説明

電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体

【課題】電子写真感光体用バインダー樹脂として耐摩耗性に優れ、且つ溶液保存性を併せ持つポリカーボネート共重合体を提供する。
【解決手段】式(I)[下記式(II)でXが単結合に相当する単位]及び下記式(II)が主たる繰り返し単位で、そのモル比率が30/70〜60/40であるポリカーボネート共重合体からなり、式(I)同士が隣り合う割合が特定式を満足することを特徴とした電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性および溶液保存安定性を両立した電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体分野において、感光層のバインダーポリマーとしてポリカーボネート樹脂が主に使用されている。当初は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)より得られるポリカーボネート樹脂(以下「PC−A」と称することがある)が主流であったが、塗膜作成時に結晶化またはゲル化が起こってしまう事や、塗布時にソルベントクラックが発生してしまうといった問題があり、現在では1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(通称ビスフェノールZ)より得られるポリカーボネート樹脂(以下「PC−Z」と称する事がある)が主に用いられている。
ただ、近年の画質の向上要求に伴い、バインダーポリマーに対して、より高性能化が求められてきている。
【0003】
バインダー樹脂に求められる高性能化の特性の一つとしては、耐磨耗性がある。そこで、4,4’−ビフェノールをポリカーボネート樹脂に含有させ耐磨耗性を向上させるといった検討がなされている。(例えば、特許文献1,2参照)しかしながら、このようなビフェノール構造を含有するポリカーボネート樹脂は、先ず二価フェノールのみをホスゲンと反応させた後にビフェノールを添加する手法により重合されており、反応性の劣るビフェノールの共重合モル比率を30mol%以上に向上させることが難しく、期待される耐磨耗性向上効果が小さいという問題があった。しかも、ビフェノールの共重合モル比率が30mol%付近を超えると、感光体作製の際に溶媒への溶解性が低下するという問題があった。この溶解性が悪化すると、溶液保存安定性が低下して生産性が悪化したり、感光体を作製した際に、表面に凹凸を生じ画像欠陥を招き易くなる。そのため、従来から耐摩耗性と溶液保存安定性とを両立させるような電子写真感光体用バインダー樹脂の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−179961号公報
【特許文献2】特開平5−257415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の耐刷性と溶解性の問題を解決するために、電子写真感光体用バインダー樹脂として耐摩耗性に優れ、且つ溶液保存安定性を併せ持つポリカーボネート共重合体を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の目的を達成すべく、バインダー樹脂について鋭意検討を行った結果、前述のビフェノール化合物をランダムに且つ高濃度で共重合させることで上記特性を兼ね備える上、実用性に富んでいるポリカーボネート共重合体が得られることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下に示す電子写真感光体用ポリカーボネート共重合体に関する。
【0007】
1.下記式(I)および下記一般式(II)が主たる繰り返し単位で、式(I)および一般式(II)のモル比率が、30/70〜60/40であるポリカーボネート共重合体からなり、該共重合体において、式(I)同士が隣り合う割合(NI−I)が下記数式(1)を満足することを特徴とした電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体。
(NI−I)≦0.5×(N)・・・(1)
(式中、(NI−I)は式(I)と(I)、一般式(II)と(II)及び式(I)と一般式(II)が隣り合う場合の合計数を基準とした際の、式(I)と(I)とが隣り合う割合を表し、更に(N)は、式(I)と一般式(II)の合計モル数を基準とした場合の式(I)のモル分率を意味する。)
【0008】
【化1】

【化2】

【0009】
2.該ポリカーボネート共重合体0.7gを100mLの塩化メチレンに溶解し、20℃で測定した比粘度が0.38〜1.54の範囲である上記1記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体。
【0010】
3.式(i)および式(ii)で表される二価フェノールとホスゲンとを、水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中において反応させ、得られたオリゴマー含有溶液を界面重合法により重合させ、得られる上記1または2記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体の製造方法。
【0011】
【化3】

