説明

電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法及び該製造方法により得られるキャリア芯材

【課題】各重金属を含有しないのみならず、Mn含有量を低減し、高磁化でありながら中抵抗又は高抵抗といった所望の抵抗が得られるだけでなく、高帯電で、良好な見掛け密度を有し、かつ適度な凹凸を有する表面性と揃った形状とを兼ね備える電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法等を提供する。
【解決手段】Fe、Mg、Ti及びSrを少なくとも含有し、少なくともスピネル構造及びTi化合物の構造を有するフェライト粒子からなる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、(1)少なくともMg化合物、Sr化合物及びFeを所定の雰囲気下、添加、混合、焼成してFe2+を含む混合物を得る第1焼成工程と、(2)得られた混合物をスラリー化して、スラリー粒子を造粒する造粒工程と、(3)造粒物を所定の雰囲気下で焼成し、フェライト化させる第2焼成工程と、(4)再度、所定の雰囲気下で焼成し、磁化及び表面性を調整する第3焼成工程と、(5)粒子表面に酸化皮膜を形成する酸化皮膜処理工程とを有し、上記第1焼成工程後のFe残留量が0〜60重量%であり、かつ上記造粒工程においてTi化合物を添加する電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター等に用いられる二成分系電子写真現像剤に使用される電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法及び該製造方法により得られるキャリア芯材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像方法は、現像剤中のトナー粒子を感光体上に形成された静電潜像に付着させて現像する方法であり、この方法で使用される現像剤は、トナー粒子とキャリア粒子からなる二成分系現像剤及びトナー粒子のみを用いる一成分系現像剤に分けられる。
【0003】
こうした現像剤のうち、トナー粒子とキャリア粒子からなる二成分系現像剤を用いた現像方法としては、古くはカスケード法等が採用されていたが、現在では、マグネットロールを用いる磁気ブラシ法が主流である。
【0004】
二成分系現像剤において、キャリア粒子は、現像剤が充填されている現像ボックス内において、トナー粒子と共に攪拌されることによって、トナー粒子に所望の電荷を付与し、さらにこのように電荷を帯びたトナー粒子を感光体の表面に搬送して感光体上にトナー像を形成するための担体物質である。マグネットを保持する現像ロール上に残ったキャリア粒子は、この現像ロールから再び現像ボックス内に戻り、新たなトナー粒子と混合・攪拌され、一定期間繰り返して使用される。
【0005】
二成分系現像剤は、一成分系現像剤とは異なり、キャリア粒子はトナー粒子と混合・攪拌され、トナー粒子を帯電させ、さらに搬送する機能を有しており、現像剤を設計する際の制御性が良い。従って、二成分系現像剤は高画質が要求されるフルカラー現像装置及び画像維持の信頼性、耐久性が要求される高速印刷を行う装置等に適している。
【0006】
このようにして用いられる二成分系現像剤においては、画像濃度、カブリ、白斑、階調性、解像力等の画像特性が、初期の段階から所定の値を示し、しかもこれらの特性が耐刷期間中に変動せず、安定に維持されることが必要である。これらの特性を安定に維持するためには、二成分系現像剤中に含有されるキャリア粒子の特性が安定していることが必要になる。
【0007】
二成分系現像剤を形成するキャリア粒子として、従来は、表面を酸化皮膜で覆った鉄粉あるいは表面を樹脂で被覆した鉄粉等の鉄粉キャリアが使用されていた。このような鉄粉キャリアは、磁化が高く、導電性も高いことから、ベタ部の再現性のよい画像が得られやすいという利点がある。
【0008】
しかしながら、このような鉄粉キャリアは真比重が約7.8と重く、また磁化が高すぎることから、現像ボックス中におけるトナー粒子との攪拌・混合により、鉄粉キャリア表面へのトナー構成成分の融着、いわゆるトナースペントが発生しやすくなる。このようなトナースペントの発生により有効なキャリア表面積が減少し、トナー粒子との摩擦帯電能力が低下しやすくなる。
【0009】
また、樹脂被覆鉄粉キャリアでは、耐久時のストレスにより表面の樹脂が剥離し、高導電性で絶縁破壊電圧が低い芯材(鉄粉)が露出することにより、電荷のリークが生ずることがある。このような電荷のリークにより、感光体上に形成された静電潜像が破壊され、ベタ部にハケスジ等が発生し、均一な画像が得られにくい。これらの理由から、酸化皮膜鉄粉及び樹脂被覆鉄粉等の鉄粉キャリアは、現在では使用されなくなってきている。
【0010】
近年は、鉄粉キャリアに代わって真比重約5.0程度と軽く、また磁化も低いフェライトをキャリアとして用いたり、さらに表面に樹脂を被覆した樹脂コートフェライトキャリアが多く使用されており、現像剤寿命は飛躍的に伸びてきた。
【0011】
このようなフェライトキャリアの製造方法としては、フェライトキャリア原料を所定量混合した後、仮焼、粉砕し、造粒後に焼成を行うのが一般的であり、条件によっては仮焼を省略できる場合もある。
【0012】
ところで、最近、環境規制が厳しくなり、Ni、Cu、Zn等の金属の使用は避けられるようになってきており、環境規制に適応した金属の使用が求められており、キャリア芯材として用いられるフェライト組成はCu−Znフェライト、Ni−ZnフェライトからMnを用いたMnフェライト、Mn−Mg−Srフェライト等に移行している。
【0013】
特許文献1(特開2006−337828号公報)には、表面が溝又は筋で10μm四方あたり2〜50の領域に分割されており、マンガンフェライトを主成分とする電子写真用フェライトキャリア芯材が記載されている。このフェライトキャリア芯材は、組成が均一で、一定の表面性、良好な流動性を有し、かつ高磁化、低抵抗であり、このフェライトキャリア芯材に樹脂を被覆したフェライトキャリアを用いた電子写真用現像剤は、帯電の立ち上がりが速く、経時における安定した帯電量を有するとされている。
【0014】
この特許文献1では、上記のようなフェライトキャリア芯材を製造するために、FeとMnのモル比(Fe/Mn)が4〜16のFeとMnを主成分とする複合酸化物を粉砕、混合後、造粒、焼成し、さらに解砕、分級する製造方法において、焼成を酸素濃度が5体積%以下の雰囲気で行うことが示されている。
【0015】
しかし、このフェライトキャリア芯材は、低抵抗であるという問題がある。しかも、Mnも各種法規制の対象になりつつあり、上記各種重金属はもとよりMnを使用しない、あるいはMn含有量を大幅に減じた新たなキャリア芯材が求められている。
【0016】
フェライト成分としてMnを用いたキャリア芯材に代わるものとして、Mg等を用いたキャリア芯材が提案されている。例えば、特許文献2(特開2000−172017号公報)には、マグネタイト又はMgOあるいはCaO等の有害重金属でない酸化物を含むマグネタイトを主成分とする複合酸化物を出発原料とし、粉砕後、球形に造粒し、球形造粒粉を、850〜1000℃、不活性ガス雰囲気下で焼成する電子写真現像剤用フェライトコアの製造方法が記載されている。
