説明

電子スピン共鳴イメージング装置

【課題】 ESR画像再構成法における低域通過フィルタ関数の遮断周波数を自動的に決定する。
【解決手段】 CPU12は、低域通過フィルタの遮断周波数を順次設定し、計測装置11で計測されたESRスペクトラムに基づき、設定された遮断周波数の低域通過フィルタを用いてESR画像を再構成して、該信号のノイズの最大値を求める。CPU12は、設定された遮断周波数の低域通過フィルタとデルタ関数とを空間周波数領域で掛け合わせ、さらに逆フーリエ変換して得られる点広がり関数を求めて、該点広がり関数の実効幅を求める。CPU12は、遮断周波数毎に、ノイズの最大値と点広がり関数の実効幅とを乗算することにより評価関数を求め、遮断周波数に対応して評価関数を記憶する。CPU12は、評価関数が最小となる遮断周波数を求め、該遮断周波数の低域通過フィルタを用いてESRスペクトラムに基づき再構成されたESR画像を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スピン共鳴イメージング装置に係り、特に、自動遮断周波数決定アルゴリズムを利用した不対電子を非破壊的に画像化する連続波電子スピン共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不対電子を持つ原子や分子を検出することができる電子スピン共鳴分光法が知れられている。連続波ESR(Electron Spin Resonance、電子スピン共鳴)法では、磁場を掃引することにより現れるスペクトラムから、不対電子の存在を検出する。ESRイメージングは、直流磁場に勾配磁場を重畳し、不対電子の空間依存性を含んだスペクトラムを測定し、画像(不対電子の空間分布)を再構成する計測法である。また、ESRイメージングは不対電子の空間分布を表すことができるため、活性酸素等の不対電子をもつ反応性の高い化学種の空間分布を可視化することが可能である。例えば、脳血栓等により、虚血状態が生じた後に血流が戻ると(虚血再還流という)、虚血になった部位に不対電子をもつ化学種(フリーラジカル)が発生することが知られている。ESRイメージングは、脳内で虚血再還流が生じた場合、フリーラジカルが発生している部位を可視化することが可能である。ESRイメージングは、例えばフリーラジカルに関わる疾患の画像診断に役に立つと期待されている。
【0003】
通常、ESRイメージング装置における低域通過フィルタ関数の遮断周波数は、再構成された画像を見ながら試行錯誤的に決定することが多い。また、系統的な手法を目指した方法として、例えば、以下の方法が報告されている。
【0004】
ESRスペクトラムのパワースペクトラムと雑音レベルを用いる手法では、ESRスペクトラムを空間周波数領域にフーリエ変換し、高周波領域にある雑音のレベルと比較し、信号が本来持つパワースペクトラムと、雑音レベルの交点を低域通過フィルタ関数の遮断周波数とする手法が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、各プロジェクションごとにデコンボリューションで得られたデータ(空間周波数領域)の分散を求め、分散が最小となる周波数を、画像再構成する際の低域通過フィルタの遮断周波数とする統計的手法が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】F.Momo、S.Colacicchi、A.Sotgiu、「Limits of deconvolution in enhancing the resolution in EPR imaging experiments、 Measurement Science and Technology」、vol.4、pp.60−64、(1993).
