説明

電力変換器

【課題】各電力用半導体素子の寿命を均一にさせる電力変換器を得ること。
【解決手段】
電力変換器1は並列接続されると共に、出力電流を流し得る複数の電力用半導体素子11nと、出力電流指令値に基づく電力用半導体素子11nの動作により所望の出力電流を発生させる制御部20と、出力電流指令値に基づいて電力用半導体素子11nを選択して電流を流す選択部21,22と、を備え、選択部21,22は、電力用半導体素子11nを選択する際の優先度を決定するため、電力用半導体素子11nのストレス値を温度上昇に基づいて求め、ストレス値が均一になるように選択する、ものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電力変換器は下記特許文献1に示すように、並列接続され、それぞれが駆動信号によってオン・オフされる複数の電力用半導体素子と、各電力用半導体素子に対する駆動信号を生成する信号生成回路とを備え、各駆動信号は異なるタイミングで各電力用半導体素子をオン・オフするものである。
かかる電力変換器によれば、各電力用半導体素子のゲート駆動回路に入力される駆動信号が異なるタイミングで各電力用半導体素子をオン・オフするようにしているため、電流アンバランスに起因する熱集中が緩和されると共に、電力用半導体素子の長寿命化、熱集中に伴う半導体素子の破壊を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−17727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電力変換器では、電力用半導体素子のスイッチング時において、各電力用半導体素子間に電流アンバランスを均衡することを主としている。
しかしながら、電力変換器は多数の電力用半導体素子を有しており、電力用半導体素子の定常状態において、電力用半導体素子の特性差により電流が流れ易い電力用半導体素子と、電流が流れにくい電力用半導体素子が存在し、電流が流れ易い電力用半導体素子が固定されているため、特定の電力用半導体素子の寿命が短くなったり、長くなったりして各電力用半導体素子間において寿命の違いが生じていた。このため、電力変換器の保守周期が短くなっていた。
さらに、一つのモジュールの中に多数の電力用半導体素子を有していると、一つの電力用半導体素子の寿命により、他の電力用半導体素子の寿命がまだ充分あるにも拘わらず、一つのモジュールそのものを交換しなければならず、非効率であるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、電力変換器を成す複数の各電力用半導体素子の累積ストレス値に基づいて各電力用半導体素子の寿命を均一にさせる電力変換器を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電力変換器は、並列接続されると共に、出力電流を流し得る複数の電力用半導体素子と、該出力電流指令値に基づく前記電力用半導体素子の動作により所望の前記出力電流を発生させる制御手段と、前記出力電流指令値に基づいて前記電力用半導体素子を選択して電流を流す選択手段と、を備え、前記選択手段は、前記電力用半導体素子を選択する際の優先度を決定するため、前記電力用半導体素子のストレス値を温度上昇に基づいて求め、前記ストレス値が均一になるように前記電力用半導体素子を選択する、ことを特徴とするものである。
かかる電力変換器によれば、制御手段が出力電流指令値を生成し、該出力電流指令値に基づいて電力用半導体素子から所望の出力電流を発生し、選択手段が電力用半導体素子を選択する際の優先度を決定するため、電力用半導体素子のストレス値を電力用半導体素子の温度上昇に基づいて求め、前記ストレス値が均一になるように電力用半導体素子を選択する。
これにより、各電力用半導体素子のストレス値を均一化し得るので、電力変換器を成す電力用半導体素子の寿命を均一化できる。
【0007】
本発明の電力変換器は、電力用半導体素子の温度上昇を検知する温度検知手段を備え、ストレス値は、重み関数に基づいて定める、ことが好ましい。
したがって、各電力用半導体素子のストレス値を重み関数に基づいて求めることにより、電力変換器を成す電力用半導体素子の寿命をより均一化できる。
【0008】
本発明の電力変換器は、電力用半導体素子の出力電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段の検出値が閾値以上となった場合に異常信号を発生する過電流検出手段と、電力用半導体素子の並列数に基づいて閾値を可変とする可変閾値手段と、を備えることが好ましい。
