説明

電子写真感光体、及び画像形成装置

【課題】黒点の発生を抑制しつつ、転写メモリーを抑制することができる、電子写真感光体を提供すること。また、転写メモリーが生じにくく、好適な画像を形成することができる画像形成装置を提供すること。
【解決手段】酸化処理されたアルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体上に、直接感光層を設けた電子写真感光体であって、導電性基体の表面には、所定の測定方法(X)により測定される、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲である抵抗層が形成されている電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、及び電子写真感光体を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に備えられる電子写真感光体としては、セレン、アモルファスシリコン等の無機材料からなる感光層を備える無機感光体と、主に、バインダー樹脂、電荷発生剤、電荷輸送剤等の有機材料からなる感光層を備える有機感光体とがある。そして、これらの感光体のなかでは、無機感光体と比較して製造が容易であり、感光層の材料を幅広い材料から選択でき、設計の自由度が高いことから有機感光体が幅広く使用されている。
【0003】
かかる有機感光体としては、電荷発生剤及び電荷輸送剤を同一層に含む感光層を備える単層型有機感光体や、導電性基体上に少なくとも電荷発生剤を含有する電荷発生層と電荷輸送剤を含有する電荷輸送層とを積層した積層型有機感光体がその目的に応じて用いられている。しかし、有機感光体は、有機材料の多様性により種々の特性を有する感光体を容易に製造することができるが、感光層の耐久性や、電荷保持性等に問題があった。
【0004】
そこで、感光層の耐久性を向上させ、感光体を良好に帯電させるため、導電性基体と感光層との間にベーマイトの層を形成させ、ベーマイト層の体積抵抗率を10〜1013Ω・cmとした電子写真感光体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−278957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の電子写真感光体では、所定範囲の体積抵抗率としたベーマイト層により、電荷の流れを抑制することで感光体表面の電荷を保持し、黒点の発生を抑制することができるものであったが、導電性基体上のベーマイト層によって、電荷の流れが滞ることで、転写メモリーが発生し、ゴースト等の画像不良を発生しやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、黒点の発生を抑制しつつ、転写メモリーを抑制することができる、電子写真感光体を提供することを目的とする。また、本発明は、前述の電子写真感光体を備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酸化処理されたアルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体上に、直接感光層を設けた電子写真感光体であって、導電性基体の表面には、所定の測定方法(X)により測定される、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲である抵抗層が形成されている、電子写真感光体によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 酸化処理されたアルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体上に、直接感光層を設けた電子写真感光体であって、
前記導電性基体の表面には、下記測定方法(X)により測定される、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲である抵抗層が形成されている、電子写真感光体。
測定方法(X):
1)露出部を有するように、導電性基体表面の抵抗層上に絶縁性マスクを施し、露出部全面が覆われるように銀ペーストを垂らし、室温で乾燥させ、銀ペースト電極を形成させる。
2)測定環境を24℃、58RH%とし、少なくとも電界強度が1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、導電性基体と銀ペースト電極の両電極間を流れる電流値をpAメーターで測定する。
3)電流値測定開始30秒後の安定した値を読み取り、抵抗層の体積抵抗率(x)を求める。
【0010】
(2) 前記抵抗層がベーマイトである、(1)記載の電子写真感光体。
【0011】
(3) 前記アルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体の酸化処理が、下記方法(Y)により処理される、(1)又は(2)記載の電子写真感光体。
処理方法(Y):
1)アルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体を、抵抗1.0×10Ω・cm以上、70〜95℃、の水中に5〜90秒間浸漬する。
2)その後、オーブンにて、大気中、120〜180℃で、12〜25分間加熱処理する。
【0012】
(4) 像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備え、
前記像担持体が、(1)〜(3)の何れか1記載の電子写真感光体である画像形成装置。
【0013】
(5) 前記帯電部が、接触帯電方式により直流電圧を印加する、(4)記載の画像形成装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、黒点の発生を抑制しつつ、転写メモリーを抑制することができる、電子写真感光体を提供することができる。また、本発明によれば、転写メモリーが生じにくく、好適な画像を形成することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】銀ペースト電極による体積抵抗率の測定方法(X)の態様を示す図である。
