説明

電動弁のパワーセーブ回路

【課題】バネリターン式の無駄な発熱を減少させて省エネルギー化を図り、同時に、長寿命化も図れるようにする。
【解決手段】バネに抗して弁を開放する方向へ駆動する誘導モータ10と交流電源13間にスイッチ手段12を介してリアクタンス素子11を接続する。そして、弁の開放時は、交流電源13と誘導モータ10を接続することで弁を開放しバネを圧縮する。弁の開放後は、スイッチ手段12で交流電源13と前記モータ10間にリアクタンス素子11を接続して前記モータ10に印加される電圧を下げて、前記モータ10のトルクを低下させる。このとき、リアクタンス素子11に流れる電流と電圧の位相差はπ/2となるので電力を消費しないため、発熱を抑えるとともに、省エネルギーを図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遮断弁の保持電力を低減するための電動弁のパワーセーブ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バネリターン式の電動遮断弁は、モータを常時作動して回転力を加え、バネが伸長しないようにして弁の開放状態を保持する。こうすることで、緊急時に電力が停止すると、バネが伸長して弁を閉じるというものである。
【0003】
例えば、特許文献1に示す遮断弁では、ボールバルブと直流モータ間に動力伝達機構を設け、前記ボールバルブにバルブを閉じる方向に付勢するバネを設けた構成となっている。
ここで、前記動力伝達機構は、電磁クラッチと歯車減速機構で構成されており、前記クラッチは、モータと歯車減速機構の接続を単に断続するためのものである。そして、図6のような回路を設けて制御する。この回路は、図6に示すように、前記断続用のクラッチ1と直流モータ2を並列に接続した並列回路と、リミットスイッチ3とバイパス抵抗4を並列に接続した並列回路を直列に接続して、リレー接点5を介して直流電源6に接続したもので、前記リミットスイッチ3は、弁の開閉を検出するために設けたものである。
【0004】
この遮断弁では、開弁時は、リミットスイッチ3がオンになっているので、リレー接点5が閉じると、直流電源6から電力が直流モータ2と前記クラッチ1に供給される。そのため、前記クラッチ1が作動して直流モータ2と歯車減速機構を接続し、歯車減速機構を介して前記モータ2がボールバルブを開弁方向へ回動する(バネに抗して)。また、ボールバルブが開弁すると、リミットスイッチ3はオフになるので、モータ2と前記クラッチ1へはバイパス抵抗4を介して電力が供給されることになる。そのため、バイパス抵抗4により電流が制限された直流モータ2のトルクは制限される。
このとき、
バネの復元力 < 直流モータの巻上げ力
となり、前記モータ2は、ボールバルブのバネによる逆転トルクに抗して開弁状態を保持する。
一方、開弁中にリレー接点5がオフになり、直流電源6からの電力の供給が途絶えると、前記クラッチ1は直流モータ2と歯車機構との接続を切断するので、ボールバルブはバネにより閉弁方向へ回動されて閉弁する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−20967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の回路では、バイパス抵抗で直流モータの電流を制御しているため、前記抵抗が発熱する。このとき、電動弁は密閉構造になっているので内部温度が上昇し、例えば、温度の上昇でモータのコイルの絶縁破壊が生じたり、潤滑油が蒸発して摩擦係数が大きくなったりして、モータや機構の寿命を縮めてしまうことになる。
【0007】
そこで、この発明の課題は、無駄な発熱を減少させて省エネルギー化を図り、同時に、長寿命化も図れるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明では、弁と、弁を閉じる方向に付勢するバネと、前記バネに抗して弁を開放する方向へ駆動する誘導モータと、前記モータと交流電源間にスイッチ手段を介して接続されるリアクタンス素子とで構成され、前記モータと交流電源を接続して、前記モータを駆動してバネを圧縮しながら弁を開放し、弁が開放すると、スイッチ手段がモータと交流電源間にリアクタンス素子を接続して弁を開放状態に保持する構成を採用したのである。
【0009】
このように構成したことにより、弁の開放時は、交流電源と誘導モータとを接続することで弁を開放し、同時に、遮断用のバネを圧縮する。弁の開放後は、バネの伸長を止めるだけなので、スイッチ手段で交流電源と前記モータ間にリアクタンス素子を接続して前記モータに印加される電圧を下げて前記モータのトルクを低下させる。このとき、リアクタンス素子に流れる電流と電圧の位相差はπ/2となるので電力を消費しない。そのため、発熱を抑えるとともに、省エネルギーを図ることができる。
【0010】
また、このとき、上記リアクタンス素子と直列に調整用抵抗を設けてトルク調整ができるようにした構成を採用することができる。
【0011】
