説明

電子写真用感光体および画像形成装置

【課題】 白点現象の発生を抑制することができる電子写真用感光体、および画像形成装置を提供する。
【解決手段】 導電性基体と、該導電性基体上に形成されたアモルファスシリコンを含む光導電層と、該光導電層上に形成されたアモルファスシリコンカーバイドを含む被覆層と、該被覆層の表面に付着したポリオレフィン樹脂とを備えることを特徴とする電子写真用感光体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用感光体および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体等の像担持体の表面を、帯電手段としての帯電ロールによって帯電した後、この感光体ドラムの表面に画像露光を施して静電潜像を形成し、静電潜像を現像装置により顕像化してトナー像を形成し、トナー像を転写材上に転写・定着することによって画像を形成する、いわゆるカールソンプロセスと呼ばれる画像形成手法は、従来より広く用いられている。
【0003】
複写機やプリンタなど、カールソンプロセスによる画像形成装置を用いて画像を形成した場合、形成した画像にいわゆる白点現象と呼ばれる画像不良が生じる場合があった。白点現象は、例えば黒パターン画像内など、本来トナー粒子が付着していなければいけない領域に、例えば大きさ約φ0.5〜2.5mm程度の、トナーが付着していない微小画像欠陥が生じる現象である。
【0004】
例えば下記特許文献1では、帯電手段によって印加する交流電圧を調整することで、白点の発生を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−267739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、形成画像のより一層の高解像度化、高精度化が求められており、白点現象もより十分に抑制することが求められている。しかしながら、特許文献1に記載されているように、帯電手段による電子写真用感光体への印加電圧を制御した場合であっても、白点現象を十分に抑制できない場合も多かった。これは、電子写真用感光体の帯電状態以外にも、白点現象の主要因が存在するためと考えられる。従来、帯電状態以外の主要因についての解明は十分ではなく、白点現象を十分に抑制することは出来ていなかった。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決することを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、導電性基体と、該導電性基体上に形成されたアモルファスシリコンを含む光導電層と、該光導電層上に形成されたアモルファスシリコンカーバイドを含む被覆層と、該被覆層の表面に付着したポリオレフィン樹脂とを備えることを特徴とする電子写真用感光体を提供する。
【0009】
また、導電性基体の表面にアモルファスシリコンを含む光導電層を形成する工程と、前記光導電層上にアモルファスシリコンカーバイドを含む被覆層を形成する工程と、前記被複層の表面をアルゴンによってイオンボンバード処理する工程と、前記イオンボンバード処理後の前記被複層の表面にポリオレフィン樹脂を付着させる工程とを備えることを特徴とする電子写真用感光体の製造方法を、併せて提供する。
【0010】
また、上述の電子写真用感光体と、該電子写真用感光体の表面に静電気を帯電させる帯
電手段と、前記静電気を帯電した前記電子写真用感光体に露光光を照射して、前記電子写真用感光体の表面に静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像を形成した前記電子写真用感光体の表面にトナーを供給し、前記潜像に対応するトナー像を前記電子写真用感光体の表面に形成する現像器と、前記トナー像を転写材に転写させる転写部と、転写させた後に前記電子写真用感光体の表面に残留した前記トナーを除去するクリーニング手段とを備えることを特徴とする画像形成装置を、併せて提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子写真用感光体および画像形成装置によれば、白点現象の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電子写真用感光体の基本的構成を説明する、入部を切り欠いた状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す電子写真感光体の表面状態を模式的に表す概略上面図である。
【図3】本発明の電子写真用感光体の製造に用いるプラズマCVD装置の一実施形態の概略側断面図である。
【図4】図3に示すプラズマCVD装置の概略上断面図である。
【図5】図1に示す電子写真用感光体を作製する際に印加する電圧の一例である。
【図6】図1に示す電子写真用感光体を作製する際に印加する電圧の一例である。
【図7】本発明の画像形成装置の一実施形態について説明する概略構成図である。
【図8】図7に備える画像形成装置が備える現像装置の部分拡大図を示す。
【図9】本発明の一実施形態の電子写真感光体を含む複数の電子写真感光体について、画像形成装置搭載前の表面自由エネルギーの測定値、および表面仕事と水素結合エネルギーの値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、第1の実施形態の電子写真用感光体1(以下、感光体1とする)の基本的構成を説明するため斜視図であり、感光体1の一部を切り欠いた状態を示している。また、図2は、感光体1の表面状態を模式的に表す概略上面図である。
【0015】
かかる図において、アルミニウムなどから構成された導電性基体10が、基材として備えてある。また、その導電性基体10上に、非晶質材料からなる複数の層が積層されている。本実施形態では、導電性基体10の表面に、アモルファスシリコン等から構成された電荷注入阻止層12が形成されている。また、その電荷注入阻止層12の上に、アモルファスシリコン等から構成された光導電層14が備えてある。
【0016】
また、その光導電層14の上に、アモルファスシリコンと、炭素原子と、水素原子とを含有したSiC:Hから構成された中間層16が備えてある。