【図2】積層型感光体の構成を示す図である。
【図3】単層型感光体の構成を示す図である。
【図4】本発明の画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】体積抵抗率の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0017】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、酸化処理されたアルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体上に、直接感光層を設けた電子写真感光体であって、導電性基体の表面には、所定の測定方法(X)により測定される、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲である抵抗層が形成されている、電子写真感光体に関する。
【0018】
以下、電子写真感光体(以下、単に感光体と記載する場合がある)に関して、導電性基体、及び感光層について順に説明する。
【0019】
〔導電性基体〕
第1の実施形態に係る電子写真感光体において用いる導電性基体は、酸化処理したアルミニウム又はアルミニウム合金からなる。アルミニウム又はアルミニウム合金からなる導電性基体を用いることによって、より好適な画像を形成することができる感光体を提供することができる。このことは、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることによると考えられる。
【0020】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金の酸化処理としては、その酸化処理によって形成される導電性基体は表面の抵抗層が、測定方法(X)により測定される、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲である限り特に限定されないが、熱水を用いた方法により酸化処理を行うのが好ましい。熱水を用いた酸化処理の方法としては、熱水に導電性基体を浸漬する方法、熱水を導電性基体噴霧する方法、又は熱水の流下に導電性基体を置く方法等が挙げられるが、特に、熱水に導電性基体を浸漬する方法による酸化処理が好ましい。
【0021】
以下、熱水に浸漬する方法を用いた具体的な抵抗層の形成方法として、第1の実施形態に係る感光体の抵抗層として好適に用いられるベーマイトの、熱水に浸漬する方法を用いた形成方法について説明する。
【0022】
<抵抗層の形成>
所望の形状に加工した、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる導電性基体を、好ましくは抵抗を1.0×10Ω・cm以上に調整した、70〜95℃、の水中に5〜90秒間浸漬する。その後、オーブン等にて、大気中で120〜180℃で15〜25分間、熱処理を行う。
【0023】
導電性基体表面に形成される抵抗層の体積抵抗率は、上記の熱水を用いた酸化処理の温度や時間等の条件を調整することにより調整できる。例えば、上記の熱水に浸漬する方法を用いた酸化処理の場合では、温度を高めることや、時間を延長することによって、その酸化処理によって形成される抵抗層の体積抵抗率を高くすることができる。
【0024】
第1の実施形態に係る感光体に用いる導電性基体は、その表面に、下記の測定方法(X)により測定される、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲である抵抗層が形成される。抵抗層は、ベーマイトであることが好ましい。ベーマイトを導電性基体表面に形成される抵抗層として用いることで、本発明の感光体が、正帯電性の感光体として使用される場合、導電性基体から感光層への電子の移動を良好に抑制し、負帯電性の感光体として使用される場合、導電性基体から感光層への正孔の移動を良好に抑制することができる。
【0025】
ここで、導電性基体表面に形成された抵抗層の体積抵抗率は、以下の測定方法(X)により測定を行う。
【0026】
<測定方法(X)>
図1に示すように、例えば、直径5mm以上の円形の露出部105を有するように、導電性基体11表面の抵抗層101上に、例えば、絶縁性のテープ(カプトンテープ等)で絶縁性マスク103を施し、露出部105全面が覆われるように銀ペーストを垂らし、室温で乾燥させ、銀ペースト電極106を形成させる。そして、導電性基体11と銀ペースト106電極の量電極間を流れる電流値をpAメーターで測定する。測定環境は24℃、58RH%とし、測定する電界強度の範囲は、少なくとも1.67×10〜3.33×10V/cmとする。電流値測定開始30秒後の安定した値を読み取り、抵抗層101の体積抵抗率(x)を求める。
【0027】
〔感光層〕
第1の実施形態に係る電子写真感光体には、単層型と積層型とがあるが、上記したアルミニウム又はアルミニウム合金からなる導電性基体を用いる電子写真感光体は、何れにも適用可能である。
【0028】
なお、本出願の明細書及び特許請求の範囲において、積層型感光体の電荷輸送層、又は単層型感光体の感光層に含まれる樹脂を「バインダ樹脂」と呼ぶ。また、積層型感光体の電荷発生層が樹脂を含む場合に、電荷発生層に含まれる樹脂を「ベース樹脂」と呼ぶ。以下、単層型感光体、及び積層型感光体について順に説明する。
【0029】
1. 積層型感光体
図2に示すように、電子写真感光体において積層型感光体10は、導電性基体11上に蒸着又は塗布等の手段によって、電荷発生剤を含有する電荷発生層12を形成し、次いで電荷発生層12上に、電荷輸送剤と特定のバインダ樹脂とを含む塗布液を塗布した後に乾燥させて電荷輸送層13を形成することにより作成できる。
【0030】
積層型感光体は、電荷輸送剤の種類を適宜選択することにより、正負何れの帯電方式にも適用可能である。
【0031】
<感光層を構成する材料>
積層型感光体は、導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤を含む電荷発生層、及び少なくとも電荷輸送剤とバインダ樹脂とを含む電荷輸送層から構成され、電荷発生層はベース樹脂を含んでいてもよい。以下、バインダ樹脂、電荷輸送剤、電荷発生剤、ベース樹脂について順に説明する。
