説明

電力変換装置

【課題】マトリックスコンバータを適切に制御することにより、複数相の電源からそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷へ出力し、かつ複数相の電源から受けた入力交流電圧を昇圧して負荷へ出力することが可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置101は、複数相の電源Pa,Pb,Pcからそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷へ出力し、かつ複数相の電源Pa,Pb,Pcから受けた入力交流電圧を昇圧して負荷へ出力可能なマトリックスコンバータ1と、入力交流電力の力率がマトリックスコンバータ1から負荷に供給される負荷交流電力の力率に応じて変化するように、入力交流電力の周波数および出力交流電力の周波数に基づいてマトリックスコンバータ1を制御するための制御部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特に、マトリックスコンバータを備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商用電源からの交流電力を、直流リンクを介さずに任意の電圧および任意の周波数の交流電力に直接変換可能なマトリックスコンバータ(以下、MCとも称する。)が注目されている。
【0003】
MCは、従来の直流リンクを介したコンバータ・インバータシステムと比較すると、サイズ、寿命および効率の点で有利である。また、電源高調波も少なく、回生動作が可能である。
【0004】
このようなMCの特長を生かした様々な研究がなされる中で、近年では発電機への適用も検討されている(たとえば、春名順之介・伊東淳一 著、「発電機を電源とするマトリックスコンバータの制御法」、電学論D、Vol.129,No.5,pp.482-489、2009(非特許文献1)、および春名順之介・伊東淳一 著、「発電機電源時のマトリックスコンバータにおける入力電流ベクトル制御の特性検証」平成21年電気学会産業応用部門大会、pp.I203-I208、2009(非特許文献2)参照)。
【0005】
しかしながら、非特許文献1および非特許文献2に記載の配電方式は三相3線式であり、ヒータ等の単相負荷を扱う場合には各線間に単相負荷を接続しなければならないことから、接地を施すと必ず短絡する。この短絡を防ぐために、絶縁変圧器を介して片側接地することで対地電位を定める構成が考えられるが、絶縁変圧器による重量増加およびスペースの占有が問題となる。
【0006】
そこで、負荷への電力供給方法として、配電方式の一つである三相4線式を考える。三相4線式において単相負荷を接続する場合には、対地電位を定めるための接地が中性線により共通化され、各相は必ず負荷を挟むように接地される。このため、変圧器無しで接地が可能であり、大幅な軽量化および省スペース化が可能となる。
【0007】
電源側と負荷側とを同じ中性点に接地した場合には、これまでの一般的な制御方法(たとえば、石田宗秋・岩崎雅巳・大熊繁・岩田幸二 著、「入力力率可変正弦波入出力PWM制御サイクロコンバータの波形制御法」、電学論D、Vol.107,No.2,pp.239-246、1987(非特許文献3)参照)を適用すると、単相負荷として機能しないだけでなく、零相電圧が変動することによって低周波の中性点電流が流れる。その結果、電力脈動、効率低下、および中性線の重量増加などの問題が現れる。
【0008】
これに対して、MCを使用した、単相負荷および三相負荷を一括して扱うことが可能な三相4線式の電源システムを構築し、中性点接地された不平衡負荷における零相電圧抑制制御法の提案ならびに有効性の検証が行われている(たとえば、▲桑▼原弘行・山村直紀・石田宗秋・丸山真・坂本恭二、「中性点接地されたマトリックスコンバータの不平衡負荷時の零相電圧抑制制御」、電気関係学会東海支部連合大会O-442、2008(非特許文献4)参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】春名順之介・伊東淳一 著、「発電機を電源とするマトリックスコンバータの制御法」、電学論D、Vol.129,No.5,pp.482-489、2009
【非特許文献2】春名順之介・伊東淳一 著、「発電機電源時のマトリックスコンバータにおける入力電流ベクトル制御の特性検証」平成21年電気学会産業応用部門大会、pp.I203-I208、2009
【非特許文献3】石田宗秋・岩崎雅巳・大熊繁・岩田幸二 著、「入力力率可変正弦波入出力PWM制御サイクロコンバータの波形制御法」、電学論D、Vol.107,No.2,pp.239-246、1987
【非特許文献4】▲桑▼原弘行・山村直紀・石田宗秋・丸山真・坂本恭二、「中性点接地されたマトリックスコンバータの不平衡負荷時の零相電圧抑制制御」、電気関係学会東海支部連合大会O-442、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献4に記載の構成では、出力電圧の最大値が電源電圧に制限され、入力電圧の利用範囲が狭くなる。このため、電源である発電機の出力が小さい場合に所望の変換電圧が得られない等の問題がある。
【0011】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、マトリックスコンバータを適切に制御することにより、複数相の電源からそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷へ出力し、かつ複数相の電源から受けた入力交流電圧を昇圧して負荷へ出力することが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる電力変換装置は、複数相の電源からそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷へ出力し、かつ上記複数相の電源から受けた入力交流電圧を昇圧して上記負荷へ出力可能なマトリックスコンバータと、上記入力交流電力の力率が上記マトリックスコンバータから上記負荷に供給される負荷交流電力の力率に応じて変化するように、上記入力交流電力の周波数および上記出力交流電力の周波数に基づいて上記マトリックスコンバータを制御するための制御部とを備える。
【0013】
このような構成により、負荷力率を入力力率に反映させることができるため、無負荷時および入力力率がゼロとなる状態でも、マトリックスコンバータを適切に制御し、出力電流および出力電圧を制御することができる。すなわち、無負荷時でも出力電圧の確立が可能であり、無負荷時および負荷接続時の両方において、負荷状態に関係なく昇圧形MCの制御が可能である。これにより、安定した電力変換動作を実現することができる。そして、マトリックスコンバータを適切に制御することができるため、複数相の電源からそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷へ出力し、かつ複数相の電源から受けた入力交流電圧を昇圧して負荷へ出力することが可能な電力変換装置を実現することができる。すなわち、入力電圧の利用範囲を拡大し、電源である発電機の出力が小さい場合でも所望の変換電圧を得ることができる。
