説明

電動機の冷却制御装置

【課題】電動機が低速で駆動している時の冷却性能を維持しつつ、高速で駆動している時の冷却性能の低下を抑制もしくは防止することのできる電動機の冷却制御装置を提供する。
【解決手段】電動機と、該電動機の駆動力を利用して冷却オイルを前記電動機に供給するオイルポンプとを備えた電動機の冷却制御装置において、前記電動機と該電動機に供給される冷却オイルとの熱抵抗が低減するように冷却オイルの流速を増大させる一方、前記流速の制限要因を予め定め、前記制限要因の上限値に基づく流速を前記冷却オイルの流速の上限として前記電動機に供給される冷却オイルの流速を低減させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷却オイルを循環させることによって電動機を冷却するように構成された電動機の冷却制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機を動力源とする電気自動車や電動機と内燃機関とを動力源とするハイブリッド車が知られている。車両に搭載されたそれらの電動機は搭載性を向上させるために小型のものが要求されている一方、車両の動力源となるために高出力のものが要求されている。したがって、電動機に要求される出力トルクの増大に伴って電動機の発熱量が増大し、その結果、十分な冷却を行わないと、電動機の発熱による温度上昇によって出力効率が低下したり、電動機の耐久性が低下したりしてしまう可能性がある。
【0003】
したがって、従来、電動機の冷却性能を増加させる発明が種々されており、特許文献1には、オイルポンプで冷却オイルをオイル溜めから汲み上げて、その汲み上げたオイルを電動機の上部から滴下させて電動機を冷却するように構成された装置が記載されている。また、特許文献1に記載された装置は、いわゆるインホイールモータであって、そのオイルポンプは、電動機の駆動力を利用して駆動するいわゆるメカオイルポンプであるので、高車速域では出力トルクが略一定となり、そのため、オイルの供給過多となる。つまり、過剰にオイルポンプを駆動させることとなる。したがって、高車速域では、オイルの吐出量の増加率を低減するように構成されている。
【0004】
さらに、従来の電動機は、コイルに通電して磁場を形成し、その磁場と永久磁石との磁力によって駆動するように構成されていて、回転軸が高速回転した場合に、渦電流損が増加して発熱量が増大する。そのため、特許文献2には、電動機と同期回転するいわゆるメカオイルポンプを利用して、電動機の回転数が低回転数である場合に、永久磁石が設けられている箇所に連通する冷却オイル用流路のオイルの流れを止め、電動機の回転数が高回転数である場合に、オイルを流通させることによって、オイルポンプの駆動頻度を低減しつつ、渦電流損により発熱する熱を冷却するように構成された装置が記載されている。
【0005】
また、ステータに巻き付けられたコイルの軸線方向に突出したコイルエンド部が特に高温となるので、そのコイルエンド部を冷却するために、ケースとステータとの間に流路を形成し、オイルがその流路を通ってコイルエンド部に供給されるように構成された装置が特許文献3に記載されている。この特許文献3に記載された装置は、コイルエンド部に更に流路を形成し、オイルの冷却量を増大させることによって冷却効率を向上させるように構成されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、冷却オイルの入口から出口に至るまで、冷却オイルの流速を一定とすることにより、装置全体を均一に冷却することができる装置が記載され、その冷却オイルの流路の断面積は、キャビテーションが生じないように設定することが記載されている。
【0007】
そして、特許文献5および6には、ケースの下方部に溜められたオイルに電動機の下方部を浸漬して、電動機の回転に伴ってオイルを掻き上げるように構成された電動機が記載されている。特に、特許文献5に記載された発明は、電動機の高速回転時にオイルの液面を下げることによって、攪拌損失を低減するように構成されている。また、特許文献6に記載された発明は、掻き上げられたオイルを電動機の上部から滴下させることによって、電動機の冷却効率を向上させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−187831号公報
【特許文献2】特開2007−228669号公報
【特許文献3】特開2010−166710号公報
【特許文献4】特開昭61−155828号公報