【0017】
導電性基体10の構成材料としては特に制限されるものではないが、Al、SUS、Zn、Cu、Fe、Ti、Ni、Cr、Ta、Sn、Au、Ag等の金属材料や、それらの合金材料から構成することが好ましい。
【0018】
また、樹脂やガラス・セラミック等の電気絶縁体の表面に、上述した金属やITOやSnO2などの透明導電性材料を蒸着して、導電処理した材料も用いることができる。Al合金を用いると、低コストとなり、しかも、軽量化でき、その上、後述する光導電層や電荷注入阻止層との密着性が高くなって信頼性が向上するという点で好適である。
【0019】
電荷注入阻止層12は、導電性基体10と、光導電層14との間に必要に応じて設けられ、導電性基体10からの電荷の注入を阻止するために設けることが好ましい。すなわち、電荷注入阻止層12によって、所定方向の電荷の流れを制御し、ひいては、被覆層18における電子の横流れ等をさらに厳密に制御して、解像度にさらに優れた感光体1とすることができる。
【0020】
また、電荷注入阻止層は、上述のようにアモルファスシリコン(a−Si)などのアモルファスシリコン系材料(以下、a−Si系材料と称する場合がある)により形成されるが、特にアモルファスシリコンに、C、N、O等を加えた合金のアモルファスシリコン系材料を用いるのが好ましい。そうすれば、高い光導電性特性、高速応答性、繰り返し安定性、耐熱性、耐久性などに優れた電子写真特性が安定して得られ、さらにアモルファスシリコン系材料により形成される被覆層との整合性に優れたものとなる。
【0021】
ここで、a−Siに、C、N、O等を加えた合金のa−Si系材料としては、a−SiC、a−SiN、a−SiO、a−SiGe、a−SiCN、a−SiNO、a−SiCO及びa−SiCNOなどを挙げることができる。これらのa−Si系材料による光導電膜は、たとえば、グロー放電分解法、各種スパッタリング法、各種蒸着法、ECR法、光CVD法、触媒CVD法、及び反応性蒸着法などにより成膜形成し、その成膜形成に当たってダングリングボンド終端用に水素(H)やハロゲン元素(FやCl)を、膜全体を100原子%としたときに、1〜40原子%の範囲で含有させることにより形成することができる。
【0022】
また、光導電膜の成膜にあたっては、各層の暗導電率や光導電率などの電気的特性及び光学的バンドギャップなどについて所望の特性を得るために、周期律表第13族元素(以下、「第13族元素」と略す)や周期律表第15族元素(以下、「第15族元素」と略す)を含有させたり、C、N、Oなどの元素の含有量を調整したりして、上述した諸特性を調整することもできる。また、第13族元素及び第15族元素としては、共有結合性に優れて半導体特性を敏感に変え得る点、及び優れた光感度が得られるという点でホウ素(B)及びリン(P)を用いるのが望ましい。第13族元素及び第15族元素をC、O等の元素とともに含有させる場合には、第13族元素の含有量は0.1〜20000ppm、第15族元素の含有量は0.1〜10000 ppmであるのが好ましい。
【0023】
また、C、O等の元素を含有させないか、または微量含有させる場合は、第13族元素の含有量は0.01〜200ppm、第15族元素の含有量は0.01〜100ppmの範囲であることが好ましい。さらに、これらの元素は、層厚方向にわたって勾配を設けてもよく、その場合には層全体の平均含有量が上記範囲内であればよい。
【0024】
以上述べたa−Si系材料は、後述の光導電層においてもその構成元素、構成比率の適正範囲は同じであるものの、電荷注入阻止層は、光導電層よりもより多くの第13族元素や第15族元素を含有させて導電性を調整したり、より多くのC、N、Oを含有させて高抵抗化させるとよい。
【0025】
また、電荷注入阻止層の膜厚は0.5〜12μmの範囲内の値とされている。電化注入阻止層の膜厚をこの範囲にしておけば、比較的容易に均一な厚さに形成することができるとともに、導電性基体に対する十分な電荷注入阻止効果を発揮することができる。
【0026】
図1に示すように、光導電層(第1の層)14は、アモルファスシリコン系材料を主成分とし、光導電性材料から構成されている。したがって、アモルファスシリコン系材料以外に、例えば、水素原子及びハロゲン原子からなる群から少なくとも1つ選択された元素
を含有することが好ましい。すなわち、このような原子を添加することにより、光導電層における電荷移動度を、所定範囲に正確に制御することができるためである。
【0027】
また、前述の電荷注入阻止層同様、必要に応じてa−Siに、C、N、O等を加えた合金のa−Si系材料を用いたり、第13族元素や第15族元素を含有させて導電性や光導電率などの電気的特性及び光学的バンドギャップなどを調整することもできる。
【0028】
さらに、光導電層については、a−Si系材料に微結晶シリコン(μc−Si)を含んでいてもよく、このμc−Siを含ませた場合には、暗導電率・光導電率を高めることができるので、光導電層の設計自由度が増すといった利点がある。このようなμc−Siは、先に説明した成膜方法を採用し、その成膜条件を変えることにより形成することができる。
【0029】
たとえば、グロー放電分解法では、導電性基体の温度及び高周波電力を高めに設定し、希釈ガスとしての水素流量を増すことによって形成できる。また、μc−Siを含む光導電層においても、先に説明したのと同様な不純物元素を添加してもよい。
【0030】
また、光導電層の膜厚は、例えば1〜100μmの範囲内の値とされている。光導電層の膜厚をこの範囲とすることで、比較的容易に均一な厚さに形成することができるとともに、十分な光導電性を発揮することができる。かかる点で、光導電層の膜厚は、5〜50μmの範囲内の値とすることがより好ましく、8〜20μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0031】
また、中間層は、アモルファスシリコン系材料と、炭素原子と、水素原子とを含有したa−SiC:Hを含むことが好ましい。この理由は、このような中間層とすることにより、後述する被覆層との相乗効果によって、解像度に優れるとともに、ヒータレスシステムを採用した場合であっても、像流れが少ないa−Si感光体を得ることができるためである。