【0032】
(バインダ樹脂)
積層型感光体において用いるバインダ樹脂は、電子写真感光体の感光層に含まれるバインダ樹脂として用いることができるものであれば、特に限定されない。バインダ樹脂として好適に使用される樹脂の具体例としては、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂等の熱硬化性樹脂;エポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート共重合樹脂等の光硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
これらの樹脂の中では、加工性、機械的特性、光学的特性、耐摩耗性のバランスに優れた感光層が得られることから、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールZC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、及びビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0034】
(電荷輸送剤)
電荷輸送剤は、電子写真感光体の感光層に含まれる電荷輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。また、電荷輸送剤としては、一般的に、正孔輸送剤と電子輸送剤とが挙げられる。
【0035】
好適に使用できる正孔輸送剤の具体例としては、ベンジジン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等が挙げられる。これらの正孔輸送剤の中では、分子中に1又は複数のトリフェニルアミン骨格を有するトリフェニルアミン系化合物がより好ましい。これらの正孔輸送剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
好適に使用できる電子輸送剤の具体例としては、ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。電子輸送剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(電荷発生剤)
電荷発生剤としては、電子写真感光体の電荷発生剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、下記式(1)で表されるX型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)、Y型オキソチタニルフタロシアニン(Y−TiOPc)、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられる。
【0038】
【化1】

【0039】
また、電荷発生剤は、所望の領域に吸収波長を有するように、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前述の各電荷発生剤のうち、特に半導体レーザ等の光源を使用したレーザビームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶形については特に限定されず、種々のものが使用される。また、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、ペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0040】
(ベース樹脂)
電荷発生層を導電性基体上に、電荷発生剤を含む溶液を塗布して形成する場合、電荷発生剤とともにベース樹脂が使用される。本発明において電荷発生層に用いるベース樹脂は、電荷輸送層において用いるバインダ樹脂を用いることができ、電荷輸送層において用いるバインダ樹脂の他の樹脂を用いることもできる。電荷発生層のベース樹脂として使用できる、電荷輸送層において用いるバインダ樹脂の他の樹脂の具体例としては、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールZC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、及びウレタン−アクリレート樹脂等が挙げられる。電荷発生層に用いるベース樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
(添加剤)
電子写真感光体の感光層は、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダ樹脂の他に、各種添加剤を含んでいてもよい。感光層に配合できる添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
【0042】
<感光層の作成方法>
積層型感光体における感光層は、導電性基体上に、電荷発生層及び電荷輸送層を順次積層して形成される。
【0043】
積層型感光体における電荷発生層の膜厚は0.1〜5μmが好ましく、0.1〜3μmがより好ましい。また、電荷輸送層の膜厚は2〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。
【0044】
電荷発生層における電荷発生剤の含有量は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。電荷発生層を塗布液の塗布により形成する場合、電荷発生剤の量は、ベース樹脂100質量部に対して10〜500質量部が好ましく、30〜300質量部であるのがより好ましい。
【0045】
電荷輸送層における電荷輸送剤の含有量は、バインダ樹脂100質量部に対して55質量部以下が好ましく、5〜55質量部がより好ましく、10〜55質量部が特に好ましい。なお、電荷輸送剤の量は電荷輸送層における、正孔輸送剤と電子輸送剤の量の合計量である。電荷輸送剤の量をかかる範囲とすることにより、耐摩耗性に優れた積層型感光体を得やすい。