【0017】
また、特許文献3(特表2006−524627号公報)には、式MgFeCaで示されるMg系フェライト材料(キャリア芯材)が示され、飽和磁化が30〜80emu/g、絶縁破壊電圧が1.5〜5.0kVであるとされ、環境規制に対応したクリーンな材料で構成され、鮮明で階調性に富みカブリのない高画質像が得られるとされている。
【0018】
このようにフェライト成分としてMgを用いたキャリア芯材は提案されているが、一般に磁化と抵抗はトレードオフの関係にあるため、高磁化と中抵抗〜高抵抗といった特性を両立することは難しい。そのため、Mnを添加することで磁化と抵抗のトレードオフの関係を緩和し高磁化かつ中抵抗〜高抵抗を実現し、現在は電子写真現像剤用キャリア芯材として利用されている。しかしながら、上述したように、各種重金属規制の強化に伴い、Mnを使用しない、あるいはMn含有量を大幅に減じることが要請される状況となっている。
【0019】
また、フェライト成分としてMgを用いて従来の焼成方法でも高磁化、かつ中抵抗〜高抵抗を実現する方法としては、本焼成後、表面酸化することで抵抗を所望のレベルに合わせ込む取り組みがなされてきた。
【0020】
特許文献4(特開2004−240322号公報)には、マンガン−マグネシウムフェライトに固溶されていないZrOを含有するフェライト粒子からなる電子写真現像剤用キャリア芯材を開示し、その製造においては、本焼成後、大気雰囲気下、既存のロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等を用いて、300〜700℃で酸化皮膜処理することが記載されている。さらに、特許文献5(特開2008−65106号公報)には、MO・Fe、M成分は2価の金属元素、特にMn、Mg、Feの1種以上で表される磁性部とSiOを含んでなる非磁性部を有する粉体からなる電子写真現像剤用キャリア芯材を開示し、その製造においては、焼成後、大気又は酸素と窒素の混合雰囲気下で200〜800℃に加熱して高抵抗化処理することが記載されている。
【0021】
しかし、特許文献4及び5に記載のように、酸化皮膜処理(高抵抗化処理)を行っても、低抵抗であったり、低磁化である。また、フェライト成分としてMnを一定量以上使用する場合には、上記した環境規制の問題も生じる。
【0022】
従来よりMg系フェライトはFe過剰で製造することで磁化を高くすることが出来ることが知られている。しかし、抵抗はFe過剰であるため極めて低いものとなってしまっている。また、Fe過剰のMg系フェライトは、本焼成時の酸素濃度が高い場合や表面酸化によって磁化が急激に低くなると言う特徴を持っており、この現象はマグネタイト中に含まれるFe2+の酸化によるものと考えられている。
【0023】
一方、Fe以外の遷移金属を含有しないMg系フェライトの焼成温度は1250〜1350℃程度ときわめて高温であり、キャリア芯材に求められる表面性はほとんど凹凸のないものしか得られないだけでなく、焼成時にキャリア芯材粒子同士が凝集しやすく球形ではない粒子が多く含まれることとなる。そのため、意図的に重金属を含有せず、高磁化、中抵抗〜高抵抗で、かつ適度な凹凸を有する表面性と揃った形状を実現した電子写真現像剤用キャリア芯材及びその製造方法は得られていないのが現状である。
【0024】
特許文献6(特許2860356号公報)は、ヘマタイト、ヘマタイト+マグネタイト、あるいはマグネタイトにMgと必要に応じてMnを混合して焼成した所定の飽和磁化を持つ酸化物磁性材料およびその製造方法に関するものである。特許文献7(特許3151457号公報)は、マグネタイト、マグネタイト+ヘマタイト、ヘマタイトにTi化合物あるいはSn化合物を混合・焼成して所定の値の飽和磁化を持つ酸化物磁性材料およびその製造方法に関するものである。いずれの文献中においても、球形顆粒化後の焼成は1回しか行っておらず電子写真用キャリア芯材として求められる粒子の形状や表面性を得ることが難しく、不十分である。また、上記特許文献6には非磁性相としてヘマタイト、ウスタイト、Mg(化合物)が例示されている。一方、本発明に係る製造方法により製造された電子写真用キャリア芯材中に存在するMg化合物は磁化を持ったMgフェライトであり、かつ非磁性相としてはTi化合物が存在すること、及びキャリア芯材中にフェライト成分の他にMg、Ti及びOで構成される誘電体成分を生成させるため上記特許文献6と明確に区別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2006−337828号公報
【特許文献2】特開2000−172017号公報
【特許文献3】特表2006−524627号公報
【特許文献4】特開2004−240322号公報
【特許文献5】特開2008−65106号公報
【特許文献6】特許2860356号公報
【特許文献7】特許3151457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
従って、本発明の目的は、各重金属を含有しないのみならず、Mn含有量を低減し、高磁化でありながら中抵抗又は高抵抗といった所望の抵抗が得られるだけでなく高帯電で、良好な見掛け密度を有し、かつ適度な凹凸を有する表面性と揃った形状とを兼ね備える電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法、及び該製造方法により得られるキャリア芯材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討した結果、Fe、Mg、Ti及びSrを含有し、少なくともスピネル構造及びTi化合物の構造を有する電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法において、造粒工程でTi化合物を特定量添加すると共に、一定の条件下で本焼成を含む3回の焼成工程を経て得られたキャリア芯材が上記目的を達成することを知見し、本発明に至った。
【0028】
すなわち、本発明は、Fe、Mg、Ti及びSrを少なくとも含有し、少なくともスピネル構造及びTi化合物の構造を有するフェライト粒子からなる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、
(1)少なくともMg化合物、Sr化合物及びFeを非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下、添加、混合、焼成してFe2+を含む混合物を得る第1焼成工程と、
(2)得られた混合物をスラリー化した後、スラリー粒子を造粒する造粒工程と、
(3)造粒物を非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下で焼成し、フェライト化させる第2焼成工程と、
