説明

電力伝送方法、電力伝送装置のコイルの選別方法および使用方法

【課題】 スペースファクタがよく、高い電力伝送性能を持ち、高い周波数でも使用可能な、電力伝送装置の空芯コイルを提供する。
【解決手段】 最大径がd1の単導線12に絶縁被覆13を施して導線11を平板空芯単層渦巻き状で、隣接する導線11同士が密接するように巻回して空芯コイル1aを構成する。空芯コイル1aのコイル外径をDとしたとき、少なくともコイル外径Dが単導線12の最大径d1の25倍以上であり、かつ導線11の巻き数が8以上になるように構成し、空芯コイル1aの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であって、伝送する交流電力の周波数における、前記コイル単体の複素インピーダンスの実数成分(純抵抗成分、実効直列抵抗)をRw(Ω)、伝送する交流電力の周波数における、前記コイルに対向するコイルを短絡したときの、前記コイルの複素インピーダンスの実数成分(純抵抗成分、実効直列抵抗)をRs(Ω)としたときに、Rs>Rw、を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力伝送装置の空芯コイルおよび電力伝送装置に関し、特に、コイル間に生じる相互誘導作用により電力を伝送する電力伝送装置の空芯コイルおよび電力伝送装置
に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、送電用コイルと、受電用コイルが分離可能な電力伝送装置は、本願の図34に示すように、送電用コイル1と、受電用コイル2とを対向して配置し、送電制御回路3から送電用コイル1に交流電流を流すと、相互誘導作用により受電用コイル2に起電力が誘起され、前記起電力による電流が受電制御回路4に流れて電力伝送が行われる。送電用コイル1あるいは受電用コイル2は、導体を渦巻き状に巻回して構成される。
【0003】
このようなコイルの一例が、例えば特開平4−122007号公報(特許文献1)に記載されている。この特許文献1に、比較例1として記載されたコイルは、平面渦巻き型コイルであって、直径1mmのエナメル銅線を25ターン巻線し、外径80mm、内径24mmに作成し、磁心部を設けず、これらを対向させて電源に接続される方を1次側(入力側)、電磁誘導で出力が発生する方を2次側(出力側)とするものである。
【0004】
特開平7−231586号公報(特許文献2)にはコイルの他の例が記載されている。この特許文献2に、比較例として記載されたコイルは、ドーナツ状の平面渦巻き型コイルであって、直径100μmの絶縁被覆が施された銅線を100本束ねたものを5ターン巻線し、外径30mm、内径15mm、厚さ1.5mmに作成し、磁性材料を装備せず、これらを対向させて電源に接続される方を1次側(入力側)、電磁誘導で出力が発生する方を2次側(出力側)とするものである。
【0005】
特開平11−97263号公報(特許文献3)には、「従来の渦巻き型状コイル30’は、線材(丸線)31’を渦巻き状に巻回することによって製造されるが、線材31’としてその断面形状が円形の丸線を使用している」、と記載され、特に線材や巻数に関する記載はないが、断面が円形の線材を渦巻き状に巻回することによって作成される電力伝送装置のコイルは、公知であることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3においては、断面が、円形ではなく矩形の導体を用いることにより、電力伝送性能が向上できると記載されている。このような導体により形成されたコイルは、同一外径であれば巻線回数を増やすことができ、空芯でも、断面が円形の導体で構成されたコイルよりも電力伝送性能が向上可能と記載されている。
【0007】
特開平6−61072号公報(特許文献4)には、導体断面が円形でその外周が絶縁された2本の絶縁導線を平行に近接させ、この2本を一緒に同一平面上で渦巻き状に巻回してコイル体を形成することが記載されており、周波数が10kHzでは結合係数が急によくなり、100kHz以上では100%近くなることが記載されている。
【0008】
特許第3144913号公報(特許文献5)には、複数の絶縁導線を一次,二次巻線として近接密着して平面に配置することにより、厚み方向に対して隙間無く配置でき、かつ鉄芯を装備せず、導線のみで構成して薄型化し、使用周波数が100kHzより高い平板状空芯トランスについて記載されている。
【0009】
実開平6−29117号公報(特許文献6)には、導体を巻回して構成されるコイルは、渦電流損および表皮効果によって、周波数の上昇により導体の交流抵抗が増大することが記載されている。その回避方法として、複数の単導線をフラットケーブル状にしてコイルを形成する導線とすることが記載されており、他の線材を使って巻回したコイルと比較した交流抵抗の周波数特性が記載されている。
【0010】
また、特開平11−251158号公報(特許文献7)には、前記特許文献6のフラットケーブルを構成する導線をリッツ線とすることが記載されており、銅板などを巻回したコイルと比較した交流抵抗の周波数特性が記載されている。
【特許文献1】特開平4−122007号公報(第5頁、第2表)
【特許文献2】特開平7−231586号公報(段落番号0049)
【特許文献3】特開平11−97263号公報(段落番号0009、図3、段落番号0014、0016、請求項3および4)
【特許文献4】特開平6−61072号公報(段落番号0013、0014、図1、図3)
【特許文献5】特許第3144913号公報(段落番号0046、請求項1および2)
【特許文献6】実開平6−29117号公報(段落番号0002、0013)
【特許文献7】特開平11−251158公報(段落番号0003、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
最初に、本願では、引用する文献によって、使用されている用語が異なるため、まず用語について説明しておく。本願の図34の送電制御回路3、送電コイル1を含む部分を、送電側、1次側、入力側等と表記し、送電コイル1を、送電コイル、送電用コイル、1次コイル、1次側コイル等と表記する。また、本願の図34の受電制御回路4、受電コイル2を含む部分を、受電側、2次側、出力側等と表記し、受電コイル2を、受電コイル、受電用コイル、2次コイル、2次側コイル等と表記する。
【0012】
さて、上記の特許文献のうち特許文献1〜3に記載されているコイルは、比較例や従来例としてのもので、断面が円形の導線により形成された平面渦巻き型コイルを用いた場合には、磁性材料を装備しないと性能向上が図れない旨の記載が見られる。
【0013】
しかしながら、平面渦巻き状コイルの利点は、その形状にあり、特に機器側に装備される受電用コイルは、薄くないと実装上の問題が発生する。特に、2次電池を内蔵した小型の携帯機器などでは、スペースの制約上、コイル体積をできる限り小さくすることが要求されている。電力伝送性能を向上させるために、例えば特許文献2に記載されているように、磁性材料で構成された板材をコイルの対向面の反対側、しかも特許文献2の請求項1によると、必ず2次側(機器側)に装備しないといけないのであれば、コイルの体積が増加し、機器に内蔵するのが困難になるという問題がある。
【0014】
そのうえ、特許文献2の請求項8には、フェライト円板の厚さとして、0.1mm〜5mmと規定され、さらに特許文献2の図9を参照すると、フェライト円板の厚さとして、0.5mm以上の厚さが必要と見られ、特許文献2の図10においては、フェライト円板の厚さが増加するほど伝送効率がよくなっている。このようなフェライト円板を、特に小型化が要求される機器側に設置されるコイルに装備しないと、電力伝送性能が改善できないことが記載されている。
【0015】
特許文献1〜3のいずれにも、断面が円形の導線で形成した空芯の平面渦巻き状コイルでは、効率よく電力が伝送できないことが記載されているが、その理由については明記されていない。そこで、課題を明確にするため、まず、特許文献1において、比較例1として挙げられている空心コイルに関する開示データについて検討してみる。
【0016】
特許文献1に記載の比較例1において、特許文献1の第7図より概算計算すると、コイルの対向距離、g=5mm、周波数、f=50kHz、2次側負荷電流、I2=約0.5Aのときに、伝送効率、η=約65%で、2次側電力、P2=20Wの電力が伝送可能と記載されている。
【0017】
しかしながら、この実測結果には納得し難い点がある。特許文献1では、1次側、2次側に同一コイルを使用しており、変成器として見た場合、巻線比が1:1であるので、2次側電圧は、1次側電圧以下にしかならないはずである。しかし、上記実測条件から計算すると、2次側の電圧値V2は、V2=20W/0.5A=40Vで、特許文献1の第7図には、V1=29Vと、1次側コイルに印加される電圧が29Vであることが明記されている。すなわち、昇圧作用を持たない巻線比1:1の変成器が、入力電圧、V1=29V、出力電圧、V2=40Vの昇圧効果を呈しているという実測結果となっている。これは、比較例1のみならず、実施例1においても、前記第7図の2次電流I2、約0.5Aの箇所を見れば、同様の実測結果となっている。
【0018】
そして、特許文献1の第6図を参照すると、比較例1では、コイルの対向距離、g=5mmのときには、1次側コイルの電流密度は、J1=約7.5A/mmになっている。前記したコイルに使用されているエナメル単銅線の直径は、1mmであるので、前記単導線の断面積は、0.5×π=0.785mmになる。したがって、1次側コイルに流れている交流電流は、実効値で、7.5A/mm×0.785mm=約6Aになる。特許文献1の第7図より、コイルの対向距離、g=5mm、2次側電流、I2=約1Aのときの伝送効率、η=約70%から逆算すると、2次側の電力P2は、P2=20Wなので、1次側の電力P1は、P1=20W/0.7=28.6W、となり、1次側コイルに印加されている電圧V1は、V1=28.6W/6A=4.76Vとなる。
【0019】
一次側コイルに4.76Vの電圧を印加し、6Aの電流を流そうとすると、1次側コイルのインピーダンスZは、Z=4.76V/6A=約0.8Ωにならなければならない。本願発明者がほぼ同等のコイルを製作して実験したところ、前記コイルの自己インダクタンスは、約25μHで、50kHzでの前記コイル単体のインピーダンスZは、Z=約7.7Ω、10Ωの負荷抵抗を接続した2次側の前記コイルを、距離ゼロで1次側の前記コイルに対向させたときのインピーダンスZは、Z=約5.9Ω、となっており、実際にこの条件下で、実効値5Vの交流電圧を前記1次側コイルに印加しても、実効値0.8A前後の電流しか流れなかった。
【0020】
しかも、前記コイルの実測した複素インピーダンスの実数成分(純抵抗成分あるいは実効直列抵抗)は、周波数50kHzのときに、約0.266Ωで、この純抵抗成分による損失は、6A×6A×0.266Ω=約9.6Wにもなる。このような負荷電力の半分に近い過大電力が1次側コイルで消費されると、1次側コイルは発熱して使用できなくなる。そのうえ、前記の損失電力は1次側コイルのみのもので、2次側コイルの前記純抵抗成分による電力損失等を勘案すると、伝送効率ηは、前記した70%以下になるはずである。特許文献1の記載には、このような疑問点が見られる。
【0021】
以後、複素インピーダンスの実数成分、純抵抗成分あるいは実効直列抵抗は、全て実効抵抗と表記する。実効抵抗は、導線の直流抵抗と、特許文献6、特許文献7に記載されている渦電流損、表皮効果等による交流抵抗の和であり、特段の記載がない限り、実効抵抗は直流抵抗と交流抵抗の和とする。
【0022】
さらに、特許文献1の第5図には、コイルの対向距離と結合係数の関係が図示してあるが、平板状の空芯コイルを対向させた変成器において、コイルの対向距離と結合係数の関係は、コイル外径との関数となるはずである。また、結合係数は、電力伝送周波数によっても異なり、このことは、特許文献4に、周波数と結合係数の関係として、10kHz以上では結合係数が急によくなり、100kHzでは、ほぼ100%になることが記載されていることからも明瞭である(特許文献4、段落番号0014、図3)。
【0023】
特許文献4には、特に、導線径や巻数に関する記載はないが、同じく2本の単導線を同一平面状に渦巻き状に巻回して、1次側コイルと2次側コイルを形成し、両コイルを分離不能としたうえで、周波数の上昇による表皮効果を積極的に利用し、結合係数の増加を意図している(特許文献4、段落番号0013)。そして、特許文献4では、結合係数の周波数特性を勘案し、特許文献5の請求項に、使用可能な周波数領域として、100kHz以上という規定を追加している(特許文献5、請求項1および2)。
【0024】
特許文献4には、磁性体を装備しないことによる軽量薄型化、鉄損の回避による高周波数での動作条件などからも、空芯が好ましいと記載されており(特許文献4:段落番号0010)、平面渦巻き状で電力伝送性能のよい空芯のコイルが望まれている。
【0025】
上記した特許文献1の理論的な疑問点は別として、特許文献1に開示されている比較例1のコイルにおいて、空芯では性能が劣る理由を説明する。
【0026】
特許文献6の段落番号0002に記載されているように、渦電流損および表皮効果は、周波数が上昇すると、コイルの実効抵抗を増加させる。この特性は、特許文献7の段落番号0003に記載されているように、単導線の線径が太いほど、顕著な影響があることが知られている。特許文献1の比較例1として記載されているコイルでは、前記したように、50kHzになると、実効抵抗は、コイルの直流抵抗、約0.08Ωの、約3倍以上の、0.266Ωになる。
【0027】
本願の図35は、特許文献1に記載された比較例1のコイルを、本願の図34の送電用コイル1と受電用コイル2に用いたときの等価回路図である。本願の図34の送電制御回路3は、電源Vで示され、R3は電源Vの内部抵抗であり、R1は送電用コイル1の実効抵抗であり、RLは受電制御回路4に接続される負荷抵抗であり、R2は受電用コイル2の実効抵抗である。
【0028】
1次側および2次側コイルの双方に、特許文献1の比較例1として記載されたコイルを使うと、本願の図35に示すように、実効抵抗R1が電源Vに直列に接続され、実効抵抗R2が負荷抵抗RLに直列に接続されることにより、少なくともR1、R2の2箇所で電力損失が発生する。これを回避するには、周波数を下げ、前記した表皮効果、渦電流損の影響を低減するしかないが、周波数を下げると、コイルのリアクタンスが減少し、送電用コイル1に過大電流が流れ、実効抵抗R1と、交流電源の内部抵抗R3による電力損失が発生する。しかし、特許文献1の比較例1に記載のコイルを、1次側、あるいは2次側のみに装備し、特性のよい他のコイルを前記コイルに対向させることにより、磁性材料を装備せずとも電力伝送性能を向上できる。その具体的な方法ついては、後述する。
【0029】
次に、特許文献2に記載されているコイルについて説明する。なお、特許文献2に開示されているコイルについても、本願発明者が同一のコイルを作成し、前記コイルの特性を計測している。特許文献2に比較例として記載されているコイルは、直径100μmの絶縁被覆銅線を100本束ねた太い導線を5ターン巻線しているだけであるため、自己インダクタンスが、約0.8μHと小さく、コイル形状により相互インダクタンスも小さくなるので、力率が低下し、皮相電力、無効電力が大きくなる。また、線径が太くかつターン数が少ないので、特許文献2の段落番号0051に記載されている周波数100kHzにおいては、コイルの実効抵抗が、約17mΩと小さくなりすぎるという問題がある。
【0030】
前記コイルの自己インダクタンスは約0.8μHで、前記コイルを2個用い、本願の図35に示すように、送電用コイル1と受電用コイル2とからなる変成器を構成した場合、周波数100kHzでは、負荷抵抗RLを10Ωとしたときの、電源V側から見た1次側コイルのインピーダンスZは、Z=約0.6Ωと非常に小さい値となっている。本願の図35において、R3で示される電源Vの内部抵抗は、通常0.5Ω〜数十Ωであり、電源Vに、前記1次側コイルが接続されると、電源Vは短絡された状態に近くなってしまうため、電源Vの内部抵抗R3が相当の電力を消費し、電力を効率よく伝送できなくなってしまううえ、伝送可能な電力値も少なくなる。もともと、特許文献2に記載されているコイルは、コイル対向面の反対側に磁性体板を装備することにより、自己インダクタンスを確保し、コイルが対向したときに磁束を閉じ込め、結合係数を増加させる意図で作成されており、空芯コイルとして最適化されたものではない。
【0031】