【0032】
なお、中間層を構成するにあたり、構成材料に、電気特性の調整用として13族元素や15族を含有させてもよい。
【0033】
また、中間層は、アモルファスシリコン(a−Si)以外に、種々の材料を用いることができる。例えば、a−Si系材料として、アモルファスシリコンナイトライド(a−SiN)、アモルファスシリコンオキサイド(a−SiO)、アモルファスシリコンオキシカーバイド(a−SiCO)、アモルファスシリコンオキシナイトライド(a−SiNO)などの高抵抗材料を用いてもよい。これらは、a−Siと同様の薄膜形成手段により成膜し、その成膜形成に当たっては、ダングリングボンド終端用、もしくは硬度あるいは抵抗値調整用として水素やハロゲン(F、Cl)を、膜中にシリコン原子と炭素原子の総数に対して、1〜160原子%含有させるとよい。
【0034】
その中間層16の上に、アモルファスシリコンと、炭素原子と、水素原子を含有する被覆層18が備えてある。被覆層18の表面には、ポリオレフィン樹脂からなる樹脂構造体19が付着している。本実施形態において樹脂構造体19は、被覆層18の表面全体に分散して付着している。 被覆層18は、例えば膜厚が1000〜1500Åの範囲とされている。被覆層18は、アモルファスシリコン系材料と、炭素原子と、水素原子とを含有したa−SiC:Hを主成分として構成されている。
【0035】
本実施形態において、ポリオレフィン樹脂は例えばポリスチレン樹脂である。ポリプロピレンやポリスチレンなどのポリオレフィン樹脂は、例えば画像形成装置におけるトナー
粒子にも含まれている。トナー粒子に含まれるポリオレフィン樹脂は、後述する画像形成装置において、クリーニングブレードと感光体とのすべり性を向上させるワックス成分として含有されている。
【0036】
本願発明者は、このトナー粒子に含まれるポリオレフィン樹脂と白点現象との関連性について考察し、トナー粒子にワックス成分として含まれるポリオレフィン樹脂が、白点現象発生の要因になり得るとの知見を得た。すなわち、従来の電子写真用感光体を画像形成装置に搭載して継続的に使用していると、トナー粒子のワックス成分が、感光体の特定部分に局所的に付着してしまい、この部分が帯電不良部分となり、トナー粒子が付着しない白点発生部分になるとの知見を得た。感光体の特定部分とは、表面のダングリングボンドが局所的に多く接着強度が高い部分や、表面粗さが局所的に大きい部分など、化学的・物理的にポリオレフィン樹脂が付着し易い部分をいう。
【0037】
感光体が製造された直後の状態で、感光体の最表面全体が比較的ポリオレフィン樹脂が付着し難しい状態であり、表面にポリオレフィン樹脂が付着していないとしても、数千枚から数万枚程度の画像形成を繰り返すことで、感光体の表面にはトナー粒子に含まれる、ポリオレフィン樹脂等からなるワックス成分が付着してくる。この際、感光体表面の、比較的付着し易い特定部分からワックス成分が付着するが、ワックス成分が一旦付着した以降は、この特定部分におけるワックス成分の付着し易さは、急激に増加する。これは、高分子である樹脂構造体同士が結合し易いためである。
【0038】
従来の感光体では、数千枚から数万枚の画像形成を実施した時点において、特定部分とその他の部分とで、ワックス成分の付着量の差が大きかった。この付着量のムラが、白点現象に影響していると考えられる。
【0039】
感光体の表面は、後述するクリーニングブレードと摺接した状態で使用されており、画像形成を継続して実施することで、クリーニングブレード自体にもトナー粒子のワックス成分(ポリオレフィン樹脂等)が付着する。このクリーニングブレードへのワックス成分の付着量と、感光体表面のワックス成分の付着量が、ある一定の状態以上になると、それ以降の画像形成では白点現象の発生が極端に減少することが知られている。例えば、数十万枚以上の画像形成を経た感光体とクリーニングブレードとの組み合せでは、いわゆる「なじんだ状態」になり、白点現象の発生が顕著に少なくなってくることが知られている。このなじみの状態では、感光体の表面のワックス成分の付着が、全体的にある一定量以上の付着量となり、クリーニングブレードにおける付着量も全体的にある一定量以上の付着量となっており、このことが要因で白点現象の発生が顕著に少なくなっていると考えることができる。
【0040】
数千枚から数万枚の画像形成時点では、この「なじみ」が十分でなく、かつ感光体表面のポリオレフィン樹脂の付着量のムラが大きく、ブレードとの摺接状態にもムラが発生しており、トナー粒子の付着状態の局所的な不良に繋がっていると考えられる。本願発明者は、このような考察に基づき、画像形成装置での使用開始時点から、白点現象の発生を十分に抑制できる感光体について検討し、種々の実験によって確認することで、本願発明を得ている。
【0041】
本発明の一実施形態である感光体1では、被覆層18の表面全体に、ポリオレフィン樹脂からなる樹脂構造体19が予め付着している。すなわち、感光体1の表面は、ワックス成分が付着し易い部分が局所的に存在するのではなく、全体的に予め樹脂構造体19が付着しており、ワックス成分が全体的に均一に付着し易い状態となっている。
【0042】
このため、画像形成装置で繰り返し画像形成した場合でも、局所的にワックス成分が一
気に付着することなく、画像形成を開始した以降の早い段階から、いわゆる「なじみ状態」に近い表面状態に落ち着くことができる。感光体1を用いることで、画像形成における白点現象の発生を、十分に抑制することができる。アルゴンボンバード後の状態において、被覆層18の表面は、水素結合エネルギーが7(mN/m)以上であり、表面自由エネルギーが45(mN/m)以上となっている。被覆層18のアルゴンボンバード処理、および被覆層19へのポリオレフィン樹脂の付着処理については、後に詳述する。
【0043】
感光体1は、真空堆積膜形成法によって、所望特性が得られるように適宜成膜パラメーターの数値条件を設定しながら、製造することができる。本実施形態の感光体1では、具体的には、DCパルスプラズマCVD法が採用される。なお、本発明の電子写真用感光体の製造方法は、特に限定されず、具体的には、グロー放電法(低周波プラズマCVD)、高周波プラズマCVD法、マイクロ波プラズマCVD法などの交流放電プラズマCVD法を用いてもよく、また、直流放電プラズマCVD法、ECRプラズマCVD法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、光CVD法、触媒CVD(HOTワイヤーCVD)法等を用いてもよい。
