説明

電動自転車のハブユニット及びそれを装備する電動自転車

【課題】ローラブレーキ装置を極力熱の影響を受けないように取り付けることができる電動自転車のハブユニットを提供する。
【解決手段】電動自転車1は、前輪18に組み合わせたハブユニット30でアシスト駆動力を得る。ハブユニット30は、ハブケーシング35及びハブケーシング35の一端の開口部34を閉塞するリッド36からなるハブ31と、モータ32と、モータ32の回転を減速してハブ31に伝達する遊星歯車減速機構33を備える。モータ32はハブケーシング35の側に位置し、遊星歯車減速機構33はリッド36の側に位置する。リッド36にローラブレーキ装置60が取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動自転車のハブユニット及びそれを装備する電動自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
電池を電源とするモータで走行する電動自転車(ペダルを踏み込む力をモータでアシストする電動アシスト自転車を含む)は、重い荷物を載せていたり、坂道を登ったりするときに楽であることから、それを選択して購入する消費者が多くなっている。特許文献1に電動アシスト自転車の例を見ることができる。
電動自転車の動力伝達システムを設計する上で、モータをどこに配置するかは常に大きな問題となる。特許文献2、3では、前輪または後輪のハブの中にモータと減速機構を組み込む方式が提案されている。
電動自転車は電池を搭載する関係上質量が増大し、制動に大きな力を要する。特許文献4、5には、大きな制動力を発生させられるブレーキとして、ローラブレーキ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−107266号公報(国際特許分類:B62M23/02、B62K11/00、B62M17/00)
【特許文献2】特開2005−335535号公報(国際特許分類:B62M23/02、B60B27/00)
【特許文献3】特開2009−12627号公報(国際特許分類:B62M23/02、B62M11/16)
【特許文献4】特許第4073929号公報(国際特許分類:F16D51/12、B62L1/00、B62M23/02)
【特許文献5】特開2006−347412号公報(国際特許分類:B62L1/00、B62M23/02、F16D51/12、F16D65/10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ローラブレーキ装置は精密加工した部品を組み合わせて構成されており、所期の制動性能を発揮させるには、温度上昇をできるだけ避ける必要がある。
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、モータと減速機構を内蔵した電動自転車のハブユニットにおいて、ローラブレーキ装置を極力熱の影響を受けないように取り付けることができる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい実施形態によれば、電動自転車のハブユニットは、モータ及び当該モータの回転を減速して伝達する減速機構を内蔵するハブを備え、前記ハブの減速機構側側面にローラブレーキ装置が取り付けられる。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の電動自転車のハブユニットにおいて、
ハブケーシング及び当該ハブケーシングの一端の開口部を閉塞するリッドからなるハブを備え、前記減速機構は前記モータの回転を減速して前記ハブに伝達するものであり、前記ハブの内部において、前記モータは前記ハブケーシングの側に位置し、前記減速機構は前記リッドの側に位置するとともに、前記リッドにローラブレーキ装置が取り付けられる。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の電動自転車のハブユニットにおいて、前記リッドの中心から突き出すハブ軸を囲む中間リングが配置され、前記中間リングを介して、前記ローラブレーキ装置のブレーキドラムが前記リッドに固定される。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の電動自転車のハブユニットにおいて、前記中間リングと前記リッドの間にラビリンス嵌合部が形成されている。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の電動自転車のハブユニットにおいて、前記中間リングの外周には雄ねじ部が形成され、前記リッドには前記雄ねじ部がねじ込まれる雌ねじ部が形成され、前記ローラブレーキ装置の作動時、前記中間リングにはねじの締め付け方向の力が加わる。