【0014】
好ましくは、上記制御部は、上記入力交流電力の周波数および上記出力交流電力の周波数の和に基づいて上記マトリックスコンバータを制御する。
【0015】
このように、入力交流電力の周波数および出力交流電力の周波数の和を用いる構成により、マトリックスコンバータの制御関数を生成するための周波数変換演算を適切に行なうことができる。
【0016】
好ましくは、上記制御部は、上記入力交流電力の周波数および上記出力交流電力の周波数の差に基づいて上記マトリックスコンバータを制御する。
【0017】
このように、入力交流電力の周波数および出力交流電力の周波数の差を用いる構成により、マトリックスコンバータの制御関数を生成するための周波数変換演算を適切に行なうことができる。
【0018】
好ましくは、上記制御部は、上記入力交流電力の周波数および上記出力交流電力の周波数の和に基づいて上記マトリックスコンバータを制御する動作、および上記入力交流電力の周波数および上記出力交流電力の周波数の差に基づいて上記マトリックスコンバータを制御する動作を選択可能である。
【0019】
このように、2つの周波数変換方式を選択可能とする構成により、負荷の種類および動作状態に応じて適切な演算を行なうことができる。
【0020】
好ましくは、上記制御部は、上記マトリックスコンバータが上記複数相の電源から受ける入力交流電流が上記負荷交流電力の力率に応じて変化するように、上記入力交流電力の周波数および上記出力交流電力の周波数に基づいて上記マトリックスコンバータを制御する。
【0021】
このように、入力交流電流を負荷交流電力の力率に追随させる構成により、昇圧形MCの制御を適切に行なうことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、マトリックスコンバータを適切に制御することにより、複数相の電源からそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷へ出力し、かつ複数相の電源から受けた入力交流電圧を昇圧して負荷へ出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【図2】降圧形MCの等価モデルを示す図である。
【図3】昇圧形MCの等価モデルを示す図である。
【図4】MCの入力側における座標変換(方式I)を示す図である。
【図5】MCの出力側における座標変換(方式I)を示す図である。
【図6】MCの入力側における座標変換(方式II)を示す図である。
【図7】MCの出力側における座標変換(方式II)を示す図である。
【図8】昇圧形MCの制御方法の比較例における、合成した入力側ベクトルを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るマトリックスコンバータの比較例のシミュレーションパラメータを示す図である。
【図10】昇圧形MCの制御方法の比較例における、無負荷時の出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る電力変換装置における制御部の構成を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る電力変換装置のシミュレーションパラメータを示す図である。
【図13】方式Iを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の無負荷時における出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【図14】方式Iを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の無負荷時における入力電流のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】方式IIを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の無負荷時における出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【図16】方式IIを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の無負荷時における入力電流のシミュレーション結果を示す図である。
【図17】方式Iを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の負荷接続時における出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【図18】方式Iを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の負荷接続時における入力電流のシミュレーション結果を示す図である。
【図19】方式IIを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の負荷接続時における出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【図20】方式IIを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の負荷接続時における入力電流のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
[構成および基本動作]
図1は、本発明の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【0026】
図1を参照して、電源システム201は、たとえば発電機である交流電源Pa,Pb,Pcと、電力変換装置101と、負荷LDu,LDv,LDwとを備える。電力変換装置101は、マトリックスコンバータ1と、出力フィルタ2と、測定部3と、制御部4とを含む。交流電源Paは、交流電圧源Eaと、インダクタLaとを含む。交流電源Pbは、交流電圧源Ebと、インダクタLbとを含む。交流電源Pcは、交流電圧源Ecと、インダクタLcとを含む。出力フィルタ2は、キャパシタCu,Cv,Cwとを含む。マトリックスコンバータ1は、双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3を含む。負荷LDuは、抵抗Ruと、インダクタLuとを含む。負荷LDvは、抵抗Rvと、インダクタLvとを含む。負荷LDwは、抵抗Rwと、インダクタLwとを含む。
【0027】
電源システム201においては、たとえば交流電源Pa,Pb,Pcの中性点NP1と負荷LDu,LDv,LDwの中性点NP2とが共通の安定電位SPに結合されている。ここで、安定電位とは、電源システム201における他の部分と比べてインピーダンスが小さく電位変動が微小な部分の電位である。
【0028】
