説明

電力用半導体装置

【課題】装置単位毎に温度依存性にバラツキが生じても過電流検出精度が劣化しない電力用半導体装置を得る。
【解決手段】加算回路14によって検出電圧Vsの正の温度依存性が、出力電圧V13の負の温度依存性により打ち消され、温度依存性の無い加算出力電圧V14を得る。比較回路8は加算出力電圧V14が基準電圧Vrを超えた場合、過電流供給状態であると判定する。制御回路7は、過電流状態時にスイッチング素子2の動作を停止させる駆動信号S7を駆動回路9に与える過電流保護機能を有している。また、制御回路7は、A/D変換回路15より取り込んだデジタル加算出力電圧値D15に基づき基準電圧Vrを設定する基準電圧設定機能をさらに有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スイッチング素子の過電流保護機能を備えた電力用半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor)(以下、「IGBT」と略す)などのスイッチング素子と、そのスイッチング素子を駆動する制御回路とを内蔵するインテリジェントパワーモジュール(Intelligent Power Module)(以下、「IPM」と略す)をはじめとする従来の電力用半導体装置は、インバータ装置などの電力変換装置への利用に好適な装置である。このようなIPMは、スイッチング素子を駆動させる場合、過電流によるスイッチング素子の破損を防止するため、過電流検出時に電流を抑制する過電流保護機能を有していた。
【0003】
一般に、制御回路が駆動するスイッチング素子には、主電流から分流したセンス電流が流れるセンス端子が備わっており、センス電流の大きさは微弱であるが主電流に比例にするため、センス電流に基づき主電流の電流量を検出することができた。
【0004】
IPMの過電流保護機能は、センス電流に基づいてスイッチング素子を流れる主電流の電流量(検出値)を検出し、検出値が予め定めた過電流検出用の基準値に達した場合、上記スイッチング素子の制御電極に印加される電圧を制御して主電流を制限し、スイッチング素子を保護していた。
【0005】
上記IPMの過電流保護機能により、電力用半導体装置の動作時において、何らかの要因によって、内蔵するIGBT等のスイッチング素子の主電流の過電流状態が検出されると、スイッチング素子の主電流が抑制され、当該スイッチング素子の破壊を防止していた。しかしながら、上記IPMの過電流保護機能には以下に示す問題があった。
【0006】
主電流とセンス電流との比である分流比は温度依存性が大きく、温度が高くなるに従い、主電流との関係においてセンス電流が多く出力される傾向がある。特に、近年のIGBTの電流容量が拡大され分流比の温度依存性が無視できないほどの大きさとなっている。
【0007】
過電流検出時の主電流の大きさは、センス電流の大きさに基づき検出されるため、分流比に前述した温度依存性が存在すれば、温度変化によって検出値の精度が劣化することになる。一般にIPMにおいて、スイッチング素子の温度は、使用される環境や自己発熱などによって変化するため、温度変化による検出値の劣化は無視できない問題である。
【0008】
上記問題の解決を図るべく、温度変化に対して精度よく過電流検出を可能とした電力用半導体装置として、特許文献1に開示された電力用半導体装置がある。
【0009】
上記電力用半導体装置は、スイッチング素子の温度を検出する温度センサと、スイッチング素子のセンス端子からの出力を一方の入力とし、温度センサの出力が温度補正回路を介して得られる値を他方の入力とし、それらの入力の比較結果を電流検出信号と出力するコンパレータとを備えて構成されている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−127983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
温度センサを備えた従来の電力用半導体装置は以上のように構成されており、センス端子からの出力と同様な変化を温度補正回路の出力に与えることにより、上述した分流比の温度依存性による過電流検出精度の劣化を抑える温度補正機能を有していた。
【0012】
一方、分流比の温度依存性は装置単位毎にバラツキが生じることがある。温度補正回路の特性は、抵抗、キャパシタ等の構成部品それぞれの電気的特性により決定されることから、装置単位毎に変更することが極めて困難であり、加えて、装置単位の温度依存性のバラツキを認識する機能を備えていない。
【0013】
