説明

電動車両の駆動装置

【課題】複数のモータジェネレータが搭載された電動車両の駆動装置の振動、騒音を低減する。
【解決手段】共通のケーシングと、共通のケーシングの内部に複数のモータジェネレータ20,30を搭載する電動車両の駆動装置100であって、各モータジェネレータ20,30は各ステータ21,31を共通のケーシングの室内に固定する複数のラグ231〜233,331〜334をそれぞれ備え、各モータジェネレータ20,30の各ラグ231〜233,331〜334の個数は、互いに素となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の駆動装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータやモータジェネレータによって走行する電動車両が多く用いられるようになってきているが、駆動時にステータが変形して騒音、振動が発生する場合がある。これは、ロータ回転時における磁気反力に応じてステータの固定点を節として固定点の中間部分が腹となってステータ全体に特定の周波数の振動、騒音が発生するものである(特許文献1参照)。この振動、騒音を抑制するために、特許文献1では、エンドプレートによりステータコアの外周部全面を抑えたり、ステータコアの固定部の中間部を押さえる押さえ板を入れたり、ステータコアの固定部を周方向に向かって不等間隔に配置したりすることによって特定の周波数でステータコアが振動することを抑制することが提案されている。
【0003】
また、モータを搭載した電気自動車用駆動装置においては、ロータの回転によって生じるコギングトルクによる振動、騒音が発生する。そこで、1つのケーシングに2のモータを搭載した電気自動車駆動装置において、2つのロータの回転方向の組み付け位置を設定角度だけずらして界磁タイミングをずらすことにより、ロータの回転の際の振動、騒音を抑制することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、電気自動車の回生制動時の回生トルクによる振動と、車両の構造振動との共振によって振動、騒音が発生する場合がある。この回生音を低減するために、モータの振動数と運転領域の振動数とを比較して、モータの振動数と車両の構造振動数とが共振する様な運転領域では、回生トルクを低減し、モータの振動数と車両の構造振動数とが共振しない運転領域では、回生トルクを増加させることにより、回生トルクにより発生する振動、騒音を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−304213号公報
【特許文献2】特開平6−284665号公報
【特許文献3】特開2010−114978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、モータジェネレータを複数、例えば、2つ搭載する電動車両の駆動装置において、同一サイズのステータコアプレートが用いられることがある。この場合、2つのステータの固有振動数が同一となってしまうため、2つのステータが共振を起こし、大きな振動、騒音を発生してしまう場合がある。
【0007】
本発明は、複数のモータジェネレータが搭載された電動車両の駆動装置の振動、騒音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
共通のケーシングと、前記共通のケーシングの内部に複数のモータジェネレータを搭載する電動車両の駆動装置であって、前記各モータジェネレータは各ステータを前記共通のケーシングの室内に固定する複数の締結部をそれぞれ備え、前記各モータジェネレータの前記各締結部の個数は、互いに素となっていること、を特徴とする。
【0009】
本発明の電動車両の駆動装置において、前記各ステータの前記各締結部の周方向位置は互いに互いにずれていること、としても好適であるし、少なくとも1つの前記各ステータの前記各締結部は、周方向に不等間隔で配置されていること、としても好適であるし、ステータは、同一形状のステータコアプレートによって構成されていること、としても好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、複数のモータジェネレータが搭載された電動車両の駆動装置の振動、騒音を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態における電動車両の駆動装置の概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態における電動車両の駆動装置のステータの締結部の配置を示す説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態における電動車両の駆動装置のステータの締結部の配置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように本実施形態の電動車両の駆動装置100は、ケーシング10の中に、中心線51に沿って同軸に2つのモータジェネレータ20,30が搭載されている。第1のモータジェネレータ20は、第1のステータ21と第1のロータ22とを備えている。また、第2のモータジェネレータ30は、第2のステータ31と、第2のロータ32とを備えている。第1、第2のステータ21,31はそれぞれ薄い電磁鋼板を重ねたステータコアとステータコアに形成された複数のスロットと、各スロットに挿入されたコイルとを有している。また、第1、第2のステータ21,31は、軸方向の一端側に半径方向に突出した複数のラグ23,33が設けられており、各ステータ21,31は、このラグ23,33に設けられた孔に各固定ボルト24,34を通してケーシング10に締結、固定されている。各ラグ23,33は、各ステータ21,31をケーシング10に締結、固定する各締結部である。なお、図1では、各ロータ22,32に接続されているプラネタリギヤ等の動力を車両の駆動輪に伝達する動力伝達機構については図示を省略している。
【0013】
第1、第2のステータ21,31は同一のステータコアプレート(電磁鋼板)を積層して構成されており、各外径、内径寸法が同一であり、更にステータコアのスロットの個数、形状も同一となっている。なお、図1では、各ステータ21,31の各締結用のラグ23,33は、軸方向に互いに反対側の端面に設けられているが、互いに反対側のではなく、同一側の端面に設けられるようにしてもよい。
【0014】