【特許文献5】特開2009−261137号公報
【特許文献6】特開2005−117790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来知られた電動機は、出力トルクの増加に伴って銅損が増加し、回転数の増加に伴って鉄損が増加する。したがって、高出力を要求される場合には、銅損により電動機の発熱量が増加する。また、動力源として車両に搭載された電動機の動力を利用したメカオイルポンプは、電動機の回転数、すなわち車速に比例してオイルの吐出量が定まる。したがって、例えば、車両が低速で急坂路を走行している場合には、電動機の銅損が大きくなる一方、オイルポンプの吐出量が少ないので、冷却能力を増大させる必要がある。
【0010】
そのため、上述した特許文献1に記載された装置のように、車速が低速の時は、車速に伴ってオイルの吐出量を増加させることによって、電動機の冷却性能を維持することができるが、オイルの吐出量を増大させた場合は、多量のオイルを吐出させるためのエネルギー損失が増加してしまう。
【0011】
一方、車速が高速となると、オイルの吐出量が増加することによって冷却性能を増加させることができる反面、流路におけるオイルの粘性抵抗などによって圧力損失が生じてしまう。
【0012】
この発明は上述した技術的課題に着目してなされたものであり、電動機が低速で駆動している時の冷却性能を維持しつつ、高速で駆動している時の冷却性能の低下を抑制もしくは防止することのできる電動機の冷却制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、電動機と、該電動機の駆動力を利用して冷却オイルを前記電動機に供給するオイルポンプとを備えた電動機の冷却制御装置において、前記電動機と該電動機に供給される冷却オイルとの熱抵抗が低減するように冷却オイルの流速を増大させる一方、前記流速の制限要因を予め定め、前記制限要因の上限値に基づく流速を前記冷却オイルの流速の上限として前記電動機に供給される冷却オイルの流速を低減させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の発明は、電動機と、該電動機の駆動力を利用して冷却オイルを該電動機に供給するオイルポンプとを備えた電動機の冷却制御装置において、前記オイルポンプと前記電動機とに連通する流路と、該流路に連通する他の流路と、該他の流路を開閉する制御弁とを備え、予め定められた制限要因の上限値に基づく流速を、前記冷却オイルの流速の上限として、前記冷却オイルの流速が該冷却オイルの流速の上限以上となる場合に、前記制御弁を開弁して前記冷却オイルの流速を低減させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記制限要因は、前記電動機に供給される冷却オイルの流速の変動に伴って変化する冷却量と圧力損失との差により求まる冷却効率を含み、該冷却効率が最大となる流速を前記冷却オイルの流速の上限とすることを特徴とする電動機の冷却制御装置である。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記制限要因は、前記電動機に供給される冷却オイルの流速の増大に伴って発生するキャビテーションを含み、該キャビテーションが発生する流速を前記冷却オイルの流速の上限とすることを特徴とする電動機の冷却制御装置である。
【0017】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記冷却効率が最大となる流速と前記キャビテーションが発生する流速とのいずれか遅い方の流速を前記冷却オイルの流速の上限とすることを特徴とする電動機の冷却制御装置である。
【0018】
請求項6の発明は、請求項2ないし5のいずれかの発明において、前記電動機に供給される冷却オイルの流速は、前記オイルポンプから吐出される油圧に基づいて定めることを特徴とする電動機の冷却制御装置である。
【0019】
請求項7の発明は、請求項2ないし6のいずれかの発明において、前記電動機は、前記オイルポンプと連結された出力軸と一体に形成されたロータと、該ロータの外周側に配置されたステータとを有し、前記流路は、前記ステータに巻き付けられたコイルを冷却するように配置され、前記他の流路は、前記制御弁を介して前記ロータに内在した永久磁石部と前記ステータを構成するステータコア部との少なくともいずれかに連通して配置されていることを特徴とする電動機の冷却制御装置である。
