説明

電動シリンダの制御方法及び電動シリンダの制御システム

【課題】 加圧荷重が目標荷重を超過することを防ぎ、かつ、加圧処理時間を短縮することができるサーボモータで駆動される電動シリンダの制御方法及び電動シリンダの制御システムを実現する
【解決手段】サーボコントローラ17は、ロッド11の駆動速度と、加圧荷重Pmが目標荷重Ptを大きく超えないようにロッド11を停止させる判定を行うために用いる停止荷重Psと、を設定可能に構成されており、ロッド11の位置制御による駆動を行い、荷重検出器13によって検出された加圧荷重Pmが停止荷重Ps以上であるか否かを判定し、加圧荷重Pmが停止荷重Ps以上であると判定した場合に、サーボアンプ16に逆方向位置指令パルス信号を出力し、サーボアンプ16に蓄積されている溜りパルスを強制的に減少させてロッド11を目標荷重Ptを大きく超過しない荷重で停止させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータで駆動される電動シリンダの制御方法及び電動シリンダの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被加圧部材を一定目標荷重で加圧処理するため、サーボモータ及び荷重検出器を使用し、荷重検出器で検出された荷重をサーボモータにフィードバックして加圧荷重をコントロールする機構の加圧装置が知られている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0003】
しかし、上述の加圧装置では電動シリンダロッドを5mm/s以上の速度で駆動しているため、加圧装置の慣性などにより目標加圧荷重において電動シリンダロッドが停止せずに目標加圧荷重を大幅に超過した荷重が被加圧部材に加わり(オーバーロード)、被加圧部材を適切に加圧処理することができない、更には過負荷により荷重検出器を破損してしまうなどの問題があった。
【0004】
そのため、電動シリンダロッドの先端が被加圧部材に衝突する直前に電動シリンダロッドの駆動速度を1mm/s程度に減速し、加圧処理を行う方法が用いられてきた(例えば、特許文献3)。
【0005】
しかし、この場合には電動シリンダロッドの駆動速度を極端に減速する必要があるため、加圧処理に要する加圧処理時間が著しく長くなり、とりわけ短サイクルタイムで繰り返し連続の加圧処理を行うような工程にこの方法を用いると、生産性の低下が避けられないという問題があった。
【0006】
更には、上記問題点を解決する目的で、電動シリンダロッドの先端が被加圧部材に衝突した後、加圧荷重が目標加圧荷重に達するまでの間に電動シリンダロッドの駆動速度を加圧荷重の増加に伴い一定減速率で減速、もしくは比例減速させ、加圧処理を行う方法が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−138110号公報
【特許文献2】特開2009−101419号公報
【特許文献3】特開平11−192598号公報
【特許文献4】特開平9−314399号公報
【特許文献5】特開2005−254290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4、特許文献5に記載の技術においても、目標加圧荷重が大きくなればなるほど、減速開始から加圧荷重が目標加圧荷重に達するまでの時間が長くなるため、加圧処理時間が長くなり、短いサイクルタイムで連続加圧処理を行う工程では生産性が低下するという問題があった。
【0009】
また、特許文献4に記載の技術では、サーボプレスコントローラからサーボドライバへの信号出力にパルス信号を用いる位置制御モードが採用されている。位置制御モードは、電動シリンダを適切な速度で駆動させ、位置精度良く停止させることが可能であり、電動シリンダの制御モードとして広く採用されているが、位置制御モードを使用した場合、装置駆動系の機械要素の慣性の影響だけでなく、サーボモータを駆動するサーボアンプにおいて生じる溜りパルスがオーバーロードの原因となる。
【0010】
溜りパルスとは、サーボドライバにおけるフィードパルスとフィードバックパルスの差のパルスである。サーボ機構の駆動系においては、加圧装置などの機械系に慣性があるため、サーボコントローラの位置指令パルス信号をサーボモータにそのまま出力すると機械に遅れが生じて追従できない。そこで、位置指令パルスをサーボドライバの偏差カウンタに溜めて、溜りパルスに応じてサーボモータの回転を制御する制御方法が採用されている。
