説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】フランジとの嵌合精度を高めることで電子写真感光体の偏芯を抑え、画像濃度ムラを効果的に抑制した電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】シリンダーの外周面を切削する外周面切削工程と、前記シリンダーの切削された外周面の上に感光層をプラズマCVDを用いて成膜する成膜工程とを有する電子写真感光体の製造方法において、前記成膜工程の後に、前記シリンダーの端部の内周面を加工する端部加工工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化アモルファスシリコン(以下、「a−Si」とも称する。)からなる感光層を形成した電子写真感光体(以下、「a−Si感光体」とも称する。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置では、感光層が設けられた電子写真感光体の外周面を一様に帯電させ、ついで被複写体の被複写像を露光させることにより電子写真感光体の外周面の上に静電潜像を形成する。さらに電子写真感光体の上にトナーを付着させることでトナー像を形成し、これを複写用紙などに転写させて画像形成が行なわれる。
近年、画像の高画質化のために、電子写真感光体の真円からのずれや偏芯(芯ぶれ)に対する要求が従来以上に高まってきた。即ち、真円からのずれや偏芯があると、例えば広い面積でのハーフトーンを描画する場合などで微妙な濃淡が発生する可能性があった。特に軽印刷などのプリントオンデマンド(以下、「POD」と略する)市場やピクトリアル分野においては、画像濃度均一性に対する要求は著しく高く、その要求に応えていくために製品の歩留まりが低下する場合があった。
【0003】
上記の問題を解決するための対策として、特許文献1では、アモルファスシリコンを感光層とした電子写真感光体において、シリンダーは少なくとも端部側で内径が拡大された部分と、さらに端部側にテーパー形状部分を形成する方法が提案されている。このことにより、電子写真感光体に嵌着して複写機内に電子写真感光体を固定するための治具(以下、「フランジ」とも称する)との嵌め合い精度が高まり、フランジと電子写真感光体端部とのがたが抑えられ偏芯を生じにくくすることが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−297500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の方法に開示されるように、シリンダーの端部形状の工夫などによってフランジとの嵌合精度を上げ、偏芯による濃度ムラを効果的に防止してきた。しかし、近年の性能向上の要求により、感光層の膜厚増加や表面層の結合力強化がなされ、膜の応力は増大傾向にある。また、要求される特性によっては感光層を製造する際のプラズマCVDプロセスでのシリンダー温度を高めることもあり、シリンダーと膜との熱応力の違いに起因する変形も増大することがあった。このため、端部の寸法変化が増大する場合が増えてきた。一方で、画像濃度ムラに対する要求はますます厳しくなっており、ゆえに端部の寸法精度に対する要求も厳しくなってきた。
【0006】
また、コストダウンを図るために、シリンダーの肉厚を薄くしたいというニーズがある。しかし、シリンダー全体の肉厚を薄くすると、嵌合時の精度を保つための端部内周面の切削加工(以下、インロー加工とも称する。)を施した部分の肉厚はさらに薄くなってしまう。このことから、さらに端部での変形量が増してしまい、フランジが入りにくくなる場合もあった。
【0007】
この現象について、インロー部とフランジとの嵌合を図1を用いて説明する。図1(a)には、シリンダー101の端部とフランジ103の関係を示している。シリンダー101の端部には、インロー部102が形成されており、フランジ103と嵌め合わせてシリンダー101を保持する構造となっている。このフランジで保持することによってシリンダーの上に感光層を堆積させた電子写真感光体が複写機本体に取り付けられ、電子写真感光体を回転させて複写動作をする。このため、電子写真感光体の中心軸と複写機の回転軸との偏芯量を抑えるための精度はとても重要である。このとき、偏芯量の精度に大きく影響するのは、フランジ103とインロー部102が接触する部分である嵌合部104の寸法精度である。しかし、この部分はシリンダーの肉厚が他の部分より薄くなっており、しかも端部であるために応力による変形を起こしやすいという特徴がある。具体的には、感光層109を成膜した後の電子写真感光体端部は図1(b)の矢印105が示す方向、即ちシリンダーを内側に曲げようとする方向に変形することが多い。矢印105が示す方向に変形すると、フランジが挿入しにくくなったり、ひどい場合には入らなくなったりするため、挿入可能とするためにフランジ103の外径106を、変形したシリンダ端部の内径107よりも小さくする必要があった。このため、フランジ103の外径106と嵌合部104での内径108との差が大きくなり、偏芯量が大きくなる原因になることがあった。
【0008】
一方、特許文献1に開示されている基板加工に工夫を施した図2(a)のような場合、即ちインロー部202の嵌合部204より外側の部分にテーパー形状を設けた構造では、成膜した後は図2(b)のようになる。このため、端部の変形によってフランジが入りにくくなる問題は解消できる。しかし応力が大きい場合には、本来精度を要求されるフランジと嵌合して接触する部分である嵌合部204まで変形してしまうことがあった。即ち、図2(b)に示したように、応力が小さい場合、端部のテーパー加工した部分のみが矢印205が示す方向に内側に曲がるだけであり、嵌合部204の変形はほとんどなかった。なおかつ、矢印205が示す方向への変形が小さい場合、フランジ203の外径206はシリンダ端部の内径207よりも小さく、嵌合部204における内径208は変化がないため、精度の高い嵌合がなされる。
【0009】
しかし応力が大きくなり、その結果変形量が大きくなると、図2(c)に示したように高精度で切削した嵌合部204が外側に膨らむ傾向が見られることが分かった。
つまり、図2(b)のように変形が少ない場合には、端部の変形は矢印205が示す方向のみであった。しかし変形が大きくなると、矢印205が示す方向への変形量が増えることに加え、嵌合部204の領域が矢印209が示す方向、即ち外側の方向に膨らむことが分かった。つまり、矢印205が示す方向への変形のため、シリンダ端部の内径207が小さくなることがあり、その場合これに合わせてフランジの外径206を小さくする必要があった。加えて、嵌合部204での内径208も大きくなる場合があり、フランジ外径206と嵌合部204での内径208との差が大きくなり、偏芯量が増大する場合があった。このことから、変形量が大きくなると、特許文献1のような工夫を施してもフランジとシリンダーとの嵌合精度が高くならなくなる場合も生じることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、シリンダーの外周面を切削する外周面切削工程と、前記シリンダーの切削された外周面の上に感光層をプラズマCVDを用いて成膜する成膜工程とを有する電子写真感光体の製造方法において、前記成膜工程の後に、前記シリンダーの端部の内周面を加工する端部加工工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明では、シリンダーの端部加工をプラズマCVDを用いた成膜の後に行うことを特徴とする。このことにより、フランジとの嵌合時の精度が大幅に向上することで濃度ムラの問題の解決が可能となり、POD分野やピクトリアル分野で要求される、画像濃度均一性の高い画像が得られる。また、成膜前にインロー加工をする場合には、成膜による変形などを考慮に入れた設計が必要であるが、本願の場合にはインロー加工前後で変形がほとんどないため、設計の自由度が上がるという効果があった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】シリンダー端部のインロー加工部分とフランジとの関係を模式的に示した図である。
