説明

電動アクチュエータ

【課題】一方の系統で障害が発生した時点でも、障害が発生してない系統を作動させて最小ストローク及び最大ストロークを確保することができ、信頼性の低下を防止・抑制可能な電動アクチュエータを提供する
【解決手段】ロッドRの軸方向に進退動作可能な第1可動部A2を有する第1系統Aと、第2モータB1、ロッドRの軸方向に進退動作可能な第2可動部B2を有する第2系統Bとを備え、各可動部A2,B2を、共通のロッドRの軸方向に進退動作可能に配置して、これら可動部A2,B2が最も相寄った基準位置(S)にある状態を最小ストロークSt(d)とし、何れか一方の系統が正常に作動しない故障発生時において他方の系統の可動部が基準位置(S)を境に正逆方向の何れにも最大ストローク長St(d+α)と最小ストローク長St(d)の差分αだけ移動できる構成を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、航空機や一般産業機械等の駆動系に用いられるアクチュエータとして油圧駆動式のものが多用されている。一方で、特に航空機技術の分野では、油圧駆動式よりも軽量化を図ることができ、オイルメンテナンスも不要となる電動アクチュエータ(EMA;Electro
Mechanical Actuator)が研究開発され、実用化が試みられている。
【0003】
電動アクチュエータの一例としては、モータにより回転する回転部材(ナット)にロッド(ねじ軸部材)を螺合させ、モータの1回転あたりのロッドの送り量に基づき、モータの回転角度に対応させてロッドを軸方向に移動させるように構成したものを挙げることができる。このように、いわゆるボールねじ機構を用いて構成した電動アクチュエータでは、ロッドの一端部が駆動部として機能する。
【0004】
そして、フェイルセーフという観点からモータ及びボールねじ機構を備えた駆動系を2つ有する2系統システムを採用し、一方の系統で固着(ジャミング)等の故障が生じても他方の系統を作動させることで電動アクチュエータ全体としての動作機能が担保できるように構成されているものがある(例えば特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1には、第1モータ、第1モータによって回転する第1回転部材、及び第1回転部材を介して第1モータが出力する駆動力に起因して軸方向に進退動作する第1出力部材を備えた第1系統と、第1系統に準じた構成の第2系統とを有する電動アクチュエータが開示されている。
【0006】
ここで、図5に上述した2系統を有する電動アクチュエータX’の一例を示す。第1系統A’の第1モータA1’の回転駆動力に起因して第1出力部材である第1ロッドA2’が軸方向に進退動作するとともに、第2系統B’の第2モータB1’の回転駆動力に起因して第2出力部材である第2ロッドB2’が軸方向に進退動作するように構成され、図5における第1ロッドA2’の先端部に設定した第1駆動部A3’と、第2ロッドB2’の先端部に設定した第2駆動部B3’との距離(ストロークSt)が電動アクチュエータX’の最小ストロークSt(d)である。この最小ストロークSt(d)を確保した状態は各ロッドA2’,B2’が最も相寄った位置にある状態である。そして、最小ストロークSt(d)を確保した状態における各ロッドA2’,B2’の位置を最小ストローク位置(S)とすると、例えばこの状態から第2モータB1を所定方向に回転駆動させて第2ロッドB2’を最小ストローク位置(S)よりも第1ロッドA2’から離間する方向へ移動させることによって電動アクチュエータXのストロークStを図6に示す最大ストロークSt(d+α)まで大きくすることができる。なお、図6では、第2ロッドB2’を最小ストローク位置(S)に配置した状態における第2駆動部B3’を2点鎖線で示している。
【0007】
このように、電動アクチュエータXには仕様等に応じて最小ストロークSt(d)及び最大ストロークSt(d+α)が設定され、この最小ストロークSt(d)と最大ストロークSt(d+α)を上下限とするストローク幅内でストローク長を適宜に調整できることが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−8470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような構成を採用した電動アクチュエータでは以下の不具合が生じ得る。すなわち、第2ロッドB2’が最小ストローク位置(S)よりもストロークStを大きくする方向(第1ロッドA2から離間する方向)へ移動して、電動アクチュエータX’のストローク長Stを最小ストロークSt(d)よりも大きくした状態、具体例として図6に示す最大ストロークSt(d+α)を得た状態で第2系統B’が故障した場合、第2ロッドB2’は移動不能になり、最小ストローク位置(S)へ移動させることは不可能である。また、たとえ正常に作動する第1ロッドA2’を最小ストローク位置(S)よりも第2ロッドB2’から離間する方向へ移動させたとしても、図5に示す最小ストロークSt(d)を確保することはできない。