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成のハブユニットが電動自転車に装備される。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の電動自転車において、前記ハブユニットは前輪に装着される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、モータ及び当該モータの回転を減速して伝達する減速機構を内蔵するハブにローラブレーキ装置を取り付けるに際し、大量の熱を発生するモータ側でなく、熱の発生の比較的少ない減速機構側の側面にローラブレーキ装置を取り付けたから、ローラブレーキ装置を発熱部品から遠ざけて配置することができ、ローラブレーキ装置の温度上昇を抑制して所期の制動性能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】電動自転車の側面図である。
【図2】電動自転車の部分拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係るハブユニットの断面図である。
【図4】図3の部分拡大図である。
【図5】ローラブレーキ装置の部分拡大図である。
【図6】ローラブレーキ装置の冷却用ディスクの側面図である。
【図7】ローラブレーキ装置の冷却用ディスクの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
最初に、図1に基づき電動自転車の全体構造を説明する。
電動自転車1はペダルを踏み込む力をモータでアシストする電動アシスト自転車であり、そのフレーム10は、前端のヘッドチューブ11と、搭乗者の騎乗位置に配置されるシートチューブ12をダウンチューブ13で連結した構造を有する。シートチューブ12には上端にサドル14を有するシートポスト15が上下位置調整可能に挿入される。ヘッドチューブ11はハンドル16のハンドルステム17を回転自在に保持する。
前輪18は、ハンドルステム17に回転不能に連結するフロントフォーク19に支持される。後輪20は、シートチューブ12の上端から後方に延び出すシートステー22aと、シートチューブ12の下端から後方に延び出すチェーンステー22bによって構成されるリヤフォーク21に支持される。
シートチューブ12、ダウンチューブ13、及びチェーンステー22bが集合する箇所に、ペダル23を備えたクランク24が配置される。クランク24の回転力はチェーン25により後輪20に伝達される。
前輪18に対してはローラブレーキ装置が設けられるが、その詳細は後述する。後輪20に対しては、そのハブに対し制動をかける後ブレーキ(図示せず)が設けられる。
リヤフォーク21には荷台26が取り付けられる。リヤフォーク21にはスタンド27も取り付けられる。
シートチューブ12の後面には、電動自転車1の電源となる電池ケース28が着脱可能に取り付けられる。ハンドル16には、電動アシスト動作の制御指令を入力する手元操作部29が取り付けられている。
電動自転車1にアシスト推進力を与えるのは前輪18に組み合わせられるハブユニット30である。続いて、主に図3に基づきハブユニット30の構造を説明する。
ハブユニット30は、ハブ31と、ハブ31に内蔵されるモータ32及び遊星歯車減速機構33により構成される。遊星歯車減速機構33は周知なので詳しく機構を説明することはしない。
ハブ31の外殻を構成するのは、一端が開口部34となったハブケーシング35と、開口部34を閉塞するリッド36である。リッド36は所定の角度間隔に配置された複数のビス37によりハブケーシング35に固定される。ハブケーシング35の中心には外向きに突出するハブ軸38を備えたセンターピース39が配置され、リッド36の中心には外向きに突出するハブ軸40が配置される。センターピース39とハブケーシング35の間にはボールベアリング41が配置され、ハブ軸40とリッド36の間にはボールベアリング42が配置される。ボールベアリング41、42により、ハブ31はハブ軸38、40に回転自在に支持される。
ハブケーシング35には、前輪18のスポーク43(図1参照)を通す穴44を所定の角度間隔で形成したフランジ45が形成される。同様のフランジがリッド36にも形成されている。ハブケーシング35のフランジの穴とリッド36のフランジの穴にスポーク43を通し、前輪18のリム46(図1参照)に通したニップル47にスポーク43の先端を螺合させ、ニップル47を締め上げれば、スポーク43はぴんと緊張する。この作業を全てのスポーク43について行うことにより、ハブ31とリム46は強固に固定される。その後、リム46にチューブとタイヤを装着し、前輪18を完成させる。ハブ軸38、40を周知の方法でフロントフォーク19に固定すれば、前輪18はハブ軸38、40を中心として回転自在となる。ハブ軸38、40自体はフロントフォーク19に対し回転不能である。