したがって、温度センサを備えた従来の電力用半導体装置においても、分流比の温度依存性の装置単位毎のバラツキによる過電流検出精度の劣化を抑えることができないという問題点があった。
【0014】
この発明は上記問題点を解決するためになされたもので、装置単位毎に温度依存性にバラツキが生じても過電流検出精度が劣化しない電力用半導体装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係る請求項1記載の電力用半導憶装置は、主電流供給用の主電流端子と検出電流供給用の検出電流端子とを有するスイッチング素子及び温度検出用ダイオードを同一の半導体基板上に形成した半導体チップと、前記半導体チップと電気的に接続され前記スイッチング素子を駆動制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記検出電流端子より得られる検出電流を電流電圧変換して検出電圧を得る電流電圧変換部と、前記温度検出用ダイオードより得られる順方向電圧を取得し、該順方向電圧に基づき、前記検出電圧の温度依存性を打ち消す温度補正用電圧を出力する温度調整回路部と、前記検出電圧と温度補正用電圧とを加算して加算出力電圧を出力する加算回路と、基準電圧を発生する基準電圧発生回路と、前記加算出力電圧と前記基準電圧とを比較し、その比較結果に基づき前記スイッチング素子の過電流供給状態の有無を判定する比較回路と、前記スイッチング素子のオン,オフ動作を制御する駆動制御部とを備え、前記駆動制御部は、前記比較回路が過電流供給状態を判定した場合に、前記スイッチング素子をオフ状態にする過電流保護機能を有し、前記駆動制御部は、前記スイッチング素子をオン状態にして、前記加算出力電圧に関する所定数のサンプリング電圧を取得し、前記所定数のサンプリング電圧に基づき前記基準電圧を設定する基準電圧設定機能をさらに有している。
【発明の効果】
【0016】
この発明における請求項1記載の電力用半導体装置の駆動制御部は、スイッチング素子をオン状態にして、加算出力電圧に関する所定数のサンプリング電圧を取得し、所定数のサンプリング電圧に基づき基準電圧を設定する基準電圧設定機能を有しているため、装置単位に基準電圧を設定することにより、検出電流の温度依存性に装置単位毎にバラツキが生じても過電流検出精度が劣化しない電力用半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<基本構成>
図1はこの発明の実施の形態であるIPM(電力用半導体装置)の構成を示すブロック図である。同図に示すように、実施の形態のIPMはパワーモジュール1と制御部5から構成される。
【0018】
パワーモジュール1は、IGBT等のスイッチング素子2、フリーホイールダイオード3及び温度検出用ダイオード4を有しており、これらスイッチング素子2、フリーホイールダイオード3及び温度検出用ダイオード4は同一の半導体基板(半導体チップ)上に形成される。
【0019】
スイッチング素子2はエミッタ側に主電流端子2m及び検出電流端子2sを有し、主電流端子2mにフリーホイールダイオード3のアノードが接続され、コレクタにフリーホイールダイオード3のカソードが接続される。なお、スイッチング素子2は、通常、電源の正極,負極間に2つ直列(上アーム側、下アーム側)に接続され、上アーム側のスイッチング素子2は、コレクタが大電流供給可能なコンデンサの正電極側に接続されエミッタ側にモータ等の負荷が接続され、下アーム側のスイッチング素子2は、コレクタが上記負荷に接続されエミッタ側が大電流供給可能なコンデンサの負電極側に接続される。
【0020】
温度検出用ダイオード4は、パワーモジュール1、特にスイッチング素子2の温度検出用に設けられており、測定温度に比例した順方向電圧(温度検出電圧)が発生するようにパワーモジュール1内に設けられる。
【0021】
また、パワーモジュール1と制御部5の端子P1〜P4との関係において、スイッチング素子2のゲート電極が端子P1に、検出電流端子2sが端子P2に、温度検出用ダイオード4のアノードが端子P3に、温度検出用ダイオード4のカソードが端子P4にそれぞれ電気的に接続される。
【0022】
制御部5は、抵抗6、制御回路7、比較回路8、駆動回路9、基準電圧発生回路10、フィルタ回路11、定電流源回路12、オフセット・ゲイン調整回路13、加算回路14及びA/D変換回路15から構成される。
【0023】