(4)再度、非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下で焼成し、磁化及び表面性を調整する第3焼成工程と、
(5)粒子表面に酸化皮膜を形成する酸化皮膜処理工程と、
を有し、上記第1焼成工程後のFe残留量が0〜60重量%であり、かつ上記造粒工程においてTi化合物を添加することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を提供するものである。
【0029】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記第1焼成工程にTi化合物及び/又はMn化合物を添加することが望ましい。
【0030】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記Ti化合物がMgTiO、MgTiO、MgTi、SrTiOから選ばれる1種類以上の誘電体成分を生成させることが望ましい。
【0031】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記造粒工程において添加するTi化合物の粒径が5〜120nmであることが望ましい。
【0032】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記造粒工程において、上記フェライト粒子が含有する全Ti量の10〜100重量%となるようTi化合物を添加することが望ましい。
【0033】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記第1焼成工程、上記造粒工程及び上記第2焼成工程から選ばれる少なくとも1つの工程において、カーボンブラック(CB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)及び木炭から選ばれる少なくとも1種の添加物質を添加することが望ましい。
【0034】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記第1焼成工程の焼成が800〜1200℃で行われることが望ましい。
【0035】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記第2焼成工程の焼成が650〜1200℃で行われることが望ましい。
【0036】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記第3焼成工程の焼成が1100〜1400℃で行われることが望ましい。
【0037】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記酸化皮膜処理工程が400〜800℃で行われることが望ましい。
【0038】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記酸化皮膜処理工程において、ロータリーキルンが用いられることが望ましい。
【0039】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法では、上記造粒工程に用いられるスラリー粒子の粒径が1.0〜3.0μmであることが望ましい。
【0040】
本発明は、上記製造方法により得られた電子写真現像剤用キャリア芯材を提供するものである。
【0041】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材では、少なくともFeを48.0〜70.0重量%、Mgを1〜5重量%、Tiを0.1〜3.5重量%及びSrを0.1〜5.0重量%を含有することが望ましい。
【0042】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材では、Mnを0.1〜20重量%を含有することが望ましい。
【0043】
本発明に係る上記電子写真現像剤用キャリア芯材では、酸化皮膜の厚さが0.0001〜10.0μmであることが望ましい。
【発明の効果】
【0044】
本発明に係る製造方法によって、各重金属を含有しないのみならず、Mn含有量を低減でき、高磁化でありながら中抵抗又は高抵抗といった所望の抵抗が得られるだけでなく高帯電で、良好な見掛け密度を有し、かつ適度な凹凸を有する表面性と揃った形状とを兼ね備えた電子写真現像剤用キャリア芯材が工業的規模をもって安定的に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
<本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法>
次に、本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法について説明する。
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、下記の通りである。
【0046】
(第1焼成工程)
キャリア芯材原料として、Mg化合物、Sr化合物及びFeと必要に応じてTi化合物及び/又はMn化合物を用いる。これらキャリア芯材原料と必要に応じてカーボンブラック(CB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)及び木炭から選ばれる1種の添加物質を添加し、非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下、添加、混合、焼成してFe2+を含む混合物を得る。この焼成において、少なくとも2価のFeを含有するスピネル相及びFeとMg、Ti等を含有する複合酸化物相が存在するフェライト前駆体の状態を生成し、Fe残留量は0〜60重量%となるように調整する。
【0047】
上記のように焼成を行うことによって、ばらつきの少ない格子定数を持った結晶構造、すなわち結晶性の良い構造となり、表面酸化処理後の磁化の低下が少ない粒子を得ることができる。焼成温度は、上記雰囲気下、800〜1200℃で行われることが望ましい。焼成温度が800℃未満では、格子定数のばらつきが大きく酸化されやすいため、酸化皮膜処理での磁化の低下が著しい。また、焼成温度が1200℃を超えると、熱がかかり過ぎており、形状及び表面性の制御が難しくなる。
【0048】
従来の製造方法では本焼成時にFeからスピネル相を生成させるため結晶構造の変化にかなりのエネルギーが必要となるが、Mg化合物、Sr化合物及びFe、必要に応じてTi化合物及び/又はMn化合物を添加し、さらに必要に応じてカーボンブラック(CB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)及び木炭から選ばれる1種の添加物質を添加し、これらを混合、焼成を行った場合には、後述の本焼成(第2焼成)において、添加物の燃焼熱が発生し、焼成温度以上の実効温度となるため、低温焼成が可能となり、結晶性の良好なキャリア芯材を得ることができる。さらに、酸化皮膜処理による磁化の低下が少なく、高磁化、高抵抗を達成することができる。
【0049】
