説明

電子スピン検出器並びにそれを用いたスピン偏極走査電子顕微鏡及びスピン分解光電子分光装置

【課題】本願発明の目的は、電子が持つスピンを高効率で分解でき、100kVレベルに電子線を加速する必要がない小型で安価に製作できる電子スピン検出器を提供することである。
【解決手段】電子スピン検出器は、複数の磁気抵抗素子504と、電子線の減速レンズ505を備え、各磁気抵抗素子504は減速レンズ505によって広がった電子線が垂直入射できるよう傾斜させて配置させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内で動作し、電子個々のスピンを検出する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン偏極走査電子顕微鏡(スピンSEM)やスピン分解光電子分光装置に用いられている電子線のスピン検出器として、モット検出器が知られているが、これは感度が電子検出器より4桁程度低い。そのため、その効率向上を目指してモット検出器の構造を工夫した研究が様々な研究所で進められている(例えば、非特許文献1)。しかし、現状ではせいぜい数倍程度の向上にとどまっており、今後も飛躍的な向上はのぞめそうもない。全く別のタイプのスピン検出器として、強磁性体にスピン偏極電子線を照射し、その際強磁性体に吸収される電流が入射電子線のスピン偏極度に依存する現象を利用した検出器が提案されている(例えば、非特許文献2)。その原理は、強磁性体のもつ電子バンド構造に入っていき易さが電子のスピンの向きで異なることに由来するが、その際の感度はやはりモット検出器より少し高いレベル、通常の電子検出器より3桁程度低かった(例えば、非特許文献3)。
【0003】
他方、近年ハードディスクの再生ヘッドやMRAMへの応用を期待した、多層膜構造を持つ磁気抵抗素子の開発が進んでいる。これらは前述のスピンの向きによる電流の違いを感度良く検出できるデバイスであり、これらを利用すれば通常の電子検出器と同レベルの感度を持つ、飛躍的に高感度のスピン検出器が開発できる可能性がある。実際、それを示唆した実験も行われている(例えば、非特許文献4)。また、測定する電子線を100kVレベルまで加速させなくてはいけないモット検出器と対照的に、磁気抵抗素子への入射電圧は1kV以下が望ましい。そのため、スピン検出器全体を小型で安価に製作できる可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−177539号公報
【非特許文献1】S. Qiao, A. Kimura, A. Harasawa, M. Sawada, J. G. Chung, and A. Kakizaki, Rev. Sci. Instrum. 68, 4390(1997).
【非特許文献2】Th. Dodt, D. Tillmann, R. Rochow and E. Kisker, Europhys. Lett. 6, 375(1988)
【非特許文献3】T. Furukawa and K. Koike, Jpn. J. Appl. Phys. 32, 1851(1993)
【非特許文献4】H.-J. Drouhin, J. Appl. Phys. 97, 063702(2005)
【非特許文献5】ジャーナル オブ フィジックス ディー、アプライド フィジックス 第35巻、第2327頁から第2331頁(2002)
【非特許文献6】レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスツルメンツ75号、2003頁(2004)
【非特許文献7】ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス35号、6314頁(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、図1に示すような磁気抵抗素子を利用したスピン検出器を、実際にスピンSEMや光電子分光に利用しようと想定した場合、電子線の持つアクセプタンスが問題になる。通常、電子のスピンに依存した伝導効果を強く出すために、磁気抵抗素子は数eVレベルの低電圧で動作させる。従って、例えば、数kVレベルの高加速で搬送した電子であっても、磁気抵抗素子に照射する寸前には減速せざるを得ない。その様子を図1に示す。電子線入射方向を100とする。測定するべきスピン偏極電子線101の搬送光学系102は例えば数kVレベルの電位におかれているが、磁気抵抗素子104に入射する際には例えば100V程度まで減速しなくてはいけない。
【0006】
