説明

電子レンジ適性及び香味保持性に優れたポリオレフィン系包装材

【課題】電子レンジによる内面材の損傷がなく、しかも香味保持性をも著しく向上されたポリオレフィン性樹脂製容器又は蓋材を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂からなる基体層3を壁部に有しているポリオレフィン系樹脂容器において、基体層3の内表面側には、結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物により形成された高結晶化度の薄層5が容器内表面に露出するように位置しており、薄層5は、基体層3に比べて高い結晶化度を有し、且つ該高結晶化度の薄層5の厚みが1μm以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器または蓋材として使用されるポリオレフィン系包装材に関するものであり、より詳細には、電子レンジ適性及び内容物の香味保持性に優れたポリオレフィン系包装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂は、成形が良好であり、しかも安価であり、衛生性にも優れていることから包装容器の分野にも広く使用されており(例えば特許文献1参照)、例えば各種調理食品、調味料、及び食用油等の食品類や、シャンプーやリンスなどの洗髪料などを内容物とする容器としても使用されている。
特に、パウチ、カップ及びトレー形状の容器は、少子化、高齢化を背景とする個食化と利便性の要求に併せ簡便、迅速に食べたいものを食べたいときに食べられる容器としての位置を確立しつつある。
この利便性の要求として内容物を保持したまま電子レンジで加熱できる電子レンジ調理用容器の普及も進み、例えば容器を事前開封しない状態でそのまま電子レンジにかけても所定の加熱が進行すると自動的に蒸気が抜けて、電子レンジ中で容器が爆発・飛散しない工夫を施したパウチ類が急速に普及しつつある。
【0003】
【特許文献1】特開平6−320689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電子レンジ対応容器は様々な場所で使用されるが、その場合、加熱調理器具である電子レンジの出力も様々であり、500W程度のものから1000W或いは1900Wといったものまである。出力の高い電子レンジを用いて加熱が行われた場合、急速な温度上昇が進行するのは容易に想像できるところであるが、その影響で容器内面材の肌荒れ、ひび割れ或いは極端には貫通孔の発生が生じることもある。
【0005】
また、これら電子レンジ対応パウチ類は、アルミ箔を含まないため、透明で内容品が見えるものが多いが、個食用食品の代表であるカレー、シチュー、スパゲティーソース等の場合、香辛料などの成分が容器内面材に吸収着し、容器外面からの見た目が良くない場合もある。更に上述したように香辛料等の吸収着が著しければ、内容品の食味にも影響しかねないといった問題がある。
【0006】
これらの対策として、最内層にPET等の高融点でしかも香味成分の吸収着し難い樹脂層を設けるといった考え方もあるが、プラスチック容器の多くは密封のためヒートシールを行うことが多く、PET等の樹脂はポリオレフィンに比べてヒートシールが難しく、必ずしも優れた解決法ではない。
【0007】
従って、本発明の目的は、電子レンジ適性と香味保持性に優れたポリオレフィン系樹脂製容器又は蓋材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ポリオレフィン系樹脂容器の電子レンジ適性と香味保持性について鋭意研究した結果、容器内容物に接する容器壁の内表面を、高結晶化度の薄層とすることにより電子レンジによる内面材の損傷がなく、しかも香味保持性をも著しく向上させ得るという新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明によれば、容器または蓋材として使用される包装材であって、ポリオレフィン系樹脂からなる基体層を壁部に有しているポリオレフィン系包装材において、