特許文献2においては、空芯コイルの電力伝送性能を、比較例として挙げているだけであり、さらに、実測結果には、特許文献1と同じ疑問点がある。特許文献2の段落番号0060には、1次側電圧V1を、V1=1.3Vとする旨の記載がある。そして、電力値との関係を、特許文献2の図6(b)より参照すると、最も性能のよいコイルの効率最大点は、2次側電流I2が、I2=0.5Aの点で、2次側で1Wの電力が伝送可能となっている。2次側電圧V2は、V2=1W/0.5A=2Vであり、特許文献1と同じく、実測結果によると、入力電圧V1=1.3V、出力電圧V2=2Vとなっており、巻線比、1:1の変成器が、昇圧効果を呈している。
【0032】
また、特許文献2の段落番号0051には、1次側電圧V1を、V1=4V、一定とする旨の記載がある。2次側に10Ωの負荷抵抗を接続した特許文献2の比較例に記載のコイルは、前記したように、100kHzにて、約0.6Ωのインピーダンスを持つので、1次側コイルには、I=4V/0.6Ω=6.6A、の電流が流れ、皮相電力Paは、Pa=4V×6.6A=27VA、となる。特許文献2の段落番号0052に記載の表4を参照すると、2次側電力P2は、P2=1.4W、伝送効率ηは、η=8%となっているので、P2とηから逆算すると、1次側の実効電力は、1.4/0.08=17.5Wとなり、1次側の力率を計算すると、17.5W/27VA=64.8%となる。しかし、後述するように、特許文献2に記載のコイルは、結合係数が0.6程度であり、上記のような力率が得られるとは考えられないうえ、直径が3cmの平板コイルに17.5Wの実効電力が投入され、そのうちの92%が損失なら、コイルは発熱して使えなくなる。
【0033】
特許文献2も、特許文献1と同じく、詳細に開示データを検討すると、疑問点があるが、特許文献2に記載されたコイルも、空芯で使うには適していない構成であるのは上記に説明したとおりである。
【0034】
また、特許文献3においては、特に明細書内には記載はないが、断面が矩形の導体を単層渦巻き状に巻回することにより、空芯であっても性能向上が図れる旨の記載がある(請求項3、請求項4)。その作用効果として、断面が円形の場合に比べ、断面を矩形とすることにより、導体の断面積が同じ場合で、コイル外径が同じ場合には、巻数を増やすことができるので、電力伝送性能を向上できると記載している(段落番号0016)。また、巻数が同一の場合には、コイル外径を小さくでき、導線の総延長を短くできるので、導線抵抗を低減でき、電力伝送性能を向上できると記載している(段落番号0024)。
【0035】
しかしながら、特許文献4の段落番号0004には、特開平4−42907号公報を引用し、断面が矩形の場合は、導体間の静電容量が増加するので、高周波での動作が難しいことが記載され、段落番号0010には、「両導線を近接しても点でしか接触しないことにより両導線間の静電容量を最小に出来」、と記載されている。特許文献4における導体間の静電容量は、主として1次側コイルの導線と2次側コイルの導線間のものであるが、特許文献3においても、コイルを形成する導線の断面が矩形の場合は、断面が円形の場合に比べて、巻回された導線間に大きな静電容量が発生することは容易に推察できる。
【0036】
本願の図36は、断面が円形の導線を、平板単層渦巻き状に25回、同一回数巻回したときの、線径dとインダクタンスLの関係を示した図である。
【0037】
特許文献3では、導体を単層渦巻き状に巻回した場合、巻数が同一であれば同一のインダクタンスが得られるという前提にて作用効果を論じているが、本願の図36より、導体を単層渦巻き状に同一回数巻回した場合、インダクタンスLは導線断面積により変化し、同一にはならない。したがって、特許文献3に記載されている作用効果は期待できない。
【0038】
特許文献6には、単導線をフラットケーブル状に形成した導線を使用してコイルを構成することにより、周波数の上昇による実効抵抗の増大を軽減できる旨が記載されている。また、特許文献6の段落番号0013、表1には、フラットケーブルを用いたコイルと他の線材を用いたコイルの、50Hzと100kHzにおける実効抵抗が記載されている。
【0039】
同じく特許文献7の段落番号0009には、さらにリッツ線をフラットケーブル状にしてボビンに巻回することにより、周波数の上昇による実効抵抗の増加を低減可能であることが記載されており、特許文献7の図7には、銅板、単銅線などを巻回して形成したコイルと比較した実効抵抗の周波数特性の改善率が明記されている。
【0040】
しかし、特許文献6、特許文献7に記載の実効抵抗に関し、いずれの特許文献も周波数の上昇に伴う実効抵抗の増加率を、抵抗値ではなく比で表しており、実効抵抗の実際の数値が不明である。そして、特許文献6、特許文献7に限らず、本願にて引用している特許文献には、コイルの重要な特性であるインダクタンスについて言及されている文献はない。すなわち、実効抵抗の周波数特性の改善率が、インダクタンスの減少率よりも高くないと、換言すれば、高い周波数でコイルのQを高くしないと、性能の良いコイルが実現できたとは言えない。
【0041】
特許文献1、特許文献2においては、特許文献6、特許文献7とは逆に、透磁率の高い磁性材料をコイルに装備することにより、周波数の上昇による実効抵抗の増加率よりもインダクタンスを増加させて、コイルのQを上げる手法を使っているものと推察される。本発明では、単導線を使った空芯コイルであっても、高い周波数で、Qを高くすることができる。その具体的な方法については、後述する。
【0042】
また、特許文献6の段落番号0013の表1を参照すると、従来例と実施例の比較において、導体断面積と、コイル外寸、ターン数は記載されているが、導体の総延長が不明であるため、実効抵抗の絶対値が分からない。仮に実施例の50Hzでの抵抗値を50mΩとし、特許文献6の図4に記載されたコイルの50Hzでの抵抗値が10mΩとするなら、100kHzでの実施例のコイルの実効抵抗は80mΩ、前記図4のコイルの実効抵抗は130mΩとなり、コイル形状による放熱性を考量すると、前記図4のコイルのほうが熱上昇は小さくなる。そして、実施例のように導線を分割すると、各導線のインダクタンスを並列接続することになるので、インダクタンスが前記図4のコイルより小さくなることが推測できる。
【0043】
しかも、特許文献7の段落番号0023、図7を参照する限りにおいて、巾8mm、厚さ1mmの銅板を4ターン巻回したコイルに比べ、実施例の100kHzでの実効抵抗の改善率は、約1/2.5であり、周波数の上昇に伴い改善度合いが低下している。50Hz〜100kHz間の実効抵抗の増加率は、特許文献6の実施例では、1.8倍、比較例では、13倍、特許文献7の実施例では、約5倍、比較例では、約9倍となっており、コイルの構成は異なるが、実効抵抗の周波数特性がよいリッツ線を使った特許文献7の実施例の方が、特許文献6の実施例よりも改善率が悪くなっている。本発明では、平板空芯コイルにおいて、特許文献6、特許文献7に比べると、周波数の上昇に伴う実効抵抗の増加率を著しく改善することができるうえ、電力伝送に最適なコイルを実現できる。その具体的な方法については、後述する。
【0044】
さらに、特許文献6の段落番号0020、0021、図3には、フラットケーブルを平板渦巻き状に巻回したコイルが開示されているが、図3のコイルについては、他の線材を用いて平板渦巻き状に構成したコイルとの性能比較や作用効果については何も記載されておらず、また、図3のコイルが電力伝送に使用可能であることも全く記載されていない。
【0045】
そして、特許文献7の段落番号0025には、「高周波巻き線10を、例えば電気自動車の充電にも用いることができるようになる。」と、空芯コイルが電力伝送用に使用可能という記載があるが、送電、受電、両コイルの相対位置に関する記載がない上、仮に電力伝送用に使用可能としても、電力伝送性能については全く記載されていない。すなわち、電力伝送用の性能がよいコイルを実現するには、自己インダクタンス、相互インダクタンス(結合係数)を確保でき、かつ実効抵抗による電力損失がもたらすコイルの発熱を回避するために、適切な構成のコイルを選ばねばならず、単にコイルの実効抵抗の周波数特性を改善するだけでは不十分である。
【0046】
上記に説明してきたように、平板に導線を単層渦巻き状に巻回した空芯コイルは電力伝送性能が悪いというのが従来の定説となっており、磁性材料等を装備することによって、電力伝送性能の向上が図られている。そして、電力伝送性能を左右する一つの要因である前述したコイルの実効抵抗と周波数の関係を、前記空芯コイルの構成と共に考察した従来技術は存在しない。すなわち、従来の技術では、電力を伝送するための適切な単層渦巻き状に巻回した空芯コイルが実現できていない。
【0047】
そこで、この発明の目的は、スペースファクタがよく、高い電力伝送性能を持ち、高い周波数でも使用可能な、電力伝送装置の空芯コイルおよび電力伝送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0048】
この発明は、コイルを電磁的に結合させて電力を伝送する電力伝送装置の空芯コイルであって、2個のコイルのうちの少なくとも一方のコイルの直流抵抗をRd(Ω)、とし、少なくとも一方のコイルの1MHzにおける実効直流抵抗をRf(Ω)、としたときに、Rf<Rd×25を満足する。
【0049】
この発明の他の局面は、送電部のコイルと、受電部のコイルとを対向させて、送電部から受電部に電力を伝送する電力伝送装置において、対向するコイルの内、少なくとも一方のコイルを形成する導線が単導線で、少なくとも一方のコイルは、単導線を単層渦巻き状に巻回してあり、導線の導体単体の最大径をd1、少なくとも一方のコイル外径をDとしたとき、少なくとも一方のコイル外径Dが最大径d1の少なくとも25倍以上であり、かつ導線の巻き数が所定巻数以上であり、少なくとも一方のコイルの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であって、伝送する交流電力の周波数における少なくとも一方のコイル単体の純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRw(Ω)、伝送する交流電力の周波数における、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、少なくとも一方のコイルの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRs(Ω)としたときに、Rs>Rwを満足する。
【0050】
この発明によれば、線径とコイル外径と巻数とを規定することで、必要な自己インダクタンスと結合係数を確保でき、負荷抵抗を接続した2次側コイルが1次側コイルと対向したときの、1次側コイル両端のリアクタンスXと純抵抗Rの比、X/R、およびコイルに印加される交流電圧と交流電流の位相差φが極小、力率cosφが極大となる周波数近辺であって、かつ実効抵抗Rwが小さい周波数近辺でコイルを使用することにより、電力伝送時の無効電力、皮相電力を低減することができる。
【0051】
両コイル対向時に、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rsが、少なくとも一方のコイル単体での実効抵抗Rwよりも大きくなることにより、電力を伝送する周波数において、実効抵抗Rwの小さいコイルを選別でき、かつ、電力伝送に最適な周波数範囲を規定できる。そして前記したように、自己インダクタンスを確保でき、実効抵抗Rwが低いコイルは、高いQを持つ。
【0052】
したがって、電力を伝送する周波数において、Rs>Rwを満足するコイルを使用することにより、電力伝送性能を、従来よりも向上させることが可能となる。
【0053】
好ましくは、電力を伝送する周波数における、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗をRn(Ω)、としたときに、Rs>Rn≧Rw、を満足する。
【0054】
この例では、両コイルを対向させたときに、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rs(Ω)、両コイルを対向させたときに、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rn(Ω)、少なくとも一方のコイル単体での実効抵抗Rw(Ω)、の関係が、電力を伝送する周波数において、Rs>Rn≧Rw、を満足することにより、さらに実効抵抗Rwの小さいコイルを選別でき、かつ電力伝送に最適な周波数範囲を規定できる。
【0055】
また、電力を伝送する周波数において、Rs>Rn≧Rwの条件を満足するコイルを使用することにより、コイル単体、コイルを対向させた変成器、のいずれもが理想的な理論上の特性に近づき、電力伝送性能を、従来よりも向上させることが可能となる。
【0056】
好ましくは、少なくとも一方のコイルの熱抵抗をθi(℃/W)、少なくとも一方のコイルの許容動作温度をTw(℃)、少なくとも一方のコイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに少なくとも一方のコイルに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足する。
【0057】
この例では、実効抵抗Rwと前記Iaによる熱条件を規定することで、少なくとも一方のコイルの電流値Iaの上限、あるいは少なくとも一方のコイルの実効抵抗を決める巻数の上限と、実効抵抗Rwが小さい周波数領域を規定できる。
【0058】
好ましくは、少なくとも一方のコイルを形成する導線に絶縁被覆が施されている場合において、少なくとも一方のコイルの隣接する各単導線を密接して巻回する。
【0059】
例えば、ホルマル線などのように導線に絶縁被覆を施すことで、導線の酸化を防ぎ、隣接する導線間の短絡防止を図ることができる。また、コイルの直径Dおよび巻数の規定により、必要な自己インダクタンスを確保するとともに、両コイル間の所定対向距離において、必要な結合係数を確保することができる。
【0060】
すなわち、磁性材料を装備していない空芯コイルを用いた場合で、結合係数が0.9程度以下の疎結合状態でも、電力伝送性能を確保できる。具体的には、力率は、例えば70%以上に、実効電力伝送効率を、例えば85%以上に高めることができ、前記効率にて2次側に接続された10Ωの無誘導負荷抵抗に、例えば15W以上の電力を伝送できる。
【0061】
より具体的には、単導線の最大径d1が0.2mm以上のときに、少なくとも一方のコイルの隣接する各導線間に空隙を設ける。空隙を設けない場合、各導線が発生する磁束は、隣接する導線を全て貫通し、磁束が隣接した導線を貫通することにより発生する渦電流損により、周波数が上昇したときに、実効抵抗Rwが増加するが、空隙を設けることにより、前記磁束が隣接した導線を貫通することにより発生する渦電流損を少なくできるので、周波数が上昇したときに、コイル単体の実効抵抗Rwの増加を抑えることができる。
【0062】
また、同一外径のコイルでは、巻線の総延長が短くなるので、実効抵抗を低く抑えることができる。ただし、導体を貫通する磁束による渦電流損は、導体の体積に比例して増加するため、単導線の最大径が0.2mm以上でないと、導線間に空隙を設けても、周波数の上昇による実効抵抗の増加率はそれほど改善できない。
【0063】
上記構成のコイルは、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Rs>Rn≧Rwを満足している周波数範囲も広いので、電力伝送特性がよい。
【0064】
すなわち、磁性材料を装備していない空芯コイルを用いた場合で、結合係数が0.9程度以下の疎結合状態でも、電力伝送性能を確保できる。具体的には、力率は、例えば60%以上に、実効電力伝送効率を、例えば85%以上に高めることができ、前記効率にて2次側に接続された10Ωの無誘導負荷抵抗に、例えば20W以上の電力を伝送できる。
【0065】
この発明の他の局面は、送電部のコイルと、受電部のコイルとを対向させて、送電部から受電部に電力を伝送する電力伝送装置において、対向するコイルの内、少なくとも一方のコイルを形成する導線は、それぞれの最大径が0.3mm以下に選んだ複数の裸単導線の集合体に絶縁被覆を施した導線を単層渦巻き状に巻回して構成され、複数の裸単導線の集合体の最大径をd2、少なくとも一方のコイル外径をDとしたとき、少なくとも一方のコイル外径Dが最大径d2の少なくとも25倍以上であり、かつ導線の巻き数が所定巻数以上であり、少なくとも一方のコイルの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であって、伝送する交流電力の周波数におけるコイル単体の実効抵抗をRw(Ω)、伝送する交流電力の周波数における、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗をRs(Ω)、としたときに、Rs>Rwを満足する。
