説明

電子カラムの電子ビームエネルギー変換方法

【課題】電子カラムにおいて電子放出源と第1の電極との間で低電圧差の方法を使用しながら電子ビームエネルギーを自由に調節することができるように、試料上の最終電極(レンズ層またはフォーカスレンズ)をフローティングさせる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、電子ビームを発生させる電子カラムにおいて電子ビームのエネルギーを効率よく変換させるための方法に関する。この方法は、電子ビームが試料に到達するときにエネルギーを自由に調節するために、試料に到達する最終電子ビームが所要のエネルギーを持つように、電圧を電極にさらに印加する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子カラムにおいて電子ビームのエネルギーを効率よく変換させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを発生させる電子カラムにおいて、電子ビームのエネルギー変換はその活用分野で非常に重要な機能である。例えば、電子カラムを用いてリソグラフィーを行う場合、ディスプレイのために電子ビームを使用する場合、または電子ビームを電子顕微鏡として使用する場合、試料に到達する電子ビームのエネルギーの大きさは、電子ビームが試料に入射する深さ、試料の破壊、および分解能などに影響している。
【0003】
一般に、電子カラムにおいて、電子を放出する電子放出源に加える電圧によって、試料に到達する電子ビームのエネルギーが決定されている。ところが、非常に小さくて繊細な構造の電子カラム、例えばマイクロ電子カラムにおいて、電子ビームのエネルギーを高めるために電子放出源に高電圧を印加することは限界がある。マイクロカラムに関連し、シングルマイクロカラムの構造に関する一例が韓国特許出願第2003−66003号に開示されており、また、論文としてはCrashmerらによって1995年(J.Vac Sci、Technol.B(13)6、第2498頁〜第2503頁)に発行された「An electron-beam microcolumn with improved resolution, beam current and stability」、および1996年(J.Vac Sci.Technol.B14(6)、第3792頁〜第3796頁)に発行された「Experimental evaluation of a 20x20 mm footprint microcolumn」があり、関連外国特許としては米国特許第6,297,584号、同第6,281,508号および同第6,195,214号などがある。そして、マルチマイクロカラムは、多数のシングルマイクロカラムを直列または並列に配列して構築される単一マイクロカラムモジュール(SCM、single column module)で構成でき、2つ以上に規格化された一体型カラムモジュール(MCM、monolithic column module)(すなわち2×1または2×2などを1組として)で構成でき、或いは1枚のウエハーをカラムのレンズ部品となるようにするウエハーサイズのカラムモジュール(WCM、Wafer-scale column module)を用いて構成できる。このような基本的概念は、H.P.Chingらによって1996年(J.Vac.Sci、Technol.B14、第3774頁〜第3781頁)に発行された「Electron-beam microcolumns for lithography and related applications」論文にある。また、別の方式は、混合型マルチ方式であって、1つ以上のカラムがSCM、MCMまたはWCMと共に配列される場合と、一部のカラムレンズ部品がSCM、MCMまたはWCM方式で出来ている場合も可能である。これは Hosub Kimらによって1994年(Journal of the Korea Physical Society,45(5)、第1214頁〜第1217頁)に発行された「Multi-beam microcolumns based on arrayed SCM and WCM」論文と、 Hosub Kimらによって1995年(Microelectronic Engineering、第78頁〜第79頁、第55頁〜第61頁)に発行された「Arrayed microcolumn operation with a wafer-scale Einzel lens」論文などに基礎的な実験結果が紹介されている。
【0004】
一般に、電子カラムにおいて電子放出源と第1の電極、例えばエクストラクターとの距離が100mm程度であって、電子放出源に数百〜1kv程度の負電圧を印加し、電極にはグランド電圧(0V)を印加する。また、印加電圧が高いほど多くの電子が放出されるが、全体電子ビームは不安定になり、最悪の場合には電子放出源が損傷してしまうという問題点を持っている。