端子P2には抵抗6の一端及びフィルタ回路11が接続され、抵抗6の他端は接地される。検出電流端子2sより得られる検出(センス)電流Isが抵抗6を流れることにより、電流電圧変換された結果、フィルタ回路11の入力部(端子P2)において検出電圧Vsを得ることができる。そして、フィルタ回路11は検出電圧Vsの高周波成分を除去して加算回路14の一方入力に付与する。
【0024】
フィルタ回路11の高周波成分除去機能によって、検出電圧Vsがスイッチング素子2の動作開始直後等に瞬間的に基準電圧Vrを超える場合があっても、高周波成分として除去されるため、検出電圧Vsの誤検出を防止することができる。これら抵抗6及びフィルタ回路11は電流電圧変換部として機能する。
【0025】
図2は検出電圧Vsの温度変化を模式的に示したグラフである。同図において、検出電圧L1〜L4は、主電流端子2mが400A〜700Aで一定の場合の検出電圧Vsを示している。検出電圧L1〜L4の温度変化から明らかなように、検出電圧Vsは主電流が一定の場合でも温度上昇と共に上昇する正の温度依存性を有する。
【0026】
定電流源回路12は端子P3に接続され、温度検出用ダイオード4に定電流を供給する。一方、端子P4は接地される。その結果、端子P3には温度検出用ダイオード4の順方向電圧Vtが生じる。
【0027】
オフセット・ゲイン調整回路13は順方向電圧Vtを入力し、順方向電圧Vtのオフセット及びゲインを調整して、温度補正用電圧となる出力電圧V13を得る。この出力電圧V13が加算回路14の他方入力として付与される。
【0028】
図3は順方向電圧Vt及び出力電圧V13の温度変化をそれぞれ模式的に示すグラフである。同図に示すように、順方向電圧Vtは温度変化に対し負の依存性を有している。したがって、単純に検出電圧Vsに順方向電圧Vtを加算しても検出電圧Vsの温度依存性を多少打ち消すことができる。
【0029】
オフセット・ゲイン調整回路13は、順方向電圧Vtの温度依存性をより打ち消す方向に、順方向電圧Vtのオフセット値及びゲイン(傾き)を変更して出力電圧V13を得ている。図3で示す例では、順方向電圧Vtに比べ、オフセット値は下げられ、ゲインは負の方向で大きくなるように変更された出力電圧V13を得ている。
【0030】
加算回路14は検出電圧Vsと出力電圧V13とを加算して加算出力電圧V14を得る。
【0031】
図4は加算出力電圧V14の温度変化を模式的に示したグラフである。同図において、加算出力電圧L11〜L14は、主電流端子2mが400A〜700Aで一定の場合の加算出力電圧V14を示している。加算出力電圧L11〜L14の温度変化から明らかなように、主電流の電流量が一定の場合、加算出力電圧V14は温度変化に関係なく一定の値を採る。
【0032】
このように、加算回路14によって検出電圧Vsと出力電圧V13とを加算することにより、検出電圧Vsの正の温度依存性が、出力電圧V13の負の温度依存性により打ち消され、温度依存性の無い加算出力電圧V14を得ることができる。
【0033】
比較回路8は加算出力電圧V14と基準電圧Vrとを入力し、加算出力電圧V14が基準電圧Vrを超えた場合、過電流供給状態であると判定し、過電流状態を指示する駆動遮断信号S8aを駆動回路9に出力するとともに、過電流状態を指示する過電流警報出力信号S8bを制御回路7に出力する。一方、比較回路8は、過電流供給状態でないと判定した場合は、通常状態を指示する駆動遮断信号S8aを駆動回路9に、通常状態を指示する過電流警報出力信号S8bを制御回路7にそれぞれ出力する。
【0034】
A/D変換回路15はアナログ信号である加算出力電圧V14をA/D変換してデジタル加算出力電圧値D15を制御回路7に出力する。
【0035】
制御回路7は、通常動作時(過電流警報出力S8bが通常状態を指示する場合)は、スイッチング素子2の通常動作となる駆動信号S7を駆動回路9に与え、駆動回路9は通常動作時(駆動遮断信号S8aが通常状態を指示する場合)は、駆動信号S7に従う実駆動信号S9(駆動信号S7からスイッチング素子2を動作させるのに必要なレベルに変換した信号)を端子P1を介してスイッチング素子2のゲート電極に付与し、スイッチング素子2を通常動作で駆動する。このように、制御回路7及び駆動回路9は駆動制御部として機能する。
【0036】
駆動回路9は、過電流状態を指示する駆動遮断信号S8aを受けると、駆動信号S7に関係なく、スイッチング素子2をオフ状態にする実駆動信号S9を与え、スイッチング素子2の動作を停止させる。すなわち、駆動回路9はスイッチング素子2による過電流供給を遮断する第1の過電流保護機能を有している。
【0037】