このような構成を採用することにより、調整用抵抗でモータへの印加電圧を調整することで、トルクの調整を行うことができるので、例えば、遮断弁の個体ごとにトルクのバラツキを調整したり、電源周波数が異なる地域でもトルクが同じになるように調整したりして最適に使用できるようにできる。
【0012】
また、このとき、調整用抵抗に代えて、双方向サイリスタを設けてトルク調整ができるようにした構成を採用することができる。
【0013】
このような構成を採用することにより、位相制御により電圧の調整ができるので、調整抵抗による電力ロスを低減できる。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、上記のように構成したことにより、電力消費を低減して、無駄な発熱を減少して長寿命化が図れる。また、省エネルギー化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)実施形態の回路図、(b)スイッチ手段の他の態様を示す図
【図2】実施形態の遮断弁の作用説明図
【図3】実施例1の回路図
【図4】実施例2の回路図
【図5】実施例3の回路図
【図6】従来例の回路図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
この形態の電動弁のパワーセーブ回路を図1(a)に示す。図1(a)に示すように、この形態のパワーセーブ回路は、単相誘導モータ10とリアクタンス素子11及びスイッチ手段12で構成されており、交流電源13に接続するようになっている。
【0017】
単相誘導モータ10は、コンデンサ起動型のものを使用している。前記モータ10は、かご形構造のロータに、主巻き線Laと補助巻き線Lbとからなるステーターコイルを直交させて配置したもので、ここでは、補助巻き線Lbに進相用のコンデンサCaを挿入した構造となっている。
【0018】
また、前記モータ10は、例えば図2に示すように、弁14の出力軸15と複数のギアを組み合わせた伝達機構16を介して連結する構造となっており、伝達機構16に付勢用の(ゼンマイ)バネ17を備えている。
【0019】
このとき、前記モータ10のモータ軸には、ギアヘッドが装着され、装着したギアヘッドの回転軸にピニオンギアを取り付けて伝達機構16と係合させる構成となっている。そのため、モータ軸と出力軸15とは伝達機構を介して直結した構造となっている。
【0020】
伝達機構16は、ピッチの異なる伝達ギアを組み合わせることで、所要のトルクが得られるようにしたもので、出力軸15と係合する伝達歯車に、先述のバネ17を取り付けて弁14を閉じる方向に出力軸15を付勢するようにしてある。
【0021】
一方、弁14の出力軸には、平歯車が取り付けられ、平歯車下方の出力軸の先端に弁14を取り付けた構造になっている。さらに、平歯車上方の出力軸の後端に、カムを取り付け、前述のスイッチ手段12を取り付けて、弁14の開閉が検出できるようになっている。
【0022】
前記スイッチ手段12は、例えば、リミットスイッチやリミットスイッチによって作動するリレーなどを使用したもので、弁14の開閉で、図1(a)のように、常開接点(a接点)から常閉接点(b接点)へ切換る単極双投のものを用いている。そして、このスイッチ手段12の切換接点(c接点)は、前記モータ10の主巻き線Laと接続し、常開接点(a接点)を交流電源13と接続する。また、常閉接点(b接点)は、リアクタンス素子11の一方と接続して開弁時に前記モータ10と交流電源13との間にリアクタンス素子11が接続されるようにしてある。
【0023】
リアクタンス素子11は、この形態では、容量性のもの(コンデンサC)を使用している。前記コンデンサCは、交流で使用可能なもので、かつ、十分な耐圧を有するものである。
また、このとき、コンデンサCのリアクタンスは、
Xc=1/ωC(Ω)
で表されるため、バネ17の伸長力と釣り合うだけのトルク(安全のため、バネの伸長力<トルク)が得られるように適宜容量を設定する。その際、容量は、回路内に、前記モータ10のコイルLa、Lbや位相用コンデンサCaなどがあり、実験、経験などの結果も加味して上記の式に基づいて算出する。
【0024】
このように構成されるパワーセーブ回路では、開弁時は、スイッチ手段12がa接点になっているので、前記モータ10は定格の出力でバネ17を圧縮しながら弁14を開放する。そして、弁14が開放状態になると、スイッチ手段12が切換わり前記モータ10と交流電源13との間にコンデンサCが接続される。そのため、挿入されたコンデンサCにより前記モータ10に印加される電圧が低下すると、前記モータ10の回転数が低下してトルクが減少する。また、前記モータ10の消費電力も減少する。このとき、トルクはバネ17の伸長力と釣り合うようにコンデンサCの容量を設定してあるので、開弁状態を保持できる。しかも、このとき、リアクタンス素子11であるコンデンサCに流れる電流の位相は電圧よりπ/2遅れるので、電力のロスを生じない。
【0025】
このようにリアクタンス素子11は電力ロスを生じないので、抵抗のように発熱することは無い。しかも、前記モータ10もトルクを下げているので、発熱を低下させることができる。したがって、無駄な発熱を減少させて遮断弁の長寿命化を図り、同時に、省エネルギー化を図ることができる。