【0005】
このような電子放出源の損傷の問題点を解決するための方法として、電子放出源の付近は超高真空度を維持させる方法、或いは電子放出源と第1の電極(エクストラクターまたはレンズ層)との間に低い電圧差を印加する方法を使用する。ところが、超高真空を維持させることは費用的または構造的に困難さがあり、電圧差を用いることは印加する電圧の制限がある。
【特許文献1】韓国特許出願第2003−66003号
【特許文献2】米国特許第6,297,584号
【特許文献3】米国特許第6,281,508号
【特許文献4】米国特許第6,195,214号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためのもので、その目的は、電子カラムにおいて電子放出源と第1の電極との間で低電圧差の方法を使用しながら電子ビームエネルギーを自由に調節することができるように、試料上の最終電極(レンズ層またはフォーカスレンズ)をフローティングさせる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、電子ビームのエネルギー変換方法は、電子ビームが試料に到達するときにエネルギーを自由に調節するために、試料に到達する最終電子ビームが所要のエネルギーを持つように必要な電極に電圧をさらに印加することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る方法は、電子カラムにおいて電子放出源の電圧を安定な範囲で印加して電子ビームを放出するように誘導することにより一定の電子ビームエネルギーを維持させ、電子ビームが試料に到達するときにエネルギーを調節し得るようにするために、試料の真上にあるレンズ(通常、フォーカスレンズ)の第1レンズ層、第2レンズ層、第3レンズ層などに最終的に必要なエネルギーのための電圧を印加してエネルギーを調節し、第2レンズ層に印加するフォーカスのための電圧をさらに変更する方式である。
【0009】
この方法では、フォーカスレンズの最終層と試料との間には別途の電極なしで使用可能であるが、必要に応じては追加してもよい。ところが、電子カラムの構造の複雑性および電子ビームの制御のため、フォーカスレンズをフローティングさせることが最も好ましい。
【0010】
電子カラムを用いて試料を観察するためには、電子ビーム検出器が必要とされることもある。一般に、2次電池および/またはBSE(back-scattering electron)を検出するための検出器としてSE検出器、MCP、BSE検出器、半導体検出器などが用いられている。このような検出器には高電圧を印加し、或いはグラウンド状態で電子を放出しており、電子ビームエネルギーに変化を加えることができる。電子検出器が電子カラムの側方で電子を検出すると、電子ビームエネルギーに僅かに影響を及ぼすだけであるが、電子カラムの非常に近くでまたは電子カラムと同じ軸線上で電子を検出すると、電子ビームエネルギーに大きく影響を及ぼす。リソグラフィーの場合、検出器は、電子カラムを用いて試料を観察し、電子カラムの軸線上で横に移動して電子ビームエネルギーに影響しないようにして、リソグラフィーパターニングを行うことができる。このような場合、検出器にもフォーカスレンズに印加した電圧に相当するだけの電圧を印加し、フォーカスレンズと検出器との電圧差を同一または類似にして、エネルギーの変化を最小化する方法もある。この場合には更なる電子制御装置(部品)を必要とすることもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電子カラムの電子ビームエネルギー変換方法を使用すると、電子放出源に高電圧を印加することなく、必要な電子ビームのエネルギーを調節することができるため、電子放出源のチップに無理を与えず、超高真空を維持するための費用も節減される。
【0012】
本発明に係る電子カラムの電子ビームエネルギー変換方法を使用すると、フォーカスレンズに電圧を印加して電子ビームのエネルギーを増加させることにより、電子カラムの分解能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【0014】
図1は本発明に係る電子ビームを制御する方法の一実施例であって、一般な電子カラムの内部で電子ビームを制御することを示す断面図である。
【0015】
