電力変換装置
【課題】マトリックスコンバータにおける各スイッチを適切に制御することにより、スイッチング損失および電圧誤差の発生を抑制することが可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置101において、マトリックスコンバータ1は、電源ごとに設けられ、対応の電源から供給される交流電力を、オンすることにより負荷LA,LB,LCに伝達するための複数のスイッチSa1〜Sc3を含む。制御部5は、複数のスイッチSa1〜Sc3を所定の順序に従って択一的にオンし、順序が異なる複数のモードを有し、複数相の電源EU,EV,EWからそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいてモードの切り替えを行い、モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じスイッチSa1〜Sc3がオン状態となるように切り替えタイミングを設定する。
【解決手段】電力変換装置101において、マトリックスコンバータ1は、電源ごとに設けられ、対応の電源から供給される交流電力を、オンすることにより負荷LA,LB,LCに伝達するための複数のスイッチSa1〜Sc3を含む。制御部5は、複数のスイッチSa1〜Sc3を所定の順序に従って択一的にオンし、順序が異なる複数のモードを有し、複数相の電源EU,EV,EWからそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいてモードの切り替えを行い、モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じスイッチSa1〜Sc3がオン状態となるように切り替えタイミングを設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特に、マトリックスコンバータを備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商用電源からの交流電力を、直流リンクを介さずに任意の電圧および任意の周波数の交流電力に直接変換可能な交流−交流直接形電力変換器であるマトリックスコンバータ(以下、MCとも称する。)が注目されている。
【0003】
MCは、従来の直流リンクを介したコンバータ・インバータシステムと比較すると、サイズ、寿命および効率の点で有利である。また、電源高調波も少なく、回生動作が可能である。
【0004】
このようなMCの制御方法の一例が、石田宗秋・岩崎雅巳・大熊繁・岩田幸二 著、「入力力率可変正弦波入出力PWM制御サイクロコンバータの波形制御法」、電学論D、Vol.107,No.2,pp.239-246、1987(非特許文献1)に開示されている。すなわち、入力電流の位相を制御するX関数と、出力電圧の位相および振幅を制御するY関数とを合成する。この合成により得られた信号波に対してPWM(Pulse Width Modulation)制御を行なうことで、MCにおける各スイッチを制御するためのスイッチングパルスを得る。
【0005】
また、山本吉朗 他 著、「マトリックスコンバータの空間ベクトル変調におけるパルスパターンの改善」、電学論D、Vol.128,No.3,pp.176-183、2008(非特許文献2)には、以下のようなMCの制御方法が開示されている。すなわち、各出力相に接続された3相の入力交流電圧について、最大電圧相と最小電圧相との間でのスイッチングを禁止事項とする。具体的には、入力3相と出力1相とをそれぞれ接続する3つのスイッチのオン順序すなわちスイッチングパターンを、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定する(非特許文献2)。このようなスイッチングにより、出力電圧の高調波を低減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】石田宗秋・岩崎雅巳・大熊繁・岩田幸二 著、「入力力率可変正弦波入出力PWM制御サイクロコンバータの波形制御法」、電学論D、Vol.107,No.2,pp.239-246、1987
【非特許文献2】山本吉朗 他 著、「マトリックスコンバータの空間ベクトル変調におけるパルスパターンの改善」、電学論D、Vol.128,No.3,pp.176-183、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献2に記載のスイッチングパターンは、各タイミングにおける3相の入力電圧の大小関係に応じて複数種類用意する必要がある。
【0008】
また、MCのPWM制御におけるキャリア波の周波数は、MCの入力電圧等をサンプリングするためのサンプリング周波数と同期させるか、あるいは当該サンプリング周波数の整数倍に設定するのが一般的である。
【0009】
この場合、たとえば、振幅が1の三角波キャリアをPWM制御において用いる構成では、入力電圧の瞬時値をサンプリングし、このサンプリング結果に基づいて、キャリア波のレベルが最小のゼロになるタイミング、あるいはキャリア波のレベルが最大の1になるタイミングのいずれかと同期してモードを切り替えることになる。
【0010】
しかしながら、切り替え前のスイッチングパターンおよび切り替え後のスイッチングパターンの組み合わせによっては、モードの切り替えタイミングにおいて、最大電圧相と最小電圧相との間でのスイッチングが行われてしまう場合がある。
【0011】
このようなスイッチングは、スイッチング損失、および転流すなわち相間スイッチングによる電圧誤差が発生する要因となる。このスイッチング損失により、機器の効率が低下し、また、冷却装置が大型化するため、小型軽量化の妨げとなる。また、この電圧誤差は、出力電圧において高調波が発生する要因となる。
【0012】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、マトリックスコンバータにおける各スイッチを適切に制御することにより、スイッチング損失および電圧誤差の発生を抑制することが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる電力変換装置は、複数相の電源からそれぞれ供給される交流電力を複数相の交流電力に変換して負荷に供給するためのマトリックスコンバータと、上記マトリックスコンバータを制御するための制御部とを備え、上記マトリックスコンバータは、上記電源ごとに設けられ、対応の上記電源から供給される交流電力を、オンすることにより上記負荷に伝達するための複数のスイッチを含み、上記制御部は、上記複数のスイッチを所定の順序に従って択一的にオンし、上記順序が異なる複数のモードを有し、上記複数相の電源からそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいて上記モードの切り替えを行い、上記モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じ上記スイッチがオン状態となるように上記切り替えタイミングを設定する。
【0014】
このような構成により、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができるため、スイッチング損失を減少させることができる。これにより、冷却装置の容量を削減でき、引いては機器の小型軽量化に貢献することができる。また、スイッチングを行なうことによって転流期間中に出力電圧誤差が発生するが、電力変換動作におけるスイッチング回数を減少させることにより、この出力電圧誤差を低減し、出力電圧高調波を減少させることができる。
【0015】
好ましくは、上記制御部は、キャリア波の1周期において上記複数のスイッチがオン状態となる割合を示す制御値をそれぞれ算出し、上記キャリア波と各上記制御値との比較結果に基づいて、オンすべき上記スイッチを選択し、かつ上記キャリア波のタイミングに従って上記モードの切り替えを行なう。
【0016】
このような構成により、マトリックスコンバータにおける各スイッチを適切にPWM制御し、かつ当該PWM制御に応じた適切なタイミングでモード切り替えを行なうことができる。
【0017】
より好ましくは、上記制御部は、上記モードを3つ以上有し、上記キャリア波のレベルが最大値になるタイミングおよび最小値になるタイミングの両方に従って上記モードの切り替えを行なう。
【0018】
このように、キャリア波のレベルが最大または最小となるタイミングでモードを切り替える構成により、他のタイミングでモード切り替えを行なう構成と比べて、モード切り替え制御の簡易化を図ることができる。
【0019】
好ましくは、上記所定の順序は、オン状態となる上記スイッチが変更される前後の各々において上記スイッチを介して上記負荷へ伝達される上記交流電圧のうち、少なくとも一方の交流電圧が、上記複数相の電源からそれぞれ供給されている交流電圧の中でレベルが最大となる交流電圧および最小となる交流電圧以外になるように設定される。
【0020】
このような構成により、複数の入力電圧相と各出力相とをそれぞれ接続する複数のスイッチのオン順序を、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定し、出力電圧の高調波を低減する構成において、モード切り替えに伴うスイッチングを防ぐことができる。そして、スイッチング損失、および転流による電圧誤差の発生を抑制することにより、機器の効率低下を抑制し、小型軽量化を図り、出力電圧の高調波を低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マトリックスコンバータにおける各スイッチを適切に制御することにより、スイッチング損失および電圧誤差の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるマトリックスコンバータの出力1相分の等価回路を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるマトリックスコンバータの出力1相についてのスイッチングパターンの一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるモード分けの一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの求め方の一例を示す図である。
【図7】モードIからモードIIへの切り替え動作の一例を示す図である。
【図8】モードIIからモードIIIへの切り替え動作の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る電力変換装置における、モード切り替えのタイミングの一例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの他の例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る電力変換装置における、モード切り替えのタイミングの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
[構成および基本動作]
図1は、本発明の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【0025】
図1を参照して、電源システム201は、中性線NLに接続された交流電源EU,EV,EWと、電力変換装置101と、負荷LA,LB,LCとを備える。電力変換装置101は、マトリックスコンバータ1と、入力フィルタ2と、出力フィルタ3と、測定部4と、制御部5とを含む。マトリックスコンバータ1は、双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3を含む。負荷LA,LB,LCは、たとえばスター結線されている。