容器内容物と接触する前記壁部の内面には、結晶核剤が配合されているポリオレフィン系樹脂層により形成された内表面層が前記基体層上に設けられており、該内表面層は、前記基体層に比べて高い結晶化度を有し、且つ前記基体層よりも薄いが1μm以上の厚みを有する薄層であることを特徴とするポリオレフィン系包装材が提供される。
【0010】
容器又は蓋材として使用される本発明のポリオレフィン系包装材においては、
(1)前記内表面層が、60%以上の結晶化度を有していること、
(2)前記内表面層の厚みは、前記基体層と該内表面層との合計厚みに対して10%以下あること、
(3)前記内表面層を形成しているポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
容器又は蓋材として使用される本発明のポリオレフィン系包装材は、結晶核剤を含有せしめることにより高結晶化度に形成された薄層が容器内容物と接触する内表面層として形成されていることが重要な特徴であり、このような高結晶化度の薄層を内表面層として形成することにより、後述する実施例に示されているように、優れた電子レンジ適性と香味保持性を示すものである。
【0012】
本発明において、高結晶化度の薄層を内表面層として形成することにより電子レンジ加熱時の内面材損傷が抑えられ且つ香味保持性も向上するという事実は、多くの実験の結果、現象として認められたものであり、その理由は正確に解明されるには至っていないが、本発明者等は次のように推定している。
【0013】
即ち、公知のポリオレフィン系樹脂容器では、耐衝撃性やヒートシール性の観点から容器の内表面は低結晶化度の可撓性の高いポリオレフィン系樹脂層によって形成されている。
【0014】
しかるに、低結晶化度のポリオレフィン系樹脂層は、分子の配列の規則性が低いため、分子間の空間が大きい比較的ルーズな層となっている。即ち、このようなルーズな層が容器内容物と接しているため、容器内容物の香辛料等の親油性香気成分が層内に浸透してトラップされるものと考えられる。また、内容物の入れ目線付近では、具材や粘稠なソース類が容器壁に付着しやすく、その状態で電子レンジによる過度な加熱が進行すると具材や粘稠なソースが急激に加熱され、具材や粘稠なソース中の油が急激に加熱されることで局所的な熱の上昇が起こる。また、このような内容物の入れ目線付近では内容液の対流による熱の拡散が起き難い。その結果として、前記ルーズな層では内面材の局部的な溶融と溶融に伴う過度な熱歪みでクラックの発生等が生じるものと考えられる。
【0015】
しかるに本発明にしたがって、容器内表面層を結晶核剤の配合により高結晶化度の薄層とした場合には、ポリオレフィン分子が層全体にわたってほぼ均等に規則正しく配列しているため、香気成分が浸透するような空間が小さく、このため、容器内容物の香気成分が器壁内に浸透してトラップされてしまうという不都合が有効に抑制されると共に、局所的な熱の上昇に対しても内面材の局部的な溶融等が発生し難く、クラックの発生が起きないものと推定される。
【0016】
また、容器内層側に脆い層を設けると一般に容器の衝撃耐性が低下する傾向があるが、本発明においては、容器及び蓋材の壁部内表面に形成する上記の高結晶化度の層は、薄層であるため上記の問題が起きず、更にヒートシール性にも悪影響しないのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポリオレフィン系包装材の最もシンプルな器壁層構造を示す図1において、かかる容器の器壁1は、ポリオレフィン系樹脂からなる基体層3と、該基体層3の容器内表面側に隣接して形成された高結晶化度のポリオレフィン系樹脂層5とからなる2層構造を有している。
【0018】
本発明において、基体層3は低結晶化度の層であり、後述する結晶核剤をポリオレフィン系樹脂に配合せずに成形されたものであり、通常、後述する実施例で示す方法で測定される結晶化度は50%以下である。即ち、かかる基体層3を高結晶化度の層とすると、容器の耐衝撃性が損なわれてしまうからである。
【0019】