【非特許文献2】Y.Deng、G.He、P.Kuppusamy、J.L.Zweier、「Deconvolution algorithm based on automatic cutoff frequency selection for EPR imaging、 Magnetic Resonance in Medicine」、vol.50、pp.444−448、(2003).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連続波ESRイメージング法の画像再構成では、不対電子の空間分布を得るためにデコンボリューションが用いられている。実験データを用いてデコンボリューションを行う際に、実験データに含まれる雑音や数値計算(割り算)による発散を防ぐために、低域通過フィルタ関数が数値計算において用いられており、雑音や偽像を抑圧する効果が認められている。この低域通過フィルタ関数はその遮断周波数の設定により、得られる画像の解像度と雑音に影響を与えるが、遮断周波数を系統的に決定する指針が無いことに課題があった。
【0007】
また、CT(computerized tomography)と同様にデータを取得する2次元(あるいは3次元)ESRイメージングでは、プロジェクションごとに信号対雑音比が変化するため、上述の非特許文献1に記載された手法では、プロジェクションごとに遮断周波数が異なることになる。これは、再構成された画像が歪むことになり、2次元以上の画像再構成には向かない手法と想定される。また、仮に各プロジェクションから得られた遮断周波数の最大値、あるいは平均値を用いたとしても、画像全体で高解像度と低雑音レベルの二つの要求を出来る限り満足するような遮断周波数を与える保証はないと想定される。
【0008】
また、非特許文献2に記載された手法は、統計的手法を用いているため、解像度について明確な物理的意味付けが行われていない。データの分散が小さくなることと、解像度との関係が不明確であり、結果的には良い画像が得られることがあるが、解像度と雑音の要求を明確に評価しているとは言いがたい。
【0009】
一方、MRI(Magnetic Resonance Imaging)においては、自由誘導減衰(FID、Free−Induction Delay)又はスピンエコー信号は、時間領域において直接測定される。従って、MRIには、ESRイメージング装置のようなデコンボリューションのプロセスがない。しかしながら、ESRスペクトルでは、不対電子の空間分布を求めるためにデコンボリューションのプロセスが必要とされる。このとき用いられる低域通過フィルタの遮断周波数を決定することは、ESRイメージにおける良い解像度、及び、ノイズ抑制のために重要なことのひとつである。
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、ESR画像再構成法における低域通過フィルタ関数の遮断周波数を自動的に決定する電子スピン共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。また、本発明は、画像再構成を行う際に、低域通過フィルタの遮断周波数を自動的に決定することで、視覚的に検査を行い試行錯誤的に遮断周波数を決定する必要がないESRイメージング装置を提供することを目的とする。また、本発明は、手作業で繰り返し遮断周波数を設定して、画像再構成を行う必要が無くなり、短時間で解像度が高く、かつ、雑音が抑圧された画像を得ることができる装置を提供することを目的とする。さらに、低域通過フィルタの遮断周波数を決定する場合、解像度の向上と雑音の抑制は、相反する要求であるので、適切な評価関数を与えることにより、相反する要求を最も満たす遮断周波数を決定する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決手段によると、
測定対象物のESRスペクトラムを計測する計測装置と、
低域通過フィルタの遮断周波数を設定し、該低域通過フィルタを用い、前記計測装置で計測された各ESRスペクトラムに基づきESR画像を再構成する処理部と、
遮断周波数と、求められる評価関数とが対応して記憶されるメモリと
を備え、
前記処理部は、
低域通過フィルタの遮断周波数を順次設定し、
遮断周波数毎に、前記計測装置で計測されたESRスペクトラムに基づき、設定された遮断周波数の低域通過フィルタを用いてESR画像信号を再構成し、該ESR画像信号のノイズの最大値又は実効値又は平均値を求め、