【0010】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、2系統のうち何れか一方の系統に障害が発生した場合であっても他方の系統を作動させることでフェイルセーフの向上を図るとともに、障害発生時には、障害が発生してない系統を作動させて最小ストロークと最大ストロークとを含む要求される全ストローク幅を確保することができ、装置全体の信頼性の低下を防止・抑制可能な電動アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、第1モータ、及び第1モータの回転駆動力に起因してロッドの軸方向に進退動作可能な第1可動部を有する第1系統と、第2モータ、及び第2モータの回転駆動力に起因してロッドの軸方向に進退動作可能な第2可動部を有する第2系統とを備え、第1可動部の端部または端部近傍に設定した第1駆動部と第2可動部の端部または端部近傍に設定した第2駆動部との距離であるストローク長を調整可能な電動アクチュエータに関するものである。ここで、第1駆動部及び第2駆動部は、それぞれ第1可動部・第2可動部の端部または端部近傍に直接設けたものであってもよいし、それぞれ第1可動部・第2可動部の端部または端部近傍に他の部材を介して取り付けたものであってもよい。
【0012】
そして、本発明に係る電動アクチュエータは、第1可動部及び第2可動部を共通のロッドの軸方向に進退動作可能に構成するとともに、これら第1可動部及び第2可動部が最も相寄った基準位置にある状態のストローク長を最小ストロークとして設定し、これら第1可動部及び第2可動部を、それぞれ個別に基準位置を境にロッド沿いに進退方向の何れにも少なくとも所定の最大ストローク長と最小ストローク長の差分以上移動可能に構成したことを特徴としている。ここで、本発明の電動アクチュエータにおいて、第1可動部及び第2可動部を相互に最も近付けた基準位置に配置した状態とは、可動部同士が接触する態様、または可動部同士が接触していない態様、の何れをも包含するものである。
【0013】
このように、本発明に係る電動アクチュエータは、第1可動部及び第2可動を同一のロッド上に配置し、このロッドの軸方向に各可動部をそれぞれ進退動作可能に設定している。そして、第1系統及び第2系統が何れも正常に作動している状態では、第1可動部及び第2可動部をそれぞれ基準位置に設定することにより、電動アクチュエータのストローク長を最小値(最小ストローク)にすることができる。また、第1系統及び第2系統が何れも正常に作動している状態で、第1可動部又は第2可動部の少なくとも一方を基準位置よりも相対する可動部から離間する方向に所定距離移動させることで、電動アクチュエータのストローク長を仕様等に応じて要求される最大ストロークにすることができる。
【0014】
さらに、本発明に係る電動アクチュエータでは、各可動部を基準位置を境にしてロッド沿いに進退方向(正逆方向)何れの方向にも所定の最大ストローク長と最小ストローク長との差分以上の距離を移動可能に構成しているため、例えば、最大ストローク長を得た状態で何れか一方の系統で例えばジャミングなどの障害が発生し、その時点で障害が発生した系統の可動部が基準位置よりも他方の系統(正常な系統)の可動部から離間した位置で移動不能な状態(ケース1)となったとしても、正常に作動している系統の可動部を、基準位置を越えてさらに移動不能な状態にある可動部(故障が発生している系統の可動部)に最大限近付けることにより、両方の可動部が最も相寄った状態を実現することができる。そして、両方の可動部が最も相寄った状態におけるストローク長は、両可動部が基準位置にある状態のストローク長と同じであることから、上述のケース1の事例が発生した場合であっても電動アクチュエータのストローク長を最小値(最小ストローク)にすることができる。また、ケース1の事例では、一方の系統に障害が発生した時点で電動アクチュエータのストローク長は最大ストロークとなっている。以上より、ケース1の事例においても、障害が発生していない系統の可動部をロッドの軸方向に進退移動させることによって最小ストロークと最大ストロークを含む要求される全ストローク幅を確保することができる。