本発明において、かかる基体層3を形成するポリオレフィン系樹脂としては、従来、この種の容器の形成材料として使用されているものであってよく、例えば、低、中或いは高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができる。勿論、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等であってもよい。また、このようなポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR,JIS K−6728)は、パウチ内面材や蓋材等のフィルム用途では、一般に、1乃至30g/10min程度の範囲にあり、ダイレクトブローや圧空成形等によって製造されるボトル、カップ、トレー等の成形容器用途では、一般に0.1乃至3g/10min程度の範囲にある。
【0020】
また、上記のポリオレフィン系樹脂からなる基体層3の厚みは、特に制限されず、容器の用途等によっても異なり、一概に規定することはできないが、適度な耐衝撃性を確保するため、少なくとも40μm以上の厚みを有していることが好ましく、一般の電子レンジ対応パウチに適用する場合には、特に40乃至110μm程度の範囲にあることが好ましい。
【0021】
本発明において、高結晶化度の層5は、ポリオレフィン系樹脂に結晶核剤を配合した樹脂組成物により形成されるものであり、50%以上の結晶化度を有する層である。既に述べたように、このような高結晶化度の層(内表面層と呼ぶことがある)5を1μm以上形成することにより、優れた電子レンジ適性と香味保持性を確保することが可能となるものであり、その結晶化度が低く、基体層5と同程度の場合には、優れた電子レンジ適性と香味保持性を確保することができない。即ち、結晶核剤を使用しない場合には、電子レンジ適性と香味保持性を充分に高め得る程、結晶化度を高めることができないため、結晶核剤の使用が必要となる。
【0022】
結晶核剤は、用いるポリオレフィン系樹脂に相溶性を示さないものであり、大別すると有機系核剤と無機系核剤とがあり、本発明では、何れの結晶核剤も使用することができる。有機系の核剤としては、安息香酸、マロン酸、コハク酸などの有機カルボン酸の金属塩、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などが代表的であり、さらには有機リン酸エステル塩なども知られている。また、無機系の核剤としては、タルク、ミョウバン、シリカ、酸化チタン、酸化カルシウムなどが代表的である。また、特開2005−288324号に開示されているようなナノカプセルなども結晶核剤として使用することができる。
【0023】
また、上記の結晶核剤は、形成される球晶の微細化及び均質化という観点から、或いは透明性の観点から、層中に微分散されていることが好ましく、このため、固体の結晶核剤を使用する場合には、その粒径が1μm以下の粉末の形態で使用するのがよく、さらに液状の結晶核剤を用いる場合には、高剪断下でマトリックスのポリオレフィン系樹脂との混練を十分に行い、マトリックス中に均一に結晶核剤を分散させることが好ましい。
【0024】
上記のような結晶核剤が配合されたポリオレフィン系樹脂組成物を用いて内表面層5を形成することにより、内表面層を基体層3に比して結晶化度の高い層とすることができるわけである。このような結晶核剤は、一般に、高結晶化度層5中に1乃至5重量%、特に2乃至4重量%程度の割合で存在していることが好適である。即ち、結晶核剤の含有量が少ない場合には、結晶化度を十分に高めてフレーバー性を向上させることが困難となり、また、あまり多量に使用されると、成形性の低下、機械的強度の低下を引き起こすおそれがあるからである。
【0025】
また、この内表面層5の結晶化度が高いほど、フレーバー性が向上する傾向にあり、例えば、その結晶化度は50%以上、好ましくは55%以上、特に60%以上の範囲にあるのが好適である。このため、内表面層5を形成するポリオレフィン系樹脂としては、基体層3の形成に使用され得るものを使用することができるが、上記のような高結晶化度の層とするためには、高結晶性のポリオレフィン系樹脂を使用することが望ましい。