遮断周波数毎に、設定された遮断周波数の低域通過フィルタと予め定められたデルタ関数とを空間周波数領域で掛け合わせ、さらに逆フーリエ変換して得られる点広がり関数を求めて、該点広がり関数の実効幅を求め、
遮断周波数毎に、求められたノイズの最大値又は実効値又は平均値と、求められた点広がり関数の実効幅とを乗算することにより評価関数を求めて、遮断周波数に対応して評価関数を前記メモリに記憶し、
前記メモリを参照して評価関数が最小となる遮断周波数を求め、
該遮断周波数に低域通過フィルタを設定し、該低域通過フィルタを用いて、前記ESRスペクトラムに基づいて再構成されたESR画像を得る
電子スピン共鳴イメージング装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ESR画像再構成法における低域通過フィルタ関数の遮断周波数を自動的に決定する電子スピン共鳴イメージング装置を提供することができる。また、本発明によると、画像再構成を行う際に、低域通過フィルタの遮断周波数を自動的に決定することで、視覚的に検査を行い試行錯誤的に遮断周波数を決定する必要がないESRイメージング装置を提供することができる。また、本発明によると、手作業で繰り返し遮断周波数を設定して、画像再構成を行う必要が無くなり、短時間で解像度が高く、かつ、雑音が抑圧された画像を得ることができる装置を提供することができる。さらに、低域通過フィルタの遮断周波数を決定する場合、解像度の向上と雑音の抑制は、相反する要求であるので、適切な評価関数を与えることにより、相反する要求を最も満たす遮断周波数を決定する装置を提供することができる。
【0013】
本発明の解像度と雑音を表す評価関数を用いることにより、解像度を最大化しつつ、かつ、雑音を抑圧する低域通過フィルタ関数の遮断周波数を自動的に決定することが可能となる。また、本発明は、従来技術と比較して、例えば以下の利点がある。
イ)ESRイメージング装置を操作する人が視覚的に画像を比較し、手動により低域通過フィルタ関数の遮断周波数を設定する必要が無い。
ロ)評価関数が与えられているので、数値的に解像度と雑音の抑圧を取り扱うことが可能であり、遮断周波数決定の一連の処理をコンピュータで行うことが可能である。また、短時間に遮断周波数を決定することが可能となる。
ハ)定量的な評価関数を用いることから、与えられたデータから再構成された画像について、最適化を保証することができる。
【0014】
本発明により、デコンボリューションに用いる低域通過フィルタ関数の遮断周波数を系統的自動的に決定することが可能となり、画像再構成の操作性と再現性が改善されたESRイメージング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(ハード構成)
図1は、電子スピン共鳴イメージング装置(以下、ESR装置という)の構成図である。
また、再構成された画像における雑音振幅を求める範囲を示す。
ESR装置は、計測装置11と、CPU(処理部)12と、メモリ13と、ディスプレイ14と、入力部15と、出力部16とを備える。
【0016】
計測装置11は、掃引磁場と勾配磁場の積で決まるFOV(Field−of−View、観測領域)21のスペクトラムを取得する。測定対象物24は、共振器の寸法で規定されるAOI(Area−of−Interest、対象領域)22内に挿入される。図示のように、AOI22はFOV21内に含まれている。ここで、AOI22の外側部分23には、測定対象物24が存在することはないため、その部分の振幅は雑音(ノイズ)の振幅とみなすことができる。したがって、CPU12は、信号源を含まない周辺部分23の振幅を求めて、雑音振幅とすることができる。
【0017】
計測装置11は、測定対象物24が挿入された静磁場中のマイクロ波共振器(図1のFOVに含まれる)へ、マイクロ波(連続波)を入射する。この時、共振器の入力インピーダンスは、伝送線路の特性インピーダンスに整合しており、反射波は生じない。直流磁場の掃引により、電子スピン共鳴が生じる磁場を横切るとき、測定対象物24内の不対電子にESR現象が生じ、エネルギーの放射・吸収が起こる。その結果、マイクロ波共振器のインピーダンスが変化するため、共振器と伝送線路の間のインピーダンス整合が崩れる。インピーダンス不整合のために、共振器へ入射したマイクロ波の一部は反射し、計測装置11の受信システムで検出される。通常、この共鳴吸収による信号は小さいため、信号の検出は容易ではない。そこで、掃引する磁場に時間的に正弦波状に振動する磁場(変調磁場)を重畳し、ESR現象による反射波を振幅変調すると共に、検出された信号を位相検波することにより、高感度でESR信号を検出する手法を用いることができる。この場合、得られた信号は、共鳴吸収曲線の一次微分波形を観測することになる。
