説明

電子写真印刷のためのポリマーコートされたトナー顔料

電子写真印刷のためのトナー組成物を、そのようなトナーを製造する方法、及びそれを利用する印刷システムと共に開示する。開示したプロセスは、トナーがより効率的且つ効果的に印刷画像に組み込まれるような品質を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
電子写真印刷(electrophotographic printing)では、静電潜像を受光(感光)表面上に形成し、その後、帯電トナー粒子をその潜像に塗布することによって現像する。それによって得られるトナー画像を、永久画像を保持するための表面上へと定着、転写させる。印刷された電子写真画像の品質は、現像の能率(効率)、つまり、入手可能な(標準の)トナーをいかに良好にトナー画像に組み込ませ、潜像の信頼性の高い描画を生成せしめるかに、少なくとも部分的に依存する。このプロセスにおける非能率性は、個々のトナー粒子又はトナープール全体の帯電及び除電の非能率性に起因する。それによる1つの結果は、トナー画像に組み込まれるトナーの帯電が不十分であるという不具合により起こる不完全な現像であり、別の結果は、受光表面から転写される組み込まれた粒子の不具合である。これらの現象はいずれも、劣った品質の印刷画像をもたらす。さらなる問題は、トナープールの「汚染」、つまり、適切なトナー粒子と質の悪いものとの比(割合)の漸進的な減少により経時的な印刷能率が次第に低下することである。このような非能率性は、トナーの各バッチの出力容量を低下させ、結果として、プリンタの耐用年数にわたってのコストの浪費を招き得る。
【0002】
電子写真印刷の利用では、内在するプロセスの能率及び全体的な効率を上げるような方法及び組成物により利益を得ることができる。そのような利益には、より良い印刷品質、より長い耐用年数、及びより大きな費用対効果が含まれる。
【発明の概要】
【0003】
本発明を開示し説明する前に、ここに開示の特定のプロセスステップ及び材料はいくらかの変更がなされ得るので、本開示がそれらに限定されるものではないことを理解されたい。また、ここで使用される用語が、特定の態様のみを記述する目的で使用されていることも理解されたい。本発明は、添付の特許請求の範囲及びそれと同等のものによってのみ限定されることが意図されているのであって、上記用語は、限定を意図して用いられるものではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられる限り、単数形、つまり「a」、「an」及び「the」を付した語は、文脈上明らかに他のものを指示しているのでなければ、複数形の指示を含むことに留意されたい。
【0004】
ここで用いる限り、「電子写真(若しくはエレクトロフォトグラフィック)」プロセスとは、静電潜像を生成し、粒子を潜像へ転写し、粒子を基体に転写する上で使用される乾式又は液体電子写真プロセスを指す。よって、電子写真は、小さな微粒子を利用する乾式プロセスと、微粒子が液体キャリア中に懸濁していて、その粒子を潜像へ転写し、次いで基体へ転写するために電気泳動機構を利用する液体プロセスとを含むことが意図されている。
【0005】
ここで用いる限り、「均一な」という用語は、ある範囲内で又はあるエリアにわたり比較的均質の分配の状態を指す。表面によって示される性質に関連しては、「均一な」という修飾語は、その性質が、強さ又は密度の実質的な非連続又は相違なしに表面にわたり分配されていることを指す。
【0006】
ここで用いる限り、「帯電性」という用語は、静電荷を受容し且つ保持する表面又は物体の能力を指す。
【0007】
ここで用いる限り、「約」という用語は、所与の値が数値範囲の限界点を「わずかに上回る」又は「わずかに下回る」ようにすることによって、その限界点にフレキシビリティを付与するために使用される。この用語のフレキシビリティの程度は、特定の変数によって表すことができ、それは、当業者の知識の範囲内で、ここに記載の経験及びそれに関連した説明に基づいて判定されるものである。
【0008】
ここで用いる限り、複数の項目、構造的な要素、組成的な要素及び/又は成分は、便宜上、一般的な列記として表示することがある。しかし、それらの列記は、その列記の各成分が別々の且つ固有の成分として個々に識別されるよう解釈すべきである。よって、そのような列記の個々の成分は、それと反対を意味する指示がなければ、共通の群中に表記があることのみに基づいて、その同じ列記の任意の他の成分と事実上同等であると解釈すべきではない。
【0009】