【化4】

【0012】
4.上記3記載の製造方法によって得られた電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体を含有する電子写真感光体。
【発明の効果】
【0013】
前述のビフェノール化合物をランダムに且つ高濃度で共重合させることで得られるポリカーボネート共重合体は、高い表面硬度を有し耐摩耗性に優れるとともに、複写機、レーザービームプリンター等の感光体作製時の溶媒中での保存安定性も高いため、バインダー樹脂として好適に用いられ、その奏する工業的効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のポリカーボネート共重合体のH−NMRのチャートである。
【図2】実施例1のポリカーボネート共重合体の13C−NMRのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、ポリカーボネート共重合体は、主として下記式(I)と下記一般式(II)からなる。
【0016】
本発明における下記式(I)は、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルビフェニルに由来するものである。
また、本発明における一般式(II)は、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン及び/又は、2,2−ビス(3−メチル−4ヒドロキシフェニル)プロパンに由来するものである。
【0017】
【化5】

【化6】

【0018】
(共重合体の組成比)
本発明のポリカーボネート共重合体は、前記式(I)で表される繰り返し単位と前記一般式(II)で表される繰り返し単位のモル比率((I)/((II))が、30/70〜60/40であり、好ましくは、35/65〜55/45であり、さらに好ましくは、40/60〜50/50である。
【0019】
一般式(II)の割合は、式(I)と一般式(II)との合計モル数を基準として40〜70モル%であることが必要である。
一般式(II)の割合が下限未満では、溶剤に対する溶解性が低くなり溶液保存性が損なわれる。一方、一般式(II)の割合が、上限を越えると共重合による本発明におけるフィルムの耐磨耗性効果が発現され難くなる。 ところで、本発明の特徴は、式(I)同士が隣り合う割合(NI−I)が下記数式(1)を満足していることにある。
(NI−I)≦0.5×(N)・・・(1)
(式中、(NI−I)は式(I)と(I)、一般式(II)と(II)及び式(I)と一般式(II)が隣り合う場合の合計数を基準とした際の、式(I)と(I)とが隣り合う割合を表し、更に(N)は、式(I)と一般式(II)の合計モル数を基準とした場合の式(I)のモル分率を意味する。)
【0020】
つまり、前述の数式(1)の範囲にするということは、溶剤に対する溶解性を悪化させる式(I)同士が隣り合う割合(NI−I)を少なくすることを意味する。そして、前述の数式(1)の左辺値を上限より低くすることで、前記式(I)と前記一般式(II)の組成比を適当にしただけでは、達成できなかった溶媒中での保存安定性も向上できることを見出したのが本発明である。
【0021】
これまでに耐磨耗性向上の目的でビフェノールタイプのビスフェノールが検討されており、界面重縮合反応において、ビフェノールがホスゲン化されたオリゴマーは、ビフェノール同士の結合したオリゴマーとなるため、通常溶媒として使用されるハロゲン化溶媒には難溶となり、反応の不安定化を招き分子量調整が難しくなる。従ってビフェノールタイプのビスフェノールの共重合相手のビスフェノールをホスゲン化した後にビフェノールタイプのビスフェノールを添加して重合させている。この製造方法では、ビフェノールタイプのビスフェノールの含有率を高くすることは出来ない。
本発明のポリカーボネート共重合体は、ビフェノール構造の共重合比率が高くなっても、調整溶媒に溶解し保存安定性も保持している。
【0022】
(ポリカーボネート共重合体の製造方法)
本発明のポリカーボネート共重合体は、初期の段階から2種のジヒドロキシフェノール化合物を混合してオリゴマー化を開始するため、これまで反応性の劣るビフェノール構造の共重合比率を向上させることが出来るとともに、各ビスフェノールユニットがよりランダムに配されるため溶解性の低下を招くビフェノール構造のブロック化を防止することが出来る。
【0023】