電子放出源1に負電圧が数百〜1キロボルトの間で印加されると、ソースレンズ3のエクストラクターレンズ層3aに電子放出源より高い電圧が印加されることにより、電子が電子放出源から放出されて高電圧のあるエクストラクターへ移動する。必要に応じて、電子放出源1に−500eVを印加する際、エクストラクター3aにはそれ以上の電圧(例えば−200eV〜+200eV)を印加する方式で、電子放出源1から電子が放出されるようにする。このように放出された電子がビーム(B)を形成してアクセラレータ3bで電子ビームが加速またはフォーカシングされ、限界開口(limiting aperture)3cを通過しながら電子ビームの形状が決定される。それぞれのレンズ層には必要ならば電圧を印加することができるが、一般にレンズ3bおよびレンズ3cにはグラウンド電圧を印加する。
【0016】
限界開口3cを通過した電子ビームは、デフレクター4によって偏向され、フォーカスレンズ6によって試料上にフォーカシングされる。試料に到達した電子ビームから出てくる2次電子および反射された電子などを検出器(図示せず)で感知し、その結果を例えばイメージ等の形で視覚化することができる。ここで、検出器はレンズと同軸上に位置してもよく、別個に存在してもよく、その特性に応じて多様な方法で位置してもよい。
【0017】
以下、本発明に関連して同軸上にある検出器について説明したが、MCPまたは他の検出器のように電子ビームがレンズを介して進行する経路の外部または側方に位置することも可能である。
【0018】
試料に到達する電子ビームのエネルギーは、一般に電子放出源1と電子カラムの最終レンズ層6cまたは試料間の電圧差によって決定される。一般に、最終レンズ層6cはグラウンド電圧、すなわち0Vの電圧が印加される。ところが、図1では、さらにフォーカスレンズ6の下端に電圧を印加するために、別途のレンズ層または電極層10は一つがさらに検出器と共にまたは別個に配置できる。勿論、この電極層10は、レンズの最終層(例えば6c)に印加される電圧と関連し、電子ビームにエネルギーをさらに加える必要がある場合、或いは試料にさらに接近してエネルギーを増加または変化させる必要がある場合に使用されるもので、必要に応じて使用有無を決定すればよい。
【0019】
電子放出源には数百〜2keVの範囲内の負電圧が印加されるので、最終レンズ層または電極には0Vまたはそれ以上の陽電圧が印加されると、電子ビームのエネルギーは増加する。
【0020】
図1において、フォーカスレンズ6の3つのレンズ層6a、6b、6cには個別的に電圧を印加することができる。電子ビームエネルギーは、図1の場合にはソースレンズ3またはフォーカスレンズ6の一つの電極層3a、3b、3c、6a、6bまたは6cのように電圧を印加することが可能な電子ビームエネルギー変換用電極層10によって最終的に変化できる。前述したように、電子ビームエネルギー変換用電極層10は、必要に応じて使用すればよく、所要のエネルギーを計算して前記電極層に電圧を印加すればよい。勿論、前記電極層を使用しない場合には、フォーカスレンズ6に所要の電圧を計算して印加すればよい。この場合、前述したようにフォーカスレンズ6のそれぞれのレンズ層6a、6b、6cに電圧を印加してもよく、最終レンズ層6cにのみ電圧を別途に印加してもよいが、全フォーカスレンズに印加した方が電子ビームのエネルギーの変換にさらに好ましい。
【0021】
図2では、電極層10の位置において、前記電子ビームエネルギー変換用電極層を含む或いは含んでいない検出器20がレンズの同軸上に位置する。電圧は前述した電子ビームエネルギー変換用電極層のように印加する。もし検出器20に検出のための電圧が印加される場合には、フォーカスレンズ6での如く所要の電圧を計算してさらに印加(場合に応じて電圧を追加または減少させることが可能である)することができる。図2では、フォーカスレンズの最終層6cにのみ電圧を印加するようにすることができる(検出器20を使用する場合)が、図1においてフォーカスレンズの各層に電圧を個別的または集合的に印加する方法のように検出器20に電圧を印加することができる。
【0022】
本発明の別の実施例として、図3は試料に別途の電圧を印加することができるようにした。電子ビームのエネルギーは最終的に試料に印加された電圧によって決定されるであろう。この場合にも、フォーカスレンズ6に電圧がさらに印加できるのは勿論のこと、電圧を印加せず、試料にのみ所要の電圧を印加することにより、試料に到達する電子ビームの最終エネルギーを変化させることができる。
【0023】
本発明の最も簡単な別の実施例は、図4に示すように、フォーカスレンズ部分が別途に存在するのではなく、ソースレンズ部分でエクストラクターに所要の電圧を印加してフォーカスを行いながら、エネルギーの増加が必要であれば、ソースレンズ全部分3a、3b、3cまたは必要な層3bおよび/または層3cに電圧を印加してエネルギーを変化させることができる。このような場合、デフレクターにも所要の電圧を増加させることができる。ところが、より容易な方法は、電子ビームエネルギー変換用電極層10にソースレンズ層の電圧を印加することにより、最終的にエネルギーを変化させることができる。