【図2】特許文献1に示されたインロー部分の端部側をテーパー加工した場合の成膜した後の変形を示した図である。
【図3】本発明のフローを示したチャート図である。
【図4】本発明で製造された電子写真感光体が好適に用いられる電子写真装置の一例を示した模式図である。
【図5】本発明でシリンダー、ないし感光層を堆積させたシリンダー、の端部加工を外周面基準で行う切削装置を示した図である。
【図6】本発明でシリンダーの外周面加工、またはシリンダーないし感光層を堆積させたシリンダーの端部加工を、内周面基準で行う切削装置を示した図である。
【図7】本発明でシリンダーの外周面加工を端部とテーパー部との稜線をチャックして行う切削装置を示した図である。
【図8】本発明の実施形態の例である、図3(a)(b)(c)に示したフローに従った切削加工を模式的に示した図である。
【図9】本発明の実施例における回転振れ評価の方法を模式的に示した図である。
【図10】本発明の実施例4における成膜した後のシリンダーとフランジとの嵌合状態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは鋭意検討を行ったところ、近年の高い画像濃度均一性に対する要求を満足するためには、端部を加工した後に成膜を行う従来の嵌合精度を超えて偏芯量を抑制することが望ましいことが分かった。そこで本発明者らは、成膜した後に端部加工を行うことで、フランジとの嵌合時の精度を向上させることが可能になることを見出し、本発明に至った。
インロー部の変形は、シリンダーと感光層の線膨張係数の違いに起因する熱応力と、膜中に蓄積された内部応力とに起因している。成膜した後にインロー部を作っても内部応力による変形は多少起こるはずであるが、成膜した後に温度が下がる時点で応力緩和が起こっていると思われ、インロー部を極端に薄くしない限り変形が生じないことが分かった。また、仮に内部応力による変形が起こるとしても、変形量を見越して図2(a)のようなテーパー加工をすれば回避することができる。この点から、成膜前にインロー部を形成して成膜をする場合に比べて圧倒的に変形量のコントロールが容易になり、嵌合精度を大幅に高めることが可能となった。
次に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
<本発明で使用するシリンダー切削加工装置>
図5に、本発明においてシリンダーないしシリンダー上に感光層を形成した電子写真感光体(以下、上記2つの場合を含めて単にシリンダーと表記する。)の端部加工を行う切削加工装置の例を示す。
本発明に用いる図5の加工装置500では、シリンダー501の外周面502に沿って3組のローラーを当ててシリンダー501を支持している。シリンダー501の下部には、シリンダー501を受けるためのローラー503a、503b、そして503a、503bと図5紙面に対して対称の位置にある不図示のローラーが配されている。シリンダー501の上部には、支持と駆動を兼ねるローラー504a、504bが配されている。
【0015】
ローラー503a、504aは電子写真感光体の一方の端部に、ローラー503b、504bは電子写真感光体の他方の端部に当接するように配置されている。それぞれのローラーはシリンダー501の外周を基準とする中心軸507に対して概略平行に設定された軸505、506により加工装置に固定され、軸505、506を中心として円滑に回転するように設定されている。
ローラー503a、503bと図5紙面に対して対称の位置にある不図示のローラーは駆動されていないが、シリンダー501を高精度に支持する機能を果している。
【0016】
したがって、軸505は、シリンダー501を支えるのに十分な強度が必要である。その材質としてはステンレスやアルミニウムを用いることが好ましい。また、形状としては、棒円柱状またはパイプ円筒状が好ましい。さらに軸505、506は高精度のベアリング、焼結金属等の軸受で受ける必要がある。
さらにローラー503a、503b、504a、504bはシリンダー501を傷つけないよう、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂の如き樹脂を用いることが好ましい。加工精度と強度とを併せ持った、ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」とも称する。)の如き素材が特に好ましい。
【0017】
また、ローラー504a、504bは、モータ508及び動力伝達手段509、510よりなる駆動手段を介してシリンダー501を駆動する機能を果している。以下、504aと504bを「駆動ローラー」という。
駆動ローラー504a、504bは回転ムラが少なく、さらにシリンダー501を駆動するのに十分な摩擦抵抗を備えた表面材料を選定する。そのような表面材料としては、天然ゴム、ブタジエンゴム等のゴム、ウレタン、ポリエステル等の樹脂材料等を用いることが好ましい。
【0018】
ローラー503a、503b、その対称位置のローラー、及び駆動ローラー504a、504bの配置は中心軸507を中心としてシリンダー501を回転させる構造とする。ローラー503a、503b、駆動ローラー504a、504bがシリンダー501の表面に当接する位置は画像形成にかかわる領域を避けてシリンダー501の端部とすることが好ましい。
【0019】
さらにシリンダー501のそれぞれの両端部の近傍にローラー503a、503b、その対称位置のローラー、及び駆動ローラー504a、504bを当接することにより中心軸507の回転振れを少なくすることができる。シリンダー501が回転している状態で、シリンダー501の内周面に加工工具511a、511bを当て、シリンダー端部の加工を行う。
【0020】
加工工具511a、511bは、軸(又は軸受部)方向、及びそれに鉛直な方向に可動な台に設置されており、加工面に沿って必要に応じて移動可能である。この2軸を組み合わせることで軸に対して斜めの方向への操作も可能であり、テーパー加工をすることも出来る。さらにシリンダー501が中心軸507と平行方向(図5において左右方向)に振れるのを防止するため、シリンダー側面に接する振れ防止ローラー512a、512bを備えることも好ましい。
シリンダー501を出し入れする際は、駆動ローラー504a、504bは保持を解除できるようにする。
【0021】