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体は、それぞれ通常のポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば二価フェノール成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。次にこれらの製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0024】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0025】
上記二価フェノールとホスゲンとを、水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中において反応させ、得られたオリゴマー含有溶液を界面重合法により重合させ、得られることを特徴としており、一連の反応においては必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。
【0026】
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応中の二価フェノールのアルカリ塩の酸化防止を目的として、例えばハイドロサルファイト等の酸化防止剤を添加したり、窒素を液相又は、気相に通したりすることが好ましい。さらに、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0027】
かかる重合反応によって得られる反応液から有機溶媒溶液を分離し、該有機溶媒により希釈後水洗作業を行う。この際、残留モノマーの洗浄を強化する目的に、適宜水酸化ナトリウム水溶液で洗浄してもよい。さらに、酸洗浄及び水洗等によって残留触媒や無機塩等不純物を除去した後有機溶媒を除去することによって本発明のポリカーボネート共重合体が得られる。
【0028】
(比粘度)
本発明に係るポリカーボネート共重合体の比粘度は、好ましくは、該ポリカーボネート
重合体0.7gを100ccの塩化メチレンに溶解し、20℃で測定した比粘度が0.3
8〜1.54の範囲であり、さらに、0.58〜1.35であり、特に、0.77〜1.16である。
比粘度が0.38未満であると樹脂としての機械強度が低下し耐摩耗性が不足することがある。また、比粘度が、1.54より大きいと、キャストフィルムを適当な膜厚に塗布して作製することが困難となり好ましくない。
【0029】
(表面硬度)
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体は、感光体の表面層とした時の表面鉛筆硬度が2H以上である。
表面鉛筆硬度が、2Hより低い場合は、クリーニングブレード等感光体に当接している部材との圧接によりストレスクラックが入りやすくなる。
【0030】
(磨耗性)
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体はそれを用いて作製したキャストフィルムの磨耗輪CS−17を使用し、荷重500gfで2000回転磨耗を行ったテーバー試験の磨耗量が12mg以下である。10mg以下がより好ましく、8mg以下がさらに好ましい。
キャストフィルムのテーバー磨耗量が、12mgより大きい場合は、感光体の高耐久性化が困難となるため好ましくない。
【0031】
(溶解性)
一般式(II)の割合は、式(I)と一般式(II)との合計モル数をを基準として40〜70モル%であることが必要である。
一般式(II)の割合が40未満では、溶剤に対する溶解性が低くなり溶液保存性が損なわれる。また、一般式(II)の割合が70より大きいと溶解性は良好であるが、鉛筆硬度が低くなる。
【0032】
次に、本発明の電子写真感光体は、複写機やプリンターに用いられ、導電性基体とその上に形成された感光層よりなり、この感光層中に上記本発明のポリカーボネート共重合体を含有させたものである。本発明の電子写真感光体は、導電性基体上に電荷発生層と電荷輸送層を順次積層した積層負帯電型、この積層負帯電型の電荷輸送層上に保護層を形成した負帯電型、導電性基体上に電荷輸送層と電化発生層を順次積層した正帯電型、バインダー樹脂中に電荷輸送物質と電荷発生物質を分散させた単層構造の感光層を導電性基体上に形成した単層正帯電型のいずれにも適用できる。具体的には、積層負帯電型の場合は電荷輸送層や保護層に上記ポリカーボネート共重合体を含有させ、積層正帯電型の場合には電荷発生層に上記ポリカーボネート共重合体を含有させ、単層構造の感光層の場合にはバインダー樹脂中に上記ポリカーボネート樹脂組成物を含有させる。
【0033】