【0018】
イメージングを行うためには、勾配磁場の方向を回転させながら、その都度、計測装置11はESRスペクトラムを取得する(プロジェクションと呼ぶ)。スペクトラムの取得後、例えば、フィルタードバックプロジェクション法、又は、フーリエ変換再構成法と呼ばれる画像再構成法等より、測定対象物24内の不対電子の空間分布を再構成することができる。なお、これら以外にも適宜の画像再構成法を用いてもよい。画像再構成を行う際に、各プロジェクションで得られたスペクトラムを、勾配磁場が無い状態でのスペクトラムを用いてデコンボリューションすることにより、プロジェクションに沿った方向の不対電子の空間分布を得ることができる。この時に、ノイズを抑圧するために低域通過フィルタを用いる。
【0019】
例えば、各プロジェクションで得られたスペクトラムと、勾配磁場が無い状態でのスペクトラムとのデコンボリューションは、例えば、以下の式で表される。
g(n)=IFT[F(n)W(n)/H(n)]
ここで、g(n)は不対電子の空間プロファイル、F(n)は計測装置11で得られるプロジェクションがフーリエ変換されたデータ、W(n)は予め設定された遮断周波数の低域通過フィルタ、H(n)は勾配磁場が無い状態でのスペクトラムがフーリエ変換されたデータ、IFTは逆フーリエ変換を示す。また、nは、離散空間のデータ番号を示す。
【0020】
CPU12は、計測装置11で計測されたスペクトラムに基づいて、順次設定される遮断周波数毎に評価関数を求め、評価関数が最小となる遮断周波数を求める。また、CPU12は、求められた遮断周波数の低域通過フィルタを用いて画像再構成を行う。
【0021】
メモリ13は、計測装置11で計測されたスペクトラムデータ、求められた評価関数、再構成された画像データ等を記憶する。ディスプレイ14は、例えば、再構成された画像が表示される。入力部15は、例えば、測定パラメータを入力する。出力部16は、例えば、再構成された画像を出力する。なお、ディスプレイ14、入力部15及び出力部16は、適宜省略してもよい。
【0022】
図2は、評価関数が記憶されるテーブルの構成図である。メモリには、設定された遮断周波数と、求められる評価関数との値が対応して記憶される。
【0023】
(評価関数の作成)
図3は、評価関数の説明図である。図示のように、本実施の形態は、遮断周波数を評価関数に基づいて定量的に決定することを可能にしている。
本実施の形態では、解像度と雑音を定量的に表す評価関数の最小点を見つけることにより、デコンボリューションの際に雑音を抑圧しつつ、解像度を上げる低域通過フィルタ関数の遮断周波数を決定する。図3に示す帯域が制限されたデルタ関数の点広がり関数(Point Spread Function)の有効幅(半値全幅)と雑音振幅の積を評価関数として用いることにより、再構成された画像を目で見ながら最適な遮断周波数を探索する従来の方法に比べ、系統的かつ短時間で最適な遮断周波数を得る方法を提供することができる。
【0024】
図3(a)に、低域通過フィルタ関数の遮断周波数と点広がり関数の実効幅との関係31、及び、低域通過フィルタ関数の遮断周波数とノイズの最大値との関係32を示す。点広がり関数の実効幅及びノイズの最大値の算出については後述する。図示のように低域通過フィルタの遮断周波数が高くなると、点広がり関数の実効幅は小さくなるが、一方、ノイズの最大値は大きくなる。CPU12は、遮断周波数を順次設定して、各遮断周波数について点広がり関数の実効幅とノイズの最大値とを求め、これらの積を評価関数とする。図3(b)に、低域通過フィルタ関数の遮断周波数と評価関数との関係を示す。CPU12は、評価関数の値が最小となる遮断周波数を求め、求められた遮断周波数の低域通過フィルタを用いて画像再構成を行い、画像を得る。
【0025】
図4は、点広がり関数の実効幅の算出の説明図である。また、帯域制限されたデルタ関数の点広がり関数を示す。
