説明

電場応答性高分子を用いた外燃機関発電装置

【課題】機械的な摩擦損失が少なく、熱エネルギーの損失も少ない発電効率の高い外燃機関発電装置を提供する。
【解決手段】機関外部の熱源により加熱される加熱部122と冷却媒体により冷却される冷却部124とを有する密閉容器120内に一定量の作動流体が封入されている外燃機関によって発電する外燃機関発電装置100において、作動流体の膨張・収縮により電場応答性高分子110が伸張収縮して電気を出力することにより上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽熱、地熱、廃熱、排熱などを用いて電力を発電する外燃機関発電装置に関するものであって、さらに詳しくは、発電手段として誘電エラストマーからなる電場応答性高分子(Electroactive Polymer)を用いた外燃機関発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光などの自然エネルギーを熱源として利用して発電する外燃機関発電装置は、資源の枯渇の虞がなく、昼間の電力需要ピークを緩和し、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量削減に貢献する次世代の発電装置として期待されている。
【0003】
外燃機関発電装置の発電方式としては、例えば、鏡などを用いて太陽光を集光し、その熱でシリンダ内に封入した作動ガスを加熱するとともに、冷却水などで冷却することにより、圧力変動を起こさせてピストンを上下動させ、このピストンの上下運動を回転運動に変換するというスターリングエンジンの基本原理を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、本発明者らは、誘電エラストマーからなる電場応答性高分子を用いた発電装置を開発した(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−332672号公報
【特許文献2】特開2008−141840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のスターリングエンジン方式の外燃機関発電装置は、機械的な摩擦損失と機構部の大きな熱容量を加熱、冷却するための熱的なエネルギー損失が大きいために発電効率が悪く、実用レベルに達していない。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、機械的な摩擦損失が少なく、熱エネルギーの損失も少ない発電効率の高い外燃機関発電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、スターリングエンジンの機構に電場応答性高分子を適用することが、前記課題の解決にきわめて効果的であることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本請求項1に係る発明は、機関外部の熱源により加熱される加熱部と冷却媒体により冷却される冷却部とを有する密閉容器内に一定量の作動流体が封入されている外燃機関によって発電する外燃機関発電装置において、前記作動流体の膨張・収縮により電場応答性高分子が伸張収縮して電気を出力することによって、前記課題を解決するものである。
【0009】
そして、本請求項2に係る発明は、請求項1に係る外燃機関発電装置において、前記加熱部と冷却部とを電場応答性高分子によって区画し、該電場応答性高分子が前記作動流体の膨張・収縮により伸張収縮することによって、前記課題をさらに解決するものである。
【0010】
また、本請求項3に係る発明は、請求項1に係る外燃機関発電装置において、前記加熱部と冷却部との間に作動流体の膨張・収縮により出退運動するピストンを設け、前記電場応答性高分子がピストンの出退運動により伸張収縮することによって、前記課題をさらに解決するものである。
【0011】
また、本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る外燃機関発電装置において、前記機関外部の熱源が太陽熱であることによって、前記課題をさらに解決するものである。
【0012】
ここで、本発明における電場応答性高分子とは、米国のカリフォルニア州に本拠を構えるSRIインターナショナルで開発された新素材であって、アクリル系樹脂やシリコーン系樹脂などからなるゴム状の薄い高分子(誘電体)を伸び縮み可能な柔軟な電極で挟んだ構造をしており、EPAM(イーパム:Electroactive Polymer Artificial Muscle)という商品名で市販されているものである。
【発明の効果】
【0013】
本請求項1に係る外燃機関発電装置によれば、機関外部の熱源により加熱される加熱部と冷却媒体により冷却される冷却部とを有する密閉容器内に一定量の作動流体が封入されている外燃機関によって発電するものであって、作動流体の膨張・収縮により電場応答性高分子が伸張収縮して電気を出力することによって、発電機を用いないため機械的な摩擦損失を減少させることができるので、発電効率の高い外燃機関発電装置を実現することができる。