【0044】
感光体1における電荷注入阻止層12、光導電層14、中間層16、および被覆層18は、たとえば図3および図4に示したプラズマCVD装置2を用いることにより形成される。図3は、感光体1の製造に用いるプラズマCVD装置の一実施形態の概略側断面図を示す。図4は、図3に示すプラズマCVD装置の概略上断面図である。
【0045】
プラズマCVD装置2は、支持体3を真空反応室4に収容したものであり、回転手段5、原料ガス供給手段6および排気手段7をさらに備えている。
【0046】
支持体3は、導電性基体10を支持するためのものであるとともに、第1導体として機能するものである。この支持体3は、フランジ部30を有する中空状に形成されているとともに、導電性基体10と同様な導電性材料により全体が導体として形成されている。支持体3は、2つの導電性基体10を支持できる長さ寸法に形成されており、導電性支柱31に対して着脱自在とされている。そのため、支持体3では、支持した2つの導電性基体10の表面に直接触れることなく、真空反応室4に対して2つの導電性基体10の出し入れを行なうことができる。
【0047】
導電性支柱31は、導電性基体10と同様な導電性材料により全体が導体として形成
されており、真空反応室4(後述する円筒状電極40)の中心において、後述するプレート42に対して絶縁材32を介して固定されている。
【0048】
導電性支柱31には、導板33を介して直流電源34が接続されている。この直流電源34は、制御部35によってその動作が制御されている。制御部35は、直流電源34を制御することにより、導電性支柱31を介して、支持体3にパルス状の直流電圧を供給させるように構成されている(図5および図6参照)。
【0049】
導電性支柱31の内部には、セラミックパイプ36を介してヒータ37が収容されている。セラミックパイプ36は、絶縁性および熱伝導性を確保するためのものである。ヒータ37は、導電性基体10を加熱するためのものである。ヒータ37としては、たとえばニクロム線やカートリッジヒーターを使用することができる。
【0050】
ここで、支持体3の温度は、たとえば支持体3あるいは導電性支柱31に取り付けられた熱電対(図示略)によりモニタされており、この熱電対におけるモニタ結果に基づいて、ヒータ37をオン・オフさせることにより、導電性基体10の温度が目的範囲、たとえば200℃以上400℃以下から選択される一定の範囲に維持される。
【0051】
真空反応室4は、導電性基体10に対して堆積膜を形成するための空間であり、円筒状電極40および一対のプレート41,42により規定されている。円筒状電極40は、第2導体として機能するものであり、支持体3の周囲を囲む円筒状に形成される。この円筒状電極40は、導電性基体10と同様な導電性材料により中空に形成されており、絶縁部材43,44を介して一対のプレート41,42に接合されている。
【0052】
円筒状電極40は、支持体3に支持させた導電性基体10と円筒状電極40との間の距離D1が10mm以上100mm以下となるような大きさに形成されている。
【0053】
円筒状電極40は、ガス導入口45および複数のガス吹き出し孔46が設けられているとともに、その一端において接地されている。なお、円筒状電極40は、必ずしも接地する必要はなく、直流電源34とは別の基準電源に接続してもよい。円筒状電極40を直流電源34とは別の基準電源に接続する場合、基準電源における基準電圧は、支持体3(導電性基体10)に対して負のパルス状電圧(図5参照)を印加する場合には、−1500V以上1500V以下とされ、支持体3(導電性基体10)に対して正のパルス状電圧(図6参照)を印加する場合には、−1500V以上1500V以下とされる。
【0054】
ガス導入口45は、真空反応室4に供給すべき原料ガスを導入するためのものであり
、原料ガス供給手段6に接続されている。複数のガス吹き出し孔46は、円筒状電極40の内部に導入された原料ガスを導電性基体10に向けて吹き出すためのものであり、図の上下方向等間隔で配置されているとともに、周方向にも等間隔で配置されている。複数のガス吹き出し孔46は、同一形状の円形に形成されており、その孔径は、たとえば0.5mm以上2.0mm以下とされている。
【0055】
もちろん、複数のガス吹き出し孔46の孔径、形状および配置については、適宜変更可能である。プレート41は、真空反応室4が開放された状態と閉塞された状態とを選択可能とするめのものであり、プレート41を開閉することによって真空反応室4に対する支持体3の出し入れが可能とされている。プレート41は、導電性基体10と同様な導電性材料により形成されているが、下面側に防着板47が取着されている。
【0056】
これにより、プレート41に対して堆積膜が形成されるのが防止されている。この防着板47もまた、導電性基体10と同様な導電性材料により形成されているが、防着板47はプレート41に対して着脱自在とされている。そのため、防着板47は、プレート41から取り外することにより洗浄が可能であり、繰り返し使用することができる。
【0057】
プレート42は、真空反応室4のベースとなるものであり、導電性基体10と同様な導電性材料により形成されている。プレート42と円筒状電極40との間に介在する絶縁部材44は、円筒状電極40とプレート42との間にアーク放電が発生するのを抑える役割を有するものである。
【0058】
プレート42および絶縁部材44には、ガス排出口42A,44Aおよび圧力計49が設けられている。排気口42A,44Aは、真空反応室4の内部の気体を排出するためのものであり、排気手段7に接続されている、圧力計49は、真空反応室4の圧力をモニタリングするためのものであり、公知の種々のものを使用することができる。
【0059】
図3に示したように、回転手段5は、支持体3を回転させるためのものであり、回転モータ50および回転力伝達機構51を有している。回転手段5により支持体3を回転させて成膜を行なった場合には、支持体3とともに導電性基体10が回転させられるために、導電性基体10の外周に対して均等に原料ガスの分解成分を堆積させることが可能となる