図5に示す加工装置500によってシリンダー501を加工する方法を説明する。ローラー503a、503b、その対称位置のローラーの上にシリンダー501を置き、駆動ローラー504a、504bを押し当ててシリンダー501を保持する。次いで、駆動ローラー504a、504bを駆動させ、中心軸507を中心としてシリンダー501を回転させる。この状態でシリンダー501の端部に加工工具511a、511bを押し当て、加工する。加工工具511a、511bの移動方向を変えることで、シリンダー501の端面を外周面に対して垂直に加工する工程、シリンダー501端面から内周面中央方向に向かってテーパー加工を施す工程を行うことが出来る。また、シリンダー内周面を切削してインロー部を形成する工程、成膜した後にフランジ嵌合部の精度出しを行う工程も行うことができる。
加工工具511a、511bを走査し所定の加工が完了した後、加工工具511a、511bを移動退避させた状態で駆動ローラー504a、504bのシリンダー501に対する保持を解除し、その後、加工が完了したシリンダー501を取り出す。
【0022】
図6に、本発明において内周面を基準としてシリンダー601の外周面602の加工ないし内周面603の端部の加工を行う切削加工装置の例を示す。
本発明に用いる図6の加工装置では、まず内周面603のうち、加工装置の回転中心軸から等しい距離(等距離)の面が形成された基準面608を形成する。基準面608は、まずコレットチャックの如きチャッキング部材604でシリンダー601の内面をチャッキングする。このとき、基準面608の長さより内側をチャッキングする。例えば基準面608の長さが40mmの場合、端面から50mm程度より内側をチャッキングするようにすればよい。その後、不図示の軸回転機構によってシリンダー601を回転させ、加工工具605a、605bを用いて両端に基準面608を形成する。その後、引き続いて加工工具606を用いてシリンダー601の外周面602を切削加工する。加工が終了した後、加工工具605a、605b、606を移動退避させた状態で回転機構を停止し、チャッキングを解除してシリンダー601を取り出す。
【0023】
成膜を終了した後のシリンダーに関しても、基準面608をチャッキング部材604でチャッキングした後、内周面を加工するための加工工具605a、605bによってインロー部607を形成する。加工が終了した後、加工工具605a、605bを退避させ、回転停止させてチャッキングを解除、シリンダー601を取り出す。
【0024】
図7に、本発明においてテーパー加工を施した端部を基準としてシリンダー701の外周面702の加工を行う切削加工装置の例を示す。
本発明に用いる図7の加工装置では、まずシリンダー701の端部に、シリンダー701の回転中心軸から等しい距離の円状のエッジ706が必要である。このエッジ706は、あらかじめ図5の如き加工装置によって形成することが出来る。この基準となるエッジ706を、図7(a)に示したようなテーパー状のチャッキング部材704を用いてチャッキングする。このとき、図7(b)に示すようにシリンダー701の端部の断面において、端面に平行な直線L1とテーパー面に平行な直線L2とがなす角度θ2をチャッキング部材704のテーパー角度θ1に比べて大きく設定する。シリンダー701の端面を回転中心軸に対して垂直に加工し、テーパー部を角度θ2で加工することにより、円周状のエッジ706は回転中心軸から等しい距離の位置に設定することが出来る。そこで、角度θ2より小さい角度θ1のテーパー角度を持ったチャッキング部材704を用いることにより、回転中心軸から等しい距離のエッジ706を正確にチャッキングして加工することが可能となる。
【0025】
上述したような手順で正確にチャッキングした後、不図示の軸回転機構によってシリンダー701を回転させ、加工工具705を用いてシリンダー701の外周面702を切削加工する。加工が終了した後、加工工具705を移動退避させた状態で回転機構を停止し、チャッキングを解除してシリンダー701を取り出す。
【0026】
<本発明の手順>
図3(a)、(b)、(c)に、本発明の電子写真感光体の製造方法の流れについてフローチャートを示した。
まず、使用するシリンダーの寸法精度がある程度高い場合には、図3(a)に示したフローに従い、図8(a)〜(c)に示したように切削加工を行うことが出来る。
まず、図5に示したような加工装置にシリンダーを設置する。シリンダー801をローラー809や不図示の他のローラーによって回転可能な状態でしっかりと保持する。次に所定の速度、例えば1000rpmでシリンダー801を回転させる。まず、加工工具802を径方向外側方向(矢印803が示す方向)に動かして端面を回転中心軸に対して垂直に加工する。次に加工工具802を矢印804が示す方向に動かしてテーパー加工を施す。テーパー部の角度θ2は45〜80度程度が良い。テーパー部の径方向の長さ810は0.100〜0.500mm程度とすればよく、エッジ807が形成できればよい。テーパー部の軸方向の長さ811は、径方向の長さ810とテーパー部の角度によって定まり、特に上下限はない。以上のような加工を他方の端部においても同様に行えばよい。
【0027】
端面とテーパー部の加工が終了した後、図7に示したような加工装置に設置する。まずチャッキング部材805によってエッジ807をチャッキングする。チャッキングを面でなくエッジで行うことにより、安定したチャッキングが可能となる。その後、所定の速度、例えば1000rpmでシリンダー801を回転させる。外形加工用加工工具806を用い、所定の切り込み深さでシリンダーを鏡面加工する。
【0028】
鏡面加工が終了したシリンダー801を、公知の手法によって脱脂洗浄、乾燥させ、プラズマCVD装置に設置し、成膜を行う。成膜した後に冷却し、その後、プラズマCVD装置から感光層808が堆積したシリンダー801を取り出す。
感光層808が成膜されたシリンダー801を、再び図5に示したような加工装置に設置し、ローラー809や不図示の他のローラーによって回転可能な状態でしっかりと保持する。このとき、ローラー809や他のローラー、駆動ローラーは感光層808に直接当接するため、画像形成領域外、例えば端部からの距離が20mm以内の領域で当接させることが好ましい。このように感光層808が成膜されたシリンダー801を回転させ、加工工具802を用いてインロー部の加工を行う。インロー部は、その後に取り付けられるフランジの外径と所定の嵌合公差になるように加工すればよい。また、この加工時には感光層808に極力傷をつけないように保護することが好ましい。例えば、インロー加工時に生じるアルミニウムの切粉が飛散して感光層に傷をつける可能性がある。これを回避するには、例えば不図示のカバーを設けて切粉が感光層側に飛散しないようにすることが出来る。また、ローラー809や駆動ローラーなどが当接しない領域を樹脂製のテープで覆うなどの保護をしてもよい。
【0029】
端部に傷がつく可能性を完全に回避したい場合や、加工前のシリンダーの真円度や寸法精度が良くない場合には、図3(b)に示したフローに従い、図8(d)〜(f)に示したように切削加工を行うことが出来る。
まず、図6に示したような加工装置にシリンダー801を設置し、コレットチャックの如きチャッキング部材812でシリンダー内周面をチャックする。このとき、チャックする面は基準面を加工するために端部から基準面の長さより内側をチャックする必要がある。具体的には例えば端部から50mmよりシリンダー内側にチャッキング部材612が収まるようにすればよい。次に所定の速度、例えば1000rpmでシリンダー801を回転させる。次に加工工具802を用いて内周面を切削加工し、基準面を形成する。例えば、加工長さを40mm程度とし、切り込み量を0.070mm程度とすることで、回転中心軸から等しい距離の平滑な基準面を内周面に形成する。
【0030】