【0020】
請求項8の発明は、請求項2ないし7のいずれかの発明において、前記電動機に連結されたギヤトレーン部を更に備え、前記他の流路が前記制御弁を介して前記ギヤトレーン部に連通して配置され、前記冷却オイルの流速が前記上限とする流速となる以前に、前記ギヤトレーン部に前記冷却オイルを供給するように構成されていることを特徴とする電動機の冷却制御装置である。
【0021】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記冷却オイルは、前記ギヤトレーン部の下方部に蓄えられ、前記冷却オイルを前記ギヤトレーン部に供給するときに、前記ギヤトレーン部の下方部に蓄えられた冷却オイルの液面が、前記ギヤトレーン部の下端部と接触しない液面となるように構成されていることを特徴とする電動機の冷却制御装置である。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、電動機の駆動力を利用して、その電動機に冷却オイルを供給するオイルポンプを備えているので、電動機の回転数に基づいて電動機に供給する冷却オイルの流速を変化させることができる。また、電動機と冷却オイルとの熱抵抗が低減するように冷却オイルの流速が増大されるので、電動機の冷却量を増大することができる。さらに、冷却オイルの流速の制限要因を予め定めておき、その制限要因の上限値に基づく流速を冷却オイルの流速の上限とし、電動機に供給される冷却オイルの流速を低減させるので、電動機の冷却効率が高い状態を維持することができる。
【0023】
請求項2の発明によれば、電動機とオイルポンプとに連通する流路と、その流路に連通する他の流路とを備え、予め定められた制限要因の上限値に基づく流速を冷却オイルの流速の上限として、その冷却オイルの流速が上限とする流速以上の場合に、制御弁を開弁して冷却オイルの流速を低下させるように構成されているので、電動機の冷却効率が高い状態を維持することができる。
【0024】
請求項3の発明によれば、制限要因は、電動機に供給される冷却オイルの流速の変動に伴って変化する冷却量と圧力損失との差により求まる冷却効率を含み、その冷却効率が最大となる流速を冷却オイルの流速の上限とするので、電動機の回転数が増大することにより冷却オイルの流速が増大して冷却効率が低下することを抑制もしくは防止することができる。
【0025】
請求項4の発明によれば、制限要因は、電動機に供給される冷却オイルの流速の増大に伴って発生するキャビテーションを含み、そのキャビテーションが発生する流速を冷却オイルの流速の上限とするので、電動機の回転数が増大して冷却オイルの流速が増加した場合のキャビテーションの発生を抑制もしくは防止することができる。その結果、キャビテーションの発生による流路や各部材の損傷を抑制もしくは防止することができ、ひいては油圧回路の耐久性を向上させることができる。
【0026】
請求項5の発明によれば、冷却効率が最大となる流速とキャビテーションが発生する流速とのいずれか遅い方の流速を冷却オイルの流速の上限とするので、キャビテーションが発生する流速以下での冷却効率を向上させることができる。その結果、電動機の損傷を抑制もしくは防止するとともに、電動機の冷却効率を許容される流速以下で向上させることができる。
【0027】
請求項6の発明によれば、電動機に供給される冷却オイルの流速を、オイルポンプから吐出される油圧に基づいて定めることができる。
【0028】
請求項7の発明によれば、電動機はオイルポンプと連結された出力軸と、その出力軸とに一体に形成されたロータと、そのロータの外周側に配置されたステータとを有し、流路は、ステータに巻き付けられたコイルを冷却するように配置されているので、電動機の出力トルクに基づいて発熱するコイルを冷却することができる。また、他の流路は、制御弁を介してロータに内在した永久磁石部とステータを構成するステータコア部との少なくともいずれかに連通して配置されているので、冷却オイルの流速を低減するために制御弁が開弁されると、出力軸の回転数に起因して発熱するロータに内在した永久磁石部やステータを構成するステータコア部に冷却オイルを供給することができる。そのため、冷却オイルの流速を必要とする流速に維持してコイルの冷却効率を維持しつつ、電動機全体としての冷却性能を向上することができる。
【0029】
請求項8の発明によれば、他の流路が、電動機に連結されたギヤトレーン部に制御弁を介して連通しているので、冷却オイルの流速を低減するために制御弁を開弁すると、ギヤトレーン部に冷却オイルが供給されて、ギヤトレーン部の潤滑性を向上させることができる。