【0015】
また、本発明に係る電動アクチュエータにおいて、例えば、最小ストローク長を得た状態で何れか一方の系統に障害が発生した場合(ケース2)を想定すると、この障害発生時点では何れの可動部も基準位置にある。そのうち一方の可動部は故障が発生した系統に属するものであるため基準位置で移動不能な状態となる。このようなケース2の事例が発生した場合に、本発明の電動アクチュエータは、正常に作動している系統の可動部を、基準位置よりも移動不能な状態にある可動部(故障が発生している系統の可動部)から離間する方向に所定距離移動させれば、所定の最大ストロークを得ることができる。ここで、移動不能な可動部が基準位置にあるケース2では、正常な系統の可動部を、基準位置を基準として移動不能な可動部から離間する方向へ最大ストローク長と最小ストローク長の差分だけ移動させれば、電動アクチュエータのストローク長(第1駆動部と第2駆動部との距離)は最大ストロークとなる。また、ケース2の事例では、一方の系統に障害が発生した時点で電動アクチュエータのストローク長は最小ストロークとなっている。以上より、ケース2の事例においても、障害が発生していない系統の可動部をロッドの軸方向に進退移動させることによって最小ストロークと最大ストロークを含む要求される全ストローク幅を確保することができる。
【0016】
以上に述べたケース1及びケース2以外のケース、すなわち、一方の系統で障害が発生した時点で電動アクチュエータのストローク長が最小ストロークと最大ストロークとの間の任意のストローク長である場合であっても、障害が発生していない系統の可動部を、基準位置よりも障害が発生している系統の可動部側に向かって移動させたり、基準位置よりも障害が発生している系統の可動部から離間する方向に移動させることにより、最小ストロークや最大ストロークを得ることができる。
【0017】
なお、付言すると、両方の可動部をそれぞれの基準位置を基準として相対する可動部から離間する方向へ最大ストローク長と最小ストローク長の差分だけ移動させた位置に配置した状態では、電動アクチュエータのストロークは要求されている最大ストロークよりも、最大ストローク長と最小ストローク長の差分だけ大きくなる。したがって、このように各可動部をそれぞれの基準位置を基準として相対する可動部から離間する方向へ最大ストローク長と最小ストローク長の差分だけ移動させることは実際の使用上では要求されることはない。
【0018】
このように、本発明の電動アクチュエータは、共通のロッド上に配置した各可動部を基準位置よりも相対する可動部に近寄る方向(前進方向)及び遠ざかる方向(後退方向)の何れにも所定の最大ストローク長と最小ストローク長の差分以上移動可能に構成しているため、一方の系統で故障が発生した場合であっても、障害が発生していない系統に属する可動部をロッド軸沿いに適宜量移動させることによって、要求される全ストローク幅でストローク長を調整することができ、信頼性及び実用性に優れた電動アクチュエータの提供が実現できる。
【0019】
また、本発明の電動アクチュエータでは、各系統の可動部として、ロッドの軸方向にスライド移動可能なものを適用することも可能であるが、確実な位置合わせ制御や構造の簡素化を図るという観点からは、各可動部を、対応する各モータ(第1可動部であれば第1モータであり、第2可動部であれば第2モータ)の回転駆動力を受けてロッドに対して螺合進退動作可能な回転部材(第1回転部材,第2回転部材)を用いて構成することが望ましい。このように、ボールねじ機構を採用することにより、モータから伝達される回転運動を高効率で軸線方向運動に変換することができる。
【0020】
可動部をロッドの軸方向に移動させて最小ストロークを確保できるように構成した本発明の電動アクチュエータにおいて、部品点数の大幅な増加及び構造面における極度の複雑化を招来することなく正常作動時及び障害発生時にも正確な最小ストローク長を確保できるようにするには、第1可動部及び第2可動部の一部を、最小ストローク時に相互に当接する当接部として機能させることが好ましい。