【0026】
電力変換装置101は、たとえば三相3線式であり、周波数および振幅が変動する複数相の交流電力から任意の周波数および任意の振幅を有する複数相の交流電圧または交流電流を生成する。すなわち、電力変換装置101は、交流電源EU,EV,EWの各々から供給されるU相,V相,W相の交流電力を任意の周波数および任意の振幅を有するA相,B相,C相の交流電力に変換して負荷LA,LB,LCにそれぞれ供給する。
【0027】
入力フィルタ2は、交流電源EU,EV,EWとマトリックスコンバータ1との間に設けられている。
【0028】
出力フィルタ3は、マトリックスコンバータ1と負荷LA,LB,LCとの間に設けられている。
【0029】
マトリックスコンバータ1では、交流電源ごとに設けられ、対応の交流電源から供給される交流電力を、オンすることにより1相の負荷に伝達するためのスイッチの組が設けられる。このスイッチの組は、負荷の相ごとに設けられる。すなわち、マトリックスコンバータ1は、A相に対応する双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3の組と、B相に対応する双方向スイッチSb1,Sb2,Sb3の組と、C相に対応する双方向スイッチSc1,Sc2,Sc3の組とを含む。
【0030】
双方向スイッチSa1は、入力フィルタ2のU相出力と出力フィルタ3のA相入力との間に接続されている。双方向スイッチSa2は、入力フィルタ2のV相出力と出力フィルタ3のA相入力との間に接続されている。双方向スイッチSa3は、入力フィルタ2のW相出力と出力フィルタ3のA相入力との間に接続されている。双方向スイッチSb1は、入力フィルタ2のU相出力と出力フィルタ3のB相入力との間に接続されている。双方向スイッチSb2は、入力フィルタ2のV相出力と出力フィルタ3のB相入力との間に接続されている。双方向スイッチSb3は、入力フィルタ2のW相出力と出力フィルタ3のB相入力との間に接続されている。双方向スイッチSc1は、入力フィルタ2のU相出力と出力フィルタ3のC相入力との間に接続されている。双方向スイッチSc2は、入力フィルタ2のV相出力と出力フィルタ3のC相入力との間に接続されている。双方向スイッチSc3は、入力フィルタ2のW相出力と出力フィルタ3のC相入力との間に接続されている。
【0031】
双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3の各々は、通常はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチを2つ組み合わせることで構成される。ただし、IGBT等の半導体素子は逆耐圧を持たないため、一般的にはIGBTおよびダイオードを逆並列接続、すなわち互いの導通方向が逆向きになるように並列接続した回路を2つ直列に組み合わせた回路構成が用いられる。なお、逆耐圧を持つ半導体スイッチを用いる場合には、ダイオードは不要であり、2つの半導体スイッチを逆並列接続すればよい。
【0032】
入力フィルタ2は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ受けたU相,V相,W相の交流電力に含まれる所定周波数以上のノイズを減衰させ、減衰後の交流電力をマトリックスコンバータ1へ出力する。
【0033】
マトリックスコンバータ1は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷LA,LB,LCへ出力する。具体的には、マトリックスコンバータ1は、制御部5から受けた制御信号G1〜G9に基づいて双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3をそれぞれオン・オフすることにより、入力フィルタ2を通過したU相,V相,W相の交流電力を任意の周波数および任意の電圧振幅を有するA相,B相,C相の交流電力に変換し、出力フィルタ3へ出力する。
【0034】
出力フィルタ3は、マトリックスコンバータ1から受けたA相,B相,C相の交流電力に含まれる所定周波数以上のノイズを減衰させ、減衰後の交流電力を負荷LA,LB,LCへそれぞれ出力する。
【0035】
ここで、出力フィルタ3が減衰させるノイズの周波数は、電源システム201の仕様に応じて適宜変更され、たとえば負荷LA,LB,LCへ供給すべき交流電力の周波数より高い周波数である。
【0036】
測定部4は、図示しない電流検出部を含み、マトリックスコンバータ1が交流電源EU,EV,EWから受ける入力交流電流iu,iv,iw、およびマトリックスコンバータ1が出力する出力交流電流ia,ib,icを検出し、検出結果を示す信号を制御部5へ出力する。
【0037】
また、測定部4は、図示しない電圧検出部を含み、交流電源EU,EV,EWがマトリックスコンバータ1へ出力する電源交流電圧vu0,vv0,vw0、マトリックスコンバータ1が入力フィルタ2を介して交流電源EU,EV,EWから受ける入力交流電圧vu,vv,vw、およびマトリックスコンバータ1の出力交流電圧va,vb,vcを検出し、検出結果を示す信号を制御部5へ出力する。
【0038】
制御部5は、測定部4の検出結果に基づいて制御信号G1〜G9を生成し、マトリックスコンバータ1における双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3へそれぞれ出力することにより、マトリックスコンバータ1を制御する。
【0039】
電源交流電圧vu0,vv0,vw0および入力交流電圧vu,vv,vwは、以下の式で表される。
【数1】
【数2】
【0040】
(1)式および(2)式において、ωは交流電源EU,EV,EWの角周波数であり、VSはフィルタ前の電圧振幅すなわち電源交流電圧vu0,vv0,vw0の振幅であり、Vはフィルタ後の電圧振幅すなわち入力交流電圧vu,vv,vwの振幅である。また、δは入力フィルタ2によって生じる位相遅れ角である。
【0041】
制御部5は、サンプリング周期Tsごとにマトリックスコンバータ1における各スイッチのオンデューティを更新する。
【0042】
ここで、マトリックスコンバータ1における各スイッチの制御法則を定式化するための制御関数a1〜c3を考える。
【0043】
たとえば双方向スイッチSa1のサンプリング周期内のオン割合すなわちオンデューティをa1と定義し、a1を以下の式に示すように定義する。
【数3】
【0044】
電力変換装置101は直接形電力変換器であるため、入力側の短絡および出力側の開放が許されない。このため、以下の拘束条件が必要となる。
【数4】
【数5】
【0045】
制御部5は、制御関数が以下の式で表されるような制御を行なう。
【数6】
ただし、Y1+Y2+Y3=0
【0046】
ここで、(6)式における関数X1,X2,X3は以下の式で表され、入力側関数と呼ぶ。
【数7】
【0047】
(7)式において、ψSはマトリックスコンバータ1の入力交流電圧に対する入力交流電流の位相の指令値であり、Aは電圧振幅変調率である。
【0048】
また、(6)式における関数Y1,Y2,Y3を出力側関数と呼び、この出力側関数は、出力電圧の指令波形を表す。
【0049】
また、(6)式におけるhu,hv,hwは(4)式の拘束条件を満足させるために導入した関数である。このとき、期間Tsにおける出力交流電圧va,vb,vcの平均値は、(2)式、(6)式および(7)式から、以下のようになる。
【数8】
【数9】
【0050】
(8)式において、第1項は、求めるマトリックスコンバータ1の出力電圧である。出力電圧には出力側関数Y1,Y2,Y3の波形がそのまま現れる。このため、出力側関数は出力電圧の指令波形となる。また、第2項は、関数hu,hv,hwにより現れる負荷端の中性点電位成分であり、出力の線間電圧には現れない。この関数hu,hv,hwの導出方法は、非特許文献1に記載の方法と同様である。
【0051】
[動作]
次に、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の電力変換動作について図面を用いて説明する。
【0052】
制御部5は、マトリックスコンバータ1における各スイッチをPWM制御する。すなわち、制御部5は、上記制御アルゴリズムで求めた制御関数a1〜c3をキャリア波たとえば三角波キャリアまたはノコギリ波キャリアと比較してスイッチングパルスを生成する。そして、制御部5は、生成したスイッチングパルスに基づいてマトリックスコンバータ1における各スイッチをオン・オフする。
【0053】
以下では、マトリックスコンバータ1の入力3相および出力1相についての動作について代表的に説明する。他の出力相についての動作は以下に説明する動作と同様となる。
【0054】
[モード内のスイッチング制御]
図2は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるマトリックスコンバータの出力1相分の等価回路を示す図である。図2は、マトリックスコンバータ1の出力1相すなわちA相と、入力3相すなわちU相,V相,W相との接続関係を示している。
【0055】
図3は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるマトリックスコンバータの出力1相についてのスイッチングパターンの一例を示す図である。
【0056】
制御部5は、たとえば、前述の制御アルゴリズムで求めた制御関数a1〜a3について、三角波キャリアが最小値に達したタイミングをサンプリングデータの更新タイミングとしてPWM制御を行なう。この更新タイミングにおいて、制御関数a1〜a3の値が更新される。この場合、A相に接続された双方向スイッチSa1〜Sa3のスイッチングパルスは図3に示すようになる。
【0057】
すなわち、キャリア波CSのレベルがa1より小さい場合には双方向スイッチSa1がオンし、キャリア波CSのレベルがa1より大きくa1+a2より小さい場合には双方向スイッチSa2がオンし、キャリア波CSのレベルがa1+a2より大きい場合には双方向スイッチSa3がオンする。
【0058】
したがって、キャリア1周期内においてスイッチがオンする順序は、Sa1、Sa2、Sa3、Sa2、Sa1の順序となる。
【0059】
電力変換装置101では、スイッチングパターンは、オン状態となるスイッチが変更される前後の各々においてスイッチを介して1相の負荷へ伝達される交流電圧のうち、少なくとも一方の交流電圧が、複数相の交流電源からそれぞれ供給されている交流電圧の中でレベルが最大となる交流電圧および最小となる交流電圧以外になるように設定される。具体的には、電力変換装置101では、非特許文献2に記載の技術と同様に、入力3相と出力1相とをそれぞれ接続する3つのスイッチのオン順序すなわちスイッチングパターンを、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定する。
【0060】
このような制御方法として、電力変換装置101において採用される一例を説明する。
【0061】
図4は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるモード分けの一例を示す図である。
【0062】
図4を参照して、電力変換装置101では、スイッチングパターンを、入力交流電圧の大小関係によってモードI〜モードVIの6つのモードに分ける。ここで、入力交流電圧vu,vv,vwの周波数はたとえば数十Hzであり、キャリア波の周波数はたとえば数十kHzである。すなわち、各モードの開始から終了までの期間において、制御関数a1〜a3が複数回更新され、マトリックスコンバータ1における各スイッチのオンデューティが切り替えられる。