濃度、大きさ、量及び他の数値データは、ここでは範囲の形式で表されている場合もある。そのような範囲の形式は、単に便宜上且つ簡潔さのために使用されていると理解すべきであり、範囲の限界として明記する数値だけでなく、全ての個々の数値又は前記範囲内に含まれる下位範囲をもが、これらが各数値及び下位範囲が明記されているかのように含まれると柔軟に解釈すべきである。例えば、約1〜約500なる範囲は、1及び500という明記された限界のみならず、2、3、4といった個々の値並びに約10〜50、約20〜100等の下位範囲をも含むと解釈すべきである。
【0010】
したがって、本開示は、以下に、電子写真印刷で使用するためのトナーを製造する方法を記載し、その方法は、顔料粒子、アクリルモノマー、電荷制御剤及び開始剤を共に第1の溶剤中に分散させることを含む。さらなるステップは、開始剤を活性化し、アクリルモノマーの重合を開始させ、ポリマーを形成することを含み、その際、ポリマーが溶液から析出(沈殿)し、顔料粒子上にポリマーコーティングが生成する。その場合、各顔料粒子が、ポリマーコーティングによって少なくとも実質的に覆われていてよく、このポリマーコーティングは架橋されておらず、各顔料粒子は、その表面全体上で均一に帯電可能であってよい。
【0011】
また、本開示は、複数の顔料粒子を含むトナー組成物であって、粒子それぞれが、実質的に球形の形状及び実質的に均一な帯電性を各粒子の表面全体にもたらす非架橋ポリマーコーティング内に実質的に封入(カプセル化)されている、トナー組成物も提供する。
【0012】
加えて、本開示は、印刷媒体と、受光表面を有するドラムであって、受光表面上に静電潜像が形成されるようになっている、ドラムと、トナー組成物と、印刷媒体上にトナー画像を転写するための転写装置とを備えている電子写真印刷(electrographic printing)のためのシステムを提供する。トナー組成物は、溶剤及び電荷制御剤と共に、非架橋ポリマーコーティング内に少なくとも実質的に封入された顔料粒子のコーティング微粒子トナーを含んでいてよく、前記粒子はそれぞれ、その表面全体にわたり実質的に均一な帯電性と実質的に球状の形状とを有している。
【0013】
上記の概括的な態様を踏まえ、また上記態様のそれぞれに関連してより詳細には、これらの態様が、印刷分野で一般に知られている電子写真印刷の一般的なプロセスに関連し得ることに留意されたい。このプロセスを簡潔に要約すると、印刷すべき画像をまず、通常は回転ドラム上に配置されている受光表面上に静電潜像として形成する。その画像は、帯電表面を、画像に対応する光のパターンに選択的に曝すことによって形成される。通常、光に曝されたエリアは除電され、曝されなかったエリアには電荷が残る。続いて、現像サブシステムで、帯電トナー粒子を受光表面に塗布する。トナーは典型的には、顔料粒子及び静電荷をキャリア(担持)可能なキャリア材料の混合物である。トナーは、表面の帯電部分とは反対の電荷を有するため、この帯電部分に引きつけられて付着し、トナー画像を形成する。さらに、この画像は、トナーの電荷とは反対の電荷を媒体に付与する転写サブシステムによって、印刷媒体に転写され、それにより、画像は静電引力によって媒体上に転写される。この時点で、転写された画像は、前記引力によってのみ媒体に保持されている。次に、溶融サブシステムが、トナー粒子を互いに且つ印刷媒体に融着させるのに十分な熱及び圧力を適用することによって、画像を永続性のあるものにする。
【0014】
顔料粒子がトナー画像に効果的に組み込まれる(取り入まれる)のであれば、電子写真法でのトナーのより効率的な使用が可能になる。潜像の現像では、受光表面の露出させたエリア上に十分な顔料を引きつけ、それにより画像の印刷可能な形態をもたらす静電引力を利用する。顔料粒子自体の静電荷の容量は限られるかもしれない。しかし、顔料粒子を、帯電性のより大きいキャリア材料と結合させることによって、静電荷に対するより大きな応答性を顔料粒子にもたらすことができる。この手法は、多くの場合、ポリマー粒子のような材料を用いて顔料粒子を分散させることを必要とする。このような手法の効果は、分散液の均一性、詳細には、ポリマー粒子が各顔料粒子と均一に結合する能力又は無能力によって制限される。しかし、顔料が表す形状の種類も、そのような分散液の特性において重要な役割を担う。顔料粒子の形状の範囲には、やや球形、フレーク状(例えばカオリン)、及び針状(例えばアラゴナイト)が含まれる。顔料粒子の形状が不規則である頻度が高いと、キャリア粒子との均一な結合が阻まれ、よって、各顔料粒子の静電力への応答能力がより小さく且つそのため現像プロセスにおいてより組み込まれにくい部分が残ってしまう。
【0015】