ここで、サーボモータを停止させるためにサーボコントローラから位置指令パルスの出力を停止しても、サーボドライバの偏差カウンタにおいて溜りパルスが減少して0になるまで、溜りパルスのパルス数に応じてサーボモータが回転を継続してしまう。これにより、ロッドが移動してしまい、オーバーロードが発生する。
【0011】
従って、位置制御モードで加圧装置を制御する場合には、溜りパルスの問題を解決しない限り、特許文献4に記載された制御方法だけでは不十分であり、加圧処理時間が長くなったり、加圧荷重が目標荷重を大きく超過したりする問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、サーボモータで駆動される電動シリンダの制御方法及び電動シリンダの制御システムにおいて、加圧荷重が目標荷重を大きく超過することを防ぎ、かつ、加圧処理時間を短縮することができる電動シリンダの制御方法及び電動シリンダの制御システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、ロッドを軸方向に移動させる電動シリンダと、ロッドに連結され被加圧部材に負荷される加圧荷重を検出する荷重検出器と、電動シリンダを駆動させるサーボモータと、サーボモータに設けられ、サーボアンプに電気的に接続された位置検出器と、サーボモータ及びサーボコントローラに電気的に接続され、サーボモータの駆動を制御するサーボアンプと、荷重検出器及びサーボアンプに電気的に接続され、サーボモータの位置制御のための位置制御指令をサーボアンプに出力するサーボコントローラと、を備えた電動シリンダ装置における電動シリンダの制御方法であって、前記サーボコントローラにおいて、前記ロッドの駆動速度と、加圧荷重が目標荷重を超えないように前記ロッドを停止させる判定を行うために用いる目標荷重以下に設定された荷重値である停止荷重と、を設定し、前記サーボコントローラに入力された前記ロッドの駆動速度に基づいて前記サーボコントローラから前記サーボアンプに位置指令パルス信号を出力するステップS1と、前記サーボアンプが、前記位置指令パルス信号に基づいて、前記サーボモータへモータ駆動電流を出力するステップS2と、前記モータ駆動電流により前記サーボモータを回転駆動し、前記ロッドを駆動するステップS3と、前記荷重検出器によって検出された加圧荷重に応じた加圧荷重信号を、前記荷重検出器から前記サーボコントローラに出力するステップS4と、前記サーボコントローラにおいて、前記加圧荷重信号に基づいて加圧荷重が停止荷重以上であるか否かを判定するステップS5と、加圧荷重が停止荷重以上であると判定された場合に、前記サーボコントローラにおいて前記ステップS5の判定時の位置指令パルス信号のパルス数と、前記サーボモータの回転数に応じて前記位置検出器から前記サーボアンプに対し出力される絶対位置信号に基づいて前記サーボアンプから前記サーボコントローラに出力される帰還パルス信号のパルス数との差である溜りパルスを計算するステップS6と、前記ステップS6で計算された溜りパルスに基づいて、前記溜りパルスを減少させる位置制御パルス信号である逆方向位置指令パルス信号を前記サーボコントローラから前記サーボアンプに出力するステップS7と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、ステップS1により、サーボコントローラに入力されたロッドの駆動速度に基づいてサーボコントローラからサーボアンプに位置指令パルス信号を出力し、ステップS2により、サーボアンプが、位置指令パルス信号に基づいて、サーボモータへモータ駆動電流を出力し、ステップS3により、モータ駆動電流によりサーボモータを回転駆動し、ロッドを駆動し、ステップS4により、荷重検出器によって検出された加圧荷重に応じた加圧荷重信号を、荷重検出器からサーボコントローラに出力し、ステップS5により、サーボコントローラにおいて、加圧荷重信号に基づいて加圧荷重が停止荷重以上であるか否かを判定し、ステップS6により、加圧荷重が停止荷重以上であると判定された場合に、サーボコントローラにおいてステップS5の判定時の位置指令パルス信号のパルス数と、サーボモータの回転数に応じて位置検出器からサーボアンプに対し出力される絶対位置信号に基づいてサーボアンプからサーボコントローラに出力される帰還パルス信号のパルス数との差である溜りパルスを計算し、ステップS7により、ステップS6で計算された溜りパルスに基づいて、溜りパルスを減少させる位置制御パルス信号である逆方向位置指令パルス信号をサーボコントローラからサーボアンプに出力することができる。
