説明

電力機器の設計支援方法及び設計支援装置並びに設計支援プログラム

【課題】 発生するアークをエネルギー源とする容器内の圧力変化の特性に基づき容器を含む電力機器の合理的な設計を行うための電力機器の設計支援装置を提供する。
【解決手段】 電力機器を収納する容器内の所定位置において電力に基づき発生するとともにエネルギーが異なり、同一時間持続する複数種類のアークによる前記容器内の特定位置の時間的な圧力変化を表す圧力特性に基づき特定の期間乃至瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を求めるとともに、前記比を表す情報をそれぞれが対応する前記エネルギーを表す情報とともに出力する振動振幅/振動中心演算部3と、前記比を表す情報と前記エネルギーを表す情報とに基づき前記エネルギーに対する前記比の極大値を求める極大値演算部4とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力機器の設計支援方法及び設計支援装置並びに設計支援プログラムに関し、特に地絡、短絡事故等により、その内部でアーク放電が発生する電力機器の容器の設計に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
空間的に密閉に近い状態で使用される各種の電力機器においては、万一のアーク短絡発生時に、様々な公衆災害を引き起こす恐れのある急激な内部圧力の上昇が懸念される。そこで、地絡、短絡事故等により、その内部でアーク放電が発生する、例えば配電盤、変圧器、ガス絶縁線路等の電力機器の開発に際しては、アークの発生により電力機器の容器内に発生する圧力を想定した容器の設計が行われている。
【0003】
従来技術に係るこの種の電力機器の容器の開発設計に当たっては、想定されるアーク電流やアーク電圧から求められるアークエネルギーに比例して容器内の圧力も上昇するものとして耐圧設計等を行っている。
【0004】
ちなみに、特許文献1には、『アークによる圧力上昇はアークエネルギーに比例する(第2頁、上欄の左欄第9〜10行目参照』旨が記載されている。また、特許文献2には、『アークによる圧力上昇値は電流に比例する(段落[0030]及び[0031]参照)』旨が記載されている。さらに、特許文献3には、『容器内の圧力振動は共振現象による(段落[0011]参照)』旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−41106号公報
【特許文献2】特開平6−289090号公報
【特許文献3】特開平9−168214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、本願発明者等は、アークによる内部圧力上昇に関する特性解明及び評価方法の確立を目指し、一定の密閉容器サイズにおけるアーク電流値、電極ギャップ長等が及ぼす影響に関して検討を進めてきた。
【0007】
かかる特性解明の一環として、密閉容器サイズを変化させた場合の内部圧力上昇について検討した。一般に、密閉容器サイズが大きい程、その他の条件が同じであれば、内部圧力上昇値は小さくなるものと考えられるが、密閉容器の容積や形状によっては想定されるよりも大きな圧力上昇が発生する場合があることが分ってきた。
【0008】
したがって、想定されるアーク電流やアーク電圧から求められるアークエネルギーに比例して容器内の圧力も上昇することを前提として耐圧設計等を行っている従来の設計手法は必ずしも合理的でない場合があり、このような場合にはより適切な設計手法の提案が求められる。
【0009】
同時に、例えばアークの消弧を行う場合等、アークエネルギーに基づく圧力を積極的に利用する用途においてもその合理的な設計に適用することができるものと考えられる。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑み、発生するアークをエネルギー源とする容器内の圧力変化の特性に基づき容器の設計をはじめ、この容器を含む電力機器の合理的な設計を行うための電力機器の設計支援方法及び設計支援装置並びに設計支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アーク電流値及び電極の条件を一定として、密閉容器サイズを変化させた場合の容器内の圧力上昇について検討した結果として得られた知見を基礎とするものである。すなわち、アークエネルギーを一定として密閉容器容積を増加させた場合、内部圧力上昇最大値は、基本的には、容積の増加度合と同程度に低下していくが、ある特異的な条件においては、圧力上昇の振動波形の振幅が比較的大きくなり、容積の増加度合から想定されるよりも大きくなることが分った。
