説明

電動コンバイン

【課題】車両の駆動源にエンジン(原動機)とアクチュエータを併用して、扱胴の駆動源のみをエンジン動力にすることで最適な動力配分にし、扱胴を円滑に駆動して作業性を向上させるとともに環境負荷を軽減させた電動コンバインを提供する。
【解決手段】車両にエンジンEおよびバッテリーBを搭載し、バッテリーBは、インバータI1〜I6を介して電動モータM1〜M6(アクチュエータ)に電力を供給するとともに、エンジンEおよび電動モータM1〜M6の動力によって、車両の走行部3および複数の処理部からなる作業部61を駆動し、走行部3は、電動モータM1〜M6で駆動させるとともに、作業部61は、電動モータM1〜M6の動力により駆動させるアクチュエータ駆動部63と、エンジンEの動力により駆動させるエンジン駆動部62とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に原動機およびバッテリーを搭載し、バッテリーは、インバータを介してアクチュエータに電力を供給するとともに、原動機およびアクチュエータの動力によって、車両の走行部および複数の処理部からなる作業部を駆動する電動コンバインに関し、より詳細には、走行部は、アクチュエータで駆動させるとともに、作業部は、アクチュエータの動力により駆動させるアクチュエータ駆動部と、原動機の動力により駆動させる原動機駆動部とを備えた電動コンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンバイン(農作業車両)は、車体に搭載したエンジンなど原動機の駆動力により、各種機械式の動力伝達機構を介してクローラなどの車両の走行部や、刈取、脱穀など複数の処理部からなる作業部を駆動させていた。しかし、近年、環境問題が重視される中で、大気汚染の軽減や燃費節約の機運が高まっており、動力源として、車両にエンジンと電動モータを搭載したハイブリッド型のコンバインが提唱されている。これは、車両が、エンジンと電動モータの二つの駆動源を持ち、それを使い分けることによって排ガスの低減と燃費を稼ぐものである。その一例として、車体にエンジンや発電機、バッテリー、処理部に設けた電動モータなどを搭載し、エンジンの動力で車両の走行部を駆動させるとともに、このエンジンの駆動により発電機を作動させ、発電した電力を、バッテリーを介して電動モータに供給し、刈取装置や脱穀装置など作業部を駆動させるもの(例えば、特許文献1)がある。
また、作業部として、脱穀部の扱胴を駆動するエンジンとは別個に、扱胴に補助出力用モータを設け、扱胴の駆動に連動させた車速を減少するなどした際、既に刈り取られている穀桿がそのまま脱穀部に搬送されるために搬送量が低減されず、扱胴に過負荷が生じた場合には、補助出力用モータを作動させて、補助出力用モータがエンジンと協働して扱胴を駆動し、扱胴のアシスト制御を行うようにしたもの(例えば、特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−242558号公報
【特許文献2】特開2002−337569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のようなコンバインでは、作業部の駆動源に電動モータを用いており、特に脱穀部における扱胴は、発電機により発電した電力を用いて作動する電動モータにより駆動させている。しかしながら、この扱胴は、重量を有するうえ、大量の穀稈を扱歯に巻き付けたり挟んだりして回転するため、コンバイン全体の駆動系における全出力の50〜60%前後にも相当する大きな出力を要し、上述した電動モータでは、このような扱胴を十分に回転駆動させることができず、扱胴の回転停止や、それに伴う各作業部への穀稈詰まりなど、作業能率を著しく低下させてしまう問題があった。さらには、エンジンの動力で走行部を駆動させているため、歯車や軸など多数の動力伝達部材を必要とすることから、構成を複雑にしているという問題もあった。
【0005】
