説明

電力変換装置

【課題】筐体内部の温度上昇を抑制すると共に、冷却器の冷却効率を向上させることを可能とする電力変換装置を得ること。
【解決手段】半導体素子3をスイッチング駆動することにより交直流変換を行う電力変換装置であって、半導体素子3と、半導体素子3への直流印加電圧を平滑する平滑コンデンサと、半導体素子3を取り付けるベース面2および半導体素子3が発する熱を放熱する放熱部1aを有する冷却器1と、平滑コンデンサ5aが格納され、前記ベース面2からなる壁面を有する筐体4と、ベース面2に塗布あるいは貼り付けられ、熱伝導率がベース面2より小さい第1の断熱材7aと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用の電力変換装置では、一般に、半導体素子や平滑コンデンサ等の各電気部品は、冷却器の半導体素子取り付け面と筐体の壁面とによる密閉部に格納され、冷却器の放熱部が車両の外部に開放されることにより半導体素子が発する熱が放熱される。冷却器の冷却効率を向上させる技術としては、例えば、半導体素子を冷却するヒートパイプの先端に波型形状の放熱補助フィンを係合させ、冷却効率の向上を図る技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−87553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、半導体素子が発する熱(100〜200k)は、冷却器の放熱部に伝搬して放熱されるだけでなく、半導体素子の取り付け面から筐体内部にも放熱されるため、筐体内部および平滑コンデンサ等の各電気部品を含む動作中の発熱量が小さい電気部品の温度が上昇し、半導体素子が発する熱を効率良く冷却器の放熱部に伝搬することができない、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、筐体内部の温度上昇を抑制すると共に、冷却器の冷却効率を向上させることを可能とする電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる電力変換装置は、半導体素子をスイッチング駆動することにより交直流変換を行う電力変換装置であって、前記半導体素子と、前記半導体素子への直流印加電圧を平滑する平滑コンデンサと、前記半導体素子を取り付けるベース面および前記半導体素子が発する熱を放熱する放熱部を有する冷却器と、前記平滑コンデンサが格納され、前記ベース面からなる壁面を有する筐体と、前記ベース面に塗布あるいは貼り付けられ、熱伝導率が前記ベース面より小さい第1の断熱材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、筐体内部の温度上昇を抑制すると共に、冷却器の冷却効率を向上させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる電力変換装置の一例を示す上面透視図である。
【図2】図2は、実施の形態1にかかる電力変換装置の熱解析モデルを示す図である。
【図3】図3は、図2に示す熱解析モデルを用いた実施の形態1にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果の一例を示す図である。
【図4】図4は、図3(c)に示す状態における温度分布図である。
【図5】図5は、実施の形態2にかかる電力変換装置の一例を示す上面透視図である。
【図6】図6は、図2に示す熱解析モデルを用いた実施の形態2にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、図6(c)に示す状態における温度分布図である。
【図8】図8は、実施の形態3にかかる電力変換装置の一例を示す上面透視図である。
【図9】図9は、図2に示す熱解析モデルを用いた実施の形態3にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果の一例を示す図である。
【図10】図10は、図9(d)に示す状態における温度分布図である。
【図11】図11は、実施の形態4にかかる電力変換装置の一例を示す上面透視図である。
【図12】図12は、図2に示す熱解析モデルを用いた実施の形態4にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果の一例を示す図である。
【図13】図13は、図12(c)に示す状態における温度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態にかかる電力変換装置について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる電力変換装置の一例を示す上面透視図である。図1に示すように、実施の形態1にかかる電力変換装置は、アルミニウムあるいは銅等の金属により形成された冷却器1のベース1bの半導体素子取り付け面(以下、「ベース面」という)2に半導体素子3が取り付けられ、ベース面2からなる壁面と車両(図示せず)に取り付けられた筐体4の壁面とにより密閉された筐体4内部に、半導体素子3への直流印加電圧を平滑する平滑コンデンサ5aや半導体素子3を駆動する駆動回路5b等の動作中の発熱量が小さい電気部品5が配置され構成される。なお、電気部品5(動作中の発熱量は約30K以下)は、筐体4内部の設置部5cに配置されている。半導体素子3の各接続端子6と電気部品5との間は、図示しないラミネートブスバー等の接続部品により接続される。冷却器1の放熱部1aは、車両の外部に開放され、半導体素子3のスイッチングにより発生する損失熱が冷却器1の放熱部1aから放熱される。なお、筐体4における、ベース面2からなる壁面は、上述したように、ベース面2のみで構成するようにしても、また、一部をベース面2とし、残りを他の部材で構成するようにしてもよい。
