説明

電力変換装置

【課題】系統側に共振点があり、特定次数の高調波に対して系統側インピーダンスが極端に高くなる系統条件に対しても、高調波を抑制する。
【解決手段】
該連系点電圧Vs中の所定次数nの高調波を直流値として出力し、前記直流値に、高調波抑制電流指令値Idn,Iqnから前記連系点電圧Vsまでの伝達関数の逆関数として定義された係数Qa,Qbを掛けた信号Vsddet,Vsqdetと、高調波抑制電流指令値Idn,Iqnに検出遅延のみを負荷した信号と、の差をとることにより高調波の外乱Vsddist,Vsqdistを推定する。外乱推定値Vsddist,Vsqdistと、外乱指令値との偏差をとって高調波抑制電流指令値Ihdref,Ihqrefを算出し、電流制御部20の電流指令値Idref,Iqrefに、高調波抑制電流指令値Ihdref,Ihqrefを重畳して高調波電圧を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の高調波抑制に係り、特に、アクティブフィルタの高調波抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者は、先に制御系の伝達特性をシステム同定によって複素数で表現し、この複素数とDFT(離散フーリエ変換)演算,外乱オブザーバによって高調波電流を抑制するアクティブフィルタ制御の提案を行った。この提案の制御では、以下の点を特徴としている。
【0003】
フィルタや系統のインピーダンスが未知で共通点が多数存在する場合も、試運転によって係数Qa,Qbの測定を行うことにより、安定した高調波抑制が可能となり、制御パラメータの設計が不要になる。
【0004】
また、系統条件に生じた変動が小さければ、係数Qa,Qbを変更する必要が無く安定した高調波抑制を持続することができる。さらに、系統条件に大きな変動が生じた場合も、試運転をやり直し係数Qa,Qbを再測定するだけで高調波抑制が対応可能となる。
【0005】
また、本願発明者は、システム同定の結果を自動補正する提案を行った。この方法では、以下の点で特徴としている。
【0006】
指令値から出力電流までの伝達特性の逆関数である係数Qa,Qbの補正を自動的に行い、負荷変動など系統条件の変化による制御の不安定化を防ぎ、変化に追従した高調波抑制を行うことができる。また、この方法では、係数Qa,Qbの初期値が大きな誤差を含む不適切な値でも、高調波補償を行いながら補正により係数Qa,Qbを適切な値にすることができるため、試運転が不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−320329号公報
【特許文献2】特開平11−89088号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jintakosonwit Pichai,赤木康文,藤田英明,小笠原悟司、「ゲイン自動調整機能を付加した配電系統用アクティブフィルタ」、電気学会論文誌D、平成14年、122巻、第1号、pp29−36。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、系統のインダクタンスとコンデンサの共振により、特定次数の高調波に対して連系点から見た系統側のインピーダンスが極端に大きくなり、アクティブフィルタの出力電流がほぼすべて負荷に流れ込むという現象が発生することがある。
【0010】
図17は、上記のように、アクティブフィルタの効果が低下する系統条件の構成を示す図である。図17において、Lsはトランスやケーブルの寄生インピーダンスなどの系統1のインダクタンス成分を示し、Csは力率調整用コンデンサや他の負荷フィルタコンデンサ,ケーブル等の寄生容量などを示す。
【0011】
図17の例では、インダクタンス成分Lsと寄生容量Csの共振点が11次と仮定した場合、インダクタンス成分Lsと寄生容量Csの並列インピーダンスが11次で無限大となる。この場合、11次高調波電流は連系点よりも系統1側であるIs1を流れず、アクティブフィルタ3が出力するフィルタ出力電流Ioutの11次高調波電流はすべて高調波負荷2に流れ込む。そのため、インダクタンス成分Lsと寄生容量Csの共振点が11次で、かつ、並列インピーダンスが11次で無限大の場合は、11次高調波電流においてIout+Iload=0が成立する。これは、アクティブフィルタ3の補償の有効・無効にかかわらず成立し、他の次数の高調波電流では成立しない。
【0012】
一般的なアクティブフィルタ3の制御ではIout+Iload=0とすることが目的であるため、この系統1に適用しても高調波電流の補償は行われない。
【0013】
しかし、高調波負荷2には適切な高調波電流を流す必要がある。負荷高調波電流が適切でないと、連系点電圧Vsに高調波ひずみが生じ、系統電流Isをひずませてしまう。また、連系点電圧Vsのひずみが他の負荷に悪影響を与えてしまう。
【0014】
背景技術で説明した制御方法をアクティブフィルタに応用し、図17に示すような系統1に適用すると、伝達特性の同定結果(Pa+jPb)-1=Qa+Qbの振幅が非常に大きくなり、また検出信号「Iout+Iload」やIs1からは非常に小さな高調波信号しか検出できないため、一般的なアクティブフィルタ同様、高調波補償が行われない。また、高調波補償が適切に行われずに高調波電流を出力し、連系点電圧Vsのひずみを大きくしてしまうこともある。
【0015】
特許文献1などのような配電系統向けアクティブフィルタでは、不特定多数の高調波負荷に対応するため、電圧ひずみと同相の高調波電流を吸収させ、「電圧ひずみに対してインバータを抵抗Rに見せかけダンピングさせる」制御を行う方式が一般的である。この制御方式は原理的に安定であるが、系統の条件によっては、ひずみ補償効果が非常に小さくなってしまう。
【0016】
例えば、図18に示すように、系統1とアクティブフィルタ3,高調波負荷2がリアクトルL4,L5,L6で接続された場合を考える。高調波負荷2が高調波の負荷電流Iloadを出力すると連系点電圧Vsの高調波ひずみは負荷電流Iloadに対して90deg進み位相となる。そのため、アクティブフィルタ3が高調波負荷2の負荷電流Iloadを吸収するためには、連系点電圧Vsに対して90deg遅れの高調波電流を吸収する(アクティブフィルタ3を連系点電圧Vsに対してLとして動作させる)必要がある。
【0017】
このような場合でも、ゲインを無限大とすれば、高調波に対して連系点が短絡されていることと同等となり、電圧ひずみを除去できる。すなわち、配電系統向けアクティブフィルタの一般的な制御法として、系統電圧の特定次数の高調波成分をVh,ゲインをGv,装置が吸い込む高調波電流指令値をIh*としてIh*=Vh×Gvとして制御を行っている。これを系統1側から見ると、装置のインピーダンスはR=Vh÷Ih*=1/Gvとなり、ゲインを無限大にすれば、R=0となる。R=0ならば抵抗に高調波電流が流れても電圧の高調波は0となるので、電圧ひずみを除去できる。
【0018】
しかし、ゲインGvを大きく設定すると、制御遅延などの影響により制御が不安定になりやすく、電圧ひずみを逆に増大させることもある。そのため、ゲインGvの調整やフィルタによる制御遅延の補償などが必要となり、調整や補償が煩雑になってしまっていた。また、系統変動により最適なゲインなどが変化してしまうとその都度調整が必要となる。さらにゲインを下げると電圧ひずみ除去の効果も低下し、これも問題となる。
【0019】
特許文献2は電力の潮流方向を監視することにより、電圧ひずみ補償,電流ひずみ補償の運転を切り換えるものである。この方法でも、系統インピーダンスを監視するわけではないため、共振により系統インピーダンスが極端に高くなると図17と同様の問題が発生する。また、この方式では、別途電力の潮流方向を検出する手段が必要となってしまっていた。
【0020】