また、特許文献2のようなコンバインでは、走行部および作業部全ての駆動源は1つのエンジンの駆動力で賄っており、上述したように大きな出力を必要とする扱胴を、このエンジンで駆動させるためには、エンジンの出力を下げることができず、その結果、エンジンを小型化することができない。さらに、バッテリーには、オルタネータなどで発電した低電圧の電力を充電しており、この電力を用いた補助出力用モータでは、扱胴を十分に回転させることができないという問題があった。
そこで、この発明の目的は、車両の駆動源にエンジンとアクチュエータを併用して、扱胴の駆動源のみをエンジン動力にすることで最適な動力配分にし、扱胴を円滑に駆動して作業性を向上させるとともに環境負荷を軽減させた電動コンバインを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、請求項1に記載の発明は、車両に原動機およびバッテリーを搭載し、 前記バッテリーは、インバータを介してアクチュエータに電力を供給するとともに、前記原動機およびアクチュエータの動力によって、前記車両の走行部および複数の処理部からなる作業部を駆動する電動コンバインにおいて、前記走行部は、前記アクチュエータで駆動させるとともに、前記作業部は、前記アクチュエータの動力により駆動させるアクチュエータ駆動部と、前記原動機の動力により駆動させる原動機駆動部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動コンバインにおいて、前記作業部の前記原動機駆動部は、脱穀部の扱胴としたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の電動コンバインにおいて、前記車両には、前記原動機に接続する発電機を備えるとともに、前記バッテリーは、前記発電機により発電した電力を充電することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の電動コンバインにおいて、前記バッテリーは、車両外部に設置した外部発電機により発電した電力を充電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、車両に原動機およびバッテリーを搭載し、バッテリーは、インバータを介してアクチュエータに電力を供給するとともに、原動機およびアクチュエータの動力によって、車両の走行部および複数の処理部からなる作業部を駆動する電動コンバインにおいて、走行部は、アクチュエータで駆動させるとともに、作業部は、アクチュエータの動力により駆動させるアクチュエータ駆動部と、原動機の動力により駆動させる原動機駆動部とを備えたので、原動機としてのエンジン動力を作業部の一部の駆動源に限定して用いることで、エンジンを必要最小限の大きさに抑えて小型化でき、排ガスの低減と燃費を向上させるとともに、走行部は、エンジン動力を伝達する機械式の動力伝達部材を必要とせず、走行部の構成を簡素化することができる。従って、環境負荷を軽減させるとともに、コストダウンやメンテナンス性を向上させた電動コンバインを提供することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、作業部の原動機駆動部は、脱穀部の扱胴としたので、車両の駆動系の中で最も出力を要する扱胴のみをエンジン動力にして、扱胴を円滑に駆動させるとともに、エンジンを必要最小限の大きさに抑えて小型化でき、排ガスの低減と燃費を向上させることができる。従って、作業性を向上させるとともに環境負荷を軽減させた電動コンバインを提供する。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、車両には、原動機に接続する発電機を備えるとともに、バッテリーは、発電機により発電した電力を充電するので、エンジンの駆動に伴い、発電機により発電した高圧の電力をバッテリーに安定的に充電できるとともに、その電力を用いて、扱胴以外の駆動部を電動モータで駆動させ、エンジンを扱胴および発電機の駆動だけに用いることでエンジンを小型化でき、排ガスの低減と燃費を向上させることができる。