【0066】
この発明では、先の発明と同様の作用効果をなすとともに、導体を貫通する磁束による渦電流損は、導体の体積に比例して増加するため、0.3mm以下の裸単導線の集合体を、少なくとも一方のコイルを形成する導線とし、導体の表面積を増加させることによって、渦電流損と表皮効果による実効抵抗Rwの増加を抑えることができる。
【0067】
好ましくは、電力を伝送する周波数における、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗をRn(Ω)、としたときに、Rs>Rn≧Rw、を満足する。
【0068】
この例では、両コイルを対向させたときに、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rs(Ω)、両コイルを対向させたときに、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rn(Ω)、少なくとも一方のコイル単体での実効抵抗Rw(Ω)、の関係が、電力を伝送する周波数において、Rs>Rn≧Rw、を満足することにより、さらに実効抵抗Rwの少ない小さいコイルを選別でき、かつ電力伝送に最適な周波数範囲を規定できる。
【0069】
また、電力を伝送する周波数において、Rs>Rn≧Rwの条件を満足するコイルを使用することにより、コイル単体、コイルを対向させた変成器、のいずれもが理想的な理論上の特性に近づき、電力伝送性能を、従来よりも向上させることが可能となる。
【0070】
好ましくは、少なくとも一方のコイルの熱抵抗をθi(℃/W)、少なくとも一方のコイルの許容動作温度をTw(℃)、少なくとも一方のコイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに少なくとも一方のコイルに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足する。
【0071】
この例では、実効抵抗Rwと前記Iaによる熱条件を規定することで、少なくとも一方のコイルの電流値Iaの上限、あるいは少なくとも一方のコイルの実効抵抗を決める巻数の上限と、実効抵抗Rwが小さい周波数領域を規定できる。
【0072】
好ましくは、ビニール線のように、導体径に比べ、厚い被覆を持つ導線を使用することで、被覆により導体間に空隙を設けるか、被服が薄い場合には、被服を含む導線間に空隙を設けることにより、導線の酸化を防ぎ、導線間の短絡防止を図ることができる。また、線径とコイル外径と巻数とを規定することで、必要な自己インダクタンスと結合係数を確保できる。空隙の作用効果は、既述したとおりである。
【0073】
上記構成のコイルは、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Rs>Rn≧Rwを満足している周波数範囲も広いので、電力伝送特性がよい。
【0074】
すなわち、磁性材料を装備していない空芯コイルを用いた場合で、結合係数が0.9程度以下の疎結合状態でも、電力伝送性能を確保できる。具体的には、力率は、例えば70%以上に、実効電力伝送効率を、例えば85%以上に高めることができ、前記効率にて2次側に接続された10Ωの無誘導負荷抵抗に、例えば25W以上の電力を伝送できる。
【0075】
この発明のさらに他の局面は、送電部のコイルと、受電部のコイルとを対向させて、送電部から受電部に電力を伝送する電力伝送装置において、対向するコイルの内、少なくとも一方のコイルを形成する導線には、導線内部に絶縁体層が設けられ、絶縁層の断面積が導線全体の断面積の11%以上であって、コイルは、導線を渦巻き状に密接して巻回してあるか、または多層巻きしてあり、導線の最大径をd3、コイル外径をDとしたとき、少なくとも一方のコイル外径Dが最大径d3の少なくとも25倍以上であり、かつ導線の巻き数が所定巻数以上であり、少なくとも一方のコイルの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であって、伝送する交流電力の周波数における少なくとも一方のコイル単体の実効抵抗をRw(Ω)、伝送する交流電力の周波数における、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗をRs(Ω)、としたときに、Rs>Rwを満足する。
【0076】
この発明では、先の発明と同様の作用効果をなすとともに、導体を貫通する磁束による渦電流損は、導体の体積に比例して増加するため、コイルを構成する導線内部に絶縁体を設け、導線中を貫通する磁束経路に存在する導体体積を減らし、導体の表面積を増加させることによって、渦電流損と表皮効果による実効抵抗Rwの増加を抑えることができる。絶縁材料は導線内部に絶縁層を設けるとともに、導線に可撓性を持たせ、導線の曲げ加工を容易にするものである。
【0077】
好ましくは、電力を伝送する周波数における、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗をRn(Ω)、としたときに、Rs>Rn≧Rw、を満足する。
【0078】
この例では、両コイルを対向させたときに、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rs(Ω)、両コイルを対向させたときに、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rn(Ω)、少なくとも一方のコイル単体での実効抵抗Rw(Ω)、の関係が、電力を伝送する周波数において、Rs>Rn≧Rw、を満足することにより、さらに実効抵抗Rwの少ない小さいコイルを選別でき、かつ電力伝送に最適な周波数範囲を規定できる。
【0079】
また、電力を伝送する周波数において、Rs>Rn≧Rwの条件を満足するコイルを使用することにより、コイル単体、コイルを対向させた変成器、のいずれもが理想的な理論上の特性に近づき、電力伝送性能を、従来よりも向上させることが可能となる。
【0080】
好ましくは、少なくとも一方のコイルの熱抵抗をθi(℃/W)、少なくとも一方のコイルの許容動作温度をTw(℃)、少なくとも一方のコイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに少なくとも一方のコイルに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足する。
【0081】
この例では、実効抵抗RwとIaによる熱条件を規定することで、少なくとも一方のコイルの電流値Iaの上限、あるいは少なくとも一方のコイルの実効抵抗を決める巻数の上限と、実効抵抗Rwが小さい周波数領域を規定できる。
【0082】
具体的には、導線は、それぞれに絶縁被覆が施された複数の単導線の集合体で構成され、かつ、単導線は、絶縁被覆を除く導体の最大径をd4としたときに、d4が0.3mm以下であって、絶縁被覆の厚さtが(d4)/30mm以上に選ばれている。この構成のコイルは、それぞれに絶縁被覆が施されたn本の単導線の集合体で構成され、各単導線に隣接する他の単導線との間に、前記絶縁被覆により、空隙が設けられており、各単導線に流れる電流により発生する磁束密度が、1/nとなるうえ、各単導線の体積が小さいので、渦電流損が低減できる。なお、表皮効果の影響が低減できることは言うまでもない。
【0083】
上記構成のコイルは、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Rs>Rn≧Rwを満足している周波数範囲も広いので、電力伝送特性がよい。
【0084】
すなわち、磁性材料を装備していない空芯コイルを用いた場合で、結合係数が0.9程度以下の疎結合状態でも、電力伝送性能を確保できる。具体的には、力率は、例えば75%以上に、実効電力伝送効率を、例えば90%以上に高めることができ、前記効率にて2次側に接続された10Ωの無誘導負荷抵抗に、例えば30W以上の電力を伝送できる。
【0085】
好ましくは、コイルの外周部における隣接する導線間に設ける空隙の幅が内周部における隣接する導線間に設ける空隙の幅よりも狭いか、外周部における隣接する導線は密接しており、内周部における隣接する導線間に空隙を設ける。
【0086】
コイルが生成する磁束密度は、外周部近辺では低く、内周部では高いため、外周部を蜜巻きし、内周部を疎巻きすることにより、コイル面上で、できる限り磁束密度を一定にし、対向しているコイルの相対位置が変動したときの伝送可能電力の低下を防止できる。内周部は磁束密度が高いので、空隙を設けることで渦電流損を防止できる。空隙の作用効果は、既述したとおりである。
【0087】
上記構成のコイルは、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Rs>Rn≧Rwを満足している周波数範囲も広いので、電力伝送特性がよい。
【0088】
すなわち、磁性材料を装備していない空芯コイルを用いた場合で、結合係数が0.9程度以下の疎結合状態でも、電力伝送性能を確保できる。具体的には、力率は、例えば75%以上に、実効電力伝送効率を、例えば90%以上に高めることができ、前記効率にて2次側に接続された10Ωの無誘導負荷抵抗に、例えば40W以上の電力を伝送できる。
【0089】
好ましくは、送電部のコイルと、受電部のコイルとを固定し、分離不能とすることで、変圧器として使用可能になる。
【0090】
なお、通常の変圧器とは異なり、固定前に1次側コイル単体と2次側コイル単体の特性を計測し、かつ両コイルを対向させた特性も計測可能である。最初から一体構造で設計された変圧器は、実際に組み立てないと性能を確認できないが、本発明では、特性を計測し、実際に電力伝送性能の確認を行ってから、コイルを固定することができる。そして、一次側コイルと2次側コイルの巻き線比を、任意の比率に設定可能な、軽量、薄型、空芯の、特性がよい変圧器が実現できる。
【0091】
より好ましくは、コイルの変形を防止するために、コイルを絶縁材に沿って巻回するか、コイルを絶縁性樹脂内に固定するか、コイルを絶縁材に沿って巻回し、コイルを絶縁性樹脂または接着剤により絶縁材に固定する。絶縁材の反対側に他のコイルを配置することで、コイルを構成している導線の絶縁層を保護できる。対向するコイル間に絶縁材を設けることにより、両コイル間の絶縁耐圧を高めることができる。変成器として使用する場合においても、絶縁材を設けることにより、両コイル間の絶縁耐圧を高めることができる。具体的には5mm程度の絶縁材を両コイル間に設置することにより、1次側と2次側の間に1万V程度の電位差があっても問題ない。また、熱抵抗θiを低下させ、コイルの発熱を低減できるので、大電力を伝送できる。
【0092】
そして、上述した本発明の電力伝送装置の空芯コイルを、送電部、受電部の少なくとも一方に装備することにより、従来よりも性能のよい電力伝送装置が実現できる。
【発明の効果】
【0093】
この発明は、2個のコイルのうちの少なくとも一方のコイルの直流抵抗Rd(Ω)と、少なくとも一方のコイルの1MHzにおける実効直列抵抗Rf(Ω)とを、Rf<Rd×25に選ぶことで、スペースファクタがよく、高い電力伝送性能を持ち、高い周波数でも使用可能になる。
【0094】
単導線を用いた場合には、線径とコイル外径と巻数とを規定することで、十分な自己インダクタンスと結合係数を確保でき、少なくとも一方のコイル単体の実効抵抗をRw(Ω)、送電部と受電部の2個のコイルが対向したとき、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rs(Ω)、少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、少なくとも一方のコイルの実効抵抗Rn(Ω)とし、Rw、Rn、Rsの周波数特性を見ることにより、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Qが高い、電力伝送性能のよいコイルを選別、実現でき、負荷抵抗を接続した2次側コイルが1次側コイルと対向したときの、1次側コイル両端のリアクタンスXと純抵抗Rとの比、X/R、およびコイルに印加される交流電圧と交流電流の位相差φが極小、力率cosφが極大となり、かつ実効抵抗Rwが小さい周波数近辺でコイルを使用することにより、スペースファクタがよく、高い電力伝送性能を持ち、高い周波数でも使用可能な、電力伝送装置の空芯コイルを得ることができる。その結果、電力伝送時の無効電力、皮相電力を低減できるので、コイルの実効抵抗による電力損失も低減できる。
【0095】
さらに、少なくとも一方のコイル単体の実効抵抗Rw(Ω)と少なくとも一方のコイルに流れる電流Ia(A)による熱条件を規定することで、少なくとも一方のコイルの電流値Iaの上限、あるいは少なくとも一方のコイルの実効抵抗を決める巻数の上限、あるいは実効抵抗Rwが小さい周波数領域を規定できる。
【0096】
また、0.3mm以下の裸単導線の集合体を用いた場合には、表皮効果および渦電流損によるコイルの実効抵抗増加を抑えることにより、電力伝送性能が向上する。
【0097】
さらに、コイルを構成する導線内部に絶縁体を設け、導線中を貫通する磁束経路に存在する導体体積を減らすことによって、表皮効果と渦電流損による実効抵抗の増加を抑えることができる。絶縁材料は導線内部に絶縁層を設けるとともに、導線に可撓性を持たせることができ、導線の曲げ加工が容易となる。
【0098】
あるいは、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rwの規定を満足するかを確認することにより、電力伝送に最適な周波数範囲を規定でき、あるいは、実際に電力伝送試験を行わずとも、電力伝送の性能が予測できる。
【0099】
このようなコイルを用いることにより、高い周波数で、大電力を伝送できる。すなわち、磁性材料を装備していない空芯コイルを用いた場合で、結合係数が0.9程度以下の疎結合状態でも、電力伝送性能を確保できる。具体的には、力率は、例えば75%以上に、実効電力伝送効率を、例えば85%以上に高めることができ、前記効率にて2次側に接続された10Ωの無誘導負荷抵抗に、例えば25W以上の電力を伝送できる。
【0100】
そして、本発明のコイルを送電部または受電部の少なくとも一方に装備することにより、上記のような、従来よりも性能のよい電力伝送装置が実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0101】
図1は、この発明の一実施形態における電力伝送装置の空芯コイルを示す図であり、(A)は平面図を示し、(B)は図1の線1B−1Bに沿う断面を拡大して示す。図2は図1に示したコイルの外形形状の変形例を示す図である。
【0102】
この発明の一実施形態の空芯コイル1aは、図1(A)に示すように、導線11を平板で空芯の単層渦巻き状に、隣接する導線11同士が密接するように巻回して構成される。導線11は図1(B)に示すように、断面が円形であり、最大径d1は特に限定されないが、より好ましくは、例えば線径が0.2mm以上の単導線12単体に絶縁被覆13を施して構成されている。絶縁被覆13としては、ホルマル線のように厚みが薄くても強い被膜や、ビニール線のように厚い被膜のいずれであってもよい。
【0103】
さらに、図1(A)の実施形態においては、導線を円形に巻回しているが、円形に限らず、図2(A)に示す長円形、図2(B)に示す楕円形、図2(C)に示す正方形、図2(D)に示す長方形、図2(E)に示す六角形などの多角形のように、任意の形状で巻回することができる。これは、後述する他の実施形態でも同様である。
【0104】
空芯コイル1aは、コイル外径をDとしたとき、少なくともコイル外径Dが単導線12の最大径d1の25倍以上であり、かつ導線11の巻き数が所定巻数、例えば8以上になるように構成される。ただし、コイルの形状が円形以外の場合、前記コイル外形Dは、図2(A)〜(E)に示すように、コイルの最小外寸を規定する。さらに、空芯コイル1aの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であって、電力を伝送する周波数における、空芯コイル1a単体での実効抵抗をRw(Ω)とし、図1に示した空芯コイル1aを2個対向させ、対向する一方のコイルを短絡したときの、他方のコイルの実効抵抗をRs(Ω)、としたときに、Rs>Rwを満足する。
【0105】
コイル外径Dを単導線12の最大径d1の25倍以上に選んだのは、必要な結合係数を確保するためであり、導線11の巻き数を8以上になるように選んだのは、2μH以上の自己インダクタンスが得られるようにするためである。なお、この実施形態のみならず、他の実施形態においても共通するが、コイルには、内径を設けるのが望ましい。内径は、前記の外径Dの規定を満足していれば、任意の寸法でよい。