一方、制御回路7は、過電流状態を指示する過電流警報出力信号S8bを受けると、スイッチング素子2の動作を停止させる駆動信号S7を駆動回路9に与えることにより、スイッチング素子2の動作を停止させ、スイッチング素子2による過電流供給を遮断する第2の過電流保護機能を有している。
【0038】
また、制御回路7は、A/D変換回路15よりデジタル加算出力電圧値D15を取り込むことができ、後述する基準電圧設定機能によって基準電圧発生回路10から出力される基準電圧Vrを設定するという機能をさらに有している。この基準電圧設定機能は、外部より得られる外部制御信号SCに基づきタイミング制御されることにより実現される。
【0039】
このような構成において、スイッチング素子2の主電流が過電流供給状態になると、加算出力電圧V14が基準電圧Vrを超えるため、過電流供給状態を指示する駆動遮断信号S8a及び過電流供給状態を指示する過電流警報出力信号S8bが制御回路7に出力される。
【0040】
その結果、駆動回路9自体、あるいは制御回路7の駆動信号S7の制御下において、駆動回路9の実駆動信号S9によってスイッチング素子2をオフ状態とされる。その結果、スイッチング素子2は過電流供給状態から速やかに開放されるため、破壊されることなく保護される。
【0041】
この際、加算出力電圧V14は温度依存性がないため、パワーモジュール1の温度変化に関係なく、常にスイッチング素子2の主電流を正確に反映した値を採るため、過電流保護機能がパワーモジュール1の温度状態によって精度劣化することはない。
【0042】
<基準値設定機能>
しかしながら、検出電圧Vsの温度依存性はスイッチング素子2毎にバラツキが生じ、一方、温度検出用ダイオード4の順方向電圧Vtの温度依存性も温度検出用ダイオード4毎にバラツキが生じる。すなわち、パワーモジュール1単位に加算出力電圧V14にバラツキが生じる可能性がある。
【0043】
したがって、IPMの製品(パワーモジュール1)毎のバラツキを加味して、過電流保護機能の精度を高く維持するためには、製品毎の調整機能が不可欠となる。そこで、本実施の形態のIPMは、製品毎に基準電圧Vrが設定可能な基準値設定機能を有している。
【0044】
図5は本実施の形態であるIPMの基準電圧設定機能による基準電圧設定動作を示すフローチャートである。以下、図5を参照して基準電圧設定動作について説明する。
【0045】
まず、ステップS1において、パワーモジュール1の温度(チップ温度)をサンプリング温度に設定する。
【0046】
次に、ステップS2において、サンプリングモードを指示する外部制御信号SCを制御回路7に与える。すると、ステップS3で、制御回路7はサンプリングモード仕様の駆動信号S7を駆動回路9に与えることにより、サンプリング期間においてスイッチング素子2をオン,オフ駆動して過電流供給状態にする。
【0047】
図6はステップS2の実行時におけるスイッチング素子2の過電流供給状態設定状況を示す回路図である。同図に示すように、スイッチング素子2のコレクタ端子に設定用可変電源21の正極が接続され、エミッタ端子である主電流端子2mに制限抵抗23を介して設定用可変電源21の負極が接続される。さらに、スイッチング素子2のコレクタ端子に大電流供給可能なコンデンサー22の正電極が接続され、エミッタ端子である主電流端子2mに制限抵抗23を介して設定用可変電源21の負極が接続される。
【0048】
以下、図6を参照して過電流供給状態の設定方法例について説明する。過電流供給状態にするには例えば以下の2つの方法(第1及び第2の方法)が考えられる。第1の方法は、スイッチング素子2のコレクタ,エミッタ間電圧を通常動作時で過電流供給状態になる電圧に設定する。例えば、設定用可変電源21の電圧を600V、制限抵抗23を1Ωに設定して600Aの直流電流供給状態にする。そして、サンプリングモード仕様の駆動信号S7は通常動作時と同内容に設定し、通常動作でスイッチング素子2をオン,オフ駆動させるのが第1の方法である。
【0049】
第2の方法は、スイッチング素子2のコレクタ,エミッタ間電圧を通常動作時では過電流供給状態とならないレベル電圧に設定する。例えば、設定用可変電源21の電圧を300V、制限抵抗23を1Ωに設定して300A程度の直流電流供給状態にする。そして、サンプリングモード仕様の駆動信号S7を通常動作時よりオン状態が長くなるように設定することにより、スイッチング素子2をオン,オフ駆動させ、実質的に過電流供給状態にするのが第2の方法である。
【0050】
また、サンプリング期間は過電流供給状態になってもスイッチング素子2が破壊されない程度の短時間に設定しておく。このため、ステップS3の実行時にスイッチング素子2が破壊されることはない。