【0030】
そして、請求項9の発明によれば、ギヤトレーン部の下方部に冷却オイルが蓄えられ、冷却オイルをギヤトレーン部に供給するときに、ギヤトレーン部の下方部に蓄えられた冷却オイルの液面が、ギヤトレーン部の下端部と接触しない液面となるように構成されているので、電動機に連結されたギヤトレーン部が特に高速回転することによる攪拌損失を抑制もしくは防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明に係る冷却制御装置による制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】冷却オイルの流速と冷却対象箇所の冷却量との関係を示すグラフである。
【図3】この発明に係る電動機の構成の一例を示す断面図である。
【図4】電動機に冷却オイルを供給する油圧回路の構成の一例を示す図であり、制御弁が閉弁されている状態を示す図である。
【図5】その油圧回路における制御弁が開弁している状態を示す図である。
【図6】油圧回路の構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明に係る電動機の冷却制御装置は、冷却の対象である電動機と、その電動機の駆動力を利用して冷却オイルを循環させるオイルポンプとで構成されたものである。そのため、この発明に係る電動機は、直流電流が通電されて駆動する電動機であってもよく、交流電流が通電されて駆動する電動機であってもよい。また、電動機は車両や産業機械の動力源として利用させるものであってもよく、他の動力源の動力をアシストするものであってもよい。
【0033】
そして、この発明に係る冷却制御装置は、発熱部に供給する冷却オイルの流速を制御することによって、冷却効率を向上させるように構成されている。つまり、冷却オイルの流速を増加させることによって見かけ上の熱抵抗を下げて冷却性能を上げるように構成されている。
【0034】
ここで、冷却オイルの流速と冷却効率との関係を簡単に説明する。図2は、冷却オイルの流速と、冷却対象部の冷却量との関係を示したグラフである。図に示すように冷却オイルの流速と冷却量とは比例の関係となるので、冷却オイルの流速を増加させるにつれて冷却量が増加する。一方、冷却オイルが流通する流路と冷却オイルとの粘性摩擦などにより圧力損失が生じる。また、圧力損失の増加率は、冷却オイルの流速が速くなるにつれ大きくなる傾向がある。そのため、図に示すように、冷却オイルの流速が低速である場合には、冷却量の増加率が圧力損失の増加率より大きいので、冷却量と圧力損失との差から求まる冷却効率としては増加する傾向となるが、冷却オイルの流速が一定の速度を超えると、冷却量の増加率より圧力損失の増加率が大きくなるので、冷却効率が減少する傾向となる。また、冷却オイルの流速が増加すると冷却オイル内でキャビテーションが発生する可能性がある。
【0035】
したがって、少量の冷却オイルによって冷却対象部を冷却するために、冷却オイルの流路の断面積を小さくするなどして冷却性能を向上させると、多量の冷却オイルが供給されて冷却オイルの流速が増加すると冷却効率が低下してしまったり、キャビテーションが発生してしまったりする。そのため、この発明に係る電動機の冷却制御装置は、電動機の回転数が増加してオイルポンプの吐出量が多くなり、冷却対象部での冷却オイルの流速が冷却効率を低下させる流速に至る以前あるいはキャビテーションが発生する流速に至る以前に、冷却オイルをリリーフもしくはドレーンして流速を低下させることができるように構成されている。
【0036】
以下にこの発明に係る具体的な構成例を説明する。まず、この発明に係る電動機の構成例を図3を参照しつつ説明する。図3は、車両に搭載されたいわゆるインホイールモータ(以下、単に電動機1と記す。)の断面を示した図であり、この電動機1は、出力軸2に一体に形成されたロータ3と、そのロータ3の外周側に隙間を空け、かつケース4に固設されたステータ5とで構成されている。また、ロータ3の外周部には、永久磁石が内在しており、ステータ5には、複数のコイル6が巻き付けられている。そのため、コイル6に通電することによって磁場を形成し、その磁場とロータ3の永久磁石の磁力とによって出力軸2にトルクを付与するように構成されている。
【0037】