ここで用いられる非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気とは、酸素濃度が2体積%以下を意味することとし、好ましくは1体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下である。雰囲気としては窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、炭酸ガス等が使用できるが工業用途としては窒素ガスを用いることが好ましい。さらに0.2体積%以下を容易に達成し焼成を行う場合には液体窒素を気化して使うことが望ましい。
【0050】
(造粒工程)
次に、得られた混合物をスラリー化した後、スラリー粒子をスプレードライヤー等で造粒する。スラリー粒子の粒径は1.0〜3.0μmであることが望ましい。スラリー粒子の粒径が1.0μm未満では、粘度が高くなり、ノズル詰まりが発生しやすく、また粉砕に時間がかかるため、経済的に不利である。スラリー粒子の粒径が3.0μmを超えると、各原料の混合が不均一で、磁力、抵抗の分布が広くなり、現像剤としたときにキャリア付着が発生する。また、形状も悪化する。
【0051】
上記造粒工程において、Ti化合物を添加する。Tiの存在によって、酸化皮膜処理による磁化の低下が少なく、抵抗性及び表面性の調整ができる。この造粒工程において、最終的に得られるフェライト粒子が含有する全Ti量の10〜100重量%となるようにTi化合物を添加することが望ましい。Ti化合物の添加量が上記全Ti量の10重量%未満となる場合には、Ti化合物の添加効果が十分ではないため表面性の制御が難しくなり所望の形状の粒子が得られなくなる可能性がある。
【0052】
ここで添加するTi化合物の粒径は、5〜120nmであることが望ましい。この粒径範囲においては製造工程において添加及び分散が容易であり、芯材の表面性を制御が容易に行なうことができる。Ti化合物の粒径が5nm未満では、添加量が少量であっても見かけかさ密度が大きくなりすぎ、添加及び分散に時間がかかり生産性が劣る可能性がある。あらかじめTi化合物の分散液を準備することで生産性の向上は図ることができるが、大量の分散媒と分散剤が必要となり、造粒時の固形分調整及び粘度調整が難しくなる可能性がある。粒径が120nmを超えると添加したTi化合物が粒子中で局在しやすくなるため、適度な凹凸を持った表面性を均一に形成できなくなる恐れがある。
【0053】
また、原料仕込み時や造粒工程で添加されるTi化合物としては、MgTiO、MgTiO、MgTi、SrTiOから選ばれる1種類以上の誘電体成分を生成させるTiO等が望ましい。
【0054】
(第2焼成工程)
次いで、造粒物を非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下で焼成し、フェライト化させる。この焼成によりばらつきの少ない格子定数を持った結晶構造となり、表面酸化処理後の磁化の低下が少ない粒子を得ることができる。
【0055】
上記造粒工程又はこの第2焼成工程において、カーボンブラック(CB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)及び木炭から選ばれる1種以上の添加物質を添加してもよい。上記造粒工程時にポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)を添加するだけでも所望の磁気特性が得られるが、さらにこの工程(第2焼成工程)においてカーボンブラック、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)及び木炭から選ばれる少なくとも1種の添加物質を添加することで過剰にウスタイト(FeO)を生成させ、表面酸化処理時にウスタイトを優先的に酸化することにより鉄過剰のMgフェライト成分の酸化による磁化の低下を抑制することが出来るのでより好ましい。Fe2+及びFeの存在量は粉末X線回折による結晶構造解析、もしくはFe2+に関してはMnの含有量が少なく、酸化還元滴定が可能な場合には過マンガン酸カリウムや重クロム酸カリウムによる酸化還元滴定で把握することが出来る。
【0056】
焼成温度は650〜1200℃で行われることが望ましい。焼成温度が650℃未満では、結晶構造が強固ではないため、酸化皮膜処理工程での磁化の低下が著しい。また、焼成温度が1200℃を超えると、熱がかかり過ぎており、形状が悪化し、表面性の制御が難しくなる。
【0057】
(第3焼成工程)
次に、フェライト化した粒子は、再度、非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下で焼成し、磁化及び表面性を調整する。この焼成により、ばらつきの少ない格子定数を持った結晶構造となり、表面酸化処理後の磁化の低下がさらに少なくなる。また、表面における細孔の生成を抑制することが出来る。
【0058】
温度は1100〜1400℃で行われることが望ましい。焼成温度が1100℃未満では、結晶構造が強固ではないため、酸化皮膜処理工程での磁化の低下が著しい。また、焼成温度が1400℃を超えると、熱がかかり過ぎており、形状及び表面性の制御が容易でなくなるだけではなく、硬く、割れ欠けが発生し易く、また経済的にも不利である。
【0059】
その後、回収し、乾燥、分級を行う。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法など用いて所望の粒径に粒度調整する。乾式回収を行う場合は、サイクロン等で回収することも可能である。
【0060】
(酸化皮膜処理工程)
このようにして得られた粒子の表面に酸化皮膜を形成する。この酸化皮膜の形成によって電気抵抗調整を行うことができる。酸化皮膜処理は、一般的なロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等を用いる。酸化皮膜を均一に芯材粒子に形成させるためにはロータリー式電気炉、すなわち、ロータリーキルンを用いることが好ましい。ロータリーキルンを用いることにより、熱のかかりが均一となり、磁力及び抵抗の分布幅が狭く、現像剤としたときのキャリア付着の発生を防ぐことができる。
【0061】
酸化皮膜処理の温度は400〜800℃で行うことが望ましい。酸化皮膜処理の温度が400℃未満では、抵抗を十分に上げることができず、800℃を超えると、磁化が大きく低下する。
【0062】
<本発明の製造方法により得られる電子現像剤用キャリア芯材>
上述した製造方法によって電子現像剤用キャリア芯材が得られる。
【0063】
この電子現像剤用キャリア芯材は、その組成が少なくともFeを48.0〜70.0重量%、Mgを1〜5重量%、Tiを0.1〜3.5重量%及びSrを0.1〜5.0重量%を含有する。また、Mnを0.1〜20重量%を含有することが望ましく、0.1〜10重量%がより望ましく、0.1〜5重量%がさらに望ましく、0.1〜2.0重量%が最も望ましい。このような組成を有することによって、高磁化でありながら中抵抗又は高抵抗といった所望の抵抗が得られる。なお、Mnは、上記範囲で良好な効果を奏するが、環境規制の観点からは、可能な限り低減されることが望ましい。