次に外形加工用の加工工具806を用い、所定の切り込み深さでシリンダー801を鏡面加工する。
鏡面加工が終了したシリンダー801を、公知の手法によって脱脂洗浄、乾燥させ、プラズマCVD装置に設置し、成膜を行う。成膜した後に冷却し、その後、プラズマCVD装置から感光層808が堆積したシリンダー801を取り出す。
【0031】
感光層808が成膜されたシリンダー801を、再び図6に示したような加工装置に設置し、チャッキング部材812によって基準面をチャッキングし回転可能な状態でしっかりと保持する。感光層808が成膜されたシリンダー801を回転させ、加工工具802を用いてインロー部の加工を行う。
前述したのと同様に、この加工時には感光層に極力傷をつけないように保護することが好ましい。
【0032】
図3(a)、(b)の方法で作成した感光層が成膜されたシリンダー(電子写真感光体)は、インロー部の段差に、その後に取り付けられるフランジを突き当てて固定する構造をとることが出来る。より具体的には、シリンダー内部に設置した固定部材にビスでフランジを強固に固定することでシリンダーとフランジを一体化する構造をとることが出来る。
一方、インロー部の段差を利用してフランジを固定するのではなく、例えば樹脂フランジを圧入固定する場合、インロー部の段差は必要ないが、成膜によってやや端部が変形する場合がある。これを回避するために、図3(c)に示したフローに従い、図8(g)〜(i)に示したように切削加工を行うことが出来る。
【0033】
まず、図5に示したような加工装置にシリンダー801を設置し、前述したのと同様にローラー809などを用いてしっかりと回転可能に保持する。次に前述したのと同様に、加工工具802を矢印803が示す方向に動かして端面加工を、矢印804が示す方向に動かしてテーパー加工を施し、基準となるエッジ807を形成する。次に図7に示したような加工装置を用いて、前述したのと同様に外周面を鏡面加工する。次に、前述したのと同様に洗浄、成膜工程を行う。感光層808が成膜されたシリンダー801を再び図5に示したような加工装置に設置、端部、テーパー部、内周面の精度アップを行う。具体的には、切り込み深さを0.010mm程度として切削する。このような微小量の切削を行うことで、一層の精度向上が出来る。
【0034】
<本発明の電子写真感光体>
本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1の感光層109を拡大した挿入図は、本発明に係る電子写真感光体の層構成を説明するための模式的構成図であり、導電性シリンダー101の上に下部注入阻止層109A、光導電層109B、表面層109Cが順に積層された電子写真感光体である。光導電層109Bはa−Siからなる。
図1の挿入図に示した各層の形成は、公知のプラズマCVD法によって、所望の特性が得られるように成膜パラメーターの数値条件が適宜設定されて作製される。
【0035】
(シリンダー)
シリンダーの材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタンやこれらの合金を用いることができる。中でも加工性や製造コストを考慮するとアルミニウムが優れている。この場合、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金のいずれかを用いることが好ましい。
次に、寸法、表面性を要求される水準にするために、上記シリンダーの端部や外周面を前述した手順により切削加工する。
【0036】
シリンダーの肉厚は、厚ければ変形が少ないが、コスト的には薄くした方が好ましい。コストの観点から肉厚を薄くした場合、本発明を用いないと2.5mm以下では特に端部に大きな変形が生じやすいが、本発明ではその厚さでも端部の変形を防止でき、コストと精度の両立が可能になる。
【0037】
(下部注入阻止層)
本発明に用いられる電子写真感光体において、シリンダーと光導電層との間にシリンダー側からの電荷の注入を阻止する働きを有する下部注入阻止層を設けることが電気特性の点から効果的である。下部注入阻止層には伝導性を制御する原子を光導電層に比べて比較的多く含有させる。
【0038】
伝導性を制御するために下部注入阻止層に含有させる原子としては、帯電極性に応じて第13族原子又は第15族原子を用いることができる。
更に、下部注入阻止層には、炭素原子、窒素原子および酸素原子のうち少なくとも1種の原子を含有させることにより、下部注入阻止層とシリンダーとの間の密着性の向上を図ることが可能となる。
【0039】
下部注入阻止層の膜厚は、所望の電子写真特性が得られること及び経済的効果等の点から、好ましくは0.1〜10.0μm、より好ましくは0.3〜5.0μm、さらに好ましくは0.5〜3.0μmとされる。膜厚を0.1μm以上とすることにより、シリンダーからの電荷の注入阻止能を十分に有することができ、好ましい帯電能を得ることができる。一方、10.0μm以下とすることにより、作製時間の延長による製造コストの増加を防ぐことができる。
【0040】
(光導電層)
本発明に用いられる電子写真感光体おいて、光導電層はa−Siからなり、適宜伝導性をコントロールする為の不純物原子として第13族原子、第15族原子を添加しても良い。また、抵抗値の如き特性を調整する為に、酸素、炭素、窒素の如き原子を適宜添加しても良い。膜中の未結合手(ダングリングボンド)を補償するために、適宜水素原子を含有させる事が出来る。
【0041】
水素原子(H)の含有量の合計は、シリコン原子と水素原子の和に対して10原子%以上、特に15原子%以上であることが好ましく、また、30原子%以下、特に25原子%以下であることが好ましい。また、水素原子と同様の効果を得る目的で、フッ素の如きハロゲン原子を水素原子とともに含有させてもよい。
光導電層の膜厚は、通常、所望の電子写真特性が得られること、経済的効果の点から所望にしたがって適宜決定される。上限としては60μm以下とすることが好ましい。
【0042】
加えて本発明においては、膜堆積に伴う熱応力、膜の内部応力の影響から端部の変形が起こることから、感光層全体の膜厚が厚くなる場合には顕著な効果が得られる。感光層の大部分が光導電層であるため、光導電層が厚くなった場合、具体的には感光層全体の厚さが40μm以上に厚膜化した際に特に顕著な効果が得られる。
【0043】
(表面層)
本発明における表面層の材質は、シリコン原子と炭素原子を母体とする非単結晶材料からなる。また、水素原子及び/又はハロゲン原子を膜中に適宜含んでいることが好ましい。
このとき、表面層に含まれる炭素量は、シリコン原子と炭素原子の和に対する炭素原子の数として50原子%から80原子%の範囲が好ましい。
【0044】
また、表面層中に水素原子が含有されることが好ましいが、水素原子はシリコン原子の未結合手を補償し、層品質の向上、特に光導電性特性および電荷保持特性を向上させる。水素含有量は、構成原子の総量に対して通常の場合、膜中の平均値として5〜70原子%、好適には8〜60原子%、最適には10〜50原子%とすることが望ましい。
また、適宜窒素原子、酸素原子を含んでもよく、a−SiCON系の材料としても構わない。
【0045】
表面層の層厚としては、通常0.01〜3μm、好適には0.05〜2μm、最適には0.1〜1.5μmとされるのが望ましいものである。層厚が0.01μmよりも薄いと光受容部材を使用中に磨耗により表面層が失われる場合があり、3μmを越えると残留電位の増加の如き電子写真特性の低下が発生する場合がある。
【0046】
<インロー加工>