【0051】
その後、ステップS4において、制御回路7は、上記サンプリング期間中に得られる加算出力電圧V14のデジタルデータであるデジタル加算出力電圧値D15をA/D変換回路15より得る。このデジタル加算出力電圧値D15がサンプリング電圧として制御回路7に取得される。
【0052】
次に、ステップS5において、設定すべきサンプリング温度の終了の有無を確認し、終了していない場合(No)はステップS6に移行し、終了している場合(Yes)はステップS7に移行する。
【0053】
設定すべきサンプリング温度が終了していない場合に実行されるステップS6において、新たなサンプリング温度に変更した後にステップS1に戻る。以降、ステップS5でYesと判断されるまで、ステップS1〜S6の処理が所定数回繰り返され、設定されたサンプリング温度時におけるサンプリング電圧が制御回路7に順次取得される。
【0054】
設定すべきサンプリング温度が終了した場合に実行されるステップS7において、基準値設定モードを指示する外部制御信号SCを制御回路7に付与する。
【0055】
すると、ステップS8において、制御回路7は、デジタル演算能力を発揮することにより、取得した所定数のサンプリング電圧の平均値を、基準電圧発生回路10の基準電圧Vrとして設定する。
【0056】
図7は本実施の形態のIPMである2つの製品A,Bそれぞれの過電流供給時の検出電圧Vsの温度変化を模式的に示すグラフである。
【0057】
同図に示すように、製品Aの検出電圧VsAと製品Bの検出電圧VsBとの間にはΔV1のバラツキが生じていることがわかる。
【0058】
図8は本実施の形態のIPMである2つの製品A,Bそれぞれの順方向電圧Vt及び出力電圧V13の温度変化を模式的に示すグラフである。
【0059】
同図に示すように、製品Aの順方向電圧VtAと製品Bの順方向電圧VtBとの間にはΔV2のバラツキが生じ、その結果、製品Aの出力電圧V13Aと製品Bの出力電圧V13Bとの間にはΔV3のバラツキが生じていることがわかる。
【0060】
図9は本実施の形態のIPMである2つの製品A,B間の加算出力電圧V14の温度変化を模式的に示すグラフである。
【0061】
同図に示すように、製品Aの加算出力電圧V14Aと製品Bの加算出力電圧V14Bとの間にはΔV4のバラツキが生じていることがわかる。このように、加算出力電圧V14A,V14B間にバラツキが生じるのは、図7で示した検出電圧Vsの製品A,B間のバラツキ及び図8で示した出力電圧V13の製品A,B間のバラツキに起因している。
【0062】
上述したように、本実施の形態のIPMは図5で示した基準電圧設定機能を有している。したがって、図7〜図9で示したように、製品A,B間の加算出力電圧V14にバラツキが生じる場合であっても、図9に示すように、製品Aに対しては基準電圧VrA、製品Bに対しては基準電圧VrBをそれぞれ個別に設定することができるため、製品A,B間のバラツキに関係なく、過電流供給状態を精度良く認識することが可能な基準電圧Vr(VrA,VrB)に設定することができる。
【0063】
すなわち、本実施の形態のIPMは、スイッチング素子に過電流供給状態にし、パワーモジュール1の温度を変化させながらステップS1〜S5(S6)を所定数回実行させることにより、所定数のサンプリング電圧から、過電流供給時における加算出力電圧の温度特性を装置単位に正確に得ることができる。
【0064】
その結果、ステップS8で、所定数のサンプリング電圧の平均値を基準電圧に設定することにより、バラツキを考慮した最適な基準電圧を装置単位に設定することができるため、本実施の形態のIPM(電力用半導体装置)は、装置単位毎に温度依存性にバラツキが生じても過電流検出精度が劣化しないという効果を奏する。
【0065】
さらに、本実施の形態のIPMは、外部制御信号SC(図5のステップS2,S7)によって基準電圧設定機能のサンプリングモード及び基準電圧決定モードの動作制御が行えるため、装置完成後においても比較的容易に基準電圧を設定することができる。
【0066】
図10は加算出力電圧V14に傾きが生じた場合の基準電圧Vr設定内容を示すグラフである。同図に示すように、検出電圧Vs、順方向電圧Vtのバラツキ関係によっては、加算出力電圧V14が一定値とならず傾きが生じる、すなわち、温度依存性が幾分残存する場合がある。
【0067】
