説明

電力機器及び絶縁スペーサ

【課題】内部に欠陥が存在しても絶縁性能を損なわない電力機器を得ること。
【解決手段】内部に任意の絶縁ガス4が充填された密閉容器であるタンク(金属容器)2内に、高電圧導体1とそれを支える絶縁スペーサ3が配置されたガス絶縁機器(電力機器)10において、絶縁スペーサ3の材料として、エポキシ樹脂などの絶縁材を主材料とし、この主材料に水和アルミナなどの水酸化物で水溶性の高い水溶性材料を添加材料として含有させた材料を用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力機器の絶縁技術に関するものであり、電力機器に使われている絶縁スペーサの性能を高める事に寄与し、機器の信頼性を向上するとともにコンパクトで経済的な電力機器を実現し、信頼性があり安定した電力送電を可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
都市近郊へロスの小さい電力供給の実現と土地の有効利用のため、ガス絶縁機器などの電力機器は縮小化が要求されている。電力機器の縮小化にともなって機器内部の電界強度が上昇しており、微小な欠陥が機器の絶縁性能に及ぼす影響も大きくなっている。ガス絶縁機器に使われている絶縁スペーサは主要な絶縁を担う重要な役割があり、縮小化にともなってスペーサ内部の電界が上昇しても、絶縁性能を維持して信頼性を確保する事が求められている。
【0003】
絶縁スペーサの絶縁性能を脅かす欠陥因子としては、製作時に発生するボイドや金属異物の混入、製作時や使用中に発生する剥離やクラックなどが考えられる。これらの欠陥に電界が印加されると、欠陥内部あるいは混入異物の場合ならば異物先端で放電が発生し、時間の経過とともに放電が進展して、ついには絶縁破壊に至る。
【0004】
これに対して、従来、絶縁スペーサの信頼性を確保するための対策として、例えば特許文献1には、絶縁スペーサの表面にある欠陥、例えば外部からの異物が表面に付着してなる欠陥について対策が提案されている。しかしながら、絶縁スペーサ表面の耐トラッキング対策などを目的としており、絶縁スペーサ内部の欠陥に対する効果的な対策は無かった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−340582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁スペーサ内部の欠陥に対する一般的な対策として、設計上において電界緩和シールドによる部分的な内部電界の緩和策や、製造上においては異物管理の向上や部分放電試験法の向上による品質管理の強化策などが考えられるが、これらの方策は欠陥の許容サイズが小さくなるにつれて効果が限定的になり、大がかりな設備が必要になるなど技術面や経済面で解決すべき課題を含むものである。
【0007】
また、上記特許文献1に示された提案は、絶縁物表面で発生した放電による絶縁物の劣化、損傷を防ぐ方法であり、絶縁物の内部欠陥に対して絶縁性能の低下を防ぐ効果が無いので課題とされていた。また、放電そのものを抑制する効果も無いため、絶縁破壊を防げないという課題もあった。
【0008】
本発明は前記のような課題を解決するためになされたものであって、内部に欠陥が存在しても絶縁性能を損なわない絶縁スペーサを実現するとともに、この絶縁スペーサを使用したコンパクトで信頼性の高い電力機器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の電力機器は、高電圧が印加される高電圧導体と、高電圧導体より低い電位に保たれる基体と、高電圧導体及び基体の間に設けられ基体から高電圧導体を絶縁支持する絶縁スペーサとを備えた電力機器であって、絶縁スペーサは、絶縁物でなる主材料に、熱により気化あるいは昇華する添加材料が含有された材料で作製されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の絶縁スペーサは、高電圧が印加される高電圧導体と高電圧導体より低い電位に保たれる基体との間に設けられ、基体から高電圧導体を絶縁支持する絶縁スペーサであって、絶縁材でなる主材料に、熱により気化あるいは昇華する添加材料が含有された材料で作製されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明の電力機器によれば、絶縁スペーサに電界が加わった際に絶縁スペーサ内部の欠陥、例えばボイドならばその空隙において部分放電が発生する。通常は部分放電が一度発生すると電界が印加される限り継続して、ついには絶縁破壊に至るが、熱により気化あるいは昇華する添加材料が加えられていれば、部分放電の熱によって空隙の絶縁物壁面から添加材料が気化して空隙の内圧を上昇させるため、部分放電を停止させることができる。放電が発生しなければ欠陥が存在しても無害であるため、絶縁スペーサの本来の絶縁性能を得ることができる。このように、絶縁スペーサに、ボイドなどの内部欠陥が存在しても、放電の熱により、添加材料が気化あるいは昇華して、欠陥内部の内圧を上昇させて、放電が停止するので、コンパクトで信頼性の高い電力機器とすることができるという効果を奏する。
【0012】