【0063】
また、3相の入力交流電圧のうち、最大電圧相をVmaxとし、中間電圧相をVmidとし、最小電圧相をVminとする。そして、各モード内のキャリア1周期において出力相に接続される3相の入力交流電圧の順序が、Vmin、Vmid、Vmax、Vmid、Vminの順序となるように、マトリックスコンバータ1の各スイッチのオン順序を決定する。
【0064】
たとえば、入力交流電圧の大小関係がモードIの状態のとき、入力交流電圧の大小関係はVmax=vu,Vmid=vw,Vmin=vvである。モードIにおいて、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるようにするため、出力A相に接続される入力交流電圧の順番は、vv、vw、vu、vw、vvの順番とする。
【0065】
すなわち、モードIでは、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa1、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa2の順番でオンすることになる。
【0066】
図5は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの一例を示す図である。
【0067】
図5を参照して、出力相において、入力U相に接続されたスイッチがオンしている状態を「1」とし、入力V相に接続されたスイッチがオンした状態を「2」とし、入力W相に接続されたスイッチがオンされた状態を「3」とする。
【0068】
たとえば、入力交流電圧の大小関係がモードIIの状態のとき、キャリア1周期内のスイッチング順序は、3、2、1、2、3の順序となる。すなわち、図2に示す回路では、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa1、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa3の順番でオンすることになる。
【0069】
このような各モードのスイッチングパターンの設定は、PWM制御を行なう際にキャリア波と比較する制御関数の順番を変更することにより、簡単に実現することができる。
【0070】
具体例として、モードIにおける出力A相のスイッチングパターンの求め方について図面を用いて説明する。
【0071】
図6は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの求め方の一例を示す図である。
【0072】
図6を参照して、オンするスイッチと制御関数a1〜a3との関係を以下のように設定する。すなわち、キャリア波CSのレベルがa2より小さい場合には双方向スイッチSa2がオンし、キャリア波CSのレベルがa2より大きくa2+a3より小さい場合には双方向スイッチSa3がオンし、キャリア波CSのレベルがa2+a3より大きい場合には双方向スイッチSa1がオンする。
【0073】
したがって、モードI内のキャリア1周期において双方向スイッチがオンする順序は、Sa2、Sa3、Sa1、Sa3、Sa2の順序となる。
【0074】
このように、a2、a2+a3、a2+a3+a1(=1)の3つの値とキャリア波との比較を行なうことにより、上記スイッチングパターンを得ることができる。すなわち、各モードにおけるキャリア波の比較対象を変更することにより、各種スイッチングパターンを得ることが可能である。
【0075】
[モード間のスイッチング制御]
前述のように、MCのPWM制御におけるキャリア波の周波数は、MCの入力電圧等をサンプリングするためのサンプリング周波数と同期させるか、あるいは当該サンプリング周波数の整数倍に設定するのが一般的である。
【0076】
この場合、たとえば、振幅が1の三角波キャリアをPWM制御において用いる構成では、入力交流電圧の瞬時値をサンプリングし、このサンプリング結果に基づいて、キャリア波のレベルが最小のゼロになるタイミングTL、あるいはキャリア波のレベルが最大の1になるタイミングTHのいずれかと同期してモードを切り替えることになる。
【0077】
ここで、図5で説明したような、入力3相と出力1相とをそれぞれ接続する3つのスイッチのオン順序を、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定する構成において、以下のような問題が生じる。
【0078】
すなわち、たとえばモードIからモードIIへの切り替えをタイミングTLで行った場合には、モードを切り替えた瞬間に双方向スイッチSa2のオン状態から双方向スイッチSa3のオン状態へ切り替わるスイッチングが発生してしまう。
【0079】
このようなスイッチングは、スイッチング損失、および転流すなわち相間スイッチングによる電圧誤差が発生する要因となる。このスイッチング損失により、機器の効率が低下し、また、冷却装置が大型化するため、小型軽量化の妨げとなる。また、この電圧誤差は、出力電圧において高調波が発生する要因となる。
【0080】
そこで、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、以下のようなスイッチング制御を行なうことにより、上記問題点を解決する。
【0081】
すなわち、制御部5は、マトリックスコンバータ1のスイッチの組における複数のスイッチを所定の順序に従って択一的にオンし、この順序が異なる複数のモードを有する。制御部5は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいてモードの切り替えを行なう。そして、制御部5は、モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じスイッチがオン状態となるように、すなわちモードの切り替えタイミングの直前にオンするスイッチおよび直後にオンするスイッチが同じになるように切り替えタイミングを設定する。
【0082】
より詳細には、制御部5は、キャリア波の1周期において上記複数のスイッチがオン状態となる割合すなわちオンデューティを示す制御値a1〜a3をそれぞれ算出し、キャリア波と各制御値との比較結果に基づいて、オンすべきスイッチを選択し、かつキャリア波のタイミングに従ってモードの切り替えを行なう。たとえば、制御部5は、上記モードを3つ以上有し、キャリア波のレベルが最大値になるタイミングおよび最小値になるタイミングの両方に従ってモードの切り替えを行なう。
【0083】
具体的には、制御部5は、キャリア波がその振幅の最小値に達するタイミングTL、またはキャリア波がその振幅の最大値に達するタイミングTHであって、かつ切り替え元のモードと切り替え先のモードとで同相のスイッチがオンするタイミングにおいてモードの切り替えを行なう。
【0084】
たとえば、図4に示すように、モードIおよびモードIIにおいては、最大電圧相がU相で共通である。同様に、モードIIIおよびモードIVにおいては、最大電圧相がV相で共通しており、モードVおよびモードVIにおいては、最大電圧相がW相で共通である。
【0085】
そして、キャリア波が最小値に達したタイミングをPWM制御におけるサンプリングデータの更新タイミングとし、図5に示すスイッチング順序に従ってスイッチングを行った場合には、キャリア波が最大値に達したときに、最大電圧相に対応する双方向スイッチが必ずオン状態となる。
【0086】
制御部5は、この特性を利用して、モードIからモードIIへの移行時、モードIIIからモードIVへの移行時、およびモードVからモードVIへの移行時には、キャリア波が最大値に達したタイミングにおいてモード切り替えを行なう。
【0087】
ここで、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ供給される入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わるタイミング、すなわち図4において点線で示されるようなタイミングにおいて入力交流電圧vu,vv,vwのサンプリングを行ない、このサンプリング結果に基づいて即時にモード切り替えを行なう動作が理想的である。
【0088】
しかしながら、実際には、上記サンプリングのタイミングは、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わるタイミングに対してずれる場合が多い。この場合、制御部5は、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わったことを検出した後の、キャリア波のレベルが最小のゼロになるタイミングTL、あるいはキャリア波のレベルが最大の1になるタイミングTHのいずれかにおいてモード切り替えを行なう。すなわち、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わるタイミングから最大でキャリア波の1周期分後においてモード切り替えが行なわれる。上記検出のタイミングは、たとえば図4において点線で示されるようなタイミングの後となる。
【0089】
なお、制御部5は、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わったことを検出する構成に限らず、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの差が所定の閾値未満となったことを検出し、モード切り替えを行なう構成であってもよい。この場合の検出タイミングは、たとえば図4において点線で示されるようなタイミングの前となる。
【0090】
また、入力交流電圧vu,vv,vwのサンプリング周期を、モード1周期たとえば図4では入力交流電圧の1/6周期に所定時間を加えた長さに設定してもよい。たとえば、(モード1周期分+キャリア波の1周期)に設定してもよい。これにより、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わったことを検出して即時にモード切り替えを行なえる可能性を高めることができる。
【0091】
図7は、モードIからモードIIへの切り替え動作の一例を示す図である。図7は、キャリア波が最大値に達したタイミングに同期したモード切り替えの例を示している。
【0092】
図7を参照して、制御部5は、サンプリングデータの更新タイミングを、キャリア波が最小値に達したタイミングTLに設定する。
【0093】
この場合、モードIからモードIIへの移行時にサンプリングデータを更新する必要はなく、キャリア波が最大値に達したタイミングTHでモード切り替え、すなわちスイッチングパターンの変更のみを行なう。
【0094】
また、図4に示すように、モードIIおよびモードIIIにおいては、最小電圧相がW相で共通である。同様に、モードIVおよびモードVにおいては、最小電圧相がU相で共通しており、モードVIおよびモードIにおいては、最小電圧相がV相で共通である。
【0095】
そして、キャリア波が最小値に達したタイミングをPWM制御におけるサンプリングデータの更新タイミングとし、図5のスイッチング順序に従ってスイッチングを行った場合には、キャリア波が最小値に達したときに、最小電圧相に対応する双方向スイッチが必ずオン状態となる。
【0096】
制御部5は、この特性を利用して、モードIIからモードIIIへの移行時、モードIVからモードVへの移行時、およびモードVIからモードIの移行時には、キャリア波が最小値に達したタイミングにおいてモード切り替えを行なう。
【0097】