【0046】
電荷発生層の形成方法としては、電荷発生剤の真空蒸着、又は少なくとも電荷発生剤、ベース樹脂、及び溶剤を含む塗布液の塗布が挙げられる。電荷発生層の形成方法としては、高価な蒸着装置が不要であり、製膜操作が容易であることから、少なくとも電荷発生剤、ベース樹脂、及び溶剤を含む塗布液の塗布が好ましい。また、電荷輸送層の形成方法としては、少なくとも、電荷輸送剤、バインダ樹脂、及び溶剤を含む塗布液の塗布が挙げられる。
【0047】
感光層形成用の塗布液を調製するのに用いる溶媒としては、感光層形成用塗布液に従来用いられている種々の有機溶剤が使用可能である。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶媒が挙げられる。
【0048】
電荷発生層用又は電荷輸送層用の塗布液には、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、従来公知の種々の添加剤を配合することができる。塗付液に配合する好適な添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等が挙げられる。また、電荷輸送剤や電荷発生剤の分散性、感光層表面の平滑性をよくするために界面活性剤、レベリング剤等を使用してもよい。
【0049】
電荷発生層用又は電荷輸送層用の塗布液の塗布方法は特に限定されないが、例えば、スピンコーター、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、ディップコーター、ドクターブレード等を用いる方法が挙げられる。
【0050】
上記の方法により、塗布液を塗布して形成された皮膜は、高温乾燥機や減圧乾燥機等を用いて乾燥することにより溶媒を除去され電荷発生層及び電荷輸送層とされる。乾燥温度としては40〜150℃が好ましい。かかる温度範囲で、皮膜を乾燥することにより、溶媒の除去が速やかに進行し、均一な厚さの電荷発生層及び電荷輸送層を効率よく形成できるためである。乾燥温度が高すぎる場合、感光層に含まれる成分が熱分解する場合があり好ましくない。
【0051】
2. 単層型感光体
電子写真感光体は、正負何れの帯電方式においても使用できること、感光層が単一の層であることから感光体の製造が容易であること、層間の界面が少なく光学的特性に優れること等から、単層型感光体とすることも好ましい。
【0052】
図3に示すように、電子写真感光体において単層型感光体20は、導電性基体11上に単一の感光層21を設けたものである。単層型感光体における感光層は、例えば、電荷輸送剤と、電荷発生剤と、バインダ樹脂と、必要に応じてレベリング剤等とを適当な溶媒に溶解又は分散させて得た塗布液を、導電性基体11上に塗布した後に乾燥することにより形成できる。
【0053】
<感光層を構成する材料>
単層型感光体における感光層を構成する主たる材料としては、バインダ樹脂、電荷輸送剤、及び電荷発生剤が挙げられる。単層型感光体の感光層に含まれる電荷輸送剤及び電荷発生剤は、積層型感光体と同様の材料を使用できる。
【0054】
<感光層の製造方法>
単層型感光体の感光層は、電荷輸送剤、電荷発生剤、バインダ樹脂、及び溶媒から塗布液を調製し、積層型感光体における電荷発生層、及び電荷輸送層の形成方法と同様の方法により形成することができる。
【0055】
単層型感光体の感光層における、電荷輸送剤の使用量は、バインダ樹脂100質量部に対して55質量部以下が好ましく、5〜55質量部がより好ましく、10〜55質量部が特に好ましい。なお、電荷輸送剤の量は電荷輸送層における正孔輸送剤と電子輸送剤の量の合計量である。電荷輸送剤の量をかかる範囲とすることにより耐摩耗性に優れた単層型感光体を得やすい。
【0056】
単層型感光体の感光層における、電荷発生剤の使用量は、バインダ樹脂100質量部に対して0.2〜40質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましい。電荷発生剤の使用量をかかる範囲とすることにより、感光体の耐摩耗性を低下させることなく、電気特性に優れる感光体を製造できる。
【0057】
単層型感光体の感光層の厚さは、感光層として好適な機能を有する限り特に限定されない。具体的には、例えば、5〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることが好ましい。
【0058】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、像担持体と、像担持体の表面を帯電するための帯電部と、帯電された像担持体の表面を露光して像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、トナー像を像担持体から被転写体へ転写するための転写部とを備え、像担持体として第1の実施形態にかかる電子写真感光体を用いる画像形成装置に関する。
【0059】
また、本発明の画像形成装置としては、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が好ましい。より具体的には、例えば、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が挙げられる。ここでは、タンデム方式のカラー画像形成装置について説明する。
【0060】
なお、本実施形態にかかる電子写真感光体を備えた画像形成装置は、各表面上にそれぞれ異なった各色のトナーによるトナー像を形成させるために、所定方向に並設された、複数の像担持体と、各像担持体に対向して配置され、表面にトナーを担持して搬送し、搬送されたトナーを、各像担持体の表面にそれぞれ供給する、現像ローラーを備えた複数の現像部とを備え、像担持体として、第1の実施形態にかかる電子写真感光体を用いる。
【0061】
図4は、本発明の実施形態にかかる電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。ここでは、カラープリンター1を例に挙げて説明する。
【0062】
