説明

電力ケーブルの絶縁ブッシュ

【課題】電力ケーブルが破断した際の電力ケーブルからの漏電を抑制する。
【解決手段】先端に圧着端子11が取り付けられる導電体301を絶縁部材302で被覆した電力ケーブル300の外側に圧着端子11と近接して取り付けられる円筒形の絶縁ブッシュ20であって、絶縁性の弾性体で根元端22a,23aが端面24の周縁に取り付けられ、先端22b,23bが端面と接離する方向に開閉する板状の弁体22,23を備え、弁体22,23の各先端22b,23bは端面と圧着端子11の根元部17との距離が正常距離の場合根元部17の外面に当たるよう押し開かれ、該距離が正常距離よりも長い異常距離D2の場合には端面を覆うように閉じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルの外面に取り付けられる絶縁ブッシュの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車両や電気自動車等の電動車両が用いられるようになっている。このような電動車両では、200V程度のバッテリの電圧を400から600Vに昇圧した直流電力をインバータで三相交流に変換して交流モータに供給して車両を駆動しているものが多い。このような電動車両では、インバータとモータとの間には400から600Vの高圧に耐えられる電力ケーブルが用いられる。
【0003】
一方、電動車両が衝突した場合に、電力ケーブルに大きな張力がかかり、電力ケーブルが破断し、コンデンサ等が含まれているインバータ等に接続された電力ケーブルから漏電が発生する場合がある。そこで、インバータなどが格納されているPCUの電力端子とモータなどの駆動ユニットの電力端子とを接続する電力ケーブルにおいて、PCU側の接続端子をカシメ取り付けする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、電力ケーブルに大きな張力がかかった場合にPCU側の電力ケーブルが接続端子から抜けてあるいはこの部分が破断し、PCUと電力ケーブルが接続された状態で電力ケーブルが破断しないようにすると共に、PCUの電力端子の周囲に絶縁カバーを取り付け、PCUの電力端子からの漏電が起きないようにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−51284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電気自動車内部での高圧ケーブルの配置、経路は複雑であり、衝突の際に必ずしもインバータ側の接続端子から電力ケーブル抜けたり、インバータ側の端子近傍で電力ケーブルが破断したりするとは限らない。また、衝突は、前突のみならず横方向の衝突、後ろからの衝突等さまざまな形態となるので、例えば、前突の場合には計画したようにインバータ側の接続端子から電力ケーブが抜けたり、インバータ側の端子近傍で電力ケーブルが破断したりしても、横からあるいは後ろからの衝突の場合には、この様にならず、インバータに接続された状態で破断した電力ケーブルが残ることにより漏電が発生するという場合がある。
【0006】
本発明は、電力ケーブルが破断した際の電力ケーブルからの漏電を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電力ケーブルの絶縁ブッシュは、先端に端子が取り付けられる導電体を絶縁部材で被覆した電力ケーブルの外側に前記端子と近接して取り付けられる筒形の絶縁ブッシュであって、絶縁性の弾性体で、一端が前記絶縁ブッシュの端子側の端面の周縁に取り付けられ、他端が前記絶縁ブッシュの前記端面と接離する方向に開閉する板状の弁体を備え、前記弁体の前記他端は、前記絶縁ブッシュの前記端面と前記端子との距離が正常距離の場合は前記端子の外面に当たるよう押し開かれ、前記絶縁ブッシュの前記端面と前記端子との距離が正常距離よりも所定の距離以上長い異常距離の場合には前記絶縁ブッシュの前記端面を覆うように閉じること、を特徴とする。
【0008】
本発明の電力ケーブルの絶縁ブッシュにおいて、前記弁体の前記他端は、前記導電体が前記端子と前記絶縁ブッシュの前記端面との間で破断した際には、破断した前記導電体の破断面を覆うように閉じること、としても好適であるし、前記絶縁ブッシュは厚肉の筒形で、前記弁体の前記一端から他端までの長さは、絶縁ブッシュの厚さと前記絶縁部材の厚さと前記導電体の径との合計長さよりも長いこと、としても好適であるし、前記弁体は前記絶縁ブッシュの端面に放射状に複数配置されていること、としても好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、電力ケーブルが破断した際の電力ケーブルからの漏電を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