【0060】
回転モータ50は、導電性基体10に回転力を付与するものである。この回転モータ50は、たとえば導電性基体10を1rpm以上10rpm以下で回転させるように動作制御される。回転モータ50としては、公知の種々のものを使用することができる。
【0061】
回転力伝達機構51は、回転モータ50からの回転力を導電性基体10に伝達・入力するためのものであり、回転導入端子52、絶縁軸部材53および絶縁平板54を有している。回転導入端子52は、真空反応室4内の真空を保ちながら回転力を伝達するためのものである。このような回転導入端子52としては、回転軸を二重もしくは三重構造としてオイルシールやメカニカルシール等の真空シール手段を用いることができる。
【0062】
図3に示したように、原料ガス供給手段6は、複数の原料ガスタンク60,61,62,63、複数の配管60A,61A,62A,63A、バルブ60B,61B,62B,63B,60C,61C,62C,63C、および複数のマスフローコントローラ60D,61D,62D,63Dを備えたものであり、配管64およびガス導入口45を介して円筒状電極40に接続されている。
【0063】
各原料ガスタンク60〜63は、たとえばB2H6、H2(またはHe)、CH4ある
いはSiH4が充填されたものである。バルブ60B〜63B,60C〜63Cおよびマ
スフローコントローラ60D〜63Dは、真空反応室4に導入する各原料ガス成分の流量、組成およびガス圧を調整するためのものである。
【0064】
もちろん、原料ガス供給手段6においては、各原料ガスタンク60〜63に充填すべきガスの種類、あるいは複数の原料タンク60〜63の数は、導電性基体10に形成すべき膜の種類あるいは組成に応じて適宜選択すればよい。
【0065】
排気手段7は、真空反応室4のガスをガス排出口42A,44Aを介して外部に排出するためのものであり、メカニカルブースタポンプ71およびロータリーポンプ72を備えている。これらのポンプ71,72は、圧力計49でのモニタリング結果により動作制御されるものである。すなわち、排気手段7では、圧力計49でのモニタリング結果に基づいて、真空反応室4を真空に維持できるとともに、真空反応室4のガス圧を目的値に設定することができる。真空反応室4の圧力は、たとえば1.0Pa以上100Pa以下とされる。
【0066】
次に、プラズマCVD装置2を用いた堆積膜の形成方法について、感光体1(図1参照)を作製する場合を例にとって説明する。
【0067】
まず、導電性基体10に堆積膜(a−Si膜)を形成にあたっては、プラズマCVD装置2のプレート41を取り外した上で、複数の導電性基体10(図面上は2つ)を支持させた支持体3を、真空反応室4の内部にセットし、再びプレート41を取り付ける。
【0068】
支持体3に対する2つの導電性基体10の支持に当たっては、支持体3の主要部を外套した状態で、フランジ部30上に、下ダミー基体38A、導電性基体10、中間ダミー基体38B、導電性基体10、および上ダミー基体38Cが順次積み上げられる。
【0069】
各ダミー基体38A〜38Cとしては、製品の用途に応じて、導電性または絶縁性基体の表面に導電処理を施したものが選択されるが、通常は、導電性基体10と同様な材料により円筒状に形成されたものが使用される。
【0070】
次いで、真空反応室4の密閉状態とし、回転手段5により支持体3を介して導電性基体10を回転させるとともに、導電性基体10を加熱し、排気手段7により真空反応室4を減圧する。
【0071】
導電性基体10の加熱は、たとえばヒータ37に対して外部から電力を供給してヒータ37を発熱させることにより行なわれる。このようなヒータ37の発熱により、導電性基体10が目的とする温度に昇温される。導電性基体10の温度は、その表面に形成すべき膜の種類および組成によって選択されるが、たとえばa−Si膜を形成する場合には250℃以上300℃以下の範囲に設定され、ヒータ37のオン・オフすることにより略一定に維持される。
【0072】
一方、真空反応室4の減圧は、排気手段7によってガス排出口42A,44Aを介して真空反応室4からガスを排出させることにより行なわれる。真空反応室4の減圧の程度は、圧力計49(図2参照)での真空反応室4の圧力をモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ71(図2参照)およびロータリーポンプ72(図2参照)の動作を制御することにより、たとえば10−3Pa程度とされる。
【0073】
次いで、導電性基体10の温度が所望温度となり、真空反応室4の圧力が所望圧力となった場合には、原料ガス供給手段6により真空反応室4に原料ガスを供給するとともに、
円筒状電極40と支持体3との間にパルス状の直流電圧を印加する。
【0074】
これにより、円筒状電極40と支持体3(導電性基体10)との間にグロー放電が起こり、原料ガス成分が分解され、原料ガスの分解成分が導電性基体10の表面に堆積される。一方、排気手段7においては、圧力計49のモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ71およびロータリーポンプ72の動作を制御することにより、真空反応室4におけるガス圧を目的範囲に維持する。
【0075】
真空反応室4への原料ガスの供給は、バルブ60B〜63B,60C〜63Cの開閉状態を適宜制御しつつ、マスフローコントローラ60D〜63Dを制御することにより、原料ガスタンク60〜63の原料ガスを、所望の組成および流量で、配管60A〜63A,64およびガス導入口45を介して円筒状電極40の内部に導入することにより行なわれる。円筒状電極40の内部に導入された原料ガスは、複数のガス吹き出し孔46を介して導電性基体10に向けて吹き出される。
【0076】
そして、バルブ60B〜63B,60C〜63Cおよびマスフローコントローラ60D〜63Dによって原料ガスの組成を適宜切り替えることにより、導電性基体10の表面には、電荷注入阻止層11、光導電層12および表面保護層13が順次積層形成される。
【0077】