このカラープリンター1は、図4に示すように、箱型の機器本体1aを有している。この機器本体1a内には、用紙Pを給紙する給紙部2と、この給紙部2から給紙された用紙Pを搬送しながら当該用紙Pに画像データ等に基づくトナー像を転写する画像形成部3と、この画像形成部3で用紙P上に転写された未定着トナー像を用紙Pに定着する定着処理を施す定着部4とが設けられている。さらに、機器本体1aの上面には、定着部4で定着処理の施された用紙Pが排紙される排紙部5が設けられている。
【0063】
給紙部2は、給紙カセット121、ピックアップローラー122、給紙ローラー123,124,125、及びレジストローラー対126を備えている。給紙カセット121は、機器本体1aから挿脱可能に設けられ、各サイズの用紙Pを貯留する。ピックアップローラー122は、給紙カセット121の図4に示す左上方位置に設けられ、給紙カセット121に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラー123,124,125は、ピックアップローラー122によって取り出された用紙Pを用紙搬送路に送り出す。レジストローラー対126は、給紙ローラー123,124,125によって用紙搬送路に送り出された用紙Pを一時待機させた後、所定のタイミングで画像形成部3に供給する。
【0064】
また、給紙部2は、機器本体1aの図4に示す左側面に取り付けられる不図示の手差しトレイとピックアップローラー127とをさらに備えている。このピックアップローラー127は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。ピックアップローラー127によって取り出された用紙Pは、給紙ローラー123,125によって用紙搬送路に送り出され、レジストローラー対126によって、所定のタイミングで画像形成部3に供給される。
【0065】
画像形成部3は、画像形成ユニット7と、この画像形成ユニット7によってその表面(接触面)にコンピューター等から電送された画像データに基づくトナー像が1次転写される中間転写ベルト31と、この中間転写ベルト31上のトナー像を給紙カセット121から送り込まれた用紙Pに2次転写させるための2次転写ローラー32とを備えている。
【0066】
画像形成ユニット7は、上流側(図4では右側)から下流側に向けて順次配設されたブラック用ユニット7Kと、イエロー用ユニット7Yと、シアン用ユニット7Cと、マゼンタ用ユニット7Mとを備えている。各ユニット7K,7Y,7C及び7Mは、それぞれの中央位置に像担持体であるドラム型の電子写真感光体37が矢符(時計回り)方向に回転可能に配置されている。そして、各電子写真感光体37の周囲には、帯電部39、露光部38、現像部71、不図示のクリーニング部及び除電器等が、回転方向上流側から順に各々配置されている。
【0067】
帯電部39は、矢符方向に回転されている感光体37の周面を均一に帯電させる。帯電部39の具体例としては、帯電ローラー及び帯電ブラシ等が感光体37に接触したまま、感光体37の周面(表面)を帯電させる、接触方式の帯電ローラー及び帯電ブラシ等を備えた帯電部が挙げられ、帯電ローラーを備えた帯電部が好ましく用いられる。
【0068】
接触方式の帯電ローラーを備えた帯電部は、帯電ローラーが感光体37と接触したまま、感光体37の周面(表面)を帯電させる。このような帯電ローラーとしては、例えば、感光体37と接触したまま、感光体37の回転に従属して回転するもの等が挙げられる。また、帯電ローラーとしては、例えば、少なくとも表面部が樹脂で構成されたローラー等が挙げられる。より具体的には、例えば、回転可能に軸支された芯金と、芯金上に形成された樹脂層と、芯金に電圧を印加する電圧印加部とを備えたもの等が挙げられる。このような帯電ローラーを備えた帯電部は、電圧印加部によって、芯金に電圧を印加することによって、樹脂層を介して接触する感光体37の表面を帯電させることができる。
【0069】
電圧印加部により帯電ローラーに印加される電圧は特に制限されないが、直流電圧のみであることが好ましい。帯電ローラーにより積層型電子写真感光体に印加する直流電圧は、100〜2000Vが好ましく、1200〜1800Vがより好ましく、1400〜1600Vが特に好ましい。交流電圧や直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を帯電ローラーに印加する場合より、帯電ローラーに直流電圧のみを印加する場合のほうが、好適な画像を形成することができる。
【0070】
また、帯電ローラーの樹脂層を構成する樹脂は、電子写真感光体37の周面を良好に帯電させることができれば特に限定されない。樹脂層に用いる樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン変性樹脂等が挙げられる。また、樹脂層には、無機充填材を含有させていてもよい。
【0071】
画像形成装置が帯電ローラーを備える直流電圧を印加する帯電部と、像担持体として正帯電単層型電子写真感光体とを備える場合、特に転写メモリーが発生しやすい傾向があったが、第1実施形態に係る電子写真感光体を像担持体として用いる場合、転写メモリーが抑制され画像不良の発生を抑制することができる。
【0072】
露光部38は、いわゆるレーザ走査ユニットであり、帯電部39によって均一に帯電された電子写真感光体37の周面に、上位装置であるパーソナルコンピューター(PC)から入力された画像データに基づくレーザ光を照射し、電子写真感光体37上に画像データに基づく静電潜像を形成する。現像部71は、静電潜像が形成された電子写真感光体37の周面にトナーを供給することで、画像データに基づくトナー像を形成させる。そして、このトナー像が中間転写ベルト31に1次転写される。クリーニング部は、中間転写ベルト31へのトナー像の1次転写が終了した後、電子写真感光体37の周面に残留しているトナーを清掃する。除電器は、1次転写が終了した後、電子写真感光体37の周面を除電する。クリーニング部及び除電器によって清浄化処理された電子写真感光体37の周面は、新たな帯電処理のために帯電部へ向かい、新たな帯電処理が行われる。
【0073】