モータ32は、積層鉄心と巻線により構成されるステータ48を一対のエンドブラケットの間に挟み込み、ステータ48の中心にロータ49を配置した構造である。ここではセンターピース39が一方のエンドブラケットとなり、ステータ48を隔てて反対側に位置する他方のエンドブラケット50に組み合わせられる。センターピース39にステータ48をあてがい、さらにエンドブラケット50をあてがい、エンドブラケット50の側からセンターピース39に複数のビス51を螺合して締め付けることにより、ステータ48はハブケーシング35に組み付けられる。センターピース39はハブ軸38に対し回転不能とされているので、ステータ48もハブ軸38に対し回転不能、すなわちフロントフォーク19に対し回転不能となる。
ロータ49は中心にロータ軸52を有し、ロータ軸52はボールベアリング53、54によりセンターピース39とエンドブラケット50に回転自在に支持されている。ロータ軸52の一端はエンドブラケット50の外側に突き出し、遊星歯車減速機構33の入力部に連結されている。遊星歯車減速機構33の出力部は複数のボルト55でリッド36に連結されている。この構成により、モータ32の回転は遊星歯車減速機構33により減速されてハブ31に伝達される。
遊星歯車減速機構33はワンウェイクラッチを含み、モータ32の回転はハブ31に伝わるが、モータ32が回転していないときの前輪18の回転はモータ32には伝わらないようにされている。このため、アシスト走行時以外の時点でペダル23の踏み込みが重くなることがない。
ハブユニット30にはローラブレーキ装置60が取り付けられる。取り付け場所としては、ハブ31の減速機構側の側面を構成するリッド36が選定される。以下その構造について説明する。
ローラブレーキ装置60の基本的な構造は特許文献4、5に記載されたものと同じである。すなわち、図5に示すブレーキドラム61の内部に複数のブレーキシュー62が配置されている。ブレーキドラム61はリッド36に対し回転不能とされ、ブレーキシュー62はフロントフォーク19に対し回転不能とされる。これにより、ブレーキシュー62はブレーキドラム61に制動をかけることが可能になる。
ブレーキシュー62は、円の三分の一ずつを占める形で3個配置され、それぞればね62aによりブレーキドラム61の中心方向に附勢されている。1個のブレーキシュー62につき2個ずつのローラ63が、ブレーキドラム61の中心方向からブレーキシュー62を支えるように配置される。計6個のローラ63はリング状のリテーナ64に60°間隔で保持され、互いの間に接触が生じないようにされている。リテーナ64の中心には回転カム65が配置される。回転カム65の外周には、回転カム65の中心からの距離が漸増するカム面66が、6個のローラ63のそれぞれに対応する形で計6個設けられている。
図5において、回転カム65が反時計方向に回動すると、カム面66がローラ63を外側に押し出す。ローラ63はばね62aの附勢力に抗してブレーキシュー62を押し出し、ブレーキドラム61の内周面に接触させる。これにより、ブレーキドラム61、ひいてはハブ31に制動がかかる。ハンドル16に設けられた右手用のブレーキレバー(図示せず)を握りしめると、その力がケーブルを介して回転カム65に伝わり、回転カム65が図5において反時計方向に回動する仕組みである。
ブレーキドラム61は中間リング67(図3、4参照)を介してリッド36に固定される。中間リング67はハブ軸40を囲むものであり、一方の端面にはブレーキドラム61を回転不能に連結するセレーション68が形成されている。中間リング67の外周には雄ねじ部69が形成され、リッド36には雄ねじ部69がねじ込まれる雌ねじ部70が形成される。雄ねじ部69と雌ねじ部70の螺合方向は、ローラブレーキ装置60の作動時、中間リング67にねじの締め付け方向の力が加わる方向に設定されている。このため、ローラブレーキ装置60で前輪18に制動をかけたとき、中間リング67とリッド36の結合はますます強固になり、中間リング67がリッド36から外れたりすることはない。
中間リング67には、リッド36に面する側の端面に環状の突起71が形成される。リッド36には突起71を受け入れる環状の溝72が形成される。中間リング67をリッド36に固定すると突起71が溝72に入り込み、中間リング67とリッド36の間にラビリンス嵌合部73が形成される。ラビリンス嵌合部73は、水がハブ31の外側からハブ31の中心方向に侵入する上で障害となるので、ボールベアリング42等を侵入しようとする水から守ることができる。
図3に示す通り、ブレーキドラム61の開口部に向き合うようにブレーキハウジング74が配置され、このブレーキハウジング74にブレーキシュー62、ローラ63、リテーナ64、及び回転カム65が支持される。ブレーキハウジング74はフロントフォーク19に対し回転不能とされる。ブレーキハウジング74の外面(ブレーキドラム61に向いた面と反対側の面)には装飾用のオーナメントディスク75が取り付けられる。またブレーキハウジング74には、回転カム65を動かす図示しないケーブルの鞘管を支持するステー76が形成されている。