従って、環境負荷を軽減させた電動コンバインを提供することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、バッテリーは、車両外部に設置した外部発電機により発電した電力を充電するので、車載発電機を必要とせず、または発電機を併用した場合でもエンジンの負荷をより低減できることから、エンジンをさらに小型化でき、排ガスの低減と燃費を向上させることができる。従って、環境負荷を軽減させた電動コンバインを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電動コンバインの一例を示した左側面図である。
【図2】電動コンバインの平面図。
【図3】穀稈搬送装置の左側面図である。
【図4】脱穀部および選別部の左側面模式図である。
【図5】電動コンバインの動力伝達構成図である。
【図6】電動コンバインの各駆動系への動力伝達経路を示す模式図である。
【図7】作業部の駆動源として、グレンタンク底部の排出コンベアへの電動モータの設置例を示す、排出コンベアの斜視図である。
【図8】走行部の駆動源として、駆動スプロケットへの電動モータの設置例を示す、フレームおよびクローラベルトを取外した走行部の斜視図である。
【図9】外部発電機から電力をバッテリーに充電する電動コンバインの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1はこの発明の一例としての電動コンバインの右側面図、図2は電動コンバインの左側面図、図3は穀稈搬送装置の左側面図、図4は脱穀部および選別部の左側面模式図である。
【0016】
まず、電動コンバイン1は、図1〜3に示すように、左右一対のトラックフレーム2に、左右一対のクローラ式走行装置である走行部3を装設し、これら左右トラックフレーム2に機台4が架設される。また、機台4上には、引起機構8、刈刃9、収穫物搬送手段10などを備える刈取部7や、フィードチェーン18を機体左側に張架し、扱胴6を内蔵する脱穀装置である脱穀部5、排藁チェーン終端を臨ませる排藁処理部11、脱穀部5からの籾を、揚穀筒を介して搬入するグレンタンク12、このグレンタンク12の籾を機外に搬出する搬送部16としての排出オーガ13などが設置される。
【0017】
さらに、機体前部の機台4上には、ハンドル14や運転席15、および運転席15下方には、原動機としてのエンジンEや、後述する発電機DおよびバッテリーBなどが設けられており、これら構成により自脱型の電動コンバイン1が連続的に稲などの農作物を刈取って脱穀するように構成されている。
【0018】
そして、機台3の後部には、グレンタンク12内の籾を外部へ排出するための排出オーガ13の縦オーガ13aが立設されるとともに、この縦オーガ16aの上端部には横オーガ13bが連設されている。この縦オーガ13aを中心として、グレンタンク12が左右回動可能に設けられて、グレンタンク12の前側を外方に回転させて開放可能に構成されている。また、機台3の後部には、脱穀部5に連続して穀稈搬送装置17が内設されている。
【0019】
刈取部7で刈り取られた穀稈は、収穫物搬送手段10にて後部へ搬送され、収穫物搬送手段10の上端から株元側が穀稈搬送装置17のフィードチェーン18に受け継がれ、扱胴6の供給始端部を介して脱穀部5および選別部19からなる脱穀装置内に穀稈が搬送される。そして、フィードチェーン18後端には、排藁搬送チェーン20が配設され、この排藁搬送チェーン20後部下方には、カッター,結束機などからなる図示しない排藁処理部が形成され、排藁を切断して藁片にした後、拡散しながら圃場に均一放出し、或いは切断せずに放出するようにしている。
【0020】
脱穀部5は、コンバイン1の進行方向左側に配置され、脱穀部4の右側には選別後の精粒を貯留するグレンタンク12が配設されている。そして、グレンタンク12の前方には運転席15が配設されている。つまり、運転席15は、機体の進行方向右前部に配置されている。一方、グレンタンク12の後方には、排出オーガ13の縦オーガ13aが立設され、縦オーガ16を中心にして排出オーガ13およびグレンタンク12が側方へ回動可能とし、グレンタンク12を側方へ回動することにより機体内側のメンテナンスを容易にしている。