能率のより高いトナー組成物は、ここに記載の方法、組成物及びシステムによって、顔料粒子をポリマーでコートすることによって調製することができる。しかし、ここでも、粒子の形状が不規則であると、粒子を効果的に覆うことが多少難しくなる。顔料粒子をコーティングする一般的な工業用プロセスは、粒子をポリマーと共に粉砕(milling)することを含む。その際、顔料上にポリマーがランダムに被覆され、その結果、ポリマーによって完全に覆われていない粒子も得られる。また、より完全に覆われている顔料粒子であっても、著しく不規則な形状を保持することになる場合が多い。このような露出がある粒子及び不規則な粒子は、均一に帯電されない。よってその結果、上述のように、これらの粒子は、トナー画像に組み込まれにくく、均一に帯電及び除電される粒子に比べ転写が成功しにくい。このような非効率な現像によって、細かい詳細部分及び正確な色味をもたらすプリンタ性能が低下することにより、印刷出力の品質が低下する。加えて、現像及び転写プロセスの特質により、組み込まれなかったトナーはトナープールに留まり、それにより、トナープールのより大きな部分が劣った粒子で構成されることになるので、印刷性能は著しく悪くなる。最後には、使用不能なトナー粒子は廃棄され、それは、電子写真印刷の全体のコストに加算されることになる。
【0016】
これらの問題は、印刷プロセスにおいて能率的(効率的)に使用されるトナー粒子を提供することによって対処することができる。詳細には、形状及び帯電性が均一である顔料粒子によって、操作上の効率を増大させ、無駄(廃棄物)を省くことができる。したがって、本開示は、まさにそれを達成するための方法、組成物及びシステムを提供する。つまり、上述のように、より規則的な表面トポロジー(形状)、均一なカバー(被覆)及び均一な帯電性をもたらすポリマーコーティングを有するトナー粒子を製造する方法である。この方法によれば、顔料粒子は、溶剤中でアクリルモノマーによって分散されている。この手法は、電子写真法で使用される全ての顔料を含み、それにはカーボンブラック、アスファルト、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の様々な酸化物、硫酸塩、硫化物、炭酸塩、リン化物、リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、フタロシアニンブルー、ローダミンB、ベンジジンイエロー等が含まれる。当分野で知られた従来の溶剤、例えば、パラフィン及びイソパラフィン、ミネラルスピリット、アルキルアセテート、シリコーンオイル、並びに植物油、並びに種若しくは高抵抗(<13×10e6オーム/cm)を示す任意の成分から誘導される、低分子化合物、例えばトルエン、キシレン、ヘプタン、オクタン、ドデカン若しくはハロゲン化された有機化合物を含むオイルを使用することができる。分散液は、ペイントシェーカー(paint shakers)、摩砕機又はジャーミルを含む装置によって標準的な粉砕プロセスによって得ることができる。ガラスビーズ又はジルコニアビーズを粉砕メディアとして使用することによって、追加的に撹拌を行うことができる。分散液は、ラジカル形成重合開始剤を含んでいてもよい。選択される開始剤は、所望のポリマー生成物又は活性化の所望の手段に依存する。一態様では、光開始剤を使用し、分散液を光に曝すことによって活性化される。別の態様では、熱開始剤を使用し、分散液を加熱することによって活性化が達成される。
【0017】
本開示は、バッチ又はセミバッチプロセスにおいて、分散液中でモノマーをインサイトゥ重合することによってコーティング粒子を生成するものである。重合が進行すると、成長するポリマー鎖の溶解度が低下し、その結果、鎖が特定の分子量に達すると溶液からの析出が始まる。顔料粒子が分散液中に存在しているので、ポリマーは粒子をコーティングする。成長するポリマーが可溶のままでいるならば、1つ以上の第2の溶剤を追加することができる。大抵の場合、第2の溶剤は、使用される特定のポリマーの溶解度が、第1の溶剤中での溶解度より低くなるようなものである。第1の溶剤がより希釈されると、ポリマーは析出し、顔料粒子をコートすることができる。例えば、最初はエチルアセテート中で分散液を生成させ、次いでイソパラフィン溶剤を追加して、主にイソパラフィンベースの分散液を生成してよい。所望であれば、残ったエチルアセテートを除去することができる。しかし、それは必要ではなく、それというのは、エチルアセテートは、ほぼ天然の化合物であるため、帯電を妨げるものではないからである。
【0018】
インサイトゥ重合中に存在させた結果では、完成したポリマー生成物と共に顔料を摩砕した場合に得られる結果と比較して、顔料粒子は、成長するポリマーによってより均一にコートされる。したがって、得られる粒子は、ポリマーコーティングによってそれぞれ少なくとも実質的にコートされている。好ましくは、各粒子がポリマーコーティングによって完全にコートされている。コーティングプロセスのさらなる利益は、コーティングされた粒子がより規則的な形状を有し、帯電を妨げ得る表面の不規則性及び不連続性がより少ないことである。より特定の態様によれば、粒子は、ほぼ球形状となっている。以上の性質が組み合わさって、本開示のコーティングトナー粒子がより均一に帯電可能となる。より滑らかで且つ/又はより丸い表面を有することで、粒子上に静電荷が、コーティングの表面全体にわたりより高い密度で且つより均一な分布で集まることが可能となる。これは、他のプロセスによって得られるより不規則な形状のものと対照的である。その他のプロセスの場合、粒子の特定の部分が他の部分より低密度で帯電するか、又は全体として利用可能な電荷が乏しくなり得る。