【0011】
また、冷却器1のベース面2の半導体素子3が配置されていない領域には、第1の断熱材である断熱材7を塗布あるいは貼り付け、さらにその断熱材7の表面に、第2の断熱材である断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けている。これら断熱材7および断熱コーティング材8については後述する。
【0012】
つぎに、断熱材7、断熱コーティング材8を備えていない場合の筐体4内部の温度上昇について説明する。半導体素子3が発した熱は、冷却器1のベース面2から筐体4内部の空気を介して熱振動として電気部品5に伝搬し、電気部品5の温度が上昇する。この現象のように、熱が媒体を介して伝搬する現象を熱伝導という。
【0013】
また、冷却器1のベース面2の温度が上昇することにより、冷却器1のベース面2からの熱が電磁波として放出され、その電磁波を電気部品5が吸収することにより電気部品5の温度が上昇する。この現象のように、熱が電磁波として運ばれる現象を熱輻射という。
【0014】
つまり、半導体素子3が発した熱は、熱伝導および熱輻射の2つ現象により冷却器1のベース面2から電気部品5に伝搬する。
【0015】
本実施の形態では、ベース面2の半導体素子3が配置されていない領域に、熱伝導率がベース面2よりも小さい断熱材7を塗布あるいは貼り付け、さらにその断熱材7の表面に、熱輻射率がベース面と同等あるいはより小さい断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けている。これにより、熱伝導および熱輻射の双方の現象によるベース面2から電気部品5への熱の伝搬が抑制され、筐体4内部および電気部品5の温度上昇が抑制される。
【0016】
つぎに、実施の形態1にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果について、図2〜図4を参照して説明する。図2は、実施の形態1にかかる電力変換装置の熱解析モデルを示す図である。図2に示す熱解析モデルでは、筐体4の手前側の壁面とその壁面に対向する壁面は図示していないが、熱解析を行う上ではこれらの壁面もあるものとして、ベース面2と筐体4の壁面とで密閉された状態で熱解析を行っている。また、以下では、電気部品5に対応する部位を低発熱部5dとしてシミュレーションを行っている。
【0017】
図3は、図2に示す熱解析モデルを用いた実施の形態1にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果の一例を示す図である。図3(a)は、ベース面2を露出させた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図3(b)は、ベース面2に断熱材7のみ塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図3(c)は、ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付け、その断熱材7の表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示している。図3(a)〜(c)において、左側に示す棒グラフが筐体内平均空気温度上昇(ΔT1)を示し、右側に示す棒グラフが低発熱部最大温度上昇(ΔT2)を示している。また、図4は、図3(c)に示す状態における温度分布図である。図3に示すシミュレーション結果の解析条件は、以下の通りである。
【0018】
・低発熱部5d
発熱量:12[W]、熱輻射率:0.9
・半導体素子3
発熱量:700[W]、熱輻射率:0.9
・筐体4壁面
熱伝達率:7[W/mK]
・ベース面2
熱伝達率:180[W/mK]、熱輻射率:ε=0.2
・断熱材7
熱伝導率:λ=0.3[W/mK],熱輻射率:ε=0.9
・断熱コーティング材8
熱輻射率:ε=0.2
【0019】
ベース面2に断熱材7のみ塗布あるいは貼り付けた場合(図3(b))は、ベース面2に断熱材7および断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けていない場合(図3(a))に対して、低発熱部5dの温度上昇幅が0.8[K]大きくなっている。これは、断熱材7の熱輻射率(ε=0.9)がベース面2の熱輻射率(ε=0.2)に対して大きく、断熱材7による熱伝導の抑制効果による温度上昇幅の減少が熱輻射の増大による温度上昇幅の増加を下回っているためと考えられる。
【0020】
一方、ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付け、その断熱材7の表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた場合(図3(c))は、ベース面2に断熱材7および断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けていない場合(図3(a))に対して、低発熱部5dの温度上昇幅が0.7[K]小さくなっている。これは、断熱コーティング材8の熱輻射率とベース面2の熱輻射率とが同等(ε=0.2)であるため、熱輻射には変化がなく、断熱材7による熱伝導の抑制効果が表れた結果であるといえる。
【0021】
なお、図示していないが、断熱コーティング材8の熱輻射率がベース面2の熱輻射率(ε=0.2)よりも小さい場合には、断熱コーティング材8による熱輻射の抑制効果も加わり、さらに電気部品5の温度上昇幅を低下させることができる。
【0022】
また、筐体4内部への放熱が抑制されるので、半導体素子3が発する熱が効率良く冷却器1の放熱部1aに伝搬する。これにより、冷却器1の冷却効率を向上させることができる。