【0012】
そこで、所定容積の容器において、エネルギーが異なる複数種類のアークを発生させ、この場合の前記容器内の特定位置の時間的な圧力変化を表す圧力特性を検出し、各圧力特性における振動振幅と振動中心との比を求めた場合、アークのエネルギーに対する前記比の特性が極大値を持つことが判明した。したがって、前述の如き極大値を与えるアークのエネルギーを避けて適切な値に設定することで容器内の圧力上昇が急増しないような合理的な容器の設計を行うことができると考えられる。一方、この種の電力機器においてアークのエネルギーを積極的に利用する場合も考えられるが、かかる場合には、逆に極大値の近傍のアークのエネルギーを得る設計とすることにより、合理的な設計を行うことができると考えられる。
【0013】
かかる知見に基づく本発明の第1の態様は、電力機器を収納する容器内の所定位置において電力に基づき発生するとともにエネルギーが異なり、同一時間持続する複数種類のアークによる前記容器内の特定位置の時間的な圧力変化を表す圧力特性に基づき特定の期間乃至瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を求め、前記エネルギーに対する前記比を表す特性における前記比の極大値を求め、この極大値を利用して前記容器を含む電力機器の設計を行うことを特徴とする電力機器の設計支援方法にある。
【0014】
本態様によれば、複数種類のアークエネルギーに基づく各圧力特性の振動振幅と振動中心との比の極大値を利用して容器を含む電力機器の設計を行うようにしたので、前記容器の場合には、極大値を与えるアーク条件を容易に回避して合理的な容器の設計を行うことができる。
【0015】
一方、極大値を与えるアークエネルギーを積極的に利用することも可能になる。例えばアークにより発生する圧力をアークの消弧に利用する場合等には、極大値を与えるアーク条件の近傍で当該電力機器の所定の設計を行えば良い。
【0016】
ここで、前記各圧力特性は、前記各圧力特性を与えるアークのエネルギーを前記アークの発生が想定される前記所定位置に模擬的に発生させて前記特定位置の圧力を計算することにより求めることができる。
【0017】
この場合には、特定位置の圧力を実験により求める必要がないので、その分迅速且つ低廉なコストで合理的な容器の設計を実現し得る。ちなみに、この種の実験は、多大な費用と時間を要し、また実験設備の制約により所望の実験を実施できない場合もある。
【0018】
また、前記特定の期間乃至瞬間は、前記各アークの持続時間の終端を含む期間乃至瞬間であることが好ましい。
【0019】
この場合には、最も圧力が上昇する瞬間の情報を利用することができるので、その分前記比の特性も高精度で良好なものが得られるからである。
【0020】
本発明の第2の態様は、電力機器を収納する容器内の所定位置において電力に基づき発生するとともにエネルギーが異なり、同一時間持続する複数種類のアークによる前記容器内の特定位置の時間的な圧力変化を表す圧力特性に基づき特定の期間乃至瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を求めるとともに、前記比を表す情報をそれぞれが対応する前記エネルギーを表す情報とともに出力する第1の演算手段と、前記比を表す情報と前記エネルギーを表す情報とに基づき前記エネルギーに対する前記比の極大値を求める第2の演算手段とを有することを特徴とする電力機器の容器の設計支援装置にある。
【0021】
本態様によれば、極大値を与える振動振幅と振動中心との比が分るので、設計の対象が前記容器の場合には、前記比を与えるエネルギーを発生するアーク条件を回避するような設計をすることにより、容器内の不測の圧力上昇を抑制して合理的な容器設計に資することができる。
【0022】
一方、極大値を与えるアークエネルギーを積極的に利用する場合、例えばアークにより発生する圧力をアークの消弧に利用する場合等には、極大値を与えるアーク条件の近傍で当該電力機器の所定の設計を行えば良い。
【0023】