における絶縁ブッシュが取り付けられた電力ケーブルによって接続されるインバータと駆動ユニットとを示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態における絶縁ブッシュが取り付けられた電力ケーブルが組み込まれたコネクタを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における絶縁ブッシュが取り付けられた電力ケーブルが組み込まれたコネクタの正常状態を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態における絶縁ブッシュが取り付けられた電力ケーブルの正常状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態における絶縁ブッシュが取り付けられた電力ケーブルが破断した異常状態となったコネクタと電力ケーブルとを示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態における絶縁ブッシュが取り付けられた電力ケーブルが破断した異常状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の他の実施形態における絶縁ブッシュが取り付けられた電力ケーブルの端面を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態における絶縁ブッシュが取り付けられた電力ケーブルの端面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。本実施形態の電力ケーブルの絶縁ブッシュについて説明する前に、図1を参照して電動車両500の電気系統について説明する。図1に示すように、電動車両500には、図示しないバッテリが接続され、バッテリから供給された直流電力を三相交流電力に変換して出力するインバータ100と、インバータ100から供給された三相交流電力によって駆動される駆動ユニット200とが搭載されている。インバータ100と駆動ユニット200とはいずれも電動車両500の、例えば、前方などに固定されている。そして、インバータ100と駆動ユニット200との間は400V〜600V程度の高電圧に耐えられる電力ケーブル300によって接続されている。
【0012】
図1に示すように、インバータ100はケーシング101とケーシング101に固定され、ケーシング101とは電気的に絶縁されている出力端子台102とを含んでいる。同様に、駆動ユニット200もケーシング201とケーシング201に固定され、ケーシング201と電気的に絶縁されている入力端子台202とを含んでいる。出力端子台102と入力端子台202との間は電力ケーブル300によって接続されている。電力ケーブル300の両端にはそれぞれインバータ100の出力端子台102と、駆動ユニット200の入力端子台202とに接続されるコネクタ10、50が取り付けられている。
【0013】
図2に示すように、各コネクタ10,50は、絶縁部材302で被覆された電力ケーブル300と電力ケーブル300の導電体301に接続された圧着端子11、51とを電気的に絶縁して支持する樹脂製のハウジング14,54とフランジ12,52を備えている。ハウジング14,54には三相交流のU,V,Wの各相に対応するように3本の電力ケーブル300と3つの圧着端子11,51が支持されている。また、各圧着端子11,51の先端は平板状の接続板15となっており、ボルトが通る穴が設けられている。
【0014】
図1に示すように、ハウジング14,54は各フランジ12,52をボルト13,53によって各ケーシング101,201に取り付けることで各ケーシング101,201に固定されている。電力ケーブル300の導電体301の両端に接続された各圧着端子11,51はそれぞれボルト103,203によって各端子台102,202に固定され、各端子台102,202は電力ケーブル300によって電気的に接続されている。
【0015】
図3に示すように、電力ケーブル300は、導電体301の外面を絶縁部材302で被覆したもので、電力ケーブル300の先端側は絶縁部材302の被覆が剥がされ、導電体301が露出している。この露出した導電体301の先端側には圧着端子11が取り付けられている。圧着端子11は、カシメにより押しつぶされてその外径が細くなって導電体301を圧着しているカシメ部16と、押しつぶされずに元の外径を略保っている略円筒形の根元部17と、平板状で電力ケーブル300の先端側に伸びる接続板15とを含んでいる。接続板15はボルト103によってインバータ100の出力端子台102に取り付けられている。圧着端子11の根元部17の電力ケーブル300側端部と絶縁部材302で被覆されている電力ケーブル300との隙間303は導電体301が露出している。