【0024】
以上、シングルタイプの電子カラムを主に説明したが、マルチタイプの電子カラムも同様の方式で電子ビームエネルギーを調節することができる。
【0025】
マルチタイプの電子カラムの場合は、シングル電子カラムの構成に対応する各単位電子カラムがn×mのマトリクス状に配列されて使用できる。既存の制御方式に加えて、追加されるべき電極またはレンズ(層)に電圧を印加すればよく、電子ビームエネルギーを調節するために追加される電極は既存のマルチ電子カラムの制御方式で制御すればよい。
【0026】
前記実施例の説明において、図3の試料は別途の電圧を印加するために電源に連結されているが、図1、図2および図4の例では、試料はグラウンドまたはフロートされる。試料がグラウンドされた場合、電子ビームのエネルギーは、電子放出源に印加された電圧と試料の電圧との電圧差、すなわち電子放出源に印加された電圧だけであるが一般的である。したがって、電極10を使用する場合、前記電極と試料との間隔を最大限近接させ、例えば数マイクロメートルの間隔を持つようにして使用すれば、前記電極10に印加された追加電圧によって、電子ビームエネルギーは変換でき、分解能も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る電子ビームエネルギー変換方法は、電子カラムを用いた検査装置またはリソグラフィー装置で使用可能である。また、マルチ電子カラムとしてディスプレイまたは半導体などの電子カラムを用いた検査装置やリソグラフィー装置などで使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によって電子カラムにおいて電子ビームエネルギーを変換させる方法を示す概略断面図である。
【図2】本発明によって電子カラムにおいて電子ビームエネルギーを変換させる他の方法を示す概略断面図である。
【図3】本発明によって電子カラムにおいて電子ビームエネルギーを変換させる別の方法を示す概略断面図である。
【図4】本発明によって電子カラムにおいて電子ビームエネルギーを変換させる別の方法を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1…電子放出源 3…ソースレンズ
3a…レンズ層 3b…レンズ層 3c…レンズ層
4…デフレクター 6…フォーカスレンズ
6a…レンズ層 6b…レンズ層 6c…レンズ層
10…レンズ層または電極層
20…検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子カラムによって発生した電子ビームのエネルギーを変換させる方法において、
電子ビームが試料に到達するときにエネルギーを自由に調節するために、試料上に到達する最終電子ビームが所要のエネルギーを持つように、電極に電圧をさらに印加することを特徴とする、電子カラムの電子ビームエネルギー変換方法。
【請求項2】
前記電極がフォーカスレンズであることを特徴とする、請求項1に記載の電子カラムの電子ビームエネルギー変換方法。
【請求項3】
前記電極が、電子ビームのエネルギーを調節するための別途の専用電極または検出器であることを特徴とする、請求項1に記載の電子カラムの電子ビームエネルギー変換方法。
【請求項4】
前記検出器に印加される電圧が、前記フォーカスレンズに印加される電圧と同一であり、或いはグランド電圧であることを特徴とする、請求項3に記載の電子カラムの電子ビームエネルギー変換方法。
【請求項5】
試料に別途の電圧がさらに印加されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子カラムの電子ビームエネルギー変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−505368(P2009−505368A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526890(P2008−526890)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【国際出願番号】PCT/KR2006/003264
【国際公開番号】WO2007/021162
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(505249850)シーイービーティー・カンパニー・リミティッド (19)
【氏名又は名称原語表記】CEBT CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】100 Karsan−ri, Tangjeong−myen, 336−708 Asan−si, Chungcheongnam−do (KR)
【Fターム(参考)】