シリンダー外周面に感光層を成膜した電子写真感光体を再び旋盤に設置し、インロー加工を行う。
図3(a)のフローに従った場合、回転中心の基準面は外周面であるため、外周面に傷をつけないように気をつけながら、外周部を保持して回転させ、インロー部を形成する。具体的には、例えばPEEKなどの樹脂で形成されたローラーを外周面に突き当てて回転させる方法が挙げられる。例えばシリンダーの軸方向の長さが381mmのものを使用した場合、画像形成領域はA3ノビを考えても328mm程度であり、その外側、例えば端部から20mm以内であれば影響はほとんどない。このような範囲でローラーを突き当てて保持しながら回転し、加工工具にて所望の深さ、幅に渡りインロー加工を行えばよい。
【0047】
図3(b)のフローに従った場合には、回転中心の基準面は外周面、内周面いずれも使用可能であるが、外周面を保持する必要がないため通常は内周面を保持する方法を取る。例えば、シリンダー軸方向の一方向からコレットチャックにて保持し、他方のインロー加工を行い、その後に電子写真感光体の向きを逆にして逆側のインロー部を加工すればよい。
切り込み量、加工工具送り速度の如きパラメータは任意に設定して構わないが、シリンダーの肉厚が薄い場合には、切り込み量はあまり取らない方が望ましい。好ましくは肉厚の半分以下が望ましい。
【0048】
<電子写真装置>
本発明で製造された電子写真感光体を好適に用いることができる電子写真装置について、図4の概略構成図を参照して説明する。この電子写真装置は、表面に静電潜像が形成され、この静電潜像の上にトナーが付着されてトナー像が形成されるドラム型の電子写真感光体401を有している。電子写真感光体401の周りには、電子写真感光体401の表面を所定の極性・電位に一様に帯電させる一次帯電器402が配置されている。また、帯電された電子写真感光体401の表面に画像露光光(潜像形成光)403を照射して静電潜像を形成する、不図示の画像露光装置が配置されている。
【0049】
形成された静電潜像の上にトナーを付着させて現像する現像器として、ブラックトナーBを付着させる第1現像器404aと、カラートナーを付着させて現像する第2現像器404bが配置されている。第2現像器404bは、イエロートナーYを付着させる現像器とマゼンタトナーMを付着させる現像器とシアントナーCを付着させる現像器とが内蔵された回転型の現像器である。
【0050】
また、感光ドラムの上でトナー像を形成しているトナーの電荷を均一にし、安定した転写を行うようにするための転写前帯電器405が設けられている。さらに、中間転写ベルト406にトナー像を転写した後、電子写真感光体401の上をクリーニングする電子写真感光体クリーナ407および電子写真感光体401の除電を行う除電光照射手段408が設けられている。
【0051】
中間転写ベルト406は、電子写真感光体401に当接ニップ部を介して駆動するように配置されており、内側には電子写真感光体401の上に形成されたトナー像を中間転写ベルト406に転写するための一次転写ローラー409が配備されている。
一次転写ローラー409には、電子写真感光体401の上のトナー像を中間転写ベルト406に転写するための一次転写バイアスを印加するバイアス電源(不図示)が接続されている。中間転写ベルト406の周りには、中間転写ベルト406に転写されたトナー像を記録材412にさらに転写するための二次転写ローラー410が、中間転写ベルト406の下面部に接触するように設けられている。二次転写ローラー410には、中間転写ベルト406の上のトナー像を記録材412に転写するための二次転写バイアスを印加するバイアス電源が接続されている。また、中間転写ベルト406の上のトナー像を記録材412に転写した後、中間転写ベルト406の表面上に残留した転写残トナーをクリーニングするための中間転写ベルトクリーナ411が設けられている。
【0052】
また、この電子写真装置は、画像が形成される複数の記録材412を保持する給紙カセット413と、記録材412を給紙カセット413から中間転写ベルト406と二次転写ローラー410との当接ニップ部を介して搬送する搬送機構とが設けられている。記録材412の搬送経路上には、記録材412の上に転写されたトナー像を記録材412の上に定着させる定着器414が配置されている。
【0053】
画像露光装置としては、カラー原稿画像の色分解・結像露光光学系や、画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応して変調されたレーザビームを出力するレーザスキャナによる走査露光系が用いられる。このような露光系により、画像パターンに従って、複数行、複数列の画素マトリックスの画素ごとに、レーザまたはLEDを光源とする光ビームを照射して静電潜像を電子写真感光体の表面に形成することができる。
【実施例】
【0054】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらによって何ら限定されるものではない。
<実施例1>
外径84.14mm、内径78.50mm、長さ383.0mmのアルミニウムシリンダーを用い、図3(a)のフローに従い、インロー加工はせず、端面加工、内周面端部のテーパー部加工を行った。アルミニウムシリンダーを図5の加工装置に取り付け、端面の加工を行い、全長を381.0mmとなるように切り込み深さを調整して回転軸に対して垂直な面を形成した。また、テーパー部においては、テーパー面の角度(図7のθ2に対応する角度)を70度とし、最端部での内径が0.1mm拡がるようにした。次にこのシリンダーを図7の加工装置に取り付け、加工工具としては平バイトを用いて外径が83.94mmになるように切削加工を行った(外周面切削工程)。外周面を切削した後のシリンダーの肉厚は2.72mmであった。
【0055】
この加工を施したシリンダーを脱脂洗浄した後、13.56MHzの高周波を用いた容量結合型のプラズマCVD装置(不図示)に設置し、表1に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層からなる堆積膜を順次積層した(成膜工程)。
成膜した後、感光層が形成されたシリンダーを取り出して図5の加工装置にセットし、両端部のインロー加工を行った(端部加工工程)。インロー部の長さを18.0mm、切り込み深さを0.52mm、インロー部の内径を79.54mm、インロー部でのシリンダーの肉厚を2.20mmとした。
なお、以上のインロー部形成により、成膜前の外面切削時に使用したテーパー部は取り除かれている。
このように作製した電子写真感光体に対し、以下のような評価を行った。
【0056】
(1)回転振れ評価
作製した電子写真感光体に嵌合部の厚さが10.0mm、外径が79.51mmのフランジを取り付けた状態で、電子写真感光体を図9に示した回転振れ評価試験機に装着する。電子写真感光体901にフランジ902を取り付けた状態で、回転軸903を通して装置に接続する。フランジ902が取り付けられた電子写真感光体901はギア904、905を介してモーター906に接続され、回転可能となっている。この状態で、30rpmの速度で回転させながら、渦電流プローブ907で電子写真感光体との距離を求め、渦電流計908で記録する。回転振れがある場合、端部のぶれが最も大きいため、電子写真感光体の端部から10mmの位置で測定した。電子写真感光体が1回転する際の渦電流計の指示値の最大値と最小値を選び、その差を回転振れとした。また、左右両端で比較して大きい方の値を取り、その電子写真感光体の回転振れと定義した。渦電流プローブとしては、渦電流式変位センサ(キーエンス社製EX−305)、渦電流計としてはデジタルメーターリレー(キーエンス社製RV3−55R)を用いた。