このような構成であれば、第1可動部の当接(第1当接部)と第2可動部(第2当接部)とを当接させることで各可動部(第1可動部、第2可動部)のそれ以上の相寄る方向への移動を適切に規制することができ、その状態のストロークを一定に保つことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、各系統の可動部を同一のロッド上で軸方向に進退動作可能に構成し、さらに、基準位置を境にロッド沿いに進退方向の何れにも少なくとも所定の最大ストローク長と最小ストローク長の差分以上移動可能に構成したことにより、何れか一方の系統が故障した場合であっても、正常に作動している他方の系統の可動部を上述した条件で、故障した系統の可動部に対して適宜量だけ接離移動させることによって電動アクチュエータの最小ストロークと最大ストロークを含む要求される全ストローク長を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態において最小ストローク状態にある電動アクチュエータの全体模式断面図。
【図2】同実施形態において所定の最大ストローク状態にある電動アクチュエータの図1対応図。
【図3】同実施形態において各可動部同士の離間距離を最大限大きく設定した状態に電動アクチュエータの図1対応図。
【図4】同実施形態において故障発生時に最小ストローク長を確保した電動アクチュエータの図1対応図。
【図5】最小ストローク状態にある従来の電動アクチュエータの全体模式断面図。
【図6】最大ストローク状態にある従来の電動アクチュエータの図5対応図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0024】
本実施形態に係る電動アクチュエータXは、例えば図示しないロケットの可動ノズルを動作させる目的で使用されるものであり、図1に示すように、第1系統Aと第2系統Bとを有する冗長設計を採用したものである。本実施形態の電動アクチュエータXでは、共通のロッドRの一端部側に第1系統Aを配置するとともに、ロッドRの他端部側に第2系統Bを配置し、第1系統Aの出力端である第1駆動部A3と、第2系統Bの出力端である第2駆動部B3との距離であるストローク長Stを調整できるように構成している。第1系統A及び第2系統Bは何れも同様の構成であり、以下では第1系統Aについて説明する。なお、第2系統Bについては第1系統Aと重複するため詳細な説明は省略するが、以下の説明では第2系統Bのうち第1系統Aの対応する部分は第1系統Aにおける「第1○○」を「第2○○」に代えた名称として、また図1などでは、第2系統Bのうち第1系統Aの対応する部分は第1系統Aにおける「A○」を「B○」に代えて示している。
【0025】
第1系統Aは、第1モータA1(例えばブラシレスサーボモータ)と、第1モータA1の回転駆動力に起因してロッドRの軸方向に進退動作可能な第1可動部A2とを備え、この第1可動部A2のうちロッドRの軸方向中心から離間した側の端部(先端部)近傍に第1駆動部A3を配置したものである。また、第1系統Aは、第1モータA1の回転駆動力を第1可動部A2に伝達する第1伝達機構A4を備えている。本実施形態では、例えばギア列(減速ギア列)によって第1伝達機構A4を構成している。第1可動部A2は、ロッドRに螺合した状態で軸方向に進退動作可能な第1回転部材A21を用いて構成したものである。本実施形態では、ロッドRとして外周面に雄ネジ部R1を設けたねじ棒を適用し、第1回転部材A21として内周面に雌ネジ部を設けたナットを適用している。具体的には、第1回転部材A21のうちロッドRの幅方向中心側の端部(基端部)が、最小ストローク時に第2系統Bの第2回転部材B21(の第2当接部B22)に当接する第1当接部A22として機能し、この第1当接部A22近傍領域の内周面に雌ネジ部を形成している。また、第1回転部材A21は、雌ネジ部を形成していない領域に、雌ネジ部の内径よりも大きい内径に設定した第1大径部A23を形成し、この第1大径部A23内に次に説明する第1ハウジングA5の一部(第1ガイド部A51)を収容可能に設定している。
【0026】
第1ハウジングA5は、第1軸受A6(例えばアンギュラベアリング)を介して第1回転部材A21を相対回転可能に保持するものである。この第1ハウジングA5は、第1回転部材A21の第1大径部A23内に収容される筒状の第1ガイド部A51と、この第1ガイド部A51に対して進退動作可能な第1ロッド連結部A52とを備えている。本実施形態では例えばビスによって第1ロッド連結部A52をロッドRの一端部に固定している。したがって、第1回転部材A21とともに第1ハウジングA5全体がロッドRの軸方向に進退移動する。本実施形態では第1ハウジングA5内に第1モータA1及び第1伝達機構A4も収容している。そして、第1ハウジングA5のうちロッドRの同一軸線上に一致する部分に第1駆動部A3を設けている。
【0027】
次に、このような構成を有する電動アクチュエータXの動作及び作用について説明する。