従って、磁気抵抗素子104の電位を100V程度とすると、等電位線103は図1のようになり、これにより電子線自体も広がりが生じ、磁気抵抗素子104への入射角がばらばらになり、スピンに依存した抵抗の変化と、磁気抵抗素子104内での電子の進行方向の違いによる抵抗の変化が混ざり合い、検出感度の低下に繋がる。また、電子線自体の拡がりが生じると、一つの磁気抵抗素子の膜厚が製造ばらつきなどにより、中央付近と周辺付近とで異なるので、中央付近に入射された電子線によるスピンに依存した抵抗の変化と、周辺付近に入射された電子線によるその抵抗変化とは、電子線の拡がりがない場合に比べて一層大きなものとなる不具合が生じる。
【0007】
従って、現状では、充分な量の電子線を測定できるほどのアクセプタンスがなく、限られた条件の電子線にしか適用できない状況である。それ故、まだモット検出器を置き換えるようなスピン検出器には至っていない。
【0008】
そこで、本願発明の目的は、電子が持つスピンを高効率で分解でき、また100kVレベルに電子線を加速する必要がない小型で安価に製作できる電子スピン検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、上記の課題を解決するために、複数の磁気抵抗素子と、電子線の減速レンズを備え、磁気抵抗素子は角度を持たせて配置する構成とするスピン検出器、及びそれを用いた応用装置を構成する。入射電子線に対面するように複数の磁気抵抗素子を配置するが、減速した電子線は横方向への広がりを持つので、光軸から離れた場所に配置する磁気抵抗素子ほど、検出面を光軸側に傾けた構成にすると、すべての磁気抵抗素子に垂直入射に近い角度で電子線が入射することができる。
【0010】
また、電子源から放射された電子線を加速し所定の方向に搬送する搬送光学系と、搬送光学系を通過した電子線を減速させる減速レンズと、減速された電子線を検知する複数の磁気抵抗素子とを備える電子スピン検出器である。磁気抵抗素子は、搬送光学系の光軸と交わる仮想面内に配置され、磁気抵抗素子の各々の検出面に対する垂線と搬送光学系の光軸方向とのなす角度が、光軸から離れるほど大きくなるように磁気抵抗素子の検出面が搬送光学系方向に向けて配列されている。
【0011】
また、電子源から放射された電子線を加速し所定の方向に搬送する搬送光学系と、搬送光学系を通過した電子線を減速させる減速レンズと、減速された電子線を検知する複数の磁気抵抗素子とを備える電子スピン検出器である。磁気抵抗素子の各々の検出面に接する仮想法絡線は、電子線の進入方向から見て凹面の形状となるように磁気抵抗素子の検出面が進入方向に向けて配列されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子が持つスピンを高効率で分解でき、また100kVレベルに電子線を加速する必要がない小型で安価に製作できる電子スピン検出器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、電子の持つスピンを高効率で分解する検出器を提供する。本発明の種々の実施例を説明する前に、本発明で取り上げる磁気抵抗素子自体の基本構造の例を図2から図4に示す。図2で示すのは、現在、GMR(Giant Magneto Resistance)素子として知られている磁気抵抗素子の構造である。基本は3つの膜からなり、一番下にあるのが下地層201の上に作製された磁性層202(例えばCoFeなど)で、この層の磁化、すなわちスピン分極はその下地層201との相互作用などによりある方向に固定されている。その上に例えばCuなどの非磁性層203があり、一番上にCoFeなどの磁性層204がある。この磁性層204のスピン分極の向き208は、外部磁場などの状況に応じて変化できるようにしておく。そして、非磁性層203を挟んだ2つの磁性層間に電圧をかけておき、それらのスピン分極の向きが平行の場合は抵抗が低く電流が多く流れ、反平行の場合は抵抗が高く流れる電流量は少なくなる。他の磁気抵抗素子としてTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子が有名であるが、これも構造はほぼ同じで、非磁性層203が例えばMgOなどの絶縁体である点が違いである。このような磁気抵抗素子は、一番上の層204のスピン分極を動かすことにより、MRAMなどでは情報を記録するメモリーとして、HDDなどでは外部磁場を検出する再生素子として使われている。
【0014】