電力変換装置101は、周波数および振幅が変動する複数相の交流電力から任意の周波数および任意の振幅を有する複数相の交流電圧または交流電流を生成する。すなわち、電力変換装置101は、交流電源Pa,Pb,Pcの各々から供給されるA相,B相,C相の交流電力を任意の周波数および任意の振幅を有するU相,V相,W相の交流電力に変換して負荷LDu,LDv,LDwにそれぞれ供給する。
【0029】
出力フィルタ2は、マトリックスコンバータ1と負荷LDu,LDv,LDwとの間に設けられている。出力フィルタ2において、キャパシタCu,Cv,Cwはスター結線されている、すなわち、マトリックスコンバータ1と負荷LDu,LDv,LDwとの間におけるU相,V相,W相の配線間にそれぞれ接続されている。
【0030】
マトリックスコンバータ1において、双方向スイッチSa1は、インダクタLaと抵抗Ruとの間に接続されている。双方向スイッチSa2は、インダクタLaと抵抗Rvとの間に接続されている。双方向スイッチSa3は、インダクタLaと抵抗Rwとの間に接続されている。双方向スイッチSb1は、インダクタLbと抵抗Ruとの間に接続されている。双方向スイッチSb2は、インダクタLbと抵抗Rvとの間に接続されている。双方向スイッチSb3は、インダクタLbと抵抗Rwとの間に接続されている。双方向スイッチSc1は、インダクタLcと抵抗Ruとの間に接続されている。双方向スイッチSc2は、インダクタLcと抵抗Rvとの間に接続されている。双方向スイッチSc3は、インダクタLcと抵抗Rwとの間に接続されている。
【0031】
双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3の各々は、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)およびダイオードを直列接続した回路を2つ用意し、互いの導通方向が逆向きになるようにこの2つの回路を並列接続した構成である。あるいは、これらの双方向スイッチは、逆耐圧性能を有する2つの逆阻止IGBTが、互いの導通方向が逆向きになるように並列接続されている構成であってもよい。
【0032】
マトリックスコンバータ1は、交流電源Pa,Pb,Pcからそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷LDu,LDv,LDwへ出力する。具体的には、マトリックスコンバータ1は、制御部4から受けた制御信号G1〜G9に基づいて双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3をそれぞれオン・オフすることにより、交流電源Pa,Pb,Pcからそれぞれ受けたA相,B相,C相の交流電力を任意の周波数および任意の電圧振幅を有するU相,V相,W相の交流電力に変換し、出力フィルタ2へ出力する。
【0033】
出力フィルタ2は、マトリックスコンバータ1から受けたU相,V相,W相の交流電力に含まれる所定周波数以上のノイズを減衰させ、減衰後の交流電力を負荷LDu,LDv,LDwへそれぞれ出力する。
【0034】
ここで、出力フィルタ2が減衰させるノイズの周波数は、電源システム201の仕様に応じて適宜変更され、たとえば負荷LDu,LDv,LDwへ供給すべき交流電力の周波数より高い周波数である。
【0035】
測定部3は、図示しない電圧検出部を含み、交流電圧源Ea,Eb,Ecがマトリックスコンバータ1へ出力する電源交流電圧va0,vb0,vc0、マトリックスコンバータ1が交流電源Pa,Pb,Pcから受ける入力交流電圧va,vb,vc、および負荷LDu,LDv,LDwに供給されるマトリックスコンバータ1からの負荷交流電圧vu,vv,vwを検出し、検出結果を示す信号を制御部4へ出力する。
【0036】
また、測定部3は、交流電源Pa,Pb,Pcが出力する電源交流電力の周波数である入力角周波数ωSを検出し、検出結果を示す信号を制御部4へ出力する。たとえば、測定部3は、交流電源である発電機の磁極位置を磁極位置センサで検出することにより、入力角周波数ωSを検出する。
【0037】
制御部4は、測定部3の検出結果に基づいて制御信号G1〜G9を生成し、マトリックスコンバータ1における双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3へそれぞれ出力することにより、マトリックスコンバータ1を制御する。
【0038】
具体的には、制御部4は、マトリックスコンバータ1が交流電源Pa,Pb,Pcから受ける入力交流電流ia,ib,icの実効値が、マトリックスコンバータ1から負荷LDu,LDv,LDwに供給される負荷交流電力に追随するように、マトリックスコンバータ1を制御する。また、制御部4は、マトリックスコンバータ1から負荷LDu,LDv,LDwに供給される負荷交流電圧vu,vv,vwの実効値が一定となるようにマトリックスコンバータ1を制御する。制御部4は、マトリックスコンバータ1における各スイッチをPWM(Pulse Width Modulation)制御する。
【0039】
本発明の実施の形態に係る電源システム201では、単体で昇圧機能を持つMC(以下、昇圧形MCとも称する。)を用いる。
【0040】
非特許文献1〜4に記載のMCである降圧形MCは、電源電圧をPWM制御することから、出力電圧の最大値は電源電圧に制限される。また、電源電圧をPWM制御することは、出力電流をPWM制御することにもなるため、入力電流の最大値は出力電流に制限される。
【0041】
したがって、降圧形MCの出力側から入力側を見ると電圧が昇圧されていると考えることができるため、降圧形MCの入出力特性を入れ替えることによって昇圧形MCを定義することができる。
【0042】
図2は、降圧形MCの等価モデルを示す図である。
【0043】
図2を参照して、降圧形MCでは、入力側が電圧源VSであり、出力側が電流源ISである。降圧形MCは、所望の出力電圧となるように入力電圧をPWM制御する。
【0044】
図3は、昇圧形MCの等価モデルを示す図である。
【0045】
図3を参照して、昇圧形MCと降圧形MCとは入出力特性が双対の関係にある。すなわち、昇圧形MCでは、入力側が電流源ISとなり、出力側が電圧源VSとなる。昇圧形MCは、所望の出力電圧となるように入力電流をPWM制御する。
【0046】
電源システム201は、たとえば独立電源として利用される。この場合、入力側には発電機が接続されることを考えると、図1に示すように、入力側は実際には発電機の起電力および内部インダクタンスLinで構成され、昇圧形MCの入力側制御により入力電流が制御される。また、出力側は電圧源として動作させるためにキャパシタCoutおよび負荷で構成される。
【0047】
[動作]
次に、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の電力変換動作について図面を用いて説明する。
【0048】
まず、昇圧形MCの入出力関係を定義する。昇圧形MCは、9つの双方向スイッチを切り換え、出力相に接続する入力相とその接続時間とを制御することにより、任意の電流および任意の周波数を直接出力する。1制御周期内、たとえばPWM制御に用いられる三角波の1周期内の出力線電流平均値と入力線電流との関係は、以下の式で表される。
【数1】

