説明

電動機

【課題】コギングトルク周波数を任意の値に設定できる電動機を提供する。
【解決手段】ケースC内に、第1モータ部11と、第1モータ部の回転軸Lと同じ軸上に出力回転軸17を有する第2モータ部12と、を備える電動機において、前記第1モータ部は、前記ケース内側に固定された第1固定子11Sと、前記ケースに対して回転可能に設けられ、前記第1固定子と対をなす第1回転子11Rと、を有し、前記第2モータ部は、前記第1回転子の内側に固定された第2固定子12Sと、前記ケースに対して回転可能に設けられ、前記第2固定子と対をなす第2回転子12Rと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コギングトルク周波数を任意に設定できる電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁極数及びスロット数が等しく且つ特性がほぼ等しい2つの電動機のロータを、これら2つの電動機のコギングトルクが互いに相殺するように直列に結合した電動機が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−125566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の電動機は、コギングトルクの振幅を小さくできるものの、コギングトルク周波数を任意の値に設定できないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、コギングトルク周波数を任意の値に設定できる電動機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1モータ部の回転子の内側にこれと同軸上に出力回転軸を有する第2モータの固定子を設け、第1モータ部と第2モータ部を逆方向に回転させることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電動機の出力軸となる出力回転軸の回転速度は、互いに逆方向に回転する第1モータ部の回転速度と第2モータ部の回転速度の差になり、電動機の出力軸の回転速度を所望の値に設定するための第1モータ部の回転速度と第2モータ部の回転速度との組み合わせは無限に存在する。一方、コギングトルクは、電動機の電機子と回転子との磁気的吸引力が回転角度に依存して細かく脈動する現象であることから、第1モータ部のコギングトルク周波数は第1モータ部の回転速度に依存し、第2モータ部のコギングトルク周波数は第2モータ部の回転速度に依存する。したがって、本発明の電動機によれば、コギングトルク周波数を任意の値に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電動機を適用した電動機システムを示すブロック図である。
【図2】図1の電動機システムにおいて、電動機の出力軸の回転速度、第1モータ部の回転速度及び第2モータ部の回転速度の制御例を示すタイムチャートである。
【図3】図2の制御を実行したときの第1モータ部のコギングトルクと第2モータ部のコギングトルクを示すタイムチャートである。
【図4】本発明の比較例に係る電動機システムにおいて、電動機の出力軸の回転速度、第1モータ部の回転速度及び第2モータ部の回転速度の制御例を示すタイムチャートである。
【図5】図4の比較例の制御を実行したときの第1モータ部のコギングトルクと第2モータ部のコギングトルクを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明の一実施の形態に係る電動機1を適用した電動機システムを示すブロック図であり、バッテリ2からの直流電力をインバータ3によって交流電力に変換し、この交流電力を電動機1に供給し、これにより電動機1を駆動するシステムである。電動機制御装置4は、たとえば車両制御装置などの外部からの指令信号にしたがってインバータ3を制御することにより電動機1の駆動を制御する。
【0010】
本例の電動機1は、ケースCを備え、当該ケースC内に、第1モータ部11と、この第1モータ部11の回転軸Lと同じ軸上に出力回転軸17を有する第2モータ部12とを備える。第2モータ部12の出力回転軸17が電動機1の出力軸となる。
【0011】
第1モータ部11は、ケースCの内側に固定された第1固定子11Sと、ケースCに対して軸受13により回転可能に設けられ、第1固定子11Sと対をなす第1回転子11Rとを有する。本例の第1回転子11Rは、軸受13によりケースCに対して回転可能に設けられたブラケット板14に固定されている。
【0012】
第1固定子11Sは、回転方向に沿って所定ピッチで形成されたティースにコイルが巻回された電機子からなり、コイルに流れる電流は電動機制御装置4からの指令信号により制御される。一方、第1回転子11Rは、回転方向に沿って環状に所定ピッチで設けられた永久磁石からなり、これら永久磁石の配列は第1固定子11Sのティースの配列に対応する。
【0013】
第2モータ部12は、環状の第1回転子11Rの内側に固定された第2固定子12Sと、ケースCに対して軸受16により回転可能に設けられ、第2固定子12Sと対をなす第2回転子12Rとを有する。第2固定子12Sは、回転方向に沿って所定ピッチで形成されたティースにコイルが巻回された電機子からなり、コイルに流れる電流はスリップリング15を介して供給され、電動機制御装置4からの指令信号により制御される。一方、第2回転子12Rは、回転方向に沿って環状に所定ピッチで設けられた永久磁石からなり、これら永久磁石の配列は第2固定子12Sのティースの配列に対応する。なお、第2固定子12Sへの電力供給は、スリップリング15のほか電磁誘導によることもできる。
【0014】
本例の電動機1において、第1モータ部11の第1固定子11Sのコイルに駆動電流を流すと第1回転子11Rが回転するが、第1回転子11Rと第2モータ部12の第2固定子12Sは固定されているので、第2固定子12Sも同じ回転速度で回転する。そして、第2モータ部12の第2回転子12Rは、第2固定子12Sに対して相対的な回転速度で回転するので、電動機1の出力軸となる出力回転軸17の回転速度Vは、第1モータ部11の第1回転子11Rの回転速度V1と、第2モータ部12の第2回転子12Rの回転速度V2とのベクトル和、すなわちV=V1+V2になる。
