説明

電子レンジ炊飯可能な加工米の製造法

【課題】 本発明の目的は、短時間加熱することで炊き立ての風味の米飯や粥を簡単に得ることができる加工米の製造法を提供することである。
【解決手段】 本発明は、低アミロース米を米澱粉の糊化温度以下の品温に保ったまま吸水させた後、真空度200〜320Paで凍結乾燥することを具備する加工米の製造法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通常の炊飯器や鍋を用いた炊飯ができるだけでなく、電子レンジを使用して簡便に短時間で炊飯することができる加工米の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、調理の手間が省け、簡単に喫食できる食品に対してニーズが高まっている。そのような食品の研究および開発が進められ、多数の製品が市場に出回っている。米飯に関しても、喫食のための手間が省かれた製品が開発されている。
【0003】
その1つとして、無菌米飯およびレトルト米飯が挙げられる。これらの加工米飯は、既に炊飯した米飯を包装したものである。これらを喫食するには、従来のように電気釜で炊飯する必要がなく、電子レンジや湯煎を用いて加熱するなど、簡便な調理を行うだけでよい。しかし、これらは、既に調理した米飯を再加熱して喫食するものであり、従来のように電気釜等で炊飯した米飯と比較すると風味の点で明らかに劣るものである。
【0004】
また、即席米および乾燥粥と呼ばれる加工米飯も開発されている。これらは、既に炊飯した米飯に凍結乾燥処理または膨化処理を施したものであり、食感、風味および価格などの点から、これらは主に加工食品向けの素材としての使用に限られている。
【0005】
炊飯前における洗米を省くという観点から、予め精米の肌糠が除去され、洗米を行うことなく炊飯することができる米も開発されている。これは無洗米と呼ばれるものである。予め肌糠が除去された以外は従来の精米と同様に炊飯して喫食するものであるため、従来の米飯に劣らない食味を実現できるものである。しかしながら、簡便性に関する利点は、主に洗米が省略されることのみである。つまり、従来の精米を扱う場合と同様に、水への浸漬および炊飯に1時間以上要し、炊飯釜など特別な炊飯器具を使用する必要があり、および炊飯するごとに炊飯器具の洗浄が必要である。
【0006】
また、炊飯の時間を短縮することができる、早炊き米と呼ばれる加工米の開発も行われている。これらは澱粉の一部をアルファ化させた米であり、炊飯釜を用いた炊飯時間を通常の半分程度としたものである。
【0007】
特許文献1には、浸漬して十分吸水させた米を5〜20分蒸煮して、米粒の表面部のみをアルファ化して中心部はβ澱粉の状態に止めたものを50〜70℃で乾燥し水分含量を約13〜15%にした早炊き米について記載されている。
【0008】
特許文献2には、玄米および搗精米を水または温湯に浸漬した後凍結し、減圧乾燥する早炊き米の製造方法について記載されている。
【0009】
特許文献3には、生米にマイクロ波を照射してこの生米の表面に微細な亀裂を生じさせ、この亀裂を生じたマイクロ波加工米を数時間浸漬した後、乾燥することからなる電子レンジ炊飯用早炊き米の製造方法が記載されている。
【0010】
しかしながら、これらの方法により得られた早炊き米は、風味や食感において、炊き立ての米飯には劣る。そのため、風味、食感および品質に優れた加工米の提供が求められている。
【特許文献1】特公昭42−27281号公報
【特許文献2】特公昭60−10695号公報