ここで、前記容器を特定するためのパラメーターに関する情報、前記各圧力特性を与えるアークのエネルギーを表す情報、前記アークの持続時間を表す情報、前記各アークの発生を想定した容器内の所定位置を表す情報及び前記特定位置を表す情報に基づき前記所定位置に与えられた前記各アークのエネルギーにより前記特定位置の時間的な圧力変化をそれぞれ表す各圧力特性を演算して前記各圧力特性を表す情報を出力する第3の演算手段をさらに有し、前記第1の演算手段は、前記各圧力特性を表す情報に基づき、特定の瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を求めるとともに、前記比を表す情報をそれぞれが対応する前記エネルギーを表す情報とともに出力するように構成することができる。
【0024】
この場合には、容器を特定するためのパラメーターに関する情報等、所定の基礎情報を第3の演算手段に入力するだけで、複数のアークエネルギーに関する圧力特性を演算(シミュレーション)により得ることができるので、特定位置の圧力を実験により求める必要がなく、その分迅速且つ低廉なコストで合理的な容器の設計を実現し得る。ちなみに、この種の実験は、多大な費用と時間を要し、また実験設備の制約により所望の実験を実施できない場合もある点に関しては前述の場合と同様である。
【0025】
また、前記特定の期間乃至瞬間は、前記各アークの持続時間の終端を含む期間乃至瞬間であることが望ましい。
【0026】
この場合には、最も圧力が上昇する瞬間の情報を利用することができるので、その分前記比の特性も高精度で良好なものが得られるからである。
【0027】
本発明の第3の態様は、電力機器を収納する容器内の所定位置において電力に基づき発生するとともにエネルギーが異なり、同一時間持続する複数種類のアークによる前記容器内の特定位置の時間的な圧力変化を表す圧力特性に基づき特定の期間乃至瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を電子計算機に演算させるための第1の処理ステップと、前記エネルギーに対する前記比を表す特性における前記比の極大値を電子計算機に演算させるための第2の処理ステップとを有することを特徴とする電力機器の容器の設計支援プログラムにある。
【0028】
本態様によれば、容器内の不測の圧力上昇を抑制して合理的な容器設計に資することができるばかりでなく、アークエネルギーを積極的に利用する場合においても、極大値を与える振動振幅と振動中心との比を電子計算機に演算させることができるので、この場合の所望の情報を迅速且つ安価に得ることができる。
【0029】
ここで、前記容器を特定するためのパラメーターに関する情報、前記各圧力特性を与えるアークのエネルギーを表す情報、前記アークの持続時間を表す情報、前記各アークの発生を想定した容器内の所定位置を表す情報及び前記特定位置を表す情報に基づき前記所定位置に与えられた前記各アークのエネルギーにより前記特定位置の時間的な圧力変化をそれぞれ表す各圧力特性を電子計算機に演算させて前記各圧力特性を表す情報を前記第1の処理ステップの入力情報として出力させる第3の処理ステップをさらに有することが望ましい。
【0030】
この場合には、各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を求めるための基礎となる圧力特性も電子計算機による演算により求めることができるので、容器内の不測の圧力上昇を抑制して合理的な容器設計に資することができる極大値を与える振動振幅と振動中心との比をさらに迅速且つ安価に電子計算機に演算させることができるからである。この結果、この場合の所望の情報をさらに迅速且つ安価に得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、容器内の圧力上昇の振動振幅が急激に上昇するアークエネルギーの値を考慮して容器を含む電力機器の設計を行うことができるので、アーク電流やアーク電圧から求められるアークエネルギーを適切な値に設定することができる。この結果、設計対象が容器の場合には、圧力上昇を可及的に抑制した合理的な容器の設計に資することができる。すなわち、アークエネルギー毎の圧力上昇を考慮して、アークエネルギーを適切な値に設定することにより、容器内の圧力上昇を抑制できるため、例えば、配電盤、変圧器、ガス絶縁線路などの電力機器の設計の適正化、当該機器の低コスト化などに大いに貢献できる。
【0032】
一方、極大値を与えるアークエネルギーを積極的に利用することも可能になる。例えばアークにより発生する圧力をアークの消弧に利用する場合等にも利用することができる。この場合には、極大値を与えるアーク条件の近傍で当該電力機器の所定の設計を行うことで、最も効率的なアークエネルギーの利用を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の各種の特性の基礎的な情報を得るために構築した電力機器の容器の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電力機器の容器の設計支援装置を示すブロック線図である。