【0023】
以上説明したように、実施の形態1の電力変換装置によれば、冷却器のベース面の半導体素子が配置されていない領域に第1の断熱材を塗布あるいは貼り付け、さらにその断熱材の表面に、熱輻射率がベース面の熱輻射率と同等あるいはより小さい第2の断熱材を塗布あるいは貼り付けるようにしたので、熱伝導および熱輻射の双方の現象によるベース面から電気部品への熱の伝搬が抑制され、筐体内部および電気部品の温度上昇を抑制することができる。
【0024】
また、筐体内部への放熱が抑制されるので、半導体素子が発する熱を効率良く冷却器の放熱部に伝搬することができ、冷却器の冷却効率を向上させることができる。
【0025】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2にかかる電力変換装置の一例を示す上面透視図である。なお、実施の形態1と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0026】
図5に示すように、本実施の形態では、各接続端子6を除く半導体素子3のパッケージ表面にも第2の断熱材である断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けている。
【0027】
実施の形態1において説明したように、半導体素子3の表面の熱輻射率(ε=0.9)は、断熱コーティング材8の熱輻射率(ε=0.2)よりも大きい。このため、実施の形態1において説明した電気部品5の温度上昇には、半導体素子3のパッケージ表面からの熱輻射による温度上昇分も含まれている。
【0028】
したがって、本実施の形態では、半導体素子3のパッケージ表面からの熱輻射による電気部品5の温度上昇をも抑制するため、ベース面2の半導体素子3が配置されていない領域に塗布あるいは貼り付けられた断熱材7の表面に加え、半導体素子3のパッケージ表面にも断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けている。これにより、熱輻射による半導体素子3のパッケージ表面から電気部品5への熱の伝搬が抑制され、電気部品5の温度上昇がさらに抑制される。
【0029】
つぎに、実施の形態2にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果について、図2、図6、図7を参照して説明する。
【0030】
図6は、図2に示す熱解析モデルを用いた実施の形態2にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果の一例を示す図である。図6(a)は、ベース面2を露出させた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図6(b)は、ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付け、その断熱材7の表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図6(c)は、図6(b)に加えて、半導体素子3のパッケージ表面にも断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示している。図6(a)〜(c)において、左側に示す棒グラフが筐体内平均空気温度上昇(ΔT1)を示し、右側に示す棒グラフが低発熱部最大温度上昇(ΔT2)を示している。また、図7は、図6(c)に示す状態における温度分布図である。なお、図6に示すシミュレーション結果の解析条件は、実施の形態1において説明した条件と同一であるので、ここでは省略する。また、図6(a)に示す温度上昇シミュレーション結果については、図3(a)に示す温度上昇シミュレーション結果と同一であるので、ここでは説明を省略する。
【0031】
ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付け、その断熱材7の表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた場合(図6(b))は、ベース面2に断熱材7および断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けていない場合(図6(a))に対して、低発熱部5dの温度上昇幅が0.7[K]小さくなっている。
【0032】
一方、断熱材7の表面および半導体素子3のパッケージ表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた場合(図6(c))は、断熱材7の表面のみ断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた場合(図6(b))に対して、低発熱部5dの温度上昇幅がさらに3.3[K]小さくなっている。これは、熱輻射率0.9の半導体素子3のパッケージ表面を露出させていた場合に対し、熱輻射率0.2の断熱コーティング材8を半導体素子3のパッケージ表面に塗布することにより、熱輻射が大幅に抑制された結果であるといえる。
【0033】
以上説明したように、実施の形態2の電力変換装置によれば、冷却器のベース面の半導体素子が配置されていない領域に塗布あるいは貼り付けられた第1の断熱材の表面に加え、半導体素子のパッケージ表面にも第2の断熱材を塗布あるいは貼り付けるようにしたので、熱輻射による半導体素子のパッケージ表面から電気部品への熱の伝搬が抑制され、実施の形態1よりもさらに筐体内部および電気部品の温度上昇を抑制することができる。
【0034】
また、筐体内部への放熱がさらに抑制されるので、半導体素子が発する熱をより効率良く冷却器の放熱部に伝搬することができ、冷却器の冷却効率をより一層向上させることができる。
【0035】
実施の形態3.