【特許文献3】特開2003−164263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、短時間加熱することで炊き立ての風味や食感などの品質に優れた米飯や粥を簡単に得ることができる加工米の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための手段は、低アミロース米を米澱粉の糊化温度以下の品温に保ったまま吸水させた後、真空度200〜320Paで凍結乾燥することを具備する加工米の製造法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、短時間加熱することで炊き立ての風味の米飯や粥を簡単に得ることができる加工米の製造法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、低アミロース米に糊化温度以下の温度で吸水させ、次いでこれを真空度を調節しながら凍結乾燥することを具備する加工米の製造法である。
【0015】
本発明による加工米の製造法において低アミロース米を原料米とする。一般的なうるち米の澱粉はアミロースが17〜23%含まれているが、低アミロース米ではアミロースが3〜17%程度含まれており、特に本発明ではアミロースが7〜12%程度の米を原料とすることが好ましい。
【0016】
本発明で使用できる低アミロース米の品種としては、例えば、ミルキークイーン、はなぶさ、彩、あやひめ、スノーパール、シルキーパール、たきたて等を使用でき、特にあやひめが好ましいが、これらに限定するものではない。
【0017】
本発明において、原料米として、玄米から糠を除去した精米、および精米から肌糠を除去した米を使用できるが、特に肌糠を除去した米を使用することが好ましい。
【0018】
肌糠を除去した米は、何れの肌糠を除去する方法によって得られた米であってもよい。例えば、肌糠を除去した米は、精米を流水等によって洗米したもの、または無洗米を使用してよい。
【0019】
通常の精米を洗米して使用する場合、洗米によって吸水した米粒は、その後水を切った状態に放置すると割れを生じ易い。従って、洗米終了後、そのまま洗米水に浸漬するか、迅速に別容器等に移して続く吸水工程を行う等、割れを防ぐ方法を適宜選択することが好ましい。浸漬時に、米粒に酸化防止剤、糖類および調味料等を含浸させる工程を設けることも可能であるが、特にこの場合には、洗米を短時間で行うか、あるいは無洗米を使用し、洗米の工程を省略することが好ましい。
【0020】
無洗米とは、玄米から糠を除去した精米に、さらに肌糠を除去する処理を施すことで得られるものである。無洗米の製法は大きく分けて以下の4つの製法が知られている:1.BG精米製法(肌糠の粘着力を利用して肌糠をはがし取る方法);2.NTWP加工法(肌糠を少量の水でぬらし、粒状のタピオカにつけてとる方法);3.水洗い乾燥法・湿式法(肌糠を水で洗い落として乾燥させる方法);4.準無洗米の製法(研磨機などでお米をこすって肌糠を取る方法):(全国無洗米協会のホームページより;http://www.musenmai.com/musenmai.html)。これら4つの製法による無洗米を含む、あらゆる無洗米が本発明に使用可能であるが、品質、コストおよび流通量の観点から、BG精米製法によって得られた無洗米を使用することが好ましい。
【0021】
本発明における加工米の製造法では、まず原料米に吸水を行わせる。この吸水は、米澱粉が糊化することを防ぐため、品温を糊化温度以下に保って行う。ここに言う「品温」とは、浸漬させる水の温度ではなく、原料米の温度であり、温度センサー等の温度計を原料米中に挿して測定することができる。
【0022】
米澱粉の糊化温度は一般に65〜70℃といわれている。本発明による吸水時における品温は、65℃以下をいい、例えば、25℃〜60℃であればよい。本発明による吸水時間は、吸水が十分行われる時間であればよく、例えば、約30分から90分程度でよい。なお、米粒は吸水時やその後の凍結乾燥工程により脆い物性となるため、予め洗米を70℃程度の糊化開始温度の温水に2分間程度浸漬し、米粒表面を軽度に糊化することで耐脆弱性を付与し、次いで25℃〜60℃の水に浸漬吸水させることも可能である。
【0023】