【0019】
本開示で使用されるモノマーは、得られるトナー及びそれにより印刷される印刷物へ望ましい特性を付与するように選択し、組み合わせることができる。本開示の特定の態様では、アクリルモノマーを使用することができ、それは、適切な(メタ)アクリレート、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、オクタデシルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、塩化ビニルベンジル、ビニルアセテート、安息香酸ビニル、1〜100のエチレンオキサイドユニットを有するエチレングリコールモノメタクリレート、ビニルエーテル、例えばビニルメチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルブチルエーテル、アリルエーテル、マレイミド誘導体、例えばN−フェニルマレイミド及びN−メチルマレイミド、並びにそれらの組合せを含んでいてよい。任意に、1つ以上の酸含有モノマーを分散液中に含ませてもよい。それらは、得られるポリマーコーティングの帯電及び除電特性をさらに改善するため又は分散液にさらなる安定性が付与されるよう、選択することができる。そのようなモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メタクリロイルオキシサクシネート、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸及びビニル安息香酸を含む。多くの場合、酸性モノマーは、約30重量%未満の量で使用する。トナー組成物の帯電特性は、電荷制御剤の存在によってさらに調整することができる。したがって、電荷制御剤は、他の成分を含む初期の分散液に加えることができる。別態様では、電荷制御剤は、封入(顔料カプセル化後)後に粒子に添加してよい。特定の態様では、ステアリン酸アルミニウムを電荷制御剤として使用することができる。
【0020】
当業者は、本開示を検討すれば、ポリマーコーティングに寄与するモノマーの組合せを慎重に選択することによって、多くの特性が獲得可能であり且つ制御可能であることを理解するであろう。特定の態様では、モノマーを、所望のガラス転移温度(Tg)を有するポリマーコーティングを製造するよう選択することができる。Tgは、塗布されたトナーが膜を形成し、そして印刷された画像の、印刷媒体への融着を引き起こすために必要な熱及び圧力の量を決める1つの要因である。130〜220℃の溶融温度が必要なトナーは、電子写真印刷業界では一般的である。しかし、そのような温度を発生させることは、印刷システムの耐用年数にわたってのエネルギーの著しい消費をもたらす。より低いTgを有するトナー粒子では、印刷膜を形成するために必要な熱及び圧力はより小さい。したがって、そのようなトナーを用いて印刷することによって、溶融サブシステムが上記のような高温を得る必要がなくなるので、エネルギーの消費をより少なくすることができる。より低いTgのトナーを用いることによるさらなる利益は、加熱時間の短縮により、より速い印刷速度が可能となることである。よって、そのようなトナーを使用して、特にそれに適した印刷システムにおいて、1印刷頁当たりのコストを低減することができ、電子写真印刷の費用対効果がより大きくなる。
【0021】
所望のTgを有するポリマーコーティングは、構成モノマーを、それらのモノマーの特性に基づいて選択することによって調合することができる。関連技術分野の当業者は、構成モノマーのTg及び他の特性が、それらのモノマーを含むポリマー生成物のTgにいかに寄与できるかを理解するであろう。Foxの等式は、この関係を示す1つの例である。
【0022】
1/Tg=Wa/Tga+Wb/Tgb (等式1)
〔Tga及びTgbは、構成ポリマーa及びbのガラス転移温度であり、Wa及びWbは、構成ポリマーa及びbの重量分率である。したがって、この等式を使用することによって、ポリマー生成物のTgを構成ポリマーのTg及び重量分率から推量することができる。したがって、それぞれのTgに基づいて構成モノマー選択し、所望のTgを有するポリマーを調合するために含めるべき相対分率を決定することもできる。大抵の場合、本開示のポリマーコーティングは室温を超えるTgを有するので、液体トナー方式において溶液中での懸濁が可能となり、また乾燥トナーの取り扱い及び保存が容易となる。特定の態様では、トナー組成物には、約20℃〜約160℃のTgを有するポリマーコーティングが設けられている。さらに特定の態様では、ポリマーコーティングは、約50℃〜約80℃のTgを有する。したがって、トナー組成物を製造する本方法は、ポリマーコーティングに前記範囲のTgをもたらすように、アクリルモノマー及びモノマーの組合せを選択することを含む。