【0015】
本例の電動機制御装置4は、インバータ3を制御することで第1モータ部11の第1固定子11Sと、第2モータ部12の第2固定子12Sの各コイルに流れる電流を制御する。本例では、第1モータ部11の第1回転子11Rの第1回転速度V1と、第2モータ部12の第2固定子12Sに対する第2回転子12Rの第2回転速度V2とを逆の回転方向に設定する。これにより、電動機1の出力回転軸17の回転速度Vは、第1モータ部11の第1回転速度V1と第2モータ部12の第2回転速度V2の和になるが、回転速度V,V1,V2をスカラーのみで考えれば、V=V1−V2(第1モータ部11の回転方向を正転)となる。
【0016】
ところで、上述した従来の電動機においては、2つのモータを直列に結合しているので、図4に示すように電動機の出力軸の回転速度は1つのモータの回転速度となり、原点を通る直線となる。コギングトルク周波数は回転速度に依存するので、図5に示すように電動機の回転速度がゼロの場合はコギングトルク周波数もゼロであるが、電動機の回転速度を上げていくとコギングトルク周波数も相関して高くなり、ケースCや周辺機器の固有共振周波数と一致して音振問題が生じることになる。
【0017】
これに対し本例の電動機1では、電動機1の出力回転軸17の回転速度VはV=V1+V2であるから、たとえば図2に示すように時間t=0の電動機1の出力回転軸17の回転速度がゼロの場合には、第1モータ部11の回転速度V1と第2モータ部12の回転速度V2をスカラー量が等しく回転方向が逆に設定する。この場合の回転速度V1,V2については、図3に示すように、第1モータ部11のコギングトルク周波数及び第2モータ部12のコギングトルク周波数のいずれもがケースCや周辺機器の固有共振周波数と一致しない値になるように、第1モータ部11の回転速度V1と第2モータ部12の回転速度V2との組み合わせを選択すればよく、このような組み合わせは無限に存在する。これにより、ケースCや周辺機器と共振を起こすといった音振問題を抑制することができる。
【0018】
そして、電動機1の出力回転軸17の回転速度Vを任意の値に設定するには、たとえば図2に示すように第2モータ部12の回転速度V2を逆転方向に一定値とし、第1モータ部11の回転速度V1を上げていく。これにより、同図に示すように第1モータ部11の回転速度の上昇にしたがって電動機1の出力回転軸17の回転速度も上昇する。
【0019】
なお、図3の例では第1モータ部11のコギングトルク周波数及び第2モータ部12のコギングトルク周波数のいずれもについて、ケースCや周辺機器の固有共振周波数より高い値に設定したが、こうすることで電動機1の全ての回転速度について第1モータ部11及び第2モータ部12の回転速度にて制約なく対応することができる。ただし、電動機1の回転速度の上限が定められている場合には、第1モータ部11のコギングトルク周波数及び第2モータ部12のコギングトルク周波数のいずれもについて、ケースCや周辺機器の固有共振周波数より低い値に設定することもできる。
【0020】
上記電動機制御装置4は本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0021】
1…電動機
11…第1モータ部
11S…第1固定子
11R…第1回転子
12…第2モータ部
12S…第2固定子
12R…第2回転子
13,16…軸受
14…ブラケット
15…スリップリング
17…出力回転軸
C…ケース
2…バッテリ
3…インバータ
4…電動機制御装置
L…回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に、第1モータ部と、前記第1モータ部の回転軸と同じ軸上に出力回転軸を有する第2モータ部と、を備える電動機において、
前記第1モータ部は、
前記ケース内側に固定された第1固定子と、
前記ケースに対して回転可能に設けられ、前記第1固定子と対をなす第1回転子と、を有し、
前記第2モータ部は、
前記第1回転子の内側に固定された第2固定子と、
前記ケースに対して回転可能に設けられ、前記第2固定子と対をなす第2回転子と、を有する電動機。
【請求項2】
前記第1モータ部と前記第2モータ部とを制御する制御手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記第1回転子の第1回転速度と、前記第2固定子に対する前記第2回転子の第2回転速度とを逆の回転方向に設定し、前記第1回転速度と前記第2回転速度に基づいて前記出力回転軸の回転速度を決定する請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1モータ部のコギングトルク周波数と前記第2モータ部のコギングトルク周波数が所定の共振周波数と一致しないように、前記第1回転速度と前記第2回転速度を制御する請求項2に記載の電動機。
【請求項4】
ケース内に、第1モータ部と、前記第1モータ部の回転軸と同じ軸上に出力回転軸を有する第2モータ部と、を備える電動機の制御方法であって、
前記第1モータ部は、
前記ケース内側に固定された第1固定子と、
前記ケースに対して回転可能に設けられ、前記第1固定子と対をなす第1回転子と、を有し、
前記第2モータ部は、
前記第1回転子の内側に固定された第2固定子と、
前記ケースに対して回転可能に設けられ、前記第2固定子と対をなす第2回転子と、を有する電動機の制御方法において、
前記第1回転子の第1回転速度と、前記第2固定子に対する前記第2回転子の第2回転速度とを逆の回転方向に設定するステップと、
前記第1回転速度と前記第2回転速度に基づいて前記出力回転軸の回転速度を決定するステップと、
前記第1モータ部のコギングトルク周波数と前記第2モータ部のコギングトルク周波数が所定の共振周波数と一致しないように、前記第1回転速度と前記第2回転速度を制御するステップと、を備える電動機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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