説明

電力開閉装置およびその診断方法

【課題】電力開閉装置フランジ部の緩み診断を、電力開閉装置の運転状態において実現する。
【解決手段】固定接触子と可動接触子とを有する遮断部を内蔵した遮断部タンクと、可動接触子を固定接触子に対して接触及び開離させるための駆動源を備えた操作器と、操作器と遮断部の可動接触子とを連結するリンク機構部とを備え、遮断部タンクの密閉のためにフランジを用いた電力開閉装置において、電力開閉装置に取り付けられた加速度センサと、加速度センサからの信号の増幅器と、増幅器出力を入力とする監視装置とを備え、監視装置は電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、加速度センサの出力を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた加速度センサの出力を基準とし、その相違に応じて、フランジのボルト締結部の緩み診断を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力開閉装置およびその診断方法に係り、特に、フランジボルトにより封止したタンク内に電力開閉部分を収納する電力開閉装置のフランジにおけるボルト緩みを診断することに関する。
【背景技術】
【0002】
変電所や開閉所には、遮断器、開閉器、接地開閉器などの電力開閉装置が設置されている。これらの多くはフランジボルトにより封止したタンク内に電力開閉部分を収納し、タンク外部からの操作により電力開閉部分の開閉が行なわれる。タンク内には電力開閉部分での接点開放の際のアークを消弧するために、適宜空気、ガス、油などが充填されあるいは真空とされている。
【0003】
これらの電力開閉装置の一例としてガス遮断器は、タンク内に高圧の絶縁ガスを充填して電力回路の開閉を行なうものであり、タンク外部に設けられたばねを駆動源とする操作回路により開閉操作が実行される。また、タンクは高圧の絶縁ガスが外部に漏洩しないように、フランジボルトにより封止されている。
【0004】
係る電力開閉装置の一例として、駆動源にばねを用いるガス遮断器が、例えば、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載のガス遮断器では、絶縁性のガスが封入された遮断部タンクが水平方向に配置されていると共に、この遮断部タンクの下方に操作箱が取り付けられており、この操作箱内に操作器が収納されている。また、遮断部タンクに隣接して機構部のブラケットが取り付けられている。
【0005】
ガス遮断器は、電力系統に落雷などで異常電流が流れた際に、速やかに電流を遮断して変圧器などの機器を保護すると共に、異常電流消去後には接触子を投入することにより通電を再開する。
【0006】
一般的に、ガス遮断器の機構部のブラケットは遮断部タンクとボルトで締結されている。遮断器の動作時にはボルトにも繰り返し衝撃力が作用するので、ボルト締結の緩みが発生する可能性がある。この機構部ブラケットのボルトが緩むと遮断部タンク内の絶縁性のガスが外部に漏洩する恐れがある。
【0007】
そこで、ガス遮断器のボルト締結部の緩みを診断する方法および装置が特許文献2に記載されている。この特許文献2及び特許文献3に記載のボルト緩み診断方法は、ガス遮断器の定期点検において、遮断器のケーシングを加振し、ボルト締結部の振動を検出して共振周波数を求めて、ボルト緩みが無い時の共振周波数との差を演算して、この差が予め規定された値を超えた場合にボルト締結部の緩みありと診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−87836号公報
【特許文献2】特開2002−367492号公報
【特許文献3】特開平11−332039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に、タンク内に電力開閉部分を収納する電力開閉装置の定期点検毎にボルト締結部の緩み確認もしくは増し締めなどの作業が行われる。
【0010】
上記特許文献1に示すガス遮断器では、定期点検において、トルクレンチやボルト軸力検出装置などを用いて遮断部タンクを密封するフランジにおけるボルト締結の緩みを1本ずつ確認していた。
【0011】
しかるに、ガス遮断器の運転中には超高電圧が供給されているため、ボルト締結部の点検、確認作業が不可能である。万一、遮断器の運転中にボルト締結部の緩みが生じた場合には、遮断部タンクとフランジとの密閉性が悪化し、最悪の場合には遮断部タンクとフランジとの間隙から絶縁性ガスが大気中に漏洩する可能性があった。上記に示したように、ガス遮断器にはフランジ以外にもボルト締結箇所が多数有り、何れの箇所の緩みも部品破損などの事故に繋がる可能性があった。