円筒状電極40と支持体3との間へのパルス状の直流電圧を印加は、制御部35によって直流電源34を制御することにより行なわれる。一般に、13.56MHzのRF帯域以上の高周波電力を使用した場合、空間で生成されたイオン種が電界によって加速され、正・負の極性に応じた方向に引き寄せられることになるが、高周波交流により電界が連続して反転することから、前記イオン種が導電性基体10あるいは放電電極に到達するより前に、空間中で再結合を繰り返し、再度ガスまたはポリシリコン粉体などのシリコン化合物となって排気される。
【0078】
これに対して、導電性基体10側が正負いずれかの極性になるようなパルス状の直流電圧を印加してカチオンを加速させて導電性基体10に衝突させ、その衝撃によって表面の微細な凹凸をスパッタリングしながら成膜を行った場合には、極めて凹凸の少ない表面をもった膜が得られる。
【0079】
このようなプラズマCVD法において、効率よくイオンスパッタリング効果を得るには、極性の連続的な反転を避けるような電力を印加することが必要であり、前記パルス状の矩形波の他には、三角波、直流電力、直流電圧が有用である。また、全ての電圧が正負いずれかの極性になるように調整された交流電力等でも同様の効果が得られる。印加電圧の極性は、原料ガスの種類によってイオン種の密度や堆積種の極性などから決まる成膜速度などを考慮して自由に調整できる。
【0080】
ここで、パルス状電圧により効率よくイオンスパッタリング効果を得るには、支持体3(導電性基体10)と円筒状電極40との間の電位差は、たとえば50V以上3000V以下の範囲内とされ、成膜レートを考慮した場合、好ましくは500V以上3000V以下の範囲内とされる。
【0081】
より具体的には、制御部35は、円筒状電極40が接地されている場合には、支持体(導電性支柱31)に対して、−3000V以上−50V以下の範囲内の負のパルス状直流電位V1を供給し(図5参照)、あるいは50V以上3000V以下の範囲内の正のパルス状直流電位V1を供給する(図6参照)。
【0082】
一方、円筒状電極40が基準電極(図示略)に接続されている場合には、支持体(導電性支柱31)に対して供給するパルス状直流電位V1は、目的とする電位差ΔVから基準電源により供給される電位V2を差分した値(ΔV−V2)とされる。基準電源により供給する電位V2は、支持体3(導電性基体10)に対して負のパルス状電圧(図5参照)を印加する場合には、−1500V以上1500V以下とされ、支持体3(導電性基体10)に対して正のパルス状電圧(図6参照)を印加する場合には、−1500V以上1500V以下とされる。
【0083】
制御部35はまた、直流電圧の周波数(1/T(sec))が300kHz以下に、duty比(T1/T)が20%以上90%以下となるように直流電源34を制御する。
【0084】
なお、本発明におけるduty比とは、図5および図6に示したようにパルス状の直流電圧の1周期(T)(導電性基体10と円筒状電極40との間に電位差が生じた瞬間から、次に電位差が生じた瞬間までの時間)における電位差発生T1が占める時間割合と定義される。たとえば、duty比20%とは、パルス状の電圧を印加する際の、1周期に占める電位差発生(ON)時間が1周期全体の20%であることを言う。
【0085】
このイオンスパッタリング効果を利用して得られたa−Si膜や、a−SiC膜、a−C膜は、比較的小さな膜厚であっても、表面の微細凹凸が小さく平滑性が高い。
【0086】
ここで、電荷注入阻止層12、光導電層14、中間層16、および被覆層13の形成に当たっては、原料ガス供給手段6におけるマスフローコントローラ60D〜63Dおよびバルブ60B〜63B,60C〜63Cを制御し、目的とする組成の原料ガスが真空反応室4に供給されるのは上述の通りである。
【0087】
たとえば、電荷注入阻止層12の形成では、原料ガスとして、SiH4(シランガス)などのSi含有ガス、B2H6などのドーパント含有ガス、および水素(H2)やヘリウム
(He)などの希釈ガスの混合ガスが用いられる。ドーパント含有ガスとしては、ホウ素(B)含有ガスの他に、窒素(N)あるいは酸素(O)含有ガスを用いることもできる。
【0088】
光導電層12の形成では、原料ガスとして、SiH4(シランガス)などのSi含有ガ
スおよび水素(H2)やヘリウム(He)などの希釈ガスの混合ガスが用いられる。光導
電層12においては、ダングリングボンド終端用に水素(H)やハロゲン元素(F、Cl)を膜中に1原子%以上40原子%以下含有させるように、希釈ガスとして水素ガスを用い、あるいは原料ガス中にハロゲン化合物を含ませておいてもよい。
【0089】
また、原料ガスには、暗導電率や光導電率などの電気的特性及び光学的バンドギャップなどについて所望の特性を得るために、周期律表第13族元素(以下「第13族元素」と略す)や周期律表第15族元素(以下「第15族元素」と略す)を含有させてもよく、上記諸特性を調整するために炭素(C)、酸素(O)などの元素を含有させてもよい。
【0090】
第13族元素および第15族元素としては、それぞれホウ素(B)およびリン(P)が共有結合性に優れて半導体特性を敏感に変え得る点、および優れた光感度が得られるという点で望ましい。
【0091】
電荷注入阻止層11に対して第13族元素および第15族元素を炭素(C)、酸素(O)などの元素とともに含有させる場合には、第13族元素の含有量は0.1ppm以上20000ppm以下、第15族元素の含有量は0.1ppm以上10000ppm以下となるように調整される。
【0092】
また、光導電層12に対して第13族元素および第15族元素を炭素(C)、酸素(O)等の元素とともに含有させる場合、あるいは、電荷注入阻止層11および光導電層12に対して炭素(C)、酸素(O)等の元素を含有させない場合には、第13族元素は0.01ppm以上200ppm以下、第15族元素は0.01ppm以上100ppm以下となるように調整される。なお、原料ガスにおける第13属元素あるいは第15属元素の含有量を経時的に変化させることにより、これらの元素の濃度について層厚方向にわたって勾配を設けるようにしてもよい。この場合には、光導電層12における第13族元素および第15族元素の含有量は、光導電層12の全体における平均含有量が上記範囲内であればよい。