【0021】
そして、グレンタンク12の底部には、後述する排出コンベア12aが前後方向に配設され、該排出コンベアの後部が縦オーガ13aの下部に連通されるとともに、排出コンベア16後部から排出オーガ13に動力が伝達されて、横オーガ13bの先端よりトラックなどに、グレンタンク12内の穀粒を排出できるようにしている。さらに、脱穀部5の下方には、選別部19が配設され、脱穀部5から流下する穀粒や藁屑等から穀粒を選別し、精粒をグレンタンク12に搬送したり、藁屑などを機外に排出するようにしている。
【0022】
穀稈搬送装置17は、上述の脱穀部5において、刈り取った穀稈の一端(株元側)を挟扼しながら搬送するためのものであり、刈取部7で刈り取った穀稈を排藁搬送チェーン20まで搬送するフィードチェーン18と、フィードチェーン18上方に配設され、搬送されている穀稈を挟扼する挟扼杆21と、挟扼杆21を本機側に対して弾性支持する複数の弾性支持体22などとから構成されている。
【0023】
この穀稈搬送装置17においては、対向配置される挟扼杆21とフィードチェーン18とによって、刈取部7で刈り取った穀稈の株元側を挟扼し、扱室31内の扱胴6によって脱穀する構成となっており、この挟扼杆21とフィードチェーン18とが対向した部分を搬送経路としている。そして、脱穀部5にて脱粒された排藁は、フィードチェーン18の後端部(下流側端部)において、排藁搬送チェーン20へと受け継がれ、この排藁搬送チェーン20によって、前記排藁処理部へと搬送される。
【0024】
挟扼杆21は、ステー23などによって固設される支持杆24と、支持杆24に複数の弾性支持体22を介して弾性支持して設けられている。この挟扼杆21は、フィードチェーン18に沿うように左右平行状に一対の板状部材が配置された形状となっており、フィードチェーン18による搬送方向断面視逆U字状に形成されている。
【0025】
支持杆24は、中空の柱状部材であり、図示しない扱室カバー内の左側において前後方向に長く、挟扼杆21と並列的に配置されるように形成されている。そして、この支持杆24の側面には、一定間隔ごとに弾性支持体22が、その上部が支持されるとともに配設され、これら弾性支持体22の下部に挟扼杆21が弾性支持されている。この弾性支持体22の下部は、挟扼杆21に連結ピンで枢支されており、弾性支持体22の上部は支持杆24よりも上方に延出されている。
【0026】
次に、脱穀部5について説明する。図4に示すように、脱穀部5に形成された扱室31には、機体の前後方向に軸架された略円柱形状の扱胴6が設けられ、この扱胴6の外周面には複数の扱歯32が植設されている。そして、扱胴6の下部周辺を覆うように半円形状の受網33が着脱可能に周設されている。一方、フィードチェーン18により、穀桿の株元側が拘束されつつ、穀桿の先端側が扱胴6の下方に挿入されて穀稈が機体後方に搬送される。このとき、扱胴6の回転により脱粒が行われ、受網33から穀粒や藁屑等が漏下するようにしている。
【0027】
続いて、選別部19について説明する。選別部19は、揺動選別装置41による揺動選別と唐箕42による風選別とが行われ、一番物と二番物と藁屑等に分別される。
【0028】
揺動選別装置41は、機枠43内に収納される。揺動選別装置41の前端部は、扱胴6の前端部の下方まで延出され、揺動選別装置41前下部には図示せぬ揺動軸が設けられるとともに、後部には後述の揺動駆動機構44が設けられ、この揺動駆動機構44によって揺動選別装置41が機枠43に対して揺動するように構成されている。なお、揺動駆動機構44の後下方には燃料タンク(不図示)が配置されている。
【0029】
揺動選別装置41の前部には、流穀板45が設けられるとともに、この流穀板45の後下方に搬送板46が設けられる。これら流穀板45および搬送板46は、板状の部材を波形に成形したものであり、受網33を通過した処理物(穀粒および藁屑等との混合物)は、流穀板45および搬送板46上に落下し、揺動選別装置41の揺動により機体後方に搬送される。