【0012】
特許文献2及び特許文献3に示すボルト締結の緩み診断方法を適用すると、定期点検時の作業時間を短縮可能となるが、特許文献1に示した課題と同様に、ガス遮断器の運転中の遮断部タンクとフランジとのボルト締結部の緩みを予測しあるいは検出することは不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を達成するために、固定接触子と可動接触子とを有する遮断部を内蔵した遮断部タンクと、可動接触子を固定接触子に対して接触及び開離させるための駆動源を備えた操作器と、操作器と遮断部の可動接触子とを連結するリンク機構部とを備え、遮断部タンクの密閉のためにフランジを用いた電力開閉装置において、電力開閉装置に取り付けられた加速度センサと、加速度センサからの信号の増幅器と、増幅器出力を入力とする監視装置とを備え、監視装置は前記電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、加速度センサの出力を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた加速度センサの出力を基準とし、その相違に応じて、フランジのボルト締結部の緩み診断を行なう。
【0014】
また本発明は、上記課題を達成するために、固定接触子と可動接触子とを有する遮断部を内蔵した遮断部タンクと、可動接触子を固定接触子に対して接触及び開離させるための駆動源を備えた操作器と、操作器と遮断部の可動接触子とを連結するリンク機構部とを備え、遮断部タンクの密閉のためにフランジを用いた電力開閉装置において、電力開閉装置に取り付けられた複数の加速度センサと、加速度センサからの信号の増幅器と、増幅器出力を入力とする監視装置とを備え、監視装置は、電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、加速度センサの周波数応答関数を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた加速度センサの周波数応答関数を基準とし、その相違に応じて、フランジのボルト締結部の緩みを診断する第1の手段と、電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、加速度センサの出力を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた加速度センサの出力を基準とし、その相違に応じて、リンク機構部の可動部異常を判断する第2の手段とを備え、第1の手段の加速度センサは遮断部タンクのフランジに取り付けられ、第2の手段の加速度センサはリンク機構部に取り付けられたものとすると共に、第2の手段での異常判定時に第1の手段の緩み診断を無効とする。
【0015】
また、第1の手段の加速度センサを前記フランジのボルト締結部の大気中に設け、かつ加速度の感度方向を前記可動接触子の開閉操作方向と同一方向とするのがよい。
【0016】
また、第1の手段の加速度センサをフランジ部分のボルト軸直角方向の外力が大きいボルト締結部の近傍に配置するのがよい。
【0017】
また本発明は、上記課題を達成するために、固定接触子と可動接触子とを有する遮断部を内蔵した遮断部タンクと、可動接触子を固定接触子に対して接触及び開離させるための駆動源を備えた操作器と、操作器と遮断部の可動接触子とを連結するリンク機構部とを備え、遮断部タンクの密閉のためにフランジを用いた電力開閉装置の緩み診断方法において、電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、電力開閉装置の遮断部タンクのフランジに取り付けた第1の加速度センサの周波数応答関数を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた第1の加速度センサの周波数応答関数を基準とし、その相違に応じて、フランジのボルト締結部の緩みを診断し、電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、電力開閉装置のリンク機構部に取り付けられた第2の加速度センサの出力を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた第2の加速度センサの出力を基準とし、その相違に応じて、リンク機構部の可動部異常と判断し、リンク機構部の可動部異常判定時に、フランジのボルト締結部の緩み診断を無効とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の本発明によれば、電力開閉装置の接点動作の都度緩み診断を行なうので、遮断部タンクフランジのボルト締結部の緩みをガス遮断器の運転中に予測可能となり、ガス遮断器の信頼性を向上させることができる。