【0106】
さらに、電力を伝送する周波数における、前記対向するコイルの一方を開放したときの他方のコイルの実効抵抗をRn(Ω)、としたときに、Rs>Rn≧Rw、を満足する。
【0107】
さらに、空芯コイル1aの熱抵抗をθi(℃/W)、空芯コイル1aの許容動作温度をTw(℃)、空芯コイル1aが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに空芯コイル1aに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足する。
【0108】
このように構成された空芯コイル1aは、図34に示した、1次側コイルと2次側コイルが分離可能な電力伝送装置の送電用コイル1、または受電用コイル2として用いることができる。
【0109】
次に、前述の満足すべき条件、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rw、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)、について説明する。なお、この説明は、他の実施形態においても同じ作用効果をもつので、以降に記載の実施形態においては、説明を省略する。
【0110】
図3は、変成器の等価回路を表す図であり、図4は、空芯コイル単体の等価回路を示し、図5は従来例で説明した図35のように構成された変成器単体の等価回路を表す図である。図6は、2次側コイルが短絡されたときの変成器の等価回路を表す図であり、図7は、2次側コイルに負荷抵抗RLが接続されたときの変成器の等価回路を表す図である。
【0111】
まず、Rw、Rn、Rsの理論上の関係を求めるため、変成器の1次側のインピーダンス、Z1を求めておく。図3において、L1は1次側コイルのインダクタンス、L2は2次側コイルのインダクタンス、Mは1次側コイルと2次側コイル間の相互インダクタンス、V1は1次側コイルの両端電圧、V2は2次側コイル(負荷抵抗RL)の両端電圧、I1は1次側コイルに流れる電流、I2は2次側コイルに流れる電流、RLは負荷抵抗(純抵抗)、Z1は1次側の入力インピーダンスを表す。図3において、下記の回路方程式が成立し、下記の連立方程式を解くことにより、Z1の純抵抗成分(実効抵抗)とリアクタンス成分(インダクタンス)を求めることができる。下記に、図3の回路方程式を記す。なお、j=−1、であり、ωは角周波数で、ω=2πf(fは周波数、Hz)である。
【0112】
V1=jωL1・I1+jωM・I2…(1)
V2=jωM・I1+jωL2・I2…(2)
V2=−RL・I2…(3)
求めたいのは、Z1=V1/I1、であるので、上記の3つの連立方程式から、V2、I2を消去すればよい。上記の連立方程式の(3)式を(2)式に代入し、V2を消去すると、
0=jωM・I1+(jωL2+RL)I2
となり、上式をI2について解き、上記連立方程式の(1)式に代入し、I2を消去すると、
V1=(jωL1+ω/(jωL2+RL))I1
となり、Z1=V1/I1、であるので、上式より、Z1は、
Z1=jωL1+ω/(jωL2+RL)
となる。実際の変成器は、1次側コイルに実効抵抗R1、2次側コイルに実効抵抗R2を持つので、図6の回路を考え、RL=R2とすると、
Z1=R1+jωL1+ω/(jωL2+R2)
となる。上式の、ω/(jωL2+R2)に、(−jωL2+R2)/(−jω
L2+R2)=1を掛けると、
Z1=R1+jωL1+ω(−jωL2+R2)/(ωL2+R2
となり、実数項と虚数項を整理すると、
Z1=R1+R2・ω/(ωL2+R2)+jωL1−jωL2・ω/(ωL2+R2
となって、A=ω/(ωL2+R2)とすると、Z1は、
Z1=(R1+AR2)+jω(L1−AL2)…(4)
となる。ω>0、M≧0、L2>0、R2>0、であるので、明らかに、A≧0である。すなわち、図5において、1次側コイルの入力インピーダンスZ1は、
Z1=R1+jωL1…(5)
であり、(5)式と(4)式を比較すれば明らかなように、図6のように、変成器の2次側コイルが短絡されたときには、1次側コイルの実効抵抗R1が増加し、インダクタンスL1が減少するのが分かる。これらは、「大学課程電気回路(1)」大野克郎、西哲生共著、オーム社発行(平成13年8月20日)に記載されている既知の回路理論である。
【0113】
上記(5)式と(4)式は、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rw、の条件を説明し、Rw、Rn、Rsの関係を説明するのに引用する基本式である。
【0114】
次に、図1に示した空芯コイル1aに関して、具体的な例について説明する。一部重複するが、シンボルの定義を明確にしておく。Rwは、空芯コイル1a単体の実効抵抗(図4のR1)、Rnは、空芯コイル1aに他の空芯コイルが対向し、対向した空芯コイルが開放されているときの空芯コイル1aの実効抵抗(図5のR1)、Rsは、空芯コイル1aに他の空芯コイルが対向し、対向した空芯コイルが短絡されているときの空芯コイル1aの実効抵抗(図6のR1)、krは、前記、RwとRsより近似的に求めた両コイル間の結合係数である。
【0115】
また、空芯コイル1a単体のインダクタンスをLw、空芯コイル1aに他の空芯コイルが対向し、対向した空芯コイルが短絡されているときの空芯コイル1aのインダクタンスをLsとしたときに、LwとLsから近似的に求められる結合係数をkiと表記する。krと、kiの近似的な求め方については後述する。
【0116】
なお、以下の説明では、コイルを対向させた変成器の1次側と2次側を区別しているが、変成器は1次側と2次側を反転させることができるので、図5のR1、L1は、2次側のR2、L2として考えても同様の結果が得られる。すなわち、本発明における空芯コイルは、1次側、2次側のいずれかに装備されていればよい。
【0117】
図8は、線径1mmのホルマル線を、外径70mmで25ターン(T)密接巻きした空芯コイル1AのRw、Rn、Rsと周波数の関係を表す図であり、図9は図8の5kHzから200kHzの周波数におけるRw、Rn、Rsの値を取り出してY軸のスケールを変えたものである。図10は、線径0.6mmのホルマル線を、外径70mmで40ターン密接巻きした空芯コイル1BのRw、Rn、Rs、kr、kiと周波数の関係を表す図であり、図11は図10の5kHzから200kHzの周波数におけるRw、Rn、Rs、kr、kiの値を取り出してY軸のスケールを変えたものである。
【0118】
図12は、線径0.3mmのホルマル線を、直径70mmで70ターン密接巻きした空芯コイル1CのRw、Rn、Rsと周波数の関係を表す図である。図13は、線径1mmのホルマル線を、外径70mmに、約1mmの空隙を設けて14ターン巻いた空芯コイル1DのRw、Rn、Rs、krと周波数の関係を表す図である。図14は、0.2mm、0.4mm、0.8mm、1mmの各ホルマル線を平板状に25ターン密接巻きした空芯コイルの、周波数と各空芯コイルの実効抵抗Rwの関係を示す図である。図15は、線径0.05mmのホルマル線を75本束ねた電線(リッツ線)を、外径70mmに30ターン密接巻きした空芯コイル1FのRw、Rn、Rs、kr、kiと周波数の関係を表す図である。図16は、線径0.05mmのホルマル線を75本束ねた電線(リッツ線)を、外径50mmに20ターン密接巻きした空芯コイル1GのRw、Rn、Rs、kr、kiと周波数の関係を表す図である。
【0119】
なお、図8〜図13、図15〜図16に示す特性図は、全て対向するコイル間の距離をゼロで測定したものである。コイル間の対向する距離が離れていても、Rn、Rsは、対向距離がゼロのときよりもわずかに変化するが、対向する距離が10mm程度までは殆ど変化しない。実際には、対向する距離が増加すると、結合計数が低下し、1次側のリアクタンスが増大して、皮相電力が増加するので力率が低下する。このため、特許文献1とは異なり、電力伝送効率は特許文献1に記載の比較例1のデータよりも低下するのが確認されている。
【0120】
空芯コイルの実効抵抗による電力損失は、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)の規定で抑えることができ、後述するように、図7における、R1、R2の値が不明な点と、Tw、Ta、はコイルの使用条件によって異なるので、本発明においては、前述の、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rw、の規定を、対向距離ゼロか、あるいは実際に使用するコイルの対向距離において満足していればよい。
【0121】
まず、Rs>Rw、を満足している場合と、満足していない場合の違いについて説明する。特許文献6を引用し、上記に説明したように、空芯コイルの実効抵抗Rwは、周波数が上昇するとともに増加することが知られており、その原因として、表皮効果や渦電流損などが知られている。空芯コイル単体では、この実効抵抗Rwを、計測によって正確に求められるが、図5のように構成された変成器においては、図8〜図12に示すように、単に2次側コイルが対向しただけで、周波数が高い領域では、R1が、RwからRnに上昇する。R1は1次側コイルの実効抵抗であるが、図4のR1(Rwと同じ)の周波数特性と、図5のR1(Rnと同じ)の周波数特性とは異なっているのが、図8〜図12にプロットされたRwとRnのグラフにて分かる。
【0122】
さらに、上述の回路理論によると、図6に示すように、2次側コイルを短絡すると、1次側の純抵抗値は、(R1+AR2)に増加することが知られている。ここで、R2は、2次側コイルの実効抵抗を表し、Mを1次側コイルと2次側コイル間の相互インダクタンス、ωを角周波数(ω=2πf、fは周波数、Hz)、2次側コイルの自己インダクタンスをL2とすると、A=ω/(ωL2+R2)であり、ω>0、M≧0、L2>0、R2>0、であるので、明らかに、A≧0である。なお、1次側のインダクタンスについては、1次側コイルの自己インダクタンスをL1とすると、図6に示すように、2次側コイルを短絡すると、1次側のインダクタンスは、(L1−AL2)に減少することが知られている。
【0123】
ところが、図8のY軸を拡大して示した図9、図10のY軸を拡大して示した図11、および図12を参照すると、周波数が高い領域では、RsがRwより小さくなる場合が見られる。図9、図10、図11、図12から明らかなように、Rw>Rsとなる周波数は、空芯コイル1Aでは、約70kHz以上になり、空芯コイル1Bでは、200kHz以上、空芯コイル1Cでは、800kHz以上になる。平板渦巻き状に密接してホルマル線を巻いた空芯コイルでは、このように、ホルマル線の線径が太くなるほど、Rs>Rwを満足する周波数は低くなる。
【0124】
また、図8〜図12から明らかなように、Rs>Rwを満足しなくなる周波数が低い空芯コイルは、周波数の上昇に伴う実効抵抗Rwの増加率も高い。図14より、0.2mm、0.4mm、0.8mm、1.0mmの各異なる線径のホルマル線を、同じ25回の巻数にしたコイル外径の異なる空芯コイルでも、前記の特性は同じで、ホルマル線の線径が太くなるほど、周波数の上昇に伴う実効抵抗Rwの増加率も高いことが分かる。
【0125】
すなわち、回路理論に従うなら、Rs>Rn=Rw、の関係を満足しないといけないが、空芯コイル1A〜空芯コイル1Cを使用し、図5、図6のように構成された変成器では、周波数が高い領域では、Rs>Rw、の関係を満足していない。例えば、空芯コイル1Bでは、周波数200kHz以上の点で、Rw>Rs、となっているのが、図10、図11より分かる。
【0126】
Rw>Rsとなるような周波数領域では、正でないとならないAが、負になってしまう。図8〜図12で、Rw>Rsとなるような周波数領域では、図7に示す、実効抵抗R1およびR2の実際の値を求めることはできない。その一例を以下に示す。なお、ここでは実効抵抗から近似的に結合係数を求めるので、結合係数をkrと表記し、後述するように、インダクタンスから求めた結合係数をkiと表記することとする。
【0127】
既知の回路理論によれば、結合係数をkrとすると、相互インダクタンスM、1次側コイルの自己インダクタンスをL1、2次側コイルの自己インダクタンスをL2としたときに、M=kr・L1・L2の関係が成り立つ。1次側コイルと2次側コイルに同一のコイルを使うなら、R1=R2、L1=L2、となるので、ωL2>>R2を満足するときには、A=ω/(ωL2+R2)≒ω/(ωL2)=kr・L1/L2=kr、となる。そこで、(R1+AR2)から、(Rw+krRw)=Rs、となり、kr≒(Rs−Rw)/Rw、として近似的にkrを求められ、kr=√((Rs−Rw)/Rw)となる。
【0128】
なお、ωL2>>R2を満足しているかは、同一のコイルの場合、R1=R2、L1=L2であるので、ωL1/Rw、を計算し、この値が50以上の時に求めた結合係数の値は、誤差2%程度と判断している。図8〜図13、図15〜図16においては、50kHz〜100kHz以上になると、ωL1/Rw>50となっている。Rs>Rwを満足する場合は、このようにして、Rw、Rsより結合係数krを近似的に求めることができる。
【0129】
しかし、Rw>Rsとなると、正でないとならないAが、負になってしまい、正であるべき結合係数krの二乗であるkrも負になるので、結合係数を実効抵抗Rw,Rsより求めることはできず、前記(4)式から明らかなように、図7において、R1、R2の実際の値を求めることはできなくなる。Rs=Rwの場合なら、結合係数krはゼロとなってしまうし、Rw>Rsとなると、数学的には結合係数krは虚数になる。実際に2個のコイルが対向しており、相互インダクタンスMが正であるのに、両コイル間の結合係数がゼロになることや、あるいは虚数になることは、理論上あり得ない。
【0130】
Rs>Rw、の条件を満足しない周波数領域では、上記のように、図35の実効抵抗R1とR2の値が不明になるうえ、コイルの実効抵抗Rwも大きくなり、1次側、2次側のいずれのコイルに電流Iを流しても、R1×I、R2×Iによる電力損失が過大となって、コイルが発熱するので、実効電力伝送効率が低下する。なお、同一のコイルを、1次側、2次側ともに使用した場合、2×Rw=Rsとなると、結合係数krが1となるので、Rsは、2×Rwに近いほどよい。
【0131】
上記の特性から、1mmのホルマル線を使った空芯コイル1Aでは、特許文献1に記載してある比較例1のコイルと同じ電力伝送性能しか達成できないように思われる。
【0132】
特許文献1に記載してある比較例1の空芯コイルは、1mmのエナメル単銅線を平板で渦巻き状に、25回巻かれているものであり、空芯コイル1Aとほぼ同じ構成である。本願発明者が、Rs>Rwを満足する、特許文献1に記載の50kHzを電力伝送周波数として追試したところ、10Ωの無誘導抵抗に、約17Wの実効電力を送ることができ、特許文献1の比較例1に記載の電力伝送性能とほぼ同等の電力伝送性能は確認できた。
【0133】
しかしながら、特許文献1では、1次側コイルと2次側コイルに同じコイルを使っているが、図8に示した空芯コイル1Aを、1次側又は2次側コイルとして使い、他方のコイルとして、後述する、Rs>Rn≧Rwを満足する図15に示す空芯コイル1Fを使うことにより、空芯コイル1Aは、少なくとも、Rs>Rwを満足する周波数が上昇するので、特許文献1に記載の比較例1よりも、電力伝送性能を向上させることができた。したがって、図8の空芯コイル1Aであっても、磁性材等を使用することなく、空芯のままで電力伝送性能を向上させることができる。
【0134】
実測によると、空芯コイル1Aにつき、Rs>Rwの条件を満足する周波数は、対向するコイルが、空芯コイル1Aの場合には、70kHz、対向するコイルが、空芯コイル1Fの場合には、100kHz、対向するコイルが、空芯コイル1Gの場合には、150kHz、となり、空芯コイル1Aの、Rs>Rw、の条件を満足する周波数を上昇させることができる。なお、空芯コイル1Fに空芯コイル1Aを対向させた場合に、Rs>Rwの条件を満足する周波数は、2MHzとなるが、図8より、このような周波数では、空芯コイル1Aの実効抵抗が高くなるので、後述するRwによる熱条件の規定、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)、により、2次側コイルである空芯コイル1Aに流すことが可能な電流を規定できる。
【0135】
次に、Rs>Rn≧Rw、を満足している場合と、満足していない場合の違いについて説明する。RwとRsより前記したAを求め、Aの平方根を取ることにより、近似的に結合係数krを求めることができるのは上述したとおりである。
【0136】