隙間303の導電体301の断面積は、被覆された電力ケーブル300の中の導電体301よりも小さくなっている。このため、圧着端子11と電力ケーブル300との長手方向の接続強度は、カシメ部16と導電体301の先端側との間の圧着力と、隙間303の導電体301の断面強度によって決まってくる。カシメ部16による圧着力が隙間303の導電体301の断面強度よりも小さい場合には、電力ケーブル300に大きな引張力がかかった場合に、導電体301の先端がカシメ部16から抜けることによって圧着端子11と電力ケーブル300との接続が破断し、カシメ部16による圧着力が隙間303の導電体301の断面強度よりも大きい場合には、電力ケーブル300に大きな引張力がかかった場合に、隙間303の導電体301が破断することによって圧着端子11と電力ケーブル300との接続が破断する。本実施形態のコネクタ10では、カシメ部16による圧着力が隙間303の導電体301の断面強度よりも大きくなるように設計されており、電力ケーブル300に大きな引張力がかかった場合には、隙間303の導電体301が破断することによって圧着端子11と電力ケーブル300との接続が破断するよう構成されている。
【0016】
図3に示すように、電力ケーブル300の圧着端子11側の絶縁部材302の外側には圧着端子11の根元部17に近接して円筒形の絶縁ブッシュ20が嵌め込まれている。絶縁ブッシュ20はゴムあるいは樹脂等の弾性のある絶縁体であり、その外面はコネクタ10のハウジング14の円筒形の穴18の内面に接触するよう取り付けられている。このように、絶縁ブッシュ20は、ハウジング14の穴18の内面と電力ケーブル300の絶縁部材302の外面との間の隙間を埋めつつ、電力ケーブル300をコネクタ10のハウジング14に固定するものである。図3に示すように、絶縁ブッシュ20によってコネクタ10のハウジング14の内部に格納されている接続板15以外の圧着端子11の部分及び圧着端子11の根元部17と絶縁部材302との間の隙間303の導電体301は外部から触れることができないように構成され、この部分から外部に漏電が起こらないように構成されている。
【0017】
図3、図4に示すように、円筒形で肉厚の絶縁ブッシュ20の圧着端子11側の端面24には長方形板状の絶縁性の弾性対の弁体22,23が上下2箇所に取り付けられている。弁体22,23はその根元端22a,23aの絶縁ブッシュ20側の面が絶縁ブッシュ20の端面24の周縁に取り付けられ、先端22b,23bが絶縁ブッシュ20の端面24に接離する方向に移動するものであり、各根元端22a,23aから各先端22b,23bまでの長さは、円筒形の絶縁ブッシュ20の肉厚に電力ケーブル300の絶縁部材302の厚さと導電体301の径の合計長さよりも長くなるよう構成されている。そして、図3、図4に示すように、圧着端子11の根元部17と絶縁ブッシュ20の端面24との間の距離が正常な正常距離D1の場合には、上下に設けられた各弁体22,23の各先端22b,23bは圧着端子11の円筒形の根元部17の外面に当たるように押し開かれている。
【0018】
図5、図6に示すように、衝突等で電力ケーブル300に大きな引張力がかかり、電力ケーブル300と圧着端子11との間の隙間303にある導電体301が破断すると、電力ケーブル300は絶縁ブッシュ20と共にコネクタ10のハウジング14から抜ける。すると、圧着端子11の根元部17と絶縁ブッシュ20の端面24との間の距離は正常距離D1よりも所定の距離だけ大きな異常距離D2となる。ここで所定の距離は、弁体22,23の先端22b,23bが圧着端子11の根元部17に掛からなくなる距離である。すると、図5、図6に示すように、絶縁ブッシュ20の端面24の上下に取り付けられた各弁体22,23の先端22b,23bは、圧着端子11の根元部17の外面から外れ、その弾性力によって絶縁ブッシュ20の端面24に向って移動する。各弁体22,23の各根元端22a,23aから各先端22b,23bまでの長さは、それぞれ絶縁ブッシュ20の肉厚と電力ケーブル300の絶縁部材302の厚さと導電体301の径の合計長さよりも長くなっているので、絶縁ブッシュ20の端面24の側に向かって移動した各弁体22,23は、絶縁ブッシュ20の端面24と破断した隙間303の導電体301の破断面304を覆うように閉じ、導電体301が露出しないようにカバーする。図5、図6に示すように、本実施形態では導電体301の破断面304を下側の弁体23が覆い、その上に上側の弁体22が重なるように覆いかぶさるようになっているが、弁体22,23の重なり順は逆であってもよい。これによって電力ケーブル300が隙間303の部分で破断した場合でも電力ケーブル300の導電体301が露出せず、電力ケーブル300からの漏電を防止することができる。
【0019】