更に具体的に説明すると、積層負帯電型の場合、電荷発生層は電荷発生物質を溶媒中で粉砕分散し、好ましくは平均粒径を0.3ミクロン以下にして、導電性基体上に膜厚0.05〜5ミクロン程度に製膜する。また、分散液にバインダー樹脂を配合する代わりに、導電性基体と電荷発生層の間にバインダー樹脂層を設けてもよい。次いで電荷発生層の上に膜厚15〜50ミクロン程度の電荷輸送物質と上記本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる電荷輸送層を、電荷発生層と同様にして製膜する。この際上記本発明のポリカーボネート共重合体10重量部に対して電荷輸送物質5〜50重量部になる割合が好ましい。また製膜方法としては例えば浸漬法、スプレー法、ロール法等任意の方法が採用される。保護層を形成するときは保護層の樹脂として膜厚0.5〜10ミクロン程度の上記本発明のポリカーボネート樹脂共重合体からなる層を設ける。
【0034】
積層正帯電型の場合、電荷発生層が表層にあるので、上記ポリカーボネート共重合体を
電荷発生層に含有させる。電荷発生物質を溶媒中で粉砕分散した後上記ポリカーボネート
共重合体を配合するかまたは電荷発生物質と上記ポリカーボネート共重合体を溶媒中粉砕
分散し、膜厚15〜50ミクロン程度の電荷輸送層の上に膜厚0.5〜10ミクロン程度の電荷発生層を形成する。この際上記ポリカーボネート樹脂10 重量部に対して電荷発生物質2〜30重量部になる割合が好ましい。なお、電荷輸送層には電荷輸送物質と共に該ポリカーボネート共重合体をバインダー樹脂として用いる。
【0035】
単層正帯電型の場合、上記ポリカーボネート共重合体10重量部に対して電荷輸送物質0.5〜5重量部になる割合で用いるのが好ましい。導電性基体上に形成される感光層は、単層構造であっても、電荷発生層と電荷輸送層とに機能分離された積層構造であってもよい。積層構造の場合、電荷発生層と電荷輸送層の積層順序は任意でよい。感光層は、電荷発生物質、電化輸送物質、又はそれ等両者がバインダー樹脂中に含有された塗膜により構成される。電荷発生物質としては、例えば非晶質セレン、結晶性セレン、セレンーテルル合金、セレンーヒ素合金等セレンを主成分とした各種合金材料、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系光導電体、フタロシアニン系、スクエアリウム系、アントアントロン系、ペリレン系、アゾ系、アントラセン系、ピレン系、ピリチウム塩、チアピリリウム塩等の有機顔料及び染料が使用される。
【0036】
また、電荷輸送物質としては、例えばカルバゾール、インドール、イミダゾール、チアゾール、ピラゾール、ピラゾリン等の複素環化合物、アニリン誘導体、スチルベン誘導体又はこれらの化合物からなる基本側鎖を有する重合体等の電子供与性物質が使用され、特にヒドラゾン誘導体、アニリン誘導体、スチルベン誘導体が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、何らこれに限定されるものではない。なお評価は下記の方法に従った。
【0038】
(1)耐磨耗性評価
塩化メチレンにポリカーボネート共重合体8gを溶解させ、固形分濃度10重量%の溶液を調製した。その溶液を150mmφのシャーレ内に流し込み、一晩室温、40℃で3時間、60℃で3時間、溶媒を除去した後、120℃で24時間乾燥し、250μm厚の透明キャストフィルムを得た。該キャストフィルムを直径120mmの円盤状に切り出したものを使用し、東洋精機(株)社製 テーバー摩耗試験機を用いて摩耗評価を行った。試験条件は23℃、50%RHの雰囲気下、摩耗輪CS−17を用いて荷重500gf(摩耗輪の自重を含む)で2000回転後の摩耗量を試験前後の重量を比較することにより測定した。
【0039】
(2)溶解性評価
得られたポリカーボネート共重合体を、トルエンとTHFの2種の溶媒でそれぞれ20wt%となるように溶解させた溶液を調整し、暗所で一週間保管した後、目視で透明性を確認した。
評価基準: ○;透明性維持、△;わずかに濁りが発生、×;白化
【0040】
(3)鉛筆硬度(樹脂)
(1)と同様にして得られたキャストフィルムを使用し、JIS K5700( 鉛筆: 三菱Uni 、鉛筆角度: 45度、荷重: 750gf )に準じて鉛筆引っかき試験により測定した。
【0041】
(4)鉛筆硬度(電子写真感光体)
次に下記式[III]で示されるヒドラジン化合物10部及びバインダー樹脂としてポリカーボネート共重合体10部をTHF60部に溶解し、この溶液を電荷発生層の上に浸漬法によって塗布し、乾燥して20ミクロンの電荷輸送層を形成した電子写真感光体を得た。JIS K5700( 鉛筆: 三菱Uni 、鉛筆角度: 45度、荷重: 750gf )に準じて鉛筆引っかき試験により測定した。
【0042】
【化7】