ブレーキドラム61には冷却用ディスク77が固定される。冷却用ディスク77はアルミニウム合金のダイキャスト成型品であり、内面(リッド36に面する側の面)には多数のフィン78が放射状に形成されている。
上述の通り、ハブケーシング35とリッド36からなるハブ31の内部で、大量の熱を発生するモータ32はハブケーシング35の側に配置され、熱の発生の比較的少ない遊星歯車減速機構33はリッド36の側に配置され、リッド33にローラブレーキ装置60が取り付けられているから、ローラブレーキ装置60は発熱部品であるモータ32から遠ざかっている。このため、ローラブレーキ装置60の温度上昇を抑制して所期の制動性能を発揮させることができる。その上、ハブ31が回転するとハブ31の中心から外周方向に向かう風がフィン78によって形成され、冷却用ディスク77が空冷されるので、ローラブレーキ装置60の温度上昇は一層確実に抑制される。
電動自転車1は、モータ32と遊星歯車減速機構33を内蔵したハブユニット30が前輪18に装着されていて、前輪18はモータ32で駆動され、後輪20はペダル23により人力で駆動されるものであるから、前後両輪が駆動され、走行安定性が向上する。一方で、モータ32と遊星歯車減速機構33を内蔵したハブユニット30が組み込まれることから、前輪18の慣性が大きくなるが、制動力の大きいローラブレーキ装置60をハブユニット30に取り付けることにより、前輪18の制動力を確保して、安全性を高めることができる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明は電動自転車のハブユニットに広く利用可能である。
【符号の説明】
【0010】
1 電動自転車
10 フレーム
11 ヘッドチューブ
16 ハンドル
17 ハンドルステム
18 前輪
19 フロントフォーク
20 後輪
21 リヤフォーク
28 電池ケース
29 手元操作部
30 ハブユニット
31 ハブ
32 モータ
33 遊星歯車減速機構
34 開口部
35 ハブケーシング
36 リッド
60 ローラブレーキ装置
61 ブレーキドラム
62 ブレーキシュー
63 ローラ
64 リテーナ
65 回転カム
66 カム面
67 中間リング
69 雄ねじ部
70 雌ねじ部
73 ラビリンス嵌合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ及び当該モータの回転を減速して伝達する減速機構を内蔵するハブを備え、前記ハブの減速機構側側面にローラブレーキ装置が取り付けられることを特徴とする電動自転車のハブユニット。
【請求項2】
ハブケーシング及び当該ハブケーシングの一端の開口部を閉塞するリッドからなるハブ
を備え、
前記減速機構は前記モータの回転を減速して前記ハブに伝達するものであり、
前記ハブの内部において、前記モータは前記ハブケーシングの側に位置し、前記減速機構は前記リッドの側に位置するとともに、
前記リッドにローラブレーキ装置が取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の電動自転車のハブユニット。
【請求項3】
前記リッドの中心から突き出すハブ軸を囲む中間リングが配置され、前記中間リングを介して、前記ローラブレーキ装置のブレーキドラムが前記リッドに固定されることを特徴とする請求項2に記載の電動自転車のハブユニット。
【請求項4】
前記中間リングと前記リッドの間にラビリンス嵌合部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の電動自転車のハブユニット。
【請求項5】
前記中間リングの外周には雄ねじ部が形成され、前記リッドには前記雄ねじ部がねじ込まれる雌ねじ部が形成され、前記ローラブレーキ装置の作動時、前記中間リングにはねじの締め付け方向の力が加わることを特徴とする請求項3または4に記載の電動自転車のハブユニット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のハブユニットを装備することを特徴とする電動自転車。
【請求項7】
前記ハブユニットは前輪に装着されることを特徴とする請求項6に記載の電動自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−76473(P2012−76473A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220537(P2010−220537)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)