以上示したようなことから、系統側に共振点があり、特定次数の高調波に対して系統側インピーダンスが極端に高くなる系統条件に対しても、高調波を抑制することができる電力変換装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、電源の系統母線に一端が接続されたACフィルタおよび該ACフィルタの他端に接続された電力変換装置であって、前記電力変換装置に流れる電流と電力変換装置の電流指令値との偏差をとり、該偏差出力に基づいて前記電力変換装置を制御する電流制御手段と、前記系統と電力変換装置との連系点電圧を入力とし、該連系点電圧中の抑制対象の次数における高調波を直流値として出力する高調波検出部と、制御系の伝達特性に基づいて決定された高調波抑制電流指令値から前記連系点電圧までの伝達関数の逆関数として定義された係数を用いた積算器で前記高調波検出部の出力信号を掛けた信号と、高調波抑制電流指令値に検出遅延のみを付加した信号と、の差をとることにより高調波の外乱を推定する外乱オブザーバと、前記外乱オブザーバによって推定された高調波の外乱と、外乱を抑制する外乱指令値との偏差をとって高調波抑制電流指令値を算出する加算器と、を有する高調波抑制制御手段と、を備え、前記電流制御手段の電流指令値に、前記高調波抑制制御手段で算出された高調波抑制電流指令値を重畳して高調波電圧を抑制することを特徴とする。
【0022】
また、別の態様として、前記高調波検出部は、前記連系点電圧に代えて、連系点電圧とゲインを乗算した値から、ACフィルタの出力電流と前記系統母線に接続された負荷に流れる負荷電流との加算電流、を減算した減算信号とし、前記減算信号の抑制対象の次数における高調波を直流値として出力し、前記外乱オブザーバの前記係数は、高調波抑制電流指令値から前記減算信号までの伝達関数の逆関数として定義されていることを特徴とする。
【0023】
また、別の態様として、前記高調波検出部は、前記連系点電圧に代えて、連系点電圧とゲインを乗算した値から、系統に流れる系統電流、を減算した減算信号とし、前記減算信号の抑制対象の次数における高調波を直流値として出力し、前記外乱オブザーバの前記係数は、高調波抑制電流指令値から前記減算信号までの伝達関数の逆関数として定義されていることを特徴とする。
【0024】
また、別の態様として、前記高調波抑制制御手段を複数の高調波次数分並列に設け、該各高調波抑制制御手段で算出された高調波抑制電流指令値を加算し、該加算された指令値を前記電流制御手段の電流指令値に重畳することを特徴とする。
【0025】
また、別の態様として、前記複数の高調波次数分並列に設けられた高調波抑制制御手段のうち、特定次数の高調波抑制制御手段の入力を、系統に流れる系統電流,ACフィルタの出力電流,系統母線に接続された負荷に流れる負荷電流,または、前記出力電流と負荷電流とを加算した加算電流とすることを特徴とする。
【0026】
また、別の態様として、前記高調波抑制制御手段は、前記特定次数の高調波抑制制御手段として、連系点電圧を入力とした電圧ひずみ補償用の高調波抑制制御手段と、系統に流れる系統電流,ACフィルタの出力電流,系統母線に接続された負荷に流れる負荷電流,または、前記出力電流と負荷電流とを加算した加算電流とを入力とした電流ひずみ補償用の高調波抑制制御手段と、を備え、前記それぞれの高調波抑制制御手段に入力された所定次数における電圧高調波,電流高調波の振幅値の比較に基づいて、電圧ひずみ補償用の高調波抑制制御手段と、電流ひずみ補償用の高調波抑制制御手段と、を切り換えて、高調波抑制電流指令値を算出することを特徴とする。
【0027】
また、別の態様として、前記外乱オブザーバにおける係数は、制御系の伝達特性を測定するか、又は測定せずに決定されており、前記高調波検出部の出力信号の高調波検出値と前記出力信号の1周期前の高調波検出値との変化量を求めて、前記高調波検出部の出力信号の1周期前の高調波検出値と前記変化量との位相差を前記係数の位相補正量として算出し、前記高調波検出部の出力信号の1周期前の高調波検出値と前記変化量との振幅の差を前記係数の振幅補正量として算出する係数補正量算出部と、前記係数補正量算出部により算出された位相補正量、振幅補正量によって前記係数の位相、振幅を各々補正する係数補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【0028】
また、別の態様として、前記係数の振幅が大きくなった場合、高調波抑制制御手段の入力を、連系点電圧と、系統に流れる系統電流,ACフィルタの出力電流,系統母線に接続された負荷に流れる負荷電流,または、前記出力電流と負荷電流とを加算した加算電流と、で切り換えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、系統側に共振点があり、特定次数の高調波に対して系統側インピーダンスが極端に高くなる系統条件に対しても、高調波を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態1における電力変換装置を示す構成図である。
【図2】係数Qa,Qb測定時の高調波抑制制御部の開ループを示す構成図である。
【図3】実施形態2における電力変換装置の高調波抑制制御部を示す構成図である。
【図4】実施形態3における電力変換装置の高調波抑制制御部を示す構成図である。
【図5】本発明において、最適条件で制御を有効にした場合の高調波検出値が変化する様子を示す説明図である。
【図6】本発明において、位相ずれが60度の場合に高調波検出値が変化する様子を示す説明図である。
【図7】本発明において、振幅ずれが2.5倍、位相ずれが10度の場合に高調波検出値が変化する様子を示す説明図である。
【図8】実施形態3における係数補正動作を示すフローチャートである。
【図9】実施形態3において、高調波抑制制御部から補正機能を除去し、簡略化した制御ブロック図である。
【図10】図9のブロック図を変形した制御ブロック図である。
【図11】実施形態3におけるVs外乱からVs出力までの伝達関数を示す説明図である。
【図12】実施形態3におけるVs高調波検出値の変化を示す説明図である。
【図13】実施形態4における電力変換装置の高調波抑制制御部を示す構成図である。
【図14】実施形態5における電力変換装置の高調波抑制制御部を示す構成図である。
【図15】実施形態6における電力変換装置を示す構成図である。
【図16】一般的な外乱オブザーバを示す構成図である。
【図17】アクティブフィルタの効果が低下する系統条件の一例を示す構成図である。
【図18】電圧ひずみ補償型アクティブフィルタの効果が低下する系統条件の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図16は、一般的な外乱オブザーバの構成を示すブロック図である。以下、一般的な外乱オブザーバについて説明する。
【0032】
まず、実システムから除去対象である周期性外乱を重畳した信号hdetを検出し、入力する。また、実システムから位相を入力する。この位相は、例えば、系統1に連系された電力変換装置ならば系統電圧Vsを入力としたPLLの出力結果であり、モータならばロータリエンコーダの出力である。
【0033】
除去したい周期性外乱の周波数に合わせ、ゲインブロック601により、位相をn倍し、sin,cosブロック602a,602bにより、n倍した位相に対応する三角関数を呼び出す。積算器603a,603bにより、得られた三角関数と入力信号hdetとの積を取る。抑制対象の周波数成分をLPF605a,605bにより直流に変換する。基本波周波数をω[rad/s]として周期性外乱をhdet=cos(mωt),三角関数をcos(nωt)とする。周期性外乱はm次高調波,抽出対象はn次高調波とすると、m≠nのとき下記(1)式となり、直流成分を持たないので後段のLPF605bの出力は0となる。
【0034】
【数1】