図13には空芯コイル1Dの、図15には空芯コイル1Fの、RwとRsより求めた結合係数krがプロットしてある。空芯コイル1Dでは、図13のように、周波数の上昇とともにRnが増加する割合が低く、1MHzまで、Rs>Rn≧Rwを満足している。空芯コイル1Fでは、図15に示すように、周波数の上昇とともにRnが急激に増加し、800kHz以上の周波数領域では、Rn>Rsとなる。
【0137】
RwとRsより近似的に求めた両コイル間の結合係数krと周波数の関係を見ると、空芯コイル1Dは、100kHz以上で、結合係数krがほぼ0.8以上の値を保持しているのに対し、空芯コイル1Fでは、結合係数krは、100kHzのときの0.9程度から、周波数が上昇するに従い低下し、1MHzでは0.65程度まで低下しているのが分かる。したがって、Rs>Rn≧Rwを満足しなくなる周波数は、できる限り高い方が好ましい。
【0138】
前記、Rs>Rn≧Rwの条件を満足するコイルを使用することにより、図4のコイル単体および図5に示すように構成された変成器、のいずれもが理論上の理想的な特性に近づくので、電力伝送性能を、従来よりも向上させることが可能となる。
【0139】
しかしながら、周波数領域によっては、Rn=Rwは満足せず、Rn>Rwとなり、Rnの影響を受けるので、図7において、R1とR2の値を正確に求めることはできない。また、R1、R2は、図35に示すRLによって変動する。すなわち、R1、R2に流れる電流により、R1、R2は変動し、当然、周波数によっても変動するので、図35において、電力伝送時の、R1、R2の実際の正確な値を測定することはできない。
【0140】
なお、本実施形態において、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rw、の2つの条件を満足するかの測定には、同一のコイルを対向させた場合を記載しているが、構造、構成、外径などが異なる任意のコイル2個を対向させ、1次側コイル、2次側コイルのいずれかで計測してもよく、同一のコイルを対向させて測定しなくてもよい。
【0141】
また、Rs>Rn≧Rw、の規定に関する詳細な作用効果については、空芯コイル1F、空芯コイル1Gを参照し、後述する。
【0142】
次に、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)、の規定について説明する。上述したように、図35にて、実際に負荷抵抗RLに電力を伝送しているときの、コイルの実効抵抗R1、R2は不明である上、図6において、回路理論上は、R1>Rwになる。したがって、最低限、Rwを基準にする以外、コイルの熱条件を規定することができない。
【0143】
この発明を実施する場合において、コイルの熱抵抗θi(℃/W)は、コイルの構造や設置条件により決まる。例えば、コイルが空芯単体の場合は、θiは高く、コイルが熱抵抗の小さい樹脂内に固定され、かつ水中に設置されるような場合は、θiは低くなる。コイルが動作可能な温度Tw(℃)は、コイルの構造や用途により決まり、断熱性のよいケース内に組み込まれているか、変圧器のように機器内部に組み込まれている場合などでは、例えば50℃〜80℃、人体、動物などが触れるところに設置されているような場合などでは、例えば40℃程度となる。コイルが設置される場所の周囲温度Ta(℃)は、屋外などでは、例えば−20℃〜40℃、室内などでは、例えば15℃〜30℃、機器内部などでは、例えば40℃〜50℃となる。
【0144】
通常、物体は、温度が高くなるほど、周囲に多くの熱を放散するので、正確には熱拡散方程式を解く必要があるが、種々の構造を持つコイルにつき、比熱等の熱定数を加味して熱拡散方程式を解くのは困難であるので、下記の方法により簡易的に熱抵抗θi(℃/W)を求める。
【0145】
まず、1次側、または2次側コイルが設置される場所にて、初期状態のコイル温度T1(℃)を求めておく。前記コイルに、直流の定電流Id(A)を流して、前記コイルの両端電圧Vd(V)を計測し、Pd=Vd×Id(W)として、前記コイルの消費電力を求める。金属導線は温度が上がると抵抗値が増加し、コイルの両端電圧Vdが上昇するので、Vdはペンレコーダー等で記録して平均値を求めるか、A/D変換器等で逐次Vdをモニターし、平均値を取るのが望ましい。熱平衡に達したら、コイル温度T2(℃)を測定する。熱抵抗θi(℃/W)は、θi=(T2−T1)/Pd(℃/W)として求められる。この測定は、Idの電流値を変えて数回測定し、平均値として求めるのが好ましい。
【0146】
このようにして求められた熱抵抗θi(℃/W)に、実際の使用条件下でのコイルの実効抵抗Rw(Ω)とコイルに流れる電流Ia(A)により決まる、実効抵抗Rwが消費する電力、Rw×Ia(W)を掛けると、実際の使用条件下でのコイルの温度上昇値、Tr(℃)が求められる。Tr=θi×Rw×Ia(℃)となり、コイルが動作可能な温度をTw(℃)、コイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)とすると、Tr=Tw−Taとなり、不等式、(Tw−Ta)≧θi×Rw×Ia(℃)を満足しないと、コイルの使用可能温度を越えるので、本発明の実施が困難になる。
【0147】
実効抵抗Rw(Ω)に関する条件、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)は、前記不等式を変形し、RwまたはIaの条件を規定している。電力が伝送される周波数において、実効抵抗Rwは、1次側または2次側コイル単体で実測して求められる変数、1次側または2次側コイルに流れる電流Iaも実測して求められるか、1次側においては電源条件により決まり、2次側においては負荷条件により決まる変数で、他の、Tw、Ta、θiは既知の定数となる。したがって、Rwが求められれば、Iaの上限値が規定され、逆にIaが決められれば、Rwの上限値が規定される。
【0148】
Rwは、直流抵抗Rdと交流抵抗Raの和であり、RdとRwは直接実測することが可能なので、Iaを決定することにより、巻き数により増加する、RdとRaの和である実効抵抗Rwの上限値を規定でき、実効抵抗Rwと周波数の関係から、電力が伝送可能な周波数範囲を規定することができる。
【0149】
1V×10Aと、10V×1Aは、どちらも同じ10Wの電力であるが、コイルの実効抵抗による電力損失は、10Aの場合は、1Aの100倍となる。電力ではなく、1次側、2次側を問わず、コイルに流れる電流Iaを考慮し、コイルの実効抵抗による電力損失を規定しないと、2個のコイル間での電力伝送効率を改善することはできない。
【0150】
本発明の各実施形態では、磁性材料を装備していない空芯コイルにより、結合係数が0.9程度以下の疎結合状態にて、2個のコイル間で、従来では困難であった大電力を伝送できる空芯コイルを実現するものである。既述したように、力率は0.5以上ではあるが、疎結合状態では、1次側コイルに投入される無効電力が、実効電力を上回る場合もある。
【0151】
力率が1から0.5に低下すると、皮相電力により1次側コイルに流れる電流は、√2倍になり、1次側コイルの実効抵抗Rwによる損失は2倍になる。そのうえ、2次側コイルに接続された負荷抵抗に電流が流れると、2次側コイルに流れる電流により発生する磁束が1次側コイルを形成する導線を貫き、渦電流損を発生させ、1次側コイルが発熱する。したがって、不等式、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)は、本発明を実施するのに満足するのが好ましく、満足していないと、本発明の実施が困難になる。
【0152】
なお、電力を伝送する周波数において、Rs>Rn≧Rwを満足している場合、図35において、電源の内部抵抗R3が、Rwと同等以下の値であれば、負荷抵抗RLから見た2次側コイルは、1次側が短絡されていると見なせるので、R2は、Rsとほぼ同等の値になる。したがって、2次側コイルにおいては、Rs≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足していれば、さらに好ましい。また、図35において、R1の値は不明ではあるが、1次側コイルにおいても、Rs≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足していれば、より好ましい。
【0153】
ただし、一般の変成器において、鎖交磁束Φc、漏洩磁束Φgと、結合係数kの関係は、k=Φc/(Φc+Φg)、1−k=Φg/(Φc+Φg)となっており、既知のとおり、鎖交磁束Φcが実効電力を伝達している。漏洩磁束Φgは、既知のとおり、リアクタンス性素子に印加されている電圧Vと、流れている電流Iの積である無効電力をもたらすものである。
【0154】
コイルにおいては、前記Iの位相は前記Vの位相よりも90度遅れているため、Vの瞬間値とIの瞬間値を掛けて、1周期積分すれば電力はゼロになるので、リアクタンス性素子であるコイルは電力を消費しない。この分野においては、漏洩磁束がエネルギー損失を起こすと明記し、鎖交磁束比率を上げるためにコイル形状を規定している文献が多数見られるが、上記したように、漏洩磁束は電力を消費しない。
【0155】
したがって、仮に実効抵抗Rwが無視できるほど小さければ、漏洩磁束の比率には関係なく、大電力を伝送できる。しかしながら、特許文献2に開示されているような構成のコイルでは、実効抵抗Rwは小さいものの、コイルの自己インダクタンスや結合係数が小さいので、力率が著しく小さい。このため、大きな皮相電力を1次コイルに供給しなければならなくなるので、電力伝送に適したコイルを実現するには、コイルの構成を定め、全てのパラメータを適切に設定し、なおかつ実効抵抗Rwを可能な限り小さくしなければならない。
【0156】
なお、本発明の空芯コイルを電力伝送に使用可能な周波数の上限は、前記、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rw、の規定により求めることができるが、前記空芯コイルを電力伝送に使用可能な周波数の下限は、空芯コイル単体に印加される電圧Vと、空芯コイル単体に流れる電流Iの位相差を、80度以上と規定することにより求められる。
【0157】
Rs>Rwを満足する周波数が低い空芯コイル1Aでは、5kHz以下まで、前記Vと前記Iの位相差が80度以上になっているが、Rs>Rwを満足する周波数が1MHzを超える空芯コイル1Gでは、20kHz以下になると、前記Vと前記Iの位相差が80度以下となる。このようにして、本発明における空芯コイルを、理論上の特性に近い周波数領域で使用することが可能となる。
【0158】
上述のごとく、この実施形態によれば、空芯コイル1aの導線11の線径とコイル外径と巻数とを規定することで、必要な自己インダクタンスと結合係数kを確保できる。また、空芯コイル1aの電流値Iaの上限、あるいは空芯コイル1aの実効抵抗Rwを決める巻数の上限を規定でき、負荷抵抗を接続したときのリアクタンスXと純抵抗Rの比、X/R、およびコイルに印加される交流電圧と交流電流の位相差φが極小、力率cosφが極大となり、かつ実効抵抗Rwが小さい周波数近辺で空芯コイル1aを使用することにより、電力伝送時の無効電力、皮相電力を低減することができる。さらに、実効電力効率を、例えば85%以上に高めることができる。
【0159】
図17は、図1に示した空芯コイルに用いられる他の導線の断面図である。図1では、単導線12として断面が円形のものを用いたが、図17(A)に示した例のように断面が楕円形の単導線12aに絶縁被覆13aを施したものや、図17(B)に示すように断面が多角形の単導線12bに絶縁被覆13bを施したものなどを用いることができる。この例においても、絶縁被覆13a,13bとしては、例えば、ホルマル線のように厚みが薄くても強い被覆や、ビニール線のように厚い被覆のいずれであってもよい。
【0160】
ただし、図17において、最大外径d1を示す線は、導線が巻回される面と平行になっていることが好ましい。これは、本発明の他の実施形態においても同様である。また、隣接している導線が密接している場合には、導線の接点が点になるように、巻回面に対して、断面の方向を決定するのが好ましい。
【0161】
図18は導線を断面傘型に巻回した空芯コイルの断面図である。図1に示した空芯コイル1aは、導線11を平板空芯単層渦巻き状に巻回したのに対して、図18に示した空芯コイル1bは、断面が傘型となるように空芯単層渦巻き状に形成したものである。
【0162】
この場合、図18の巻き線幅D1、内径D2とし、2×D1+D2が、導線の最大外形d1の25倍以上であることを条件としている。なお、2つの巻き線幅D1を示す線がなす角度θは、180度から90度の間に設定するのが好ましい。ただし、図18において、巻き線幅D1が内径D2の概ね1/4以下で、かつ短絡したコイルが対向したときに、前記、Rs>Rw、を満足している場合には、θがゼロに近いソレノイド形状とすることもできる。
【0163】
図19は図18に示した断面傘型に巻回した空芯コイル1bと、図1に示した断面平面型の空芯コイル1aの磁場強度を対比して説明するための図である。図1に示した空芯コイル1aは、図19(B)に示すように、平面位置における磁場強度が、中央部分が強くなって周辺に行くほど磁場強度が弱くなっている。これに対して、図19(A)では図18に示した断面傘型に巻回した空芯コイル1bの上下を反対にしたときの平面位置における磁場強度を示している。図19(A)に示すように、断面傘型に巻回した空芯コイル1bは、コイル面上の全面で、ほぼ均一の磁場強度を得ることができる。
【0164】
また、空芯コイル1bは断面が波線を描くように巻回してもよい。
【0165】
図20は、絶縁材上に導線を巻回したコイルの断面図である。この例は図1に示した空芯コイル1aを絶縁材5上に配置し、空芯コイル1aの単導線11上に絶縁性樹脂6を塗布したものである。この例では、絶縁性樹脂6が導線11間に入り込んで固定されるので、空芯コイル1aの変形を防止することができる。絶縁性樹脂6に代えて接着剤で空芯コイル1aを絶縁材5上に固定してもよい。このような構成とすることにより、熱抵抗θiを低減でき、コイルの発熱を抑えることができる。
【0166】
図21は、この発明の他の実施形態における電力伝送装置の空芯コイルを示す図であり、(A)は平面図を示し、(B)は(A)の線2B−2Bに沿う断面を拡大して示す。
【0167】
図21(B)に示した実施形態では、単導線12として最大径d1が0.2mm以上の単導線12に絶縁被覆13を施した導線11を平板空芯単層渦巻き状に巻回し、図21(B)に示すように、空芯コイル1cの隣接する各導線11間に空隙tを設けて疎巻きするようにしたものである。この例においても、絶縁被覆13としては、ホルマル線のように厚みが薄くても強い被覆や、ビニール線のように厚い被覆のいずれであってもよい。また、隣接する導線11間に空隙tを設けているので、絶縁被覆13を施していない裸導線を用いてもよい。
【0168】
この実施形態においても、空芯コイル1cは、コイル外径をDとしたとき、少なくともコイル外径Dが単導線12の最大径d1の25倍以上であり、かつ導線11の巻き数が8以上になるように構成される。さらに、空芯コイル1cの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上を満足することを条件としている。
【0169】
また、電力を伝送する周波数における、空芯コイル1c単体での実効抵抗をRw(Ω)、図21(A)に示した空芯コイル1cを2個対向させ、対向する一方のコイルを短絡したときの、他方のコイルの実効抵抗をRs(Ω)、としたときに、Rs>Rwを満足している。
【0170】
さらに、電力を伝送する周波数における、前記対向するコイルの一方を開放したときの他方のコイルの実効抵抗をRn(Ω)、としたときに、Rs>Rn≧Rw、を満足する。
【0171】
さらに、空芯コイル1cの熱抵抗をθi(℃/W)、空芯コイル1cの許容動作温度をTw(℃)、空芯コイル1cが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに空芯コイル1cに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足する。
【0172】
図1(B)に示すように、単導線を密接して巻いた場合には、導線を流れる電流により発生する磁束Φが、隣接する導線を貫き、隣接する導線内に渦電流を発生させるとともに、前記渦電流により、導線中を流れる電流が影響を受け、実効抵抗Rwが増加する。この実施形態では、空隙を設けることで、図21(B)に示すように、隣接する一方の導線を流れる電流により導線近傍に発生する磁束Φが、隣接する導線を貫かなくなり、隣接する導線を磁束Φが貫くことにより、隣接する導線内に発生する渦電流損を抑えることができる。