【0023】
トナー粒子のポリマーコーティングにおける架橋の存在は、トナーの膜形成特性にも顕著な作用をもたらし得る。架橋は、ポリマーにさらなる剛性をもたらし、よって、架橋ポリマーでコーティングされた粒子は、非架橋コーティングを有する粒子よりも、所与の温度で、互いに又は印刷媒体へ付着しにくい。詳細には、架橋ポリマーでコーティングされたトナー粒子は、一般に、溶融させるためにはより高い温度に曝さなくてはならない場合が多い。本開示により製造されるトナー組成物は、非架橋ポリマーコーティングを有する。そのようなトナー組成物は、よって、より簡単に、より低い溶融温度及び圧力下で、印刷膜を形成する。
【0024】
また本開示は、上述の非架橋ポリマーコーティングに少なくとも実質的に封入された顔料粒子を含むコーティング微粒子トナーを使用した電子写真印刷のためのシステムも提供する。特定の態様では、各顔料粒子がポリマーコーティングによって完全に覆われている。各粒子が均一なポリマーコーティングを有しているので、このシステムのトナー粒子は、均一に帯電及び除電可能であり、実質的に球形状をしている。このシステムの一態様では、トナー粒子は、約30℃〜約100℃のTgを有するポリマーコーティングを有する。より特定の態様では、ポリマーコーティングは、約50℃〜約80℃のTgを有する。詳細には、本システムは、印刷画像を生成するために、より低い溶融温度及び圧力を使用することができ、それにより、その耐用年数にわたり、費用対効果及びエネルギー効果のより大きな印刷が得られる。
【0025】
トナー粒子の静電特性は、費用対効果の増大にも寄与する。ポリマーコーティングは、各粒子の表面全体により均一な帯電性をもたらし、潜像を現像する際に各粒子がより効果的に組み込まれるようにする。同様に、そのような粒子を組み込んだトナー画像は、トナー粒子がより均一に除電されるので、より効果的に転写される。結果として、システムにおけるトナープール全体がより均一となり、よって、それを、画像の現像及び転写において、より効果的に且つ効率的に使用することができる。本開示によれば、潜像を現像する際に使用される実質的に全てのトナーが、トナー画像に組み込まれ得るし、組み込まれる。この効率の別の結果は、トナー汚染の現象を低減することである。より均一に帯電及び除電可能なトナーは、使用不能な標準トナープールが減少することを意味する。よって、それにより、本開示によるシステムにおいて、実質的に全ての標準のトナープールを、システム又はトナーカートリッジの耐用年数にわたり使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0026】
以下の実施例は、本発明の態様により調製されたトナーの様々な局面を例示するものである。以下の実施例は、本発明の限定として考えるべきではなく、単に、最もよく知られたトナーを、本開示を反映させていかに製造するかを教示するものである。
【0027】
実施例1:エチルアセテート中での顔料の分散
カーボンブラック(4g)を、エチルアセテート(21g)及びサイズ1mmのジルコニアビーズ(50g)と混合した。この混合物を、ペイントシェーカー内で4時間振とうし、分散液を得た。
【0028】
実施例2:isopar L中での顔料の分散
カーボンブラック(5g)を、isopar L(20g)、ステアリン酸アルミニウム(0.5g)及びサイズ1mmのジルコニアビーズ(60g)と混合した。この混合物を、ペイントシェーカー内で4時間振とうし、分散液を得た。
【0029】
実施例3:ポリマーコートされた顔料粒子
実施例1による顔料分散液(5g)を、メチルメタクリレート(2.72g)、ベンジルメタクリレート(0.32g)、オクタデシルアクリレート(0.16g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.15g)及びエチルアセテート(11g)と混合した。このスラリーを、75℃で5時間加熱しながら十分に撹拌した。この溶液をisopar L(50ml)に添加し、isopar Lを分散液とした。
【0030】
実施例4:ポリマーコートされた顔料粒子
実施例2による顔料分散液(4.08g)を、メチルメタクリレート(3.168g)、オクタデシルアクリレート(0.032g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.15g)及びisopar L(2g)の混合物と混合した。このスラリーを、5℃で18時間加熱しながら十分に撹拌した。より大きな粒子を200ミクロンフィルタで濾別し、ポリマーコーティングされたカーボンブラック粒子を得た。