原料米に吸水させる浸漬液には、必要によりビタミンEなどの酸化防止剤、トレハロースやソルビットなどの糖類、食塩、澱粉の老化防止のためのショ糖脂肪酸エステル、醤油および/またはダシ等の調味料等を添加し、米粒にこれらを吸収させることが可能である。この酸化防止剤等の吸収は浸漬液に添加する方法の他に、水切りした吸水米に添加して、穏やかに動揺混合することでも行うことができる。
【0024】
工業的に吸水を行う方法は、加熱ジャケット付のニーダーおよび温水シャワーを用いる方法や、容器等に原料米および浸漬液を入れる方法など、適宜選択できる。
【0025】
原料米の水分含量は、吸水前は15重量%程度であるが、吸水によってほぼ飽和状態である25〜35重量%となる。この吸収された水分は、続く凍結乾燥の工程にて微細な氷結晶と成り、これが昇華することで米粒に細孔が生じ、炊飯に必要な水分がこの細孔から迅速に吸収される。
【0026】
吸水が終了した後、吸水した原料米を凍結乾燥する。凍結乾燥は、一般的に使用される凍結乾燥機を用いて行うことができる。吸水による余分な水分を切った後、原料米を凍結乾燥用のトレイに載せて凍結乾燥を行う。凍結にかかる時間が長くなる程、生成される氷結晶が大きくなり、その結果、米粒の破壊が生じやすくなる。そのため、凍結乾燥に先立ち、予備凍結によってすばやく凍結させることが好ましい。特に、予備凍結は急速凍結であることが好ましい。
【0027】
凍結乾燥は、高い真空度で行う方が復元性が良いといった利点があるため、一般的には65Pa以下の真空度で行われる。しかしながら、本発明では200〜320Pa、好ましくは230〜300Paの真空度で凍結乾燥を行う。
【0028】
澱粉ゲル等のような保水性の高いゲルは、−20℃以上での不凍水量が非常に多いとされている(木村進「乾燥食品事典」朝倉書店、1984年3月1日発行、p.205)。従って、炊飯米の凍結乾燥において、凍結が弛緩し既乾多孔層が破壊されるコラップス温度(collapse temp.)もこの−20℃近辺にあると考えられる(前記文献、p.99〜101およびp.206)。この温度は氷の平衡蒸気圧に換算すると約103Paに相当する。
【0029】
本発明は上記のコラップス温度での乾燥挙動を利用する。炊飯米、すなわち澱粉ゲルでのコラップス温度が−20℃であるとするなら、未糊化の澱粉である米にあっては、そのコラップス温度は−20℃以上となるはずである。
【0030】
従って、そのコラップス温度近傍で凍結乾燥を行えば、炊飯に必要な水の迅速な吸水を可能とし、且つ割れなどの食感低下に繋がる米粒の形状破壊を生じさせない多孔質乾燥体が得られる。
【0031】
すなわち、通常の凍結乾燥で行われる40〜65Paの高真空は、氷温に換算すると−30℃近辺の蒸気圧となる。
【0032】
このため米粒は既乾多孔層が破壊されず、きれいな多孔質となって強度が劣り砕米の発生原因となるが、コラップス温度近傍での凍結乾燥ではより微細な多孔質性がもたらされる。これは、既乾多孔層が部分的に破壊することで細孔が狭まるまたは閉塞するためだと考えられる。
【0033】
このため、本発明では吸水性と米粒の強度という相反する性質を満足しうる臨界値を研究した結果、真空度を200〜320Paとし、且つ凍結状態の吸水原料米の品温を、この真空度に相当する温度である−12℃〜−7℃として凍結乾燥を行うものである。
【0034】
特に、電子レンジを用いて短時間で炊飯可能な加工米を得るには、真空度が230〜300Paであって、この平衡蒸気圧に相当する吸水させた原料米の品温が約−11〜−8℃となるように凍結乾燥することが好ましい。
【0035】
凍結乾燥機を使用する際のその他の条件は適宜設定可能であるが、棚加熱温度は60〜65℃で行うことが好ましい。
【0036】
本発明によって製造される加工米は、好ましくは、水分含量が7%以下となる。また、膨化米およびα化米では、形状およびサイズが原料米のそれらと著しく異なるが、本発明によって製造される加工米は、原料米とほぼ同等の形状およびサイズとすることができる。