このような場合でも、本実施の形態のIPMは、上述した基準電圧設定機能によって、サンプリング電圧として取得した加算出力電圧V14(デジタル加算出力電圧値D15)の平均値を基準電圧Vrに設定することにより、加算出力電圧V14に残存する温度依存性による精度劣化を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明の実施の形態であるIPMの構成を示すブロック図である。
【図2】検出電圧の温度変化を模式的に示したグラフである。
【図3】検出温度電圧及びオフセット・ゲイン調整回路の出力電圧の温度変化をそれぞれ模式的に示すグラフである。
【図4】加算出力電圧の温度変化を模式的に示したグラフである。
【図5】本実施の形態の基準電圧設定機能による動作を示すフローチャートである。
【図6】スイッチング素子の過電流供給状態設定状況を示す回路図である。
【図7】IPMとなる2つの製品それぞれの過電流供給時の検出電圧の温度変化を模式的に示すグラフである。
【図8】IPMである2つの製品それぞれの検出温度電圧及び出力電圧の温度変化を模式的に示すグラフである。
【図9】IPMである2つの製品間の加算出力電圧の温度変化を模式的に示すグラフである。
【図10】加算出力電圧に傾きが生じた場合の基準値設定内容を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1 パワーモジュール、2 スイッチング素子、4 温度検出用ダイオード、5 制御部、6 抵抗、7 制御回路、8 比較回路、9 駆動回路、10 基準値発生回路、11 フィルタ回路、12 定電流源回路、13 オフセット・ゲイン調整回路、14 加算回路、15 A/D変換回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電流供給用の主電流端子と検出電流供給用の検出電流端子とを有するスイッチング素子及び温度検出用ダイオードを同一の半導体基板上に形成した半導体チップと、
前記半導体チップと電気的に接続され前記スイッチング素子を駆動制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記検出電流端子より得られる検出電流を電流電圧変換して検出電圧を得る電流電圧変換部と、
前記温度検出用ダイオードより得られる順方向電圧を取得し、該順方向電圧に基づき、前記検出電圧の温度依存性を打ち消す温度補正用電圧を出力する温度調整回路部と、
前記検出電圧と温度補正用電圧とを加算して加算出力電圧を出力する加算回路と、
基準電圧を発生する基準電圧発生回路と、
前記加算出力電圧と前記基準電圧とを比較し、その比較結果に基づき前記スイッチング素子の過電流供給状態の有無を判定する比較回路と、
前記スイッチング素子のオン,オフ動作を制御する駆動制御部とを備え、前記駆動制御部は、前記比較回路が過電流供給状態を判定した場合に、前記スイッチング素子をオフ状態にする過電流保護機能を有し、
前記駆動制御部は、
前記スイッチング素子をオン状態にして、前記加算出力電圧に関する所定数のサンプリング電圧を取得し、前記所定数のサンプリング電圧に基づき前記基準電圧を設定する基準電圧設定機能をさらに有することを特徴とする、
電力用半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力用半導体装置であって、
前記加算出力電圧をA/D変換器してデジタル加算出力電圧値を得るA/D変換回路をさらに備え、
前記駆動制御部はデジタル演算能力を有し、
前記基準電圧設定機能は
過電流供給状態でも破壊しない程度の短いサンプリング期間において、前記スイッチング素子をオン状態にして、前記デジタル加算出力電圧値を前記サンプリング電圧として取得する第1のステップを備え、前記第1のステップは前記所定数回実行され、
前記第1のステップで得た前記所定数のサンプリング電圧の平均値を前記デジタル演算機能により求め、該平均値を前記基準電圧に設定する第2のステップをさらに備える、
電力用半導体装置。
【請求項3】
請求項2記載の電力用半導体装置であって、
前記駆動制御部は外部より外部制御信号を受け、
前記外部制御信号がサンプリングモードを指示するとき前記第1のステップが実行され、
前記外部制御信号が基準値決定モードを指示するとき前記第2のステップが実行される、
電力用半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−211834(P2006−211834A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21301(P2005−21301)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】