中間転写ベルト31は、無端状のベルト状回転体であって、表面(接触面)側が各電子写真感光体37の周面にそれぞれ当接するように駆動ローラー33、従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36等の複数のローラーに架け渡されている。また、中間転写ベルト31は、各電子写真感光体37と対向配置された1次転写ローラー36によって電子写真感光体37に押圧された状態で、複数のローラーによって無端回転するように構成されている。駆動ローラー33は、ステッピングモータ等の駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト31を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36は、回転自在に設けられ、駆動ローラー33による中間転写ベルト31の無端回転に伴って従動回転する。これらのローラー34,35,36は、駆動ローラー33の主動回転に応じて中間転写ベルト31を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト31を支持する。
【0074】
1次転写ローラー36は、1次転写バイアス(トナーの帯電極性とは逆極性)を中間転写ベルト31に印加する。そうすることによって、各電子写真感光体37上に形成されたトナー像は、各電子写真感光体37と1次転写ローラー36との間で、駆動ローラー33の駆動により矢符(反時計回り)方向に周回する中間転写ベルト31に重ね塗り状態で順次転写(1次転写)される。
【0075】
2次転写ローラー32は、トナー像と逆極性の2次転写バイアスを用紙Pに印加する。そうすることによって、中間転写ベルト31上に1次転写されたトナー像は、2次転写ローラー32とバックアップローラー35との間で用紙Pに転写され、これによって、用紙Pにカラーの転写画像(未定着トナー像)が転写される。
【0076】
定着部4は、画像形成部3で用紙Pに転写された転写画像に定着処理を施すものであり、通電発熱体により加熱される加熱ローラー41と、この加熱ローラー41に対向配置され、周面が加熱ローラー41の周面に押圧当接される加圧ローラー42とを備えている。
【0077】
そして、画像形成部3で2次転写ローラー32により用紙Pに転写された転写画像は、当該用紙Pが加熱ローラー41と加圧ローラー42との間を通過する際の加熱による定着処理で用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部5へ排紙されるようになっている。また、本実施形態のカラープリンター1では、定着部4と排紙部5との間の適所に搬送ローラー6が配設されている。
【0078】
排紙部5は、カラープリンター1の機器本体1aの頂部が凹没されることによって形成され、この凹没した凹部の底部に排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ51が形成されている。
【0079】
カラープリンター1は、以上のような画像形成動作によって、用紙P上に画像形成を行う。そして、上記のようなタンデム方式の画像形成装置では、像担持体として、第1実施形態に係る電子写真感光体が備えられているので、帯電方式が接触帯電方式であり、像担持体が正帯電単層型電子写真感光体である転写メモリーが生じやすい条件であっても、転写メモリーが生じにくいため、好適な画像を形成することができる画像形成装置が得られる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。
【0081】
本実施例では、単層型電子写真感光体について試験した。
〔実施例1〕
(導電性基体の製造)
直径160mm、長さ365mm、肉厚2mmに形状加工処理、表面研削加工処理を施したアルミニウム基体を、トリクレン蒸気で3分間の洗浄処理を行い、弱酸性エッチング液でエッチング処理を行い、表面のアルミニウム酸化膜の除去処理を行った。次いで、抵抗1.0×10Ω・cm、95℃の水中に20秒間浸漬して、アルミニウム基体表面に、抵抗層としてベーマイトを形成させ、取り出して自然乾燥させた。その後、120℃のオーブンにて、20分間加熱処理をして、導電性基体aを得た。
【0082】
≪抵抗値測定試験≫
得られた導電性基体について、上記第1実施形態において説明した測定方法(X)により、電界強度が4.33×10〜3.67×10V/cmの範囲での、抵抗層の体積抵抗率(x)を測定した。測定結果として、各印加電圧値(V)での電解強度(V/cm)に対応する電流値(nA)、抵抗(Ω)、及び体積抵抗率(Ω・cm)を表1に記す。
【0083】
【表1】

【0084】
(単層型電子写真感光体の作成)
無金属フタロシアニン5質量部、正孔輸送剤として下記式(2)で表されるHTM−A50質量部、電子輸送剤として下記式(4)で表されるETM−a10質量部、粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂100質量部、及びテトラヒドロフラン800質量部をボールミルに加え、50時間、混合、分散処理し、感光層用の塗布液を調製した。得られた塗布液を、得られた導電性基体上にディップコート法により塗布し、100℃で40分間処理して塗膜よりテトラヒドロフランを除去して、膜厚30μmの感光層を備える実施例1の単層型電子写真感光体を得た。
【化2】

【化3】

【0085】
〔実施例2〕
正孔輸送剤として、上記式(2)で表されるHTM−Aを用いるのに変えて、上記式(3)で表されるHTM−Bを用い、電子輸送剤として上記式(4)で表されるHTM−aを用いるのに変えて、上記式(5)で表されるHTM−bを用いる他は、実施例1と同様にして実施例2の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0086】
〔実施例3〕
ベーマイトの抵抗層の形成処理において、95℃の水中に20秒間浸漬するのに変えて、95℃の水中に10秒間浸漬する他は、実施例1と同様にして実施例3の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。また、得られた導電性基体について、上記第1実施形態において説明した測定方法(X)により、電界強度が1.17×10〜2.50×10V/cmの範囲での、抵抗層の体積抵抗率(x)を測定した。測定結果を表2に記す。