【0028】
第1系統A及び第2系統Bの両方が正常に作動可能な状態(平常時)では、第1モータA1及び第2モータB1を回転駆動させると、各伝達機構(第1伝達機構A4,第2伝達機構B4)を介して伝達される回転駆動力により第1回転部材A21,第2回転部材B21が所定方向に回転する。そして、本実施形態では、第1回転部材A21,第2回転部材B21を共通のロッドR上で回転しながら相対する回転部材に近付く方向(この方向を正方向または前進方向とする)、または相対する回転部材から離間する方向(この方向を逆方向または後退方向とする)に螺合進退動作可能に設定している。このような構成を有する電動アクチュエータXは、第1駆動部A3と第2駆動部B3との距離であるストロークStを図1に示す最小ストロークSt(d)と、仕様等に応じて決定される図2に示す最大ストロークSt(d+α)との間で適宜調整・変更できる。ここで、「d」は最小ストローク長そのものを示すものであり、「α」は最大ストローク長と最小ストローク長との差分を示す。また、以下の説明では、最小ストロークSt(d)に得た状態の電動アクチュエータXを最小ストローク状態(min)と称し、最大ストロークSt(d+α)を得た状態の電動アクチュエータXを最大ストローク状態(max)と称する。なお、図2には、説明の便宜上、基準位置(S)にある第2可動部B2(第2回転部材B21)の一部及び第2可動部B2(第2回転部材B21)を基準位置(S)に配置した状態の第2駆動部B3をそれぞれ2点鎖線で示している。
【0029】
平常時において電動アクチュエータXが最小ストローク状態(min)にある場合、図1に示すように第1回転部材A21及び第2回転部材B21の当接部(第1当接部A22,第2当接部B22)同士が当たる。つまり、第1回転部材A21及び第2回転部材B21が最も相寄った基準位置(S)にある状態のストローク長Stが最小ストロークSt(d)となる。そして、この最小ストローク状態(min)にある電動アクチュエータXを最大ストローク状態(max)にする場合、本実施形態では、図2に示すように、第2モータB1を所定方向に回転駆動させて、その回転角に応じて第2回転部材B21を回転させながらロッドRに沿って基準位置(S)にある第1回転部材A21から離間する方向へ所定距離移動させる。ここで、図2に示す最大ストローク状態(max)時の第2回転部材B21の位置を最大後退位置(L)とする。
【0030】
なお、図3に示すように、第2回転部材B21を最大後退位置(L)に配置するとともに、第1モータA1も所定方向に回転駆動させて、その回転角に応じて第1回転部材A21を回転させながらロッドRに沿って第2回転部材B21から離間する方向へ最大限移動させた最大後退位置(L)に配置することも可能である。図3における電動アクチュエータXのストローク長St(d+2α)は、要求されている最大ストロークSt(d+α)よりも、最大ストローク長と最小ストローク長との差分αだけ大きく、このようなストローク長(d+2α)は実際の使用上では要求されていない。換言すれば、本実施形態における電動アクチュエータXに要求されている最大ストローク長St(d+α)は、両回転部材(A21,B21)をそれぞれ最大後退位置(L)に位置付けた状態のストローク長よりも(最大ストローク長と最小ストローク長との差分αだけ)短い距離に設定している。なお、図3には、説明の便宜上、基準位置(S)にある第1可動部A2,第2可動部B2(第1回転部材A21,第2回転部材B21)の一部及び第1可動部A2,第2可動部B2(第1回転部材A21,第2回転部材B21)をそれぞれ基準位置(S)に配置した状態の第1駆動部A3,第2駆動部B3をそれぞれ2点鎖線で示している。
【0031】
そして、本実施形態の電動アクチュエータXでは、何れか一方の系統において、モータが駆動不能になったり、ボールねじ機構で固着(ジャミング)が生じたケースを想定し、そのような障害が生じた場合であっても、ストローク長Stを最小ストロークSt(d)と最大ストロークSt(d+α)を含む要求される全ストローク幅で調整できるように構成している。
【0032】
例えば、図2のように、電動アクチュエータXが第1可動部A2(第1回転部材A21)を基準位置(S)に設定するとともに第2可動部B2(第2回転部材B21)を最大後退位置(L)に設定して最大ストローク長St(d+α)を確保した最大ストローク状態(max)で、第2系統Bに障害が発生した場合、この第2系統Bに属する第2可動部B2(第2回転部材B21)を基準位置(S)まで移動させることは不可能である。
【0033】