【0037】
本発明によって製造される加工米は、従来の早炊き米と異なり、炊飯のために特別な容器や炊飯釜を必要としない。例えば、お茶碗等に加工米を入れ1食分ずつ炊飯することが可能である。すなわち、お茶碗等に加工米を入れ、炊飯に必要な所定の量の水を加え、加工米に水を保持させ、電子レンジ等で短時間加熱し米澱粉を糊化させることで炊飯が完了する。加工米に水を加えたとき、加工米は急速に水を吸水することができる。また、本発明に係る加工米は、必要量を鍋に入れ短時間に炊飯してもよい。
【0038】
従来の早炊き米と呼ばれるものは、炊飯に必要な水を米粒に短時問で吸収させる目的で、米粒に微細な亀裂や細孔を設けている。しかしながら、このような米は、吸水させたときに胴割れが生じるという問題だけでなく、乾燥状態においても米粒白体が脆い物性となり砕米が発生するという問題がある。また喫食、咀醤時には、米粒が容易に潰れ、米飯の食感に大きく寄与する粒感が損なわれている。特に一般的に凍結乾燥を行った早炊き米では、炊飯すると粘りがなく噛み応えに欠けるという問題がある。逆に、亀裂や小孔を制限した場合、米の吸水速度が落ちるため、吸水量が不足する。その状態ですぐさま電子レンジ等で炊飯すると、激しい泡立ちが生じて吹きこぼれるため、通常の容器を用いて炊飯することは不可能である。
【0039】
この解決のため米粒に亀裂を入れた後、加熱によって米粒の一部、特に米粒の表面をアルファ化することで米の割れを防止する方法が提案されている。熱履歴を受けた糊化澱粉は生米の澱粉と異なるため、このような米を炊飯しても満足な風味の米飯は得られない。
【0040】
例えば、特許文献1に記載の早炊き米は、水分含量が13〜15%であり、炊飯に必要な水分を含んでいない。このため、炊飯に際して必要な水を添加することを要するが、この添加された水は、米の中に速やかに吸収されない。また、電子レンジを用いた炊飯を行った場合には、容器中の水が沸騰により容器から溢れ出し、満足できる炊飯はできない。
【0041】
また、特許文献2に記載の早炊き米は、玄米や精米を水または温湯に浸漬して凍結し、減圧乾燥して得られるものであるが、米粒が砕け、食感が損なわれるといった間題がある。この米の砕けを避ける目的で、浸漬工程の後に短時間蒸煮処理することが開示されている。しかしながら、そのような処理を行った場合でも、米粒に水分が十分合有されず、これに水を加えそのまま電子レンジで炊飯した場合、水分が先に沸騰し満足できる米飯を得ることは出来ない。このため、特許文献2の実施例2では、電子レンジを用いた炊飯を行う場合は、脱気用小孔を設けた耐熱性合成樹脂袋に早炊き米を入れて炊飯する方法を提案している。
【0042】
特許文献3に記載の早炊き米は、マイクロ波を照射して表面に微細な亀裂を生じさせたマイクロ波加工米を浸漬して乾燥することで得られる。しかし、このマイクロ波加工米は、微細な亀裂が、浸漬することで米粒の割れにつながり、これを炊飯すると、マイクロ波の加熱履歴と相まって、風味に問題が生じる。
【0043】
また、既に本発明者は、凍結処理した原料米を蒸煮し、次いでこの蒸煮米を吸収させて凍結乾燥する電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法であって、特に原料米を低アミロース米とする製造方法を提案している。この方法では、凍結による微細な亀裂および表面の軽微な糊化層を米粒に設けるため、風味的には生米を炊飯した米飯に近似したものが得られる。しかしながら、表面に糊化層が存在するため、粘りの点で通常の炊飯米の風味を再現することに難があった。
【0044】