【0093】
また、光導電層12については、a−Si系材料に微結晶シリコン(μc−Si)を含んでいてもよく、このμc−Siを含ませた場合には、暗導電率・光導電率を高めることができるので、光導電層22の設計自由度が増すといった利点がある。
【0094】
このようなμc−Siは、先に説明した成膜方法を採用し、その成膜条件を変えることにより形成することができる。たとえば、グロー放電分解法では、導電性基体10の温度および直流パルス電力を高めに設定し、希釈ガスとしての水素流量を増すことによって形成できる。
【0095】
また、μc−Siを含む光導電層12においても、先に説明したのと同様な元素(第13族元素、第15族元素、炭素(C)、酸素(O)など)を添加してもよい。
【0096】
被覆層13の形成においては、被覆層18の形成においては、成膜する過程において、原料ガスにおけるSiとCとの組成比について、時系列に変化させる。a−SiC系の原料ガスとしては、SiH4(シランガス)などのSi含有ガスおよびCH4などのC含有ガスの混合ガスを供給する。例えば、SiH4ガスの流量とCH4ガスの流量の比は、成膜開始当初でSiH4:CH4=1:2に設定し、成膜の最中にCH4の比率を徐々に大きくしていく。被覆層18を形成する際、パルス状電圧の大きさは、例えば−300V〜−450Vと比較的高くされる。電圧の大きさを比較的高くすることで、C原子数比が比較的大きい被覆層の硬さを、比較的大きくすることができる。
【0097】
被覆層18の形成が終了すると、真空反応室4へアルゴンガスを供給し、アルゴンボン
バード処理を行う。例えば、アルゴンガス流量を450sccmとし、圧力0.5torr、DC電流値0.4A、電圧値320V設定で、アルゴンイオンによるエッチング処理を20sec間実施する。
【0098】
アルゴンボンバードでは、アルゴンイオンが被覆層18の表面に叩きつけられることで、形成直後の被覆層18の表面が物理的にエッチングされる。このアルゴンボンバードによって、被覆層18の表面のSi原子やC原子と結合した水素原子が除去され、Si原子やC原子のダングリングボンドが表面に現れ、被覆層18の表面は化学的に高い活性状態となる。また、アルゴンイオンによる物理的エッチングによって、被覆層18の表面に分子レベルの大きさの微視的凹凸が均一に形成される。
【0099】
アルゴンボンバードが終了すると、支持体3から導電性基体10を抜き取り、表面にポリオレフィン樹脂を付着させる。この付着させる処理では、例えば、ポリスチレンなどを含む樹脂粒子を、アルゴンボンバード後の被覆層18の表面に塗した後、ワイパークロス等の拭き取り具で、被覆層18の表面の樹脂粒子を物理的に拭き取る。この処理によって、樹脂粒子に含有されているポリオレフィン樹脂成分が、被覆層18の表面全体に付着される。被覆層18は、表面全体が、アルゴンボンバードによって化学的・物理的に活性化されており、表面全体にポリオレフィン樹脂構造体が付着される。
【0100】
なお、被覆層18へのオレフィン樹脂の付着処理は、以下の画像形成装置100を用いて行ってもよい。
【0101】
図7及び図8に、感光体1を備えた画像形成装置100の模式図及び感光体1を含む現像装置120の部分拡大図を示す。
【0102】
まず、図7及び図8において示すように、画像形成装置100は、現像装置120、感光体121、現像ローラ122、転写ローラ123、クリーナー125、126、帯電器127、現像器128、光源(LED)130、転写材搬送手段112、定着手段113を基本的に備えている。画像形成装置100は、4色に対応した現像装置120a、120b、120c、120dを備えており、タンデム式カラープリンタの例である。
【0103】
画像形成装置100では、図7及び図8に示す感光体121を矢印方向に回転させ、この感光体121の表面上に、主帯電器127によって均一なコロナ帯電を行い、これに光源130により発した光を、図示しない原稿に照射する。次いで、その反射光をミラー系、レンズ系、フィルター等を介して、感光体121の表面上に導き、それが投影されて静電潜像が形成される。
【0104】
したがって、この静電潜像に対して、現像器120におけるトナーコンテナ111からトナー125が供給されてトナー像を形成することができる。一方、転写材通路およびレジストローラーよりなる転写材搬送手段112を通って、感光体121に供給される紙やプラスチックなどの転写材は、転写・分離帯電器を備えた転写ローラ123と、感光体121の間隙において、背面からトナーとは反対極性の電界を与えられ、これによって、感光体121の表面のトナー像は、転写材に転移するとともに、感光体121側から分離される。
【0105】
次いで、分離された転写材は、定着装置113に至って、トナー像が定着されるとともに、転写材は装置外に排出される。なお、転写部位において、転写に寄与せず感光体121の表面に残る残留トナーについては、クリーナー125、126に至り、そこに備えられたクリーニングブレード等によってクリーニングされる。上記クリーニングにより更新された感光体121は、更に除電光源(図示せず)から除電露光を与えられた後、再び同
様のサイクルに供せられることになる。クリーニングブレードはウレタンゴムからなり、感光体との角度は約10°と比較的小さく設定されている。
【0106】
感光体1の製造において、アルゴンボンバード後の感光体を画像形成装置100に搭載し、表面全体に、例えばポリスチレンなどのワックス成分を含むトナー粒子を付着させた後、クリーニングブレードによって物理的に掻き取ることで、被覆層18の表面全体にポリオレフィン樹脂を付着させてもよい。
【実施例】
【0107】
導電性基体としてアルミニウム合金からなる外径30mm、長さ359mm、厚さ1.5mmの引き抜き管の外周面を鏡面加工して洗浄したものを用意した。
【0108】
これを図2に示す成膜装置にセットして、上記実施形態の成膜条件によって、電荷注入阻止層、光導電層、中間層、および被覆層を備えた感光体A〜Cを作製した。
【0109】
各感光体を、以下に示す処理を経て上述の画像形成装置100に搭載し、全面にトナーを付着させたいわゆる黒ベタ画像を形成し、形成した画像における白点の個数を計測した。白点の個数は、目視によって確認できる個数であり、大きさ約φ0.125mm以上の白点の個数を計測した。