これにより、ロッドの位置制御による駆動を行い、荷重検出器によって検出された加圧荷重が停止荷重以上であるか否かを判定し、加圧荷重が停止荷重以上であると判定した場合に、サーボアンプに逆方向位置指令パルス信号を出力し、ロッドを目標荷重を大きく超過することなく停止させることができる。また、加圧荷重が停止荷重に到達するまではロッドを減速しないため、加圧処理時間を短縮することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の電動シリンダの制御方法において、前記逆方向位置指令パルス信号のパルス数は、前記溜りパルスのパルス数以上である、という技術的手段を用いる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、逆方向位置指令パルス信号のパルス数は、溜りパルスのパルス数以上であるため、溜りパルスを速やかに減少させて0とすることができる。また、逆方向位置指令パルス信号のパルス数の方が多い場合には、サーボモータの逆転駆動が生じて被加圧部材に対する加圧荷重を急速に減少させることができるので、より効果的に加圧荷重を目標荷重に近づけることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の電動シリンダの制御方法において、前記逆方向位置指令パルス信号の周波数は、前記位置指令パルスの周波数以上である、という技術的手段を用いる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、逆方向位置指令パルス信号の周波数は、位置指令パルスの周波数以上であるため、溜りパルスを速やかに減少させてロッドを停止させることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、ロッドを軸方向に移動させる電動シリンダと、ロッドに連結され被加圧部材に負荷される加圧荷重を検出する荷重検出器と、電動シリンダを駆動させるサーボモータと、サーボモータに設けられ、サーボアンプに電気的に接続された位置検出器と、サーボモータ及びサーボコントローラに電気的に接続され、サーボモータの駆動を制御するサーボアンプと、荷重検出器及びサーボアンプに電気的に接続され、サーボモータの位置制御のための位置制御指令をサーボアンプに出力するサーボコントローラと、を備えた電動シリンダ装置における電動シリンダの制御システムであって、前記サーボコントローラは、前記ロッドの駆動速度と、加圧荷重が目標荷重を超えないように前記ロッドを停止させる判定を行うために用いる目標荷重以下に設定された荷重値である停止荷重と、を設定可能に構成されており、前記ロッドの駆動速度に基づいて前記ロッドの位置制御による駆動を行い、前記荷重検出器によって検出された加圧荷重が停止荷重以上であるか否かを判定し、加圧荷重が停止荷重以上であると判定した場合に、前記サーボアンプに逆方向位置指令パルス信号を出力し、前記サーボアンプに蓄積されている溜りパルスを強制的に減少させて前記ロッドを停止させる、という技術的手段を用いる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、サーボコントローラは、ロッドの駆動速度と、加圧荷重が目標荷重を超えないように前記ロッドを停止させる判定を行うために用いる目標荷重以下に設定された荷重値である停止荷重と、を設定可能に構成されており、設定された前記ロッドの駆動速度に基づき、ロッドの位置制御による駆動を行い、荷重検出器によって検出された加圧荷重が停止荷重以上であるか否かを判定し、加圧荷重が停止荷重以上であると判定した場合に、サーボアンプに逆方向位置指令パルス信号を出力し、サーボアンプに蓄積されている溜りパルスを強制的に減少させてロッドを停止させることができる。