本発明によれば、上記のような問題も解決することが可能である。即ち本発明によると、電子レンジを用いた炊飯であっても、通常の炊飯釜を用いて米を炊飯する際に生じる特有の炊飯臭を有するなど、従来の加工米になかった特徴を有した加工米を得ることができる。また、本発明によって製造される加工米は、従来の炊飯方法通り、鍋または炊飯釜を用いた炊飯も可能である。本発明によって製造される加工米は、何れの方法で炊飯しても、出来る米飯は、通常の釜炊き米飯と遜色のない食感、風味を有する。また、本発明に係る加工米は、乾燥後における硬度も高く、更に炊飯中、または炊飯後の米粒の砕けが従来の加工米に比べ非常に少ない。従って、流通時において優れた品質を保持することが可能である。更に、炊飯後の食感も、従来の加工米と比べて優れている。
【0045】
本発明による方法は、低アミロース米を使用するものである。低アミロース米は、うるち米に比べて粘性弾性および水との親和力が強い。低アミロース米を加熱した場合、米粒に生じた亀裂、特に表面にある亀裂部および細孔が結着するため、通常の炊飯米の形状が保持され、砕米および胴割れの発生が抑えられる。また、低アミロース米は、電子レンジで急激な加熱炊飯を行っても、うるち米に比べて適度に軟らかな食感および粘りを有する。
【0046】
以上のように、本発明によると、通常のうるち米には見られない特性を有する低アミロース米を原料米とし、この米を澱粉の糊化温度以下の温度で吸水させ、さらに真空度を通常の乾燥よりも低真空に調整しながら凍結乾燥することで、流通時や炊飯時に生じ得る胴割れや砕米の発生なしに短時間で炊飯に必要な水を吸水することができる加工米が得られる。
【0047】
これは低アミロース米の米粒が、ひび割れに対して抵抗性を有するだけでなく、電子レンジ加熱に適した糊化特性を有するためである。また特定の真空度で凍結乾燥を行うので、多孔質な米粒であっても通常の凍結乾燥で生ずる細孔よりさらに微細な細孔となる。炊飯に必要な水はこの微細孔を介して米粒内部に急速に吸水できるが、細孔が微小なため胴割れが発生し難いと考えられる。
【0048】
このような本発明に従う方法によると、特別な炊飯器を使用することなく、電子レンジで短時間加熱するだけで炊飯することが可能となる。また食味および食感の点でも、米に対して澱粉の糊化温度以上の加熱を行っておらず、生米から炊飯した飯米と同様な炊き立て風味および食感を有した品質を得ることができる。
【実施例】
【0049】
例1
低アミロース米「あやひめ」の無洗米100kgを水槽に投入し、さらに水温23℃の水100kgにビタミンE乳剤0.4kg、トレハロース0.7kg、ショ糖脂肪酸エステル製剤1.0kgを溶解した浸漬液を調製して米に加えた。浸漬を40分間行い、吸水させた後、吸水されなかった余剰な浸漬液を水切りして約129kgの吸水米を得た。
【0050】
次いでこの吸水米を凍結乾燥用トレイに移し、−35℃の冷凍庫で急速凍結を行った。これを凍結乾燥機のチャンバー内に入れ、真空度280〜300Pa、棚温度60℃の条件で乾燥し目的とする加工米85kgを得た。
【0051】
得られた加工米50gを家庭用の茶碗に入れ、これに水92gを加えた。加えた水はおよそ30秒程度で米粒にほぼ吸収された。この吸水米を出力500ワットの家庭用電子レンジを用いて3分30秒間加熱を行ったが、加熱時の泡立ちや茶碗からの吹きこぼれもなく、良好に炊飯を行うことができた。得られた飯米は125gであり、米粒の壊れもなく、通常の炊飯と同等の炊きたて食感、風味を有する飯米であった。
【0052】
例2
例1で得られた加工米100gを小型の鍋に入れ、更に水190gを加えて1分間放置し、加工米に吸水させた。次いでこの鍋に蓋をしてガスコンロの小バーナーの中火で約8分間加熱し、火を止めて2分間蒸らしたところ、米粒の壊れもなく、通常の炊飯米と同等の飯米が得られた。
【0053】
例3(米の品種による違い)
低アミロース米「あやひめ」の精白米800gをすばやく洗米し、これを2リットル容のポリビーカーに入れ、水温21℃の水800gを加えて90分間吸水させた。この吸水した米をザルに取って水切りし、トレハロース6g、食塩2gを加えて撹拌し米粒表面に吸着させた。次いでこの浸漬米をトレイに敷き詰めて−40℃の冷凍庫で予備凍結を行った後、真空度280〜250Pa、棚温度40〜60℃で凍結乾燥し目的とする加工米670gを得た。