【0019】
また、請求項2に記載の本発明によれば、遮断部タンクフランジおよびリンク機構部のリンクに加速度センサを取り付けることで、遮断部タンクフランジのボルト締結部の緩みと、リンク機構部のガタによる振動とを区別して診断することができる。
【0020】
また、請求項3、請求項4に記載の本発明によれば、検出感度を高くすることができる。
【0021】
また、請求項5に記載の本発明によれば、リンク機構部のガタによる振動のときに、遮断部タンクフランジのボルト締結部の緩みと診断することを阻止するので、高精度な判断を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例を示す構成図。
【図2】ガス遮断器の全体構成を示す斜視図。
【図3】ガス遮断器の投入状態を説明する図2のA−A線に沿う断面図。
【図4】ガス遮断器の開放状態を説明する図2のA−A線に沿う断面図。
【図5】図2のB−B線に沿う断面図。
【図6】本発明の緩み診断のフローチャートを示す図。
【図7】出力リンクの加速度波形の一例を示す図。
【図8】タンクフランジの加速度波形の一例を示す図。
【図9】周波数応答関数の一例を示す図。
【図10】本発明の適用可能な電力開閉装置のほかの一例として断路器を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による電力開閉装置の一実施の形態を、図に基づいて説明する。なお、電力開閉装置としては種々のものがあるが、ここでは代表的な電力開閉装置として遮断器、断路器に対して本発明を適用することについて説明する。まず、遮断器として最も適用範囲の多いガス遮断器について説明する。
【実施例】
【0024】
図2に、典型的なガス遮断器の全体構成を示す。ガス遮断器2は、横置き設置された遮断部タンク7と、リンク機構部8と、操作器9とを有する。遮断タンク7は円筒形の容器であり、架台10によって支持されている。遮断部タンク7内には絶縁性のガス、例えば六弗化硫黄ガスが規定の圧力で封入されている。操作器9上には、遮断ばねケース34と投入ばねケース35が設けられている。後で詳細に説明するが、遮断ばねケース34内のばねが作動したときに遮断タンク7内の接点が閉状態から開状態に移り、投入ばねケース35内のばねが作動したときに遮断タンク7内の接点が開状態から閉状態に移る。
【0025】
図2のA−A断面(ガス遮断器の縦断面)を図3と図4に示す。図3は遮断器の閉状態、図4は遮断器の開状態をそれぞれ示している。これらの図では、図示を略したブッシングや導体を介して変電所内の高圧電源から遮断タンク7内の固定接触子11と可動接触子12とで構成された遮断部に通電される。また、可動接触子12は、固定接触子11と接触する反対端で絶縁ロッド13と回転自在に接続されている。遮断部接点の投入状態(図3)において、落雷等で系統に異常な電流が流れると、ガス遮断器2に遮断指令が入力され、固定接触子11から可動接触子12を引離して電流を遮断する(図4)。
【0026】
このガス遮断器2の開閉状態は、先に述べた操作器9上の、遮断ばねケース34と投入ばねケース35内のばねの動きが、操作器9あるいはリンク機構8を介して絶縁ロッド13に伝達され、可動接触子12の移動となって実現されている。このため、まずこのリンク関連の動きについて、駆動源であるばねケース34、35から操作端である遮断部(可動接触子12)に至る流れに沿って説明する。なお、特に必要がない限り図3を参照して説明を行う事とする。
【0027】
まず、駆動源であるばねケース34、35は操作器9の上部に設置されている。操作器9は、固定板32でリンク機構部8の端板17に固定されている。そして、この固定板32に支持された筐体33に対して、円筒状の遮断ばねケース34と円筒状の投入ばねケース35とが鉛直方向に配置されている。図3において、遮断ばねケース34内と投入ばねケース35内に夫々収納された遮断ばね36と投入ばね37は共に圧縮状態である。
【0028】
遮断ばねケース34内の遮断ばね36は、一端が筐体33に支持され、他端がばね受38で支持されている。ばね受38には遮断ばねリンク39の一端が接続されている。遮断ばねリンク39の他端は第4のレバー40の一端に連結されている。第4のレバー40の中間部は筐体33に軸支された第2の回転軸41に固定されており、同軸上には第5のレバー31の一端が固定されている。そして、第5のレバー31の他端に、出力リンク30の他端が連結されている。