【0026】
上記のような高結晶性のポリオレフィン系樹脂としては、密度(JIS K−6758)0.95以上の高密度ポリエチレン、アイソタクチックポリプロピレンが代表的であり、これ以外にも、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとのプロピレン/α−オレフィンブロック共重合体であって、他のα−オレフィン含量が10重量%以下、特に5重量%以下のアイソタクチックポリプロピレン系共重合樹脂なども例示することができる。また、C13−NMR法や多段昇温溶出分離法などによって測定されるアイソタクティシティの高い(例えば97%以上)プロピレン/エチレンランダム共重合体なども高結晶性のポリオレフィン系樹脂として使用することができる。
本発明において、特に好適に使用されるのは、高密度ポリエチレン又はアイソタクチックポリプロピレンである。
【0027】
さらに、上記のような内表面層5の形成に使用されるオレフィン系樹脂は、成形性の観点から、前述した基体層3の形成に使用されるオレフィン系樹脂と同様のMFRを有しているのがよい。
【0028】
尚、上述した基体層3及び内表面層5には、フレーバー性などの特性が損なわれない限りにおいて、プラスチック容器に使用される各種の添加剤、例えば高級脂肪酸アミド等の滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料等の着色剤、酸化防止剤などが必要に応じて配合されていてもよい。
【0029】
また、本発明において、図1の例では器壁1が2層構造となっているが、基体層3に隣接して内表面層5が容器内表面に位置しているという層構造を有している限り、さらに多層の構造を有していてもよい。例えば、パウチや蓋材では、本発明の基体層3の外面側に接着剤層を介して無機蒸着2軸延伸PETフィルム等のガスバリアー層を設けても良く、また、突き刺し性の向上のために基体層3より外面側に接着剤層を介してナイロン樹脂層を設け、その上に前記ガスバリアー層を接着剤を介して設けることもできる。また例えば、ボトル、カップ、トレー等の場合には、上記基体層3の該表面側に、無水マレイン酸等の不飽和脂肪酸無水物等で変性された酸変性オレフィン系樹脂などによる接着剤樹脂層を介してガスバリアー性樹脂層や酸素吸収性樹脂層を形成し、さらにその外側に基体層3と同様のポリオレフィン系樹脂層を、接着剤樹脂層を介して外表面層として形成することによりガスバリアー性を向上させることもできる。この場合、外表面層を内表面層のように高結晶化度の層とすることにより、容器の耐衝撃性や光沢性を高めることもできる。さらに、基体層3の外表面側に直接、内表面層のような高結晶化度のポリオレフィン系樹脂層を形成することも勿論可能である。このように容器又は蓋材として使用される本発明の包装材においては容器や蓋材に要求される特性に応じて、種々の多層構造を採用することができる。
【0030】
上述した器壁構造を有する本発明のポリオレフィン系包装材は、ボトル、パウチ(袋状容器)、カップ状容器などの容器として、或いはキャップやシール材などの蓋材として、種々の形態とすることができる。
ボトルは、上記器壁構造に対応する層構造を有する試験管形状の多層プリフォームを、共押出や共射出などによって成形し、次いでブロー成形することにより成形され、またパウチは、共押出成形等によって得られた上記器壁構造を有するフィルムの周縁部を、高結晶化度の層が内面側に位置するようにして且つ開口部を残してのヒートシール(3方シール)により貼り合わせることにより得られ、カップ状の容器は、共押出成形等によって得られた上記器壁構造を有する多層シートを、プラグアシスト成形等によってカップ状に成形することにより得られ、キャップなどの蓋材は、圧縮成形、射出成形などにより得られる。これらの容器又は蓋材はそのままでも十分性能を発揮し得るが、結晶化度を高めるために更に容器又は蓋材を、内表面層の結晶化温度以上、軟化点以下の温度に熱処理することも有効である。