【0035】
また、m=nのとき、下記(2)式となり、直流成分として1/2があるため、後段のLPF605bでこれを抽出し、出力は1/2となる。
【0036】
【数2】

【0037】
以上の演算で抑制対象の周波数成分を直流へ変換する。なお、LPF605a(sin)の時も同様である。
【0038】
なお、振幅1の高調波を入力した時、直流成分として1が出力される必要がある。そのため、乗算器603a,603bの後段に2倍するブロック604a,604bを設ける。しかし、2倍しない場合も逆モデル測定や自動補正機能を適用すれば、2倍された係数Qa+jQbが得られるので、2倍しなくても正しく動作する。
【0039】
ここでは、正弦波を基準とし、正弦波と同相成分を実軸成分hndetre,90deg進み成分を虚軸成分hndetimとした。得られた信号hndetre,hndetimを外乱オブザーバ613に入力する。外乱オブザーバ613の構成を以下に示す。
【0040】
hndetreを実部,hndetimを虚部として、乗算器606a〜606d,加算器607a,607bを設置し、複素数Qa+jQbとの積を取る。これにより、実システムを通過し実システムの伝達特性を打ち消した信号であり、実システムの周期性外乱と検出遅延を含んだ信号を得る。この演算により、周期性外乱の推定値を抽出する。
【0041】
この信号(Qa+jQbとの積を取った信号)と、外乱オブザーバ613の出力にLPF609a,609bにおいてLPF処理を行い検出遅延のみを付加した信号と、の差(外乱推定値)を加算器608a,608bにより算出する。得られた外乱推定値と、外乱指令値である零との差を加算器610a,610bにより算出し、外乱を打ち消すための指令値実軸成分hnrefre,指令値虚軸成分hnrefimを算出する。
【0042】
指令値実軸成分hnrefre,虚軸成分hnrefimを交流信号に戻すため、乗算器611a,611bにより、それぞれに正弦波,余弦波を乗算し、その乗算器611a,611bの出力を加算器612により足し合わせ、高調波抑制信号hrefを算出する。
【0043】
以下、本実施形態1〜7における電力変換装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0044】
[実施形態1]
図1は、本実施形態1における電力変換装置の構成を示し、(a)は主回路,(b)は電流制御部,(c)は高調波抑制制御部を各々示している。
【0045】
図1(a)において、三相のアクティブフィルタ機能付きの電力変換装置10は、半導体スイッチング素子とダイオードの逆並列体を三相ブリッジ接続したインバータを備えており、その直流側にはコンデンサC1が接続され、コンデンサC1に蓄えられた電力を電力変換装置10で交流に変換し、系統1に出力する。電力変換装置10の交流側は、リアクトルL1,L2,コンデンサC2から成るLCLフィルタ11(ACフィルタ)を介して系統母線12に接続される。
【0046】
Lsはトランスやケーブルの寄生インピーダンスなどの系統1のインダクタンス成分を示し、Csは力率調整用コンデンサや他の負荷フィルタコンデンサ,ケーブル等の寄生容量などを示す。
【0047】
2は、系統母線12に接続された高調波負荷である。CT1はインバータ電流Iinvを検出する電流検出器,CT2はフィルタ出力電流Ioutを検出する電流検出器,CT3は負荷電流Iloadを検出する電流検出器,PTは系統1とアクティブフィルタ3との連系点電圧Vsを検出する変圧器である。
【0048】
図1(b)は、電流制御部20の構成を示すブロック図である。図1(b)に示す電流制御部20では、電流検出器CT1により検出されたインバータ電流Iinvをdq変換部21によって回転座標上の値であるd軸インバータ電流Iinvd,q軸インバータ電流Iinvqに変換する。dq変換に用いる位相は連系点電圧Vsを入力したPLL制御部31により求める。
【0049】
このd軸インバータ電流Iinvd,q軸インバータ電流Iinvqは減算器23d,23qによって電流指令値と比較される。
【0050】
この電流指令値は、後述する高調波抑制のためのd軸高調波抑制電流指令値Ihdref,q軸高調波抑制指令値Ihqrefと、装置の目的に応じたd軸出力電流指令値Idref,q軸電流指令値Iqrefと、を加算器22d,22qにて加算した和信号Idref+Ihdref,Iqref+Ihqrefである。
【0051】
d軸インバータ電流Iinvd,q軸インバータ電流Iinvqと、前記加算器22d,22qから出力される電流指令値を比較して得られた偏差を比例積分制御器24d,24qにかけることで出力電圧指令Vdref,Vqrefを求める。
【0052】
前記d軸出力電圧指令Vdrefには、d軸電圧指令加算器25により「基準電圧」が加算される。この「基準電圧」は、系統電圧の定格振幅の値を加算することを意味する。これは、その後のdq逆変換と併せて連系点電圧Vsの位相に同期した基準正弦波を加えることと等価となる。
【0053】
前記d軸電圧指令加算器25により「基準電圧」が加算されたd軸電圧指令値Vdrefおよびq軸比例積分制御器24qから出力されたq軸電圧指令値Vqrefをdq逆変換部26に入力して3相の電圧指令値Vrefを得る。dq逆変換に用いる位相は連系点電圧Vsを入力したPLL制御器31により求める。
【0054】
最後に、dq逆変換部26の出力である3相の電圧指令値Vrefを、電流制御部20の出力側に設けられたPWMゲート信号作成部30によってPWM変調することにより、ゲート信号Gateを生成し、インバータを駆動する。
【0055】
なお、31は、図4(a)の変圧器PTにより検出された連系点電圧Vsを入力し、dq変換部21およびdq逆変換部26に位相を出力するPLL(位相同期回路)制御器である。
【0056】
図1(c)に示す高調波抑制制御部40aでは、図1(a)の変圧器PTにより検出された、高調波の抑制対象である連系点電圧Vsがdq変換部41に入力される。
【0057】
連系点電圧Vsは、ここでは、相電圧を検出して入力することを想定している。線間電圧の場合、位相が30degずれ、振幅も√3倍になってしまうため、dq変換を行う際に連系点電圧Vsの入力を1/√3倍し、位相に30degのオフセットを加える必要がある。なお、下記(3)式の演算で線間電圧から相電圧に変換して、この演算で算出した相電圧を連系点電圧「Vs」としてdqを行っても良い。
【0058】
【数3】

【0059】
本実施形態1では、抑制対象である連系点電圧Vsが3相のため、dq変換を用いて、周期性外乱(高調波)を直流成分に変換する。抑制対象の高調波がn次の場合、図1(b)のPLL制御器31により求めた位相信号を積算器41nによって周波数をn倍(nは整数)し、dq変換部41にてdq変換を行うことで、n次高調波を直流信号に変換する。ここでは、dq変換を、U相の電圧を基準に設定し、基準と同位相の成分をd軸,90deg進みの成分をq軸にとる。
【0060】
次に、dq変換部41の出力に、d軸LPF42d,q軸LPF42qを適用し、直流成分のみを抽出したd軸フィルタ出力信号Vsd,q軸フィルタ出力信号Vsqを得る。dq変換部41のそれぞれの出力信号には基本波周波数の信号や抽出する特定次数とは異なる次数の高調波が含まれ、これらは交流信号として重畳している。この交流信号を除去し、直流成分のみ抽出する。
【0061】
また、dq変換部41の出力側にはフィルタによる平均処理を行う平均処理部52d,52qが設けられ、直流成分を効果的に抽出する。本実施形態1では、dq変換部41と、平均処理部52d,52qによって、DFT(離散フーリエ変換)演算部(高調波検出部)141を構成している。
【0062】
次に、d軸,q軸フィルタ出力信号Vsd,Vsqを外乱オブザーバ43に入力し、高調波の外乱を推定してd軸,q軸高調波抑制電流指令値Idn,Iqnを出力する。
【0063】
外乱オブザーバ43から出力されるd,q軸高調波抑制電流指令値Idn,Iqnはdq逆変換部44に入力され、dq逆変換が行われる。抑制対象の高調波がn次の場合、図1(b)のPLL制御部31により求めた位相信号を積算部44nによって周波数n倍(nは整数)し、dq逆変換部44にてdq逆変換が行われる。
【0064】
dq逆変換部44から出力される信号はdq変換部51においてdq変換されて、高調波抑制電流指令値Ihdref,Ihqrefとなり、図1(b)のd軸出力電流指令値Idref,q軸出力電流指令値Iqrefに各々加算される。
【0065】
上述したように、前記dq変換部41やdq逆変換部44には位相信号も入力している。すなわち、図1(b)のPLL制御器31から出力された位相を抑制対象の高調波次数に合わせてn倍する積算器41n,44nを経由してdq変換部41やdq逆変換部44に入力する。最後段のdq変換部51へは、積算器を介さずそのまま位相信号を入力する。これは、図1(b)の電流制御部20における基本波dq座標上でのPI演算に合わせて基本波のdq座標に合わせるためである。
【0066】
次に、外乱オブザーバ43の詳細を説明する。
【0067】
まず、積算器45da,45db,45qa,45qbにおいて、前記d軸,q軸フィルタ出力信号Vsd,Vsqと、係数Qa+jQbとの積を取り、加算器46d、46qにより加算し、Vsddet,Vsqdetを算出する。d軸を実軸,q軸を虚軸とするため、Vsddet,Vsqdetは下記(4)式となる。
【0068】
【数4】

【0069】
係数Qa,Qbは、高調波抑制電流指令値Ihdref,Ihqrefから連系点電圧Vsまでの伝達特性の逆関数であり、予め求めた値を用いる。これにより、位相遅れなどの伝達特性を打ち消すことができる。
【0070】
次に、外乱の推定を行う。外乱は2つの信号の偏差をとることで求める。
(1)高調波抑制電流指令値Idn,Iqnが実システムを通り、係数Qa,Qbとの積をかけて実システムの伝達特性を打ち消したもの(Vsddet,Vsqdet)。
(2)高調波抑制電流指令値Idn,Iqnが実システムを通らず、平均処理部53d,53q,検出用LPF47d,47qだけを適用したもの。
【0071】
前記(1)は実システム上の外乱が重畳された信号、前記(2)は高調波抑制電流指令値Idn,Iqnに、平均処理部53d,53q,LPF47d,47qを適用しただけであり、外乱を含まない信号である。この2つの信号の差分を加算器48d,48qによってとることで、外乱Vsddist,Vsqdistを求めることができる。
【0072】
そして、加算器49d,49qにおいて、前記で求めた外乱Vsddist,Vsqdistと外乱指令値との偏差を取る。通常は外乱指令値を0とする。
【0073】
この演算により高調波抑制のための電流指令値Idn,Iqnを求める。また、前記高調波抑制電流指令値Idn,Iqnは平均処理部53d,53q,LPF47d,47qにより、平均処理,LPF処理を行い、Vsddet,Vsqdetと比較し、外乱Vsddist,Vsqdistの推定に使用する。
【0074】
以上示したように、本実施形態1における電力変換装置は、高調波抑制制御部の外乱オブザーバ43にて係数Qa,Qbとの積を取るが、係数Qa,Qbは電流指令値Ihdref,Ihqrefから実際の連系点電圧Vsの検出値までの伝達特性の逆関数である。
【0075】
本発明による制御を実現させるためには、係数Qa,Qbを予め求める必要がある。係数Qa,Qbの測定方法はガウス性ノイズ信号を入力し入出力のパワースペクトル密度の比から求めるなど、様々な方法がある。ここでは、最も単純な方法を説明する。
【0076】
まず、d軸を実部、q軸を虚部と定義する。これにより、伝達特性である振幅変化と位相変化を複素数で表現する。
【0077】
次に、図1(c)の高調波抑制制御部40を図2のように開ループに変更する。n次高調波のd軸q軸電流指令値に零を設定し(スイッチSW3を下側にすることでdq軸変換部44に入力されるd軸,q軸の電流指令値を共に零にする)、電力変換装置10を動作させ、そのときのd軸q軸の連系点電圧Vsのn次高調波検出値をそれぞれVsd0,Vsq0とする。連系点電圧Vsd0,Vsq0の測定後、図2にあるスイッチSW1〜SW3をすべて上側に切り替え、d軸電流指令値をIhdref1に変更し、d軸q軸の連系点電圧Vsのn次高調波Vsd1,Vsq1を測定する。以上の測定により、電流指令値Ihdrefから連系点電圧Vs検出までの伝達特性Pa+jPbは下記(5)式で表すことができる。
【0078】
【数5】