このように構成された電動機1は、通電する電流によって磁場の大きさが定まるので、通電する電流を制御することによって出力トルクを制御することができる。一方、出力トルクを大きくするために、通電する電流値を大きくするとコイル6での電気抵抗により発熱する。つまり、銅損が生じる。また、その銅損は、ステータ5に巻き付けられて軸線方向に突出したコイルエンド部6aで大きくなる。そのため、この電動機1は、コイルエンド部6aとケース4との間に隙間を形成し、その隙間を流路7として冷却オイルを流通させるように構成されている。つまり、流路7から冷却オイルが漏洩しないようにコイルエンド部6aの上下側ではシール材8によって封止している。なお、図に示す例では、コイルエンド部6aが樹脂製のモールド9によって覆われているが、特にこの構成に限定されず、コイルエンド部6aが剥き出しのものであってもよい。
【0038】
したがって、流路7に供給する冷却オイルの流速を制御することによって、コイルエンド部6aと冷却オイルとの見かけ上の熱抵抗を低減することができる。そのため、上述したように流路7を構成し、かつその流路7の断面積を小さくすることで、冷却オイルの流速を向上させて、コイルエンド部6aの冷却量を向上させることができる。
【0039】
つぎに上述した流路7に冷却オイルを供給する油圧回路の構成例について、図4,5を参照しつつ説明する。まず、図に示すオイルポンプ10は、電動機1の動力を利用してその電動機1に冷却オイルを供給するように構成されたいわゆるメカオイルポンプであって、そのオイルポンプ10によって冷却オイルがオイルパン11から汲み上げられる。また、オイルポンプ10は、減速機12と流路7とのそれぞれに連通している。さらに、オイルポンプ10と流路7とに連通する流路13の径φAと、オイルポンプ10と減速機12とに連通する流路14の径φBとの大小関係により、オイルポンプ10から各部材7,12に供給される冷却オイルの量の割合を調整するように構成されている。なお、オイルポンプ10の出力側には、圧力センサ15が設けられていて、その圧力センサ15で検出された信号は、図示しない電子制御装置に入力される。
【0040】
さらにオイルポンプ10から流路7に連通する流路13は、ステータコア部5aやロータの磁石部3aに連通した流路16と分岐しており、その流路16には、ソレノイドバルブ17が設けられている。図に示すソレノイドバルブ17の構成について簡単に説明すると、図の右側から左側に向けて弾性力が生じるように弾性体17aが設けられ、通電することによってその弾性力に対向する方向に電磁力を発生するようにソレノイド17bが設けられている。そのため、ソレノイド17bに通電することによって、電磁力が弾性力より大きくなると、図5に示すようにソレノイドバルブ17が開弁状態となって、流路16が連通するように駆動し、それとは反対にソレノイド17bに通電せずに弾性力が大きくなると、図4に示すようにソレノイドバルブ17が閉弁状態となって、流路16が遮断されるように構成されている。なお、ソレノイド17bへの通電の有無は、図示しない電子制御装置に入力される圧力センサ15の信号に基づいて決定される。また、上述した構成のソレノイドバルブ17に限定されず、例えば、開口面積を調整することのできる流量制御バルブであってもよく、デューティソレノイドバルブであってもよい。さらに、ソレノイドバルブに限定されず、要は流路の流速を低減することができればよいので、油圧式のバルブであってもよく、カム機構を利用した機械式のバルブであってもよい。
【0041】
上述したように油圧回路を構成することによって、電動機1が高速で回転して流路7に供給される冷却オイルの流速が速くなった場合に、ソレノイドバルブ17に通電して、電動機1が高速で駆動して鉄損が増大するステータコア部5aやロータ磁石部3aに冷却オイルを供給することができ、その結果、流路7内の流速を低下させることができる。つまり、圧力センサ15で検出された油圧と、流路7内の冷却オイルの流速との関係を予め実験などで定めておき、冷却オイルの流速が所定の流速以上となる油圧を検出したらソレノイドバルブ17によって、冷却オイルの流速を低下させることができる。なお、ここでの所定の流速とは、冷却効率が低下し始める流速やキャビテーションが発生する流速である。
【0042】
つぎにこの冷却制御装置の制御例を説明するために、図1に示すフローチャートを参照しつつ説明する。まず、圧力センサ15で検出された油圧から冷却オイルの流速を推定する(ステップS1)。これは、油圧と流速との関係のマップを予め実験などに基づいて用意して、そのマップから検出された油圧に基づく流速を推定することができる。そして、ステップS1で推定された流速がキャビテーションが発生する流速以上か否かを判断する(ステップS2)。なお、キャビテーションが発生する流速は、予め実験により定めておく。ステップS2で肯定的に判断された場合は、ソレノイドバルブ17によってキャビテーションが発生する流速以下にする(ステップS3)。