【0030】
そして、搬送板46後部には、第二選別部である網状のグレンシーブ(篩分装置)47が連設されるとともに、このグレンシーブ47と搬送板46の上方、かつ流穀板45の後方には、第一選別部であるチャフシーブ48が被装されている。さらに、チャフシーブ48の後方には、ストローラック49が配設される。
【0031】
チャフシーブ48は、複数のチャフフィンから構成され、投入される処理物の量に応じてチャフフィンの開度を調節することを可能としている。すなわち、チャフフィンの上下一側端部が揺動選別装置41に枢支されて、チャフシーブ48左右両側に設けられた揺動板に枢結され、また、他側端部がチャフシーブ48の左右両側に設けられた不図示の摺動板に枢結されている。
【0032】
上記摺動板は、揺動選別装置41と一体的に揺動されるとともに、この摺動板には図示しない調節レバーが枢結されており、該調節レバーに連結された図示しないワイヤの弛緩又は牽引により、この摺動板が前後に摺動される。なお、前記調節レバーは、上述のワイヤと反対側に設けられた図示しないバネによって各チャフフィンの傾斜角を小(寝かせる)とする方向に付勢されている。
【0033】
そして、前記摺動板の摺動によりチャフフィンの角度が変更され、このチャフフィンの傾斜角を大(立てる)とさせるとき、チャフシーブ48の開度を大として穀粒の漏下量を増大させ、各チャフフィンの傾斜角を小(寝かせる)とさせるときチャフシーブ48の開度を小として穀粒の漏下量を減少させるように構成している。
【0034】
こうして、穀粒および細かい藁屑は、チャフシーブ48を通過して下方に落下し、チャフシーブ48の開口よりも大きい藁屑などは後方に搬送される。このとき、チャフシーブ48とグレンシーブ47との間には、唐箕42により選別部19の前方から後方への気流が発生しており、細かい藁屑の一部は後方に吹き飛ばされて穀粒と分離される。
【0035】
また、揺動選別装置19における前流穀板45の後部下方かつ後流穀板46の前部下方には唐箕42が配置され、チャフシーブ48やグレンシーブ47に選別風を送風するようにしている。
【0036】
そして、揺動選別装置41の後端部近傍には、吸引ファン50が全幅に横設され、唐箕42から供給される選別風の流れに乗ってきた塵埃や脱穀時に発生する塵埃などを、吸引ファン50により吸引して機外へと排出するようにしている。
【0037】
選別部19内に投入され、前流穀板45上に漏下された穀粒、枝梗付着粒、未熟穀粒および細かい藁屑などの混合物は、チャフシーブ48上に漏下される過程において、唐箕42により発生する選別部19の前方から後方への気流により、細かい藁屑の一部が後方へ吹き飛ばされる。
【0038】
そして、チャフシーブ48上に漏下した穀粒、枝梗付着粒、未熟穀粒および細かい藁屑などの混合物は、揺動選別装置41の揺動により、後方に搬送される、このとき、これら穀粒、未熟穀粒、枝梗付着粒および細かい藁屑などは、チャフシーブ48の開口部より下方に落下し、大きい藁屑はチャフシーブ48の後方まで搬送され、ストローラック49を経て機外に排出される。
【0039】
また、チャフシーブ48の開口部より下方に落下した穀粒、未熟穀粒、枝梗付着粒および細かい藁屑などは、後流穀板46およびグレンシーブ47上に漏下される。このときも唐箕42からの選別風により、細かい藁屑の一部は後方に吹き飛ばされて分離される。
【0040】
さらに、グレンシーブ47上に漏下された穀粒、未熟穀粒、枝梗付着粒および細かい藁屑などのうち、穀粒、未熟穀粒、細かい藁屑などは、グレンシーブ47を通過して下方に落下する。このとき、重量が大きい穀粒(一番)は一番回収部51に回収され、後述する一番コンベア51aから図示しない揚穀コンベアを経て、グレンタンク12に搬送される。
【0041】
一方、重量が小さい未熟穀粒や細かい藁屑の一部や穂切り粒や穀粒などが混じった未処理粒は、唐箕42からの選別風により後方に吹き飛ばされ、二番回収部52に回収され、後述する二番コンベア52aから図示しない二番還元コンベアを経て、前流穀板45上(またはチャフシーブ48上)に再投入される。