【0029】
投入ばねケース35内の投入ばね37は、一端が筐体33に支持され、他端がばね受42で支持されている。ばね受42には投入ばねリンク43の一端が接続されている。投入ばねリンク43の他端には筐体33に軸支された第3の回転軸44に固定された投入カム45が連結されている。
【0030】
なお、操作器9には、これら以外にも例えば、投入ばねが放勢された後の投入ばね37を圧縮するため、歯車列や電動機、補助開閉器、遮断部接点の入切表示器などが装備されているがここでの図示は省略する。
【0031】
リンク機構部8は、遮断部タンク7の可動接触子12側、絶縁操作ロッド13側において、遮断部タンク7とボルト締結されている。即ち、接合面55において、遮断部タンク7の内側フランジ7aと機構部8に設けられたタンクフランジ51とがボルト52で締結されている。またタンクフランジ51と、タンクフランジ51に固定された上板15と下板16と、端板17でリンク機構部8の外枠を構成する。なお、あとで図5を参照して詳細に説明するが、絶縁操作ロッド13はタンクフランジ51を貫通して設けられている。
【0032】
リンク機構部8内には、リンク機構部8の外枠に固定された第1の回転軸20と、第1のレバー22と、第2のレバー23を備える。これらのレバー22、23の一端は第1の回転軸20に回転自在に固定されており、第1のレバー22の他端は絶縁操作ロッド13に連結されている。また、第2のレバー23の他端には出力リンク30の一端が連結されていて、その他端は操作器9の第5のレバー31の一端に連結されている。
【0033】
図5は、図2のB−B断面を示す図であり、この図で遮断部タンク7と、リンク機構8の接続部分の構成を説明する。まず、遮断部タンク7のリンク機構8側の端面にはタンクフランジ51がボルト52により取り付けられている。なお、図5では、タンクフランジ51の円周上の約45゜毎にボルト52を8本配置しているが、8本以上であっても良い。
【0034】
リンク機構部8には、固定部材として、タンクフランジ51、一対の隔壁14A、14B、上板15および下板16、操作器側のフランジ17(図5では図示していない)がある。そして、これらの固定部材で囲まれたガス空間18には遮断部タンク7と同一圧力の絶縁性ガスが封入されている。第1の回転軸20は、隔壁14A、14Bを貫通して、軸受け19A、19Bで回転自在に支持されるとともに、ガス空間18に設けられた第1のレバー22に嵌合されている。なお、ガス空間18の気密を確保するため、隔壁14A、14BにOリング21A、21Bが設けられている。
【0035】
またリンク機構部8内には、第1の回転軸20の隔壁14A、14Bから外側に貫通した一方側には第2のレバー23が、他方側には第3のレバー24が夫々固定されている。第3のレバー24の他端にはリンク25の一端が回動自在に連結されており、リンク25の他端は緩衝装置26のピストンロッド27に連結されている。そして、ピストンロッド27の先端のピストン28がシリンダ29で摺動するように構成されている。緩衝装置26のシリンダ29内には非圧縮性流体、例えば油が封入されている。一方、図3に示すように、第2のレバー23の他端には出力リンク30の一端が連結されていて、その他端は操作器9の第5のレバー31の一端に連結されている。
【0036】
以上のように構成されたガス遮断器は、以下のように動作する。初めに、図3に示す遮断部接点の投入状態から遮断状態へ移行する動作について述べる。図3において、ガス遮断器2に遮断指令が入力されると、ガス遮断器2は遮断動作を開始する。
【0037】
即ち、図示を略した制御機構を作動させて、遮断ばねケース34内の圧縮状態にある遮断ばね36の規制を解き、遮断ばね36を放勢させる。遮断ばね36の放勢により、遮断ばねリンク39を介して第4のレバー40が反時計回りに回動する。そして、第2の回転軸41を介して第5のレバー31を反時計回りに回動させる。これにより、出力リンク30が水平右方向に移動する。
【0038】
すると、リンク機構部8の第2のレバー23が反時計回りに回動する。これにより、第1の回転軸20も反時計回りに回動し、これに固定された第1のレバー22も反時計回りに回動する。このとき、遮断部タンク7内の可動部では、第1のレバー22の回動に伴い、絶縁ロッド13が図3の左方向に駆動され、遮断部接点の可動接触子12を水平左方向に移動させて固定接触子11から開離させる。なお、遮断ばね36が放勢しきると、接点の遮断動作が終了し、図3に示すように、第4のレバー40の他端が投入カム45の外周面にほぼ当接して止まる。
この遮断後の状態が、図4の各機構の位置関係で表されている。
【0039】