【0173】
渦電流損は周波数に比例して増加するので、隣接する導線間に空隙を設けることにより、周波数の上昇による実効抵抗Rwの増加を防止できる。なお、導線11の近傍の磁束Φは強く、導線11から少しでも離れると磁束Φは急激に弱くなるので、わずかな空隙でも効果があり、空隙の幅は任意の寸法に広げることができるが、余り広げすぎると、8回の巻線回数を確保できなくなる場合や、コイルの自己インダクタンスが2μH以下となる場合がある。
【0174】
図22は、図8に示した密接巻の空芯コイル1A単体の実効抵抗Rwと、図13に示した疎巻の空芯コイル1D単体のコイル実効抵抗Rwの周波数特性を比較した図である。図22に示すように、周波数が上昇したときに、疎巻の空芯コイル1Dの方が密接巻の空芯コイル1Aに比べて、コイルの実効抵抗Rwの増加を抑えることができる。また、同一外径のコイルでは、巻線の総延長が短くなるので、直流抵抗を低く抑えることができる。
【0175】
図23は、0.4mmのホルマル単導線を25ターン巻いた場合、空隙の幅により、コイルの実効抵抗の周波数特性が、どのように変化するかを示す図である。空隙の幅は、0、0.2mm、0.4mmに設けてあるが、広い空隙の方が、周波数の上昇に伴う実効抵抗の増加が抑制できるのが分かる。なお、ターン数を同一としているので、空隙の幅が広くなるほどコイル外径は大きくなっており、コイルを構成する銅線の総延長が長くなっているので、低い周波数では、実効抵抗は空隙を設けない方が低くなっている。
【0176】
ただし、渦電流損は、磁束が貫く導体体積に比例するので、単導線の最大径が0.2mm以上でないと、導線間に空隙tを設けても、周波数の上昇によるコイルの実効抵抗Rwの増加率はそれほど低下しない。図14の、線径0.2mmの単導線を密接巻きした空芯コイル単体の周波数と実効抵抗Rwの関係から見ても、線径0.2mmでは、周波数の上昇による実効抵抗の増加率は少なく、線径0.2mmの単導線では、空隙を設けても、実効抵抗Rwの周波数特性は余り改善できないのが分かる。
【0177】
図14において、線径0.2mmの単導線を密接巻きしたときの、5kHzでの実効抵抗Rwは、0.83Ω、1MHzでの実効抵抗は、2.56Ωとなっており、実効抵抗の増加率は、2.56/0.83=3.08で、後述する線径1mmの単導線を、空隙を設けて巻いた空芯コイル1Dの増加率、7.6よりも小さくなっている。ただし、線径0.2mmの空芯コイルでは、Rwの絶対値が大きくなり、熱抵抗θiが小さくなるので、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)の規定を満足するように、伝送する電力に適切な導線径を選択しないとならない。
【0178】
本実施形態の一例である空芯コイル1Dの特性を、図13を参照して説明する。空芯コイル1Dにおいては、直径1mmのホルマル線を使用しているが、5kHzから1MHzの間で、Rs>Rn≧Rwの条件を満足しているのが分かる。図8と比較すれば明らかなように、全く同一のホルマル銅線を使用しても、空隙を設けて巻くことにより、周波数の上昇による実効抵抗の増加率が著しく改善されているのが分かる。
【0179】
図からは読み取りにくいので、具体的な数値で示すと、5kHzのときの空芯コイル1AのRwは、約0.08Ω、空芯コイル1DのRwは、約0.05Ω、となっており、1MHzのときの空芯コイル1AのRwは、約3.8Ω、空芯コイル1DのRwは、約0.38Ω、となっている。周波数による増加率を見ると、空芯コイル1Aでは、3.8Ω/0.08Ω=47.5、空芯コイル1Dでは、0.38Ω/0.05Ω=7.6となっている。このように、空芯コイル1D単体の実効抵抗Rwの周波数特性は大きく改善されており、高い周波数でも実効抵抗Rwが低いので、空芯コイル1Dを使うと、高い周波数で電力が伝送可能となる。高い周波数の方が、対向させたコイル間の結合係数が高いことは、特許文献4を引用し、説明したとおりである。
【0180】
上記実施形態のコイルは、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Rs>Rn≧Rwを満足している周波数範囲も広いので、電力伝送特性がよい。
【0181】
上述のように、隣接する導線間に空隙を設けることにより、特許文献6の表1、特許文献7の図7と比べて、周波数の上昇に伴う実効直列抵抗の増加率を著しく改善することができる。線材を変えた特許文献6、特許文献7に対し、本発明の実施形態では同一の線材で前記のような性能改善を実現している。また、特許文献6、特許文献7には、インダクタンスの記載がないが、1MHzにおける、空芯コイル1D単体の自己インダクタンスは、約6.9μHで、リアクタンスXiは、約43Ω、実効抵抗Rwは、約0.38Ω、コイルのQは、Q=Xi/Rw=43/0.38=約115と非常に性能がよい。
【0182】
空芯コイルの高周波特性を改善したものとして、特許文献、特開2003−73883号公報があるが、前記特許文献の段落番号0022に記載されている構成の空芯コイルのQは、前記特許文献の図4を参照すると、1MHzにて13〜18程度となっており、構成は異なるものの、従来技術の空芯コイルに比べ、1MHzにおける空芯コイル1DのQは非常に高いうえ、前記特許文献の図3と比較すると、実効抵抗Rwも小さい。
【0183】
一方、1MHzにおける、空芯コイル1A単体の自己インダクタンスは、約23μHで、リアクタンスXiは、約145Ω、実効抵抗Rwは、約3.83Ω、コイルのQは、Q=Xi/Rw=145/3.83=約38で、空芯コイル1Dの高周波数での特性は空芯コイル1Aよりも著しく改善されており、空芯コイル1Aに比べ、インダクタンスは低下しているが、実効抵抗が低い空芯コイル1Dは、高周波数でも使用可能であることが分かる。しかし、特許文献6、特許文献7には、インダクタンス、Qのみならず、上述した、Rw、Rn、Rs、の関係も何ら規定しておらず、電力伝送に関する記載も見られない。
【0184】
図24は、この発明のさらに他の実施形態における電力伝送装置のコイルを示す図であり、(A)は平面図を示し、(B)は(A)の線3B−3Bに沿う断面を拡大して示す。
【0185】
この実施形態は、空芯コイル1dの外周部における隣接する導線11は密接して密巻きされ、内周部における隣接する導線11は空隙を有して疎巻きされて平板空芯単層渦巻き状に巻回されている。その結果、図24(B)に示すように、空芯コイル1dの外周部に設けられる隣接する導線間の空隙の幅t1は、空芯コイル1dの内周部に設けられる隣接する導線間の空隙の幅t2よりも狭くなっている。
【0186】
この実施形態においても、空芯コイル1dは、コイル外径をDとしたとき、少なくともコイル外径Dが単導線12の最大径d1の25倍以上であり、かつ導線11の巻き数が8以上になるように構成される。さらに、空芯コイル1dの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であることを条件としている。 また、電力を伝送する周波数における、空芯コイル1d単体での実効抵抗をRw(Ω)、図24に示した空芯コイル1dを2個対向させ、対向する一方のコイルを短絡したときの、他方のコイルの実効抵抗をRs(Ω)、としたときに、Rs>Rwを満足している。
【0187】
さらに、電力を伝送する周波数における、前記対向するコイルの一方を開放したときの他方のコイルの実効抵抗をRn(Ω)、としたときに、Rs>Rn≧Rw、を満足する。
【0188】
さらに、空芯コイル1dの熱抵抗をθi(℃/W)、空芯コイル1dの許容動作温度をTw(℃)、空芯コイル1dが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに空芯コイル1dに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足する。
【0189】
密巻された空芯コイルが生成する磁束密度は、外周部近辺では低く、内周部では高いため、外周部を蜜巻きし、内周部を疎巻きするように空芯コイル1dを構成することによって、できる限りコイル面上の磁束密度を一定にし、空芯コイル1dに対向しているコイルとの相対位置が変動したときの伝送可能電力の低下を軽減できる。内周部は磁束密度が高いので、空隙を設けることにより、渦電流損を防止できる。空隙の作用効果は前述したとおりである。
【0190】
上記実施形態のコイルは、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Rs>Rn≧Rwを満足している周波数範囲も広いので、電力伝送特性がよい。
【0191】
図25は、この発明のその他の実施形態における電力伝送装置のコイルに用いられる裸単導線の集合体を示す断面図である。前述の実施形態は、導線11として、単導線12に絶縁被覆13を施したものを用いたのに対して、この実施形態は、図25に示すように、最大径d2が0.3mm以下の裸単導線14の集合体を絶縁被覆13cで覆ったいわゆるビニール線と称される導線11cを用いる。裸単導線14は、撚らないほうが好ましい。
【0192】
裸単導線の集合体は、裸単導線の集合のみでは、撚らないと、その集合体が電線としての形状を保持できない。避雷針の接地線は鬼撚り線と呼ばれ、複数の裸単導線を単方向のピッチに撚らず、ランダムに撚って、実効抵抗を下げていることが知られている。
【0193】
また、複数の裸単導線14の集合体に強い撚りピッチを加えると、裸単導線14同士が密接し、図25の導体断面が、図1(B)の単導線12と同じになるので、表皮効果や渦電流損の影響を低減できなくなる。ただし、1mmの単導線を用いて形成した空芯コイル1Dを参照し、後述するが、コイルを形成する導線として裸単導線の集合体を使用し、導線間に空隙を設けて巻回する場合においては、適切な撚りを施した方が、高周波数での特性がよい場合もある。実際にビニール線を巻いて作成したコイルは、殆どの場合、1MHz以上の周波数帯域まで、Rs>Rn≧Rwの規定を満足する。
【0194】
巻回方法としては、図1に示したように、隣接する導線11を密着させて巻回する方法や、図21に示したように、隣接する導線11間に空隙を設けて巻回する方法を適用可能である。いずれも平板空芯単層渦巻き状に巻回することでコイルを形成できる。なお、導線11cを密接巻したとき、隣接する導線との間に絶縁被覆13cによる空隙を設けることができ、図21に示した実施形態と同様にして、空隙を設けることで、図21(B)に示すように、隣接する一方の導線を流れる電流により、導線近傍に発生する磁束Φが、隣接する導線を貫かなくなり、隣接する導線を磁束Φが貫くことにより、隣接する導線内に発生する渦電流損を抑えるとともに、前記渦電流により、導線中を流れる電流が影響されるのを防ぎ、実効抵抗の増加を低減できる。なお、表皮効果の影響も低減できる。
【0195】
上記実施形態のコイルは、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Rs>Rn≧Rwを満足している周波数範囲も広いので、電力伝送特性がよい。
【0196】
図26は、この発明のその他の実施形態におけるコイルを形成する導体内部に絶縁層を有する電力伝送装置のコイルを示す図であり、(A)は平面図を示し、(B)は(A)の線4B−4Bに沿う断面を拡大して示す。図27は、図26に示したコイルに用いられる導線の断面図である。
【0197】
この実施形態は、図27(B)に示す単導線15に、ポリウレタンなどの透明樹脂を絶縁被覆16として施した、例えば、図27(A)に示す断面構造を持つ導線8の集合体導線である11d(通称リッツ線とも称される)を、コイルを形成する導線として用いる。
【0198】
図27(A)に示す導線11dにおいて、導体15の断面積と、絶縁被覆16の断面積との比率は、導線径や導線内部の導体分割数などにより決まるので、一概にはいえないが、導線11dは、それぞれに絶縁被覆16が施された、例えば7本の単導線8の集合体で構成されている。単導線8は、絶縁被覆16を除く導体15の最大径をd4としたときに、d4が0.3mm以下であって、絶縁被覆の厚さαを(d4)/30以上に選ぶのが好ましい。また、絶縁被覆16以外の空気層も絶縁体層であるところから、図27(A)のように、導線8が7本含まれる最小の円を描き、その円に内接する正六角形を考え、前記正六角形の面積と、線径d4の導体15の7本の合計断面積を計算すると、導線断面中の絶縁体層の比率は、空気層も含め、約11%になる。
【0199】
空芯コイル1eは、図26(A)に示すように、絶縁性樹脂で形成されたボビン7に導線11dを図26(B)に示すように、多層密接巻きして構成される。空芯コイル1eは、コイル外径をDとしたとき、少なくともコイル外径Dがリッツ線11dの最大径d3の25倍以上であり、かつ導線11dの巻き数が8以上になるように構成される。さらに、空芯コイル1eの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上を満足することを条件としている。
【0200】
また、電力を伝送する周波数における、空芯コイル1e単体での実効抵抗をRw(Ω)、図26に示した空芯コイル1eを2個対向させ、対向する一方のコイルを短絡したときの、他方のコイルの実効抵抗をRs(Ω)、としたときに、Rs>Rwを満足している。
【0201】
さらに、電力を伝送する周波数における、前記対向するコイルの一方を開放したときの他方のコイルの実効抵抗をRn(Ω)、としたときに、Rs>Rn≧Rw、を満足する。
【0202】
さらに、空芯コイル1eの熱抵抗をθi(℃/W)、空芯コイル1eの許容動作温度をTw(℃)、空芯コイル1eが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに空芯コイル1eに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)を満足する。
【0203】
図26に示した実施形態は、図27(B)に示した単導線8からなる導線11dをボビン7に多層密接巻きしたが、これに限ることなく、図1に示した単層密接巻きや、図21に示した単層疎巻き、図24に示した外周部における隣接する導線は密接して密巻きし、内周部における隣接する導線は空隙を有して疎巻きしてもよい。
【0204】
上記実施形態のコイルは、広い周波数範囲で実効抵抗Rwが低く、Rs>Rn≧Rwを満足している周波数範囲も広いので、電力伝送特性がよい。
【0205】
また、本実施形態においては、特開2003−115368に記載のように、リッツ線を数本撚って1本の撚り線とし、さらに前記撚り線を数本まとめて撚り、太い電線としてもよい。特開2003−115368に記載のコイルは、電力伝送用のコイルではなく、誘導加熱調理器(いわゆる電磁調理器)のコイルに関するものであるが、段落番号、0021、0024に、「設計によって決められる」と記載され、試行錯誤を繰り返すことによるしかコイルの構成を決定できないことが明記されている。しかし、本発明によれば、前述したように、また後述するように、前記、Rw、Rn、Rs、の周波数特性を計測することにより、電力伝送に最適なコイルを選別し、実現することが可能となる。
【0206】
ここで、空芯コイル1F、空芯コイル1Gを参照し、Rs>Rn≧Rw、の規定に関する詳細な作用効果について説明する。
【0207】
リッツ線は、リッツ線を構成する各ホルマル線の自己インダクタンスLa,Lb…、を並列に接続した、図28のような等価回路を持つものと考えられる。リッツ線を、平板単層渦巻き状に空隙を設けて巻いても、空芯コイル単体の実効抵抗Rwの周波数特性は余り改善されず、逆に空芯コイル単体の自己インダクタンスが低下するところから、リッツ線は、各ホルマル線間、および導線間の相互インダクタンスにより、コイルとして形成したときの自己インダクタンスが変化するものと考えられる。すなわち、撚り方や撚りのピッチ、巻き方(密接巻き、疎巻き、多層巻き)、巻数、外形などにより、コイルとして形成したときの特性が変わってくる。
【0208】
図15に示した空芯コイル1Fと、図16に示した空芯コイル1Gに使われている導線は、どちらも同じ、導体外径が0.05mm、絶縁被覆の厚さが0.005mm、導線外径が0.06mmのホルマル線を75本束ねたリッツ線で、空芯コイル1Fは外形70mmに30回密接巻きされ、空芯コイル1Gは外形50mmに20回密接巻きされている。
【0209】
空芯コイル1Fと、空芯コイル1Gの、Rw、Rn、Rsの周波数特性を、図15、図16で比較すると、空芯コイル1Fでは、Rn>Rsとなる点が800kHz以上に存在するが、空芯コイル1Gでは、1MHzまで、Rs>Rn≧Rw、の条件を満足している。この原因が、撚り方や、撚りのピッチに関係しているのか、あるいは巻数や外形、巻き方に関係するものなのかは断定できないが、少なくともコイルのRw、Rn、Rsの周波数特性を測定すれば、該コイルが電力伝送装置用に適しているかどうかの判断ができる。その具体的な方法を以下に述べる。