そこで、本実施形態に係る電動アクチュエータXは、障害が発生していない第1系統Aの第1モータA1を回転駆動させて第1可動部A2(第1回転部材A21)を基準位置(S)よりもさらに第2可動部B2(第2回転部材B21)側へ移動(前進移動)可能に構成している。ここで、本実施形態に係る電動アクチュエータXにおける最大ストローク長St(d+α)と最小ストローク長St(d)との差分αは、図1に示す各可動部A2,B2(各回転部材A21,B21)の当接部A22,B22同士が当たっている位置から、図2に示す第2当接部B22の位置、すなわち図2に示す当接部A22,B22同士の離間距離に相当する。そして、本実施形態では、各可動部A2,B2(各回転部材A21,B21)を基準位置(S)を境にロッドR沿いに進退方向の何れにも所定の最大ストローク長と最小ストローク長の差分α以上それぞれ単独で移動可能に構成している。
【0034】
したがって、図2に示す最大ストローク長St(d+α)を確保した最大ストローク状態(max)で第2系統Bに障害が生じて第2可動部B2(第2回転部材B21)が移動不能な状態に陥った場合には、第1系統Aの第1可動部A2(第1回転部材A21)を基準位置(S)よりもさらにロッドR沿いに第2可動部B2(第2回転部材B21)側に移動させることによって、電動アクチュエータXのストローク長Stを最大ストロークSt(d+α)よりも短くすることができる。そして、図4に示すように、第1当接部A22が第2当接部B22に当たる位置まで第1可動部A2(第1回転部材A21)を前進移動させることによって、第1可動部A2(第1回転部材A21)のそれ以上同一方向への移動は規制され、この状態で、第1駆動部A3と第2駆動部B3との離間距離であるストロークSt(d)は、第1可動部A2及び第2可動部B2(第1回転部材A21及び第2回転部材B21)を何れも基準位置(S)に設定した際のストローク、つまり最小ストロークSt(d+α)と同じストロークとなる。なお、図4には、説明の便宜上、基準位置(S)にある第1可動部A2(第1回転部材A21)の一部及び第1可動部A2(第1回転部材A21)を基準位置(S)に配置した状態の第1駆動部A3をそれぞれ2点鎖線で示している。
【0035】
このように、本実施形態の電動アクチュエータXは、最大ストローク状態(max)で何れか一方の系統で障害が発生した場合にも最小ストロークSt(d)を確保することができる。また、この電動アクチュエータXは、図4に示す最小ストロークSt(d)を得た最小ストローク状態(min)から第1系統Aの第1可動部A2(第1回転部材A21)を基準位置(S)へ移動させることにより、最大ストロークSt(d+α)を得た最大ストローク状態(max)となる。
【0036】
一方、電動アクチュエータXが第1可動部A2及び第2可動部B2(第1回転部材A21及び第2回転部材B21)を何れも基準位置(S)に設定した図1に示す最小ストローク状態(min)で、第2系統Bに障害が発生した場合、この第2系統Bに属する第2可動部B2(第2回転部材B21)を基準位置(S)以外の位置に移動させることは不可能である。
【0037】
このような場合であっても、本実施形態に係る電動アクチュエータXは、障害が発生していない第1系統Aの第1モータA1を回転駆動させて第1可動部A2(第1回転部材A21)を基準位置(S)よりもさらに第2可動部B2(第2回転部材B21)から離間する方向へ移動(後退移動)させることによって、電動アクチュエータXのストローク長Stを最小ストロークSt(d)よりも長くすることができる。そして、図示しないが、第1可動部A2(第1回転部材A21)を基準位置(S)から電動アクチュエータXの最大ストローク長と最小ストローク長との差分αだけロッドR沿いに後退移動させることによって、第1駆動部A3と第2駆動部B3との離間距離であるストロークStは最大ストロークSt(d+α)となる。したがって、本実施形態の電動アクチュエータXは、最小ストローク状態(mix)で何れか一方の系統で障害が発生した場合にも最大ストロークSt(d+α)を確保することができる。また、この電動アクチュエータXは、最大ストロークを得た状態から第1系統Aの第1可動部A2(第1回転部材A21)を基準位置(S)へ移動させることにより、最小ストローク状態(min)となる。
【0038】