この磁気抵抗素子をスピン検出器として用いる場合は、測定する電子線を一番上の磁性層204に入射させる。この電子線のエネルギーが非常に弱い場合、その電子が下の磁性層へ電流として流れるか否かはその電子の持つスピンの向きによる。つまり下の磁性層202内のスピン分極の向き207と平行な向きのスピンを持つ電子206であれば、下の磁性層202へと流れることができるが、反平行のスピンを持つ電子205の場合は流れにくくなる。このようにこの磁気抵抗素子に流れる電流を検出することで、入射電子のスピンの向きを検出することができる。注意しなくてはいけないのは、入射する電子線のエネルギーが高い場合、いきなり一番下の磁性層202、或いはその下まで電子線が入ってしまい、そのスピンの向きによる抵抗の違いが検出できなくなってしまう。従って入射電子線のエネルギーは低い方がいい。
【0015】
上記の原理からすると、磁気抵抗素子は必ずしも図2のような3層膜の構成でなくてもよい。つまり、図3に示すように、一番上の層がなく、一番下の磁性層302と中間層303の2層構成でもよい。また図4に示すように、中間層もなく、一番下の磁性層402だけでもよい。この場合は、真空から直接試料表面に電子が入射できるか否かが入射電子と試料の磁化の向きで決まる、SPLEEM(Spin-Polarized Low Energy Electron Microscopy)の検出原理と同様である(非特許文献5)。この構造は簡単であるが、検出感度は3層構造のものよりも低くなる。なお、図3と図4において、図2と同様の構造であって特に説明を要しないものについては、図2と対応する符号の説明を省略した。
【0016】
図5に、上記磁気抵抗素子を電子線のスピン検出器として用いるように配置した本発明の基本構造を示す。被測定電子線501は左側から、搬送光学系502によって例えば10kVレベルで搬送されてくる。この場合電子線の搬送効率を上げるためには電子線を細く絞る必要があり、加速電圧はある程度高くなる必要がある。しかし磁気抵抗素子504でスピンの向きを検出する際には電子線のエネルギーを低くしなくてはいけないので、磁気抵抗素子へ入射する直前に減速レンズ505を配置している。ここで電子線501を減速すると、等電位線503が湾曲し、それにより電子線の開き角は大きく、ビーム径は広がってしまう。
【0017】
そこで、どの位置でも電子線501が磁気抵抗素子504にほぼ垂直に入射できるように、各磁気抵抗素子504に角度を持たせて配置するようにした。この図は2次元的に磁気抵抗素子504の位置を示しているが、実際には3次元的に、パラボラアンテナのような形状を形作っている。つまり光軸から離れた位置にあるものほど、大きく光軸側に傾けている。各磁気抵抗素子504からの信号を足し合わせたものを、最終的にスピン偏極度を検出する信号としている。当然、磁気抵抗素子504の大きさを細かくして数を多くし、滑らかなパラボラアンテナ形状を作った方が、より正確に垂直入射を実現できる。しかし製作・組み立てがより困難になるのでその場合は求める検出感度との兼ね合いで個数を決めることになる。この構成により、低加速にしてビーム径が大きくまた開き角も大きな電子線に対しても磁気抵抗素子を用いたスピン検出器を適応することができ、このスピン検出器の弱点であったアクセプタンスの小ささを克服できる。
【0018】
また、図6を用いて、実際に磁気抵抗素子604が配置される位置や角度の例を示す。仮に、スピンSEMでの2次電子スピン偏極度の測定に適用した場合、例えば2次電子が搬送される際のエネルギーは3kV、ビーム径は4mm、開き角は3.5度であったとすると、それをエネルギー30V程度まで減速させた場合はビーム径40mm、開き角は35度程度になる。そのため、図6のような配置が考えられる。
また、実際に検出される信号の取り扱いに関して説明する。磁気抵抗素子のひとつに関して、磁気抵抗率Rは以下のように定義できる。
【0019】
R=(R+−R)/(R++R
ここで、R+ は図2で一番下の磁性層のスピン分極と逆向きのスピン偏極度を持つ電子線に関しての抵抗(高抵抗状態)で、Rはその磁性層のスピン分極と同じ向きのスピン偏極度を持つ電子線に関しての抵抗(低抵抗状態)である。このRは各磁気抵抗素子の感度に関わるパラメータである。
実際に計測される量は、各磁気抵抗素子が検出する電流である。磁気抵抗素子に入射する電流量をI0(予めファラデーカップなどで測定しておく)、磁気抵抗素子が検出する電流をIDとすると、求めるべき入射した電子線のスピン偏極度Pは
P=(ID / I0−B)/C
となる。ここで、Bは無偏極の電子線を入射した場合にスピン偏極度がゼロとなるように設定されるオフセット値で、Cは各磁気抵抗素子の感度に依存する定数で、基本的には各磁気抵抗素子のRに比例する。このようにして各磁気抵抗素子に関して求めたPを、全体で平均したものが求めるスピン偏極度となる。
【0020】
以下、図5と同様の構造であって特に説明を要しないものについては、図5と対応する符号の説明を省略ずる。
【0021】