図8は、モードIIからモードIIIへの切り替え動作の一例を示す図である。図8は、キャリア波が最小値に達したタイミングに同期したモード切り替えの例を示している。
【0098】
図8を参照して、制御部5は、サンプリングデータの更新タイミングを、キャリア波が最小値に達したタイミングTLに設定する。
【0099】
この場合、サンプリングデータの更新およびモード切り替えは、キャリア波が最小値に達したタイミングTLで同時に行われる。
【0100】
以上のように設定したモード切り替えのタイミングをまとめると、以下の図9に示すようになる。
【0101】
図9は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置における、モード切り替えのタイミングの一例を示す図である。
【0102】
図9を参照して、制御部5は、モードIからモードIIへの切り替えタイミング、モードIIIからモードIVへの切り替えタイミングおよびモードVからモードVIへの切り替えタイミングをタイミングTHとする。そして、切り替え時にオン状態すなわち出力相に接続されている入力電圧相は最大電圧相Vmaxとなる。また、制御部5は、モードIIからモードIIIへの切り替えタイミング、モードIVからモードVへの切り替えタイミングおよびモードVIからモードIへの切り替えタイミングをタイミングTLとする。そして、切り替え時にオン状態すなわち出力相に接続されている入力電圧相は最小電圧相Vminとなる。
【0103】
このようにモード切り替えのタイミングを設定することで、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができるため、スイッチングによる損失および電圧誤差の発生を抑制することができる。
【0104】
[変形例]
制御部5は、各モード内のキャリア1周期において出力相に接続される3相の入力交流電圧の順序を、最大電圧相、中間電圧相、最小電圧相、中間電圧相、最大電圧相の順序とする構成であってもよい。このような構成でも、前述の例と同様にモード切り替えのタイミングを設定することにより、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができる。
【0105】
図10は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの他の例を示す図である。図の見方は図5と同様である。
【0106】
図10を参照して、たとえば、入力交流電圧の大小関係がモードIの状態のとき、キャリア1周期内のスイッチング順序は、1、3、2、3、1の順序となる。すなわち、図2に示す回路では、双方向スイッチSa1、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa1の順番でオンすることになる。また、入力交流電圧の大小関係がモードIIの状態のとき、キャリア1周期内のスイッチング順序は、1、2、3、2、1の順序となる。すなわち、図2に示す回路では、双方向スイッチSa1、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa1の順番でオンすることになる。
【0107】
キャリア波が最小値に達したタイミングをPWM制御におけるサンプリングデータの更新タイミングとし、図5のスイッチング順序に従ってスイッチングを行った場合には、キャリア波が最小値に達したときに、最小電圧相に対応する双方向スイッチが必ずオン状態となる。
【0108】
制御部5は、この特性を利用して、モードIからモードIIへの移行時、モードIIIからモードIVへの移行時、およびモードVからモードVIへの移行時には、キャリア波が最小値に達したタイミングにおいてモード切り替えを行なう。
【0109】
また、キャリア波が最小値に達したタイミングをPWM制御におけるサンプリングデータの更新タイミングとし、図5のスイッチング順序に従ってスイッチングを行った場合には、キャリア波が最大値に達したときに、最大電圧相に対応する双方向スイッチが必ずオン状態となる。
【0110】
制御部5は、この特性を利用して、モードIIからモードIIIへの移行時、モードIVからモードVへの移行時、およびモードVIからモードIの移行時には、キャリア波が最大値に達したタイミングにおいてモード切り替えを行なう。
【0111】
図11は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置における、モード切り替えのタイミングの他の例を示す図である。
【0112】
図11を参照して、制御部5は、モードIからモードIIへの切り替えタイミング、モードIIIからモードIVへの切り替えタイミングおよびモードVからモードVIへの切り替えタイミングをタイミングTLとする。そして、切り替え時にオン状態すなわち出力相に接続されている入力電圧相は最小電圧相Vminとなる。また、制御部5は、モードIIからモードIIIへの切り替えタイミング、モードIVからモードVへの切り替えタイミングおよびモードVIからモードIへの切り替えタイミングをタイミングTHとする。そして、切り替え時にオン状態すなわち出力相に接続されている入力電圧相は最大電圧相Vmaxとなる。
【0113】
このようにモード切り替えのタイミングを設定することで、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができるため、スイッチングによる損失および電圧誤差の発生を抑制することができる。
【0114】
ところで、マトリックスコンバータにおいて、切り替え前のスイッチングパターンおよび切り替え後のスイッチングパターンの組み合わせによっては、モードの切り替えタイミングにおいて、最大電圧相と最小電圧相との間でのスイッチングが行われてしまう場合がある。このようなスイッチングにより、スイッチング損失、および転流すなわち相間スイッチングによる電圧誤差が発生する。このスイッチング損失により、機器の効率が低下し、また、冷却装置が大型化するため、小型軽量化の妨げとなる。また、この電圧誤差により、出力電圧において高調波が発生する要因となる。
【0115】
これに対して、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部5は、マトリックスコンバータ1における入力相ごとの複数のスイッチを所定の順序に従って択一的にオンし、この順序が異なる複数のモードを有する。制御部5は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいてモードの切り替えを行なう。そして、制御部5は、モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じスイッチがオン状態となるように切り替えタイミングを設定する。
【0116】
このような構成により、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができるため、スイッチング損失を減少させることができる。これにより、冷却装置の容量を削減でき、引いては機器の小型軽量化に貢献することができる。また、スイッチングを行なうことによって転流期間中に出力電圧誤差が発生するが、電力変換動作におけるスイッチング回数を減少させることにより、この出力電圧誤差を低減し、出力電圧高調波を減少させることができる。
【0117】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部5は、キャリア波の1周期において上記複数のスイッチがオン状態となる割合を示す制御値をそれぞれ算出する。そして、制御部5は、キャリア波と各制御値との比較結果に基づいて、オンすべきスイッチを選択し、かつキャリア波のタイミングに従ってモードの切り替えを行なう。
【0118】
このような構成により、マトリックスコンバータ1における各スイッチを適切にPWM制御し、かつ当該PWM制御に応じた適切なタイミングでモード切り替えを行なうことができる。
【0119】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部5は、上記複数のスイッチのオン順序のモードを3つ以上有し、キャリア波のレベルが最大値になるタイミングおよび最小値になるタイミングの両方に従ってモードの切り替えを行なう。
【0120】
このように、キャリア波のレベルが最大または最小となるタイミングでモードを切り替える構成により、他のタイミングでモード切り替えを行なう構成と比べて、モード切り替え制御の簡易化を図ることができる。
【0121】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、上記複数のスイッチのオン順序は、オン状態となるスイッチが変更される前後の各々においてスイッチを介して1相の負荷へ伝達される交流電圧のうち、少なくとも一方の交流電圧が、複数相の交流電源からそれぞれ供給されている交流電圧の中でレベルが最大となる交流電圧および最小となる交流電圧以外になるように設定される。
【0122】
このような構成により、複数の入力電圧相と各出力相とをそれぞれ接続する複数のスイッチのオン順序を、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定し、出力電圧の高調波を低減する構成において、モード切り替えに伴うスイッチングを防ぐことができる。そして、スイッチング損失、および転流による電圧誤差の発生を抑制することにより、機器の効率低下を抑制し、小型軽量化を図り、出力電圧の高調波を低減することができる。
【0123】
なお、本発明の実施の形態に係る電力変換装置は、測定部4を備える構成であるとしたが、これに限定するものではない。測定部4は、電力変換装置101の外部に設けられる構成であってもよい。
【0124】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0125】
1 マトリックスコンバータ
2 入力フィルタ
3 出力フィルタ
4 測定部
5 制御部
101 電力変換装置
201 電源システム
EU,EV,EW 交流電源
LA,LB,LC 負荷
NL 中性線
Sa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3 双方向スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特に、マトリックスコンバータを備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商用電源からの交流電力を、直流リンクを介さずに任意の電圧および任意の周波数の交流電力に直接変換可能な交流−交流直接形電力変換器であるマトリックスコンバータ(以下、MCとも称する。)が注目されている。
【0003】
MCは、従来の直流リンクを介したコンバータ・インバータシステムと比較すると、サイズ、寿命および効率の点で有利である。また、電源高調波も少なく、回生動作が可能である。
【0004】
このようなMCの制御方法の一例が、石田宗秋・岩崎雅巳・大熊繁・岩田幸二 著、「入力力率可変正弦波入出力PWM制御サイクロコンバータの波形制御法」、電学論D、Vol.107,No.2,pp.239-246、1987(非特許文献1)に開示されている。すなわち、入力電流の位相を制御するX関数と、出力電圧の位相および振幅を制御するY関数とを合成する。この合成により得られた信号波に対してPWM(Pulse Width Modulation)制御を行なうことで、MCにおける各スイッチを制御するためのスイッチングパルスを得る。
【0005】