まず、CPU12は、実空間におけるデルタ関数をフーリエ変換する。デルタ関数は予めメモリ13に記憶しておくことができる。デルタ関数δ(n)(nは離散空間におけるデータ番号)は、例えばn=1のときに1、それ以外は0をとる関数である。また、CPU12は、空間周波数領域において、フーリエ変換されたデルタ関数と低域通過フィルタ関数との積をとり、その積を逆フーリエ変換して実空間における点広がり関数を求める。なお、低域通過フィルタ関数の遮断周波数は予め設定される。低域通過フィルタ関数は、例えばハミング窓関数を用いる等適宜の低域通過フィルタを用いてもよい。
【0026】
次に、CPU12は、求められた点広がり関数の実効幅を求める。ここで、実効幅は、例えば点広がり関数の最大値の1/2での幅(半値幅)をとることができる。また、実効幅は、例えば点広がり関数の最大値の1/√2(実効値)での幅をとるなど、予め定められた箇所の幅をとってもよい。CPU12は、低域通過フィルタ関数の遮断周波数を順次変化させて、遮断周波数毎に点広がり関数の実効幅を求め、遮断周波数に対応して求められた実効幅をメモリ13に記憶する。メモリ13に記憶される遮断周波数と実効幅の関係をグラフにすると、図2(a)のグラフ31のようになる。
【0027】
次に、ノイズの最大値の算出について説明する。
CPU12は、計測装置11で計測された信号に基づいて再構成された画像信号の、AOI22の外側部分23の信号振幅を求める。図1に示すように、AOI22の周辺において雑音の振幅を評価するため、信号源と雑音の区別をする必要がない。この部分の信号は、測定対象物24がないためノイズとみなすことができる。なお、AOI22の外側であるか内側であるかは、画像信号の座標がAOIの内側に対応するか外側に対応するかにより判断することができる。CPU12は、AOI22の外側部分23の信号のうちの信号振幅の最大値をノイズの最大値とすることができる。なお、ノイズの最大値以外にも、ノイズの平均値又は実効値をとることができる。さらに、例えば、振幅の大きいものから所定数の平均をとってもよいし、振幅の大きいものから所定番目の値をとってもよい。CPU12は、低域通過フィルタ関数の遮断周波数を順次変化させて、各遮断周波数に対して上述のようにノイズの最大値を求め、遮断周波数に対応してノイズの最大値をメモリ13に記憶する。メモリ13に記憶される遮断周波数とノイズの最大値の関係をグラフにすると、図2(a)のグラフ32のようになる。
【0028】
一般に、画像の解像度は高いほど良く、雑音は低いほど良い。解像度を高くするためには高周波領域の信号が必要であるが、雑音を低減するためには高周波領域の雑音を抑制する必要がある。この相反する要求を最も良く満足する条件を定量的に見つけられるようにする点が本実施の形態の特徴のひとつである。点広がり関数の有効幅は解像度を表しており、この値が小さいほど解像度は高いと言える。従って、点広がり関数の有効幅と雑音が共に小さくなることがESRイメージングに要求されている。本実施の形態では、例えば、点広がり関数の実効幅と、ノイズの最大値を乗算した評価関数を最小にしてこの要求を満たしている。
【0029】
(フローチャート)
図5及び図6は、遮断周波数の自動決定のフローチャート(1)及び(2)である。
まず、操作者によりESR装置が調整され、CPU12は測定パラメータを設定する(S01)。例えば、操作者により測定対象物24がAOI22内にセットされる。CPU12は、例えば測定パラメータとして、プロジェクション数、入力電力、設定する遮断周波数の範囲等を設定する。CPU12は、例えば測定パラメータを入力部15から入力してもよいし、予め測定パラメータが記憶されたメモリ13から読み込んでもよい。
【0030】
計測装置11又はCPU12は、各プロジェクションごとの勾配磁場を設定し、計測装置11は設定された各勾配磁場に対する複数のESRスペクトラムを取得する(S03)。CPU12は、スペクトラムのデータを計測装置11から入力し、プロジェクション毎に又は勾配磁場毎に、入力したスペクトラムのデータをメモリ13に格納する(S05)。なお、スペクトラムのデータは、メモリ13に格納する以外にも、例えば計測装置11内の記憶部に格納されてもよい。
【0031】
CPU12は、勾配磁場が無い場合のスペクトラムをフーリエ変換する(H)(S07)。勾配磁場がない場合のスペクトラムは、予め計測され、メモリ13に格納されることができる。また、ステップS03において計測装置11が、勾配磁場がない場合についてもESRスペクトラムを取得してもよい。また、CPU12は、各プロジェクションのスペクトラムをそれぞれフーリエ変換する(F)(S09)。なお、CPU12は、ステップS07及びS09においてメモリ13から各スペクトラムを読み出してフーリエ変換し、及び、フーリエ変換されたデータを適宜メモリ13に記憶しておくことができる。