またこのときに、図5においては、回転軸20に嵌合されている第3のレバー24も同方向に回動することになる。第3のレバー24はリンク25を下方向に移動させ、これに伴いピストンロッド27も下方向に移動する。これにより、ピストン28がシリンダ29内の油を圧縮して緩衝力を発生させる。
【0040】
続いて、図4に示す遮断部接点の遮断状態から図3に示す投入状態に移る動作を以下に説明する。図4に示した遮断状態において、ガス遮断器2に投入指令が入力されると、図示を略した制御機構が動作して、投入ばねケース35内の圧縮状態にある投入ばね37の規制を解き、投入ばね37を放勢させる。
【0041】
これにより投入ばねリンク43を介して投入カム45、第3の回転軸44が反時計回りに回動する。カム45の回動に伴い、カム45の外周面が第4のレバー40を押圧して第4のレバー40を時計回りに回動させる。これにより遮断ばねリンク39、遮断ばね受38を介して遮断ばね36を圧縮させる。
【0042】
同時に、第4のレバー40の回動に伴い、第5のレバー31を介して出力リンク30が図4において水平左方向に移動する。これによりリンク機構部8の第2のレバー23、第1の回転軸20が時計回りに回動する。第1の回転軸20の回動に伴い、第1のレバー22が時計回りに回動し、絶縁ロッド13を右方向に移動する。その結果、絶縁操作ロッド13に連結された可動接触子12が水平右方向に移動して固定接触子11に接触し、遮断部接点が投入される。
【0043】
なお、その後、図示を略した電動機と歯車列により放勢した投入ばね37を圧縮して、図1に示す遮断部接点の投入状態で投入ばね37と遮断ばね36が共に圧縮状態に戻る。最終的にこのような形で投入状態となった各部の位置関係は図3で表されている。
【0044】
本発明で対象とする遮断器は、以上のように構成され、遮断動作時には、遮断ばねケース34内の遮断ばね36の遮断ばね力及び緩衝装置26での制動力が鉛直方向に作用する。
【0045】
また同様に、投入動作においても、リンク機構部8に設けた緩衝装置26により緩衝力が発生する。即ち、図5において第1の回転軸20の回動に伴い、第3のレバー24も回動し、リンク25、ピストンロッド27を介して緩衝装置26のピストン28がシリンダ29の内部を移動して油の抵抗を受け緩衝力を発生する。
【0046】
このように遮断器の開放、投入動作時には、タンクフランジ51を締結するボルト52に、ボルトの軸方向および軸直角方向に外力が作用する。一般的に、ボルト締結部に軸直角方向の外力が繰り返し作用すると接合面で滑りが発生し、次にボルトの座面でもすべりが発生し、ボルトが戻り回転して緩みが生じる可能性がある。特にガス遮断器では衝撃的な荷重が作用することから、タンクフランジのボルト緩みが生じやすくなる恐れがある。これに対しては、フランジ付き六角ボルトを使用して座面の摩擦抵抗を増加させるなどの緩み止め対策がなされている。
【0047】
このことから、遮断器においては、タンクフランジ51のボルト締結部の緩み診断が不可欠である。特に緩み診断を行なうに当っては、実際に緩んでしまってから緩みを検出するのではなく、極力早い時点での検出を行なうことが必要である。そのためには遮断器に通電していない定期点検の機会に診断を行なうのではなく、供用期間中に診断を行なえるようにすることが重要である。
【0048】
本発明では、以上の観点から遮断器の投入、開放の操作時点で診断を行なう。つまり、投入ばね、遮断ばねの作動の都度、診断を行なうこととし、そのために例えば遮断部に至るまでのリンク機構の一部にセンサを設置する。特にこの設置位置は、ガス充填空間ではなく、大気に開放された部位を選択して行なう。これは例えば、大気中に出ているリンク部分である。また投入ばね、遮断ばねによる衝撃を直接受けるフランジに取り付けるのが良い。図3あるいは、図4において、53は出力リンク30に設置した加速度センサであり、54はタンクフランジ51に設置した加速度センサである。
【0049】
次に、本発明のタンクフランジ51のボルト締結部の緩み診断方法について説明する。図1に遮断器の一部を拡大してボルト締結部の緩み診断に使用する機材を示す。出力リンク30の端部とタンクフランジ51の外面に加速度センサ53、54が取り付けられている。
【0050】
タンクフランジ51に取り付ける加速度センサ54は、複数個をそれぞれ別個のボルト締結部の近傍に配設させても良い。また、出力リンク30、タンクフランジ51にはこれらの加速度センサを接続するための取り付け孔を設けておくと、遮断器据付時後に診断装置を追加設置するのが容易である。
【0051】