また、山本吉朗 他 著、「マトリックスコンバータの空間ベクトル変調におけるパルスパターンの改善」、電学論D、Vol.128,No.3,pp.176-183、2008(非特許文献2)には、以下のようなMCの制御方法が開示されている。すなわち、各出力相に接続された3相の入力交流電圧について、最大電圧相と最小電圧相との間でのスイッチングを禁止事項とする。具体的には、入力3相と出力1相とをそれぞれ接続する3つのスイッチのオン順序すなわちスイッチングパターンを、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定する(非特許文献2)。このようなスイッチングにより、出力電圧の高調波を低減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】石田宗秋・岩崎雅巳・大熊繁・岩田幸二 著、「入力力率可変正弦波入出力PWM制御サイクロコンバータの波形制御法」、電学論D、Vol.107,No.2,pp.239-246、1987
【非特許文献2】山本吉朗 他 著、「マトリックスコンバータの空間ベクトル変調におけるパルスパターンの改善」、電学論D、Vol.128,No.3,pp.176-183、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献2に記載のスイッチングパターンは、各タイミングにおける3相の入力電圧の大小関係に応じて複数種類用意する必要がある。
【0008】
また、MCのPWM制御におけるキャリア波の周波数は、MCの入力電圧等をサンプリングするためのサンプリング周波数と同期させるか、あるいは当該サンプリング周波数の整数倍に設定するのが一般的である。
【0009】
この場合、たとえば、振幅が1の三角波キャリアをPWM制御において用いる構成では、入力電圧の瞬時値をサンプリングし、このサンプリング結果に基づいて、キャリア波のレベルが最小のゼロになるタイミング、あるいはキャリア波のレベルが最大の1になるタイミングのいずれかと同期してモードを切り替えることになる。
【0010】
しかしながら、切り替え前のスイッチングパターンおよび切り替え後のスイッチングパターンの組み合わせによっては、モードの切り替えタイミングにおいて、最大電圧相と最小電圧相との間でのスイッチングが行われてしまう場合がある。
【0011】
このようなスイッチングは、スイッチング損失、および転流すなわち相間スイッチングによる電圧誤差が発生する要因となる。このスイッチング損失により、機器の効率が低下し、また、冷却装置が大型化するため、小型軽量化の妨げとなる。また、この電圧誤差は、出力電圧において高調波が発生する要因となる。
【0012】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、マトリックスコンバータにおける各スイッチを適切に制御することにより、スイッチング損失および電圧誤差の発生を抑制することが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる電力変換装置は、複数相の電源からそれぞれ供給される交流電力を複数相の交流電力に変換して負荷に供給するためのマトリックスコンバータと、上記マトリックスコンバータを制御するための制御部とを備え、上記マトリックスコンバータは、上記電源ごとに設けられ、対応の上記電源から供給される交流電力を、オンすることにより上記負荷に伝達するための複数のスイッチを含み、上記制御部は、上記複数のスイッチを所定の順序に従って択一的にオンし、上記順序が異なる複数のモードを有し、上記複数相の電源からそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいて上記モードの切り替えを行い、上記モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じ上記スイッチがオン状態となるように上記切り替えタイミングを設定する。
【0014】
このような構成により、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができるため、スイッチング損失を減少させることができる。これにより、冷却装置の容量を削減でき、引いては機器の小型軽量化に貢献することができる。また、スイッチングを行なうことによって転流期間中に出力電圧誤差が発生するが、電力変換動作におけるスイッチング回数を減少させることにより、この出力電圧誤差を低減し、出力電圧高調波を減少させることができる。
【0015】
好ましくは、上記制御部は、キャリア波の1周期において上記複数のスイッチがオン状態となる割合を示す制御値をそれぞれ算出し、上記キャリア波と各上記制御値との比較結果に基づいて、オンすべき上記スイッチを選択し、かつ上記キャリア波のタイミングに従って上記モードの切り替えを行なう。
【0016】
このような構成により、マトリックスコンバータにおける各スイッチを適切にPWM制御し、かつ当該PWM制御に応じた適切なタイミングでモード切り替えを行なうことができる。
【0017】
より好ましくは、上記制御部は、上記モードを3つ以上有し、上記キャリア波のレベルが最大値になるタイミングおよび最小値になるタイミングの両方に従って上記モードの切り替えを行なう。
【0018】
このように、キャリア波のレベルが最大または最小となるタイミングでモードを切り替える構成により、他のタイミングでモード切り替えを行なう構成と比べて、モード切り替え制御の簡易化を図ることができる。
【0019】
好ましくは、上記所定の順序は、オン状態となる上記スイッチが変更される前後の各々において上記スイッチを介して上記負荷へ伝達される上記交流電圧のうち、少なくとも一方の交流電圧が、上記複数相の電源からそれぞれ供給されている交流電圧の中でレベルが最大となる交流電圧および最小となる交流電圧以外になるように設定される。
【0020】
このような構成により、複数の入力電圧相と各出力相とをそれぞれ接続する複数のスイッチのオン順序を、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定し、出力電圧の高調波を低減する構成において、モード切り替えに伴うスイッチングを防ぐことができる。そして、スイッチング損失、および転流による電圧誤差の発生を抑制することにより、機器の効率低下を抑制し、小型軽量化を図り、出力電圧の高調波を低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マトリックスコンバータにおける各スイッチを適切に制御することにより、スイッチング損失および電圧誤差の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるマトリックスコンバータの出力1相分の等価回路を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるマトリックスコンバータの出力1相についてのスイッチングパターンの一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるモード分けの一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの求め方の一例を示す図である。
【図7】モードIからモードIIへの切り替え動作の一例を示す図である。
【図8】モードIIからモードIIIへの切り替え動作の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る電力変換装置における、モード切り替えのタイミングの一例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの他の例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る電力変換装置における、モード切り替えのタイミングの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
[構成および基本動作]
図1は、本発明の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【0025】
図1を参照して、電源システム201は、中性線NLに接続された交流電源EU,EV,EWと、電力変換装置101と、負荷LA,LB,LCとを備える。電力変換装置101は、マトリックスコンバータ1と、入力フィルタ2と、出力フィルタ3と、測定部4と、制御部5とを含む。マトリックスコンバータ1は、双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3を含む。負荷LA,LB,LCは、たとえばスター結線されている。
【0026】
電力変換装置101は、たとえば三相3線式であり、周波数および振幅が変動する複数相の交流電力から任意の周波数および任意の振幅を有する複数相の交流電圧または交流電流を生成する。すなわち、電力変換装置101は、交流電源EU,EV,EWの各々から供給されるU相,V相,W相の交流電力を任意の周波数および任意の振幅を有するA相,B相,C相の交流電力に変換して負荷LA,LB,LCにそれぞれ供給する。
【0027】
入力フィルタ2は、交流電源EU,EV,EWとマトリックスコンバータ1との間に設けられている。
【0028】
出力フィルタ3は、マトリックスコンバータ1と負荷LA,LB,LCとの間に設けられている。
【0029】
マトリックスコンバータ1では、交流電源ごとに設けられ、対応の交流電源から供給される交流電力を、オンすることにより1相の負荷に伝達するためのスイッチの組が設けられる。このスイッチの組は、負荷の相ごとに設けられる。すなわち、マトリックスコンバータ1は、A相に対応する双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3の組と、B相に対応する双方向スイッチSb1,Sb2,Sb3の組と、C相に対応する双方向スイッチSc1,Sc2,Sc3の組とを含む。
【0030】
双方向スイッチSa1は、入力フィルタ2のU相出力と出力フィルタ3のA相入力との間に接続されている。双方向スイッチSa2は、入力フィルタ2のV相出力と出力フィルタ3のA相入力との間に接続されている。双方向スイッチSa3は、入力フィルタ2のW相出力と出力フィルタ3のA相入力との間に接続されている。双方向スイッチSb1は、入力フィルタ2のU相出力と出力フィルタ3のB相入力との間に接続されている。双方向スイッチSb2は、入力フィルタ2のV相出力と出力フィルタ3のB相入力との間に接続されている。双方向スイッチSb3は、入力フィルタ2のW相出力と出力フィルタ3のB相入力との間に接続されている。双方向スイッチSc1は、入力フィルタ2のU相出力と出力フィルタ3のC相入力との間に接続されている。双方向スイッチSc2は、入力フィルタ2のV相出力と出力フィルタ3のC相入力との間に接続されている。双方向スイッチSc3は、入力フィルタ2のW相出力と出力フィルタ3のC相入力との間に接続されている。
【0031】
双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3の各々は、通常はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチを2つ組み合わせることで構成される。ただし、IGBT等の半導体素子は逆耐圧を持たないため、一般的にはIGBTおよびダイオードを逆並列接続、すなわち互いの導通方向が逆向きになるように並列接続した回路を2つ直列に組み合わせた回路構成が用いられる。なお、逆耐圧を持つ半導体スイッチを用いる場合には、ダイオードは不要であり、2つの半導体スイッチを逆並列接続すればよい。