【0049】
(1)式において、3×3行列は、1制御周期内のスイッチSa1〜Sc3のオン時間の割合すなわちオンデューティで定義される。a1〜c3は、それぞれスイッチSa1〜Sc3のオンデューティである。
【0050】
また、昇圧形MCでは、入力側を電流源とみなし、出力側を電圧源とみなすことから、電源開放および負荷短絡は許されない。このため、a1〜c3には以下の式で表される拘束条件が必要となる。
【数2】


【数3】

【0051】
(1)式におけるオンデューティの決定方法については様々な研究がなされている。電力変換装置101では、たとえば、座標変換を用いた手法によりオンデューティを演算する(たとえば、非特許文献3および4参照)。
【0052】
すなわち、電力変換装置101では、周波数変換の原理を用いて昇圧形MCを制御する。この周波数変換により、たとえば発電機によって生成される電源交流電力の周波数変動に応じて昇圧形MCを制御し、負荷に一定の周波数の交流電力を供給することができる。
【0053】
昇圧型MCの入力電流および入力電圧ならびに出力電流および出力電圧が、以下の式で表されるとする。
【数4】


【数5】


【数6】


【数7】

【0054】
u,iv,iwはマトリックスコンバータ1が出力する出力交流電流である。また、入力電流ISは入力交流電流ia,ib,icに相当し、入力電圧VSは入力交流電圧va,vb,vcに相当し、出力電流ILは出力交流電流iu,iv,iwに相当し、出力電圧VLは負荷交流電圧vu,vv,vwに相当する。
【0055】
また、ψ0は入力交流電圧に対する入力交流電流の位相差すなわち入力力率角であり、ψSは電源交流電圧と入力交流電圧との位相差であり、ωLは出力交流電力の周波数であり、ψLは負荷力率角すなわち負荷交流電圧vu,vv,vwと負荷LDu,LDv,LDwに供給されるマトリックスコンバータ1からの負荷交流電流iu0,iv0,iw0との位相差である。
【0056】
ここでは、負荷が平衡負荷である場合について説明するため、零相電流に対する制御の説明は行なわない。
【0057】
電力変換装置101では、昇圧形MCを制御する上で、以下の(1)〜(4)が必要となる。
(1)出力電圧の周波数、振幅および位相が一定でひずみが少ないこと
(2)入力電流のひずみが少ないこと
(3)(1)および(2)を満たしながら、出力可能な電流振幅を最大にすること
(4)中性点接続により相電流制御をするため、入力電流および出力電流は、以下の式を満たすこと
【数8】