また、この発明の絶縁スペーサによれば、主材料に熱により気化する材料を添加することにより、絶縁物内部に欠陥が存在した場合でも、絶縁物に電界が印加された際に欠陥内部で生じる部分放電を抑制するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる電力機器及び絶縁スペーサの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態
図1は本発明の電力機器の実施の形態であるガス絶縁機器の横断面図である。図1において、ガス絶縁機器10は、高電圧が印加される導体(高電圧導体)1と、密閉された金属容器を構成して接地電位となるタンク(基体)2と、タンク2内部にて導体1をタンク2から絶縁支持する絶縁スペーサ3と、タンク2内に封入された絶縁ガス4から構成されている。絶縁スペーサ3は、エポキシ等の絶縁物を主材料とする添加材料を含有する絶縁物3bと、添加材料を含有する絶縁物3bに埋め込まれ導体1と接続されて同電位となる埋め込み電極3aとから構成されている。添加材料を含有する絶縁物3bには、添加材料として、水酸化物などの水溶性の高い水溶性材料である水和アルミナが添加されている。
【0015】
(絶縁物中の欠陥)
図2は絶縁スペーサ3に発生する欠陥の一例を示す模式図である。絶縁スペーサ3の添加材料を含有する絶縁物3bには、次ぎのような欠陥が発生することがある。すなわち、
(a)絶縁スペーサ3の製造過程において生じるボイド
(b)製造時や使用中に外部応力によって生じるクラック
(c)同じく製造時や使用中に外部応力によって生じる剥離
(d)製造過程に紛れ込む金属異物の混入
などの欠陥が発生する。
【0016】
ボイドは、添加材料を含有する絶縁物3bの内部に密閉された空隙を形成する。クラック及び剥離は、特に埋め込み電極3aとの境界面に形成される。このようなクラック及び剥離は、添加材料を含有する絶縁物3bの埋め込み電極3aとの境界面に密閉された空隙を形成する。また、添加材料を含有する絶縁物3bに混入した金属異物は、微少な空気を伴って混入されることも多く、そのような場合、金属異物の周囲には、微少な密閉された空隙が形成されることもある。これらの欠陥は、単独にて発生する他、相互に組み合わされて発生することもある。
【0017】
(放電の発生の過程)
導体1に高電圧が印加されると絶縁スペーサ3の内部に電界が生じる。絶縁スペーサ3の内部に、上記ボイド、クラック及び剥離などによる密閉された空隙が存在すると、絶縁物中で電位分担が均等でなくなるため、空隙に電界が集中して高電界部が形成され、空隙内部に放電が生じる。そして、時間とともにこの放電が進展して、最終的には導体1とタンク2とが導通し、絶縁破壊に至る。
【0018】
混入した金属異物に関しては、最初に電界の高い異物先端部で放電が発生し、次ぎにこの放電により絶縁物が損傷して金属異物の周囲に空隙が形成され、空隙内部の放電へと移行する。その後は上記と同様な過程を経て放電が進展して最終的に絶縁破壊を引き起こす。このように、ボイド、クラック及び剥離などの絶縁スペーサ3の内部に空隙を形成する欠陥と、金属異物混入による欠陥とは、発生原因や種類が異なるものの、密閉された空隙内部で放電を生じて絶縁破壊に至るという点では一致する。
【0019】
(放電の発生メカニズム)
絶縁物中の欠陥の空隙内で放電が生じる際のメカニズムについて述べる。例えば図2のボイドの場合、放電の成立条件は、図中点線矢印にて示す電界方向に対する空隙長dと空隙中の電界E、空隙内部のガスAの種類と圧力pにより決定され、図3に示すようなパッシェンカーブと呼ばれる特性に依存することが知られている。
【0020】
図3は空隙内部のガスAのパッシェンカーブを示す図である。横軸は空隙長dと空隙中の電界Eとの積で表され、縦軸はこの条件による空隙部の破壊電界EBDを示す。例えばpとdの積a1で決まるEBD値b1が、空隙中の電界E以下であれば空隙中で放電が生じる。
【0021】
(添加材料による放電抑制のメカニズム)
次に添加材料による放電抑制のメカニズムについて述べる。図4は添加材料を含有した絶縁スペーサ3の内部にある欠陥周辺を拡大して示す模式図である。図4においては、空隙の存在→放電の発生→添加材料の気化→内圧の上昇、の順で進展する。絶縁スペーサ3の内部に空隙が存在した場合(空隙の存在)、電界が加わると上記の放電メカニズムにより放電が生じる(放電の発生)。放電が生じると熱により絶縁物壁面から添加材料が気化する(添加材料の気化)、これにより空隙内部の内圧pが上昇する(内圧の上昇)。
【0022】
図3により説明する。空隙内部の内圧pが上昇すると、内圧pと空隙長dの積がa1からa2へと変化し、破壊電界EBD値がb1からb2へと変化する。放電はb2が空隙中の電界Eを越えるまで継続するが、Eを越えた時点で停止する。このようなメカニズムにより、空隙内部の放電を完全に停止させるか、放電持続性を低下させることにより、絶縁破壊を回避させることができる。
【0023】