【0079】
Paは入力指令値に対して同位相の出力を、Pbは入力指令値に対して90deg位相進みの出力を表している。逆特性Qa+jQbは、下記(6)式のように伝達特性Pa+jPbの逆数になる。
【0080】
【数6】

【0081】
連系点電圧Vsのn次高調波検出値がVsd,Vsqの時、下記(7)式の演算により伝達特性を打ち消すことができる。
【0082】
【数7】

【0083】
高調波抑制制御部40aの入力を連系点電圧Vsの信号に変更したことにより、抑制対象は連系点電圧Vsのn次高調波となる。これにより、アクティブフィルタ3は連系点電圧Vsのひずみを抑制するような電流を出力する。そのため、図17のように、系統1側に共振があり、特定次数の高調波に対する系統インピーダンスが高くなり、電流ひずみ補償型アクティブフィルタでは補償効果が得られないような系統条件に対しても、連系点電圧Vsが正弦波になるような高調波電流を負荷2に流し込むことができ、補償効果を得ることができる。
【0084】
本実施形態1では、入力を連系点電圧Vsの信号に切り換え、係数Qa,Qbを再測定するだけで、連系点電圧Vsのひずみ補償の機能を実現することができる。そのため、系統条件が概知で電流検出によるアクティブフィルタ動作が不可能あることが分かっている場合には、高調波抑制制御部40の入力を切り換え電圧ひずみ補償をすることでアクティブフィルタ3の機能低下を抑制することができる。
【0085】
また、本実施形態1では、係数Qa,Qbとの積をとることで出力電流から連系点電圧Vsまでの伝達特性を考慮することができる。これにより、電圧ひずみを抑制するための出力電流の位相を最適な値にすることができる。このため、従来の「電圧ひずみに対してインバータをRに見せかけダンピング動作させる」方式(特許文献1)に比べ高い電圧ひずみ抑制効果を得ることができる。
【0086】
すなわち、従来の電圧補償型アクティブフィルタや後述する実施形態6と比較して、単純な抵抗動作ではなく出力電流・連系点電圧Vs間の位相 特性を考慮するため、高い電圧ひずみ補償効果を得ることが可能となる。
【0087】
[実施形態2]
図3は本実施形態2における電力変換装置の高調波抑制制御部40bの構成図である。本実施形態2は、図1(c)示す高調波抑制制御部40を複数個並列に接続したものである。なお、図1(c)と同一の部分は同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0088】
図3において、40n1〜40n3は、図1(c)と同一に各々構成された3つの高調波抑制制御部であり、それらの各出力であるn1次〜n3次の各高調波抑制電流指令値(dq変換部441〜44n)を加算器61で加算し、それをdq変換部51によってdq変換して高調波抑制電流指令値Ihdref,Ihqrefを求め、高調波抑制電流指令値を図1(b)の電流制御部20へ入力している。
【0089】
本実施形態2における高調波抑制制御部40bは、1つのブロックにつき特定次数の高調波を1つ抑制することができるが、通常のアクティブフィルタのように高調波抑制制御部40n1〜40n3を並列接続することにより複数の次数の高調波を抑制することができる。dq変換部41によりDFT(Discrete Fourier Transform)演算を行うことによって異なる次数の高調波との干渉を完全に打ち消しているため、複数の次数の高調波の抑制を行うことができる。
【0090】
また、図3では、n1,n2次高調波が電流補償型アクティブフィルタでの補償が不可能である次数として、n1,n2次数高調波における高調波抑制制御部40n1,40n2の入力を連系点電圧Vsにして電圧ひずみ補償を行い、n3次高調波は高調波抑制制御部40n3の入力を「Iout+Iload」にして電流ひずみ補償を行っている。このように、入力のすべてを連系点電圧Vsに統一する必要は無く、次数ごとに電圧ひずみ補償と電流ひずみ補償を分けることも可能である。
【0091】
また、図3は、3種類の周波数の高調波を抑制する回路であるが、CPUなど制御回路の演算能力に余裕があればさらに多くの次数の高調波を抑制できる。
【0092】
係数Qa,Qbは次数ごとに異なるため、予め測定する必要がある。また、実施形態2により複数の高調波に対応した係数Qa,Qbを求める場合、異なる次数の高調波との干渉はないため、一度に複数の次数の高調波の指令値を入力して求めることもできる。
【0093】
[実施形態3]
ACフィルタの系統内のコンデンサやトランス、負荷との間の共振条件の変化は頻繁に発生する。LCフィルタを搭載した電力変換装置の追加や力率改善用コンデンサの投入・遮断の他、負荷変動だけでも発生する。負荷にLやCがあれば共振周波数も大きく変化し、そのたびに装置の停止・試運転が必要となってしまう。変動条件が概知であればテーブル作成により対応する方法もあるが、変動条件が多岐にわたる場合は、テーブルが大規模になり、測定条件が増加し、試運転に時間がかかってしまう。さらに、未知の系統変動には対応できない。また、非線形負荷の場合、電力変換装置の出力電流が変化するだけで特性が変化することがあり、このような負荷に対しては適用が困難である。
【0094】
そこで、本実施形態3では、図4に示すように、高調波電流抑制制御部40cに、高調波抑制電流指令値Ihdref,Ihqrefから連系点電圧Vs検出値までの伝達関数の逆関数である前記係数Qa,Qbを補正する機能を追加した。
【0095】
なお、補正動作をわかりやすくするため、係数Qa,Qbを極座標変換して入力するように変更している。
【0096】
図4は本実施形態3における高調波抑制制御部40cの構成を示しており、主回路および電流制御部は図1(a),(b)と同様であるため、図示省略している。また、図1と同一部分は同一符号を付して、その説明は省略する。
【0097】
図4において、DFT演算部(高調波検出部)141の出力である高調波検出分は、LPF42d,42qに入力される共に、係数補正量算出部100に入力される。
【0098】
係数補正量演算部100では、係数の振幅補正量Qacと位相補正量Qpcと、を算出し、係数補正部101では、前記振幅補正量Qac,位相補正量Qpcに基づいて係数Qa,Qbの位相,振幅を各々補正する。
【0099】
係数補正部101では、係数補正量算出部100で算出された係数の振幅補正量QacとZ-1演算器202aで算出された1周期前の補正量とを乗算器201で乗算する。この乗算器201の出力は乗算器203において、係数(振幅)の初期値Qaiと乗算される。
【0100】
係数補正量乗算部100で算出された係数の位相補正量QpcとZ-1演算器202pで算出された1周期前の補正量との偏差を減算器204で算出する。この減算器204の出力は、加算器205において、係数(位相)の初期値Qpiと加算される。
【0101】
乗算器203および加算器205の出力を極座標変換部206に入力し、それらを極座標変換して係数Qa,Qbを出力する。前記係数Qa,Qbは乗算器45da,45db,45qa,45qbによりフィルタ出力信号Vsd,Vsqと乗算され、図1(c)と同様に各加算器46d,46qに入力される。
【0102】
次に、係数補正量演算部100について説明する。
【0103】
まず、DFT演算部141から出力されるd軸の現在の高調波検出値Vhdと、該VhdをZ-1演算器102により演算して求めた1周期前の高調波検出値と、の偏差を減算器101dにより算出する。また、DFT演算部141から出力されるq軸の現在の高調波検出値Vhqと、該VhqをZ-1演算器103により演算して求めた1周期前の高調波検出値と、の偏差を減算器101qにより算出する。
【0104】
前記高調波検出値Vhd,Vhqの1周期前の高調波検出値をZ-1演算器104,105により各々求める。
【0105】
前記減算器101d,101qの出力は、高調波成分の1周期前と現時点の変化量であり、Z-1演算器104,105の出力は、1周期前の高調波検出値であり、これらの変化量と1周期前の高調波検出値を極座標変換部106,107によって、各々極座標変換した後、それらを加算器108〜110において各々比較する。
【0106】
すなわち、加算器108では、極座標変換部106の出力をプラス入力とし、極座標変換部107の出力を乗算器111により0.9倍したものをマイナス入力として高調波ベクトルの振幅を比較している。
【0107】
また、加算器109では、極座標変換部106の出力をプラス入力とし、極座標変換部107の出力を乗算器112により0.2倍したものをマイナス入力として高調波ベクトルの振幅を比較している。
【0108】
また、加算器110では、極座標変換部106の出力をプラス入力とし、極座標変換部107の出力をマイナス入力とし、さらに、πをプラス入力として高調波ベクトルの位相を比較している。
【0109】
前記加算器109の出力が零未満か否か(後述する振幅の変化量が20%を超えたか否か)を判定器113において判定し、零未満である場合は振幅補正量切換スイッチSW114を2倍側に切り換える。
【0110】
前記加算器108の出力が零を越えたか否か(後述する振幅の変化量が90%未満であるか否か)を判定器115において判定し、零を超えた場合は、振幅補正量切換スイッチSW116を0.5倍側に切り換える。
【0111】
前記加算器110の出力である位相ずれφの1周期前の成分をZ-1演算器117により求める。また、Z-1演算器117の出力の1周期前の成分をZ-1演算器118により求める。加算器110の出力である位相ずれφの3周期分の和を加算器119により求める。この位相ずれφの3周期分の移動平均を平均処理部120で求める。
【0112】
平均処理部120の出力である移動平均のばらつきがπ/6以内であるか否かを判定器121で判定し、ばらつきがπ/6以内であれば位相補正量切換スイッチSW122を平均処理部120側に切り換える。
【0113】
極座標変換部107の出力(高調波)が0.5%以内であるか否かを判定器123で判定し、0.5%以内である場合は、振幅補正量切換スイッチSW124を1倍側に、位相補正量切換スイッチSW125を零側に切り換える。
【0114】
前記切換スイッチSW114,SW116,SW124によって切り換えられた(セットされた)補正量が係数の振幅補正量Qacとして前記乗算器201に入力される。前記切換スイッチSW122,SW125によって切り換えられた(セットされた)補正量が、係数の位相補正量Qpcとして前記加算器204に入力される。
【0115】
次に、上記のように構成された装置の動作を説明する。まず、係数の入力部分を説明する。係数の初期値をQai,Qpiとして設定する。この初期値は例えば、実施形態1と同様に、高調波を入力して応答を測定する等の方法で求める。
【0116】
Qac,Qpcは、係数の補正量であるが、制御の動作前は初期値を変更せずそのまま制御に適用するため、それぞれ1,0である(前記切換スイッチSW124が1側、切換スイッチSW125が0側)。そのため、初期値がそのまま極座標変換206に入力される。
【0117】
極座標変換部206では、下記(8)式の演算を行い係数Qa,Qbを求める。
【0118】
【数8】