【0064】
また、この電子写真現像剤用キャリア芯材の酸化皮膜の厚さは、0.0001〜10μmであることが望ましい。このような酸化皮膜を有することにより高磁化でありながら中抵抗又は高抵抗といった所望の抵抗が得られる。酸化皮膜の厚さは酸化皮膜が形成されていることが確認できる程度の高倍率のSEM写真から測定することが出来る。なお、酸化皮膜は芯材表面に均一で形成されていても良いし、部分的に酸化皮膜形成されていても良い。
【0065】
この電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材は、MgTiO、MgTiO、MgTiから選ばれる少なくとも1種類以上の温度補償型誘電体成分を含有することが望ましい。また、これらの物質の合計含有量は、0.2〜10重量%であることが望ましい。そして、このような物質を含有することによって、高い帯電量を得ることができ、電子写真現像剤としたときに、各環境下における帯電安定性にも優れる。
【0066】
MgTiO、MgTiO、MgTiはいずれも温度補償型誘電体成分として代表的なものであり、MgTiOは立方晶であり、同じ立方晶のスピネル構造と相性がよく含有されやすい。MgTiは芯材の各焼成工程のいずれかの工程において還元性が強い場合に生成されやすい。MgTiOは菱面体構造をとり、芯材の各焼成工程のいずれかの工程において酸化性が強い場合に生成されやすい。
【0067】
この電子写真現像剤用キャリア芯材において、温度補償型誘電体成分の合計含有量が0.2重量%よりも少ない場合は高い帯電レベルを発揮できないだけでなくキャリア芯材の帯電量の環境依存性が大きいものとなってしまう。温度補償型誘電体成分の合計含有量が10重量%よりも大きい場合にも目標とする帯電レベルと帯電安定性は得られるが、帯電レベルが頭打ちになるので10重量%を超えて存在しても意味がない。フェライトキャリア芯材帯電量の環境依存性を考慮すると、温度補償型誘電体成分の含有量は0.2〜7重量%がより好ましく、0.2〜5重量%が最も好ましい。
【0068】
本発明の上記電子写真現像剤用フェライトキャリア芯材において、上記温度補償型誘電体成分の含有量が下記(1)及び(2)の関係式をみたすことが望ましい。
【0069】
【化1】

【0070】
上記温度補償型誘電体成分の含有量が上記(1)の関係式をみたさない場合には、芯材の各焼成工程のいずれかの工程において酸化性が強く、MgTiOだけでなくFeも大量に生成し、磁化が下がりすぎキャリア飛散が発生するため、キャリアとして使用できないものとなっている可能性がある。
【0071】
上記温度補償型誘電体成分の含有量が上記(2)の関係式をみたさない場合には、芯材の各焼成工程のいずれかの工程において還元性が強く、MgTiだけでなくFeOも大量に生成し、磁化が下がりすぎキャリア飛散が発生するため、キャリアとして使用できないものとなっている可能性がある。
【0072】
MgTiO、MgTiO、MgTiは温度補償型の誘電体であり、比誘電率は測定条件により異なるが16〜18程度のものが知られており、組成や製造方法を制御することで誘電率の温度係数を小さくし、誘電体の温度の影響を受けないようにすることが一般的に行なわれている。一方、フェライト成分は温度の影響で誘電率が変化し、フェライトキャリア芯材の帯電レベルが変化する。したがってフェライト成分の温度による比誘電率の変化を相殺するように温度補償型誘電体成分の比誘電率の温度係数を制御すればフェライトキャリア芯材の帯電量の環境変動を最小限に抑えることが可能となる。あるいは、フェライト成分の比誘電率の温度変化に応じてMgTiO、MgTiO、MgTiから選ばれる1種類以上の物質を一定の割合で含有させることによって、フェライトキャリア芯材として温度によらず常に一定の比誘電率を保つことができる。さらにフェライト成分の比誘電率は測定条件により異なるが8〜12付近であることが多く、MgTiO、MgTiO、MgTiから選ばれる1種類以上の物質が芯材中に存在することでフェライトキャリア芯材そのものの帯電レベルを上げる方向に寄与する。
【0073】
また、SrTiOの温度係数は大きいものの、比誘電率が測定条件により異なるが200以上と高誘電率であり、環境依存性が悪くならない程度に含有させることでよりフェライトキャリア芯材の帯電レベルを上げることができる。その含有量は3重量%以下が望ましく、含有量が3重量%を超える場合には、フェライトキャリア芯材の誘電率の温度変化が大きくなりすぎ、帯電量の環境依存性が大きくなりすぎてしまう。
【0074】
これら、MgTiO、MgTiO、MgTi及びSrTiO等の結晶構造の存在の有無については、下記によって測定される。
【0075】
(結晶構造の測定:X線回折測定)
測定装置としてパナリティカル社製「X’PertPRO MPD」を用いた。X線源としてCo管球(CoKα線)を、光学系として集中光学系及び高速検出器「X‘Celarator」を用いて、測定は0.2°/secの連続スキャンで行った。測定結果は通常の粉末の結晶構造解析と同様に解析用ソフトウエア「X’Pert HighScore」を用いてデータ処理し、結晶構造の同定を行った。なお、結晶構造を同定する際にFe、Oを必須元素としMn、Mg、Ti、Srは含有する可能性のある元素とした。また、X線源についてはCu管球でも問題なく測定できるが、Feを多く含んだサンプルの場合には測定対象となるピークと比較してバックグラウンドが大きくなるので、Co管球を用いる方が好ましい。また、光学系は平行法でも同様の結果が得られる可能性があるが、X線強度が低く測定に時間がかかるため集中光学系での測定が好ましい。さらに、連続スキャンの速度は特に制限はないが結晶構造の解析を行う際に十分なS/N比を得るためにスピネル構造の(113)面のピーク強度が約50000cpsとなるようにし、粒子の特定の優先方向への配向がないようにサンプルセルにキャリア芯材をセットし測定を行った。
【0076】
本発明にかかるスピネル構造としてMgFe、FeTiO及びFeが代表的なものであるが、これらの結晶構造及びその一部がMn及び/又はSrに置換されたものもすべて含まれるものとし、非酸化性雰囲気で焼成されることにより周期的にスピネル構造に格子欠陥が含まれるものも含むものとする。
【0077】
本発明にかかるスピネル構造以外のTi化合物の結晶構造としてMgTiO、MgTiO、MgTi、SrTiO等があり、非酸化性雰囲気で焼成されることにより周期的に上記結晶構造に格子欠陥が含まれるものも含むものとする。
【0078】
この電子写真現像剤用キャリア芯材は、形状係数SF−1(円形度)が105〜140、BET比表面積が0.09〜0.25m/g、見掛け密度が2.0〜2.45g/cmであることがそれぞれ好ましい。これらの測定方法は後述する。
【0079】
この電子写真現像剤用キャリア芯材は、その表面に樹脂を被覆し、樹脂被覆キャリアとしてトナーと共に、電子写真現像剤の用途に供される。キャリアとトナーの混合比(トナー重量/(キャリア重量+トナー重量))、即ちトナー濃度は、3〜15重量%に設定することが好ましい。3重量%未満であると所望の画像濃度が得にくく、15重量%を超えると、トナー飛散やかぶりが発生しやすくなる。