【0043】
ついで、ステップS2で否定的に判断された流速やステップS3により低下した流速が冷却効率が最大となる流速以上か否かを判断する(ステップS4)。ステップS4で否定的に判断された場合は、冷却オイルの流速を低減する必要がないので、特に制御することなくこの制御を一旦終了する。それとは反対に、ステップS4で肯定的に判断された場合は、冷却オイルの流速を冷却効率が最大となる流速以下に低下させる。つまり、ソレノイドバルブ17によって冷却オイルの流速を低下させて(ステップS5)、この制御を一旦終了する。
【0044】
上述したようにキャビテーションが発生する流速や冷却効率が最大となる流速以上の流速となる場合にソレノイドバルブ17によって、冷却オイルの流速を低下させることができ、その結果、キャビテーションが発生する流速以下での最大の冷却効率を得ることができる。また、冷却オイルの流速を低下させるためにステータコア部5aやロータの磁石部3aに冷却オイルを供給することによって、高速回転時にステータコア部5aやロータの磁石部3aで発生する鉄損による熱を冷却することができる。なお、冷却オイルの流速は、キャビテーションが発生する流速以下であって、冷却効率が最大となる流速以下であればよく、また、キャビテーションが発生する流速が、冷却効率が最大となる流速より遅い場合もあるので、ステップS2とステップS4との判断の順序を入れ替えてもよい。
【0045】
さらに、コイルエンド部6aの発熱量とステータコア部5aやロータの磁石部3aの発熱量とを比較して、ステータコア部5aやロータの磁石部3aの発熱量が大きい場合に、ソレノイドバブル17を作動させる判断を加えてもよい。つまり、電動機1が高速で駆動していて要求される出力トルクが小さい場合には、コイルエンド部6aの発熱量は少ないので冷却オイルの流速が遅くてもよく、それとは反対に、ステータコア部5aやロータの磁石部3aでは鉄損により発熱量が大きく冷却オイルを多く供給する必要があるので、そのような場合には、ソレノイドバルブ17によってステータコア部5aやロータの磁石部3aに冷却オイルを多く供給するように構成してもよい。
【0046】
つぎに上述した油圧回路の他の構成例について説明する。図6は、油圧回路の他の構成例を示すものであり、オイルポンプ10と流路7とが連通し、かつオイルポンプ10と減速機12とがソレノイドバルブ17および絞り弁18を介して連通するように構成されている。つまり、上述した油圧回路でリリーフ先をステータコア部5aとロータの磁石部3aとにしていたが、リリーフ先を減速機12とすることもできる。
【0047】
また、オイルパン11が減速機12の下方部に設けられて、減速機12の図示しないギアの一部がオイルパン11のオイルに浸漬することによって潤滑性を維持する構成の場合には、電動機1が高速で駆動して減速機12にオイルをリリーフするときに、オイルパン11のオイルの量が減速機12のギアの下端部より低くなるように構成するとよい。つまり、冷却オイルがリリーフされて減速機12に冷却オイルを供給することができるので、潤滑性は維持することができ、また、減速機12と電動機1とが連結されているから、電動機1が高速で駆動すると減速機12の回転数も増大し、その結果、減速機12のギヤが冷却オイルに浸漬していると攪拌損失が増大するためである。
【0048】
なお、この発明は、上述した構成に限定されず、例えば、流路7内の流速を低減するために単にオイルパン11に冷却オイルをドレーンする構成としてもよい。また、上述した電動機1の構成は、コイルエンド部6aを冷却するように流路7を配置しているが、この発明に係る電動機1は、流路を流れる冷却オイルの流速を向上させて冷却性能を向上させつつ、流速が一定の流速となって、冷却効率が低下したりキャビテーションが発生したりすることを抑制もしくは防止することができればよいので、特に冷却対処箇所は限定されない。さらに、この発明は、流速を制御できればよく、そのため、流速を検出する手段として、上述したように油圧を検出してもよく、あるいは流量を検出してもよく、さらに電動機の回転数を検出してもよい。さらにまた、流路7内の流速が分かればよいので、流速を検出するための装置がオイルポンプ10から出力された位置でなく、流路7に入力される直前であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…電動機、 2…出力軸、 3…ロータ、 3a…磁石部、 5…ステータ、 5a…ステータコア部、 6…コイル、 7,13,14,16…流路、 10オイルポンプ、 12…減速機、 15…圧力センサ、 17…ソレノイドバルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、該電動機の駆動力を利用して冷却オイルを前記電動機に供給するオイルポンプとを備えた電動機の冷却制御装置において、