【0119】
この係数Qa,Qbを用いて伝達特性を打ち消し、高調波抑制を行う。
【0120】
次に、係数Qa,Qbの補正機能を説明する。DFT演算部141により直流信号に変換した高調波ベクトルを極座標変換部106,107によって極座標変換することで複素平面上に展開する。高調波ベクトルは以下の2種類を用いる。
・1周期前の高調波検出値
・1周期前と現時点での高調波検出値の変化量
この2つのベクトルの振幅と位相を加算器108〜110によって各々比較することにより、係数Qa,Qbの振幅と位相の補正量を求め、係数の振幅補正量Qac,位相補正量Qpcに設定する。
【0121】
セットされた値はバッファ(図示省略)に蓄えられ、位相補正量Qpcは加算器205において初期値Qpiに加算することで係数Qa,Qbの位相の補正を行う。振幅補正量Qacは、乗算器203において初期値Qaiとの積をとることで係数Qa,Qbの振幅を補正する。
【0122】
次に、高調波抑制制御部40cの動作について説明する。
【0123】
係数Qa,Qbの値が最適の条件で制御を有効にした場合、連系点電圧VsのDFT演算部141による高調波検出値Vhd,Vhqが変化する様子を図5に示す。制御開始前の連系点電圧Vsのd軸、q軸高調波検出値をVhd0,Vhq0、制御開始後n周期後のd軸,q軸高調波検出値をVhdn,Vhqnとおき、複素平面上にプロットした。係数Qa,Qbが最適であれば検出した高調波の軌跡は直線的に原点に向かい、高調波が抑制されていく。
【0124】
次に、係数Qa,Qbの振幅は最適であるが、位相が最適値よりも+60degずれている時の高調波検出値Vhd,Vhqが変化する様子を図6に示す。この図6では制御による補償量を示すベクトル(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)が原点と(Vhq0,Vhq0)間の線分に対して角度φずれて、曲線の軌跡を描き時間をかけて収束する。このφが係数Qa,Qbの位相のずれに相当し、この例では+60degとなる。そのため、補償動作中の角度φを検出することで係数Qa,Qbの位相ずれを求めることができる。
【0125】
位相ずれφの算出には、以下のベクトルが必要となる。
・1周期前の高調波検出値(Vhd0,Vhq0)(極座標変換部107の出力)
・1周期前と現時点での高調波検出値の変化量(Vhd1−Vhd0,Vhq1−vhq0)(極座標変換部106の出力)
φは次の式で求めることができる。
【0126】
【数9】

【0127】
ただし、arg:複素平面の偏角を表す記号。
【0128】
以上は、ベクトル(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)に相当する高調波の変化が補償動作によるものと仮定した場合である。しかし、実際には負荷変動による高調波の変化など、外乱も含まれる。この外乱の影響を取り除く必要がある。
【0129】
外乱を除去する方法として、まず検出したφに対して平均処理部120により、3周期分の移動平均を取る。次に、3周期分のφのばらつきを判定器121により確認する。ばらつきが大きければφに外乱による誤差が含まれると考え、位相補正量切換スイッチSW122を零に切り換え、位相補正を行わない。これが条件1であり、図4では、ばらつきを±π/6以内としている。
【0130】
また、判定器123の判定により高調波が定格の0.5%以内と判定された場合も、位相補正量切換スイッチSW125を零側に切り換え、位相補正を行わない。これは、以下の2つの理由による。
・0.5%以内であれば高調波抑制が正常に動作し、係数Qa,Qbも適切であると考えられるため
・振幅が小さいと極座標変換の精度が低下するため
以上により求めた位相ずれφを係数の位相補正量Qpcにセットし、位相補正を行う。
【0131】
係数Qa,Qbの位相が最適値よりも−10degずれ、さらに振幅が最適値の2.5倍に設定されている時の高調波検出値Vhd,Vhqが変化する様子を図7に示す。この図7では、制御による補償量を示すベクトル(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)の振幅が、(Vhd0,Vhq0)の振幅よりも長くなり、補償動作にオーバーシュートが生じている。このように補償量が検出値を上回ることを検出することにより、係数Qa,Qbの振幅が過剰であることを検出することができる。同様に、補償量が検出値に対して極端に小さい場合は係数Qa,Qbの振幅が不足していることを意味する。
【0132】
この高調波検出値が変化する様子は、DFT演算部141に使用している一次遅れフィルタ(LPF42d、42q)、または平均処理部52d、52qのフィルタにより変化する。図7では平均処理と時定数20msの一次遅れフィルタ(LPF42d、42q)を用いている。そのため係数Qa,Qbが適切ならば、図5のように収束動作は一次遅れフィルタの特性に近くなる。時定数20msでは(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)の振幅は(Vhd0,Vhq0)に対して約60%となる。これは係数Qa、Qbの位相にずれがある場合も同様である。
【0133】
このため、図4では(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)の振幅が(Vhd0,Vhq0)に対して90%を超えていたら判定器115により、振幅過剰と判断し、振幅補正量切換スイッチSW116を0.5側に切り換え、振幅を0.5倍している。同様に20%未満であれば判定器113により、振幅不足と判定して、振幅補正量切換スイッチSW114を2側に切り換え振幅を2倍する。これにより振幅を適正値に近づけることができる。
【0134】
ここまでの補正動作を図8のフローチャートに示す。
【0135】
ステップS1:DFT演算部141により高調波検出値Vhd,Vhqが検出される。
【0136】
ステップS2:極座標変換部106,107により補償量が検出される。
【0137】
ステップS3:判定器123により高調波Vhd0,Vhq0が定格の0.5%以上かが判定される。
【0138】
ステップS4:ステップS3の判定結果がNOの場合、前記スイッチSW124を1側に切り換えて振幅補正量Qacに1をセットする。
【0139】
ステップS5:ステップS3の判定結果がYESの場合、判定器115によって、(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)の振幅が(Vhd0,Vhq0)に対して90%を超えているかが判定される。
【0140】
ステップS6:ステップS5の判定結果がYESの場合、前記スイッチSW116を0.5側に切り換えて振幅補正量Qacに0.5をセットする。
【0141】
ステップS7:ステップS5の判定結果がNOの場合、判定器113によって、(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)の振幅が(Vhd0,Vhq0)に対して20%未満であるかが判定される。その判定結果がNOの場合はステップS4を実行する。
【0142】
ステップS8:ステップS7の判定結果がYESの場合、前記スイッチSW114を2側に切り換えて振幅補正量Qacに2をセットする。
【0143】
ステップS9:加算器110による加算動作によって位相ずれφが測定される。
【0144】
ステップS10:平均処理部120によって位相ずれφの3周期分の平均が演算される。
【0145】
ステップS11:判定器121によって位相ずれφの3周期分の平均のばらつきが演算される。
【0146】
ステップS12:判定器121によって前記φのばらつきがπ/6以内かが判定される。
【0147】
ステップS13:ステップS12の判定結果がYESの場合、判定器123により高調波が定格の0.5%以上かが判定される。
【0148】
ステップS14:ステップS3の判定結果がYESの場合、前記切換スイッチSW122,SW125を零と反対側(平均処理部120側)に切り換えて位相補正量Qpcにφをセットする。
【0149】
ステップS15:ステップS12、S13の判定結果がNOの場合、前記切換スイッチSW122,SW125を零に切り換えて位相補正量Qpcに零をセットする。
【0150】
また、上記補正動作は目的に応じて変更することができる。例えばオーバーシュートの発生を抑制したい場合は、ある一定の周期すべてで振幅不足を検出することを振幅増加の条件に設定し、さらに振幅増加量を1.5倍などと小さくする方法がある。
【0151】
また、高調波抑制の応答を高速にするなど係数Qa、Qbの振幅の精度を上げる必要がある場合は、振幅過不足の条件として80%以上、50%未満など条件を緩く設定し、さらに振幅調整量を1.1倍、0.9倍などに小さく設定することで実現できる。
【0152】
以上はDFT演算部141のフィルタに50Hz平均処理とLPFを組み合わせた場合である。前記フィルタが異なれば高調波抑制動作も変化する。例えば前記フィルタに50Hz移動平均を選択した場合、係数Qa、Qbが適切ならば(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)と(Vhd0,Vhq0)の振幅は一致する。そのため、(Vhd1−Vhd0,Vhq1−Vhq0)の振幅が(Vhd0,Vhq0)に対して120%を超えていたら振幅過剰と判断し振幅を0.5倍、50%未満であれば振幅不足として振幅を2倍、などのように振幅補正の条件を変更する必要がある。
【0153】
以上の補正機能を適用すれば、振幅の初期値Qai,位相の初期値Qpiが大きな誤差を含む不適切な値でも自動的に係数Qa,Qbの補正を行い安定した高調波抑制を実現できる。
【0154】
万一、位相ずれがπ/2以上の場合、制御開始後の数周期は逆に高調波を増大させてしまうが、この時も補償動作中の角度φを検出することで係数Qa,Qbの位相ずれを補正することができ、高調波の抑制動作に切り換わる。そのため、どのような状態であっても、最終的に高調波を抑制するので、試運転を省略することもできる。
【0155】
この係数Qa、Qbの補正機能は、基本波1周期間で1回動作させることを想定している。この理由を以下に示す。
・DFT演算に平均処理を使用しており、検出値の更新に基本波1周期分の時間がかかるため
・高調波検出値Vhd,Vhqの変化量を求めるにはある程度の時間経過が必要であるため
・係数Qa、Qbの推定に使用する極座標変換は演算負荷が高く、間隔を開けることで演算負荷を低減するため
しかし、高調波抑制までの時間を早めたい場合や演算負荷をさらに低減する場合など、目的に応じて補正間隔を変更することができる。
【0156】
本実施形態3では抑制する高調波は1つのみであるが、実施形態2のように複数の高調波抑制制御部を設けた場合にもすべての高調波抑制制御部に補正機能を追加することができる。
【0157】
最後に、本実施形態3の制御方法が理論的にも正しいことを検討する。図9は、簡略化した高調波抑制制御の制御ブロック図である。図9では、検討を簡単にするため、DFT演算に使用する平均処理を省略し、LPFを一次遅れとする。なお、図9において図1と同一部分は同一符号をもって示し、その説明は省略する。
【0158】
図9における実システムには指令値の入力からACR(図1(b)の電流制御部)、PWMゲート信号作成部30、インバータを駆動し連系点電圧Vs信号を検出するまでが含まれている。ここで、システム同定結果の(Qa+jQb)-1に振幅誤差a、位相誤差φがあるとし、実システムの逆数と同定誤差に分離し、下式(10)で表す。
【0159】
【数10】