【0043】
(5)ポリカーボネート共重合体の共重合組成分析
ポリマー30mgを重クロロホルム1.0mlに溶解し、日本電子社製JNM−AL400のH−NMRを用いて、積算回数128回で測定した。具体的に示すと、実施例1及び3においては、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルビフェニル(以後OC−BPと称することがある)の芳香族部位4H相当に起因するピーク(7.00〜7.17ppm)及び1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以後OC−Zと称することがある)の芳香族部位6H相当に起因するピーク(7.33〜7.51ppm)の積分比から求めた。
実施例2及び4においては、OC−BPのメチル基6H相当に起因するピーク(2.33〜2.45ppm)及び2,2−ビス(3−メチル−4ヒドロキシフェニル)プロパン(以後Bis−Cと称することがある)のメチル基6H相当に起因するピーク(2.21〜2.33ppm)の積分比から求めた。
【0044】
(6)ポリカーボネート共重合体のシーケンス評価(13C−NMR)
式(I)同士が隣り合う割合(NI−I),一般式(II)同士が隣り合う割合(NII−II),式(I)と一般式(II)が隣り合う割合(NI−II)試料100mgを重クロロホルム1mlに溶解させ日本電子社製JNM−AL400にて積算回数2048回で測定した。具体的に示すと、実施例1及び3においては、13C−NMRより、OC−BP同士が隣り合っている構造の中心カーボネート結合側のo−メチル基(16.14ppm)と、OC−Z同士が隣り合っている構造の中心カーボネート結合側のo−メチル基(16.29ppm)と、OC−BP及びOC−Zが隣り合っている構造の中心カーボネート結合側のo−メチル基(16.10ppm、16.32ppm)とではピークのケミカルシフトが異なる。従って、(NI−I),(NII−II),(NI−II)の割合は、検出位置の異なるOC−BP成分とOC−Z成分のo−メチル基のピーク面積より求めた。
実施例2及び4においては、実施例1及び3と同様に、Bis−C同士が隣り合っている構造の中心カーボネート結合側のo−メチル基(16.20ppm)と、OC−BP及びBis−Cが隣り合っている構造の中心カーボネート結合側のo−メチル基(16.11ppm、16.18ppm)とではピークのケミカルシフトが異なる。従って、(NI−I),(NII−II),(NI−II)の割合は、検出位置の異なるOC−BP成分とBis−C成分のo−メチル基のピーク面積より求めた。
【0045】
[実施例1]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にて1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下OC−Zと称する)52.4g(0.177モル)、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルビフェニル(以下OC−BPと称する)37.9g(0.177モル)、ハイドロサルファイト0.27g、9.1%水酸化ナトリウム水溶液550ml(水酸化ナトリウム1.345モル)、塩化メチレン340mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン50.8g(0.513モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.74g(0.0050モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液36ml(水酸化ナトリウム0.177モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.12mL(0.00089モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、OC−ZとOC−BPとの構成単位の比がモル比で52:48であり、比粘度は0.96、ガラス転移温度は147℃であった。
【0046】
[実施例2]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にて2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下Bis−Cと称する)78.6g(0.307モル)、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルビフェニル(以下OC−BPと称する)65.6g(0.307モル)、ハイドロサルファイト0.43g、9.8%水酸化ナトリウム水溶液837ml(水酸化ナトリウム2.207モル)、塩化メチレン590mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン85.0g(0.858モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール1.47g(0.0098モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液49ml(水酸化ナトリウム0.306モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.11mL(0.00076モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、Bis−CとOC−BPとの構成単位の比がモル比で52:48であり、比粘度は0.99、ガラス転移温度は133℃であった。
【0047】
[実施例3]
仕込みのモノマー量を、OC−Z41.9g(0.142モル)、OC−BP45.5g(0.212モル)に変更した以外は、実施例1における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、OC−ZとOC−BPとの構成単位の比がモル比で42:58であり、比粘度は0.94、ガラス転移温度は149℃であった。
【0048】
[実施例4]
仕込みのモノマー量を、Bis−C94.3g(0.368モル)、OC−BP52.5g(0.246モル)に変更した以外は、実施例2における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、Bis−CとOC−BPとの構成単位の比がモル比で61:39であり、比粘度は1.00、ガラス転移温度は131℃であった。
【0049】
[比較例1]
特開平4−179961の実施例2の追試を実施した。
仕込みモノマー量を1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下Bis−Zと称することがある)93.2g(0.348モル)を、6%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に溶解した溶液と、塩化メチレン250mLとを混合して撹拌しながら、冷却下、ホスゲン63.0g(0.636モル)を15分要して吹込みホスゲン化反応させた。得られたオリゴマー溶液に塩化メチレンを加えて全量を450mLとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(以下BPと称することがある)23.3g(0.125モル)を8%濃度の水酸化ナトリウム水溶液150mLに溶解した溶液およびp−tert−ブチルフェノール0.89g(0.0060モル)を加えた。次いでこの混合液を激しく撹拌し、7%濃度のトリエチルアミン2mLを加え、28℃において撹拌下1.5時間反応を行った。反応後の操作は、実施例と同様に行った。このポリカーボネートは、Bis−ZとBPとの構成単位の比がモル比で75:25であり、比粘度は0.98、ガラス転移温度は184℃であった。