【0058】
制御部4は、上記(1)〜(4)を満足するようなPWMスイッチングパターンを算出する。
【0059】
次に、周波数変換の原理について説明する。
【0060】
本発明の実施の形態に係る電力変換装置で用いる周波数変換は、周波数ω1で回転するベクトルを周波数ω1に同期させた回転座標軸上で考えることで、当該ベクトルがある周波数ω2で回転するベクトルになる、という考え方に基づく。これにより、MCにおいて入力周波数および出力周波数を直接制御することが可能となる。
【0061】
ここで、三相電圧を三相二相変換し、空間ベクトルで表現すると、周波数変換は一種の座標変換とみることができる。
【0062】
非特許文献1では、電圧を基準に降圧型MCの制御原理が記載されている。本発明の実施の形態に係る電力変換装置でも、これと同様に電圧を基準に考える。
【0063】
いま、固定座標上(入力側)において、角速度ωSで回転しているベクトルを角速度ωLに変換することを考える。
【0064】
この変換には、(ωS+ωL)で回転する座標を用いる方式I、(ωS−ωL)で回転する座標を用いる方式IIの2通りがある。
【0065】
図4は、MCの入力側における座標変換(方式I)を示す図である。図5は、MCの出力側における座標変換(方式I)を示す図である。
【0066】
図4および図5を参照して、入力側において、入力交流電流ia,ib,icに相当する入力交流電流IS1と入力交流電圧va,vb,vcに相当する入力交流電圧Vとの位相差がψ0であり、入力交流電流IS1および入力交流電圧Vが入力角周波数ωSで(α1−β1)座標上を回転する。
【0067】
出力側において、角周波数(ωS+ωL)で回転する(α1−β1)座標上で、角周波数ωSで回転している電圧ベクトルVを(α−β)座標上から見ると、電圧ベクトルVは反時計方向に角周波数ωLで回転する。
【0068】
入力力率角ψ0が遅れであるとする場合、出力電流IL1は出力電圧Vの時計方向の回転となる。
【0069】
ここで、出力電流IL1を(α1−β1)座標から見ると、出力電圧Vは時計方向に回転するため、進み力率角ψLの電流となる。すなわち、方式Iでは、入力力率の極性が出力側から見ると反転する。
【0070】
図6は、MCの入力側における座標変換(方式II)を示す図である。図7は、MCの出力側における座標変換(方式II)を示す図である。
【0071】
図6および図7を参照して、入力側において、入力交流電流ia,ib,icに相当する入力交流電流IS2と入力交流電圧va,vb,vcに相当する入力交流電圧Vとの位相差がψ0であり、入力角周波数ωSで(α2−β2)座標が回転する。
【0072】
出力側において、角周波数(ωS−ωL)で回転する(α2−β2)座標上で、角周波数ωSで回転している電圧ベクトルVを(α−β)座標上から見ると、電圧ベクトルVは時計方向に角周波数ωLで回転する。
【0073】
負荷力率角ψLが遅れであるとする場合、出力電流IL2は出力電圧Vの反時計方向の回転となる。
【0074】
ここで、出力電流IL2を(α2−β2)座標から見ると、出力電圧Vは時計方向に回転するため、遅れ力率角ψLの電流となる。すなわち、方式IIでは、負荷力率は入力力率と同じ極性となる。
【0075】
[制御方法の比較例]
次に、昇圧形MCの制御方法の比較例を説明する。
【0076】
図8は、昇圧形MCの制御方法の比較例における、合成した入力側ベクトルを示す図である。
【0077】
図8を参照して、この制御方法では、上記の方式Iおよび方式IIを時間平均で合成する。これにより、昇圧形MCの入力側および出力側の各々を独立して制御可能となり、入力力率を1に保持することができる。
【0078】
また、この制御法を定式化し、制御関数で表すと以下の各式のようになる。
【数9】


【数10】


【数11】

【0079】
(9)式において、Aは振幅変調率である。
【0080】
この制御関数を用いて、無負荷時の制御をシミュレーションする。
図9は、本発明の実施の形態に係るマトリックスコンバータの比較例のシミュレーションパラメータを示す図である。
【0081】
図9を参照して、電源電圧VSが92.376Vrmsであり、電源周波数f0が60Hzであり、出力フィルタ2のキャパシタ容量Coutが30μFであり、負荷周波数foutが30Hzであり、入力インダクタンス(内部インダクタンス)Linが0.01mHである。
【0082】
図10は、昇圧形MCの制御方法の比較例における、無負荷時の出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【0083】
図10を参照して、比較例では、出力電圧が確立されていないことが確認できる。以下、この原因について説明する。
【0084】
まず、(7)式の出力電圧および(9)式の制御関数を用いて、入力電圧を理論的に導出すると、以下の式のようになる。
【数12】