図7に本発明の実施例を示す。図5のようなパラボラアンテナ形状の配置ではなく、磁気抵抗素子704の検出面自体は傾斜させて配置させるが、配置させる位置は平面状に並べているものである。スピン検出器全体の体積を小さくできる利点がある。検出感度自体は図5の実施例のものと殆ど変わらない。
【0022】
図8には本発明の別の実施例を示す。減速レンズはこの図では省略されている。ここでは、図5に示した実施例と基本的には同じ構成であるが、各磁気抵抗素子804の前にアパーチャ805をおいている。アパーチャとは、磁気抵抗素子の大きさよりも小さな孔を有し、その孔が磁気抵抗素子の各々に対応するように設けられている。このため、入射電子線801の一部がカットされてしまうが、より磁気抵抗素子に垂直方向に入射する電子のみを選別して検出することになる。電子線数が充分多く、入射角度のばらつきを極力抑えたい場合に有効な実施例である。
【0023】
図9は本発明の別の実施例である。前述した手法では、磁気抵抗素子の磁性膜の持つスピン分極方向のスピンしか分解できない。本発明による電子スピン検出器で他の方向のスピンを分解するためには、入射する前に検出不可能方向のスピンを検出可能方向に回転させる必要がある。このような役目を果たせるスピン回転器を1つ或いは2つ(902や903)、本発明による電子スピン検出器の前に配置することにより、他の方向のスピンも検出できる。
【0024】
スピン回転器としては、電場と磁場がお互いと電子軌道に直交したウィーンフィルタと呼ばれるエネルギー分析器と同様の構造をしたもの(非特許文献6)や、ソレノイドコイルなどが考えられる。ウィーンフィルタタイプのもの2つ、或いはウィーンフィルタタイプとソレノイドタイプとの組み合わせにより、どのような方向を向いている電子スピンでも、本発明による電子スピン検出器で検出できる方向に向かせることができる。
【0025】
例えば、図9において、磁気抵抗素子の磁性膜の持つスピン分極方向を紙面縦方向906とし、入射電子のスピンの向きが電子軌道に平行901であるとする。このとき、スピン回転器902,903により電子スピンを紙面縦方向へ回転させることにより、電子軌道に平行なスピン成分を検出することができる。この他に、電子スピンを図9において電子軌道方向を回転軸に90度回転させれば、紙面垂直方向のスピン成分を検出できる。以上の3方向のスピンを検出することにより、電子がもつスピンの向きを3次元的に決定することができる。
【0026】
図10に本発明における電子スピン検出器を搭載したスピン偏極走査電子顕微鏡の実施例を示す。スピン偏極走査電子顕微鏡とは、磁性体試料から放出された2次電子の持つスピン偏極度をマッピングすることにより磁区像を得る装置で、例えば特許文献1(特開昭60-177539)等でその概要は公開されている。電子銃1001から放出された1次電子線1002は試料ステージ1003にセットされている試料1004に照射される。ここまでは通常のSEMと同じであるが、スピン偏極走査電子顕微鏡では試料近辺に2次電子収集光学系1005を配置し、極力多くの2次電子1006を搬送し、それらのスピンを分解する必要がある。そのため、2次電子1006を搬送する2次電子搬送光学系1007を配置し、それら光学系のレンズ特性を調節しながらスピン検出系に搬送しなくてはいけない。2次電子収集光学系1005並びに2次電子搬送光学系1007の各電子レンズに印加するべき電圧の一例を図に示している。
【0027】
2次電子1006はその後スピン回転器1008に到達し、検出したい電子スピンの成分を電子スピン検出器1009で検出可能な方向に回転させた後、電子スピン検出器1009へ搬送される。スピン回転器1008は前述のように2つ搭載すると、どの方向のスピンも検出可能方向に向けることができる。電子スピン検出器1009からの信号は信号処理システム1010に入って、画像処理システム1011で磁区像が作成される。この画像処理システム1011は、スピン回転器も制御し、どの方向のスピンを画像化するかを選択できるようにしておく。
【0028】
またこの画像処理システム1011は、電子銃1001を制御する電子線コントローラー1012にも繋がっており、1次電子線1002の試料上の位置と信号処理システム1010からの信号を融合させて磁区像を作り出している。尚、1次電子線1002や試料ステージ1003、試料1004、2次電子1006、2次電子収集光学系1005、2次電子搬送光学系1007、スピン回転器1008、電子スピン検出器1009を覆っている真空チャンバは本図では省略している。上記のスピン偏極走査電子顕微鏡は既に報告されている技術ではあるが、本発明による電子スピン検出器1009を搭載することにより、従来よりも格段にS/Nの良いデータを得ることができ、また短時間での大量のデータ取得が可能となる。