【図3】特定のエネルギーのアークを発生させた場合における容器内の特定位置における圧力の時間的変化である圧力特性を示すグラフである。
【図4】各アークエネルギーに関する容器内の特定位置における圧力特性の、特定の期間における振動振幅の平均値と振動中心の平均値との比を示すグラフである。
【図5】各アークエネルギーに関する容器内の特定位置における圧力特性の、特定の期間における平均値を示すグラフである。
【図6】各アークエネルギーに関する容器内の特定位置における圧力特性の、特定の期間における振動振幅の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態は、設計対象を電力機器の容器の場合に関して説明するが、これに限る必要はない。密閉容器内でアークを発生する電力機器の各部の設計に広く適用可能である。
【0035】
図1は本実施の形態による設計支援の対象となる電力機器の容器を概念的に示す説明図である。同図に示すように、当該容器Iは、その内部でアーク放電が発生する可能性を有する電力機器、例えば配電盤、変圧器、ガス絶縁線路等を構成する要素を収納するものである。本実施形態における容器Iは、直径0.496mの円筒を2本直交させて形成したもので、容積を0.52mとし、商用周波数の交流電力により所定位置Aに発生する大きさが異なる複数種類のアークエネルギーを模擬的に付与し、この場合の容器I内の特定位置Bに発生する圧力の時間特性である圧力特性を模擬するためのものである。容器Iの形状及び容積は、勿論図1のものに限定するものではない。
【0036】
図2は本発明の実施の形態に係る電力機器の容器の設計支援装置を示すブロック線図である。同図に示すように、入力装置1は、設計の対象となる容器Iを特定するためのパラメーターに関する情報(容器Iの前記形状、寸法乃至容積(図1に示すパラメータ)等)、容器I内に複数種類の圧力を発生させる各アークのエネルギーを表す情報、各アークの持続時間(各アーク間で同一である)を表す情報、各アークの発生を想定した容器I内の所定位置Aを表す情報及び特定位置Bを表す情報が入力され、入力された各情報を圧力特性演算部2に送出する。本形態においては、持続時間が0.1secのアークを、各エネルギーが95(kJ)、252(kJ)、475(kJ)、713(kJ)、951(kJ)の5種類に関して入力されるようにした。また、この場合のアークのエネルギーは50Hzの周波数の交流電流より与えられるものを模擬しており、このアークエネルギーに所定の係数kを乗じて求めたものを所定位置Aに入力している。
【0037】
圧力特性演算部2は入力装置1から入力された各情報に基づき所定位置Aに与えられた各アークのエネルギーにより特定位置Bの時間的な圧力変化をそれぞれ表す各圧力特性を演算して各圧力特性を表す情報を出力する。この圧力特性演算部2で得られた圧力特性の一例を図3に示す。同図は、エネルギーが475(kJ)の場合である。
【0038】
図3に示すように、当該圧力特性は容器I内を往復反射する圧力波に起因する周期Toscで振動しながら振動中心PMEANが直線的に上昇する特性を示している。ここで、図の錯綜を避けるため、475(kJ)以外の各エネルギーにおける圧力特性の図示は省略しているが、他のエネルギーに関しても同様の圧力特性が得られた。すなわち、商用の交流電流(50(Hz))に起因する周期で振動しながら振動中心PMEANが直線的に上昇する特性を示す。ここで、当然のことながらアークエネルギーが大きくなるに伴い振動中心PMEANの直線的な上昇特性は急傾斜の特性となったが、振幅は、最初はアークエネルギーが大きくなるに伴い大きくなるものの、途中からアークエネルギーが大きくなるに伴い小さくなるというシミュレーション結果を得た。シミュレーションと同様の条件で行った実験でも同様の結果が得られた。そこで、各アークエネルギーに関する圧力特性において振動振幅PAMPと振動中心PMEANとの比を比較することに思い至った。
【0039】