【0042】
次に、本願発明の特徴である、車両の駆動源にエンジンとアクチュエータを併用し、最適な動力配分にした電動コンバインについて、その具体的構成を説明する。図5は電動コンバインの動力伝達構成図、図6は電動コンバインの各駆動系への動力伝達経路を示す模式図、図7は作業部の駆動源として、グレンタンク底部の排出コンベアへの電動モータの設置例を示す、排出コンベアの斜視図、図8は走行部の駆動源として、駆動スプロケットへの電動モータの設置例を示す、フレームおよびクローラベルトを取外した走行部の斜視図である。
【0043】
本願発明の電動コンバイン1は、走行部3および脱穀部5や刈取部7など複数の処理部からなる作業部61を構成した駆動系の駆動源を、電動モータM(アクチュエータ)と原動機としてのエンジンEとを併用し、作業部61の一部の駆動源を、エンジンEの動力にしたものである。
【0044】
図1にも示したように、車両側部の、例えば、選別部19と、走行部3との間であって、車両前後方向の機台4上には、バッテリーBを複数並設(図例では7個だが、設置数は限定されない)する。このバッテリーは二次電池であり、リチウムイオン電池や、リチウムイオンポリマー電池、ニッケル・水素電池など適宜使用することができる。なお、バッテリーBの設置場所は限定しない。
【0045】
また、エンジンE近傍の機台4上には、エンジンEの図示しないクランク軸などに接続した発電機Dが設置されており、この発電機DはバッテリーBに接続されている。従って、エンジンEの動力により駆動させた発電機Dによって発電した比較的電圧の高い電力が、バッテリーBに充電され、後述する車両の駆動系の駆動源に用いられる。
【0046】
なお、エンジンEには、上述した発電機Dの他に、図示しないオルタネータも設置されており、エンジンEの動力により駆動させたオルタネータによって発電した比較的電圧の低い電力が、別途設置した図示しないバッテリーを介して車両のライト、あるいはキャビンを装備する車両においてはエアコンなどの電源に用いられる。
【0047】
これらエンジンEおよび発電機Dを用いた電動コンバイン1の動力伝達構成は、図5に示すように、まず、エンジンEには、発電機Dおよび作業部61を構成する脱穀部5の扱胴6のみが接続される。そして、発電機Dには、バッテリーBが接続されている。
【0048】
また、バッテリーBには、車両の上記扱胴6以外の作業部61であって、刈取部7を駆動させる各駆動部に設置した、刈取部電動モータM1と、脱穀部5を駆動させる扱胴6以外の各駆動部に設置した脱穀部電動モータM2と、選別部19を駆動させる各駆動部に設置した選別部電動モータM3と、排藁処理部11を駆動させる各駆動部に設置した排藁処理部電動モータM4と、搬送部16を駆動させる各駆動部に設置した搬送部電動モータM5とが、それぞれインバータI1〜I5や図示しないドライバを介して接続されている。
【0049】
さらに、バッテリーBには、走行部3を駆動させる駆動部に、走行部電動モータM6が、インバータI6や図示しないドライバを介して接続されている。なお、各電動モータM1〜M6は、アクチュエータの例示であって、その構成は限定されない。
【0050】
つまり、作業部61には、エンジンEの動力により駆動(扱胴6)させる、エンジン駆動部(原動機駆動部)62と、バッテリーBの電力により各モータM1〜M5の動力により駆動させる、扱胴6を除いた脱穀部5を含むアクチュエータ駆動部63とを有する構成とされる。
【0051】
そして、これらエンジンEおよび各電動モータM1〜M6から各駆動系への動力伝達は、図6に示すように、まず、エンジン駆動部62においては、エンジンEの動力は、脱穀クラッチcおよび変速ギアgなどを介してVベルトvにより扱胴6の駆動軸6aに伝達され、扱胴6はエンジンEの動力により駆動する。
【0052】
一方、エンジンEの動力は、発電機Dも駆動させるため、この発電機Dにより発電した電力が、後述する各インバータI1〜I6に接続したバッテリーBに充電される。
【0053】