図8は、実施の形態3にかかる電力変換装置の一例を示す上面透視図である。なお、実施の形態1および2と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0036】
図8に示すように、本実施の形態では、実施の形態1において説明した第1の断熱材である断熱材7および第2の断熱材である断熱コーティング材8に代えて、断熱材7よりも熱伝導率が小さい断熱材7aを冷却器1のベース面2の半導体素子3が配置されていない領域に塗布あるいは貼り付けている。
【0037】
実施の形態1において説明したように、図1に示した断熱材7、断熱コーティング材8を備えていない場合には、半導体素子3が発した熱は、熱伝導および熱輻射の2つの現象により冷却器1のベース面2から低発熱部5dに伝搬する(図3(a))。
【0038】
これに対し、ベース面2の熱輻射率(ε=0.2)よりも熱輻射率が大きい断熱材7(ε=0.9)のみベース面2に塗布あるいは貼り付けた場合には、断熱材7による熱伝導の抑制効果による温度上昇幅の減少が熱輻射の増大による温度上昇幅の増加を下回るため、低発熱部5dの温度上昇幅が0.8[K]大きくなっている(図3(b))。
【0039】
実施の形態1では、断熱材7の表面に、熱輻射率がベース面2の熱輻射率(ε=0.2)と同等あるいはより小さい断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けることにより、熱伝導および熱輻射の双方の現象によるベース面から電気部品5への熱の伝搬を抑制するようにしたが、本実施の形態では、実施の形態1において説明した断熱材7および断熱コーティング材8に代えて、断熱材7よりも熱伝導率が小さい断熱材7aを冷却器1のベース面2の半導体素子3が配置されていない領域に塗布あるいは貼り付けることにより、熱伝導によるベース面2から電気部品5への熱の伝搬を実施の形態1よりも抑制し、断熱材7aによる熱伝導の抑制効果による温度上昇幅の減少が熱輻射の増大による温度上昇幅の増加を上回るようにしている。
【0040】
つぎに、実施の形態3にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果について、図2、図9、図10を参照して説明する。
【0041】
図9は、図2に示す熱解析モデルを用いた実施の形態3にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果の一例を示す図である。図9(a)は、ベース面2を露出させた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図9(b)は、ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図9(c)は、ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付け、その断熱材7の表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図9(d)は、断熱材7および断熱コーティング材8に代えて、ベース面2に断熱材7aを塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示している。図9(a)〜(d)において、左側に示す棒グラフが筐体内平均空気温度上昇(ΔT1)を示し、右側に示す棒グラフが低発熱部最大温度上昇(ΔT2)を示している。また、図10は、図9(d)に示す状態における温度分布図である。なお、図9に示すシミュレーション結果の解析条件は、実施の形態1において説明した条件に加え、断熱材7aについて下記の解析条件を加えている。それ以外の解析条件は、実施の形態1において説明した条件と同一であるので、ここでは省略する。
【0042】
・断熱材7a
熱伝導率:λ=0.03[W/mK],熱輻射率:ε=0.9
【0043】
図9(a)、図9(b)、図9(c)に示す各温度上昇シミュレーション結果については、それぞれ、図3(a)、図3(b)、図3(c)に示す各温度上昇シミュレーション結果と同一であるので、ここでは説明を省略する。
【0044】
ベース面2に断熱材7aを塗布あるいは貼り付けた場合(図9(d))は、ベース面2を露出させた場合(図9(a))に対しては、低発熱部5dの温度上昇幅が1.2[K]小さくなり、ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付け、その断熱材7の表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた場合(図9(c))よりもさらに低発熱部5dの温度上昇幅が0.5[K]小さくなっている。これは、断熱材7の熱伝導率(λ=0.3[W/mK])よりも断熱材7aの熱伝導率(λ=0.03[W/mK])が小さいため、熱伝導によるベース面2から低発熱部5dへの熱の伝搬が実施の形態1よりも抑制され、断熱材7aによる熱伝導の抑制効果による温度上昇幅の減少が熱輻射の増大による温度上昇幅の増加を上回った結果であるといえる。
【0045】