【0057】
比較例1で作製した電子写真感光体での評価結果を基準として、以下のようなランク付けをし、B以上を本発明の効果ありと判断した。
AA・・・比較例1の電子写真感光体に対して30%以下の回転振れ
A・・・比較例1の電子写真感光体に対して30%より大きく40%以下の回転振れ
B・・・比較例1の電子写真感光体に対して40%より大きく90%以下の回転振れ
C・・・比較例1の電子写真感光体に対して90%より大きく100%以下回転振れ
D・・・比較例1の電子写真感光体に対して100%より大きい回転振れ
【0058】
(2)画像濃度ムラ評価
前述したフランジを取り付けた状態で、図4に示した電子写真装置(キヤノン製iRC6800を実験用に改造したもの)に装着し、シアン単色、600dpi、1ドット1スペースで描画した412×290mm画像をA3用紙に出力した。この画像のうち、電子写真感光体軸方向中央からの距離が125mmから135mmの10mm幅の領域において、ドラム1周分264mmに当たる10mm×264mmの領域で画像濃度測定を行った。画像を26等分割して10.15mm×10mmの領域に区切り、1区域内の任意の点で画像の濃度を反射濃度計(X−Rite Inc製:504 分光濃度計)により測定した。同様の測定を電子写真感光体の軸方向対称位置に相当する個所に関しても行い、且つ3枚の出力画像に関して調べた。得られた濃度のばらつきを統計的に判断するため、標準偏差を算出し、これを濃度ムラと定義した。
【0059】
比較例1の電子写真感光体での評価結果を基準として、以下のようなランク付けをし、B以上で本発明の効果が得られたと判断した。
A・・・比較例1の濃度分布の標準偏差に対して50%以下の標準偏差
B・・・比較例1の濃度分布の標準偏差に対して50%より大きく90%以下の標準偏差
C・・・比較例1の濃度分布の標準偏差に対して90%より大きく100%以下の標準偏差
D・・・比較例1の濃度分布の標準偏差に対して100%より大きい標準偏差
得られた評価結果を比較例1の結果と合わせて表2に示す。
【0060】
<比較例1>
外径84.14mm、内径78.50mm、長さ383.0mmのアルミシリンダーを用い、図5の加工装置を用いて外径を基準として端面加工を施し、長さを381.0mmとした。次に図2(a)の形状のインロー加工を行った。インロー部全体の長さ(図2の202に相当)を18.0mm、そのうち端面よりの9.0mmの領域をテーパー形状とした。インロー部奥側9.0mmに位置する内径寸法一定の領域では、内径を79.54mmとし、テーパー部では、端面において内径が79.78mmとなるようにテーパー加工を施した。即ち、インロー部奥側との内径差が最大となる端面において、その内径差が0.24mmとなるようにした。
【0061】
次に、図6に示した加工装置を用い、インロー部奥側の内径寸法一定の領域でチャッキングし、加工工具として平バイトを用いて外径が83.94mmになるように切削加工を行った。これにより、外周面を切削した後のシリンダーの肉厚は2.72mm、インロー部奥側の内径寸法一定の領域の肉厚は2.20mm、テーパー部最薄部の肉厚は2.08mmとなっている。
この加工を施したシリンダーを脱脂洗浄し、実施例1と同様に、表1に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層からなる堆積膜を順次積層し、実施例1と同様のフランジを装着し、実施例1と同様の評価を行った。
【0062】
得られた結果を実施例1の結果と合わせて表2に示した。
実施例1で作製した電子写真感光体は回転振れ評価においては良好で、成膜前にインロー加工を行った比較例1で作製した電子写真感光体に比べて回転振れが小さかった。また、実施例1で作製した電子写真感光体は画像濃度ムラ評価でも成膜前にインロー加工した比較例1で作製した電子写真感光体に比べて良好であった。
【0063】
一方、比較例1の成膜前にインロー加工を行った電子写真感光体では、フランジを取り付ける際に精度が悪いことが確認できた。目視確認の結果、比較例1で作製した電子写真感光体では電子写真感光体端部では内側に、インロー部の奥側ではやや外側にひずんでいた。これに起因して回転振れ評価では若干の振れが見られた。また、画像濃度ムラ評価では、若干の濃度ムラが見られたが、通常のオフィスで用いられるような書類においては問題にならないレベルであった。しかし、POD用途やピクトリアル分野での使用を考えた場合には、より改善した方が望ましいレベルであった。
以上の結果から、インロー加工を施した後に成膜する方法に比べ、成膜した後にインロー加工を施す本発明の方法により、嵌合精度が向上し回転振れが抑えられ、それに伴って画像濃度ムラが高いレベルで抑えられることが分かった。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
<実施例2>
外径84.14mm、長さ383.0mmであり、内径が77.94mmを2本、78.94mm、79.34mm、79.94mmの4種類、5本のアルミニウムシリンダーを用い、図3(a)のフローに従って加工した。図5の加工装置により端面とテーパー部を形成し、長さを381.0mmとした。テーパー部においては、テーパー面の角度(図7のθ2に対応する角度)を70度とし、最端部での内径が0.1mm拡がるようにした。次に図7の加工装置にて外径が83.94mmとなるように切削加工を行った。外周面を加工した後のシリンダーの肉厚は、それぞれ3.00mmが2本、2.50mm、2.30mm、2.00mmであった。
【0067】
この加工を施したシリンダーを実施例1と同様に脱脂洗浄し、実施例1と同様に表1に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層からなる堆積膜を順次積層した。成膜した後、電子写真感光体を取り出して図5の加工装置にセットし、インロー加工を行った。インロー部の長さとしては18mm、インロー部の内径はそれぞれ、79.54mm、79.94mm、79.98mm、80.38mm、80.98mmとなるように加工した。
なお、このインロー部の加工により、成膜前に形成したテーパー部は取り除かれている。
【0068】
これらの電子写真感光体に、嵌合部の厚さが10.0mmのフランジを嵌合させる。このとき、シリンダーの内径にあわせた外径をもつフランジをそれぞれ用意した。インロー内径が79.54mmの場合には外径が79.51mmのフランジ、79.94mmの場合には外径が79.91mmのフランジ、79.98mmの場合には外径が79.95mmのフランジを用意した。また、インロー内径が80.38mmの場合には外径が80.35mmのフランジ、インロー内径が80.98mmの場合には外径が80.95mmのフランジを用意した。これらを嵌合させた状態で、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0069】
<比較例2>