これにより、電力用半導体素子の並列数に応じて電力用半導体素子に流れる過電流から適切に保護できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電力変換器によれば、電力変換器を成す複数の各電力用半導体素子の累積ストレス値に基づいて各電力用半導体素子の寿命を均一にさせる電力変換器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態を示す電力変換器の全体構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態による電力変換器の第1の半導体素子群を含む回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本発明の一実施の形態を図1及び図2によって説明する。図1は本発明の一実施の形態を示す電力変換器の全体構成図、図2は本発明の一実施の形態による電力変換器の第1の半導体素子群を含む回路図である。
図1において、電力変換器1は、母線の一方に接続された第1の電力用半導体素子群11と、第1の電力用半導体素子群11に一方が接続されると共に、他方が母線に接続された第2の電力用半導体素子群12とを有している。さらに、電力変換器1は制御部20を有しており、制御部20は、電力変換器1の出力電流指令値を生成して第1の選択部21を介して第1の電力用半導体素子群11をオン・オフするように形成し、第2の選択部22を介して第2の電力用半導体素子群12をオン・オフするように形成されている。また、第1の選択部21、第2の選択部22は、電力用半導体素子を選択して動作させる際の優先度を決定するため、電力用半導体素子のストレス値を温度上昇に基づいて定める第1のストレス演算部21S、第2のストレス演算部22をそれぞれ有している。
【0012】
図1において、電力変換器1は、電力用半導体素子群11,12の出力電流を検出する電流検出手器30と、電流検出器30の検出電流値が閾値以上となった場合に異常信号を発生する過電流検出部40と、を備えている。過電流検出部40には、電力用半導体素子群11,12における電力用半導体素子の並列数に基づいて閾値設定部50を介して閾値を可変とする可変閾値設定部43を有している。
【0013】
図2において、電力用半導体素子群11は、多数の電力用半導体素子11a,11b・・・11nが並列接続されており、各電力用半導体素子11a,11b・・・11nの温度をそれぞれ検知する温度検出器60a,60b・・・60nを有しており、温度検出器60a,60b・・・60nの温度検出値が第1のストレス演算部21aに入力されている。
なお、第2の電力用半導体素子群12は、第1の電力用半導体素子群11と同様に形成されており、各電力用半導体素子の温度をそれぞれ検知する温度検出器を有しており、温度検出部の温度検出値が第2のストレス演算部22aに入力されている。
【0014】
第1のストレス演算部21aは、各電力用半導体素子11a,11b・・・11nの温度上昇ΔTiがL回発生した時の累積ストレス値Sは、下記となる。
S=Σ1/Li (i=1,2,3,・・・)
また、上記Lは下記である。
L=A×ΔTi−B
ここに、A,B:電力用半導体素子により定まる定数
上記累積ストレス値Sを各電力用半導体素子11a,11b・・・11n毎に求めて記憶する。第1の選択部21は、各々の累積ストレス値Sを確認しながら、最も累積ストレス値Sの低い電力用半導体素子11a,11b・・・11nを選択して動作することにより、各電力用半導体素子11a,11b・・・11nの累積ストレス値を均一化している。
なお、第2のストレス演算部22aは第1のストレス演算部21aと同様に形成される。
【0015】
上記のように構成された電力変換器の動作を図1及び図2を参照して説明する。まず、作業者は電力用半導体素子11a,11b・・・11nの数に応じて閾値設定部50から閾値を入力して可変閾値部43に閾値を設定する。制御部20は生成した出力電流指令値を第1の選択部21,第2の選択部22を介して第1及び第2の半導体素子群11,12をオン・オフ動作して電流を制御しながら負荷(図示せず)に供給する。
【0016】
第1のストレス演算部21sは、温度検出器60a,60b・・・60nからの温度検出値から温度上昇ΔTiを求め、各電力用半導体素子11a,11b・・・11nの累積ストレス値Sを求めて記憶する。
第1の選択部21は、各々の累積ストレス値Sを確認しながら、出力電流指令値に基づいて累積ストレス値Sの低い電力用半導体素子11a,11b・・・11nを動作する。
【0017】
電力半導体素子11a・・11nは、自己消弧型のIGBT、MOSFET等が適用できる。ここで、これらの半導体素子と並列接続されたフライホイル用のダイオードにシリコン(Si)を母材に用いると、順電圧の温度特性が負であるため、並列接続した場合、IGBT、MOSFETと比較して電流のアンバランスが生じ易い。これを解決するのに、シリコンカーバイト(SiC)を母材にしたダイオードにすることが好ましい。これにより、SiCを母材にしたダイオードでは、順電圧の温度特性が正であるため、Siを母材にしたダイオードよりも電流アンバランスが発生しにくく、各ダイオード間の寿命差も小さくなる。