そして、刈取部7では、例えば、刈取部7全体を駆動させる刈取入力軸7aにインバータI1に接続した刈取部電動モータM1の出力軸を連結する。なお、刈取部7は、引起タインチェン64を備える穀稈引起装置65や、掻込ベルト66を備える穀稈搬送装置67、刈刃駆動ユニット68を有する刈刃装置69などからなる周知の構成であり、これら装置間にはベルトやギアなど周知の機械式伝達機構で動力を中継することができるが、この発明は上記に限定されず、例えば、刈取部7内における各装置を駆動する入力軸にそれぞれインバータを介して電動モータを設置してもよい。
【0054】
また、脱穀部5のフィードチェーン18を駆動する入力軸には、インバータI2に接続した脱穀部電動モータM2が連結されるとともに、選別部19における揺動選別装置41の揺動駆動機構44および唐箕42、揚穀コンベアに連動する一番コンベア51a、二番還元コンベアに連動する二番コンベア52aなどを駆動する各入力軸には、それぞれインバータI3を構成するインバータI3a,I3b,I3c,I3dに接続した選別部電動モータM3を構成する選別部電動モータM3a,M3b,M3c,M3dが連結される。
【0055】
また、排藁処理部11の排藁搬送チェーン20や吸引ファン50などを駆動する入力軸には、インバータI4を構成するインバータI4a,I4bに接続した脱穀部電動モータM4を構成する脱穀部電動モータM4a,M4bが連結されるとともに、搬送部16では、縦オーガ13aおよび横オーガ13bに連動する排出コンベア12aを駆動する入力軸に、インバータI5に接続した脱穀部電動モータM5が連結される。
【0056】
作業部61への電動モータの設置例としては、図7の搬送部16で例示すると、グレンタンク12底部に有する排出コンベア12aの入力軸12b近傍に、インバータI5に接続した脱穀部モータM5を設置するとともに、排出コンベア12aの入力軸12bに、脱穀部モータM5の図示しない出力軸が連結される。
【0057】
なお、搬送部16を例示したが、電動モータの設置は上述に限定されず、例えば、それぞれ排出コンベア12a、縦オーガ13a、横オーガ13bを駆動する入力軸に、インバータを接続した電動モータを連結させてもよい。また、上述した作業部61の各駆動系への電動モータ設置は例示したものであり、記載を省略した各装置や、駆動系を細分化した各装置ごとに電動モータを設置させるなど、適宜電動モータの設置方法や設置数を設定することができる。
【0058】
次に、走行部3では、上述の図6に示すように、クローラ式走行装置における左右駆動スプロケット3a,3bのそれぞれに接続する左右各車軸3c,3dに、インバータI6を構成するインバータI6a,I6bに接続した走行部電動モータM6を構成する走行部電動モータM6a,M6bが連結される。
【0059】
走行部3への電動モータの設置例としては、図8に例示するように、左右駆動スプロケット3a,3bの近傍にインバータI6a,I6bに接続した走行部モータM6a,M6bを設置するとともに、各駆動スプロケット3a,3bに嵌入される図示しない左右各車軸3c,3dに、走行部モータM6a,M6bの図示しない出力軸が連結される。
【0060】
以上のような構成にすることで、エンジン動力を作業部61の一部の駆動源に限定して用いることで、エンジンEを必要最小限の大きさに抑えて小型化できるとともに、走行部3は、エンジン動力を伝達する機械式の動力伝達部材を必要とせず、走行部3の構成を簡素化することができる。
【0061】
特に、車両の駆動系の中で最も出力を要する扱胴6のみをエンジン動力にすることで、大量の穀稈を扱歯に巻き付けたり挟むなどして回転に大きな負荷がかかる扱胴6でも、円滑に回転駆動させることができるとともに、エンジンEを必要最小限の大きさに抑えて小型化し、排ガスの低減と燃費を向上させることができる。
【0062】
なお、上述した各インバータI1〜I6には、図示しないコントローラを接続するとともに、該コントローラには、走行部3および作業部61の各駆動系の装置(各装置に設置した作業検出器)、さらには操縦部のハンドル14や図示しない各種操作レバーなどが接続される。従って、車両の作業状況(車速や作業速度)に応じて、各装置の作業状態(作業速度)を制御することができる。