【0032】
入力フィルタ2は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ受けたU相,V相,W相の交流電力に含まれる所定周波数以上のノイズを減衰させ、減衰後の交流電力をマトリックスコンバータ1へ出力する。
【0033】
マトリックスコンバータ1は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ受けた入力交流電力を複数相の出力交流電力に変換して負荷LA,LB,LCへ出力する。具体的には、マトリックスコンバータ1は、制御部5から受けた制御信号G1〜G9に基づいて双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3をそれぞれオン・オフすることにより、入力フィルタ2を通過したU相,V相,W相の交流電力を任意の周波数および任意の電圧振幅を有するA相,B相,C相の交流電力に変換し、出力フィルタ3へ出力する。
【0034】
出力フィルタ3は、マトリックスコンバータ1から受けたA相,B相,C相の交流電力に含まれる所定周波数以上のノイズを減衰させ、減衰後の交流電力を負荷LA,LB,LCへそれぞれ出力する。
【0035】
ここで、出力フィルタ3が減衰させるノイズの周波数は、電源システム201の仕様に応じて適宜変更され、たとえば負荷LA,LB,LCへ供給すべき交流電力の周波数より高い周波数である。
【0036】
測定部4は、図示しない電流検出部を含み、マトリックスコンバータ1が交流電源EU,EV,EWから受ける入力交流電流iu,iv,iw、およびマトリックスコンバータ1が出力する出力交流電流ia,ib,icを検出し、検出結果を示す信号を制御部5へ出力する。
【0037】
また、測定部4は、図示しない電圧検出部を含み、交流電源EU,EV,EWがマトリックスコンバータ1へ出力する電源交流電圧vu0,vv0,vw0、マトリックスコンバータ1が入力フィルタ2を介して交流電源EU,EV,EWから受ける入力交流電圧vu,vv,vw、およびマトリックスコンバータ1の出力交流電圧va,vb,vcを検出し、検出結果を示す信号を制御部5へ出力する。
【0038】
制御部5は、測定部4の検出結果に基づいて制御信号G1〜G9を生成し、マトリックスコンバータ1における双方向スイッチSa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3へそれぞれ出力することにより、マトリックスコンバータ1を制御する。
【0039】
電源交流電圧vu0,vv0,vw0および入力交流電圧vu,vv,vwは、以下の式で表される。
【数1】
【数2】
【0040】
(1)式および(2)式において、ωは交流電源EU,EV,EWの角周波数であり、VSはフィルタ前の電圧振幅すなわち電源交流電圧vu0,vv0,vw0の振幅であり、Vはフィルタ後の電圧振幅すなわち入力交流電圧vu,vv,vwの振幅である。また、δは入力フィルタ2によって生じる位相遅れ角である。
【0041】
制御部5は、サンプリング周期Tsごとにマトリックスコンバータ1における各スイッチのオンデューティを更新する。
【0042】
ここで、マトリックスコンバータ1における各スイッチの制御法則を定式化するための制御関数a1〜c3を考える。
【0043】
たとえば双方向スイッチSa1のサンプリング周期内のオン割合すなわちオンデューティをa1と定義し、a1を以下の式に示すように定義する。
【数3】
【0044】
電力変換装置101は直接形電力変換器であるため、入力側の短絡および出力側の開放が許されない。このため、以下の拘束条件が必要となる。
【数4】
【数5】
【0045】
制御部5は、制御関数が以下の式で表されるような制御を行なう。
【数6】
ただし、Y1+Y2+Y3=0
【0046】
ここで、(6)式における関数X1,X2,X3は以下の式で表され、入力側関数と呼ぶ。
【数7】
【0047】
(7)式において、ψSはマトリックスコンバータ1の入力交流電圧に対する入力交流電流の位相の指令値であり、Aは電圧振幅変調率である。
【0048】
また、(6)式における関数Y1,Y2,Y3を出力側関数と呼び、この出力側関数は、出力電圧の指令波形を表す。
【0049】
また、(6)式におけるhu,hv,hwは(4)式の拘束条件を満足させるために導入した関数である。このとき、期間Tsにおける出力交流電圧va,vb,vcの平均値は、(2)式、(6)式および(7)式から、以下のようになる。
【数8】
【数9】
【0050】
(8)式において、第1項は、求めるマトリックスコンバータ1の出力電圧である。出力電圧には出力側関数Y1,Y2,Y3の波形がそのまま現れる。このため、出力側関数は出力電圧の指令波形となる。また、第2項は、関数hu,hv,hwにより現れる負荷端の中性点電位成分であり、出力の線間電圧には現れない。この関数hu,hv,hwの導出方法は、非特許文献1に記載の方法と同様である。
【0051】
[動作]
次に、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の電力変換動作について図面を用いて説明する。
【0052】
制御部5は、マトリックスコンバータ1における各スイッチをPWM制御する。すなわち、制御部5は、上記制御アルゴリズムで求めた制御関数a1〜c3をキャリア波たとえば三角波キャリアまたはノコギリ波キャリアと比較してスイッチングパルスを生成する。そして、制御部5は、生成したスイッチングパルスに基づいてマトリックスコンバータ1における各スイッチをオン・オフする。
【0053】
以下では、マトリックスコンバータ1の入力3相および出力1相についての動作について代表的に説明する。他の出力相についての動作は以下に説明する動作と同様となる。
【0054】
[モード内のスイッチング制御]
図2は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるマトリックスコンバータの出力1相分の等価回路を示す図である。図2は、マトリックスコンバータ1の出力1相すなわちA相と、入力3相すなわちU相,V相,W相との接続関係を示している。
【0055】
図3は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるマトリックスコンバータの出力1相についてのスイッチングパターンの一例を示す図である。
【0056】
制御部5は、たとえば、前述の制御アルゴリズムで求めた制御関数a1〜a3について、三角波キャリアが最小値に達したタイミングをサンプリングデータの更新タイミングとしてPWM制御を行なう。この更新タイミングにおいて、制御関数a1〜a3の値が更新される。この場合、A相に接続された双方向スイッチSa1〜Sa3のスイッチングパルスは図3に示すようになる。
【0057】
すなわち、キャリア波CSのレベルがa1より小さい場合には双方向スイッチSa1がオンし、キャリア波CSのレベルがa1より大きくa1+a2より小さい場合には双方向スイッチSa2がオンし、キャリア波CSのレベルがa1+a2より大きい場合には双方向スイッチSa3がオンする。
【0058】
したがって、キャリア1周期内においてスイッチがオンする順序は、Sa1、Sa2、Sa3、Sa2、Sa1の順序となる。
【0059】
電力変換装置101では、スイッチングパターンは、オン状態となるスイッチが変更される前後の各々においてスイッチを介して1相の負荷へ伝達される交流電圧のうち、少なくとも一方の交流電圧が、複数相の交流電源からそれぞれ供給されている交流電圧の中でレベルが最大となる交流電圧および最小となる交流電圧以外になるように設定される。具体的には、電力変換装置101では、非特許文献2に記載の技術と同様に、入力3相と出力1相とをそれぞれ接続する3つのスイッチのオン順序すなわちスイッチングパターンを、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定する。
【0060】
このような制御方法として、電力変換装置101において採用される一例を説明する。
【0061】
図4は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるモード分けの一例を示す図である。
【0062】
図4を参照して、電力変換装置101では、スイッチングパターンを、入力交流電圧の大小関係によってモードI〜モードVIの6つのモードに分ける。ここで、入力交流電圧vu,vv,vwの周波数はたとえば数十Hzであり、キャリア波の周波数はたとえば数十kHzである。すなわち、各モードの開始から終了までの期間において、制御関数a1〜a3が複数回更新され、マトリックスコンバータ1における各スイッチのオンデューティが切り替えられる。
【0063】
また、3相の入力交流電圧のうち、最大電圧相をVmaxとし、中間電圧相をVmidとし、最小電圧相をVminとする。そして、各モード内のキャリア1周期において出力相に接続される3相の入力交流電圧の順序が、Vmin、Vmid、Vmax、Vmid、Vminの順序となるように、マトリックスコンバータ1の各スイッチのオン順序を決定する。
【0064】
たとえば、入力交流電圧の大小関係がモードIの状態のとき、入力交流電圧の大小関係はVmax=vu,Vmid=vw,Vmin=vvである。モードIにおいて、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるようにするため、出力A相に接続される入力交流電圧の順番は、vv、vw、vu、vw、vvの順番とする。
【0065】
すなわち、モードIでは、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa1、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa2の順番でオンすることになる。
【0066】
図5は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの一例を示す図である。
【0067】
図5を参照して、出力相において、入力U相に接続されたスイッチがオンしている状態を「1」とし、入力V相に接続されたスイッチがオンした状態を「2」とし、入力W相に接続されたスイッチがオンされた状態を「3」とする。
【0068】
たとえば、入力交流電圧の大小関係がモードIIの状態のとき、キャリア1周期内のスイッチング順序は、3、2、1、2、3の順序となる。すなわち、図2に示す回路では、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa1、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa3の順番でオンすることになる。
【0069】
このような各モードのスイッチングパターンの設定は、PWM制御を行なう際にキャリア波と比較する制御関数の順番を変更することにより、簡単に実現することができる。
【0070】
具体例として、モードIにおける出力A相のスイッチングパターンの求め方について図面を用いて説明する。
【0071】
図6は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの求め方の一例を示す図である。
【0072】
図6を参照して、オンするスイッチと制御関数a1〜a3との関係を以下のように設定する。すなわち、キャリア波CSのレベルがa2より小さい場合には双方向スイッチSa2がオンし、キャリア波CSのレベルがa2より大きくa2+a3より小さい場合には双方向スイッチSa3がオンし、キャリア波CSのレベルがa2+a3より大きい場合には双方向スイッチSa1がオンする。