【0085】
(12)式において振幅のみを考えると、以下の式が得られる。
【数13】

【0086】
(13)式において、たとえば昇圧率2倍の場合を考えると、左辺=2となり、以下の式に変形することができる。
【数14】

【0087】
また、振幅変調率の制約条件は昇圧率に応じて変わり、昇圧率2倍の場合はA≦1/3となる。(14)式より、負荷力率cosψLが小さくなると、振幅変調率の制約条件を満たさなくなるため、制御不可能となり、昇圧動作を実現することができなくなる。また、昇圧率を上げると、(14)式より、負荷力率cosψLの制約が厳しくなる。このように、比較例では、無負荷で昇圧形MCを駆動させることができない。
【0088】
そこで、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、以下のような昇圧形MCの制御方法を採用する。
【0089】
[電力変換装置101における制御方法]
比較例では、方式Iおよび方式IIを合成することにより、制御関数を導出した。これに対して、電力変換装置101では、方式Iおよび方式IIを単独で用いる。
【0090】
まず、方式Iのみを利用する場合について説明する。
【0091】
図4および図5に基づいて方式Iを定式化すると、制御関数は、以下の式で表される。
【数15】


【数16】

【0092】
ここで、(15)式は電圧制御関数であるため、電流制御関数に変換すると、以下の式が得られる。
【数17】

【0093】
次に、方式IIのみを利用する場合について説明する。
図6および図7に基づいて方式IIを定式化すると、制御関数は、以下の式で表される。
【数18】


【数19】

【0094】
ここで、(18)式は電圧制御関数であるため、電流制御関数に変換すると、以下の式が得られる。
【数20】

【0095】
次に、本発明の実施の形態に係る電力変換装置が採用する制御方法による昇圧形MCの出力電流および入力電圧を算出する。
【0096】
(6)式より、方式Iおよび方式IIを単独で用いた場合における出力電流を理論的に計算する。ここでは、hはすべて1/3とする。
【0097】
方式Iのみを利用する場合、方式Iの制御関数である(17)式、および(4)式の入力電流を用いて計算すると、出力電流は、以下の式で表される。
【数21】

【0098】
(21)式および(6)式より、入力力率が反転して出力電流の位相となって表れることが分かる。すなわち、図4および図5からも分かるように、ψ0=−ψLとなる。つまり、負荷力率が変化すると、当該変化が入力力率に反映される。したがって、方式Iを単独で使用する構成では、比較例のように入力力率を制御することはできないが、無負荷時および入力力率がゼロとなる状態でも、負荷力率を入力力率に反映することができるため、昇圧形MCを制御することが可能となる。
【0099】
方式IIのみを利用する場合、方式IIの制御関数である(20)式、および(4)式の入力電流を用いて計算すると、出力電流は、以下の式で表される。
【数22】

【0100】
(22)式および(6)式より、入力力率が出力電流の位相となって表れることが分かる。すなわち、図6および図7からも分かるように、ψ0=ψLとなる。つまり、負荷力率が変化すると、当該変化が入力力率に反映される。したがって、方式IIを単独で使用する構成では、比較例のように入力力率を制御することはできないが、無負荷時および入力力率がゼロとなる状態でも、負荷力率を入力力率に反映することができるため、昇圧形MCを制御することが可能となる。
【0101】
次に、昇圧形MCの入力電圧を算出する。出力電流と同様に、方式Iの制御関数である(17)式、方式IIの制御関数である(20)式、および(5)式より、入力電圧は、以下の式で表される。
【数23】