【0210】
図29は、5.0kHzから1.0MHzの各周波数における、空芯コイル1B、空芯コイル1F、空芯コイル1Gの、単体インダクタンスLwと、短絡した同一の空芯コイルが距離ゼロで対向したときの、インダクタンスLsの値、および下記に示す計算法により近似的に求めた結合係数kiを記載した表である。この表の各kiが、図10、図11、図15、図16にプロットされたkiである。
【0211】
まず、コイルのインダクタンス変化から結合係数kiを近似的に求める方法を説明する。上述のように、図4のときのコイルの自己インダクタンスをLw(H)、図5のときの1次側コイルのインダクタンスをLn(H)、とすると、図4〜図5において、L1=Lw=Ln、の関係が成り立ち、図6のように、1次側コイルに対向している2次側コイルが短絡されているときの1次側のインダクタンス成分をLs(H)、とすると、Ls=(L1−AL2)、の関係が成り立つ。実効抵抗RwやRnとは異なり、実測上も、L1=Lw=Ln、となっている。L1、L2、A、については、前述したとおりである。
【0212】
1次側と2次側に同一のコイルを使った場合は、L1=L2、R1=R2なので、Ls=(Lw−ALw)の関係が成り立ち、50〜100kHz以上では、ωL2/R2、が50以上なので、A≒ki、とみなせる。したがって、ki=(Lw−Ls)/Lw、ki=√((Lw−Ls)/Lw)として近似的に結合係数kiが求められる。前述したとおり、このようにして、インダクタンスの変化、Lw、Ls、より求めた結合係数をkiと表記している。図15と図16にプロットされたkrとkiを比較すると、図16においては、krとkiが、ほぼ一致しているのが分かる。
【0213】
しかし、図15においては、krとkiの一致は見られない。さらに、比較例として、空芯コイル1Bにおいて、図10、図11に前記krと前記kiがプロットしてあるが、図11において、Rn>Rsとなる周波数を境に、krが急激に減少しているのが分かる。実際に、図16に示す空芯コイル1Gを2個使用した場合は、2MHzまで、Rs>Rn≧Rwを満足しており、4MHzまで、Rs>Rwを満足しているので、高い周波数、高い力率、高い実効電力効率で電力を伝送でき、電力伝送性能が非常によい。
【0214】
すなわち、高い周波数で、Rs>Rn≧Rwを満足し、高い周波数で、Rn/Rwの値が1に近いほど、コイルの性能はよく、周波数の上昇によるRwの増加も少ない。このように、周波数と、Rw、Rn、Rsの関係を見ることにより、あるいは、RwとRsより求めた結合係数krの周波数特性と、LwとLsより求めた結合係数kiの周波数特性を比較することにより、空芯コイル単体の実効抵抗の周波数特性だけでは判断できない、コイルを対向させた電力伝送手段である変成器としての性能を予測することが可能となる。
【0215】
したがって、空芯コイルを構成するリッツ線の適切な撚り方や撚りピッチ、巻き方は、複数のコイルを形成して、コイルのRw、Rn、Rsの周波数特性を測定し、好ましくはLw,Lsの周波数特性も測定して、krとkiの周波数特性を比較すれば、実際に電力伝送を行わずとも、最適な状態を見つけることが可能になる。この手法は、リッツ線に限らず、単銅線、ビニール線、その他後述する他の実施形態の電線にも適用でき、電力伝送に適したコイルを選ぶことができる。すなわち、線材、線径、寸法、形状、巻き方などを変えることにより、空芯コイル単体の実効抵抗の周波数特性だけでは判断できない、コイルを対向させた電力伝送手段である変成器としての性能を判断することが可能となり、従来の技術では実現できなかった電力伝送性能の良いコイルが提供できる。
【0216】
例えば、1mmの単導線を用い、空隙を設けて巻いた空芯コイル1Dは、3MHzまで、Rs>Rn≧Rw、を満足しており、6MHzまで、Rs>Rw、を満足しているので、空芯コイル1Gに比べ、Rs>Rn≧Rw、Rs>Rw、の規定に関しては余り差がない。しかし、4MHzにおける、空芯コイル1D単体のRwは、0.87Ω、空芯コイル1G単体のRwは、2.3Ω、10MHzにおける、空芯コイル1D単体のRwは、2.9Ω、空芯コイル1G単体のRwは、17Ω、となっており、空芯コイル1Dは、空芯コイル1Gよりもコイル単体の実効抵抗Rwの高周波特性がよくなっている。
【0217】
そのため、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)、の規定により、単導線にて形成した空芯コイル1Dは、リッツ線にて形成した空芯コイル1Gよりも高い周波数で使用可能となる。このように、本発明は、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rw、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)、の各規定により、従来の技術では実現できない空芯コイルを実現したうえで、該コイルを使用するのに最適な周波数領域を選べるという、優れた効果を奏するものである。
【0218】
図30〜図33は、この発明のその他の実施形態における電力伝送装置のコイルを構成する導線の構造を示す図である。
【0219】
図30は、パイプ状の導体17内に絶縁材料18が充填されており、パイプ内が空洞である場合に、パイプが折れて、曲げ加工ができなくなるのを防止している。なお、パイプの材質やパイプの肉厚により、パイプ自体が可撓性を持つ場合は、パイプ内が空洞であってもよい。
【0220】
図31は、絶縁材料19上に、分割して導体20を形成したものの一例を示す。
【0221】
図32は、絶縁材料21上に、分割して導体22を形成し、絶縁材料21の内部にも導体23を形成したものの一例を示す。
【0222】
図33は、箔状導体と絶縁材料を重ね、断面が螺旋状で、導体と絶縁体が交互に存在するように導線を形成したものである。すなわち、図33(A)に示すように箔状導体24と絶縁材料25とを積層し、図33(B)に示すように積層した箔状導体24と絶縁材料とを巻回し、図33(C)に示すように断面が螺旋状となる導線を形成したものである。
【0223】
なお、特許文献、特開平5−243049号公報には、図33(C)に類似した断面構造を持つコイルを形成する導線が記載されているが、前記特許文献には単に導線の表皮効果を低減する作用効果が記載されているのみであり、本発明の実施形態における絶縁材の作用効果については記載されていない。そのうえ、前記特許文献の段落番号0014には、絶縁材としては、SiO(酸化ケイ素)のような硬質物質を使用することが記載されているので、前記導線は、図33(C)の実施形態のように、可撓性を持たず、コイルを形成するのに必要な曲げ加工に適していない。
【0224】
また、同心円状に導体と絶縁体を交互に形成し、導線とするには、製造方法上の問題がある。前記特許文献に記載されている導線は、コアに巻かれることを前提としており、構成や製造方法の差異のみならず、導線の作用効果が本発明と異なるうえ、平板状に磁性材料を装備せずに導線を巻回し、コイルの構成や特性を規定した本発明に使用される導線とは異なるものである。
【0225】
図30〜図32は、導線を構成する単導線の周上に導体層が有るが、前記導体層に絶縁被覆を施しても、施さなくても、前記実施形態に適合するなら、いずれでもよい。
【0226】
上述のごとく、図30〜図32は、コイルを形成する導体内部に絶縁層を有する実施形態で、絶縁材料は導線内部に絶縁層を設けるとともに、導線に可撓性を持たせ、導線の曲げ加工を容易にするものである。
【0227】
また、図27(A)に示す単導線を束ねて形成した導線内に存在する空気層、図27(A)、図30〜図32に示す導線を多層巻きする場合において、コイル断面に存在する空気層も、絶縁材とみなせる。
【0228】
図27(A),図30〜図32の実施形態では、導線を構成する導体の表面積を増加させることができ、導体を貫通する磁束による渦電流損は、導体の体積に比例して増加するため、導線内の導体を貫く磁束経路に存在する導体体積を減少させることができるので、表皮効果および渦電流損による実効抵抗Rwの増加を防止できる。
【0229】
図27(A),図30〜図32の実施形態は、導線を構成する導体を分割し、導線内部に絶縁層を設ける一例に過ぎず、その他の実施形態が存在することは言うまでもない。
【0230】
上述の各コイルは、1次側コイルと2次側コイルが分離可能な電力装置における送電コイルや受電コイルのみならず、2つのコイルが分離不能な変圧器(変成器)として使用することも可能である。
【0231】
上述した各実施形態に示す空芯コイルは、各実施形態のものを1次側コイル、2次側コイルとして同一の空芯コイルを使用する必要はなく、例えば図1の実施形態に示す空芯コイル1aであっても、巻数や外形が異なる空芯コイルを、1次側コイル、2次側コイルとして用いてもよく、あるいは、図1の実施形態の空芯コイル1aと、図21の実施形態の空芯コイル1cを組み合わせることもできる。前記のような構成とすることにより、特許文献4の段落番号0003に記載の、巻線比が1:1しか実現できないという課題を解決でき、巻線比を任意に設定可能な、空芯コイルを使った電力伝送手段が実現できる。
【0232】
このような場合、Rwは、各空芯コイル単体で計測し、Rn、Rsは、両コイルを対向させ、各コイルにおいて計測し、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rw、の条件を満足するかを確認すればよく、1次側、2次側の各コイルにて、Rw、Rn、Rs、の周波数特性を見ることにより、両コイルを組み合わせたときの電力伝送性能が予測できることは、上述したとおりである。
【0233】
あるいは、異なる数種のコイルを作成し、各コイルにおいて、同一のコイルを対向させ、Rw、Rn、Rsの周波数特性を計測した後に、特性の良いコイルを組み合わせて使ってもよく、組合せ後に、1次側コイル、2次側コイルにおいて、Rw、Rn、Rsの周波数特性を計測すれば、より好ましい。
【0234】
次に、コイルの巻回数、8回につき説明しておく。特許文献2に記載のコイルは5回の巻回数で、1MHzにおける、前記コイルのLwは、0.79μH、Lsは、0.45μH、Lw、Lsから近似的に計算した結合係数kiは、0.66となる。また、前記コイルが、Rw>Rn≧Rw、を満足する周波数は、2MHzとなっている。前記コイルと同じ導線を使って同形状に8回巻回したコイルは、Lwが、約2.1μH、Lsが、約0.7μH、近似的に計算した結合係数kiは、約0.83となっている。
【0235】
特許文献2に記載の導線を8回巻回したコイルは、前述したように、実際には実効抵抗が過小なうえ、Rwの周波数特性も悪く、かつ十分なリアクタンスを確保できる高周波数領域で、Rs>Rw、を満足していないために、導線の適切な撚り方および巻き方を選ばないと使用できないが、高周波領域で使用する最低のインダクタンスと結合係数が確保できるので、上記の実測結果から最低限8回の巻回数を規定している。
【0236】
上述したように、コイルの構成によりインダクタンスや結合係数が変化するので、従来の技術では、実際に電力伝送を行わないと性能の判断ができないが、本発明は、コイルの実効抵抗、Rw、Rs、Rn、の周波数特性を見ることにより、電力伝送性能の判断ができ、電力伝送性能のよいコイルが実現できるという、優れた効果を奏するものである。
【0237】
また、1次側コイルと、2次側コイルとを電磁的に結合させ、少なくとも一方のコイルの直流抵抗をRdとし、そのコイルの1MHzにおける実効直列抵抗をRfとしたときにRf<Rd×25を満足する空芯コイルを実現してもよい。
【0238】
前述したように、コイル単体ではなく、コイルを対向させた電力伝送手段である変成器としての性能を厳密に判断するには、前記Rw、Rs、Rn、の周波数特性を計測する必要があるが、多数のコイルを2個以上製作し、前記Rw、Rs、Rn、の周波数特性を計測するのには、かなりの工数がかかるため、簡便に判断するには、コイル単体で、前記、Rf<Rd×25、の規定を満足する空芯コイルであってもよい。
【0239】
同一の線材で構成された空芯コイル1Aと空芯コイル1Dにおいて、Rs>Rw、の条件を満足する周波数は、空芯コイル1Aが70KHz、空芯コイル1Dが1MHz以上となっており、前記、Rf<Rd×25、の規定は、空芯コイル1Aと空芯コイル1Dの、直流抵抗Rd(5kHzの実効抵抗Rwとほぼ同一値)と1MHzの実効抵抗Rfの比、Rf/Rdから導いている。前述したように、Rf/Rdの値は、空芯コイル1Aでは約48、空芯コイル1Dでは約8となっており、両数値の単純平均値は、(48+8)/2=28、相乗平均値は、√(48×8)=19となり、さらに、28と19の単純平均値と相乗平均値を求め、これを繰り返すと、単純平均値と相乗平均値は、どちらも幾何平均値、23.6に収束する。Rf<Rd×25、の規定にある数値25は、前記の幾何平均値、23.6を基準としたものである。
【0240】
Rf<Rd×25、の規定を満足するコイルを使用する場合は、コイルの構成は上述した実施形態に限定されず、電力を伝送する周波数は、Rs>Rw、Rs>Rn≧Rw、Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)のいずれかの規定により決めることができる。
【0241】
なお、空芯コイルに、磁束遮蔽を目的として、磁性材板や金属板を近接させることがあるが、そのような場合は、通常、磁性材板や金属板の近接が、空芯コイルの電力伝送性能を劣化させる。例えば、図20、図21の実施形態や、図27(A)の導線を平板空芯単層渦巻き状に巻回したコイルの対向面の反対側に、磁性材料板や、金属板を設置した場合などである。あるいは、図26の実施形態において、ボビン状の内径空洞内に、透磁率の低い磁性材料を装備するか、空洞に円筒状の金属リングを装備する場合などである。さらに、図21の実施形態において、コイル外径Dの5分の1程度以下の幅を持った金属板を2枚十字にして絶縁材にコイルを固定する場合などである。
【0242】
このような場合などでも、ある周波数範囲で、Rs>Rw、または、Rs>Rn≧Rw、の条件を満足する場合があるが、これらの構成で、磁性材、金属板等は本発明の空芯コイル本体の性能を左右するものではなく、コイルは実質的に空芯と見なされる。
【0243】
本発明の空芯コイルは、電力伝送性能が高く、コイルが生成する磁場強度が高いので、例えば特許文献3の段落番号0008に記載されているように、機器の電子部品を磁場から遮蔽するために、コイルの対向面の反対側に、磁性材や金属板などを装備した場合、その目的は、本発明の空芯コイルの電力伝送性能を改善するものではなく、単に磁気遮蔽材として装備しているに過ぎない。
【0244】
このような場合は、1個の構成からなる発明ではなく、本発明を元にし、別の作用効果を意図しているものである。すなわち、本発明における空芯コイルの特性や性能の改善(例えばインダクタンスを高くしても、実効抵抗Rwが増加すれば性能改善にはならず、上述した本発明の空芯コイルの特性のうち、1つでも劣化すれば改善にはならない)を目的とせずに、磁性材料や金属材料が本発明の空芯コイルに近接しているときなどは、本発明の空芯コイルの電力伝送性能自体は、本発明の空芯コイルの構成や作用効果と異なるものではなく、コイルは空芯と見なせ、本発明の範囲に包含される。
【0245】
本発明において、導線を形成する導体の材質は特に限定されないが、本実施形態にて述べている各空芯コイルは、全て前記導体に銅を用いている。本発明においては、導体として比抵抗が小さい銅を使うのが好ましいが、比抵抗が小さい他の金属、あるいは合金を導体として使うこともできる。
【0246】
なお、上記に述べてきた電力伝送装置の空芯コイルを、送電部あるいは受電部の少なくとも一方に装備した電力伝送装置が実現できるのは言うまでもない。
【0247】
また、上記に説明した各空芯コイルの実効抵抗やインダクタンスの測定には、1MHzまでは、アジレント社のLCRメータ、4284A、1〜10MHzの測定には、ヒューレットパッカード社のLCRメータ、4275Aを使用した。なお、1〜10MHzの計測は、1、2、4、10MHzの各点でしか計測できないので、例えば、4MHzにて、Rs>Rwを満足し、10MHzにて、Rs>Rwを満足しない場合は、補間により、Rs=Rwとなる周波数を推定している。
【0248】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0249】
この発明の電力伝送装置の空芯コイルは、送電部から受電部に電力を伝送するのに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0250】