なお、図示しないが、第2可動部B2が基準位置(S)と最大後退位置(L)との間にある状態で第2系統Bに障害が生じた場合には、第1系統Aの可動部A2を基準位置(S)よりも第2可動部B2側へ移動(前進移動)させたり、基準位置(S)よりも第2可動部B2から離間する方向へ移動(後退移動)させることによって電動アクチュエータXのストローク長Stを調整することができる。そして、第1当接部A22が第2当接部B22に当接する位置まで第1可動部A2を前進移動させれば最小ストローク長St(d)を得ることができる一方で、第2可動部B2の基準位置(S)から移動不能な状態で停止している位置までの距離(この距離を「t」とする)を、最大ストローク長と最小ストローク長との差分αから引いた値(すなわち「α−t」)に相当する距離だけ第1可動部A2を基準位置(S)よりも第2可動部B2から離間する方向へ移動させれば最大ストローク長St(d+α)を得ることができる。
【0039】
このように、本実施形態に係る電動アクチュエータXは、共通のロッドR上において第1可動部A2及び第2可動部B2を相互に接離する方向にそれぞれ進退動作可能に設定し、第1系統A及び第2系統Bが何れも正常に作動している状態では各可動部(第1可動部A2,第2可動部B2)をそれぞれ基準位置(S)に配置することにより、電動アクチュエータXのストローク長Stを最小ストロークSt(d)にすることができ、第1可動部A2を基準位置(S)に設定するとともに第2可動部B2を最大後退位置(L)に設定することにより、電動アクチュエータXのストローク長Stを最大ストロークSt(d+α)に設定することができる。そして、何れか一方の系統(上述した例では第2系統B;以下、括弧内に上述の例で該当する部分を示す)が正常に作動しない故障発生時において、その系統の可動部(第2可動部B2)が最大後退位置(L)にある状態で移動不能となっていても、正常に作動している系統(第1系統A)の可動部(第1可動部A2)を基準位置(S)よりもさらに他方の可動部(第2可動部B2)に近寄る方向(前進方向)へ移動させることにより、電動アクチュエータXのストローク長Stを最小ストロークSt(d)にすることができる。また、何れか一方の系統(第2系統B)が正常に作動しない故障発生時において、その系統の可動部(第2可動部B2)が基準位置(S)にある状態で移動不能となっていても、正常に作動している系統(第1系統A)の可動部(第1可動部A2)を基準位置(S)よりもさらに他方の可動部(第2可動部B2)から離間する方向(後退方向)へ移動させることにより、電動アクチュエータXのストローク長Stを最大ストロークSt(d+α)にすることができる。
【0040】
さらに、何れか一方の系統(第2系統B)が正常に作動しない故障発生時において、その系統の可動部(第2可動部B2)が基準位置(S)と最大後退位置(L)との間にある状態で移動不能となっていても、正常に作動している系統(第1系統A)の可動部(第1可動部A2)を基準位置(S)よりも他方の可動部(第2可動部B2)に近寄る方向(前進方向)へ移動させることにより、電動アクチュエータXのストローク長Stを最大ストロークSt(d+α)にすることができたり、正常に作動している系統(第1系統A)の可動部(第1可動部A2)を基準位置(S)よりもさらに他方の可動部(第2可動部B2)から離間する方向(後退方向)へ移動させることにより、電動アクチュエータXのストローク長Stを最大ストロークSt(d)にすることができる。
【0041】
なお、ここまでの説明は、平常時において第1可動部A2を基準位置(S)に設定するとともに第2可動部B2を最大後退位置(L)に設定した場合に最大ストローク長となる電動アクチュエータX(つまり、平常時では第1可動部A2が常に基準位置(S)にある電動アクチュエータX)を念頭にしたものであるが、例えば第1可動部A2を最大後退位置(L)に設定するとともに第2可動部B2を基準位置(S)に設定した場合に最大ストローク長となる電動アクチュエータX(つまり、平常時では第2可動部B2が常に基準位置(S)にある電動アクチュエータX)や、第1可動部A2及び第2可動部B2の両方を基準位置(S)と最大後退位置(L)との間に設定した場合に最大ストローク長となる電動アクチュエータXであっても、一方の系統で障害が発生した場合には他方の系統の可動部をロッドR軸沿いに進退移動させることによって最小ストローク長St(d)と最大ストローク長St(d+α)を確保できる。
【0042】
このように、本実施形態に係る電動アクチュエータXは、一方の系統で障害が発生した場合には最小ストロークSt(d)と最大ストロークSt(d+α)を含む全ストローク幅を確保できないという従来の不具合を解消することができ、信頼性及び実用性に優れたものである。
【0043】