これにより、ロッドを目標荷重を大きく超過することなく停止させることができるとともに、加圧荷重が停止荷重に到達するまではロッドを減速しないため、加圧処理時間を短縮することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の電動シリンダの制御システムにおいて、前記逆方向位置指令パルス信号のパルス数は、前記溜りパルスのパルス数以上である、という技術的手段を用いる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、逆方向位置指令パルス信号のパルス数は、溜りパルスのパルス数以上であるため、溜りパルスを速やかに減少させて0とすることができる。また、逆方向位置指令パルス信号のパルス数の方が多い場合には、サーボモータの逆転駆動が生じて被加圧部材に対する加圧荷重を急速に減少させることができるので、より効果的に加圧荷重を目標荷重に近づけることができる。
【0023】
請求項6に記載の発明では、請求項4または請求項5に記載の電動シリンダの制御システムにおいて、前記逆方向位置指令パルス信号の周波数は、前記位置指令パルスの周波数以上である、という技術的手段を用いる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、逆方向位置指令パルス信号の周波数は、位置指令パルスの周波数以上であるため、溜りパルスを速やかに減少させてロッドを停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の電動シリンダの制御システムを備えたプレス加工装置の概略図である。
【図2】本発明の電動シリンダの制御方法を示すフローチャートである。
【図3】第1実施形態の電動シリンダの制御方法を適用した場合と、従来の制御方法を適用した場合との加圧荷重の変動波形を比較して示すグラフである。
【図4】第2実施形態の実施例における、電動シリンダの目標荷重と停止荷重との関係を示すグラフである。
【図5】第2実施形態の電動シリンダの制御方法を適用した場合と、比例減速方法(比較例)を適用した場合との加圧荷重の変動波形を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下、本発明の実施形態について、電動シリンダ装置としてプレス加工装置を例に、電動シリンダの制御システム及び制御方法を、図を参照して説明する。
【0027】
図1に示すように、プレス加工装置1は、被加工部材Mをプレス加工するロッド11を軸方向に移動させる電動シリンダ12と、ロッド11に連結され被加工部材Mに負荷される荷重を検出する荷重検出器13と、電動シリンダ12を駆動させるサーボモータ14と、サーボアンプ16と接続され、サーボモータ14に設けられたエンコーダに代表される位置検出器15と、サーボモータ14及びサーボコントローラ17に電気的に接続され、サーボモータ14の駆動を制御するサーボアンプ16と、荷重検出器13及びサーボアンプ16に電気的に接続され、サーボモータ14の位置制御のための位置制御指令をサーボアンプ16に出力するいわゆる位置決めユニットであるサーボコントローラ17と、を備えている。
【0028】
電動シリンダの制御システムとして作動する制御ユニット20は、荷重検出器13、サーボモータ14、位置検出器15、サーボアンプ16及びサーボコントローラ17から構成される。
ここで、サーボアンプ16及びサーボコントローラ17は少なくともサーボモータ14の駆動を位置制御モードで制御可能に構成されている。本実施形態では、速度制御モード、トルク制御モードの切り替えが可能な構成となっている。
【0029】
次に本発明の制御方法について図2を参照して説明する。まず、サーボコントローラ17における制御モードとして位置制御モードを選択し、図示しない入力装置により、サーボコントローラ17にロッド11の駆動速度及び被加圧部材7を加圧する目標荷重Pt及びロッド11を停止させる停止荷重Psを入力する。本実施形態では、停止荷重Psは目標荷重Ptと同じ値に設定される。
【0030】
プレス加工を行う被加工部材Mをプレス加工装置1の所定の位置にセットした後に、運転を開始すると、ステップS1では、入力されたロッド11の駆動速度に基づいてサーボコントローラ17がサーボアンプ16に位置指令パルス信号を出力する。
【0031】
続くステップS2では、サーボアンプ16は、ステップS1でサーボコントローラ17から入力された位置指令パルス信号に基づいて、内蔵する偏差カウンタにより位置指令パルス信号のパルス数を計数し、パルス周波数及びパルス数に応じたモータ駆動電流をサーボモータ14へ出力する。