【0073】
したがって、モードI内のキャリア1周期において双方向スイッチがオンする順序は、Sa2、Sa3、Sa1、Sa3、Sa2の順序となる。
【0074】
このように、a2、a2+a3、a2+a3+a1(=1)の3つの値とキャリア波との比較を行なうことにより、上記スイッチングパターンを得ることができる。すなわち、各モードにおけるキャリア波の比較対象を変更することにより、各種スイッチングパターンを得ることが可能である。
【0075】
[モード間のスイッチング制御]
前述のように、MCのPWM制御におけるキャリア波の周波数は、MCの入力電圧等をサンプリングするためのサンプリング周波数と同期させるか、あるいは当該サンプリング周波数の整数倍に設定するのが一般的である。
【0076】
この場合、たとえば、振幅が1の三角波キャリアをPWM制御において用いる構成では、入力交流電圧の瞬時値をサンプリングし、このサンプリング結果に基づいて、キャリア波のレベルが最小のゼロになるタイミングTL、あるいはキャリア波のレベルが最大の1になるタイミングTHのいずれかと同期してモードを切り替えることになる。
【0077】
ここで、図5で説明したような、入力3相と出力1相とをそれぞれ接続する3つのスイッチのオン順序を、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定する構成において、以下のような問題が生じる。
【0078】
すなわち、たとえばモードIからモードIIへの切り替えをタイミングTLで行った場合には、モードを切り替えた瞬間に双方向スイッチSa2のオン状態から双方向スイッチSa3のオン状態へ切り替わるスイッチングが発生してしまう。
【0079】
このようなスイッチングは、スイッチング損失、および転流すなわち相間スイッチングによる電圧誤差が発生する要因となる。このスイッチング損失により、機器の効率が低下し、また、冷却装置が大型化するため、小型軽量化の妨げとなる。また、この電圧誤差は、出力電圧において高調波が発生する要因となる。
【0080】
そこで、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、以下のようなスイッチング制御を行なうことにより、上記問題点を解決する。
【0081】
すなわち、制御部5は、マトリックスコンバータ1のスイッチの組における複数のスイッチを所定の順序に従って択一的にオンし、この順序が異なる複数のモードを有する。制御部5は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいてモードの切り替えを行なう。そして、制御部5は、モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じスイッチがオン状態となるように、すなわちモードの切り替えタイミングの直前にオンするスイッチおよび直後にオンするスイッチが同じになるように切り替えタイミングを設定する。
【0082】
より詳細には、制御部5は、キャリア波の1周期において上記複数のスイッチがオン状態となる割合すなわちオンデューティを示す制御値a1〜a3をそれぞれ算出し、キャリア波と各制御値との比較結果に基づいて、オンすべきスイッチを選択し、かつキャリア波のタイミングに従ってモードの切り替えを行なう。たとえば、制御部5は、上記モードを3つ以上有し、キャリア波のレベルが最大値になるタイミングおよび最小値になるタイミングの両方に従ってモードの切り替えを行なう。
【0083】
具体的には、制御部5は、キャリア波がその振幅の最小値に達するタイミングTL、またはキャリア波がその振幅の最大値に達するタイミングTHであって、かつ切り替え元のモードと切り替え先のモードとで同相のスイッチがオンするタイミングにおいてモードの切り替えを行なう。
【0084】
たとえば、図4に示すように、モードIおよびモードIIにおいては、最大電圧相がU相で共通である。同様に、モードIIIおよびモードIVにおいては、最大電圧相がV相で共通しており、モードVおよびモードVIにおいては、最大電圧相がW相で共通である。
【0085】
そして、キャリア波が最小値に達したタイミングをPWM制御におけるサンプリングデータの更新タイミングとし、図5に示すスイッチング順序に従ってスイッチングを行った場合には、キャリア波が最大値に達したときに、最大電圧相に対応する双方向スイッチが必ずオン状態となる。
【0086】
制御部5は、この特性を利用して、モードIからモードIIへの移行時、モードIIIからモードIVへの移行時、およびモードVからモードVIへの移行時には、キャリア波が最大値に達したタイミングにおいてモード切り替えを行なう。
【0087】
ここで、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ供給される入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わるタイミング、すなわち図4において点線で示されるようなタイミングにおいて入力交流電圧vu,vv,vwのサンプリングを行ない、このサンプリング結果に基づいて即時にモード切り替えを行なう動作が理想的である。
【0088】
しかしながら、実際には、上記サンプリングのタイミングは、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わるタイミングに対してずれる場合が多い。この場合、制御部5は、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わったことを検出した後の、キャリア波のレベルが最小のゼロになるタイミングTL、あるいはキャリア波のレベルが最大の1になるタイミングTHのいずれかにおいてモード切り替えを行なう。すなわち、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わるタイミングから最大でキャリア波の1周期分後においてモード切り替えが行なわれる。上記検出のタイミングは、たとえば図4において点線で示されるようなタイミングの後となる。
【0089】
なお、制御部5は、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わったことを検出する構成に限らず、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの差が所定の閾値未満となったことを検出し、モード切り替えを行なう構成であってもよい。この場合の検出タイミングは、たとえば図4において点線で示されるようなタイミングの前となる。
【0090】
また、入力交流電圧vu,vv,vwのサンプリング周期を、モード1周期たとえば図4では入力交流電圧の1/6周期に所定時間を加えた長さに設定してもよい。たとえば、(モード1周期分+キャリア波の1周期)に設定してもよい。これにより、入力交流電圧vu,vv,vwのレベルの大小関係が変わったことを検出して即時にモード切り替えを行なえる可能性を高めることができる。
【0091】
図7は、モードIからモードIIへの切り替え動作の一例を示す図である。図7は、キャリア波が最大値に達したタイミングに同期したモード切り替えの例を示している。
【0092】
図7を参照して、制御部5は、サンプリングデータの更新タイミングを、キャリア波が最小値に達したタイミングTLに設定する。
【0093】
この場合、モードIからモードIIへの移行時にサンプリングデータを更新する必要はなく、キャリア波が最大値に達したタイミングTHでモード切り替え、すなわちスイッチングパターンの変更のみを行なう。
【0094】
また、図4に示すように、モードIIおよびモードIIIにおいては、最小電圧相がW相で共通である。同様に、モードIVおよびモードVにおいては、最小電圧相がU相で共通しており、モードVIおよびモードIにおいては、最小電圧相がV相で共通である。
【0095】
そして、キャリア波が最小値に達したタイミングをPWM制御におけるサンプリングデータの更新タイミングとし、図5のスイッチング順序に従ってスイッチングを行った場合には、キャリア波が最小値に達したときに、最小電圧相に対応する双方向スイッチが必ずオン状態となる。
【0096】
制御部5は、この特性を利用して、モードIIからモードIIIへの移行時、モードIVからモードVへの移行時、およびモードVIからモードIの移行時には、キャリア波が最小値に達したタイミングにおいてモード切り替えを行なう。
【0097】
図8は、モードIIからモードIIIへの切り替え動作の一例を示す図である。図8は、キャリア波が最小値に達したタイミングに同期したモード切り替えの例を示している。
【0098】
図8を参照して、制御部5は、サンプリングデータの更新タイミングを、キャリア波が最小値に達したタイミングTLに設定する。
【0099】
この場合、サンプリングデータの更新およびモード切り替えは、キャリア波が最小値に達したタイミングTLで同時に行われる。
【0100】
以上のように設定したモード切り替えのタイミングをまとめると、以下の図9に示すようになる。
【0101】
図9は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置における、モード切り替えのタイミングの一例を示す図である。
【0102】
図9を参照して、制御部5は、モードIからモードIIへの切り替えタイミング、モードIIIからモードIVへの切り替えタイミングおよびモードVからモードVIへの切り替えタイミングをタイミングTHとする。そして、切り替え時にオン状態すなわち出力相に接続されている入力電圧相は最大電圧相Vmaxとなる。また、制御部5は、モードIIからモードIIIへの切り替えタイミング、モードIVからモードVへの切り替えタイミングおよびモードVIからモードIへの切り替えタイミングをタイミングTLとする。そして、切り替え時にオン状態すなわち出力相に接続されている入力電圧相は最小電圧相Vminとなる。
【0103】
このようにモード切り替えのタイミングを設定することで、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができるため、スイッチングによる損失および電圧誤差の発生を抑制することができる。
【0104】
[変形例]
制御部5は、各モード内のキャリア1周期において出力相に接続される3相の入力交流電圧の順序を、最大電圧相、中間電圧相、最小電圧相、中間電圧相、最大電圧相の順序とする構成であってもよい。このような構成でも、前述の例と同様にモード切り替えのタイミングを設定することにより、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができる。
【0105】
図10は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置におけるスイッチングパターンの他の例を示す図である。図の見方は図5と同様である。
【0106】
図10を参照して、たとえば、入力交流電圧の大小関係がモードIの状態のとき、キャリア1周期内のスイッチング順序は、1、3、2、3、1の順序となる。すなわち、図2に示す回路では、双方向スイッチSa1、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa1の順番でオンすることになる。また、入力交流電圧の大小関係がモードIIの状態のとき、キャリア1周期内のスイッチング順序は、1、2、3、2、1の順序となる。すなわち、図2に示す回路では、双方向スイッチSa1、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa3、双方向スイッチSa2、双方向スイッチSa1の順番でオンすることになる。