【0160】
この結果より、図9の制御ブロックを変形すると、図10が得られる。外乱は連系点電圧Vs以外にも実システム内部のIinvやPWMなどでの入力も考えられるが、図10では代表してVs外乱としている。図10の制御ブロックを整理すると、Vs外乱入力からVs出力までの伝達関数は図11に示すように、次の式(11)となる。
【0161】
【数11】

【0162】
次に、この伝達関数のステップ応答を求める。入力をステップ関数の1/sとし、ラプラス逆変換により時間関数を求めると、以下の式(12)となる。
【0163】
【数12】

【0164】
実部の時間関数は下記(13)式となる。
【0165】
【数13】

【0166】
同様に虚部の時間関数は、下記(14)式となる。
【0167】
【数14】

【0168】
これを極座標で表すと、下記(15),(16)式となる。
【0169】
【数15】

【0170】
【数16】

【0171】
今、Vs高調波が制御により微小時間dt間で図12に示す矢印のように変化したとする。この時、矢印の長さlは次の式(17)で表される。
【0172】
【数17】

【0173】
Vsの高調波検出値ri(t)に対する矢印の長さlは、下記(18)式となる。
【0174】
【数18】

【0175】
ここで、Tは一次遅れフィルタの時定数で既知である。よって、Vs高調波検出値ri(t)と矢印の長さlを検出することにより、実システムと同定結果の振幅誤差aを検出することができる。また、原点に対する高調波変化量の角度ψは、次の式(19)で表される。
【0176】
【数19】