【0029】
図11に本発明おける電子スピン検出器を搭載した光電子分光装置の実施例を示す。光源1101より放出された電磁波1104は、集光光学系1102を経た後、超高真空チャンバ1103内にセットされている試料1105に照射される。それにより励起された光電子は電子レンズ1106で集光され、所望のエネルギーを有する光電子を所定の方向に搬送するエネルギー分析器1107を経た後、電子スピン検出器1108に入射する。電子スピン検出器1108からの信号は信号処理システム1109やシステム制御用コンピュータ1110を経て、データ保存部1112に保存される。またシステム制御用コンピュータ1110は光源制御部1111もコントロールしている。この方式はスピン分解光電子分光として知られている手法であるが(非特許文献7)、電子スピン検出器1108として従来はモット検出器を使っており、その感度は充分ではない。本発明による電子スピン検出器1108を搭載することにより、従来よりも格段にS/Nの良いデータを得ることができ、また短時間での大量のデータ取得が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の磁気抵抗素子を用いた電子スピン検出器を、スピンSEMなどに応用した場合の、測定体系並びに電子軌道を想定した図である。
【図2】本発明の電子スピン検出器に用いる磁気抵抗素子の構造例を示す図である。
【図3】本発明の電子スピン検出器に用いる磁気抵抗素子の構造例を示す図である。
【図4】本発明の電子スピン検出器に用いる磁気抵抗素子の構造例を示す図である。
【図5】本発明の電子スピン検出器における磁気抵抗素子と減速レンズの配置例を示す図である。
【図6】本発明の電子スピン検出器における磁気抵抗素子の配置例を示す図である。
【図7】本発明の電子スピン検出器における磁気抵抗素子と減速レンズの配置例を示す図である。
【図8】本発明の電子スピン検出器における磁気抵抗素子と減速レンズの配置例を示す図である(磁気抵抗素子の前にアパーチャを配している)。
【図9】本発明の電子スピン検出器における磁気抵抗素子と減速レンズの配置例を示す図である(2つのスピン回転器と組み合わせている)。
【図10】本発明の電子スピン検出器をスピン偏極走査型電子顕微鏡に応用した構成の例を示す図である。
【図11】本発明の電子スピン検出器をスピン分解光電子分光装置に応用した構成の例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
100…電子線進行方向、101…電子線、102…搬送光学系、103…等電位線、104…磁気抵抗素子、
201…下地層、202…磁性層、203…非磁性膜或いは絶縁膜などの中間層、204…磁性層、205…一番下の磁性層のスピン分極と逆向きのスピンを持つ電子、206…一番下の磁性層のスピン分極と同じ向きのスピンを持つ電子、207…スピン分極、208…スピン分極、
301…下地層、302…磁性層、303…非磁性膜或いは絶縁膜などの中間層、305…磁性層のスピン分極と逆向きのスピンを持つ電子、306…磁性層のスピン分極と同じ向きのスピンを持つ電子、307…スピン分極、
401…下地層、402…磁性層、405…磁性層のスピン分極と逆向きのスピンを持つ電子、406…磁性層のスピン分極と同じ向きのスピンを持つ電子、407…スピン分極、
500…電子線進行方向、501…電子線、502…搬送光学系、503…等電位線、504…磁気抵抗素子、505…減速レンズ、
604…磁気抵抗素子、
700…電子線進行方向、701…電子線、702…搬送光学系、703…等電位線、704…磁気抵抗素子、705…減速レンズ、
800…入射電子線進行方向、801…電子線、802…搬送光学系、803…等電位線、804…磁気抵抗素子、805…アパーチャ、
901…電子線、902…スピン回転器、903…スピン回転器、904…磁気抵抗素子、905…減速レンズ、
1001…電子銃、1002…1次電子線、1003…試料ステージ、1004…試料、1005…2次電子収集光学系、1006…2次電子、1007…2次電子搬送光学系、1008…スピン回転器、1009…電子スピン検出器、1010…信号処理システム、1011…画像処理システム、1012…電子線コントローラー、
1101…光源、1102…集光光学系、1103…超高真空チャンバ、1104…電磁波、1105…試料、1106…電子レンズ、1107…エネルギー分析器、1108…電子スピン検出器、1109…信号処理システム、1110…システム制御用コンピュータ、1111…光源制御部、1112…データ保存部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源から放射された電子線を加速し所定の方向に搬送する搬送光学系と、