外径84.14mm、長さ383.0mmであり、内径が77.94mmを2本、78.94mm、79.34mm、79.94mmの4種類、計5本のアルミニウムシリンダーを用い、図5の加工装置を用いて外径基準で端面加工を施した。加工した後の長さを381.0mmとした。次に図2(a)の形状のインロー加工を行った。インロー部全体の長さ(図2の202に相当)を18.0mm、そのうち端面よりの9.0mmの領域をテーパー形状とした。インロー部奥側9.0mmに位置する内径寸法一定の領域では、それぞれ、寸法を79.54mm、79.94mm、79.98mm、80.38mm、80.98mmとした。テーパー部では、端面における内径部の最大寸法が0.24mmだけ大きくなるようにテーパー加工を施した。
【0070】
次に、図6に示したような加工装置を用い、インロー部奥側の内径寸法一定の領域でチャッキングし、加工工具として平バイトを用いて外径が83.94mmになるように切削加工を行った。外周面を切削した後のシリンダー内周部の肉厚はそれぞれ3.00mm、3.00mm、2.50mm、2.30mm、2.00mmであり、インロー部の肉厚はそれぞれ2.20mm、2.00mm、1.98mm、1.78mm、1.48mmとなった。テーパー部の最薄部での肉厚はそれぞれ、2.08mm、1.88mm、1.86mm、1.66mm、1.36mmであった。
【0071】
この加工を施したシリンダーを実施例1と同様に脱脂洗浄した後、実施例1と同様に表1に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層からなる堆積膜を順次積層した。
得られた電子写真感光体3本に対し、実施例2と同じ寸法のフランジを嵌合させた。即ち、インロー部奥側9.0mmに位置する内径寸法が79.54mmの場合には外径が79.51mmのフランジを使用した。同様に、79.94mmの場合には外径が79.91mmのフランジを使用、79.98mmの場合には外径が79.95mmのフランジを使用した。同様に、内径寸法が80.38mmの場合には外径が80.35mmのフランジ、内径寸法が80.98mmの場合には外径が80.95mmのフランジを使用した。このようなフランジを嵌合させた状態で、実施例1と同様の評価を行った。得られた結果は実施例2の結果と合わせて表3に示す。
【0072】
実施例2の5本の電子写真感光体については、肉厚2.00mmのものでややフランジを入れる際にきつくなっていたが、いずれも問題なく嵌合でき、がたつきもなかった。回転振れ評価も画像濃度ムラ評価のいずれも、従来技術である比較例1に対して非常に良好な結果が得られた。
一方、比較例2の5本の電子写真感光体については、肉厚3.00mmの場合で、テーパーをつけた最端部の肉厚が2.08のものは比較例1並であった。肉厚3.00mmで最端部の肉厚が1.88mmのもの、肉厚2.50mmのもので最端部の肉厚が1.86mmのものの2つは、かろうじてフランジが入ったが比較例1よりも回転振れ、画像濃度ムラ評価は悪かった。これよりも肉厚が薄いものは、フランジが全く入らず、回転振れ評価や画像濃度ムラ評価を行うことが出来なかった。
【0073】
以上のことから、シリンダーの肉厚が薄くなったり、インロー部の肉厚が薄くなると、比較例2では変形が大きかったことが分かる。このことから、実施例2の結果を比較例2を基準として考えれば、実施例2における効果は、肉厚が厚い比較例1を基準とした実施例1での効果に比べて顕著に得られることが示された。
また、シリンダーの肉厚が3mmの場合で比較すると、シリンダー最端部の肉厚が2.00mm以下の場合、比較例2を基準とした実施例2の効果はより顕著であった。
以上の結果から、シリンダーの肉厚が薄くなった(2.50mm以下となった)場合や、シリンダーの最端部の肉厚が薄くなった(2.00mm以下となった)場合には、本発明の効果がより顕著に得られることが示された。
【0074】
【表3】

【0075】
<実施例3>
外径84.14mm、内径78.50mm、長さ381.0mmのアルミシリンダーを用い、図3(b)のフローに従い、インロー加工はせず、内周面に基準面の作製を行った。まずアルミニウムシリンダーを図6の加工装置に取り付け、端面から50mmより内側をチャッキングし、端面から軸方向40.0mmまで、切り込み深さ0.05mmの切削加工を行い、これを基準面とした。次に、加工工具として平バイトを用いて外径が83.94mmになるように外周面の切削加工を行った。外周面を切削した後のシリンダーの肉厚は2.72mmであった。
【0076】
この加工を施したシリンダーを脱脂洗浄した後、プラズマCVD装置に設置し、表1に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層からなる堆積膜を順次積層した。
成膜した後、電子写真感光体を取り出して図6の加工装置にセットし、前述した内周面にある基準面を用いてチャッキングした後、両端部のインロー加工を行った。インロー部の長さとしては18.0mm、切り込み深さを0.47mmとしインロー部の内径を79.54mm、インロー部での電子写真感光体の肉厚を2.20mmとした。即ち、基準面のうち22.0mmは成膜前と同様に残り、端部側に18.0mmのインロー部が形成された形態とした。
【0077】
この電子写真感光体に対し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
実施例1と同様、全ての評価において、従来技術であるインロー加工を施した後に成膜した比較例1に比べ、非常によい評価結果が得られた。
また、本実施例においては成膜した後に外周面を保持することがなく、外周面に傷が付く可能性が全くないことが確かめられた。
【0078】
また、本実施例ではシリンダーの寸法精度が高くない場合でも旋盤の回転中心軸を基準とした真円度の高い基準面が得られる。この点から、外周面、インロー加工面とも高い精度での形成が出来ることが確かめられた。
以上の点から、インロー加工を施した後に成膜する方法に比べ、成膜した後にインロー加工を施す本発明の方法により、嵌合精度が向上し回転振れが大きく抑えられ、それに伴って画像濃度ムラが高いレベルで抑えられることが分かった。加えて、図3(b)のフローに示した通り、まず内周面を保持して内周基準面の作製と外周面の切削をし、洗浄、成膜し、成膜した後に内周基準面を保持してインロー加工を行うことにより、外周面を保持することなくインロー加工が出来た。そして、このような方法を用いてインロー加工を行うことによって外周面に傷がつく心配のないことが確かめられた。また、シリンダーの真円度や寸法精度に依らず高い精度での加工が可能であることが分かった。
【0079】
【表4】

【0080】
<実施例4>
外径84.14mm、内径78.50mm、長さ383.0mmのアルミニウムシリンダーを用い、図3(c)のフローに従い、インロー加工はせず、端面加工、内周面端部テーパー部加工を行った。アルミニウムシリンダーを図5の加工装置に取り付け、端面の加工を行い、全長を381.1mmとなるように切り込み深さを調整して回転軸に対して垂直な面を形成した。また、テーパー部においては、テーパー面の角度(図7のθ2に対応する角度)を70度とし、最端部での内径が0.1mm拡がるようにした。次にこのシリンダーを図7の加工装置に取り付け、加工工具として平バイトを用いて外径が83.94mmになるように外周面切削加工を行った。外周面を切削した後のシリンダーの肉厚は2.72mmであった。
【0081】
この加工を施したシリンダーを脱脂洗浄した後、プラズマCVD装置に設置し、表1に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層からなる堆積膜を順次積層した。