図2に示す、振動振幅/振動中心演算部3は、圧力特性演算部2が出力する各アークに関する各圧力特性(本形態の場合5種類)に基づき特定の期間乃至瞬間における各圧力特性の振動振幅と振動中心との比(PAMP/PMEAN)を求めるとともに、比(PAMP/PMEAN)を表す情報をそれぞれが対応するアークエネルギーを表す情報とともに出力する。ここで、特定の期間乃至瞬間に特別な限定はないが、各アークの持続時間の終端を含む期間乃至瞬間が最適である。この場合には、最も圧力が上昇する期間のデータを利用することができるので、その分、比(PAMP/PMEAN)の特性も高精度で適正なものが得られるからである。本実施の形態の場合、特定の期間は、各アークエネルギーに対応する圧力特性における0.09sec〜0.11secとした。当該特定期間には、本形態におけるアークの持続時間である0.1secを含んでいる。ここで、比(PAMP/PMEAN)は特定の期間のものに限る必要はない。特定の瞬間(最も好ましくは最大圧力を与えるアークの持続時間の終端)の振動振幅PAMPと振動中心PMEANとの値を用いることもできる。
【0040】
極大値演算部4は、振動振幅/振動中心演算部3の出力である振動振幅と振動中心との比(PAMP/PMEAN)を表す情報と各比(PAMP/PMEAN)に対応するエネルギーを表す情報とに基づき各エネルギーに対する比(PAMP/PMEAN)の極大値を求め、この極大値の情報を出力表示部5に出力する。
【0041】
出力表示部5には前記極大値を与えるアークエネルギーの情報とともに、振動振幅/振動中心演算部3における所定の情報処理の結果が各アークエネルギーに対する比(PAMP/PMEAN)の特性を表すグラフとして可視化される。
【0042】
図4は出力表示部5に可視化して表示される特性を示すグラフである。同図に示すように当該グラフでは横軸に各エネルギーの値が、縦軸に振動振幅PAMPと振動中心PMEANとの比(PAMP/PMEAN)がとってある。したがって、容器Iの設計者は当該グラフを参照することで圧力の極大値を知ることができるとともに、この場合の比(PAMP/PMEAN)の特性(グラフの形状)を視認することができる。
【0043】
この結果、本実施の形態によれば、容器I内の圧力上昇の振動振幅が急激に上昇するアークエネルギーの値を考慮して容器Iの設計を行うことができる。すなわち、当該エネルギーを与えるアーク条件を回避するような設計を行うことでアーク電流やアーク電圧から求められるアークエネルギーを適切な値に設定することができる。この結果、圧力上昇を可及的に抑制した合理的な容器Iの設計を支援することができる。
【0044】
ここで、上述の如き実施の形態で実現した本発明に係る電力機器の容器の設計支援装置を構築するに当たり行った基礎実験及びシミュレーションの結果を説明しておく。
【0045】
かかる基礎実験は図1に示す容器Iの所定位置Aに所定のエネルギーの複数種類のアークを発生させ、特定位置Bの圧力特性を圧力センサで検出することにより複数の圧力特性を得た。同様の条件のシミュレーションも行った。かかる実験乃至シミュレーションの条件は、例えば、配電盤等の実機器における事故条件を考慮したものである。シミュレーションでは図3及び図4に示す特性が得られる点については前述の通りである。
【0046】
ここでは、さらに振動中心PMEANのアークエネルギーに対する依存性を調べている。その結果を図5に示す。同図は、上記実施の形態と同様のアークエネルギーに対応する圧力特性における0.09sec〜0.11secの期間の平均値の特性である。
【0047】
図5を参照すれば、振動中心PMEANはアークエネルギーの増加にほぼ比例して増加することが分かる。ここで、同図における、白丸印は実験結果(実験は設備の都合上、95(kJ)、252(kJ)、475(kJ)の3種類のみについて行った;以下同じ)であり、黒丸印のシミュレーション結果とほぼ一致している。
【0048】
一方、振動振幅PAMPのアークエネルギーに対する依存性は図6に示す通りである。同図も各アークエネルギーに対応する圧力特性における0sec〜0.11secの期間の平均値である。図6を参照すれば、振動振幅PAMPは、アークエネルギーの増加に比例するのではなく、アークエネルギーの値によっては、急増あるいは微増することがあることが分かる。ここで、同図における、白丸印は実験結果であり、黒丸印のシミュレーション結果とほぼ一致している。
【0049】
かかる図5及び図6の結果を参照すれば、図3に示す圧力特性を演算(シミュレーション)により求めても実際の現象を正確に反映していると考えられる。したがって、図2に示す電力機器の設計支援装置によれば、実際の現象を正確に反映したシミュレーションを行うことができる。
【0050】