【0177】
よって、実システムと同定結果の位相誤差φを求めるためには、角度ψを検出するだけでよいことがわかる。
【0178】
本実施形態3の制御ではDFTの演算に平均処理を行うため、振幅誤差aや位相誤差φが正確な値とならない可能性がある。しかし、外乱オブザーバにより係数Qa、Qbはもともと高い精度を必要としないため、補正動作には影響を及ぼさない。
【0179】
本実施形態3における高調波抑制制御部40cは、実施形態1の効果に加え以下の作用効果が得られる。
【0180】
系統条件の変動が大きくても、変動に対応した係数Qa,Qbを自動的に学習し補正を行うため、条件の変動が頻発する系統や未知の系統、試運転の実施が不可能な系統に対しても装置を導入でき、安定した電圧ひずみ補償機能を提供することができる。
【0181】
[実施形態4]
図13に本実施形態4の電力変換装置の高調波抑制制御部40dの構成を示す。本実施形態4では、系統条件に応じて電流ひずみ補償と電圧ひずみ補償を切り換えて制御を行うものである。
【0182】
そのため、高調波抑制制御部40を2つ準備し、片方は「Iout+Iload」を入力し電流ひずみ補償を行い、もう片方は連系点電圧Vsを入力し電圧ひずみ補償を行う。それぞれの高調波抑制制御部の出力にはスイッチSW310〜SW313を追加し、指令値の有効,無効を切り換える。このスイッチSW310〜SW313は、どちらか一方の補償が必ず有効になり、他方が無効になるように接続する。
【0183】
DFT変換141から出力された高調波検出値Vhd,Vhqに対して、二乗和演算部301,302によりd軸q軸の二乗和を求め、抑制対象次数の「Iout+Iload」電流高調波の振幅,「Vs」電圧高調波の振幅を演算する。
【0184】
この二乗和演算部301,302の後段の比較器303,304により、電流「Iout+Iload」,電圧「Vs」の高調波振幅が例えば0.01p.uを上回るか否かを検出する。比較器303の出力はSRラッチ309のSに入力され、比較器304の出力はAND回路308に入力される。
【0185】
また、例えば、電流高調波振幅の10倍が電圧高調波振幅より小さいことを検出する比較器307を合わせて設置する。まず、乗算器305により電流高調波振幅を10倍する。そして、減算器306により、その10倍した電流高調波振幅から電圧高調波振幅を減算する。最後に、比較器307により、減算器306の出力が0より小さいか否かを判定し、小さい場合は、AND回路308に「1」レベルの信号を出力する。
【0186】
AND回路308は、比較器304,307の出力が両方とも「1」レベルの場合は、SRラッチ309のRに「1」レベルの信号を出力する。
【0187】
SRラッチ309の出力は、高調波抑制制御部40の出力に追加したスイッチSW310〜SW313の制御信号とする。
【0188】
ここで、SRラッチ309の動作を説明する。S=「0」,R=「0」では、Q=「0」である。S=「1」を入力するとQ=「1」となるが、ここで、S=「0」に戻してもQ=「1」のまま保持される。R=「1」を入力するとラッチがリセットされて、Q=「0」に戻る。スイッチSW310〜SW313は「1」が入力されると、上側に切り替わり、電流ひずみ補償が有効になる。また、「0」が入力されると下側に切り替わり、電圧ひずみ補償が有効になる。
【0189】
補償切換動作は以下の手順で行う。
【0190】
(1)抑制対象次数の「Iout+Iload」電流高調波の振幅を検出する。
(2)抑制対象次数の連系点電圧Vsの高調波の振幅を検出する。
(3)電流高調波の振幅が定格の1%以上であれば、SRラッチ309のS側に1を入力する。
(4)電圧高調波の振幅が電流高調波の振幅の10倍以上、かつ電圧高調波の振幅が定格の1%以上であれば、SRラッチ309のR側に「1」を入力する。
【0191】
条件(3)が一旦成立したら、SRラッチ309から「1」が出力され続け、スイッチSW310〜SW313は上側(電流高調波抑制)に切り替わる。これにより、電流ひずみ補償が有効になる。補償により電流高調波が小さくなっても、電圧高調波が増加しない限り電流ひずみ補償が有効のままになり、外乱などによる高調波の変動に対応する。
【0192】
条件(4)が成立した場合、SRラッチ309から0が出力され続け、スイッチSW310〜SW313は下側に切り替わる。これにより、電圧ひずみ補償が有効になる。電流高調波が増加しなければ常に電圧ひずみ補償が有効になる。
【0193】
以下の条件で電流ひずみ補償と電圧ひずみ補償が切り替わる。
【0194】
電流高調波が増加した場合 →電流ひずみ補償に切換
電圧高調波が増加した場合 →電圧ひずみ補償に切換
電流高調波も電圧高調波も大きい場合 →電流ひずみ補償に切換
電流高調波も電圧高調波も小さい場合 →前のひずみ補償を保持
以上示したように、本実施形態4における高調波抑制制御部40dによれば、系統条件の変動により系統インピーダンスが極端に大きくなった場合でも電圧高調波の増加を検出することで電流ひずみ補償から電圧ひずみ補償に切り換えることができる。
【0195】
また、系統インピーダンスが共振により極端に小さくなることも考えられる。このような場合、電流を出力しても連系点電圧Vsはほとんど変化しないため、電圧ひずみ補償をやめて電流ひずみ補償に切り換える必要が生じる。本実施形態4の制御方法ならば電流ひずみ補償への切り換えも可能であるため、アクティブフィルタ3の適用可能な系統条件の範囲をさらに広げることができる。すなわち、系統インピーダンスの大きさに応じて電流ひずみ補償と電圧ひずみ補償を自動的に切り替えるため、事前に共振条件を確認することなく高い補償効果を得ることができる。
【0196】
なお、この例では、電流ひずみ補償を優先しているが、この動作は装置の目的に応じて変更することができる。例えば、系統電源13と負荷2の間のケーブルが長くインピーダンスが大きい場合や、アクティブフィルタ3を連系点の末端に接続する場合など、電圧ひずみ補償の方が有効に動作することが予想される条件下では電圧ひずみ補償を優先的に使用することもできる。この場合、条件(3),(4)を以下のように変更し、さらにSRラッチ309の出力を反転する。
【0197】
(3´)電圧高調波の振幅が定格の1%以上であれば、SRラッチ309のS側に「1」を入力する。
【0198】
(4´)電流高調波の振幅が電圧高調波の振幅の10倍以上、かつ電流高調波の振幅が1%以上であれば、SRラッチ309のR側に「1」を入力する。
【0199】
また、系統1に特別な共振点がない場合、装置が系統の上位側に接続されると連系点間のインピーダンスが小さくなり、電圧高調波よりも電流高調波の方が大きくなるため、自動的に電流ひずみ補償が有効になる。また、装置が系統の下位側に接続されると、系統と連系点間のインピーダンスが大きくなるため、電流高調波よりも電圧高調波の方が大きくなり、自動的に電圧ひずみ補償に切り替わる。
【0200】
よって、別途電力潮流の検出手段を用意しなくても特許文献2のように電流ひずみ補償と電圧ひずみ補償を切り換えることができる。さらに、この方法では、電流高調波と電圧高調波を比較するため、装置が系統の上位にあるが系統共振により電流ひずみ補償の効果が得られない場合も、自動的に電圧ひずみ補償に切り換えることができる。
【0201】
すなわち、特許文献2と比較して、電力の潮流方向ではなく系統インピーダンスの大きさに応じて電流ひずみ補償と電圧ひずみ補償を切り換えるため、系統変動により電流ひずみ補償の効果が得られない条件に切り替わっても高い補償効果を得ることができる。同様に、電圧ひずみ補償の効果が得られない条件に切り替わっても自動的に電流ひずみ補償に戻すことができる。
【0202】
また、この方法は、実施形態2と組み合わせて複数の高調波を抑制することができる。さらに、実施形態3と組み合わせて係数Qa,Qbの自動補正機能を持たせることもできる。
【0203】
[実施形態5]
図14に本実施形態5における電力変換装置の高調波抑制制御部40eの構成を示す。これは、実施形態3とほぼ同一であるが、以下の点を変更している。
【0204】
係数Qa,Qbの振幅が10を越えているかどうかを判定する比較器501が追加される。また、比較器501の後段には、スイッチSW502を追加し、条件成立のたびにバッファの内容を1と0で反転する。比較器501の後段にはさらにスイッチSW503,SW504を追加し、係数Qa,Qbの振幅と位相を初期値にリセットする。スイッチSW502の後段には、高調波抑制制御部の入力を「Iout+Iload」と「Vs」で切り換えるスイッチSW505を設置する。
【0205】
本実施形態5では、係数Qa,Qbの補正結果に基づき、電流ひずみ補償と電圧ひずみ補償を切り換えて制御を行う。切り替えの条件は、係数Qa,Qbの振幅が10を越えた時である。
【0206】
図14のスイッチ動作を説明する。Qai>10が不成立の時は、図14に示すように、スイッチSW502が下、スイッチSW503,SW504が上に接続されていることとする。また、スイッチSW502に接続されるZ-1演算器506の初期値は零であり、この時スイッチSW505は上に接続されている。
【0207】
最初は高調波抑制制御部の入力が「Iout+Iload」で電流高調波を抑制する動作を行う。その後、負荷変動が生じ、電圧高調波抑制動作に切り換える時の動作を以下に説明する。
1.通常はQa1(Qa,Qbのゲイン)<10が成立し、スイッチSW502は下に接続されており、Z-1演算器506の出力である零がそのままZ-1演算器506に入力される。
2.スイッチSW505は上に接続されており、高調波抑制制御部は「Iout+Iload」を入力する。
3.スイッチSW503,SW504は上に接続されており、これまでの学習結果が係数Qa,Qbに入力される。
【0208】
ここで、Qa1が10を越え、入力信号を切り換える必要が生じたとする。
4.スイッチSW502が上に切り替わり、Z-1演算器506から出力された「0」の信号が、NOT回路507を介して「1」となり、スイッチSW502から「1」が出力される。
5.Z-1演算器506に「1」が入力される。
6.スイッチSW505が下に切り替わり、高調波抑制制御部に連系点電圧「Vs」が入力される。
7.スイッチSW503,SW504が下側に切り替わり、Z-1演算器508,509が初期値にリセットされる。
【0209】
ここで、次の演算周期に移行する。
8.スイッチSW503の後段に接続されているZ-1演算器508が「1」を出力する。
9.Qa1=Qaiとなり、これまでの学習結果はリセットされる。
10.その結果、Qa1>10は不成立となり(比較器501)、スイッチSW502は下側に切り換わる。
11.スイッチSW502に接続されているZ-1演算器506は「1」を出力する。
12.スイッチSW502は「1」を出力し、スイッチSW505は下側との接続を維持する。(高調波抑制制御部の入力を連系点電圧Vsのままとする。)
13.スイッチSW503,SW504は上側に切り換わり、これから先の学習結果を保持することとなる。
【0210】
この後、再び、入力信号を切り換える必要が生じた場合、スイッチSW502に接続されているZ-1演算器506の出力は「1」から「0」に切り換わり、上記と同じ動作となる。
【0211】