また、本実施形態の電動アクチュエータXは、各可動部(第1可動部A2,第2可動部B2)を、対応する各モータ(第1モータA1,第2モータB1)の回転駆動力を受けてロッドRに対して螺合進退動作可能な回転部材(第1回転部材A21,第2回転部材B21)を用いて構成しているため、比較的単純な構造でありながら、モータA2,B2から伝達される回転運動を高効率で軸線方向運動に変換することができ、ストローク長Stの微調整を行うことができる。
【0044】
さらに、本実施形態に係る電動アクチュエータXは、第1可動部A2及び第2可動部B2に、最小ストローク状態(min)で相互に当接してそれ以上相互に近付く方向への移動を規制する当接部(第1当接部A22,第2当接部B22)を形成しているため、部品点数の大幅な増加及び構造面における極度の複雑化を招来することなく正常作動時及び障害発生時にも正確な最小ストローク値を確保することができる。
【0045】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、各系統の可動部として、ロッドの軸方向にスライド移動可能な部材を適用することができる。
【0046】
また、ロッドとして、軸方向に複数本のロッド要素を連結したものを適用しても構わない。この場合、連結部分によって可動部の移動に支障を来たさないという条件を満たすことが要求される。
【0047】
上述した実施形態では、可動部である回転部材を回転可能に保持するハウジングを介して各可動部の端部近傍に駆動部(第1駆動部,第2駆動部)を設けた態様を例示したが、各可動部の端部に駆動部を直接配置した態様を採用してもよい。
【0048】
また、各可動部が最も相寄った基準位置で、各可動部が相互に直接当たらないように設定することもできる。この場合、平常時において基準位置に配置した可動部がそれ以上相寄る方向へ移動することを防止するストッパーを設けてもよいが、このストッパーは可動部と一体または一体的にロッド沿いに進退動作可能に構成しておくことが望ましい。
【0049】
また、本発明に係わる電動アクチュエータを、例えば、操舵翼や開閉ハッチの駆動、その他の駆動を目的にして使用することが可能である。
【0050】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0051】
A…第1系統
A1…第1モータ
A2…第1可動部
A21…第1回転部材
A22…当接部(第1当接部)
A3…第1駆動部
B…第2系統
B1…第2モータ
B2…第2可動部
B22…当接部(第2当接部)
B3…第2駆動部
R…ロッド
X…電動アクチュエータ
(S)…基準位置
St(d)…最小ストローク
St(d+α)…最大ストローク
α…最大ストロークと最小ストロークの差分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モータ、及び当該第1モータの回転駆動力に起因してロッドの軸方向に進退動作可能な第1可動部を有する第1系統と、
第2モータ、及び当該第2モータの回転駆動力に起因して前記ロッドの軸方向に進退動作可能な第2可動部を有する第2系統とを備え、
前記第1可動部の端部または端部近傍に設定した第1駆動部と前記第2可動部の端部または端部近傍に設定した第2駆動部との距離であるストローク長を調整可能な電動アクチュエータであり、
前記第1可動部及び前記第2可動部を共通の前記ロッドの軸方向に進退動作可能に構成して、これら第1可動部及び第2可動部が最も相寄った基準位置にある状態の前記ストローク長を最小ストロークとして設定し、
これら第1可動部及び第2可動部を、それぞれ個別に前記基準位置を境に前記ロッド沿いに進退方向の何れにも所定の最大ストローク長と前記最小ストローク長の差分以上移動可能に構成したことを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
第1モータの回転駆動力を受けて前記ロッドに対して螺合進退動作可能な第1回転部材を用いて前記第1可動部を構成し、第2モータの回転駆動力を受けて前記ロッドに対して螺合進退動作可能な第2回転部材を用いて前記第2可動部を構成している請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1可動部及び前記第2可動部が、最小ストロークを得た状態において相互に当接する当接部を備えている請求項1又は2に記載の電動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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