以上説明したように、実施の形態3の電力変換装置によれば、実施の形態1において説明した第1の断熱材よりも熱伝導率が小さい断熱材を冷却器のベース面の半導体素子が配置されていない領域に塗布あるいは貼り付けることにより、熱伝導によるベース面から電気部品への熱の伝搬を実施の形態1よりも抑制し、熱伝導の抑制効果による温度上昇幅の減少が熱輻射の増大による温度上昇幅の増加を上回るようにしたので、熱輻射率の小さい第2の断熱材を第1の断熱材よりも熱伝導率が小さい断熱材の表面に塗布あるいは貼り付けない場合でも、筐体内部および電気部品の温度上昇を抑制することができる。
【0046】
なお、熱伝導率が小さい断熱材を用いた場合でも、熱伝導率が小さい断熱材を第1の断熱材として、実施の形態1において説明したように、第1の断熱材の表面に熱輻射率の小さい第2の断熱材を塗布あるいは貼り付けることにより、熱輻射によるベース面から電気部品への熱の伝搬をさらに抑制し、筐体内部および電気部品の温度上昇をさらに抑制することができることは言うまでもない。また、この場合には、半導体素子が発する熱をより効率良く冷却器の放熱部に伝搬することができ、冷却器の冷却効率をより一層向上させることができる。なお、実施の形態1において説明した第1の断熱材よりも熱伝導率が小さく、且つ、実施の形態2において説明した第2の断熱材よりも熱輻射率が小さい断熱材を用いて、ベース面にその断熱材を塗布あるいは貼り付けた場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0047】
実施の形態4.
図11は、実施の形態4にかかる電力変換装置の一例を示す上面透視図である。なお、実施の形態1〜3と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0048】
図11に示すように、本実施の形態では、実施の形態1において説明した第1の断熱材である断熱材7よりも熱伝導率が小さい断熱材7aを第1の断熱材として、その断熱材7aの表面および半導体素子3のパッケージ表面に、第2の断熱材である断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けている。これにより、熱輻射による断熱材7aおよび半導体素子3のパッケージ表面から電気部品5への熱の伝搬がさらに抑制され、電気部品5の温度上昇がより一層抑制される。
【0049】
つぎに、実施の形態4にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果について、図2、図12、図13を参照して説明する。
【0050】
図12は、図2に示す熱解析モデルを用いた実施の形態4にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果の一例を示す図である。図12(a)は、ベース面2を露出させた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図12(b)は、ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付け、その断熱材7の表面および半導体素子3のパッケージ表面に断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示し、図12(c)は、ベース面2に断熱材7aを塗布あるいは貼り付け、その断熱材7aの表面および半導体素子3のパッケージ表面に断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた状態における温度上昇シミュレーション結果を示している。図12(a)〜(c)において、左側に示す棒グラフが筐体内平均空気温度上昇(ΔT1)を示し、右側に示す棒グラフが低発熱部最大温度上昇(ΔT2)を示している。また、図13は、図12(c)に示す状態における温度分布図である。なお、図12に示すシミュレーション結果の解析条件は、実施の形態1および3において説明した条件と同一であるので、ここでは省略する。
【0051】
図12(a)に示す温度上昇シミュレーション結果については、図3(a)に示す温度上昇シミュレーション結果と同一であり、また、図12(b)に示す温度上昇シミュレーション結果については、図9(c)に示す実施の形態2にかかる電力変換装置の温度上昇シミュレーション結果と同一であるので、ここでは説明を省略する。
【0052】
ベース面2に断熱材7aを塗布あるいは貼り付け、その断熱材7aの表面および半導体素子3のパッケージ表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた場合(図12(c))は、ベース面2を露出させた場合(図12(a))に対しては、温度上昇幅が5.5[K]小さくなり、ベース面2に断熱材7を塗布あるいは貼り付け、その断熱材7の表面および半導体素子3のパッケージ表面に、断熱コーティング材8を塗布あるいは貼り付けた場合(図12(b))に対して、低発熱部5dの温度上昇幅がさらに1.5[K]小さくなっている。これは、第1の断熱材として用いた断熱材7aの熱伝導率(λ=0.03[W/mK])が断熱材7の熱伝導率(λ=0.3[W/mK])よりも小さいため、熱伝導によるベース面2から低発熱部5dへの熱の伝搬が実施の形態2よりも抑制された結果であるといえる。
【0053】