前記電動機と該電動機に供給される冷却オイルとの熱抵抗が低減するように冷却オイルの流速を増大させる一方、前記流速の制限要因を予め定め、前記制限要因の上限値に基づく流速を前記冷却オイルの流速の上限として前記電動機に供給される冷却オイルの流速を低減させるように構成されていることを特徴とする電動機の冷却制御装置。
【請求項2】
電動機と、該電動機の駆動力を利用して冷却オイルを該電動機に供給するオイルポンプとを備えた電動機の冷却制御装置において、
前記オイルポンプと前記電動機とに連通する流路と、
該流路に連通する他の流路と、
該他の流路を開閉する制御弁と
を備え、
予め定められた制限要因の上限値に基づく流速を、前記冷却オイルの流速の上限として、前記冷却オイルの流速が該冷却オイルの流速の上限以上となる場合に、前記制御弁を開弁して前記冷却オイルの流速を低減させるように構成されていることを特徴とする電動機の冷却制御装置。
【請求項3】
前記制限要因は、前記電動機に供給される冷却オイルの流速の変動に伴って変化する冷却量と圧力損失との差により求まる冷却効率を含み、
該冷却効率が最大となる流速を前記冷却オイルの流速の上限とすることを特徴とする請求項1または2に記載の電動機の冷却制御装置。
【請求項4】
前記制限要因は、前記電動機に供給される冷却オイルの流速の増大に伴って発生するキャビテーションを含み、
該キャビテーションが発生する流速を前記冷却オイルの流速の上限とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電動機の冷却制御装置。
【請求項5】
前記冷却効率が最大となる流速と前記キャビテーションが発生する流速とのいずれか遅い方の流速を前記冷却オイルの流速の上限とすることを特徴とする請求項4に記載の電動機の冷却制御装置。
【請求項6】
前記電動機に供給される冷却オイルの流速は、前記オイルポンプから吐出される油圧に基づいて定めることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の電動機の冷却制御装置。
【請求項7】
前記電動機は、前記オイルポンプと連結された出力軸と一体に形成されたロータと、該ロータの外周側に配置されたステータとを有し、
前記流路は、前記ステータに巻き付けられたコイルを冷却するように配置され、
前記他の流路は、前記制御弁を介して前記ロータに内在した永久磁石部と前記ステータを構成するステータコア部との少なくともいずれかに連通して配置されていることを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の電動機の冷却制御装置。
【請求項8】
前記電動機に連結されたギヤトレーン部を更に備え、
前記他の流路が前記制御弁を介して前記ギヤトレーン部に連通して配置され、
前記冷却オイルの流速が該冷却オイルの流速の上限以上となる場合に、前記ギヤトレーン部に前記冷却オイルを供給するように構成されていることを特徴とする請求項2ないし7のいずれかに記載の電動機の冷却制御装置。
【請求項9】
前記冷却オイルは、前記ギヤトレーン部の下方部に蓄えられ、前記冷却オイルを前記ギヤトレーン部に供給するときに、前記ギヤトレーン部の下方部に蓄えられた冷却オイルの液面が、前記ギヤトレーン部の下端部と接触しない液面となるように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の電動機の冷却制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−115029(P2012−115029A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261348(P2010−261348)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】