【0026】
なお、この形態では、スイッチ手段12に単極双投のものを用いたが、リアクタンス素子11を前記モータ10と交流電源13の間に接続できれば良いので、図1(b)のように、単極単投のものを用いることもできる。
【実施例1】
【0027】
この実施例1は、図3に示すように、リアクタンス素子11としてコイル(インダクタ)Lを用いたものである。コイルLの場合のリアクタンスは、
XL=ωL(Ω)
で表され、コイルLに流れる電流の位相は電圧よりπ/2進むので、電力のロスは生じない。
また、コイルLのインダクタは、バネ17の伸長力と釣り合うだけのトルク(安全のため、バネの伸長力<トルク)が得られるように適宜設定する。その際、先に述べたように、回路内に、前記モータ10のコイルLa、Lbや位相用コンデンサCaなどがあり、実験、経験などの結果も加味して上記の式に基づいて算出する。回路内には、モータのコイルや位相コンデンサなどがあり、実験、経験などの結果も加味して算出する。
なお、他の構成については実施形態と同じなので、図面に同一符号を付して説明は省略する。
【実施例2】
【0028】
この実施例2は、図4に示すように、リアクタンス素子11と直列に調整用抵抗18を設けたもので、ここでは、調整用抵抗18に可変抵抗器を使用している。このように可変抵抗器18を用いることで前記モータ10への印加電圧の振幅を調整する。そして、印加電圧の振幅を調整することで、トルクの調整をするようにしたもので、例えば、トルクの調整によって弁14の個体ごとのバラツキも調整することもできる。また、交流電源13の周波数が50HZから60HZに変わった場合でも調整を行って適正なトルクに設定できる。そのため、電源周波数ごとに異なる仕様のものを準備する必要が無い。
その際、リアクタンス素子11は電力ロスを生じないので(調整用抵抗18で電力のロスは発生するが)、抵抗だけの場合のように発熱することは無い。しかも、前記モータ10もトルクを下げているので、前記モータ10の発熱も低下させることができる。したがって、無駄な発熱を減少させて遮断弁の長寿命化を図り、かつ、省エネルギー化を図ることができる。
ちなみに、このとき、リアクタンス素子11を調整することも考えられるが、例えば、市販のコンデンサCの容量値の種類は限られているので、調整用抵抗18を採用する方が、正確な調整が容易にできる。
なお、この実施例2では、調整用抵抗18に可変抵抗器を用いたが、固定抵抗を用いて(適正な抵抗値の抵抗を取り付けても良いし、スイッチを設けて切り替えるようにしても良い。)調整するようにしても良いことは明らかである。
【実施例3】
【0029】
この実施例3は、実施例2の調整用抵抗18に代えて、図5に示すように、双方向サイリスタ20を使用したもので、位相制御回路21により前記モータ10への印加電圧の振幅を調整するようにしたものである。そして、このように位相制御により前記モータ10への印加電圧を下げることで、トルクを低下させる。
このとき、位相制御で電圧を下げているので、調整用抵抗18を用いた場合に比べて抵抗のロスを低減できる。他の作用効果については実施例1と同じなので図面に同一符号を付して説明は省略する。
【0030】
なお、実施例2及び3では、リアクタンス素子11にコンデンサCを採用しているが、コイルLを使用しても良いことは明らかである。
また、実施形態、実施例1〜3では誘導モータに単相誘導モータを使用したものについて述べたが、これに限定されるものではない。誘導モータであれば電圧を低下させれば、トルクを減少させることができるので、三相誘導モータにも適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 単相誘導モータ
11 リアクタンス素子
12 スイッチ手段
13 交流電源
18 調整用抵抗
20 双方向サイリスタ
C コンデンサ
L コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁と、弁を閉じる方向に付勢するバネと、前記バネに抗して弁を開放する方向へ駆動する誘導モータと、前記モータと交流電源間にスイッチ手段を介して接続されるリアクタンス素子とで構成され、
前記モータと交流電源を接続して、前記モータを駆動してバネを圧縮しながら弁を開放し、弁が開放すると、スイッチ手段がモータと交流電源間にリアクタンス素子を接続して弁を開放状態に保持する電動弁のパワーセーブ回路。
【請求項2】
上記リアクタンス素子と直列に調整用抵抗を設けて電源周波数に応じてトルク調整ができるようにした請求項1に記載の電動弁のパワーセーブ回路。
【請求項3】
上記調整用抵抗に代えて、双方向サイリスタを設けてトルク調整ができるようにした請求項2に記載の電動弁のパワーセーブ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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