【0032】
CPU12は、低域通過フィルタ(W)の遮断周波数を設定する(S11)。例えば、CPU12は、予め定められた範囲の遮断周波数を例えば、低い方から順に所定の刻み幅で設定していくことができる。また、複数の予め定められた遮断周波数のうちのひとつを順次設定する等、適宜複数の遮断周波数を順次切り替えていくことができる。
【0033】
CPU12は、各プロジェクションデータについてF(n)W(n)/H(n)を計算する(S13)。ここで、F(n)は、上述のステップS09で得られたデータ、W(n)は、上述のステップS11で設定された遮断周波数の低域通過フィルタ、H(n)は、上述のステップS07で得られたデータである。また、nは、離散空間のデータ番号を示す。CPU12は、ステップS13で計算されたデータに基づいて、画像再構成を行う(S15)。なお、画像再構成については、従来の画像再構成と同様とすることができる。
【0034】
ここで、画像再構成とは、例えば、ステップS13のデータを、正方形の範囲内の格子状の点での値に内挿した後に二次元逆フーリエ変換を行うことにより、二次元画像を得ることをいう(フーリエ変換再構成法)。画像再構成に用いる手法は複数あり、フーリエ変換再構成法の他に、ステップS13のデータを、各プロジェクション毎に逆フーリエ変換し実空間での磁場勾配方向の信号分布を得た後に、それらの信号分布を重ね合わせる事により、二次元画像を得ることも可能である(フィルタードバックプロジェクション法)。また、その他に、例えば反復再構成法と呼ばれる手法があり、同時補正法、線補正法、点補正法などの変形が知られている。なお、これらの手法以外にも適宜の手法を用いることができる。これらの画像再構成法は、フィルタードバックプロジェクション同様に、実ステップS13のデータを、各プロジェクション毎に逆フーリエ変換し実空間での磁場勾配方向の信号分布を得た後に、適用することが可能である。
【0035】
CPU12は、再構成された画像の周辺部分での雑音の振幅を検出し、振幅の最大値(又は実効値又は平均値)をメモリ13に収納する(S17)。例えば、CPU12は、雑音の振幅として、図1におけるFOV21内のAOI22を除くエリア23の振幅を検出する。また、CPU12は、ステップS11で設定された遮断周波数を用いて、点広がり関数の実効幅を計算し、メモリ13に収納する(S19)。例えば、CPU12は、上述の図4の説明で述べたように点広がり関数の実効幅を計算する。
【0036】
CPU12は、点広がり関数の実効幅と雑音の振幅の積をとることにより評価関数を求める(S21)。なお、点広がり関数の実効幅と雑音の振幅とは、それぞれメモリ13から読み込むことができる。また、CPU12は、求められた評価関数を、遮断周波数に対応してメモリ13に記憶する。CPU12は、指定された遮断周波数の範囲の計算が終了していなければステップS11へ戻る(S23)。一方、CPU12は、指定された遮断周波数の範囲の計算が終了していればステップS25の処理へ進む(S23)。
【0037】
図6に移りステップS25では、CPU12は、メモリ13を参照し、評価関数が最小となる遮断周波数を決定する(S25)。CPU12は、メモリ12に記憶されたスペクトラムのデータを読み出し、ステップS25で決定された遮断周波数を用いて、読み出されたスペクトラムのデータに基づいて再度画像再構成を行う(S27)。又は、CPU12は、ステップS15で再構成された画像を遮断周波数毎にメモリ13に記憶しておき、ステップS27では、決定された遮断周波数に対応する画像をメモリ13から読み出すようにしてもよい。さらに、CPU12は、再構成された画像のバックグラウンドを除去してもよい。例えば、CPU12は予め定められた閾値以下のデータを0とすることができる。なお、CPU12は、ステップS17において求められるノイズの最大値を遮断周波数毎にメモリ13に記憶しておき、決定された遮断周波数に対応するノイズの最大値に基づいて閾値を決定(例えば、ノイズの最大値の1.5倍など)してもよい。
【0038】
CPU12は、再構成された画像データをディスプレイ14に表示する(S29)。また、CPU12は、画像データをメモリ13へ記憶し(S31)、処理を終了する。さらに、CPU12は、画像データを出力部16へ出力してもよい。なお、ステップS29又はS31は、適宜省略してもよい。
【0039】