【0087】
〔実施例4〕
正孔輸送剤として、上記式(2)で表されるHTM−Aを用いるのに変えて、上記式(3)で表されるHTM−Bを用い、電子輸送剤として上記式(4)で表されるHTM−aを用いるのに変えて、上記式(5)で表されるHTM−bを用いる他は、実施例3と同様にして実施例4の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0088】
〔実施例5〕
ベーマイトの抵抗層の形成処理において、95℃の水中に20秒間浸漬するのに変えて、95℃の水中に5秒間浸漬する他は、実施例1と同様にして実施例5の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。また、得られた導電性基体について、上記第1実施形態において説明した測定方法(X)により、電界強度が1.67×10〜2.17×10V/cmの範囲での、抵抗層の体積抵抗率(x)を測定した。測定結果を表3に記す。
【0089】
〔実施例6〕
正孔輸送剤として、上記式(2)で表されるHTM−Aを用いるのに変えて、上記式(3)で表されるHTM−Bを用い、電子輸送剤として上記式(4)で表されるHTM−aを用いるのに変えて、上記式(5)で表されるHTM−bを用いる他は、実施例5と同様にして実施例6の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0090】
〔比較例1〕
ベーマイトの抵抗層の形成処理において、95℃の水中に20秒間浸漬するのに変えて、78℃の水中に10分間浸漬する他は、実施例1と同様にして比較例1の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。また、得られた導電性基体について、上記第1実施形態において説明した測定方法(X)により、電界強度が2.27×10〜2.34×10V/cmの範囲での、抵抗層の体積抵抗率(x)を測定した。測定結果を表4に記す。
【0091】
〔比較例2〕
正孔輸送剤として、上記式(2)で表されるHTM−Aを用いるのに変えて、上記式(3)で表されるHTM−Bを用い、電子輸送剤として上記式(4)で表されるHTM−aを用いるのに変えて、上記式(5)で表されるHTM−bを用いる他は、比較例1と同様にして比較例2の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0092】
〔比較例3〕
ベーマイトの抵抗層の形成処理において、95℃の水中に20秒間浸漬するのに変えて、70℃の水中に10間浸漬する他は、実施例1と同様にして比較例3の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。また、得られた導電性基体について、上記第1実施形態において説明した測定方法(X)により、電界強度が3.33×10〜6.67×10V/cmの範囲での、抵抗層の体積抵抗率(x)を測定した。測定結果を表5に記す。
【0093】
〔比較例4〕
正孔輸送剤として、上記式(2)で表されるHTM−Aを用いるのに変えて、上記式(3)で表されるHTM−Bを用い、電子輸送剤として上記式(4)で表されるHTM−aを用いるのに変えて、上記式(5)で表されるHTM−bを用いる他は、比較例3と同様にして比較例4の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
表1〜5に記した、測定方法(X)により測定した抵抗層の測定データから、電界強度が1.67×10〜5.00×10V/cmの範囲に対応する、抵抗層の体積抵抗率(x)の推移を、図5に示す。
【0099】
〔比較例5〕
ベーマイトの抵抗層の形成処理を行わなかった他は、実施例1と同様にして、比較例5の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0100】
〔比較例6〕
正孔輸送剤として、上記式(2)で表されるHTM−Aを用いるのに変えて、上記式(3)で表されるHTM−Bを用い、電子輸送剤として上記式(4)で表されるHTM−aを用いるのに変えて、上記式(5)で表されるHTM−bを用いる他は、比較例5と同様にして比較例6の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0101】
〔比較例7〕
(導電性基体の製造)
実施例1の電子写真感光体と同様形状加工処理、表面研削加工処理を施したアルミニウム基体を用いて、陽極酸化処理(処理時間30分)をして、アルマイト皮膜がされた導電性基体を得た。得られた導電性基体に対して、実施例1の電子写真感光体と同様の処理を施し、比較例7の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0102】
〔比較例8〕
正孔輸送剤として、上記式(2)で表されるHTM−Aを用いるのに変えて、上記式(3)で表されるHTM−Bを用い、電子輸送剤として上記式(4)で表されるHTM−aを用いるのに変えて、上記式(5)で表されるHTM−bを用いる他は、比較例7と同様にして比較例8の電子写真感光体に用いる導電性基体、及び、電子写真感光体を得た。
【0103】
<評価>
下記方法に従って、実施例及び比較例で得た電子写真感光体に用いる導電性基体表面の抵抗層の体積抵抗率を測定した。その結果を表6に記す。また、下記方法に従って、実施例及び比較例で得た電子写真感光体を、除電レス型に改造した複写機(FS−C2026(京セラミタ株式会社製))に装着して、黒点、及び転写ネガメモリーの発生について評価し、何れの評価においても合格の場合を、総合評価として○と評価し、何れかが不合格の場合を×と評価した。その結果を表6に記す。
【0104】
<体積抵抗率>