【0032】
続くステップS3では、サーボアンプ16から入力されたモータ駆動電流によりサーボモータ14が回転駆動される。サーボモータ14の回転運動は、電動シリンダ12に内蔵されたボールねじ機構によって直線運動に変換され、ロッド11を駆動する。これにより、ロッド11が前方へ押し出され、ロッド11が被加圧部材Mを加圧する。加圧荷重Pmは荷重検出器13によって検出される。
【0033】
サーボモータ14の回転に伴い、サーボモータ14に設けられた位置検出器15がサーボアンプ16に対し、サーボモータ14の回転数に応じた絶対位置信号を出力する。サーボアンプ16は、絶対位置信号情報を帰還パルス信号に変換してサーボコントローラ17に出力する。更に、サーボアンプ16は、位置指令パルス信号のパルス数と帰還パルス信号のパルス数との差、つまり、溜りパルスに応じてサーボモータ14の回転を制御する。ここで、位置指令パルス信号のパルス数は、サーボモータ14の回転角と比例関係にあり、位置指令パルス信号のパルス周波数によりサーボモータ14の駆動速度が制御され、パルス数によりロッド11の移動距離が定まる。
【0034】
続くステップS4では、荷重検出器13によって検出された加圧荷重Pmに応じた加圧荷重信号を、荷重検出器13からサーボコントローラ17に出力する。
【0035】
続くステップS5では、サーボコントローラ17において、加圧荷重Pmが停止荷重Psに達したか否か、つまり、加圧荷重Pmが停止荷重Ps以上であるか否かを判定する。Pm≧Ps(ステップS5:YES)の場合にはステップS6に進み、Pm<Ps(ステップS5:NO)の場合にはステップS1に戻る。荷重検出器13からサーボコントローラ17に加圧荷重信号が出力され、加圧荷重Pmが停止荷重Psに達するまでの間、駆動速度でロッド11が押し出されるように、サーボコントローラ17からサーボアンプ16へ位置指令パルス信号が出力され続ける。
【0036】
ステップS6では、サーボコントローラ17がステップS5の判定時の位置指令パルス信号のパルス数と帰還パルス信号のパルス数との差、つまり、溜りパルスを計算する。
【0037】
続くステップS7では、ステップS6で計算された溜りパルスに基づいて、サーボコントローラ17からサーボアンプ16に、ロッド11を加圧方向と逆方向へ駆動させる、つまり、サーボモータを逆回転させるための位置制御パルス信号であって、溜りパルスを減少させる位置制御パルス信号である逆方向位置指令パルス信号を出力する。
【0038】
ここで、逆方向位置指令パルスは、溜りパルスと逆方向の位置指令パルスであり、正転パルスである溜りパルスのパルス列の符号を逆転させる逆転パルス列として構成することができる。
【0039】
続くステップS8では、サーボアンプ16は、ステップS7でサーボコントローラ17から入力された逆方向位置指令パルス信号に基づいて、溜りパルスを減少させて、サーボモータ14へのモータ駆動電流の出力を停止する。
そして、到達荷重で所定時間保持した後に抜重し、加圧処理を終了する。
【0040】
上述のような電動シリンダ12の制御方法または制御システム20を用いることにより、位置指令パルス信号に基づいてロッド11の位置制御による駆動を行い、サーボコントローラ17が、荷重検出器13によって検出された加圧荷重Pmが目標荷重Pt以上であるか否かを判定し、加圧荷重Pmが目標荷重Pt以上であると判定した場合に、サーボアンプ16に逆方向位置指令パルス信号を出力し、サーボアンプ16に蓄積されている溜りパルスを強制的に減少させてロッド11を停止させることができる。
これにより、溜りパルスを減少させるために必要な時間やプレス加工装置1の装置駆動系の機械要素の慣性などの影響などによりロッド11は目標荷重Ptでは停止せず加圧荷重Pmが増大するが、溜りパルスを短時間で減少させてロッド11を停止させるため、加圧荷重Pmが目標荷重Ptを大きく超過することなくロッド11を停止させることができる。
また、加圧荷重Pmが目標荷重Ptに到達するまではロッド11を減速しないため、加圧処理時間を短縮することができる。
【0041】