図2(a)に示すように、第1のステータ21をケーシング10に締結する締結用のラグ231〜233は、周方向に120°間隔で3つ設けられ、各ラグ231〜233には図1に示すケーシング10との締結用の固定ボルト24が入る孔25が設けられている。なお、図2の符号52は水平方向の中心線を示す。本実施形態では、図2(a)に示すように、第1のラグ231は、垂直方向の中心軸53が通る垂直上方に配置され、第2のラグ232は第1のラグ231から時計回りに向かって120°ずれた位置に配置され、第3のラグ233は、第2のラグ232から時計周りに120°ずれた位置に配置されている。一方、図2(b)に示すように、第2のステータ31は4つのラグ331〜334を備えており、各ラグ331〜334には図1に示すケーシング10との締結用の固定ボルト34が入る孔35が設けられている。第1のラグ331は、垂直方向の中心線53が通る垂直上方から時計周りに角度aだけずれた位置に配置され、第2のラグ332は第1のラグ331から時計回りに角度bだけずれた位置に配置されている。第3のラグ333と第4のラグ334とはそれぞれ第1、第2のラグ331,332と回転中心軸51の反対側に配置されている。
【0015】
このように、第1のステータ21は3つのラグ231〜233によってケーシング10に固定され、第2のステータ31は4つのラグ331〜334によってケーシング10に固定されている。このため、各ステータ21,31の円周方向の固有振動数がずれるので、電動車両の駆動装置100が駆動した際の各ステータ21,31に発生する周方向の振動数がずれ、第1のステータ21と第2のステータ31の共振が起こりにくく、電動車両の駆動装置100の振動、騒音を低減することができる。また、本実施形態では、第1ステータ21のラグ23の個数は3、第2ステータ31のラグ33の個数は4として説明したが、第1ステータ21の振動と第2ステータ31の振動が共振しないように各ラグ23,33の個数が互いに素数となっていればよく、例えば、第1ステータ21のラグ23の個数が6で第2ステータ31のりラグの個数が5となっていてもよい。また、本実施形態では、ケーシング10の中に2つのモータジェネレータ20,30が搭載されているとして説明したが、ケーシング10の中に搭載されているモータジェネレータの個数は2個に限らず、3個以上であってもよい。この場合、各モータジェネレータの各ステータを固定するラグの個数は互いに素となっていればよい。
【0016】
また、本実施形態では、第1ステータ21のラグ231〜233の周方向の位置と第2ステータ31の各ラグ331〜334の周方向の位置が互いにずれているため、第1ステータ21と第2ステータ31のそれぞれの周方向の振動の共振を効果的に抑制することができ、電動車両の駆動装置100の振動、騒音を効果的に低減することができる。また、本実施形態では、共振を避けることによって電動車両の駆動装置100の振動、騒音を低減することから、振動、騒音を抑制するための他の手段、例えば、防音材、遮音材の取り付け等が不要となり、簡便な構成とすることができる。さらに、共振がなくなるため、ケーシング10の変形が小さくなり、剛性、信頼性が向上すると共に、ケーシング10の剛性を高めるための追加手段、例えば、ケーシング10の肉厚を増加させたり、補強リブを追加したり、ケーシング10との締結力を増強したりするというようなことが必要なくなることから、電動車両の駆動装置100を小型、軽量とすることができる。
【0017】
図3を参照しながら、本発明の他の実施形態について説明する。先に図1、図2を参照して説明した実施形態と同様の部位には同様の符号を付してその説明は省略する。図3は、第1のステータ21のケーシング10への締結用のラグ23の個数を6、第2のステータ31のラグ33の個数を5としたものである。
【0018】
図3(a)に示すように、本実施形態の第1ステータ21の第1のラグ231は、垂直方向の中心線53が通る垂直上方に配置され、第2、第6のラグ232,236はそれぞれ第1のラグ231から時計まわり及び反時計回りに30°ずれた位置に配置され、第4、第5、第3のラグ234,235,233はそれぞれ第1、第2、第6のラグ231,232,236と軸方向の中心線51に対して反対側に配置されている。従って、第1、第2、第6のラグ231,232,236と、第4、第5、第3のラグ234,235,233は互いに等間隔に配置されているが、第2のラグ232と第3のラグ233、第5のラグ235と第6のラグ236との周方向の間隔は、第1、第2、第6のラグ231,232,23とは異なる間隔となっている。
【0019】
図3(b)に示すように、第2のステータ31の第1のラグ331は垂直方向の中心線53から時計まわりに角度cだけずれた位置に配置され、第2のラグ332〜第6のラグ336は周方向にそれぞれ異なる角度d〜角度gだれずれた位置に配置されている。つまり、5つのラグ331〜336は全て周方向に不等間隔で配置されている。
【0020】
本実施形態は、先に図1、図2を参照して説明した実施形態と同様、各ステータ21,31の周方向の固有振動数がずれるので、電動車両の駆動装置100が駆動した際の各ステータ21,31に発生する周方向の振動数がずれ、第1のステータ21と第2のステータ31の共振が起こりにくく、電動車両の駆動装置100の振動、騒音を低減することができる。また、本実施形態では、各ステータ21,31の各ラグ23,33が周方向に不等間隔で配置されていることから、各ステータ21,31の円周方向の振動そのものが起こりにくいので、更に振動、騒音を効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0021】
10 ケーシング、20,30 モータジェネレータ、21,31 ステータ、22,32 ロータ、23,33,231〜233,331〜336 ラグ、24,34 固定ボルト、25,35 孔、51〜53 中心線、100 駆動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通のケーシングと、
前記共通のケーシングの内部に複数のモータジェネレータを搭載する電動車両の駆動装置であって、
前記各モータジェネレータは各ステータを前記共通のケーシングの室内に固定する複数の締結部をそれぞれ備え、
前記各モータジェネレータの前記各締結部の個数は、互いに素となっていること、
を特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の駆動装置であって、
前記各ステータの前記各締結部の周方向位置は互いに互いにずれていること、
を特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動車両の駆動装置において、
少なくとも1つの前記各ステータの前記各締結部は、周方向に不等間隔で配置されていること、
を特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電動車両の駆動装置において、
ステータは、同一形状のステータコアプレートによって構成されていること、
を特徴とする電動車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−38937(P2013−38937A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173658(P2011−173658)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】