【0080】
本発明に係る電子写真現像剤は、補給用現像剤として用いることもできる。この際のキャリアとトナーの混合比(トナー重量/(キャリア重量+トナー重量))、即ちトナー濃度は50重量%、100重量%未満に設定することが好ましい。
【0081】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0082】
(第1焼成工程)
Feを7モル、Mgを0.435モル、Tiを0.075モル、Srを0.075モル、Mn0.075モルとなるようにFe、Mg(OH)、TiO、SrCO及びMnOを秤量し、固形分が50重量%となるように水を加えビーズミルで混合し、混合したスラリーをスプレードライヤーで造粒した。このとき、バインダー成分としてPVAを固形分の0.75重量%となるように、またポリカルボン酸系分散剤をスラリーの粘度が1〜2ポイズになるように添加し、得られた造粒物を1050℃にて非酸化性雰囲気にてロータリーキルンで焼成し、有機物を除去しながらフェライト化を進めると同時に酸化鉄の一部を還元した。
【0083】
(造粒工程)
得られた焼成物をビーズミルにてスラリー粒径のD50が1.59μmとなるように粉砕した。このとき、バインダー成分としてPVAをスラリーの固形分の0.5重量%となるように添加し、ポリカルボン酸系分散剤をスラリーの粘度が2〜3ポイズになるように添加し、得られた粉砕スラリーをスプレードライヤーにて再度造粒した。このとき追加原料として、Tiを0.05モルとなるようにTiOを添加した。このTiOの粒径は25nmであり、添加量は全Ti量の40重量%に相当する。
【0084】
(第2焼成工程)
850℃にて非酸化性雰囲気下、ロータリーキルンで焼成を行い、有機物を除去しながらフェライト化を進めると同時に酸化鉄の一部を還元した。
【0085】
(第3焼成工程)
焼成したものを80メッシュの篩を使って粗大粒子を除去した後、非酸化性雰囲気下、1150℃で16時間焼成し焼成物を得た。得られた焼成物を解砕、分級、磁力選鉱を行い、体積平均粒径が28.41μmのキャリア芯材粒子を得た。
【0086】
(酸化皮膜処理工程)
さらに得られたキャリア芯材粒子を表面酸化処理温度540℃、大気雰囲気の条件の元、ロータリーキルンで表面酸化処理を行い表面酸化処理済みのキャリア芯材粒子を得た。
【実施例2】
【0087】
第1焼成工程において、焼成温度を1100℃とし、造粒工程においてPVAの添加量を0.25重量%とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例3】
【0088】
第1焼成工程において、焼成温度を900℃とし、造粒工程においてPVAの添加量を0.75重量%とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例4】
【0089】
第2焼成工程において、焼成温度を1050℃とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例5】
【0090】
第3焼成工程において、焼成温度を1135℃とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例6】
【0091】
第3焼成工程において、焼成温度を1215℃とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例7】
【0092】
第1焼成工程において、PVAの添加量を1重量%とし、造粒工程においてPVAの添加量を0.25重量%とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例8】
【0093】
第1焼成工程において、PVAの添加量を0.3重量%とし、造粒工程においてPVAの添加量を0.75重量%とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例9】
【0094】
第1焼成工程において、PVAに代えてPVPを用いた以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例10】
【0095】
第1焼成工程において、PVAに代えてPVPを用い、その添加量を1.1重量%とし、造粒工程でPVAの添加量を0.25重量%とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例11】
【0096】
第1焼成工程において、PVAの添加量を0.75重量%とし、造粒工程でPVAの添加量を0.75重量%とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例12】
【0097】
第1焼成工程において、PVAに代えて木炭を用い、その添加量を1.5重量%とし、原料の混合をヘンシェルミキサーで行い、第1焼成工程の造粒をローラーコンパクターで行った以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例13】
【0098】
第1焼成工程において、PVAに代えてCBを用い、その添加量を1重量%とし、原料の混合をヘンシェルミキサーで行い、第1焼成工程の造粒をローラーコンパクターで行った以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例14】
【0099】
表面酸化処理を690℃とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例15】
【0100】
表面酸化処理を410℃とした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例16】
【0101】
原料のTiの仕込み量を0.1モル、造粒工程のTiの添加量を0.025モルとなるようにTi化合物(TiO)を添加した以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例17】
【0102】
原料のTiの仕込み量を0.025モル、造粒工程のTiの添加量を0.1モルとなるようにTi化合物(TiO)を添加した以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例18】
【0103】
原料のTiを添加せず、造粒工程のTiの添加量を0.125モルとなるようにTi化合物(TiO)を添加した以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例19】
【0104】
原料のMnを添加せず、造粒工程のMnの添加量を0.075モルとなるようにMn化合物(Mn)を添加した以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【実施例20】
【0105】
造粒工程に添加するTi化合物の粒径を100nmとした以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【比較例】