逆方向位置指令パルスのパルス数は、加圧荷重Pmが目標荷重Ptを大きく超過することなくロッド11を停止させることができる範囲で任意に設定することができる。溜りパルスを速やかに減少させて0とするために、溜りパルスのパルス数以上とすることが好ましく、特に、逆方向位置指令パルスのパルス数の方が多い場合には、サーボモータ14の逆転駆動が生じて被加圧部材Mに対する加圧荷重を急速に減少させることができるので、より効果的に加圧荷重を目標荷重に近づけることができる。
【0042】
また、逆方向位置指令パルスの周波数は、溜りパルスを速やかに減少させてロッドを停止させるために、位置指令パルスの周波数以上とすることが好ましい。
【0043】
このように、本発明をプレス加工工程に適用すると、加圧荷重Pmが目標荷重Ptを大きく超過せずにプレス加工を行うことが可能となるため、プレス加工された製品の品質向上につながるだけでなく、短サイクルタイムでプレスすることが可能となるためプレス品のコストダウンにつながる利点がある。
【0044】
(実施例1)
本実施形態の効果を、従来の電動シリンダの制御方法を比較例として確認した。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
図3に、第1実施形態の電動シリンダの制御方法を適用した場合と、従来の制御方法を適用した場合との加圧荷重の変動波形を比較して示す。加圧条件は、加圧開始時の駆動速度を10mm/s、目標荷重Ptを1kNとした。比較例は、逆方向位置指令パルスを用いない従来の制御方法を適用した。
なお、図3において時間軸の原点は、加圧荷重が目標荷重1kNに到達した時とした。
【0046】
図3に示すように、比較例では、加圧荷重が目標荷重の1kNを大きく超過し、約6kNでほぼ一定となった。一方、実施例では、加圧荷重は目標荷重の1kNを一旦は越えたものの、約1.5kNでほぼ一定となり、目標荷重の1kNを大きく超過することなく加圧処理が行うことができることが確認された。
【0047】
[第1実施形態の効果]
本発明の電動シリンダの制御方法及び電動シリンダの制御システムによれば、位置指令パルス信号に基づいてロッド11の位置制御による駆動を行い、サーボコントローラ17が、荷重検出器13によって検出された加圧荷重Pmが目標荷重Pt以上であるか否かを判定し、加圧荷重Pmが目標荷重Pt以上であると判定した場合に、サーボアンプ16に逆方向位置指令パルス信号を出力し、サーボアンプ16に蓄積されている溜りパルスを強制的に減少させてロッド11を停止させることができる。
これにより、溜りパルスを短時間で減少させてロッド11を停止させるため、加圧荷重Pmが目標荷重Ptを大きく超過することなくロッド11を停止させることができる。
また、加圧荷重Pmが目標荷重Ptに到達するまではロッド11を減速しないため、加圧処理時間を短縮することができる。
【0048】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について以下に説明する。第2実施形態は、ステップS5における停止荷重Psを目標荷重Ptではなく以下に示す値に設定する点で第1実施形態と異なっている。
本実施形態で設定する停止荷重Psは、溜りパルスを減少させるために必要な時間やプレス加工装置1の装置駆動系の機械要素の慣性の影響などの負荷荷重のオーバーロード要因を考慮して、ステップS7において逆方向位置指令パルス信号を出力し、電動シリンダ12の駆動を停止制御した場合に、ロッド11が目標荷重Ptで停止するように解析的または実験的に求めた、目標荷重Ptよりも低く設定される荷重値である。
【0049】
(実施例2)
本実施形態の効果を、従来の電動シリンダの制御方法を比較例として確認した。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
まず、目標荷重Ptと停止荷重Psとの関係を実験的に求めた結果を図4に示す。ロッド11の駆動速度は6、8、10mm/sの3水準とした。駆動速度が速いほど、目標荷重Ptと停止荷重Psとの差が大きくなる傾向が認められた。
図4により、駆動速度と目標荷重Ptを決めると、停止荷重Psをどのような荷重値に設定すればよいかを求めることができる。例えば、駆動速度が10mm/s、目標荷重Ptが10kNの場合には、停止荷重Psを5.35kNに設定すればよいことがわかる。
【0051】
次に、本発明の電動シリンダの制御方法を適用した場合と、比例減速方法(比較例)を適用した場合とを比較する。