この結果、当該設計支援のための情報を得る場合にはシミュレーションによるのが合理的であることが分かる。実験には多大な時間と費用を要し、また実験設備の制約により実験を実施できない場合があるからである。
【0051】
以上の結果、内部でアークが発生する可能性がある電力機器の容器Iを設計する場合には、地絡・短絡事故等によりアークが発生した場合にも耐えられる機械的強度を見積もる必要があるので、アークにより発生する圧力の振動中心PMEANに対する振動振幅AMPの比(PAMP/PMEAN)を把握することが重要であることが明らかとなった。すなわち、図4の比(PAMP/PMEAN)のアークエネルギー依存性を示す特性によれば、アークエネルギーの増大とともに比(PAMP/PMEAN)が増大し、アークエネルギーが475(kJ)の場合に極大値を示し、それ以上のアークエネルギーでは微減する。この比(PAMP/PMEAN)の特性を考慮して、アークエネルギーが475(kJ)程度にならないように設定すれば比(PAMP/PMEAN)を小さく抑えることができる。例えば、アークエネルギーを252(kJ)に設定すれば、アークエネルギーが475(kJ)の場合の比(PAMP/PMEAN)の約1/2に低減できる。また、図5から分かるように、振動中心PMEANも約1/2に低減できる。このようにアークエネルギーを低く設定するためには、アーク電流やアーク電圧を低く抑える必要がある。アーク電流を低く抑えるためには、例えば、限流器等を利用することが考えられる。また、アーク電圧を低く抑えるためには、例えば、地絡、短絡事故が起こる可能性がある導体間の距離を短くすることが考えられる。
【0052】
なお、上記実施の形態では、アークを発生させる電力として商用の交流電力を使用する場合について説明したが、直流電力の場合でも同様に適用できる。
【0053】
また、上記実施の形態では、各圧力特性も圧力特性演算部2による演算により求めるような構成としたが、少なくとも、振動振幅/振動中心演算部3と極大値演算部4とを有していれば比(PAMP/PMEAN)の極大値を与える所望のアークエネルギーを知ることができる。この場合、振動振幅/振動中心演算部3には、上記実施の形態における圧力特性演算部2が所定の演算の結果求めた出力情報と同様の情報を別途用意し、振動振幅/振動中心演算部3に入力してやる必要がある。圧力特性演算部2が所定の演算の結果求めた出力情報は、例えば容器Iの所定位置Aで所定のエネルギーの複数種類のアークを発生させ、このときの各アークによる特定位置Bの圧力を圧力センサで測定することにより得ることができる。
【0054】
また、上記実施の形態における振動振幅/振動中心演算部3及び極大値演算部4、又は圧力特性演算部2、振動振幅/振動中心演算部3及び極大値演算部4の機能を電子計算機のプログラムで実現することもでき、この場合には、当該プログラムを搭載した電子計算機を、実質的に上記実施の形態に係る電力機器の容器の設計支援装置、すなわちシミュレータとして構築することができる。
【0055】
なお、上記実施の形態では、比(PAMP/PMEAN)の極大値を検出し、この極大値を与えるアークエネルギーを避けるようなエネルギーで容器を設計する場合について説明したが、例えばアークエネルギーに起因する圧力を遮断器等におけるアークの消弧に積極的に利用する場合も考えられる。この場合には、極大値近傍のアークエネルギーを利用できるような電力機器の設計とすれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、内部でアークが発生する可能性がある電力機器の容器を設計・製造販売する産業分野において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
I 容器
2 圧力特性演算部
3 振動振幅/振動中心演算部
4 極大値演算部
A 所定位置
B 特定位置
AMP 振動振幅
MEAN 振動中心
(PAMP/PMEAN) 比


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力機器を収納する容器内の所定位置において電力に基づき発生するとともにエネルギーが異なり、同一時間持続する複数種類のアークによる前記容器内の特定位置の時間的な圧力変化を表す圧力特性に基づき特定の期間乃至瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を求め、
前記エネルギーに対する前記比を表す特性における前記比の極大値を求め、この極大値を利用して前記容器を含む電力機器の設計を行うことを特徴とする電力機器の設計支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載する電力機器の設計支援方法において、