【0102】
(23)式より、方式Iまたは方式IIを単独で用いると、昇圧形MCの入力側から出力側の構成すなわち負荷力率を見ることができるため、昇圧形MCを、周波数変換可能な変圧器と見ることができる。
【0103】
また、無負荷時および入力力率がゼロの場合において、方式Iでは負荷をインダクタンスとして考えることができ、方式IIでは負荷をコンデンサとして考えることができる。
【0104】
すなわち、(21)式〜(23)式より、出力電流および出力電圧の振幅は、振幅変調率Aのみに依存し、負荷力率の影響を受けないことから、無負荷時および入力力率がゼロの場合でも出力電流および出力電圧を制御することができる。
【0105】
次に、昇圧形MCにおいて、上記のような制御を実現するための制御系について説明する。
【0106】
制御部4は、入力交流電力の力率すなわち入力力率cosψ0がマトリックスコンバータ1から負荷LDu,LDv,LDwに供給される負荷交流電力の力率すなわち負荷力率cosψLに応じて変化するように、入力交流電力の周波数すなわち入力角周波数ωS、および出力交流電力の周波数すなわち出力角周波数ωLに基づいてマトリックスコンバータ1を制御する。
【0107】
より詳細には、制御部4は、マトリックスコンバータ1が交流電源Pa,Pb,Pcから受ける入力交流電流ia,ib,icが負荷交流電力の力率すなわち負荷力率cosψLに応じて変化するように、入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLに基づいてマトリックスコンバータ1を制御する。
【0108】
たとえば、制御部4は、入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLの和に基づいてマトリックスコンバータ1を制御する。あるいは、制御部4は、入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLの差に基づいてマトリックスコンバータ1を制御する。
【0109】
また、たとえば、制御部4は、入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLの和に基づいてマトリックスコンバータ1を制御する動作、および入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLの差に基づいてマトリックスコンバータ1を制御する動作を選択可能である。
【0110】
図11は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置における制御部の構成を示す図である。
【0111】
図11を参照して、制御部4は、減算部11と、PI演算部12と、PWMパターン生成部13と、3相/dq変換部14,16と、振幅演算部15,17とを含む。
【0112】
3相/dq変換部14は、出力交流電力の周波数ωL、および負荷力率角ψLに基づいて、負荷交流電圧vu,vv,vwをdq変換して負荷交流電圧vd,vqを算出する。
【0113】
振幅演算部15は、3相/dq変換部14によって算出された負荷交流電圧vdおよび負荷交流電圧vqの2乗和の平方根を算出する。
【0114】
3相/dq変換部16は、出力交流電力の周波数ωL、および負荷力率角ψLに基づいて、電圧指令値viu,viv、viwをdq変換して電圧指令値vd*,vq*を算出する。
【0115】
振幅演算部17は、3相/dq変換部16によって算出された電圧指令値vd*および電圧指令値vq*の2乗和の平方根を算出する。
【0116】
減算部11は、振幅演算部17の演算結果から、振幅演算部15の演算結果を減算する。PI演算部12は、減算部11の減算結果に対してPI演算を行ない、振幅変調率Aを算出する。
【0117】
PWMパターン生成部13は、入力角周波数ωS、出力角周波数ωL、およびPI演算部12が算出した振幅変調率Aに基づいて、マトリックスコンバータ1における各双方向スイッチのオンデューティを制御するための制御関数を算出する。そして、PWMパターン生成部13は、算出した制御関数に基づいて、マトリックスコンバータ1における各双方向スイッチをPWM制御するための制御信号G1〜G9を生成し、マトリックスコンバータ1へ出力する。
【0118】
[動作の検証]
次に、本発明の実施の形態に係る電力変換装置による昇圧動作の検証結果を説明する。ここでは、無負荷時および負荷接続時についてシミュレーションを行なった。
【0119】
図12は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置のシミュレーションパラメータを示す図である。
【0120】
図12を参照して、電源電圧VSが92.376Vrmsであり、電源周波数f0が60Hzであり、負荷抵抗Rが7Ωであり、負荷リアクトルLが0.3Hであり、出力フィルタ2のキャパシタ容量Coutが30μFであり、入力インダクタンス(内部インダクタンス)Linが0.01mHであり、負荷周波数foutが30Hzであり、振幅変調率Aが0.2238である。
【0121】
通常、MCの入力側には電源として可変速発電機が用いられる。しかしながら、ここでは定常特性のみをシミュレートするため、電圧および周波数の変化しない対称三相電源を用いると仮定する。また、スイッチング素子には理想スイッチを用いる。
【0122】
図13は、方式Iを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の無負荷時における出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【0123】
図14は、方式Iを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の無負荷時における入力電流のシミュレーション結果を示す図である。
【0124】
図15は、方式IIを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の無負荷時における出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【0125】
図16は、方式IIを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の無負荷時における入力電流のシミュレーション結果を示す図である。
【0126】
図17は、方式Iを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の負荷接続時における出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【0127】
図18は、方式Iを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の負荷接続時における入力電流のシミュレーション結果を示す図である。
【0128】
図19は、方式IIを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の負荷接続時における出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【0129】
図20は、方式IIを用いた場合における、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の負荷接続時における入力電流のシミュレーション結果を示す図である。
【0130】
図13〜図20に示すように、電力変換装置101では、無負荷時および負荷接続時の双方において、出力電圧波形を正弦波状に制御可能であり、また、入力電流波形も正弦波状に制御可能である。
【0131】
したがって、方式Iおよび方式IIを合成することにより制御関数を導出する比較例では無負荷時における昇圧形MCの制御が不可能であったが、電力変換装置101では、方式Iおよび方式IIを単独で用いる構成により、無負荷時でも昇圧形MCの制御が可能となる。また、電力変換装置101では、負荷接続時においても昇圧形MCの制御が可能である。すなわち、電力変換装置101では、負荷状態に関係なく、昇圧形MCの制御が可能となる。
【0132】
ところで、非特許文献4に記載の構成では、出力電圧の最大値が電源電圧に制限され、入力電圧の利用範囲が狭くなる。このため、電源である発電機の出力が小さい場合に所望の変換電圧が得られない等の問題がある。
【0133】
