対値総和と通電電流値の絶対値総和をそれぞれ求め、それらの比を取って応答電位とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高性能な定電流通電装置や同期演算機能を持った観測装置が不要になり、計測システムを安価に組み上げることが可能となるため、多チャンネル同時計測装置が現実的なコストで可能となる。従来の計測装置では同時に計測できるチャンネル数はせいぜい14チャンネル程度であり、それより多くのチャンネルの計測を行う場合にはリレーにより切り替えて測定を行っているため、1回の計測時間×全チャンネル数/同時計測チャンネル数だけの時間を要する。本発明を利用すれば、例えば256チャンネルの計測を行う場合、現実的なコストにて従来の1/10以下の時間で計測できる。
【0013】
計測時間刻みを小さくすることができるため、多チャンネル同時計測による電気探査リアルタイムモニタリングシステムが可能となる。これにより、土壌汚染の進行状況や洪水時の河川堤防への河川水浸透状況あるいはCO2の地層貯留状況などのモニタリングに対して電気探査や電気検層が適用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の方法を具体化する形態は、通電電流波形と電位波形を観測するデータロガーと、観測されたデータをリアルタイムで処理するパーソナルコンピュータと、パーソナルコンピュータに組み込む計測処理ソフトウェアと、通電電流モニタリング端子を備えた単純な通電装置から構成されるものである。
【0015】
データロガーは、チャンネル間およびチャンネルとシステムバス間が絶縁されており、通電電流の周期と大きさと想定される観測電位の大きさに依存する観測仕様を満足するもので、パーソナルコンピュータからリアルタイムに制御可能なものを用いる。通電装置では、通電する波形は、正弦波、矩形波、三角波を問わず、制御は定電流でも定電圧システムでもよい。計測処理ソフトウェアは、観測データに対して移動平均と同様な方法で最小二乗法にて自然電位成分を抽出して除去し、自然電位除去後の観測電位波形を通電電流波形で除することによりリアルタイムにて応答電位波形を算出する機能を持つものとする。
【実施例1】
【0016】
図5は本発明の実施例であって、上から順に、観測電位波形、通電電流波形、自然電位成分除去後の電位波形、応答電位波形を示している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の構成を示している。
【図2】従来の電気探査の計測方法を模式的に説明している。
【図3】従来の電気探査での電位観測のタイミングについて説明している。
【図4】充放電現象がある場合の電流波形と電位波形を模式的に説明している。
【図5】本発明を適用した結果の観測電位波形、電流波形、自然電位除去後の電位波形、応答電位波形を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気探査および電気検層において、通電電流波形と電位波形とを同時に観測しながら、それらの波形を計算処理することによって、観測電位波形に含まれる自然電位成分を除去し、単位通電電流あたりの電位であるところの応答電位を連続的に算出して記録する、リアルタイム応答電位計測方法。
【請求項2】
請求項1において、計測時刻を中心とした少なくとも通電電流周期の半分よりも長い時間範囲の通電電流波形と電位波形とを記憶し、それらの波形に対して線形一次式に基づく最小二乗法を用いて電位波形に含まれる自然電位成分を抽出し、抽出した自然電位成分を観測電位波形から減算することによって自然電位成分を除去する、自然電位除去方法。
【請求項3】
請求項2によって自然電位成分を除去された電位波形と通電電流波形との比によって応答電位波形を算出する、応答電位波形算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−313097(P2006−313097A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135468(P2005−135468)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(503254238)有限会社地圏探査技術研究所 (3)