以上のように、本実施の形態のガス絶縁機器10は、高電圧が印加される導体1と、導体1より低い電位(接地電位)に保たれるタンク2と、導体1及びタンク2の間に設けられタンク2から導体1を絶縁支持する絶縁スペーサ3とを備え、この絶縁スペーサ3は、絶縁物でなる主材料に、熱により気化あるいは昇華する添加材料が含有された材料で作製されている。そのため、ボイドなどの内部欠陥が存在しても、放電の熱により、添加材料が気化あるいは昇華して、欠陥内部の内圧を上昇させるので、放電が停止する。
【0024】
また、この添加材料として、水酸化物などの水溶性の高い水溶性材料である水和アルミナが添加されている。そのため、空隙内部で放電が生じると、放電の熱エネルギーによって水酸化物が分解され、分解した一部の分子が昇華して水蒸気となって空隙内部に放出されるので、空隙内部の圧力が上昇する。この昇華による圧力上昇は放電が停止するまで続き、上述の放電抑制のメカニズムにより、最終的に放電が持続できなくなって停止する。
【0025】
さらにまた、本実施の形態のガス絶縁機器10は、内部に任意の絶縁ガス4が充填された密閉容器であるタンク2内に、導体1とそれを支える絶縁スペーサ3が配置されたガス絶縁機器10において、絶縁スペーサ3の材料として、エポキシ樹脂などの絶縁材を主材料とし、この主材料に水和アルミナなどの水酸化物で水溶性の高い水溶性材料を添加材料として含有させた材料を用いている。そのため、放電の熱により、添加材料が気化あるいは昇華して、ボイドなどの内部欠陥が存在しても、欠陥内部の内圧を上昇させるので、放電が停止する。
【0026】
なお、本実施の形態においては、上記のように本発明の電力機器の実施の形態としてガス絶縁機器10を例に挙げて説明したが、本発明にかかる電力機器はガス絶縁機器10に限定されるものではなく、高電圧が印加される高電圧導体と、この高電圧導体より低い電位に保たれる基体と、高電圧導体及び基体の間に設けられ基体から高電圧導体を絶縁支持する絶縁スペーサとを備えたものであれば、適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明にかかる電力機器は、ガス絶縁機器、ガス絶縁開閉措置及び変圧器などの絶縁スペーサで高電圧導体を支持する電力機器に適用されて好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の電力機器の実施の形態であるガス絶縁機器の横断面図である。
【図2】絶縁スペーサに発生する欠陥の一例を示す模式図である。
【図3】絶縁物の欠陥で放電するメカニズムを説明するための放電の特性図である。
【図4】放電抑制のメカニズムを説明した図である。
【符号の説明】
【0029】
1 導体(高電圧導体)
2 タンク(基体/金属容器)
3 絶縁スペーサ
3a 埋め込み電極
3b 添加材料を含有する絶縁物
4 絶縁ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧が印加される高電圧導体と、
前記高電圧導体より低い電位に保たれる基体と、
前記高電圧導体及び前記基体の間に設けられ前記基体から前記高電圧導体を絶縁支持する絶縁スペーサとを備えた電力機器であって、
前記絶縁スペーサは、前記絶縁物でなる主材料に、熱により気化あるいは昇華する添加材料が含有された材料で作製されている
ことを特徴とする電力機器。
【請求項2】
前記添加材料は、前記高電圧導体と前記基体との間の絶縁物内部で発生する放電の熱により気化あるいは昇華する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力機器。
【請求項3】
前記電力機器は、前記基体を構成する金属容器内に通電用の前記高電圧導体が挿通され、該高電圧導体を前記金属容器から絶縁支持するために前記絶縁スペーサが配設されると共に、前記金属容器内に絶縁ガスが封入されたガス絶縁機器である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電力機器。
【請求項4】
前記主材料が、エポキシ樹脂を主体とするものである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電力機器。
【請求項5】
前記添加材料が、水溶性の高い水溶性材料である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電力機器。
【請求項6】
前記水溶性材料が、水和アルミナである
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電力機器。
【請求項7】
高電圧が印加される高電圧導体と前記高電圧導体より低い電位に保たれる基体との間に設けられ、前記基体から前記高電圧導体を絶縁支持する絶縁スペーサであって、
前記絶縁材でなる主材料に、熱により気化あるいは昇華する添加材料が含有された材料で作製されている
ことを特徴とする絶縁スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−306876(P2008−306876A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153241(P2007−153241)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】