また、図1に示すように、加速度センサ53、54の感度方向は可動接触子12の動作方向と同一とする。これにより、出力リンク30に接続する加速度センサ53で測定された加速度の時刻歴データを積分することにより、出力リンクの速度、ストローク特性も得ることができ、ストローク監視装置としての別なセンサの設置を省略可能となる。
【0052】
加速度センサ53、54は、配線53b、54bを介してアンプ56に接続される。また、アンプ56からの電圧出力がFFT(Fast Fourier Transformer)アナライザ57に入力される。このFFTアナライザ57では、出力リンク30、タンクフランジ51の夫々の加速度の時刻歴波形および周波数分析ならびに2チャンネル間の周波数応答関数の表示機能を有するものが良い。また、FFTアナライザ57は監視装置58に接続されている。このように、監視装置58は加速度と周波数分析されたFFTアナライザ57出力とを入力し、監視を行なう。
【0053】
次に、図6を用いてタンクフランジ51のボルト緩み診断フローについて説明する。本発明の緩み診断装置は、加速度センサ53、54、アンプ56、FFTアナライザ57、監視装置58から成り、図6のステップS100では、加速度センサを取り付ける。取り付け手段を準備することにより、既設のガス遮断器でも加速度センサを取り付けることができる。
【0054】
次に、図6のステップS101において、加速度センサの設置後、アンプ56・FFTアナライザ57・監視装置58を起動させる。その後ステップS102の遮断器の開閉動作が行なわれたときに、ステップS103において、遮断器の開閉動作毎に出力リンク、タンクフランジの加速度を測定する。
【0055】
図7に、タンクフランジのボルト締結に緩みが無い場合の出力リンクの加速度時刻歴波形を示す。また、図8に、同様にタンクフランジのボルト締結に緩みが無い場合のタンクフランジの加速度時刻歴波形を示す。
【0056】
ここで、タンクフランジのボルト締結に緩みが無い場合の加速度時刻歴波形とは、遮断器製造直後の場内検査で取得することが望ましいが、既設の遮断器を診断する場合には、緩みがないことを定期点検の機会などに確認したときの加速度時刻歴波形を得るのがよい。これにより、タンクフランジのボルト締結に緩みが無い場合の出力リンクとタンクフランジの加速度時刻歴波形として、一つの基準となる波形を得る。
【0057】
図6ステップS104においては、遮断器の開閉動作により新たに測定された出力リンクの加速度波形を、過去の測定履歴および基準波形(図7)と比較して、波形に変化が見られる場合には、操作器、機構部、遮断部の可動部品のいずれかに異常が発生との警告信号を監視装置58から出力する(ステップS105)。
【0058】
上記で出力リンクの加速度測定波形に変化無しの場合には、図7〜8に示した出力リンク、タンクフランジの加速度時刻歴波形の、周波数分析を行う(ステップS106)。次に、ステップS107において、周波数応答関数を、周波数領域においてタンクフランジの加速度を出力リンクの加速度で除することにより算出する。
【0059】
この周波数応答関数は、タンクフランジのボルト締結に緩みが無い場合についても、予め求めておく。そのうえで、次のステップS107において、直近に求められた周波数応答関数と、履歴(タンクフランジのボルト締結に緩みが無い場合の周波数応答関数)とを比較する。
【0060】
図9にタンクフランジ51のボルト52の緩みの有無による周波数応答関数の比較を示す。この図は横軸に周波数、縦軸に加速度振幅比(タンクフランジの加速度/出力リンクの加速度)を記載したものである。図中、細線はボルト52の全数に緩みが無い場合、太線がボルト52の1箇所のみ戻り回転による緩みを与えた場合である。
【0061】
図9より、周波数が100Hz以下の帯域では、ボルト52の緩み有無による周波数応答関数の相違が小さいが、周波数100Hz以上では、周波数のシフトおよび加速度振幅比の顕著な差異が見られる。これより予めボルト52の緩みが無い場合のタンクフランジ51と出力リンク30の加速度の周波数応答関数を求めておけば、遮断器動作の都度周波数応答関数を比較し、周波数シフト量の閾値を設けることでボルト52の緩みを予測することが可能であることがわかる。図6のステップS108で周波数応答関数を過去の履歴と比較して、変化ありと認められた場合には、ステップS109において、監視装置58から警告信号を出力する。ステップS108で、顕著な変化なしと認められた場合には、ステップS110において、新履歴を作成記録してステップS102に戻り、次の遮断器の開閉動作を待つ。
【0062】
以上のように、本発明によれば、ガス遮断器2の運転中にタンクフランジ51のボルト締結部の緩みを遮断器の動作毎に迅速に診断可能であり、遮断部タンク7からの絶縁性ガス漏洩などのトラブルを回避でき、ガス遮断器2の信頼性を向上させることができる。