【0031】
上述した本発明の包装材は、パウチとして特に有効であり、例えばカレー、シチュー、スパゲティーソース類等の油性食品を収納する容器や容器の蓋材に好適に適用される。
【実施例】
【0032】
本発明を次の実験例で説明する。
以下の例において、結晶化度の測定及び容器特性の評価は、次の方法により行った。
【0033】
a)結晶化度の測定
実施例及び比較例において使用した各種ポリプロピレン単体について別途試験片を作製し、公知の密度法乃至X線回折法により、結晶化度を測定した。同一試料について、赤外分光法により998cm−1(アイソタクチック連鎖構造:規則的)の吸収ピークと974cm−1(アタクチック構造:ランダム)とのピーク強度比を用いて結晶化度の測定を行い、X線法で得た結晶化度と赤外分光法によるピーク強度比との関係を示す検量線を作製した。
【0034】
試作したパウチ、蓋材、ボトルの胴部、あるいはカップの胴部より厚み方向に垂直な5mm角の試験片を切り出し、この試験片を厚み方向が観察面となるようにエポキシ系包埋樹脂に埋め込み、所定時間経時させた後、観察面を平滑に研磨した。観察面にある試験片について、試験片の最内層を含む部位から外層側に向けて複数の測定点のスペクトルを顕微赤外分光法で測定し、前記検量線より測定部位の結晶化度を算出した。次いで、この赤外分光法で得た結晶化度と測定部位(最内層からの厚さ方向の距離)の関係をプロットしたグラフを作成した。最内層に隣接するポリプロピレン層は、十分な厚みを有しているので上記グラフの平坦部より結晶化度を容易に算出できるが、最内層である高結晶化層は厚みが薄いため、空間分解能限界5μmといわれる赤外スペクトル測定精度に問題が残る。そこで、上記グラフより結晶化度下限を見積り、最内層については結晶化度下限値として記載した。
【0035】
b)容器特性の評価
試作した容器に満注容量の95%の蒸留水を充填・密封した後、内容液及び容器の温度を5℃にするため、5℃の保管庫に前記密封容器を1昼夜保管した。次いで、密封容器を5℃の保管庫中で、100cmの高さから容器底部を下にして連続5回落下させ、容器の耐衝撃性を測定した。この操作は10個のサンプルについて実施した。この試験において、割れが全くなかったものを○、4回目までは割れが全くなかったものを△、4回目までに割れが認められるものを×とした。
【0036】
<実施例1>
PPホモポリマー(FB3FET:日本ポリプロ(株))ペレット98重量部にリン酸エステル系造核剤(NA21:旭電化工業(株))粉体2重量部を添加したのち、タンブラーで混合し、ペレット表面に造核剤を均一に付着させた。
次いで、出口部分にストランドダイを装着した二軸混練押出機(TEM−35:東芝機械(株))のメインホッパーに前記造核剤付着ペレットを投入し、スクリュー回転数150RPMで真空ベントを引きながら成形温度210℃で、造核剤をPPに分散混合した造核剤配合PPのストランドを引き、ペレットを作製した。なお、成形に際し、樹脂の酸化劣化を防ぐため、二軸混練押出機ホッパー下の酸素濃度が1%未満となるように窒素ガスを吹き込んだ。
【0037】
作製したペレットを用いて、出口にTダイを装着したラボプラストミルを用い、成形温度210℃で、ブロックPP(BC3HF:日本ポリプロ(株))/前記造核剤添加PPの2種2層(厚み比率:65/5)フィルムを作製した。作製したフィルムの厚みは70μmであり、高結晶化度層の厚みは5μm、また高結晶化度層厚みが前記2種2層フィルム厚みに占める割合は7%であった(小数点以下四捨五入)。
【0038】
このフィルムのブロックPP側に厚み15μmの二軸延伸ナイロンフィルム、厚み12μmの蒸着PETフィルムをイソシアネート系の接着剤を介して順次積層し、所定のエージング処理を行うことでラミ強度を確保した。
【0039】
次いで前記ラミネートフィルムを用いて、電子レンジ自動開口付きスタンディングパウチを作製した。
前記スタンディングパウチ(幅130mm、高さ150mm、折り込み幅36mm)に150gのレトルトパウチ入りカレーをリパックし、120℃−20分の等差圧レトルト殺菌を行った。レトルト殺菌後に確認したこのパウチの結晶化度は、高結晶化度PP層が60%以上、それに隣接するPP層が47%であった。