【0106】
〔比較例1〕
原料のTiの仕込み量を0.125モル、第1焼成工程でのPVA添加量を0.3重量%とし、造粒工程でTi化合物を添加しない以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【0107】
〔比較例2〕
(第1焼成工程)
Feを10モル、Mgを1モル、Srを0.02モル、Mn4モルとなるようにFe、Mg(OH)、SrCO及びMnを秤量後、ヘンシェルミキサーで混合し、混合物をローラーコンパクターで造粒した。このとき、添加剤(還元剤及びバインダー成分)は添加しなかった。得られた造粒物を980℃にて大気にてロータリーキルンで焼成し、有機物を除去しながらフェライト化を進めた。
【0108】
(造粒工程)
得られた焼成物をビーズミルにてスラリー粒径のD50が1.33μmとなるように粉砕した。このとき、バインダー成分としてPVAをスラリーの固形分の0.5重量%となるように添加し、ポリカルボン酸系分散剤をスラリーの粘度が2〜3ポイズになるように添加し、得られた粉砕スラリーをスプレードライヤーにて再度造粒した。
【0109】
(第2焼成工程)
650℃にて大気雰囲気下、ロータリーキルンで焼成を行い、有機物を除去した。
【0110】
以下、第3焼成及び酸化皮膜処理は、実施例1と同様にして実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【0111】
実施例1〜20及び比較例1〜2について、キャリア芯材の各工程の製造条件(仕込量、雰囲気、温度)、Ti化合物の種類、粒径、添加量及び全Tiの割合、Mn化合物の種類及び添加量、添加元素の種類及び添加量、造粒工程に用いられるスラリー粒子の粒径、各工程のX線回折、第3焼成工程後の化学分析(ICP)及び各種特性(磁化、見掛け密度、平均粒径、残留磁化、保磁力、抵抗、SF−1、BET比表面積、真密度及び帯電量(N/N環境下))を表1〜7に示す。各種特性の評価は、下記に準じて測定した。
【0112】
(体積平均粒径)
装置として日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320−X100)を用いた。分散媒には水を用いた。
【0113】
(BET比表面積)
自動比表面積測定装置GEMINI2360」(島津製作所社製)を用いて、吸着ガスであるNを吸着させて測定したキャリア粒子のN吸着量から求めることができる。なお、ここでは、このN吸着量を測定する際に用いられる測定管は、測定前に、減圧状態にて50℃で2時間の空焼きを行った。さらに、この測定管にキャリア粒子5gを充填し、減圧状態で30℃の温度で2時間前処理を行った後に、25℃下でNガスをそれぞれ吸着させてその吸着量を測定した。それらの吸着量は、吸着等温線を描き、BET式から算出される値である。
【0114】
(見掛け密度)
JIS Z 2504に準拠して測定した。詳細は下記の通りである。
1.装置
粉末見掛密度計は漏斗、コップ、漏斗支持器、支持棒及び支持台から構成されるものを用いる。天秤は、秤量200gで感量50mgのものを用いる。
2.測定方法
(1)試料は、少なくとも150g以上とする。
(2)試料は孔径2.5+0.2/−0mmのオリフィスを持つ漏斗に注ぎ流れ出た試料が、コップ一杯になってあふれ出るまで流し込む。
(3)あふれ始めたら直ちに試料の流入をやめ、振動を与えないようにコップの上に盛り上がった試料をへらでコップの上端に沿って平らにかきとる。
(4)コップの側面を軽く叩いて、試料を沈ませコップの外側に付着した試料を除去して、コップ内の試料の重量を0.05gの精度で秤量する。
3.計算
前項2−(4)で得られた測定値に0.04を乗じた数値をJIS−Z8401(数値の丸め方)によって小数点以下第2位に丸め、「g/cm」の単位の見掛け密度とする。
【0115】
(磁気特性)
積分型B−HトレーサーBHU−60型(理研電子社製)を使用して測定した。電磁石間に磁場測定用Hコイル及び磁化測定用4πIコイルを入れる。この場合、試料は4πIコイルに入れる。電磁石の電流を変化させ磁場Hを変化させたHコイル及び4πIコイルの出力をそれぞれ積分し、H出力をX軸に、4πIコイルの出力をY軸に、ヒステリシスループを記録紙に描く。ここで測定条件としては、試料充填量:約1g、試料充填セル:内径7mmφ±0.02mm、高さ10mm±0.1mm、4πIコイル:巻数30回にて測定した。
【0116】
(形状係数SF−1(円形度))
セイシン企業社製粒度・形状分布測定器PITA−1を用いて芯材粒子3000個を観察し、装置付属のソフトウエアImageAnalysisを用いてArea(投影面積)及びフェレ径(最大)を求め、下記式より算出し得られた値である。キャリアの形状が球形に近いほど100に近い値となる。形状指数SF−1は、1粒子毎に算出し、100粒子の平均値をそのキャリアの形状指数SF−1とした。
なお、サンプル液は分散媒として粘度0.5Pa・sのキサンタンガム水溶液を調製し、その中にキサンタンガム水溶液30ccに芯材粒子0.1gを分散させてものを用いた。このように分散媒の粘度を適正にあわすことで芯材粒子が分散媒中で分散したままの状態を保つことが出来、測定をスムーズに行なうことが出来る。さらに測定条件は(対物)レンズの倍率は10倍、フィルタはND4×2、キャリア液1及びキャリア液2は粘度0.5Pa・sのキサンタンガム水溶液を使用し、その流量はいずれも10μl/sec、サンプル液流量0.08μl/secとした。
【0117】
【数1】

【0118】
(真密度)
キャリア芯材及び充填後のキャリア粒子の真密度は、JIS R9301−2−1に準拠して、ピクノメーターを用いて測定した。ここで、溶媒としてメタノールを用い、温度25℃にて測定を行った。
【0119】
(体積抵抗)
断面積が4cmのフッ素樹脂製のシリンダーに高さ4mmとなるように試料を充填した後、両端に電極を取り付け、さらにその上から1kgの分銅を乗せて抵抗を測定した。抵抗の測定はケースレー社製6517A型絶縁抵抗測定器にて50V及び/または1000Vで電圧印加し10sec後の電流値(10secの電流値)から抵抗を算出し体積抵抗とした。
【0120】
(帯電量測定)
帯電量は、次のようにして測定される。すなわち、スチレン−アクリル系負帯電性市販トナー(体積平均粒径5.8μm)3.5gとキャリア芯材46.5gを秤量し、50mlのガラスビンに入れてボールミルでガラスビンが100回転になるように回転数を合わせて混合攪拌を行った。攪拌時間は30minとし、現像剤をN/N環境(室温25℃、湿度55%)下に1時間暴露後、Epping社製帯電量測定装置q/m−meterで帯電量を測定した。このとき帯電量は測定を開始後90sec後の値とした。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
【表4】


【0125】
【表5】

【0126】
【表6】

【0127】
【表7】

【0128】