以上説明したように、実施の形態4の電力変換装置によれば、実施の形態1において説明した第1の断熱材よりも熱伝導率が小さい断熱材を第1の断熱材として、その第1の断熱材の表面および半導体素子のパッケージ表面に、第2の断熱材である断熱コーティング材を塗布あるいは貼り付けるようにしたので、実施の形態2よりも熱伝導によるベース面から電気部品への熱の伝搬がさらに抑制され、筐体内部および電気部品の温度上昇をより一層抑制することができる。
【0054】
また、筐体内部への放熱が実施の形態2よりもさらに抑制されるので、半導体素子が発する熱をより効率良く冷却器の放熱部に伝搬することができ、冷却器の冷却効率をより一層向上させることができる。
【0055】
なお、実施の形態1において説明した第1の断熱材よりも熱伝導率が小さく、且つ、実施の形態2において説明した第2の断熱材よりも熱輻射率が小さい断熱材を用いて、ベース面および半導体素子のパッケージ表面にその断熱材を塗布あるいは貼り付けた場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0056】
なお、上述した実施の形態において説明した電力変換装置に適用する半導体素子としては、珪素(シリコン:Si)系半導体と比較して、大きなエネルギーバンド幅を持つワイドバンドギャップ(WBG)半導体によって形成された半導体素子を用いて好適である。このWBG半導体としては、例えば、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)系材料、またはダイヤモンド等がある。
【0057】
このようなWBG半導体によって形成された半導体素子は、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、半導体素子の小型化が可能であり、これら小型化された半導体素子を用いることにより、これらの半導体素子を組み込んだ電力変換装置の小型化が可能となる。
【0058】
また、電力損失が低いため、半導体素子の高効率化が可能であり、延いては、電力変換装置の高効率化が可能になる。
【0059】
さらに、耐熱性も高く、冷却器や筐体の小型化を図ることができるという利点もあるが、一方で、半導体素子の温度が従来よりも高くなり、それに伴う筐体内部や電気部品の温度上昇を考慮する必要がある。上述した実施の形態において説明した電力変換装置では、半導体素子が発する熱の筐体内部への放熱を抑制することができるので、WBG半導体によって形成された半導体素子を適用することが容易となる。
【0060】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
1 冷却器
1a 放熱部
1b ベース
2 ベース面(冷却器)
3 半導体素子
4 筐体
5 電気部品
5a 平滑コンデンサ
5b 駆動回路
5c 設置部
5d 低発熱部
6 接続端子(半導体素子)
7,7a 断熱材(第1の断熱材)
8 断熱コーティング材(第2の断熱材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子をスイッチング駆動することにより交直流変換を行う電力変換装置であって、
前記半導体素子と、
前記半導体素子への直流印加電圧を平滑する平滑コンデンサと、
前記半導体素子を取り付けるベース面および前記半導体素子が発する熱を放熱する放熱部を有する冷却器と、
前記平滑コンデンサが格納され、前記ベース面からなる壁面を有する筐体と、
前記ベース面に塗布あるいは貼り付けられ、熱伝導率が前記ベース面より小さい第1の断熱材と、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記第1の断熱材は、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率と同等あるいはより小さいことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第1の断熱材は、前記半導体素子の表面にさらに塗布あるいは貼り付けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1の断熱材の表面に塗布あるいは貼り付けられ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率と同等あるいはより小さい第2の断熱材をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第2の断熱材は、前記半導体素子の表面にさらに塗布あるいは貼り付けられたことを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体によって形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、またはダイヤモンドであることを特徴とする請求項6に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−55198(P2013−55198A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191805(P2011−191805)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)