【0040】
レトルト殺菌後の前記パウチを電子レンジにセットし、1000W−2分間の加熱処理を行った。所定の加熱処理終了後パウチを開封し、内容物を除いて水で洗浄した後、パウチ内面の外観を観察したところ、このパウチには過剰加熱時に発生する内面材のひび割れ等の外観異常は認められず、またカレーによる内面材の着色も少なかった。更にレトルト後のパウチを落下試験に供したところ、破袋は一切なく、耐衝撃性も優れていた。
【0041】
<実施例2>
2種2層フィルムの厚み比率を67/3とする以外は、実施例1と同様にパウチを作製し、各種評価を実施した。作製したフィルムの厚みは70μmであり、高結晶化度層の厚みは3μm、また高結晶化度層厚みが前記2種2層フィルム厚みに占める割合は4%であった(小数点以下四捨五入)。このパウチの場合、電子レンジ加熱後でもパウチの過剰加熱時に発生する内面材のひび割れ等の外観以上は認められず、またカレーによる内面材の着色も少なかった。更にこのパウチは耐衝撃性にも優れていた。なお、レトルト殺菌後に確認したこのパウチの結晶化度は、高結晶化度PP層が60%以上、それに隣接するPP層が47%であった。
【0042】
<実施例3>
2種2層フィルムの厚み比率を69/1とする以外は、実施例1と同様にパウチを作製し、各種評価を実施した。作製したフィルムの厚みは70μmであり、高結晶化度層の厚みは1μm、また高結晶化度層厚みが前記2種2層フィルム厚みに占める割合は1%であった(小数点以下四捨五入)。このパウチの場合、電子レンジ加熱後でもパウチの過剰加熱時に発生する内面材のひび割れ等の外観以上は認められず、またカレーによる内面材の着色も少なかった。更にこのパウチは耐衝撃性にも優れていた。なお、レトルト殺菌後に確認したこのパウチの結晶化度は、高結晶化度PP層が55%以上、それに隣接するPP層が47%であった。
【0043】
<実施例4>
PPホモポリマー(FB3HAT:日本ポリプロ(株))ペレット98重量部にリン酸エステル系造核剤(NA21:旭電化工業(株))粉体2重量部を添加したのち、タンブラーで混合し、ペレット表面に造核剤を均一に付着させた。
【0044】
次いで、出口部分にストランドダイを装着した二軸混練押出機(TEM−35:東芝機械(株))のメインホッパーに前記造核剤付着ペレットを投入し、スクリュー回転数150RPMで真空ベントを引きながら成形温度210℃で、造核剤をPPに分散混合した造核剤配合PPのストランドを引き、ペレットを作製した。なお、成形に際し、樹脂の酸化劣化を防ぐため、二軸混練押出機ホッパー下の酸素濃度が1%未満となるように窒素ガスを吹き込んだ。
【0045】
作製したペレットを用いて、出口にTダイを装着したラボプラストミルを用い、成形温度210℃で、ブロックPP(BC3HF:日本ポリプロ(株))/前記造核剤添加PPの2種2層(厚み比率:45/5)フィルムを作製した。作製したフィルムの厚みは50μmであり、高結晶化度層の厚みは5μm、また高結晶化度層厚みが前記2種2層フィルム厚みに占める割合は10%であった(小数点以下四捨五入)。このフィルムのブロックPP層側に厚み15μmの二軸延伸ナイロンフィルム、厚み12μmの蒸着PETフィルムをイソシアネート系の接着剤を介して順次積層し、所定のエージング処理を行うことでラミ強度を確保した。
【0046】
次いで、市販の溶融成形されたレトルト対応PP系ラミコンカップにレトルトパウチ入りカレーをリパックした後、前記ラミネートフィルムを蓋材としてヒートシールした。このカップをレトルト殺菌機にセットし、120℃−20分の等差圧レトルト殺菌を行った。レトルト殺菌後に確認したこのパウチの結晶化度は、高結晶化度PP層が60%以上、それに隣接するPP層が47%であった。
【0047】