【0063】
このように本発明は、ガス遮断器2に適用することが可能であり、ガス遮断器2として遮断部タンク7が密閉構造とされているものであれば、内部充填が空気、ガス、油あるいは真空とされているもののいずれであっても同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、本発明の適用される電力開閉装置としては、遮断器以外でもタンク構造を有しており、密閉のためにフランジボルト締めが施され、外部からばね力などにより駆動されるものであれば適用可能であり、同様の効果を奏することができる。
【0065】
なお、本発明においては電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた加速度センサの周波数応答関数を基準とし、その相違に応じて、フランジのボルト締結部の緩みを診断しているが、ここで事前の開閉動作時とは、望ましくは電力開閉装置製作時の製造現場での組み立て後試験時、あるいは電気所構内に据付後試験時での接触子開閉動作とするのが良い。そうはいえども、既設の供用中の電力開閉装置に監視装置を後日設置する場合もあり、係る場面では事前の開閉動作時としては監視装置設置後の可能な範囲で早い時期の運転実績を基準として使用するのが良い。
【0066】
最後に、かかる電力開閉装置の一例として、本発明をガス絶縁開閉装置の断路器に適用する実施例について述べる。図10において、母線容器1001は内部に六フッ化硫黄ガスが封入されており、紙面と垂直方向に主母線1019が配置されている。また、母線容器1001は、ベース1002に固定されている。ベース1002にはステー1003が固定され、ステー1003の上部に断路器用の操作器1004が取り付けられている。
【0067】
断路器1005は、下端のフランジで母線容器1001に接続されている。また、断路器1005の内部には六弗化硫黄ガスが封入されており、ボルト52により上端のフランジ1013が締結されている。断路器1005内部に接点1017が配置されており、開閉指令により断路器接点1017を開閉する。断路器接点1017を駆動するための操作器1004は、断路器1005の外部に設けられており、リンク機構で接続されている。
【0068】
すなわち、操作器1004の主軸1006に駆動レバー1007が締結され、図示を略した操作器1004内部の機構により駆動レバー1007が揺動運動を行う。駆動レバー1007の一端には駆動リンク1008が設けられ、駆動レバー1007の揺動に伴い、直線運動を行う。駆動リンク1008の他端が変換レバー1011に接続されている。変換レバー1011は略L字状に構成され、回転軸1010に回転自在に支持されるとともに、その一端が出力リンク1012に接続されている。また、回転軸1010はステー1009に取り付けられ、そのステー1009が断路器1005に固定されている。出力リンク1012は、一端が変換レバー1011に接続され、他端が大気中レバー1014に接続されている。大気中レバー1014は、回転軸1015と嵌合されており、この回転軸1015にガス中レバー1016も嵌合されている。したがって、出力リンク1012の直線動作に伴い、大気中レバー1014が回転すると、ガス中レバー1016も回転する。このガス中レバー1016の一端に断路器接点1017を開閉するロッドが接続されており、接点1017の開閉動作を行う。
【0069】
本実施例においては、フランジ1013を締結するボルト52の緩み診断を行うため、フランジ1013に加速度センサ54を、出力リンク1012の端部に加速度センサ53を設けている。このように加速度センサを配置することにより、断路器1005の開閉動作時の出力リンク53とフランジ1013の加速度の伝達関数を測定して、前記の実施例と同様にフランジ1013のボルト締結の緩み診断を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、電力開閉装置に簡便に取り付けて使用でき、かつ供用期間中に診断を行なうことができるので電力開閉装置の種別を問わず、広く適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
2・・・ガス遮断器
7・・・遮断部タンク
8・・・リンク機構部
9・・・操作器
10・・・架台
11・・・固定接触子
12・・・可動接触子
13・・・絶縁ロッド
18・・・ガス空間
51・・・タンクフランジ
52・・・ボルト
53・・・出力リンクに設置した加速度センサ
54・・・タンクフランジに設置した加速度センサ
55・・・接合面
56・・・アンプ