成膜した後、電子写真感光体を取り出し、図10に示したフランジ1003を装着する際、場合によっては更に高精度な嵌合が必要になることが合った。原因は、端面やテーパー部、テーパー部より中央側の内周面にも若干ながら膜が付着することや、熱による変形が考えられる。これらによる精度変化分を補正することがより好ましい場合があった。そこで図5の加工装置にセットし、両端部の微量切削を行った。端面、テーパー部、内周面をそれぞれ0.05mmの切り込み深さで除去し、内周面に関しては端面から20.0mmの領域まで切削を行った。
【0082】
その後、フランジ1003を端部に嵌合した。シリンダー1001の内周面は、フランジ1003の嵌合面よりも奥側の1002の範囲まで切削している。切削部の内径は78.60mm、フランジ1003の嵌合部の外径は78.57mmであった。
フランジ1003を装着した状態で、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
実施例1と同様、全ての評価において、従来技術であるインロー加工後に成膜した比較例1に比べ、非常によい評価結果が得られた。
以上の点から、インロー加工を行わない場合でも、高い嵌合精度による安定したフランジの装着が可能となり、画像濃度ムラが高いレベルで抑えられることが分かった。
【0083】
【表5】

【0084】
<実施例5>
外径84.14mm、内径78.50mm、長さ383.0mmのアルミニウムシリンダーを用い、図3(a)のフローに従い、インロー加工はせず、端面加工、内周面端部のテーパー部加工を行った。アルミニウムシリンダーを図5の加工装置に取り付け、端面の加工を行い、全長を381.0mmとなるように切り込み深さを調整して回転軸に対して垂直な面を形成した。また、テーパー部においては、テーパー面の角度(図7のθ2に対応する角度)を70度とし、最端部での内径が0.1mm拡がるようにした。次にこのシリンダーを図7の加工装置に取り付け、加工工具としては平バイトを用いて外径が83.94mmになるように切削加工を行った。外周面を切削した後のシリンダーの肉厚は2.72mmであった。
【0085】
この加工を施したシリンダーを4本用意した。次にこれらを脱脂洗浄した後、13.56MHzの高周波を用いた容量結合型のプラズマCVD装置(不図示)に設置し、表6に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層からなる堆積膜を順次積層した。このとき、光導電層の膜厚を表7に示したように変化させることで4種類の感光体を作製した。
それぞれの膜厚になるように感光層を成膜した後、感光層が形成されたシリンダーを取り出して図5の加工装置にセットし、それぞれ両端部のインロー加工を行った。インロー部の長さとしては18.0mm、切り込み深さを0.52mmとしインロー部の内径を79.54mm、インロー部でのシリンダーの肉厚を2.20mmとした。
【0086】
なお、以上のインロー部形成により、成膜前の外面切削時に使用したテーパー部は取り除かれている。
このように作製した電子写真感光体に対し、実施例1と同様の評価を行った。
結果を比較例3の結果と合わせて表7に示す。
【0087】
<比較例3>
外径84.14mm、内径78.50mm、長さ383.0mmのアルミシリンダーを用い、図5の加工装置を用いて外径を基準として端面加工を施し、長さを381.0mmとした。次に図2(a)の形状のインロー加工を行った。インロー部全体の長さ(図2の202に相当)を18.0mm、そのうち端面よりの9.0mmの領域をテーパー形状とした。インロー部奥側9.0mmに位置する内径寸法一定の領域では、内径を79.54mmとし、テーパー部では、端面において内径が79.78mmとなるようにテーパー加工を施した。即ち、インロー部奥側との内径差が最大となる端面において、その内径差が0.24mmとなるようにした。
【0088】
次に、図6に示した加工装置を用い、インロー部奥側の内径寸法一定の領域でチャッキングし、加工工具として平バイトを用いて外径が83.94mmになるように切削加工を行った。これにより、外周面を切削した後のシリンダーの肉厚は2.72mm、インロー部奥側の内径寸法一定の領域の肉厚は2.20mm、テーパー部最薄部の肉厚は2.08mmとなった。
このような加工を施したシリンダーを4本作成した。これらを脱脂洗浄し、実施例1と同様に、表6、表7に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層からなる堆積膜を順次積層し、実施例1と同様のフランジを装着し、実施例1と同様の評価を行った。
得られた結果を実施例1の結果と合わせて表7に示した。
【0089】
実施例5で作製した電子写真感光体は、感光層の膜厚が厚いにも関わらず、回転振れ評価は良好で、比較例1で作製した電子写真感光体に比べても回転振れが小さかった。また、画像濃度ムラ評価でも比較例1で作製した電子写真感光体に比べて良好であった。
一方、比較例3の成膜前にインロー加工を行った電子写真感光体では、感光層膜厚が比較例1と同じ物はそれぞれの評価結果は同等、40μm、45μmのものでは悪いという結果となった。また、50μmのものでは変形量が大きくフランジが入らず、評価が出来なかった。感光層の膜厚が増すことにより応力変形の影響が強まったためと考えられる。
以上の結果から、感光層の膜厚が厚い場合には、インロー加工を施した後に成膜する方法に比べ、成膜した後にインロー加工を施す本発明において、回転振れや濃度ムラの防止といった本発明の効果がより顕著に得られることが分かった。
【0090】
【表6】

※は異なった数値が設定されることを示す。表7の光導電層膜厚の数値を用いる。
【0091】
【表7】

【符号の説明】
【0092】
801・・・電子写真感光体
802・・・加工工具
803・・・切削方向を示す矢印
804・・・切削方向を示す矢印
805・・・チャッキング部材
806・・・加工工具
807・・・エッジ
808・・・感光層
809・・・ローラー
810・・・テーパー部の径方向の長さ
811・・・テーパー部の軸方向の長さ
812・・・チャッキング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーの外周面を切削する外周面切削工程と、前記シリンダーの切削された外周面の上に感光層をプラズマCVD法を用いて成膜する成膜工程とを有する電子写真感光体の製造方法において、
前記成膜工程の後に、前記シリンダーの端部の内周面を加工する端部加工工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記シリンダーは、肉厚が2.50mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記端部加工工程の後のシリンダー最端部の肉厚が2.00mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記成膜工程の前に、前記シリンダーの内周面を保持した後、内周面端部に加工装置の回転中心軸から等しい距離にせしめた基準面を形成する工程を有し、
前記端部加工工程が、前記基準面を基準として行われることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記感光層の膜厚が、40μm以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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