【0050】
[比較例2]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてBis−C41.0g(0.160モル)、BP19.8g(0.107モル)、8.5%水酸化ナトリウム水溶液356ml(水酸化ナトリウム0.800モル)、塩化メチレン257mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン35.6g(0.360モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−tert−ブチルフェノール0.52g(0.0035モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液17ml(水酸化ナトリウム0.133モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.09mL(0.00067モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、Bis−CとBPとの構成単位の比がモル比で60:40であり、比粘度は0.98、ガラス転移温度は141℃であった。
【0051】
[比較例3]
仕込みのモノマー量を、OC−Z31.4g(0.107モル)、OC−BP53.1g(0.247モル)に変更した以外は、実施例1における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、OC−ZとOC−BPとの構成単位の比がモル比で33:67であり、ガラス転移温度は146℃であったが、比粘度は測定時の塩化メチレン濃度では溶解しなかったため測定できなかった。
【0052】
[比較例4]
仕込みのモノマー量を、Bis−C117.9g(0.460モル)、OC−BP32
.8g(0.154モル)に変更した以外は、実施例2における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、Bis−CとOC−BPとの構成単位の比がモル比で75:25であり、比粘度は0.99、ガラス転移温度は128℃であった。
【0053】
[比較例5]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてOC−BP15.6g(0.073モル)、11.6%水酸化ナトリウム水溶液110ml(水酸化ナトリウム0.328モル)、ハイドロサルファイト0.05g、塩化メチレン70mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン10.8g(0.109モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させ、OC−BPオリゴマーを得た。一方で、ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてOC−Z21.6g(0.073モル)、ハイドロサルファイト0.06g、9.1%水酸化ナトリウム水溶液114ml(水酸化ナトリウム0.277モル)、塩化メチレン70mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン9.5g(0.096モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させ、OC−Zオリゴマーを得た。これら2種類のオリゴマーを混合させ、p−tert−ブチルフェノール0.31g(0.0021モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液15ml(水酸化ナトリウム0.073モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.05mL(0.00037モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、OC−ZとOC−BPとの構成単位の比がモル比で50:50であり、比粘度は0.96、ガラス転移温度は145℃であった。
以上、得られた各樹脂の物性を下記表1に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の特定の構造を含有するポリカーボネート共重合体は、耐摩耗性に優れるとともに、複写機、レーザービームプリンター等の感光体作製時の溶媒中での保存安定性も高く、耐摩耗性に優れる上、高い表面硬度も有していることから電子写真感光体用バインダー樹脂として好適に用いられ、その奏する工業的効果は格別である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)および下記一般式(II)が主たる繰り返し単位で、式(I)および一般式(II)のモル比率が、30/70〜60/40であるポリカーボネート共重合体からなり、該共重合体において、式(I)同士が隣り合う割合(NI−I)が下記数式(1)を満足することを特徴とした電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体。
(NI−I)≦0.5×(N)・・・(1)
(式中、(NI−I)は式(I)と(I)、一般式(II)と(II)及び式(I)と一般式(II)が隣り合う場合の合計数を基準とした際の、式(I)と(I)とが隣り合う割合を表し、更に(N)は、式(I)と一般式(II)の合計モル数を基準とした場合の式(I)のモル分率を意味する。)
【化1】

【化2】

【請求項2】
該ポリカーボネート共重合体0.7gを100mLの塩化メチレンに溶解し、20℃で測定した比粘度が0.38〜1.54の範囲である請求項1記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体。
【請求項3】
式(i)および式(ii)で表される二価フェノールとホスゲンとを、水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中において反応させ、得られたオリゴマー含有溶液を界面重合法により重合させ、得られる請求項1または2記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体の製造方法。
【化3】

【化4】

【請求項4】
請求項3の製造方法によって得られた電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート共重合体を含有する電子写真感光体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−51983(P2012−51983A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194081(P2010−194081)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】