57・・・FFTアナライザ
58・・・監視装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定接触子と可動接触子とを有する遮断部を内蔵した遮断部タンクと、前記可動接触子を固定接触子に対して接触及び開離させるための駆動源を備えた操作器と、該操作器と前記遮断部の可動接触子とを連結するリンク機構部とを備え、前記遮断部タンクの密閉のためにフランジを用いた電力開閉装置において、
前記電力開閉装置に取り付けられた加速度センサと、該加速度センサからの信号の増幅器と、該増幅器出力を入力とする監視装置とを備え、前記監視装置は前記電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、前記加速度センサの出力を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた前記加速度センサの出力を基準とし、その相違に応じて、前記フランジのボルト締結部の緩み診断を行なうことを特徴とする電力開閉装置。
【請求項2】
固定接触子と可動接触子とを有する遮断部を内蔵した遮断部タンクと、前記可動接触子を固定接触子に対して接触及び開離させるための駆動源を備えた操作器と、該操作器と前記遮断部の可動接触子とを連結するリンク機構部とを備え、前記遮断部タンクの密閉のためにフランジを用いた電力開閉装置において、
前記電力開閉装置に取り付けられた複数の加速度センサと、該加速度センサからの信号の増幅器と、該増幅器出力を入力とする監視装置とを備え、
該監視装置は、前記電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、前記加速度センサの周波数応答関数を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた前記加速度センサの周波数応答関数を基準とし、その相違に応じて、前記フランジのボルト締結部の緩みを診断する第1の手段と、
前記電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、前記加速度センサの出力を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた前記加速度センサの出力を基準とし、その相違に応じて、前記リンク機構部の可動部異常を判断する第2の手段とを備え、
第1の手段の加速度センサは前記遮断部タンクのフランジに取り付けられ、第2の手段の加速度センサは前記リンク機構部に取り付けられたものとすると共に、第2の手段での異常判定時に第1の手段の緩み診断を無効とすることを特徴とする電力開閉装置。
【請求項3】
第2項記載の電力開閉装置において、
前記第1の手段の加速度センサを前記フランジのボルト締結部の大気中に設け、かつ加速度の感度方向を前記可動接触子の開閉操作方向と同一方向としたことを特徴とする電力開閉装置。
【請求項4】
第2項記載の電力開閉装置の診断装置において、
前記第1の手段の加速度センサを前記フランジ部分のボルト軸直角方向の外力が大きいボルト締結部の近傍に配置したことを特徴とする電力開閉装置。
【請求項5】
固定接触子と可動接触子とを有する遮断部を内蔵した遮断部タンクと、前記可動接触子を固定接触子に対して接触及び開離させるための駆動源を備えた操作器と、該操作器と前記遮断部の可動接触子とを連結するリンク機構部とを備え、前記遮断部タンクの密閉のためにフランジを用いた電力開閉装置の診断方法において、
前記電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、前記電力開閉装置の遮断部タンクのフランジに取り付けた第1の加速度センサの周波数応答関数を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた前記第1の加速度センサの周波数応答関数を基準とし、その相違に応じて、前記フランジのボルト締結部の緩みを診断し、
前記電力開閉装置運転中の接触子の開閉動作毎に、前記電力開閉装置の前記リンク機構部に取り付けられた第2の加速度センサの出力を観測し、当該電力開閉装置運転中の接触子の事前の開閉動作時に得られた前記第2の加速度センサの出力を基準とし、その相違に応じて、前記リンク機構部の可動部異常と判断し、
前記リンク機構部の可動部異常判定時に、前記フランジのボルト締結部の緩み診断を無効とすることを特徴とする電力開閉装置の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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