また、図5に示すように、電力ケーブル300が隙間303で破断すると、コネクタ10の中には圧着端子11のカシメ部16と根元部17と、破断した隙間303の導電体301の残りの部分とが残るが、いずれの部分もコネクタ10の絶縁体のハウジング14の内部に残った状態となっているので、インバータ100のコンデンサに溜まった電荷等がこの部分から漏電することも抑制することができる。
【0020】
以上、説明したように、本実施形態の電力ケーブル300の絶縁ブッシュ20は、電力ケーブル300が破断した際の電力ケーブル300からの漏電を抑制することができるという効果を奏する。
【0021】
図7、図8を参照しながら本発明の他の実施形態について説明する。先に図1から図6を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付してその説明は省略する。図7に示す実施形態は、長方形板状の4つの弁体31〜34を絶縁ブッシュ20の端面24に90度ずつずらして放射状に配置したものである。先に説明した実施形態と同様、本実施形態でも各弁体31〜34の各根元端31a〜34aは、端面24の周縁に固定され、各根元端31a〜34aと各先端31b〜34bとの間の長さは、絶縁ブッシュ20の肉厚と電力ケーブル300の絶縁部材302の厚さと導電体301の径の合計長さよりも長くなっているので、各弁体31〜34が閉じた際には、それぞれ絶縁ブッシュ20の端面24と破断した隙間303の導電体301の破断面304を覆うように閉じ、導電体301が露出しないようにカバーする。図8に示す実施形態は、弁体41,42が長方形板状ではなく、先端41b,42bが円弧状となっており、根元端41a,42aが端面24の周縁に固定されたものである。図7、図8に示した各実施形態とも先に図1から図6を参照して説明した実施形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0022】
10,50 コネクタ、11,51 圧着端子、12,52 フランジ、13,53 ボルト、14,54 ハウジング、15 接続板、16 カシメ部、17 根元部、18 穴、20 絶縁ブッシュ、22,23,31〜34,41,42 弁体、22a,23a,31a〜34a,41a,42a 根元端、22b,23b,31b〜34b,41b,42b 先端、24 端面、100 インバータ、101,201 ケーシング、102 出力端子台、103,203 ボルト、200 駆動ユニット、202 入力端子台、300 電力ケーブル、301 導電体、302 絶縁部材、303 隙間、304 破断面、500 電動車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に端子が取り付けられる導電体を絶縁部材で被覆した電力ケーブルの外側に前記端子と近接して取り付けられる筒形の絶縁ブッシュであって、
絶縁性の弾性体で、一端が前記絶縁ブッシュの端子側の端面の周縁に取り付けられ、他端が前記絶縁ブッシュの前記端面と接離する方向に開閉する板状の弁体を備え、
前記弁体の前記他端は、前記絶縁ブッシュの前記端面と前記端子との距離が正常距離の場合は前記端子の外面に当たるよう押し開かれ、前記絶縁ブッシュの前記端面と前記端子との距離が正常距離よりも所定の距離以上長い異常距離の場合には前記絶縁ブッシュの前記端面を覆うように閉じること、
を特徴とする電力ケーブルの絶縁ブッシュ。
【請求項2】
請求項1に記載の電力ケーブルの絶縁ブッシュであって、
前記弁体の前記他端は、前記導電体が前記端子と前記絶縁ブッシュの前記端面との間で破断した際には、破断した前記導電体の破断面を覆うように閉じること、
を特徴とする電力ケーブルの絶縁ブッシュ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力ケーブルの絶縁ブッシュであって、
前記絶縁ブッシュは厚肉の筒形で、
前記弁体の前記一端から他端までの長さは、前記絶縁ブッシュの厚さと前記絶縁部材の厚さと前記導電体の径との合計長さよりも長いこと、
を特徴とする電力ケーブルの絶縁ブッシュ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電力ケーブルの絶縁ブッシュであって、
前記弁体は前記絶縁ブッシュの端面に放射状に複数配置されていること、
を特徴とする電力ケーブルの絶縁ブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−146580(P2012−146580A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5371(P2011−5371)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】