【0031】
実施例5:ポリマーコートされたカーボンブラック粒子の帯電性の試験
実施例3及び4で調製された粒子を含む本開示により作られた粒子を、的確に且つ均一に、工業的印刷用途(例えば電子写真)において許容可能なレベルに帯電させた。これを実証するため、実施例4のインクの0.25希釈を、Isopar-Lを添加することによって調製した。不揮発トナー固体50mg/gmの量で、市販の電荷制御剤(HP Indigo、Series 2機用)を溶液に添加した。ペイントシェーカーでの的確な振とう後、このインクを高電場導電性(high field conductivity)について試験した。約30pS/cmの高電場導電性が観察され、これは、2%溶液までにした場合、200pS/cmを超える値に相当する。インク粒子が均一に負であることも観察され、それというのは、視覚的な検査では、全ての顔料が、導電率測定セルの正極に付着していたからである。
【0032】
上述の構成は、本発明の原則の利用を例示するものであると理解されたい。よって、以上、本発明の例示的な態様に関連して本発明を説明したが、特許請求の範囲に記載した本発明の原則及び概念から逸脱することがなければ、多数の変更及び代替的な構成が可能であることは、当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真印刷で使用するためのトナーを製造する方法であって、
(a)顔料粒子、アクリルモノマー、開始剤、及び任意に電荷制御剤を共に、第1の溶剤中で分散させて、分散液を作り、
(b)開始剤を活性化し、
(c)前記アクリルモノマーの重合を行ってポリマーを形成し、該ポリマーが溶液から析出して、前記顔料粒子上にポリマーコーティングを生成することを含み、
各顔料粒子が前記ポリマーコーティングによって少なくとも実質的に覆われ、前記ポリマーコーティングが非架橋であり、各顔料粒子が、その表面全体にわたり均一に帯電可能である、方法。
【請求項2】
第2の溶剤を前記分散液に添加するステップをさらに含み、当該ステップにおいて、前記第2の溶剤中で、前記ポリマーが、前記第1の溶剤中よりも低い溶解度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分散させるステップが粉砕により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記開始剤が熱開始剤であり、前記活性化させるステップが加熱によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記開始剤が光開始剤であり、前記活性化させるステップが露光によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アクリルモノマーが、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、オクタデシルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、塩化ビニルベンジル、ビニルアセテート、安息香酸ビニル、1〜100のエチレンオキサイドユニットを有するエチレングリコールモノメタクリレート、ビニルエーテル、マレイミド誘導体、並びにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
酸性モノマーが、前記溶剤中に分散し、重合の際に析出する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メタクリロイルオキシサクシネート、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニル安息香酸、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アクリルモノマーが、他の成分との併用で、前記ポリマーコーティングが約20℃〜約160℃のTgを有するように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記アクリルモノマーが、他の成分との併用で、前記ポリマーコーティングが約50℃〜約80℃のTgを有するように選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
複数の顔料粒子を含むトナー組成物であって、各粒子が、非架橋ポリマーコーティング内に実質的に封入されており、前記コーティングが、前記各粒子の表面全体に対する実質的に均一な帯電性並びに実質的に球形の形状をもたらす、トナー組成物。
【請求項12】