また、マトリックスコンバータを備えた電力変換装置は、たとえば、発電機と直接接続することで定電圧定周波数電源として使用される。この場合、様々な負荷状態、および無負荷において、出力電圧を常に確立しておく必要がある。
【0134】
ここで、昇圧形MCの制御方法として、非特許文献3に記載の降圧型MCの制御式において入出力を入れ替えた式を用いる方法、すなわち図8を用いて説明した方法が考えられる。しかしながら、このような方法では、前述のように無負荷時において出力電圧の確立が不可能になってしまう。
【0135】
これに対して、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部4は、入力交流電力の力率すなわち入力力率cosψ0がマトリックスコンバータ1から負荷LDu,LDv,LDwに供給される負荷交流電力の力率すなわち負荷力率cosψLに応じて変化するように、入力交流電力の周波数すなわち入力角周波数ωS、および出力交流電力の周波数すなわち出力角周波数ωLに基づいてマトリックスコンバータ1を制御する。
【0136】
このような構成により、負荷力率を入力力率に反映させることができるため、無負荷時および入力力率がゼロとなる状態でも、マトリックスコンバータ1を適切に制御し、出力電流および出力電圧を制御することができる。すなわち、無負荷時でも出力電圧の確立が可能であり、無負荷時および負荷接続時の両方において、負荷状態に関係なく昇圧形MCの制御が可能である。これにより、安定した電力変換動作を実現することができる。
【0137】
そして、マトリックスコンバータを適切に制御することができるため、複数相の電源からそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷へ出力し、かつ複数相の電源から受けた入力交流電圧を昇圧して負荷へ出力することが可能な電力変換装置を実現することができる。すなわち、入力電圧の利用範囲を拡大し、電源である発電機の出力が小さい場合でも所望の変換電圧を得ることができる。
【0138】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部4は、入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLの和に基づいてマトリックスコンバータ1を制御する。
【0139】
このように、入力交流電力の周波数および出力交流電力の周波数の和を用いる構成により、マトリックスコンバータ1の制御関数を生成するための周波数変換演算を適切に行なうことができる。
【0140】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部4は、入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLの差に基づいてマトリックスコンバータ1を制御する。
【0141】
このように、入力交流電力の周波数および出力交流電力の周波数の差を用いる構成により、マトリックスコンバータ1の制御関数を生成するための周波数変換演算を適切に行なうことができる。
【0142】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部4は、入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLの和に基づいてマトリックスコンバータ1を制御する動作、および入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLの差に基づいてマトリックスコンバータ1を制御する動作を選択可能である。
【0143】
このように、たとえばユーザの設定に応じて2つの周波数変換方式を選択可能とする構成により、負荷の種類および動作状態に応じて適切な演算を行なうことができる。
【0144】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部4は、マトリックスコンバータ1が交流電源Pa,Pb,Pcから受ける入力交流電流ia,ib,icが負荷交流電力の力率すなわち負荷力率cosψLに応じて変化するように、入力角周波数ωSおよび出力角周波数ωLに基づいてマトリックスコンバータ1を制御する。
【0145】
このように、入力交流電流ia,ib,icを負荷交流電力の力率に追随させる構成により、昇圧形MCの制御を適切に行なうことができる。
【0146】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部4は、マトリックスコンバータ1が交流電源Pa,Pb,Pcから受ける入力交流電流ia,ib,icの実効値が負荷交流電力に追随するように、かつマトリックスコンバータ1から負荷LDu,LDv,LDwに供給される負荷交流電圧vu,vv,vwの実効値が一定となるようにマトリックスコンバータ1を制御する。
【0147】
このような構成により、入力側が電流源となり、出力側が電圧源となる昇圧型MCを適切に制御することができる。
【0148】
なお、本発明の実施の形態に係る電力変換装置は、測定部3を備える構成であるとしたが、これに限定するものではない。測定部3は、電力変換装置101の外部に設けられる構成であってもよい。
【0149】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0150】
1 マトリックスコンバータ
2 出力フィルタ
3 測定部
4 制御部
11 減算部
12 PI演算部
13 PWMパターン生成部
14,16 3相/dq変換部
15,17 振幅演算部
101 電力変換装置
201 電源システム
Pa,Pb,Pc 交流電源
LDu,LDv,LDw 負荷
Ea,Eb,Ec 交流電圧源
La,Lb,Lc インダクタ
Cu,Cv,Cw キャパシタ
Lu,Lv,Lw インダクタ
Ru,Rv,Rw 抵抗
Sa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3 双方向スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相の電源からそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷へ出力し、かつ前記複数相の電源から受けた入力交流電圧を昇圧して前記負荷へ出力可能なマトリックスコンバータと、
前記入力交流電力の力率が前記マトリックスコンバータから前記負荷に供給される負荷交流電力の力率に応じて変化するように、前記入力交流電力の周波数および前記出力交流電力の周波数に基づいて前記マトリックスコンバータを制御するための制御部とを備える、電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記入力交流電力の周波数および前記出力交流電力の周波数の和に基づいて前記マトリックスコンバータを制御する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記入力交流電力の周波数および前記出力交流電力の周波数の差に基づいて前記マトリックスコンバータを制御する、請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記入力交流電力の周波数および前記出力交流電力の周波数の和に基づいて前記マトリックスコンバータを制御する動作、および前記入力交流電力の周波数および前記出力交流電力の周波数の差に基づいて前記マトリックスコンバータを制御する動作を選択可能である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記マトリックスコンバータが前記複数相の電源から受ける入力交流電流が前記負荷交流電力の力率に応じて変化するように、前記入力交流電力の周波数および前記出力交流電力の周波数に基づいて前記マトリックスコンバータを制御する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−249431(P2012−249431A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119416(P2011−119416)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月29日に社団法人電気学会主催の電子デバイス/半導体電力変換合同研究会において文書をもって発表
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】