【0014】
本請求項2に係る外燃機関発電装置によれば、請求項1に係る外燃機関発電装置において、加熱部と冷却部とを電場応答性高分子によって区画し、電場応答性高分子が作動流体の膨張・収縮により伸張収縮することにより、作動流体の体積変化を直接に電場応答性高分子の伸張収縮に変換することができ熱的なエネルギー損失を減少させることができるので、より発電効率の高い外燃機関発電装置を実現することができる。
【0015】
本請求項3に係る外燃機関発電装置によれば、請求項1に係る外燃機関発電装置において、加熱部と冷却部との間に作動流体の膨張・収縮により出退運動するピストンを設け、電場応答性高分子がピストンの出退運動により伸張収縮することにより、発電に際し、ピストンの出退運動を回転運動に変換する必要がないので装置の構造を簡略化できるとともに、機械的な摩擦損失を減少させることができるので、より発電効率の高い外燃機関発電装置を実現することができる。
【0016】
本請求項4に係る外燃機関発電装置によれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る外燃機関発電装置において、機関外部の熱源が太陽熱であることによって、燃料を燃焼させるものでないため、燃料費が不要で、運転に掛かる費用を低く抑えられるとともに、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量削減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の外燃機関発電装置は、機関外部の熱源により加熱される加熱部と冷却媒体により冷却される冷却部とを有する密閉容器内に一定量の作動流体が封入されている外燃機関によって発電するものであって、作動流体の膨張・収縮により電場応答性高分子が伸張収縮して電気を出力するものであって、機械的な摩擦損失が少なく、熱エネルギーの損失も少ない発電効率の高い外燃機関発電装置を提供するものであれば、その具体的な実施の態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0018】
例えば、機関外部の熱源として太陽光熱を利用して外燃機関の加熱部を加熱する方法としては、平面鏡を用いて、中央に設置されたタワーにある集熱器に太陽光を集中することで集光し、その熱で加熱部を加熱するタワー式太陽熱発電や、曲面鏡を用いて、鏡の前に設置されたパイプに太陽光を集中させ、パイプ内を流れる液体(オイルなど)を加熱し、その熱で加熱部を加熱するトラフ式太陽熱発電や、放物曲面状の鏡を用いて、鏡の前に設置された加熱部に太陽光を集中させて加熱するディッシュ式太陽熱発電など、いかなる方式であっても構わない。
【0019】
また、本発明の外燃機関発電装置に利用される機関外部の熱源としては、太陽光熱、地熱、廃熱、廃熱など如何なる熱源であっても本発明の発電動作に何ら支障はない。
【0020】
ここで、本発明の外燃機関発電装置の発電要素となる電場応答性高分子膜が、発電する原理の概要について、図1に基づき説明する。
【0021】
電場応答性高分子膜10は、2つの柔軟な電極10b、10cに挟まれたアクリル系樹脂やシリコーン系樹脂等の高分子膜10aで構成されている。従来、多用されていた駆動モードでは、図1(a)に示すように電極間に電位差を与えると、静電力により高分子膜10aが厚さ方向に収縮し、その結果として、電場応答性高分子膜10が面方向に伸張し、アクチュエータとして機能する。
【0022】
一方、発電モードでは、図1(b)に示すように駆動モードと逆の動き、すなわち、機関外部の熱源によって機関内部の作動流体を膨張させることによって、電場応答性高分子膜10を伸張させることにより発電する。
【0023】
これらモードでは、電場応答性高分子膜10は、可変容量コンデンサーのように機能していると考えられる。電場応答性高分子膜10が伸張された際に発電の元となる微量の電荷を電場応答性高分子膜10に与える。この電荷は、電場応答性高分子膜10の高分子膜10aの表面上に現れる。そして、この膜が弛緩する際、電場応答性高分子膜10の弾性力が電場圧力に対抗して働き、その結果、電気エネルギーが増加する。ミクロ的には、高分子膜10aの弾性力により電荷を各電極10b、10cに向けて押し出し(収縮状態で高分子膜10aの厚さが増加)、また電極10b、10c上において各電荷間の距離が短くなる(収縮状態で高分子膜10aの平面領域が減少)。
【0024】
このような電荷の変化が電圧差を増加させ、その結果、静電エネルギー量が増加し、電気エネルギーとして外部の負荷に供給可能になり、電場応答性高分子膜10が発電要素として機能する。
【0025】