蓋材側を下にして前記カップを保管し、蓋材内面にもカレーを十分付着させた。次いで、このカップの蓋の一部に切り込みを入れ、カップが破裂しないように処置した後、電子レンジにセットし、1000W−2分間の加熱処理を行った。所定の加熱処理終了後カップの蓋材を切り取り、内容物を除いて水で洗浄した後、パウチ内面の外観を観察したところ、このパウチには過剰加熱時に発生する内面材のひび割れ等の外観異常は認められず、またカレーによる内面材の着色も少なかった。更にレトルト後のカップを落下試験に供したところ、蓋材の破れは一切なく、この蓋材は耐衝撃性も優れていた。
【0048】
<実施例5>
2種2層フィルムの厚み比率を42/8とする以外は、実施例4と同様に蓋材を作製し、各種評価を実施した。作製したフィルムの厚みは50μmであり、高結晶化度層の厚みは8μm、また高結晶化度層厚みが前記2種2層フィルム厚みに占める割合は16%であった(小数点以下四捨五入)。この蓋材の場合、電子レンジ加熱後でも蓋材の過剰加熱時に発生する内面材のひび割れ等の外観以上は認められず、またカレーによる内面材の着色も少なかった。この蓋材は、高結晶化度層がやや厚いので5回目の落下試験で蓋材の破れが5回目の落下試験時に10個中1個の割合で発生した。更にこの蓋材は耐衝撃性にも優れていた。なお、レトルト殺菌後に確認したこの蓋材の結晶化度は、高結晶化度PP層が60%以上、それに隣接するPP層が47%であった。
【0049】
<実施例6>
PPホモポリマー(H501N:住友化学(株))ペレット98重量部にリン酸エステル系造核剤(NA21:旭電化工業(株))粉体2重量部を添加したのち、タンブラーで混合し、ペレット表面に造核剤を均一に付着させた。
【0050】
次いで、出口部分にストランドダイを装着した二軸混練押出機(TEM−35:東芝機械(株))のメインホッパーに前記造核剤付着ペレットを投入し、スクリュー回転数150RPMで真空ベントを引きながら成形温度210℃で、造核剤をPPに分散混合した造核剤配合PPのストランドを引き、ペレットを作製した。なお、成形に際し、樹脂の酸化劣化を防ぐため、二軸混練押出機ホッパー下の酸素濃度が1%未満となるように窒素ガスを吹き込んだ。
【0051】
作製したペレットを用いて、成形温度210℃で、ランダムPP(RE386:(株)プライムポリマー)/接着剤/EVOH/接着剤/ランダムPP(RE386)/前記造核剤添加PPの4種6層の層構成(厚み比率:40/2/8/2/43/5)を有する厚さ1.2mmの多層シートを成形した。
【0052】
この多層シートを用いて、造核剤添加PP層側が内面側となるように溶融成形法により高さ/直径比(H/D)が0.8の内容積200mlの多層カップを成形した。得られたカップの最内層である高結晶化度層が、高結晶化度層と隣接するPP層の合計厚みに対して占める割合は、厚み比率で10%(小数点以下四捨五入)であり、該高結晶化度層のカップ最薄肉部における厚さは10μmであった。
【0053】
成形したカップにレトルトパウチ入りカレーをリパックし、実施例4で作製した蓋材をヒートシールした。次いで、このカップをレトルト殺菌機にセットし、120℃−20分の等差圧レトルト殺菌を行った。レトルト殺菌後に確認したこのパウチの結晶化度は、高結晶化度PP層が60%以上、それに隣接するPP層が40%であった。
【0054】
次いで、このカップの蓋の一部に切り込みを入れ、カップが破裂しないように処置した後、電子レンジにセットし、1000W−2分間の加熱処理を行った。所定の加熱処理終了後カップの蓋材を切り取り、内容物を除いて水で洗浄した後、カップ内面の外観を観察したところ、このカップには過剰加熱時に発生する内面材のひび割れ等の外観異常は認められず、またカレーによる内面材の着色も少なかった。更にレトルト後のカップを落下試験に供したところ、カップの割れや蓋材の破れは一切なく、カップも蓋材も耐衝撃性が優れていた。
【0055】
<実施例7>