上記第1実施形態において説明した測定方法(X)により、電界強度が1.33×10V/cmでの、抵抗層の体積抵抗率(x)を測定した。なお、比較例5、6の電子写真感光体に用いる導電性基体は、抵抗層を形成していないため測定せず、比較例7、8の電子写真感光体に用いる導電性基体表面の抵抗層(アルマイト層)は、測定方法(X)で用いたpAメーターの測定する電流値が、測定可能範囲を超えたため、体積抵抗率(x)を求めることができなかった(表6に「Over」と記載)。
【0105】
<黒点評価>
1000枚耐久印刷を行った後、A4版サイズの白地画像上に目視による確認が可能な大きさの黒点が何個あるかを観察した。1個以上あれば不合格とした。
【0106】
<転写ネガメモリー評価>
一辺10mmのベタ黒画像を印刷した後、印刷画像を観察し、続いて均一なハーフトーン画像を印刷し、画像不良の発生の有無を評価した。画像の評価は、画像不良が見られないものを○とし、一辺10mmのベタパッチがハーフトーン部にゴーストとして現れる状態を△とし、一辺10mmのベタパッチがゴーストとしてはっきりと現れる状態を×とした。評価が「○」、又は「△」の場合を合格と判定した。
【0107】
【表6】

【0108】
表1〜5、及び図5によれば、実施例1、3、及び5の電子写真感光体に用いる導電性基体表面の抵抗層は、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲であることが分かる。これに対して、比較例1の電子写真感光体に用いる導電性基体表面の抵抗層は、同様の電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が10Ωcm未満であり、また、比較例3の電子写真感光体に用いる導電性基体表面の抵抗層は、同様の電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が、1013Ωcm超である。
【0109】
表6によれば、酸化処理されたアルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体上に、直接感光層を設けた電子写真感光体であって、導電性基体の表面には、測定方法(X)により測定される、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの範囲での、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲である抵抗層が形成されている、実施例1、3、及び5の電子写真感光体であれば、黒点の発生を抑制しつつ、転写メモリーを抑制することができる。また、実施例2、4、及び6の電子写真感光体であっても、同様に、黒点の発生を抑制しつつ、転写メモリーを抑制することができる。
【0110】
比較例1、2の電子写真感光体は、電界強度が1.33×10V/cmでの、体積抵抗率が1×10Ω・cmである。このため、感光体表面において電荷を保持させにくく、黒点の発生を抑制しにくい。比較例3、4の電子写真感光体は、電界強度が1.33×10V/cmでの、抵抗層の体積抵抗率が1×1013Ω・cmである。このため、電荷の流れが滞りやすく、転写ネガメモリーの発生を抑制しにくい。
【0111】
比較例5、6の電子写真感光体は、抵抗層が形成されていないため、感光体表面において電荷を保持させにくく、黒点の発生を抑制しにくい。一方、比較例7、8の電子写真感光体は、電界強度が1.33×10V/cmでの、抵抗層の体積抵抗率が測定可能範囲を超えた。このため、電荷の流れが滞りやすく、転写ネガメモリーの発生を抑制しにくい。
【符号の説明】
【0112】
101 抵抗層
103 絶縁性マスク
105 露出部
106 銀ペースト電極
10 積層型電子写真感光体
11 導電性基体
12 電荷発生層
13 電荷輸送層
20 単層型電子写真感光体
21 感光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化処理されたアルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体上に、直接感光層を設けた電子写真感光体であって、
前記導電性基体は表面の表面には、下記測定方法(X)により測定される、電界強度1.67×10〜3.33×10V/cmの、体積抵抗率(x)が、2.38×10〜3.01×1012Ωcmの範囲である抵抗層が形成されている、電子写真感光体。
測定方法(X):
1)露出部を有するように、導電性基体表面の抵抗層上に絶縁性マスクを施し、露出部全面が覆われるように銀ペーストを垂らし、室温で乾燥させ、銀ペースト電極を形成させる。
2)測定環境を24℃、58RH%とし、少なくとも電界強度が1.67×10〜3.67×10V/cmの範囲における、導電性基体と銀ペースト電極の量電極間を流れる電流値をpAメーターで測定する。
3)電流値測定開始30秒後の安定した値を読み取り、抵抗層の体積抵抗率(x)を求める。
【請求項2】
前記抵抗層がベーマイトである、請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記アルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体の酸化処理が、下記方法(Y)により処理される、請求項1又は2記載の電子写真感光体。
処理方法(Y):
1)アルミニウム、又はアルミニウム合金からなる導電性基体を、抵抗1.0×10Ω・cm以上、70〜95℃、の水中に5〜90秒間浸漬する。
2)その後、オーブンにて、大気中、120〜180℃で、12〜25分間加熱処理する。
【請求項4】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備え、
前記像担持体が、請求項1〜3の何れか1記載の電子写真感光体である画像形成装置。
【請求項5】
前記帯電部が、接触帯電方式により直流電圧を印加する、請求項4記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−109035(P2013−109035A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251828(P2011−251828)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】