電場応答性高分子膜10から電気エネルギーを取り出す具体的回路構成については、前述した特許文献2において開示しているので、説明を割愛する。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の電場応答性高分子膜を用いた外燃機関発電装置の一実施形態として、機関外部の熱源として太陽光熱を用いた実施例1について、図2及び図3に基づき説明する。
【0027】
ここで、図2は、実施例1の外燃機関発電装置100の外燃機関が等温加熱過程にある時の概念図であり、図3は、外燃機関発電装置100の外燃機関が等温膨張過程を経て等容冷却過程にあり、等温圧縮過程へと移行する直前の概念図である。
【0028】
外燃機関発電装置100は、図2に示すように、太陽光熱により加熱される加熱部122と水などの冷却媒体により冷却される冷却部124とを有する密閉容器120内に一定量の空気などの作動流体が封入されている。加熱部122と冷却部124との間は、電場応答性高分子110によって区画されており、密閉容器120の加熱部122側に作動流体が封入されている。
【0029】
冷却部124の電場応答性高分子110と対向する壁面には、冷却水を供給する冷却水供給管126が固設されている。そして、この冷却水供給管126の内側に位置する冷却部124の壁面には冷却水を冷却部124内に供給するための供給孔が設けられており、この供給孔には、等温冷却過程以外においては、冷却水が冷却部124内に供給されることを阻止するための供給弁140が装着されており、スプリング130によって、供給孔を塞ぐように加熱部122方向に付勢されている。
【0030】
この状態から、太陽光によって加熱部122内の作動流体が加熱されると(等温加熱過程)、作動流体が膨張し電場応答性高分子110が冷却部124側に拡張する(等温膨張過程)。そして、電場応答性高分子110が供給弁140に当接すると供給弁140が後退し、供給弁140と冷却部124の壁面との間に隙間が生じ、そこから冷却水が冷却部124内に流入する(等容冷却過程)。そして、電場応答性高分子110を介して、加熱部122内の作動流体が冷やされて収縮する(等温圧縮過程)。そして、再び、図2に示した状態に戻る。電場応答性高分子110を冷却して温められた冷却水は、排水管128を通じて冷却部124の外に排出される。
【0031】
太陽光が加熱部122を照射し続けている間、前述した等温加熱過程、等温膨張過程、等容冷却過程、等温圧縮過程が繰り返されて、電場応答性高分子110が伸張収縮し、起電力が発生する。このような密閉容器120を複数設けて電場応答性高分子110の伸張収縮のタイミングをずらすことによって、出力を平滑化することができる。
【0032】
以上のように、本発明の実施例1の外燃機関発電装置100は、加熱部122と冷却部124とを電場応答性高分子110によって区画し、電場応答性高分子110が作動流体の膨張・収縮により伸張収縮することにより、作動流体の体積変化を直接に電場応答性高分子110の伸張収縮に変換することによって、発電機を使用するときに生じる機械的な摩擦損失及び熱的なエネルギー損失を減少させることができるので、発電効率の高い外燃機関発電装置を実現することができる。
【実施例2】
【0033】
次に、本発明の電場応答性高分子膜を用いた外燃機関電装置の別の実施形態として、機関外部の熱源として太陽光熱を用いた実施例2について、図4及び図5に基づき説明する。
【0034】
ここで、図4は、実施例2の外燃機関発電装置200の外燃機関が等温加熱過程にある時の概念図であり、図5は、外燃機関発電装置200の外燃機関が等温膨張過程を経て等容冷却過程にあり、等温圧縮過程へと移行する直前の概念図である。
【0035】
外燃機関発電装置200は、図4に示すように、太陽光熱により加熱される加熱部222と水などの冷却媒体により冷却される冷却部224とを有する密閉容器220内に一定量の空気などの作動流体が封入されている。加熱部222と冷却部224との間は、ピストン250によって区画されており、密閉容器220の加熱部222側に作動流体が封入されている。
【0036】
冷却部224の側壁には、冷却水を供給する冷却水供給管226が固設されている。そして、この冷却水供給管226の壁面には冷却水を冷却部224内に供給するための供給孔が設けられており、この供給孔には、等温冷却過程以外においては、冷却水が冷却部224内に供給されることを阻止するための供給弁240が装着されており、スプリング230によって、供給孔を塞ぐように加熱部222方向に付勢されている。
【0037】
この状態から、太陽光によって加熱部222内の作動流体が加熱されると(等温加熱過程)、作動流体が膨張しピストン250が冷却部224側に移動する(等温膨張過程)。それに伴いピストン250に垂設されたアーム260によって、電場応答性高分子210が伸張される。そして、ピストン250が供給弁240に当接すると供給弁240が後退し、供給弁240と冷却水供給管226の壁面との間に隙間が生じ、そこから冷却水が冷却部224内に流入する(等容冷却過程)。そして、ピストン250を介して、加熱部222内の作動流体が冷やされて収縮する(等温圧縮過程)。そして、ピストン250が後退して、再び、図4に示した状態に戻る。シリンダ250を冷却して温められた冷却水は、排水管228を通じて冷却部224の外に排出される。ピストン250の後退に伴って電場応答性高分子210は収縮する。