【図1】この発明の一実施形態における電力伝送装置の空芯コイルを示す図である。
【図2】図1に示したコイルの外形形状の変形例を示す図である。
【図3】変成器の入力インピーダンスを求める等価回路である。
【図4】この発明の一実施形態における電力伝送装置の空芯コイルにおけるコイル単体の等価回路を示す図である。
【図5】従来例で説明した図34のように構成された電力伝送装置の変成器部分の等価回路を表す図である。
【図6】2次側コイルを短絡したときの変成器の等価回路を表す図である。
【図7】2次側コイルに負荷抵抗RLが接続されたときの変成器の等価回路を表す図である。
【図8】線径1mmのホルマル線を、外径70mmで25ターン密接巻きした空芯コイル1Aの、Rw、Rn、Rsと周波数の関係を示す図である。
【図9】図8の5kHzから200kHzの周波数におけるRw、Rn、Rsの値を取り出してY軸のスケールを変えた図である。
【図10】線径0.6mmのホルマル線を、外径70mmで40ターン密接巻きした空芯コイル1Bの、Rw、Rn、Rs、kr、kiと周波数の関係を示す図である。
【図11】図10の5kHzから200kHzの周波数におけるRw、Rn、Rs、kr、kiの値を取り出してY軸のスケールを変えた図である。
【図12】線径0.3mmのホルマル線を、直径70mmで70ターン密接巻きした空芯コイル1Cの、Rw、Rn、Rsと周波数の関係を示す図である。
【図13】線径1mmのホルマル線を、外径70mmに空隙を設けて14ターン巻いた空芯コイル1Dの、Rw、Rn、Rs、krと周波数の関係を示す図である。
【図14】0.2mm、0.4mm、0.8mm、1mmのホルマル線を平板状に25回巻いたコイルの周波数と、各コイルの実効抵抗Rwの関係を示す図である。
【図15】線径0.06mmのホルマル線を75本束ねたリッツ線を、外径70mmで30ターン密接巻きした空芯コイル1Fの、Rw、Rn、Rs、kr、kiと周波数の関係を示す図である。
【図16】線径0.06mmのホルマル線を75本束ねたリッツ線を、外径50mmで20ターン密接巻きした空芯コイル1GのRw、Rn、Rs、kr、kiと周波数の関係を表す図である。
【図17】図1に示した空芯コイルに用いられる導線の他の例を示す断面図である。
【図18】導線を断面傘型に巻回した空芯コイルの断面図である。
【図19】図18のコイルと図1のコイルの水平位置と磁場強度を表す図である。
【図20】絶縁材上に導線を巻回した空芯コイルの断面図である。
【図21】この発明の他の実施形態における電力伝送装置の空芯コイルを示す図である。
【図22】図8に示した密接巻の空芯コイル1Aと、図13に示した疎巻の空芯コイル1Dとのコイル実効抵抗Rwが増加する状態を比較して示した図である。
【図23】線径0.4mmのホルマル線を、0、0.2mm、0.4mmの空隙幅を設けて25ターン巻いた各空芯コイルのRwと周波数の関係を示す図である。
【図24】この発明のさらに他の実施形態における電力伝送装置の空芯コイルを示す図である。
【図25】この発明のさらに他の実施形態における電力伝送装置の空芯コイルに用いられる導線の一例である裸単銅線の集合体の断面図である。
【図26】この発明のさらに他の実施形態における電力伝送装置の空芯コイルを示す図である。
【図27】図26に示した空芯コイルに用いられる導線であるリッツ線の断面の一例を示す図である。
【図28】リッツ線の等価回路図である。
【図29】空芯コイル1B、空芯コイル1F、空芯コイル1Gの、各周波数における、Lw、Ls、kiを示す表である。
【図30】パイプ状の導体内に絶縁材料が充填されている導体の断面図である。
【図31】絶縁材料上に、分割して導体を形成した導線の断面図である。
【図32】絶縁材料上に、分割して導体を形成し、絶縁体内部にも導体を形成した導線の断面図である。
【図33】箔状導体と絶縁材料を重ね、断面が螺旋状で、導体と絶縁体が交互に存在するように形成した導線の断面図である。
【図34】1次側コイルと2次側コイルが分離可能な電力伝送装置の概略ブロック図である。
【図35】図34に示した1次側コイルと2次側コイルが分離可能な電力伝送装置の等価回路図である。
【図36】平板渦巻き状に同一回数巻いた空芯コイルの線径とインダクタンスの関係を表す図である。
【符号の説明】
【0251】
1,1a,1b,1c,1d,1e,2 空芯コイル、3 送電回路、4 受電回路、5 絶縁材、6 絶縁性樹脂、7 ボビン、8 リッツ線、11,11a,11b,11c,11d 導線、12,12a,12b 単導線、13,13a,13b,13c,16 絶縁被覆、14 裸単導線、15,17,20,22,23,25 導体、18,19,21,24 絶縁材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個のコイルを電磁的に結合させて電力を伝送する電力伝送装置の空芯コイルであって、
前記2個のコイルのうちの少なくとも一方のコイルの直流抵抗をRd(Ω)とし、
前記少なくとも一方のコイルの1MHzにおける実効直列抵抗をRf(Ω)、としたときに、
Rf<Rd×25
を満足する、電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項2】
送電部のコイルと、受電部のコイルとを対向させて、前記送電部から前記受電部に電力を伝送する電力伝送装置において、
前記対向するコイルの内、少なくとも一方のコイルを形成する導線が単導線で、
前記少なくとも一方のコイルは、前記単導線を単層渦巻き状に巻回してあり、
前記単導線の導体単体の最大径をd1、前記少なくとも一方のコイル外径をDとしたとき、
前記少なくとも一方のコイル外径Dが前記最大径d1の少なくとも25倍以上であり、
かつ前記導線の巻き数が所定巻数以上であり、
前記少なくとも一方のコイルの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であって、
伝送する交流電力の周波数における、前記少なくとも一方のコイル単体の複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRw(Ω)、
伝送する交流電力の周波数における、前記少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、前記少なくとも一方のコイルの複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRs(Ω)、としたときに、
Rs>Rw、
を満足する、電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項3】
さらに、前記電力を伝送する周波数における、前記少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、前記少なくとも一方のコイルの複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRn(Ω)、としたときに、
Rs>Rn≧Rw
を満足する、請求項2に記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項4】
さらに、前記少なくとも一方のコイルの熱抵抗をθi(℃/W)、
前記少なくとも一方のコイルの許容動作温度をTw(℃)、
前記少なくとも一方のコイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、
電力を伝送しているときに、前記少なくとも一方のコイルに流れる交流電流をIa(A)、
としたときに、
Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)、
を満足する、請求項2または請求項3に記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項5】
前記導線には絶縁被覆が施されていて、前記少なくとも一方のコイルの隣接する各単導線を密接させた、請求項2から4のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項6】
前記単導線の前記最大径d1が0.2mm以上のときに、前記少なくとも一方のコイルの隣接する各導線間に空隙を設けた、請求項2から4のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項7】
送電部のコイルと、受電部のコイルとを対向させて、前記送電部から前記受電部に電力を伝送する電力伝送装置において、
前記対向するコイルの内、少なくとも一方のコイルを形成する導線は、それぞれの最大径が0.3mm以下に選んだ複数の裸単導線の集合体に絶縁被覆を施した導線を単層渦巻き状に巻回して構成され、
複数の裸単導線の集合体の最大径をd2、コイル外径をDとしたとき、
前記少なくとも一方のコイル外径Dが前記最大径d2の少なくとも25倍以上であり、
かつ前記導線の巻き数が所定巻数以上であり、
前記少なくとも一方のコイルの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であって、
伝送する交流電力の周波数における、前記少なくとも一方のコイル単体の複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRw(Ω)、
伝送する交流電力の周波数における、前記少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、前記少なくとも一方のコイルの複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRs(Ω)、としたときに、
Rs>Rw、を満足する、電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項8】
さらに、前記電力を伝送する周波数における、前記少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、前記少なくとも一方のコイルの複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRn(Ω)、としたときに、
Rs>Rn≧Rw
を満足する、請求項7に記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項9】
さらに、前記少なくとも一方のコイルの熱抵抗をθi(℃/W)、
前記少なくとも一方のコイルの許容動作温度をTw(℃)、
前記少なくとも一方のコイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、
電力を伝送しているときに、前記少なくとも一方のコイルに流れる交流電流をIa(A)、
としたときに、
Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)、
を満足する、請求項7または8に記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項10】
前記少なくとも一方のコイルの隣接する各導線の導体間に空隙を設けた、請求項7から9のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項11】
送電部のコイルと、受電部のコイルとを対向させて、前記送電部から前記受電部に電力を伝送する電力伝送装置において、
前記対向するコイルの内、少なくとも一方のコイルを形成する導線には、前記導線内部に絶縁体層が設けられ、前記絶縁体層の断面積が導線全体の断面積の11%以上であって、
前記少なくとも一方のコイルは、前記絶縁体層が設けられた導線を単層渦巻き状に密接して巻回してあるか、または多層密接巻きしてあり、
前記絶縁体層が設けられた導線の最大径をd3、少なくとも一方のコイル外径をDとしたとき、
前記少なくとも一方のコイル外径Dが前記最大径d3の少なくとも25倍以上であり、かつ導線の巻き数が所定巻数以上であり、前記少なくとも一方のコイルの自己インダクタンスが少なくとも2μH以上であって、
伝送する交流電力の周波数における、前記少なくとも一方のコイル単体の複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRw(Ω)、
伝送する交流電力の周波数における、前記少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを短絡したときの、前記少なくとも一方のコイルの複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRs(Ω)、としたときに、
Rs>Rw、を満足する、電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項12】
さらに、前記電力を伝送する周波数における、前記少なくとも一方のコイルに対向する他方のコイルを開放したときの、前記少なくとも一方のコイルの複素インピーダンスの純抵抗成分、実効直列抵抗である実数成分をRn(Ω)、としたときに、
Rs>Rn≧Rw
を満足する、請求項11に記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項13】
さらに、前記少なくとも一方のコイルの熱抵抗をθi(℃/W)、
前記少なくとも一方のコイルの許容動作温度をTw(℃)、
前記少なくとも一方のコイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、
電力を伝送しているときに、前記少なくとも一方のコイルに流れる交流電流をIa(A)、
としたときに、
Rw≦(Tw−Ta)/(Ia×θi)、
を満足する、請求項11または12に記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項14】
前記導線は、それぞれに絶縁被覆が施された複数の単導線の集合体で構成され、かつ、前記単導線は、前記絶縁被覆を除く導体の最大径をd4としたときに、d4が0.3mm以下であって、前記絶縁被覆の厚さtが(d4)/30以上に選ばれている、請求項11から13のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項15】
前記少なくとも一方のコイルは、前記少なくとも一方のコイルの外周部における隣接する導線間に設ける空隙の幅が内周部における隣接する導線間に設ける空隙の幅よりも狭いか、外周部における隣接する導線は密接しており、内周部における隣接する導線間に空隙を設けた、請求項1,2,3,4,6,7,8,9,11,12,13のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項16】
請求項1,2,3,4,7,8,9,11,12,13に記載のコイルを、送電コイルおよび受電コイルに使用し、両コイルを分離不能とした、電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項17】
前記少なくとも一方のコイルが絶縁性樹脂内に固定される、請求項1,2,3,4,7,8,9,11,12,13,16のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項18】
前記少なくとも一方のコイルは絶縁材に沿って巻回される、請求項1,2,3,4,7,8,9,11,12,13,16のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項19】
前記少なくとも一方のコイルは絶縁材に沿って巻回され、前記少なくとも一方のコイルが絶縁性樹脂または接着剤により前記絶縁材に固定される、請求項1,2,3,4,7,8,9,11,12,13,16のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイル。
【請求項20】
送電部または受電部の少なくとも一方に、請求項1,2,3,4,7,8,9,11,12,13,16のいずれかに記載の電力伝送装置の空芯コイルを装備した電力伝送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2007−324532(P2007−324532A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156216(P2006−156216)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(505340227)メレアグロス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】