また、自己消弧型の電力半導体素子11a・・11nは、母材としてシリコンカーバイト(SiC)を用いることにより、損失が低減して寿命が延びる。
【0018】
上記のように構成された電力変換器1は、並列接続されると共に、出力電流を流し得る複数の電力用半導体素子11a,11b・・11nと、該出力電流指令値に基づいて電力用半導体素子11a,11b・・11nから所望の出力電流を発生させる制御部20と、出力電流指令値に基づいて電力用半導体素子11a,11b・・11nを選択して電流を流す第1,第2の選択部21,22と、を備え、第1,第2の選択部21,22は、電力用半導体素子11a,11b・・11nを選択する際の優先度を決定するため、電力用半導体素子11a,11b・・11nのストレス値を温度上昇に基づいて求め、ストレス値が均一になるように電力用半導体素子11a,11b・・11nを選択する、ものである。
【0019】
かかる電力変換器1によれば、制御部20が出力電流指令値を生成し、該出力電流指令値に基づいて電力用半導体素子11a,11b・・11nから所望の出力電流を発生し、選択部21が電力用半導体素子11a,11b・・11nを選択する際の優先度を決定するため、第1のストレス演算部21Sが電力用半導体素子11a,11b・・11nのストレス値を電力用半導体素子11a,11b・・11nの温度上昇に基づいて求め、ストレス値が均一になるように電力用半導体素子11a,11b・・11nを選択する。
これにより、各電力用半導体素子11a,11b・・11nのストレス値を均一化し得るので、電力変換器1を成す電力用半導体素子11a,11b・・11nの寿命を均一化できる。
【0020】
電力変換器1は、電力用半導体素子11a,11b・・11nの温度上昇を検知する温度検知器60a,60b・・・60nを備え、ストレス値は、重み関数に基づいて定める、ことが好ましい。
したがって、各電力用半導体素子11a,11b・・11nのストレス値を重み関数に基づいて求めることにより、電力変換器1を成す電力用半導体素子11a,11b・・11nの寿命をより均一化できる。
【0021】
電力変換器1は、電力用半導体素子の出力電流を検出する電流検出器30と、電流検出器30の検出値が閾値以上となった場合に異常信号を発生する過電流検出部40と、電力用半導体素子11a,11b・・11nの並列数に基づいて閾値を可変とする可変閾値部43と、を備えることが好ましい。
これにより、電力用半導体素子11a,11b・・11nの並列数に応じて電力用半導体素子11a,11b・・11nに流れる過電流から適切に保護できる。
【符号の説明】
【0022】
1 電力変換器、11 第1の半導体素子群、12 第2の半導体素子群、20 制御部、21 第1の選択部、21S 第1のストレス演算部、22 第2の選択部、22S 第2のストレス演算部、30 電流検出器、40 過電流検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続されると共に、出力電流を流し得る複数の電力用半導体素子と、
該出力電流指令値に基づく前記電力用半導体素子の動作により所望の前記出力電流を発生させる制御手段と、
前記出力電流指令値に基づいて前記電力用半導体素子を選択して電流を流す選択手段と、を備え、
前記選択手段は、前記電力用半導体素子を選択する際の優先度を決定するため、前記電力用半導体素子のストレス値を温度上昇に基づいて求め、前記ストレス値が均一になるように前記電力用半導体素子を選択する、
ことを特徴とする電力変換器。
【請求項2】
前記電力用半導体素子の温度上昇を検知する温度検知手段を備え、
前記ストレス値は、重み関数に基づいて定める、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換器。
【請求項3】
前記電力用半導体素子の出力電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段の検出値が閾値以上となった場合に異常信号を発生する過電流検出手段と、
前記電力用半導体素子の並列数に基づいて前記閾値を可変とする可変閾値手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換器。
【請求項4】
前記電力用半導体素子は、シリコンカーバイト(SiC)を母材とする、
ことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の電力変換器。

【図1】
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【図2】
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