加圧条件は、加圧開始時の駆動速度を10mm/s、目標荷重Ptを10kNとし、目標荷重Ptで0.025s加圧保持した後に抜重するように設定した。停止荷重Psは、図4の関係に基づいて5.35kNに設定した。
比較例は、加圧荷重の増加に比例して電動シリンダの駆動速度を減速する公知の比例減速方法、例えば、特開2005−254290号公報に記載の方法、を適用した。
なお、図5において時間軸の原点は、加圧荷重が目標荷重Ptに到達した時とした。
【0052】
図5に示すように、比較例では、加圧荷重Pmが目標荷重Ptに到達するまでに0.3sを要したが、実施例では、加圧荷重Pmが目標荷重Ptを大きく超過することなく、0.07sという比較例の4分の1程度の短時間で到達した。
これにより、図5に示すように適切に停止荷重Psを設定することで、加圧荷重Pmを目標荷重Ptで制御することができ、短時間で加圧処理が行うことができることが確認された。
【0053】
上述の実施形態では、停止荷重Psは目標荷重Ptと別にサーボコントローラ17に入力しているが、サーボコントローラ17が備えた停止荷重設定手段に駆動速度と関連させてテーブルや演算式を記憶させておき、目標荷重Ptを入力するとテーブルや演算式が参照されて停止荷重Psが設定されるように構成してもよい。これにより、停止荷重Psを求めてサーボコントローラ17に入力する手間が省けるとともに、停止荷重Psの計算・入力ミスを防止することができる。
【0054】
[第2実施形態の効果]
本実施形態の電動シリンダの制御方法及び電動シリンダの制御システムによれば、位置指令パルス信号に基づいてロッド11の位置制御による駆動を行い、荷重検出器13によって検出された加圧荷重Pmが停止荷重Ps以上であるか否かを判定し、加圧荷重Pmが停止荷重Ps以上であると判定した場合に、サーボアンプ16に逆方向位置指令パルス信号を出力し、サーボアンプ16に蓄積されている溜りパルスを強制的に減少させてロッド11を目標荷重Ptで停止させることができる。
また、加圧荷重Pmが停止荷重Psに到達するまではロッド11を減速しないため、加圧処理時間を短縮することができる。
【0055】
[その他の実施形態]
上述の各実施形態では、電動シリンダ12の制御方法、制御システムをプレス加工装置1に適用する例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、プレス加工装置以外にも電動シリンダを用いる各種装置、工程に適用可能である。
例えば、本発明を圧入工程に適用すると、加圧荷重が目標加圧荷重を大きく超過せずに圧入することが可能となるため、圧入品の品質向上につながるだけでなく、短サイクルタイムで圧入することが可能となるため圧入品のコストダウンにつながる利点がある。更に、圧入品のように加圧の際に圧力が逃げるような部材に対しては、従来のように一定減速率もしくは加圧荷重と比例して電動シリンダのロッドを減速させる方法と比較したときにはサイクルタイム短縮効果が顕著となる利点がある。
また、本発明を電動シリンダのロッドによって被搬送物を搬送する搬送工程に適用すると、俊敏な搬送が可能となるだけでなく、被搬送物とロッドが不意に衝突した際にも瞬時にロッドを減速もしくは停止することができ、ロッドや荷重検出器、更に被搬送物の破損を防ぐことができる利点がある。
更に、本発明において、ロッド11の進行方向は押し出し方向のみに限らず、引き入れ方向であっても良い。これにより、加圧工程のみならず引っ張り工程にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 プレス加工装置(電動シリンダ装置)
11 ロッド
12 電動シリンダ
13 荷重検出器
14 サーボモータ
15 位置検出器
16 サーボアンプ
17 サーボコントローラ
20 制御ユニット
M 被加圧部材
Pm 加圧荷重
Ps 停止荷重
Pt 目標荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドを軸方向に移動させる電動シリンダと、ロッドに連結され被加圧部材に負荷される加圧荷重を検出する荷重検出器と、電動シリンダを駆動させるサーボモータと、サーボモータに設けられ、サーボアンプに電気的に接続された位置検出器と、サーボモータ及びサーボコントローラに電気的に接続され、サーボモータの駆動を制御するサーボアンプと、荷重検出器及びサーボアンプに電気的に接続され、サーボモータの位置制御のための位置制御指令をサーボアンプに出力するサーボコントローラと、を備えた電動シリンダ装置における電動シリンダの制御方法であって、