【0107】
キャリア波が最小値に達したタイミングをPWM制御におけるサンプリングデータの更新タイミングとし、図5のスイッチング順序に従ってスイッチングを行った場合には、キャリア波が最小値に達したときに、最小電圧相に対応する双方向スイッチが必ずオン状態となる。
【0108】
制御部5は、この特性を利用して、モードIからモードIIへの移行時、モードIIIからモードIVへの移行時、およびモードVからモードVIへの移行時には、キャリア波が最小値に達したタイミングにおいてモード切り替えを行なう。
【0109】
また、キャリア波が最小値に達したタイミングをPWM制御におけるサンプリングデータの更新タイミングとし、図5のスイッチング順序に従ってスイッチングを行った場合には、キャリア波が最大値に達したときに、最大電圧相に対応する双方向スイッチが必ずオン状態となる。
【0110】
制御部5は、この特性を利用して、モードIIからモードIIIへの移行時、モードIVからモードVへの移行時、およびモードVIからモードIの移行時には、キャリア波が最大値に達したタイミングにおいてモード切り替えを行なう。
【0111】
図11は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置における、モード切り替えのタイミングの他の例を示す図である。
【0112】
図11を参照して、制御部5は、モードIからモードIIへの切り替えタイミング、モードIIIからモードIVへの切り替えタイミングおよびモードVからモードVIへの切り替えタイミングをタイミングTLとする。そして、切り替え時にオン状態すなわち出力相に接続されている入力電圧相は最小電圧相Vminとなる。また、制御部5は、モードIIからモードIIIへの切り替えタイミング、モードIVからモードVへの切り替えタイミングおよびモードVIからモードIへの切り替えタイミングをタイミングTHとする。そして、切り替え時にオン状態すなわち出力相に接続されている入力電圧相は最大電圧相Vmaxとなる。
【0113】
このようにモード切り替えのタイミングを設定することで、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができるため、スイッチングによる損失および電圧誤差の発生を抑制することができる。
【0114】
ところで、マトリックスコンバータにおいて、切り替え前のスイッチングパターンおよび切り替え後のスイッチングパターンの組み合わせによっては、モードの切り替えタイミングにおいて、最大電圧相と最小電圧相との間でのスイッチングが行われてしまう場合がある。このようなスイッチングにより、スイッチング損失、および転流すなわち相間スイッチングによる電圧誤差が発生する。このスイッチング損失により、機器の効率が低下し、また、冷却装置が大型化するため、小型軽量化の妨げとなる。また、この電圧誤差により、出力電圧において高調波が発生する要因となる。
【0115】
これに対して、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部5は、マトリックスコンバータ1における入力相ごとの複数のスイッチを所定の順序に従って択一的にオンし、この順序が異なる複数のモードを有する。制御部5は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいてモードの切り替えを行なう。そして、制御部5は、モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じスイッチがオン状態となるように切り替えタイミングを設定する。
【0116】
このような構成により、モード切り替えに伴うスイッチングの発生を防ぐことができるため、スイッチング損失を減少させることができる。これにより、冷却装置の容量を削減でき、引いては機器の小型軽量化に貢献することができる。また、スイッチングを行なうことによって転流期間中に出力電圧誤差が発生するが、電力変換動作におけるスイッチング回数を減少させることにより、この出力電圧誤差を低減し、出力電圧高調波を減少させることができる。
【0117】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部5は、キャリア波の1周期において上記複数のスイッチがオン状態となる割合を示す制御値をそれぞれ算出する。そして、制御部5は、キャリア波と各制御値との比較結果に基づいて、オンすべきスイッチを選択し、かつキャリア波のタイミングに従ってモードの切り替えを行なう。
【0118】
このような構成により、マトリックスコンバータ1における各スイッチを適切にPWM制御し、かつ当該PWM制御に応じた適切なタイミングでモード切り替えを行なうことができる。
【0119】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、制御部5は、上記複数のスイッチのオン順序のモードを3つ以上有し、キャリア波のレベルが最大値になるタイミングおよび最小値になるタイミングの両方に従ってモードの切り替えを行なう。
【0120】
このように、キャリア波のレベルが最大または最小となるタイミングでモードを切り替える構成により、他のタイミングでモード切り替えを行なう構成と比べて、モード切り替え制御の簡易化を図ることができる。
【0121】
また、本発明の実施の形態に係る電力変換装置では、上記複数のスイッチのオン順序は、オン状態となるスイッチが変更される前後の各々においてスイッチを介して1相の負荷へ伝達される交流電圧のうち、少なくとも一方の交流電圧が、複数相の交流電源からそれぞれ供給されている交流電圧の中でレベルが最大となる交流電圧および最小となる交流電圧以外になるように設定される。
【0122】
このような構成により、複数の入力電圧相と各出力相とをそれぞれ接続する複数のスイッチのオン順序を、最大電圧相および最小電圧相が必ず中間電圧相を経由して切り替わるように設定し、出力電圧の高調波を低減する構成において、モード切り替えに伴うスイッチングを防ぐことができる。そして、スイッチング損失、および転流による電圧誤差の発生を抑制することにより、機器の効率低下を抑制し、小型軽量化を図り、出力電圧の高調波を低減することができる。
【0123】
なお、本発明の実施の形態に係る電力変換装置は、測定部4を備える構成であるとしたが、これに限定するものではない。測定部4は、電力変換装置101の外部に設けられる構成であってもよい。
【0124】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0125】
1 マトリックスコンバータ
2 入力フィルタ
3 出力フィルタ
4 測定部
5 制御部
101 電力変換装置
201 電源システム
EU,EV,EW 交流電源
LA,LB,LC 負荷
NL 中性線
Sa1,Sa2,Sa3,Sb1,Sb2,Sb3,Sc1,Sc2,Sc3 双方向スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相の電源からそれぞれ供給される交流電力を複数相の交流電力に変換して負荷に供給するためのマトリックスコンバータと、
前記マトリックスコンバータを制御するための制御部とを備え、
前記マトリックスコンバータは、
前記電源ごとに設けられ、対応の前記電源から供給される交流電力を、オンすることにより前記負荷に伝達するための複数のスイッチを含み、
前記制御部は、前記複数のスイッチを所定の順序に従って択一的にオンし、前記順序が異なる複数のモードを有し、前記複数相の電源からそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいて前記モードの切り替えを行い、前記モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じ前記スイッチがオン状態となるように前記切り替えタイミングを設定する、電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、キャリア波の1周期において前記複数のスイッチがオン状態となる割合を示す制御値をそれぞれ算出し、前記キャリア波と各前記制御値との比較結果に基づいて、オンすべき前記スイッチを選択し、かつ前記キャリア波のタイミングに従って前記モードの切り替えを行なう、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記モードを3つ以上有し、前記キャリア波のレベルが最大値になるタイミングおよび最小値になるタイミングの両方に従って前記モードの切り替えを行なう、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記所定の順序は、オン状態となる前記スイッチが変更される前後の各々において前記スイッチを介して前記負荷へ伝達される前記交流電圧のうち、少なくとも一方の交流電圧が、前記複数相の電源からそれぞれ供給されている交流電圧の中でレベルが最大となる交流電圧および最小となる交流電圧以外になるように設定される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項1】
複数相の電源からそれぞれ供給される交流電力を複数相の交流電力に変換して負荷に供給するためのマトリックスコンバータと、
前記マトリックスコンバータを制御するための制御部とを備え、
前記マトリックスコンバータは、
前記電源ごとに設けられ、対応の前記電源から供給される交流電力を、オンすることにより前記負荷に伝達するための複数のスイッチを含み、
前記制御部は、前記複数のスイッチを所定の順序に従って択一的にオンし、前記順序が異なる複数のモードを有し、前記複数相の電源からそれぞれ供給される交流電圧のレベルの大小関係に基づいて前記モードの切り替えを行い、前記モードの切り替えタイミングを含む前後の期間において同じ前記スイッチがオン状態となるように前記切り替えタイミングを設定する、電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、キャリア波の1周期において前記複数のスイッチがオン状態となる割合を示す制御値をそれぞれ算出し、前記キャリア波と各前記制御値との比較結果に基づいて、オンすべき前記スイッチを選択し、かつ前記キャリア波のタイミングに従って前記モードの切り替えを行なう、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記モードを3つ以上有し、前記キャリア波のレベルが最大値になるタイミングおよび最小値になるタイミングの両方に従って前記モードの切り替えを行なう、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記所定の順序は、オン状態となる前記スイッチが変更される前後の各々において前記スイッチを介して前記負荷へ伝達される前記交流電圧のうち、少なくとも一方の交流電圧が、前記複数相の電源からそれぞれ供給されている交流電圧の中でレベルが最大となる交流電圧および最小となる交流電圧以外になるように設定される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−106468(P2013−106468A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249824(P2011−249824)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]