実施例1に記載の造核剤配合PPペレットを用いて、成形温度210℃で、ブロックPP(AS821:住友化学(株))/接着剤/EVOH/接着剤/ブロックPP(AS821)/前記造核剤添加PPの4種6層の層構成(厚み比率:30/2/8/2/56/2)を有する内容積300mlの広口多層ジャーをダイレクトブロー法により作製した。ボトルの最内層である高結晶化度層が、高結晶化度層と隣接するPP層の合計厚みに対して占める割合は、厚み比率で3%(小数点以下四捨五入)であり、該高結晶化度層のボトル最薄肉部における厚さは5μmであった。成形したボトルにレトルトパウチ入りミートソースをリパックし、実施例4で作製した蓋材をヒートシールし、更にPP製のリクローザブルクロージャーを被せた。次いで、このボトルをレトルト殺菌機にセットし、120℃−20分の等差圧レトルト殺菌を行った。レトルト殺菌後に確認したこのボトル胴部の結晶化度は、高結晶化度PP層が60%以上、それに隣接するPP層が45%であった。
【0056】
次いで、このボトルクロージャーをはずし、更に蓋の一部に切り込みを入れ、カップが破裂しないように処置した後、電子レンジにセットし、1000W−2分間の加熱処理を行った。所定の加熱処理終了後カップの蓋材を切り取り、内容物を除いて水で洗浄した後、カップ内面の外観を観察したところ、このカップには過剰加熱時に発生する内面材のひび割れ等の外観異常は認められず、またミートソースによる内面材の着色も少なかった。更にレトルト後のボトルを落下試験に供したところ、ボトルの割れは一切なく、ボトルは優れた耐衝撃性を示した。
【0057】
<比較例1>
造核剤添加PPペレットの代わりに、ブロックPP(BC3HF:日本ポリプロ(株))を用いる以外、実施例1と同様にしてパウチを作製し、各種評価を実施した。その結果、このパウチは耐衝撃性の点では優れていたが、電子レンジ加熱後に内面材のひび割れが発生し、またカレーによる内面材の着色も多く、実施例1に比べ内容品特性が明らかに劣っていた。
【0058】
<比較例2>
実施例1の造核剤添加PPポリマーのみで内層フィルムを作製する以外は、実施例1と同様にしてラミネートフィルムを作製し、各種評価を実施した。その結果、このパウチは電子レンジ加熱後でも内面材のひび割れは一切なく、またカレーによる内面材の着色も極めて少なかったが、落下試験において、すべてのパウチが4回目までの落下試験で破袋し、パウチとしての実用適性を満足していなかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の容器の器壁層構造の一例を示す図。
【符号の説明】
【0060】
1:容器壁
3:基体層
5:内表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器または蓋材として使用される包装材であって、ポリオレフィン系樹脂からなる基体層を壁部に有しているポリオレフィン系包装材において、
容器内容物と接触する前記壁部の内面には、結晶核剤が配合されているポリオレフィン系樹脂層により形成された内表面層が前記基体層上に設けられており、該内表面層は、前記基体層に比べて高い結晶化度を有し、且つ前記基体層よりも薄いが1μm以上の厚みを有する薄層であることを特徴とするポリオレフィン系包装材。
【請求項2】
前記内表面層が、60%以上の結晶化度を有している請求項1に記載のポリオレフィン系包装材。
【請求項3】
前記内表面層の厚みは、前記基体層と該内表面層との合計厚みに対して10%以下ある請求項1又は2に記載のポリオレフィン系包装材。
【請求項4】
前記内表面層を形成しているポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である請求項1乃至3に記載のポリオレフィン系包装材。
【請求項5】
パウチ形状の容器である請求項1乃至4に記載のポリオレフィン系包装材。
【請求項6】
電子レンジ調理用容器として使用される請求項1乃至5に記載のポリオレフィン系包装材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−296962(P2008−296962A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144838(P2007−144838)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】