前記サーボコントローラにおいて、
前記ロッドの駆動速度と、加圧荷重が目標荷重を超えないように前記ロッドを停止させる判定を行うために用いる目標荷重以下に設定された荷重値である停止荷重と、を設定し、
前記サーボコントローラに入力された前記ロッドの駆動速度に基づいて前記サーボコントローラから前記サーボアンプに位置指令パルス信号を出力するステップS1と、
前記サーボアンプが、前記位置指令パルス信号に基づいて、前記サーボモータへモータ駆動電流を出力するステップS2と、
前記モータ駆動電流により前記サーボモータを回転駆動し、前記ロッドを駆動するステップS3と、
前記荷重検出器によって検出された加圧荷重に応じた加圧荷重信号を、前記荷重検出器から前記サーボコントローラに出力するステップS4と、
前記サーボコントローラにおいて、前記加圧荷重信号に基づいて加圧荷重が停止荷重以上であるか否かを判定するステップS5と、
加圧荷重が停止荷重以上であると判定された場合に、前記サーボコントローラにおいて前記ステップS5の判定時の位置指令パルス信号のパルス数と、前記サーボモータの回転数に応じて前記位置検出器から前記サーボアンプに対し出力される絶対位置信号に基づいて前記サーボアンプから前記サーボコントローラに出力される帰還パルス信号のパルス数との差である溜りパルスを計算するステップS6と、
前記ステップS6で計算された前記溜りパルスに基づいて、前記溜りパルスを減少させる位置制御パルス信号である逆方向位置指令パルス信号を前記サーボコントローラから前記サーボアンプに出力するステップS7と、
を備えたことを特徴とする電動シリンダの制御方法。
【請求項2】
前記逆方向位置指令パルス信号のパルス数は、前記溜りパルスのパルス数以上であることを特徴とする請求項1に記載の電動シリンダの制御方法。
【請求項3】
前記逆方向位置指令パルス信号の周波数は、前記位置指令パルスの周波数以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動シリンダの制御方法。
【請求項4】
ロッドを軸方向に移動させる電動シリンダと、ロッドに連結され被加圧部材に負荷される加圧荷重を検出する荷重検出器と、電動シリンダを駆動させるサーボモータと、サーボモータに設けられ、サーボアンプに電気的に接続された位置検出器と、サーボモータ及びサーボコントローラに電気的に接続され、サーボモータの駆動を制御するサーボアンプと、荷重検出器及びサーボアンプに電気的に接続され、サーボモータの位置制御のための位置制御指令をサーボアンプに出力するサーボコントローラと、を備えた電動シリンダ装置における電動シリンダの制御システムであって、
前記サーボコントローラは、
前記ロッドの駆動速度と、加圧荷重が目標荷重を超えないように前記ロッドを停止させる判定を行うために用いる目標荷重以下に設定された荷重値である停止荷重と、を設定可能に構成されており、
前記ロッドの駆動速度に基づいて前記ロッドの位置制御による駆動を行い、前記荷重検出器によって検出された加圧荷重が停止荷重以上であるか否かを判定し、加圧荷重が停止荷重以上であると判定した場合に、前記サーボアンプに逆方向位置指令パルス信号を出力し、前記サーボアンプに蓄積されている溜りパルスを強制的に減少させて前記ロッドを停止させることを特徴とする電動シリンダの制御システム。
【請求項5】
前記逆方向位置指令パルス信号のパルス数は、前記溜りパルスのパルス数以上であることを特徴とする請求項4に記載の電動シリンダの制御システム。
【請求項6】
前記逆方向位置指令パルス信号の周波数は、前記位置指令パルスの周波数以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の電動シリンダの制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98363(P2011−98363A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253653(P2009−253653)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【Fターム(参考)】