【0038】
太陽光が加熱部222を照射し続けている間、前述した等温加熱過程、等温膨張過程、等容冷却過程、等温圧縮過程が繰り返されて、電場応答性高分子210が伸張収縮し、起電力が発生する。このような密閉容器220を複数設けて電場応答性高分子210の伸張収縮のタイミングをずらすことによって、出力を平滑化することができる。
【0039】
以上のように、本発明の実施例2の外燃機関発電装置200は、加熱部222と冷却部224との間に作動流体の膨張・収縮により出退運動するピストン250を設け、電場応答性高分子210がピストン250の出退運動により伸張収縮することにより、発電に際し、ピストン250の出退運動を回転運動に変換する必要がないので装置の構造を簡略化できるとともに、機械的な摩擦損失を減少させることができるので、より発電効率の高い外燃機関発電装置を実現することができる。また、電場応答性高分子210が直接高温にさらされることがないので、装置の耐久性が向上する。また、電場応答性高分子210が装置の外側に取り付けられるため、取替作業負担が軽減する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の電場応答性高分子を用いた外燃機関発電装置は、太陽光が得られる場所であればどこでも発電することができるので、水力や波力を使った自然エネルギー利用発電装置が設置できなかった、砂漠や、風力が少ない地域に設置することができる。
【0041】
また、既存の太陽電池を用いた太陽光発電では、砂漠などの気温の高い地域では、太陽電池の温度が上昇するため、発電能力が著しく低下する。また、受光面に埃や粉塵・砂塵などが付着することにより、受光量が低下し発電能力が低下する。本発明の外燃機関発電装置によれば、日射を集光することで、高温を作り出すとともに、集光部などで作られる日陰との温度差を利用することにより、前述の影響を軽減した環境適合性に優れた発電装置を実現することができ、その産業上の利用可能性は、きわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の動作原理を説明する図であり、(a)が駆動モードを示しており、(b)が発電モードを示している。
【図2】実施例1の外燃機関発電装置100の等温加熱過程時の概念図。
【図3】実施例1の外燃機関発電装置100の等容冷却過程時の概念図。
【図4】実施例2の外燃機関発電装置200の等温加熱過程時の概念図。
【図5】実施例2の外燃機関発電装置200の等容冷却過程時の概念図。
【符号の説明】
【0043】
100、200 ・・・ 外燃機関発電装置
110、210 ・・・ 電場応答性高分子(EPAM)
122、222 ・・・ 加熱部
124、224 ・・・ 冷却部
126、226 ・・・ 冷却水供給管
128、228 ・・・ 排水管
130、230 ・・・ スプリング
140、240 ・・・ 供給弁
250 ・・・ ピストン
260 ・・・ アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関外部の熱源により加熱される加熱部と冷却媒体により冷却される冷却部とを有する密閉容器内に一定量の作動流体が封入されている外燃機関によって発電する外燃機関発電装置において、
前記作動流体の膨張・収縮により電場応答性高分子が伸張収縮して電気を出力することを特徴とする外燃機関発電装置。
【請求項2】
前記加熱部と冷却部とを電場応答性高分子によって区画し、該電場応答性高分子が前記作動流体の膨張・収縮により伸張収縮することを特徴とする請求項1記載の外燃機関発電装置。
【請求項3】
前記加熱部と冷却部との間に作動流体の膨張・収縮により出退運動するピストンを設け、前記電場応答性高分子がピストンの出退運動により伸張収縮することを特徴とする請求項1記載の外燃機関発電装置。
【請求項4】
前記機関外部の熱源が太陽熱であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の外燃機関発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−138878(P2010−138878A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318443(P2008−318443)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(506399169)株式会社HYPER DRIVE (13)
【Fターム(参考)】