前記ポリマーコーティングが、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、オクタデシルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、塩化ビニルベンジル、ビニルアセテート、安息香酸ビニル、1〜100のエチレンオキサイドユニットを有するエチレングリコールモノメタクリレート、ビニルエーテル、マレイミド誘導体、並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアクリルモノマーのポリマーを含む、請求項11に記載のトナー組成物。
【請求項13】
前記ポリマーが酸性モノマーをさらに含む、請求項11に記載のトナー組成物。
【請求項14】
前記酸性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メタクリロイルオキシサクシネート、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニル安息香酸、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項13に記載のトナー組成物。
【請求項15】
各顔料粒子が、前記ポリマーコーティングによって完全に覆われている、請求項11に記載のトナー組成物。
【請求項16】
前記ポリマーコーティングが、約20℃〜約160℃のTgを有する、請求項11に記載のトナー組成物。
【請求項17】
前記ポリマーコーティングが、約50℃〜約80℃のTgを有する、請求項11に記載のトナー組成物。
【請求項18】
前記ポリマーコーティングを備えている各顔料粒子が、約0.2μm〜約2μmの直径を有する、請求項11に記載のトナー組成物。
【請求項19】
(a)印刷媒体、
(b)静電潜像が形成される受光表面を有するドラム
(c)前記潜像をトナー画像に現像する際に使用するためのトナーであって、
(i)少なくとも実質的に非架橋ポリマーコーティング内に封入された顔料粒子を有するコーティング微粒子トナーであって、前記ポリマーコーティングが、その表面全体にわたり実質的に均一な帯電性を有し、前記粒子が、実質的に球形の形状を有する、コーティング微粒子トナー、
(ii)溶剤、及び
(iii)電荷制御剤
を含むトナー、並びに
(d)前記トナー画像を前記印刷媒体へ転写するための転写装置を備えている、電子写真印刷のためのシステム。
【請求項20】
各潜像を現像するために使用されるトナーの実質的に全てが、前記トナー画像に組み込まれる、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記ポリマーコーティングが、約20℃〜約160℃のTgを有する、請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
前記ポリマーコーティングが、約50℃〜約80℃のTgを有する、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
各顔料粒子が、前記ポリマーコーティングによって完全に覆われている、請求項19に記載のシステム。
【請求項24】
前記ポリマーコーティングが、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、オクタデシルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、塩化ビニルベンジル、ビニルアセテート、安息香酸ビニル、1〜100のエチレンオキサイドユニットを有するエチレングリコールモノメタクリレート、ビニルエーテル、マレイミド誘導体、並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアクリルモノマーのポリマーを含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項25】
前記ポリマーコーティングが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メタクリロイルオキシサクシネート、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニル安息香酸、並びにそれらの組合せからなる群から選択される酸性モノマーをさらに含む、請求項24に記載のシステム。

【公表番号】特表2011−505591(P2011−505591A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535936(P2010−535936)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/024708
【国際公開番号】WO2009/070148
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】