【0063】
なお、バッテリーBは、上述したような、車載の発電機Dにより発電した電力を充電する構成に限定されず、車両外部に設置した外部発電機により発電した電力を充電する構成にすることもできる。図9は、外部発電機から電力をバッテリーに充電する電動コンバインの模式図である。
【0064】
この場合、バッテリーB´の適宜位置には、充電口chが設けられている。また、上述したような発電機Dは、車両に備えられていない。そして、バッテリーB´への充電が必要になった際には、図9に示すように、例えば、車庫や、充電スタンドなどに設置した外部電力供給部D´に備えられたコードのプラグを充電口にプラグインすることで、バッテリーB´に円滑に充電することができる。
【0065】
このような構成にすることで、車載の発電機Dを必要とせず、エンジンEの負荷をより低減できることから、エンジンEをさらに小型化でき、排ガスの低減と燃費を向上させることができる。なお、発電機Dを車両に搭載しておき、バッテリーB´への電力供給源を、車載の発電機Dおよび外部電力供給部D´を併用し、電力の供給先を適宜切り替えるように構成してもよい。
【0066】
以上詳述したように、この例の電動コンバイン1は、車両に原動機としてのエンジンEおよびバッテリーBを搭載し、バッテリーBは、インバータI1〜I6を介して電動モータM1〜M6(アクチュエータ)に電力を供給するとともに、エンジンEおよび電動モータM1〜M6の動力によって、車両の走行部3および複数の処理部からなる作業部61を駆動し、走行部3は、電動モータM1〜M6で駆動させるとともに、作業部61は、電動モータM1〜M6の動力により駆動させるアクチュエータ駆動部63と、エンジンEの動力により駆動させるエンジン駆動部62(原動機駆動部)とを備えたものである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
なお、この発明は、圃場の穀稈を連続的に刈取って脱穀する、駆動源にエンジン(原動機)および電動モータを併用したあらゆる電動コンバインに適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
3 走行部
5 脱穀部
6 扱胴
61 作業部
62 エンジン駆動部
63 アクチュエータ駆動部
B,B´ バッテリー
D 発電機
D´ 外部電力供給部
I1〜I6 インバータ
M1〜M6 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に原動機およびバッテリーを搭載し、
前記バッテリーは、インバータを介してアクチュエータに電力を供給するとともに、前記原動機およびアクチュエータの動力によって、前記車両の走行部および複数の処理部からなる作業部を駆動する電動コンバインにおいて、
前記走行部は、前記アクチュエータで駆動させるとともに、前記作業部は、前記アクチュエータの動力により駆動させるアクチュエータ駆動部と、前記原動機の動力により駆動させる原動機駆動部とを備えたことを特徴とする電動コンバイン。
【請求項2】
前記作業部の前記原動機駆動部は、脱穀部の扱胴としたことを特徴とする、請求項1に記載の電動コンバイン。
【請求項3】
前記車両には、前記原動機に接続する発電機を備えるとともに、前記バッテリーは、前記発電機により発電した電力を充電することを特徴とする、請求項1に記載の電動コンバイン。
【請求項4】
前記バッテリーは、車両外部に設置した外部発電機により発電した電力を充電することを特徴とする、請求項1に記載の電動コンバイン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−193781(P2011−193781A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63587(P2010−63587)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】