係数Qa,Qbの補正機能(係数補正量演算部100)では、高調波抑制制御部の動作中における高調波検出値の変化量を調べ、変化量が小さければ振幅を増加させている。図17のように、共振のため電流高調波の抑制が困難な系統条件の場合、高調波検出値の変化は非常に小さくなり、補正機能により係数Qa,Qbの振幅は増加し続ける。
【0212】
この動作を利用し、振幅が10を超えたら入力を切り換えることにより、電流ひずみ補償から電圧ひずみ補償に変更する。この時、係数Qa,Qbを初期値に戻すことにより切り換え時の影響を小さくする。この初期値が不適切であれば、高調波を増加させてしまうが、補正機能が有効であるため、すぐに適切な係数Qa,Qbにとなり高調波を抑制する。
【0213】
この後、系統変動により系統インピーダンスが共振により極端に小さくなった場合、再度、係数Qa,Qbの振幅は増加し、電圧ひずみ補償から電流ひずみ補償に切り換わる。このため、実施形態4と同様に系統条件により自動的に適切なひずみ補償を選択することができる。
【0214】
本実施形態5では、電流ひずみ補償と電圧ひずみ補償の優先度は同一である。電流ひずみ補償の優先度を上げたい場合は、例えば電圧ひずみ補償が有効な時は比較器501において切り換えの閾値を5にし、電流ひずみ補償が有効な時は閾値を10にするなど閾値を変えることで実現できる。
【0215】
また、本実施形態5は、実施形態2と組み合わせることにより、複数の高調波を抑制することが可能となる。
【0216】
本実施形態5における高調波抑制制御部は、実施形態3と実施形態4の効果に加え以下の効果が得られる。
【0217】
実施形態4に係数Qa,Qbの補正機能を追加する場合に比べ、高調波抑制制御部は1つでよい。そのため実施形態4に比べ実装が容易であり、演算負荷を低減することができる。
【0218】
[実施形態6]
図15に実施形態6の構成を示す。これは、実施形態1とほぼ同等であるが、以下の点で異なる。
【0219】
本実施形態6では、高調波抑制制御部の入力を連系点電圧「Vs」から減算信号「Vs×Gv−(Iout+Iload)」に変更している。図15での連系点電圧「Vs」は相電圧を想定している。線間電圧を用いる場合、位相を補正し、フィルタ出力電流Ioutや負荷電流Iloadと合わせる必要がある。また、位相補正ではなく、線間電圧から相電圧への変換式(Vu=(Vur−Vwu)/3,Vv=(Vvw−Vur)/3,Vw=(Vwu−Vvw)/3)で算出した相電圧を連系点電圧「Vs」として用いても良い。
【0220】
この方法では、入力を減算信号「Vs×Gv−(Iout+Iload)」に変更したため、減算信号「Vs×Gv−(Iout+Iload)」を零に制御する。すなわち、(Iout+Iload)=Is1=Vs/Gvとなり、特定次数の電圧高調波ひずみに対して図15(a)の点線枠内700を抵抗として動作させている。ここでゲインGvは点線枠内700をGv[p.u]の抵抗負荷として動作させるという意味になる。
【0221】
この方法では、電圧ひずみがない場合は(Iout+Iload)が零となるような制御とするため、背景技術で説明した方法(電流ひずみ補償型アクティブフィルタ)と同等の電流ひずみ補償の効果が得られる。系統1側が共振点に入り、インピーダンスが無限大となり(Iout+Iload)=0となる場合、今度は電圧ひずみを除去するように動作するため、実施形態1と同等の電圧ひずみ補償の効果が得られる。系統電圧のひずみが大きいときは、従来の電圧補償型アクティブフィルタと同等の効果が得られる。そのため、実施形態4,5のように回路を追加することなく、以上の3つの動作を切り換えることが可能となる。
【0222】
また、ゲインGvを小さく設定すれば電圧信号が相対的に小さくなるため、背景技術で説明した方法(電流ひずみ補償型アクティブフィルタ)のように電流ひずみ補償動作に近くなる。 ゲインGvを大きく設定すれば電圧信号が相対的に大きくなるため、動作は実施形態1に近づくこととなる。
【0223】
また、非特許文献1ではインバータのみを抵抗として動作させるだけであった。しかし、本実施形態6ではLCLフィルタ11や高調波負荷2までを含めて抵抗Rとして動作させるため、フィルタLCと系統1側との共振による高調波拡大を抑制でき、さらに高調波負荷2から流出する高調波電流を効果的に補償できる。また、本実施形態6では外乱オブザーバを使用しているため、制御遅延や高調波負荷を含めた実システム特性をあらかじめ測定し係数Qa,Qbを設定することで、安定した制御を行うことができゲインGvを高く設定でき、従来の電圧補償型アクティブフィルタよりも高い補償効果を得ることができる。
【0224】
さらに、本実施形態6は、実施形態2と組み合わせ複数の高調波を抑制することができる。また、実施形態3と組み合わせて係数Qa,Qbの自動補正機能を持たせることも可能である。さらに、入力を減算信号「Vs×Gv−Is1」に変更し、必要なCTを少なくする構成をとることもできる。
【0225】
ただし、ゲインGvは有限の値であるため、実施形態1に比べると電圧ひずみ補償の効果は低下する。
【0226】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0227】
例えば、実施形態3では、係数Qa,Qbを自動補正したが、系統1の変動条件が概知である場合には、係数Qa,Qbのテーブルを予め作成しておき、対応しても良い。
【符号の説明】
【0228】
1…系統
2…高調波負荷
3…アクティブフィルタ
10…電力変換装置
11…LCLフィルタ
12…系統母線
20…電流制御部
21,41,51…dq変換部
24d,24q…比例積分制御器
25…d軸電圧指令加算部
26,44…dq逆変換部
30…PWMゲート信号作成部
31…PLL制御器
40…高調波抑制制御部
43・・・外乱オブザーバ
100…係数補正量加算部
101…係数補正手段
106,107,206…極座標変換部
113,115,121,123…判定器
120…平均処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源の系統母線に一端が接続されたACフィルタおよび該ACフィルタの他端に接続された電力変換装置の高調波抑制装置であって、
前記電力変換装置に流れる電流と電力変換装置の電流指令値との偏差をとり、該偏差出力に基づいて前記電力変換装置を制御する電流制御手段と、
前記系統と電力変換装置との連系点電圧を入力とし、該連系点電圧中の抑制対象の次数における高調波を直流値として出力する高調波検出部と、
制御系の伝達特性に基づいて決定された高調波抑制電流指令値から前記連系点電圧までの伝達関数の逆関数として定義された係数を用いた積算器で前記高調波検出部の出力信号を掛けた信号と、高調波抑制電流指令値に検出遅延のみを付加した信号と、の差をとることにより高調波の外乱を推定する外乱オブザーバと、
前記外乱オブザーバによって推定された高調波の外乱と、外乱を抑制する外乱指令値との偏差をとって高調波抑制電流指令値を算出する加算器と、
を有する高調波抑制制御手段と、を備え、
前記電流制御手段の電流指令値に、前記高調波抑制制御手段で算出された高調波抑制電流指令値を重畳して高調波電圧を抑制することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記高調波検出部は、前記連系点電圧に代えて、連系点電圧とゲインを乗算した値から、ACフィルタの出力電流と前記系統母線に接続された負荷に流れる負荷電流との加算電流、を減算した減算信号とし、前記減算信号の抑制対象の次数における高調波を直流値として出力し、
前記外乱オブザーバの前記係数は、高調波抑制電流指令値から前記減算信号までの伝達関数の逆関数として定義されていることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記高調波検出部は、前記連系点電圧に代えて、連系点電圧とゲインを乗算した値から、系統に流れる系統電流、を減算した減算信号とし、前記減算信号の抑制対象の次数における高調波を直流値として出力し、
前記外乱オブザーバの前記係数は、高調波抑制電流指令値から前記減算信号までの伝達関数の逆関数として定義されていることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記高調波抑制制御手段を複数の高調波次数分並列に設け、該各高調波抑制制御手段で算出された高調波抑制電流指令値を加算し、該加算された指令値を前記電流制御手段の電流指令値に重畳することを特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記複数の高調波次数分並列に設けられた高調波抑制制御手段のうち、特定次数の高調波抑制制御手段の入力を、系統に流れる系統電流,ACフィルタの出力電流,系統母線に接続された負荷に流れる負荷電流,または、前記出力電流と負荷電流とを加算した加算電流とすることを特徴とする請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記高調波抑制制御手段は、
前記特定次数の高調波抑制制御手段として、連系点電圧を入力とした電圧ひずみ補償用の高調波抑制制御手段と、系統に流れる系統電流,ACフィルタの出力電流,系統母線に接続された負荷に流れる負荷電流,または、前記出力電流と負荷電流とを加算した加算電流とを入力とした電流ひずみ補償用の高調波抑制制御手段と、を備え、
前記それぞれの高調波抑制制御手段に入力された抑制対象の次数における電圧高調波,電流高調波の振幅値の比較に基づいて、電圧ひずみ補償用の高調波抑制制御手段と、電流ひずみ補償用の高調波抑制制御手段と、を切り換えて、高調波抑制電流指令値を算出することを特徴とする請求項1〜5のうち何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記外乱オブザーバにおける係数は、制御系の伝達特性を測定するか、又は測定せずに決定されており、
前記高調波検出部の出力信号の高調波検出値と前記出力信号の1周期前の高調波検出値との変化量を求めて、前記高調波検出部の出力信号の1周期前の高調波検出値と前記変化量との位相差を前記係数の位相補正量として算出し、前記高調波検出部の出力信号の1周期前の高調波検出値と前記変化量との振幅の差を前記係数の振幅補正量として算出する係数補正量算出部と、
前記係数補正量算出部により算出された位相補正量、振幅補正量によって前記係数の位相、振幅を各々補正する係数補正手段と、を備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記係数の振幅が大きくなった場合、高調波抑制制御手段の入力を、連系点電圧と、系統に流れる系統電流,ACフィルタの出力電流,系統母線に接続された負荷に流れる負荷電流,または、前記出力電流と負荷電流とを加算した加算電流と、で切り換えることを特徴とする請求項7記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−90396(P2013−90396A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227282(P2011−227282)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】