【0054】
同様に、低アミロース米の「ミルキークイーン」800gとうるち米の「こしひかり」800gを原料米とし、上記と同じ操作を行い加工米を得た。
【0055】
これらの加工米それぞれについて、その30gを家庭用の茶碗に入れ、これに水55gを加え、次いで出力500ワットの家庭用電子レンジで2分30秒加熱し、品質の評価を行った。
【0056】
「あやひめ」を原料米としたものは、食感、外観とも通常の炊飯米と遜色のない良好な品質であった。
【0057】
「ミルキークイーン」を原料米としたものは、外観が通常炊飯米と同等であるが、食感がやや軟らかいものの満足できる品質であった。
【0058】
「こしひかり」を原料米としたものは、「あやひめ」と同様に炊飯時の泡立ち、吹きこぼれが無く、良好な炊飯適正を示したが、お茶碗に盛られた炊飯米のうち表面に露出する米粒はテリツヤの無いパサパサの状態となり、かつ内部の米粒は割れのためか糊状を呈し、炊飯米としては不適であった。
【0059】
例4(真空度の影響)
「あやひめ」800gを原料米として、凍結乾燥における真空度を変更した以外は例3と同様な操作を行って加工米を得た。このときの凍結乾燥における真空度は、(a)100〜133Pa、(b)150〜180Pa、(c)200〜230Pa、(d)280〜300Pa、(e)330〜350Paの何れかであった。このようにして得られた5種の加工米それぞれについて、その30gを例3と同様に家庭用電子レンジで2分30秒加熱炊飯したもの、ならびに、その100gおよび水190gを鍋に入れ、ガスコンロで8分加熱炊飯したものを作製し、それらの品質を評価した。その結果を表1に示した。
【0060】
表1より、真空度が200Pa以下であると米粒が多孔質のため脆く砕米の発生が見られるが、逆に320Pa以上の低真空度にあっても、米粒表面が硬くなり、吸水時に米粒の膨潤のため表面が割れて砕米となる。
【0061】
従って、電子レンジでの炊飯によって良好な品質を得るためには、おおよそ200〜320Paでの凍結乾燥が必要であり、鍋での炊飯では150〜300Pa程度の真空度であれば良好な品質の炊飯米が得られると判断される。
【0062】
【表1】

【0063】
例5(お粥の炊飯)
低アミロース米「たきたて」の精白米800gをすばやく洗米し、次いで2リットル容量のポリビーカーに入れ、水温23℃の水800gを加えて60分間吸水させた。この吸水した米をザルに取って水切りし、トレハロース6g、食塩2gを加えて撹拌し米粒表面に付着させた。
【0064】
さらに、この浸漬米をトレイに敷き詰めて−40℃の冷凍庫で予備凍結を行った後、真空度280〜300Pa、棚温度40〜60℃で凍結乾燥し目的とする加工米667gを得た。
【0065】
得られた加工米24gを400mlの容器に入れ、これに水200gを加え、出力500ワットの家庭用電子レンジを用いて3分30秒加熱を行った結果、通常に炊飯したお粥と同等の炊きたて食感、風味、トロミを有するお粥が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低アミロース米を米澱粉の糊化温度以下の品温に保ったまま吸水させた後、真空度200〜320Paで凍結乾燥することを具備する加工米の製造法。

【公開番号】特開2009−100739(P2009−100739A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238275(P2008−238275)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(592061902)株式会社永谷園 (12)
【Fターム(参考)】