前記各圧力特性は、前記各圧力特性を与えるアークのエネルギーを前記アークの発生が想定される前記所定位置に模擬的に発生させて前記特定位置の圧力を計算することにより求めることを特徴とする電力機器の設計支援方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する電力機器の設計支援方法において、
前記特定の期間乃至瞬間は、前記各アークの持続時間の終端を含む期間乃至瞬間であることを特徴とする電力機器の設計支援方法。
【請求項4】
電力機器を収納する容器内の所定位置において電力に基づき発生するとともにエネルギーが異なり、同一時間持続する複数種類のアークによる前記容器内の特定位置の時間的な圧力変化を表す圧力特性に基づき特定の期間乃至瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を求めるとともに、前記比を表す情報をそれぞれが対応する前記エネルギーを表す情報とともに出力する第1の演算手段と、
前記比を表す情報と前記エネルギーを表す情報とに基づき前記エネルギーに対する前記比の極大値を求める第2の演算手段とを有することを特徴とする電力機器の設計支援装置。
【請求項5】
請求項4に記載する電力機器の設計支援装置において、
前記容器を特定するためのパラメーターに関する情報、前記各圧力特性を与えるアークのエネルギーを表す情報、前記アークの持続時間を表す情報、前記各アークの発生を想定した容器内の所定位置を表す情報及び前記特定位置を表す情報に基づき前記所定位置に与えられた前記各アークのエネルギーにより前記特定位置の時間的な圧力変化をそれぞれ表す各圧力特性を演算して前記各圧力特性を表す情報を出力する第3の演算手段をさらに有し、
前記第1の演算手段は、前記各圧力特性を表す情報に基づき、特定の瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を求めるとともに、前記比を表す情報をそれぞれが対応する前記エネルギーを表す情報とともに出力するように構成したことを特徴とする電力機器の設計支援装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載する電力機器の設計支援装置において、
前記特定の期間乃至瞬間は、前記各アークの持続時間の終端を含む期間乃至瞬間であることを特徴とする電力機器の設計支援装置。
【請求項7】
電力機器を収納する容器内の所定位置において電力に基づき発生するとともにエネルギーが異なり、同一時間持続する複数種類のアークによる前記容器内の特定位置の時間的な圧力変化を表す圧力特性に基づき特定の期間乃至瞬間における前記各圧力特性の振動振幅と振動中心との比を電子計算機に演算させるための第1の処理ステップと、
前記エネルギーに対する前記比を表す特性における前記比の極大値を電子計算機に演算させるための第2の処理ステップとを有することを特徴とする電力機器の設計支援プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載する電力機器の設計支援プログラムにおいて、
前記容器を特定するためのパラメーターに関する情報、前記各圧力特性を与えるアークのエネルギーを表す情報、前記アークの持続時間を表す情報、前記各アークの発生を想定した容器内の所定位置を表す情報及び前記特定位置を表す情報に基づき前記所定位置に与えられた前記各アークのエネルギーにより前記特定位置の時間的な圧力変化をそれぞれ表す各圧力特性を電子計算機に演算させて前記各圧力特性を表す情報を前記第1の処理ステップの入力情報として出力させる第3の処理ステップをさらに有することを特徴とする電力機器の容器の設計支援プログラム。


【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−205802(P2011−205802A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71049(P2010−71049)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人電気学会、平成22年電気学会全国大会講演論文集、第6分冊、平成22年3月5日
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】