図7に、本実施の形態により画像再構成を行った2次元ESR画像の例を示す。
この例では、画像化する際には、9本のキャピラリー管に1、1−diphenyl−2−picrylhydrazyl(DPPH)粉末を挿入し、約3mmの間隔で発泡スチロールに差し込んだものを、測定対象物24として測定した。また、低域通過フィルタとして、Hamming(ハミング)フィルタ関数を使用した。
【0040】
図7(a)は、サンプルの各キャピラリー管の信号強度を示す。図7(b)は、決定された遮断周波数24での画像を示す。ここでは、最大値を1として、しきい値を10.7%とし、それ以下のデータを0とした。図7(c)に、比較のために、遮断周波数を20〜28まで2刻みで変化させた場合の、画像に現れる雑音の変化を示す。なお、ここでは雑音の違いを表示するためにしきい値を0としている。中央の画像(遮断周波数24)が、本実施の形態による方法により得られた遮断周波数による画像である。図7(c)には、決定される周波数よりも低い遮断周波数と高い遮断周波数での画像を示してある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えば電子スピン共鳴イメージング装置に関する産業に利用可能である。また、本発明は、例えばフリーラジカルに関する疾患の画像診断装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】電子スピン共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】評価関数が記憶されるテーブルの構成図。
【図3】評価関数の説明図。
【図4】点広がり関数の実効幅の算出の説明図。
【図5】遮断周波数の自動決定のフローチャート(1)。
【図6】遮断周波数の自動決定のフローチャート(2)。
【図7】自動的に低域通過フィルタ関数の遮断周波数を求めて再構成された2次元ESR画像の例。
【符号の説明】
【0043】
11 計測装置
12 処理部
13 メモリ
14 ディスプレイ
15 入力部
16 出力部
21 FOV(Field−of−View)
22 AOI(Area−of−Interest)
23 周辺部分(ノイズの検出範囲)
24 測定対象物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物のESRスペクトラムを計測する計測装置と、
低域通過フィルタの遮断周波数を設定し、該低域通過フィルタを用い、前記計測装置で計測された各ESRスペクトラムに基づきESR画像を再構成する処理部と、
遮断周波数と、求められる評価関数とが対応して記憶されるメモリと
を備え、
前記処理部は、
低域通過フィルタの遮断周波数を順次設定し、
遮断周波数毎に、前記計測装置で計測されたESRスペクトラムに基づき、設定された遮断周波数の低域通過フィルタを用いてESR画像信号を再構成し、該ESR画像信号のノイズの最大値又は実効値又は平均値を求め、
遮断周波数毎に、設定された遮断周波数の低域通過フィルタと予め定められたデルタ関数とを空間周波数領域で掛け合わせ、さらに逆フーリエ変換して得られる点広がり関数を求めて、該点広がり関数の実効幅を求め、
遮断周波数毎に、求められたノイズの最大値又は実効値又は平均値と、求められた点広がり関数の実効幅とを乗算することにより評価関数を求めて、遮断周波数に対応して評価関数を前記メモリに記憶し、
前記メモリを参照して評価関数が最小となる遮断周波数を求め、
該遮断周波数に低域通過フィルタを設定し、該低域通過フィルタを用いて、前記ESRスペクトラムに基づいて再構成されたESR画像を得る
電子スピン共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記処理部は、
再構成されたESR画像信号に基づき、測定対象物が挿入される予め定められた領域の外側の領域での信号振幅の最大値又は実効値又は平均値を検出して、ノイズの最大値又は実効値又は平均値とする請求項1に記載の電子スピン共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−223444(P2006−223444A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38973(P2005−38973)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(505057657)
【Fターム(参考)】