【0110】
感光体Aは被覆層の表面処理を何ら行なっていない。感光体BはH2ガスを用いてボンバード処理を実施した後、画像形成装置を用いて表面全体にポリオレフィン樹脂を付着させたものである。また、感光体Cは、上記実施例の条件にてアルゴンボンバード処理を実施した後、画像形成装置を用いて表面全体にポリオレフィン樹脂を付着させたものである。
【0111】
結果、被覆層の表面処理を行わない感光体Aでは、白点の個数は57個であった。また、H2ガスを用いたボンバード処理を行った感光体Bでは、白点の個数は10個と少なくなった。また、アルゴンボンバード処理を行った感光体Cでは、白点の個数は1個とより顕著に減少した。これは、水素ガスを用いたボンバード処理では、被覆層表面の水素原子が除去されると同時に、被覆層に新たに水素原子が付着するので、被覆層表面のダングリングボンドが、アルゴンボンバードされた場合と比べると比較的少ないためと考えられる。また、水素イオンはアルゴンイオンに比べると質量が比較的小さく、物理的エッチング状態が比較的小さいことも、アルゴンボンバード処理後の方が白点減少が少ない要因の1つと考えられる。
【0112】
また、図9に示すグラフは、各感光体A〜Cについて、画像形成装置搭載前の表面自由エネルギーの測定値、および表面仕事と水素結合エネルギーの値を示す。感光体BおよびCについては、ボンバード処理後のポリオレフィン樹脂が付着していない状態での値を示している。
【0113】
表面自由エネルギーの値は、協和界面科学(株)製CX−ロール型接触角計および表面自由エネルギ解析ソフトウェアーEG−11型を用いて測定した。より具体的には、まず、協和界面科学(株)製CX−ロール型接触角計を利用して、液体(分散力成分と双極子成分と水素結合成分の各表面自由エネルギーの値がすでに分かっている、純水・ヨウ化メチレン・α-ブロモナフタレンを用いて、室温を20〜24℃の範囲にコントロールした
室内において、液滴法にてトナーペレットの接触角を測定し、各感光体の表面自由エネルギを解析した。次いで、感光体の表面自由エネルギのデータをもとにして、表面仕事の値、表面自由エネルギーの値、水素結合エネルギーの値を、拡張Fowkesの理論に基づいて算出した。
【0114】
感光体Cでは、感光体AおよびBに比べ、表面自由エネルギーの大きさが(45mN/m)と大きく、また、水素結合エネルギーも7(mN/m)と大きい。アルゴンボンバードによって、被覆層の表面は、全体的にポリオレフィン樹脂等が付着し易い状態になっていることがわかる。このように、アルゴンボンバード後にポリオレフィン樹脂の付着処理を実施することで、被覆層の表面にポリオレフィン樹脂が十分に付着され、白点処理が十分に抑制されている。
【0115】
以上、本発明の電子写真用感光体および画像形成装置について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0116】
1 電子写真用感光体(感光体)
2 プラズマCVD装置
3 支持体
4 真空反応室
5 回転手段
6 原料ガス供給手段
7 排気手段
10 導電性基体
12 電荷注入阻止層
14 光導電層
16 中間層
18 被覆層
19 樹脂構造体
100 画像形成装置
120 現像装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、該導電性基体上に形成されたアモルファスシリコンを含む光導電層と、該光導電層上に形成されたアモルファスシリコンカーバイドを含む被覆層と、該被覆層の表面に付着したポリオレフィン樹脂とを備えることを特徴とする電子写真用感光体。
【請求項2】
前記被覆層の前記表面は、アルゴンによってイオンボンバード処理されていることを特徴とする請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項3】
前記被覆層は、前記表面における水素結合エネルギーが7(mN/m)以上であることを特徴とする請求項1または2記載の電子写真用感光体。
【請求項4】
前記被覆層は、表面自由エネルギーが45(mN/m)以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真用感光体。
【請求項5】
導電性基体の表面にアモルファスシリコンを含む光導電層を形成する工程と、
前記光導電層上にアモルファスシリコンカーバイドを含む被覆層を形成する工程と、
前記被複層の表面をアルゴンによってイオンボンバード処理する工程と、
前記イオンボンバード処理後の前記被複層の表面にポリオレフィン樹脂を付着させる工程と
を備えることを特徴とする電子写真用感光体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂を付着させる工程では、ポリオレフィン樹脂を主成分として含有する樹脂粒子を前記被複層の表面に付着させた後、前記樹脂粒子を除去することで、前記被複層の表面に前記ポリオレフィン樹脂を付着させることを特徴とする請求項5記載の電子写真用感光体の作製方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真用感光体と、
該電子写真用感光体の表面に静電気を帯電させる帯電手段と、
前記静電気を帯電した前記電子写真用感光体に露光光を照射して、前記電子写真用感光体の表面に静電潜像を形成する露光手段と、
前記静電潜像を形成した前記電子写真用感光体の表面にトナーを供給し、前記潜像に対応するトナー像を前記電子写真用感光体の表面に形成する現像器と、
前記トナー像を転写材に転写させる転写部と、
転写させた後に前記電子写真用感光体の表面に残留した前記トナーを除去するクリーニング手段と
を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−53094(P2012−53094A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193186(P2010−193186)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】