実施例1〜20では、表1及び表2の結果から明らかなように、第1焼成工程においてスピネル相の物質と非磁性のTi化合物及びFeを含有する焼成物が得られた。表3及び表4の結果から明らかなように第1焼成工程で得られた焼成物を原料とし、さらに同様の組成の焼成を行っていないT化合物を添加し、さらに第2焼成工程において焼成が進みやすくなるように添加物質を添加したことで磁化の高い焼成物が得られた。表5の結果から明らかなように、第2焼成工程で生成した非磁性のウスタイト(FeO)は第3焼成工程においても維持された以外に、Ti化合物を含有していたにもかかわらず、第2焼成工程焼成工程と比べてさらに高い磁化を持った焼成物が得られた。表6の結果から、第3焼成工程後には、一定のフェライト組成を有することも明らかであった。このため表7の結果から明らかなように、表面酸化処理における磁化の低下を最小限に抑制しながら磁化と抵抗のバランスに優れた電子写真キャリア用芯材が得られた。
【0129】
これに対して、比較例1は、表7から明らかなように、表面の凹凸が少ないため、抵抗が大きく、SF−1が小さく、BET比表面積も小さく、見掛け密度や真密度は大きいものであり、目的とするキャリア芯材は得られなかった。また、比較例2は、表7から明らかなように、帯電量が極めて低いものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の製造方法により、各重金属を含有しないのみならず、Mn含有量を低減し、高磁化でありながら中抵抗又は高抵抗といった所望の抵抗が得られるだけでなく高帯電で、良好な見掛け密度を有し、かつ適度な凹凸を有する表面性と揃った形状とを兼ね備えた電子写真現像剤用キャリア芯材が工業的規模をもって安定的に得られる。
【0131】
従って、本発明は、特に高画質の要求されるフルカラー機並びに画像維持の信頼性及び耐久性の要求される高速機の分野に広く使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Mg、Ti及びSrを少なくとも含有し、少なくともスピネル構造及びTi化合物の構造を有するフェライト粒子からなる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、
(1)少なくともMg化合物、Sr化合物及びFeを非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下、添加、混合、焼成してFe2+を含む混合物を得る第1焼成工程と、
(2)得られた混合物をスラリー化した後、スラリー粒子を造粒する造粒工程と、
(3)造粒物を非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下で焼成し、フェライト化させる第2焼成工程と、
(4)再度、非酸化性雰囲気又は弱還元性雰囲気下で焼成し、磁化及び表面性を調整する第3焼成工程と、
(5)粒子表面に酸化皮膜を形成する酸化皮膜処理工程と、
を有し、上記第1焼成工程後のFe残留量が0〜60重量%であり、かつ上記造粒工程においてTi化合物を添加することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項2】
上記第1焼成工程にTi化合物及び/又はMn化合物を添加する請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項3】
上記Ti化合物がMgTiO、MgTiO、MgTi、SrTiOから選ばれる1種類以上の誘電体成分を生成させる請求項1又は2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
上記造粒工程において添加される上記Ti化合物の粒径が5〜120nm以下である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項5】
上記造粒工程において、上記フェライト粒子が含有する全Ti量の10〜100重量%となるようTi化合物を添加する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項6】
上記第1焼成工程、上記造粒工程及び上記第2焼成工程から選ばれる少なくとも1つの工程において、カーボンブラック(CB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)及び木炭から選ばれる少なくとも1種の添加物質を添加する請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項7】
上記第1焼成工程の焼成が800〜1200℃で行われる請求項1〜請求項6のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項8】
上記第2焼成工程の焼成が650〜1200℃で行われる請求項1〜請求項7のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項9】
上記第3焼成工程の焼成が1100〜1400℃で行われる請求項1〜請求項8のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項10】
上記酸化皮膜処理工程が400〜800℃で行われる請求項1〜請求項9のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項11】
上記酸化皮膜処理工程において、ロータリーキルンが用いられる請求項1〜請求項10のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項12】
上記造粒工程に用いられるスラリー粒子の粒径が1.0〜3.0μmである請求項1〜請求項11のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法により得られた電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項14】
少なくともFeを48.0〜70.0重量%、Mgを1〜5重量%、Tiを0.1〜3.5重量%及びSrを0.1〜5.0重量%を含有する請求項13に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項15】
Mnを0.1〜20重量%を含有する請求項13又は請求項14に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項16】
酸化皮膜の厚さが0.0001〜10.0μmである請求項13〜請求項15のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。

【公開番号】特開2011−164224(P2011−164224A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24809(P2010−24809)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000231970)パウダーテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】