前記搬送光学系を通過した前記電子線を減速させる減速レンズと、
前記減速された電子線を検知する複数の磁気抵抗素子とを備え、
前記磁気抵抗素子が前記搬送光学系の光軸と交わる仮想面内に配置され、
前記磁気抵抗素子の各々の検出面に対する垂線と前記搬送光学系の光軸方向とのなす角度が、前記光軸から離れるほど大きくなるように前記磁気抵抗素子の検出面が前記搬送光学系方向に向けて配列されていることを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項2】
電子源から放射された電子線を加速し所定の方向に搬送する搬送光学系と、
前記搬送光学系を通過した前記電子線を減速させる減速レンズと、
前記減速された電子線を検知する複数の磁気抵抗素子とを備え、
前記磁気抵抗素子の各々の検出面に接する仮想法絡線が、前記電子線の進入方向から見て凹面の形状となるように前記磁気抵抗素子の検出面が前記進入方向に向けて配列されていることを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項3】
請求項2に記載の電子スピン検出器であって、
前記複数の磁気抵抗素子は、前記減速レンズの直後に配置されることを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項4】
請求項2に記載の電子スピン検出器であって、
前記減速レンズによって拡がった電子線が前記複数の磁気抵抗素子の各々にほぼ垂直に入射するように、前記複数の磁気抵抗素子が前記搬送光学系の光軸方向に対してそれぞれ異なる角度を持って配置されていることを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項5】
請求項4に記載の電子スピン検出器であって、
前記角度は、前記搬送光学系の光軸より離れた位置に配置された前記磁気抵抗素子ほど、前記光軸方向に傾斜するような角度であることを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項6】
請求項2に記載の電子スピン検出器であって、
前記複数の磁気抵抗素子の前記進入方向側に、前記磁気抵抗素子の大きさよりも小さな孔を有し、該孔が前記磁気抵抗素子の各々に対向するように設けられたアパーチャが配置されていることを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項7】
請求項2に記載の電子スピン検出器において、
前記複数の磁気抵抗素子に前記電子線が入射する前に、前記電子線の電子スピンの向きを回転させる手段を有することを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項8】
請求項2に記載の電子スピン検出器であって、
前記複数の磁気抵抗素子に前記電子線が入射する前に、前記電子線の電子スピンの向きを回転させる手段が直列に2つ配置されていることを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項9】
請求項7に記載の電子スピン検出器において、
前記電子線の電子スピンの向きを回転させる手段が、電場と磁場を直交させる機構を持つウィーンフィルタタイプのものを少なくとも一つ含むことを特徴とする電子スピン検出器。
【請求項10】
電子線を放射する電子銃と、
前記電子銃から放射され試料ステージに載置された試料に照射される1次電子線と、
前記1次電子線の照射により前記試料表面から放射される2次電子線と、
前記2次電子線を加速し所定の方向に搬送する2次電子搬送光学系と、
前記2次電子搬送光学系を通過した電子線の電子スピン回転に変化を与えるスピン回転器と、を有し、
前記スピン回転器を通過した電子線を検出する検出器に請求項1に記載の電子スピン検出器を用いることを特徴とするスピン偏極走査電子顕微鏡。
【請求項11】
電磁波を放出する光源と、
超高真空チャンバ内に設置され試料に照射する前記電磁波を搬送する集光光学系と、
前記試料に照射されて励起された光電子を集光する電子レンズと、
集光された前記光電子のうち所望のエネルギーを有する光電子を所定の方向に搬送するエネルギー分析器と、を有し、
前記エネルギー分析器を通過した光電子を検出する検出器に請求項1に記載の電子スピン検出器を用いることを特徴とするスピン分解光電子分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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